第237話 刑、執行。

 突如として現れたヒュドラ。

 その存在は王城は勿論、王都の人々にもその存在は恐怖を与えていた。

 国の尊重なる場に突然竜が現れたのだ。それは誰でも恐怖を感じない者は居ないだろう。

 冒険者ギルドは緊急招集をかけ、シルバーとグラスランク冒険者、全員に王の救出へと人を向かわせていた。


 城に向けて走る先頭のチーム。

 ディオをリーダーとする者たちと、ガランドのチームである。

 少し離れて入るが、リナの魔術士メンバーもその後を追っている。


「クソッ! 人が折角気持ちよく酒を飲んでる時に限ってこれかよ! ってかよ、あの莫迦でけぇ竜はどっから来た!? 来たとしても警告も出さねえ城の兵士は能無しばかりかよ! お前ら、遅れてねえでさっさと走れ! ウップ!? ざげが逆流して来だ……」


「ムムッ……」


「ちょっと、後衛の私達が前衛のあんた達に足で追いつくってどんだけのんびりしてるのよ!」


「うるぜぇー! うっ!?」


「キャー! こっち向くな、この酔っ払い! ちょっと、ガランドさんもこんな奴の足に合わせないでもっと急いでよ!」


「……」


「はぁ……はぁ……。おっさん、如何した? 怖気づいたなら帰っても良いんだぜ」


「おかしい……」


「おかしいって、何が? その前にディオ、あんたその状態で戦えるの? あんたこそその状態じゃ態々竜の餌になりに行くもんじゃないの」


「五月蝿え!」


「あの竜、突然現れた後、まったく動いておらん。あの大きさ、ディオの言うとおり街門の奴が気づかぬわけがなかろう……。まるでリナ嬢のリヴァイアサンの様に召喚された様な現れ方……」


「「「!?」」」


 この時、三人の頭の中には黒髪の少年の顔が思い浮かぶ。

 確信は無いが、それ以外、今は思い浮かばない。


「ま、まさか!」


「嘘だろ……」


「それを確かめる為には行くしかなかろう!」


 三人は顔を青ざめさせ、走る速度を無意識と早める。


 城の広い中庭にて動きを止めるヒュドラ。

 ヒュドラの頭の一つの口の中には、先程ミツのスキルを受け、気絶してしまった貴族がヒュドラの唾液に体をベタベタにした状態のまま入っている。

 周囲から叫び声の様な声が聞こえるが、王族の面々は険しい顔をしたまま声を上げてはいない。

 ミツの指示でヒュドラは動き、躊躇いなしと人を食べさせてしまった。

 そのことを思えば、それ程まで今のミツは怒りに満ちているのだろうと思われたのだろう。

 

(さて、次の動きをする前と……〈時間停止〉!)


 ミツは〈時間停止〉のスキルを使い世界の時間を止め、ある場所へと〈トリップゲート〉を開く。

 その場所にゲートを開けば、先程食べられた貴族の姿がそこにはあった。

 そう、ミツはヒュドラの口の中にゲートを出したのだ。

 そして20秒と言う限られた時間の中、〈影分身〉のスキルを発動後、分身に後を頼んではゲートを消す。

 ミツは時間が止まる前と同じ位置に戻り、スキルを解除する。


 そして、時間が動き出したと同時に、彼は注目をまた集める為と声を出す!


「自分は許さないと言いました! それは他の貴族も同様に! 今更ですが知らない人に教えましょう。このヒュドラは自分の幻獣であること。そして、彼らが犯した罪の重さは、この竜でさえゆるしていないことを!」


 ミツの視線が向けられたヒュドラの頭。

 ヒュドラはそれを合図と先程口の中に含んだ貴族を地面へと吐き出す素振りを見せる。

 

「「「「「!!!」」」」」


 吐出されたのは先程の貴族ではなく、無数の骨。少しヒュドラの唾液にベチャっと水音がするも、誰もそこを気にする者はいない。

 絶句とはこの事か。

 先程食べられた貴族の男は、僅かな時間とその姿を骨と変えてしまった。

 ちなみにこの骨だが、買い取りが難しいと言われたスケルトンの骨である。

 ゲイツ達が倒したスケルトンは頭蓋を割られたりと、後の買い取りを考えない戦い方だけに粗悪品と判断された品である。

 ならばとミツはまた後に、これに〈ヒール〉をかけ、骨粉にして買い取りに出そうと忘れていた品だ。

 吐き出された骨の近くには、先程貴族が着ていた服の袖が分身に切り落とされていた。

 ちなみに分身と気絶した貴族だが、ミツが礼服に着替えに使用した部屋へと移動していた。


「ひいぃぃ!!! フラッグ殿!?」


「あ、あわわわわわわ!」


 スケルトンの骨を食べられた貴族と思い込んだのか、彼らからは更に青い顔から真っ白と顔色を変え、絶望を正に目の前に見せられた思いなのだろう。


「次は誰にしましょうか。先程話していない自身の罪をこの場で口にするならば、その人はヒュドラの口に入る事はありませんよ」


「「「!?」」」


(ふふっ、予定通り怯えてるね。これで素直に白状してくれるなら良しだ。んっ……oh……。分身よ、なんで一人の人間から腰の骨が二つ出てくるんだよ。まあ、周囲は気づいてないみたいだし、いっかな)


 先程のミツの発言だが、彼らにとっては悪魔の囁きだったのかもしれない。

 今の貴族達は、取り敢えず今は死にたくない、食べられたフラッグの様に骨となりたく無いと藁もをつかむ思いだったのか。

 後に彼らは連座処分を受けるが、主犯のコーンと比べると、彼らの連座処分は斬首ではなく、奴隷送りと考えられている。

 死ぬまで奴隷となるだろうが、今の彼らにその判断力は残されては居なかった。 

 

 我先にと隠し続けていた罪などが彼らの口から告げられる。

 横領や金の横流し、街に流れる物資の不正水増し、権力を使い、女兵士やメイドへの花扱い(性的暴行)その中、男色食いの貴族へと、若い男の兵をまるで粗品扱いと差し出した事も告げられる。

 兵士達からは、軽蔑とした視線が貴族たちへと向けられることになった。

 ミツが他に無いかと貴族達へと更に問い詰めるが、彼らは涙や鼻水を出しながら全て話しましたと告げる。

 ならば最後の仕上げと、ミツは王族のいる方へと視線を向ける。

 勿論ミツが今乗っているヒュドラの頭も彼らの方へと視線を向けるのだから、それに向けられる視線は彼らにとってはたまったもんじゃないだろう。

 その際、彼らの近くに居た兵士達はとばっちりだろうが、彼らもミツの〈王の威厳〉スキルを受ける事となった。

 

「セレナーデ王国、ローソフィア女王。今回の件、後の裁きは全ては貴女にお任せします。先程、彼らの口から更に罪の告白がされました。それを含め、この城、いえ……。この国を改めて見直しください。不正を肥やしとする者に対して、必ず不幸となる者が居ます。それを正す事は、あなた方の国。また、大切なご家族の未来の為にもなります」


 向けられた言葉に、彼女は驚きと頷きを返す。

 恐怖に脅すようなやり方であるが、これは彼がしてくれた国の毒抜きであると。

 自身が気づかずにこの者達をそのままにしておけば、シロアリのように内側から城だけではなく、国もスカスカと食い尽くされてしまう。

 ローソフィアはミツから向けられる〈王の威厳〉の効果にて震える体がスッと止まり、気持ちを落ち着かせる。


「!? その言葉に、国の害を抜く事を確約といたします! その者たちを捕らえ、速やかに厳罰を言い渡す!」


「王の言葉だ! この愚弄者共を捕らえよ!」


「「「はっ!」」」


 マトラストの言葉に動き出す兵士達。

 マトラストは連れて行かれる貴族達へと冷たい視線を向けていると、彼の頭の中にも、ミツの〈念話〉の声が聞こえてきた。

 それは先程ヒュドラに食べられた貴族はミツが着替えに使用した部屋に寝かせている事、誰かに見つかる前にと、マトラストを通して兵に彼も連れて行って欲しい旨を伝える。

 彼は驚きの表情をミツに向けた後、近くの兵へと言葉を飛ばす。

 後は任せても大丈夫だろうと、ミツは場が落ち着くまでヒュドラの相手をしていると、入り口の方からぞろぞろと見覚えのある人々が場内へと駆け込んでくる姿が目に入る。


「なんじゃーこりゃー!」


「これは……」


「やはり、あの者か……」


 そのもの達はシルバーの冒険者、ガランド達であった。

 彼らも間近と見るヒュドラの姿に警戒と恐怖心を顔に浮かべる。

 数名のグラス冒険者が殺意を込め、剣を抜いたことにヒュドラの視線がそちらに向いてしまった。

 大丈夫、大丈夫だよとミツがなだめればヒュドラの視線は直に冒険者から外され、代わりと城の兵士達がガランド達へと責め立てる勢いと声を出す。


「おいっ! 誰がこの者達を通して良いと許可を出した! 王城で剣を抜くとは不敬者共が! この者達も捕らえよ!」


「「「はっ!」」」


「待ってくれ! 俺達は冒険者ギルドから派遣されたんだ! 理由は言わずとも分かるだろ!?」


「そ、それは……」


 ディオの言葉に兵長が兵を止め、チラリとヒュドラの方へと視線を向ける。

 そこに女王ローソフィアが近づくと、兵長、そしてガランド達は膝をつき頭をたれる。

 彼女は態々足を向けてくれたガランド達へと感謝の言葉と労いをかける。

 見ての通り大惨事となるような場ではない事、そしてこの件に関して問題ないと連絡を回して欲しいとローソフィアはガランド達に言葉を伝える。

 本当に大丈夫なのかと訝しげな視線をヒュドラに向ける冒険者も居たが、ヒュドラの側に居るミツを見ればゾクリと背筋に冷たいものが走る思いと彼を直視できない。

 〈王の威厳〉スキルは未だ継続しているのか、ミツはガランド達の相手はローソフィアが直々に相手してくれているので口出しは控えることにした。


「そう言えば君にはお礼をしないとね」


「グルル……」


 彼の心臓にも響くヒュドラの唸り声。 

 ミツは前世で肉の加工工場の見学の際、職員に見せられた肉のブロックを思い出しながらアイテムボックスへと手をいれる。

 彼の手に掴まれた肉は、大型冷蔵庫にフックにかけられた肉の塊である。

 その重量は一つ150キロ。

 以前分身が〈サモン〉のスキルにて出した竜達に与えた肉の五倍の大きさだが、元々大きなヒュドラの体では、これ一つでは不足だろう。

 取り敢えず頭一つにたいして、前回渡しそびれた分も含め肉の塊を二つプレゼント。

 まぁ、それもヒュドラは一口で食べてしまったのだが、ヒュドラから満足とした気持ちが伝わったので良いとしよう。


 城での出来事があった後、二日が経った。

 その二日は王城では多くの人々が動き、ローソフィアは休む暇のない数日を過ごす事となった。

 内税管理の見直し、秩序を正し、他に隠された不正はないかと城をひっくり返す思いと、城のことが分からないミツの様な第三者が見てもバタバタとしていたのは確かだ。

 ルリに関しては無理なスキルが彼女を苦しめてしまったのか、あの後に彼女は体調を崩して寝込んでしまっている。

 ミツがお見舞と足を向けるが、流石に男のミツが寝間着姿のルリの部屋に入る訳には行かないと、お土産のプリンをタンターリへと渡してその日は帰ることになった。

 食欲が無かったルリであったが、お見舞いと差し出されたプリンを食べた後、次の日には彼女は体調を戻し、通常の業務を行う程に回復していたそうだ。


 そして、ローソフィアの発言通り、ミツの毒殺に関わった貴族の連座処分が実行された。

 先ずは全員の貴族としての権限を剥奪。

 そして15歳以下の子供達は神殿へと送られ、他の家族全員が奴隷送りが決まった。

 突然言い渡された事実に戸惑う者が多数居たが、それまで甘い汁を吸って生活してきた事実を告げられれば彼らは膝から泣き崩れてしまう。

 そしてコーン元伯爵、それと毒殺計画に賛成した者達は、他にも余罪が重なり、全員が斬首刑が言い渡された。

 厳しい判決かもしれないが、彼らが何に手を付けてしまったのかを考えてほしい。

 これで本人だけの斬首刑で済んだのは、ローソフィアの慈悲である。

 刑の執行は数日後に決まった。

 その前に、ベンザ元伯爵の刑が執行される。

 彼もまた国へと大きな損失を与え、更には隣領のフロールス家に対する犯罪行為の数々。

 ベンザは斬首となり、ティッシュと執事のゼルマイヤは毒による処刑が言い渡されている。 


 そして、彼らはフロールス家から日もかからず、既に城の牢の中に入れられていた。

 ベンザの妻、ティッシュ婦人はきらびやかな衣装を着ていた頃の笑みは既に消え去り、痩せた顔には死相が浮かんでいる。


「お許しを! 王妃様! どうか慈悲を下さいまし!」


 謁見の間の床に既に毒を飲まされ、息絶えたゼルマイヤを前に顔面蒼白となるティッシュ。

 彼らの刑は数名の貴族を立会人と静かに行われていた。

 勿論そこには、今回多くの被害を受けたダニエルも立ち会っている。

 ゼルマイヤは最後にダニエルへと謝罪の言葉を告げた後、兵に無理やり口を開けさせられ、毒の入ったワインを飲まされる。

 うめき声をこらえつつ、彼は一度も顔を上げることなく息を引き取った。

 それが彼にとっての最後の謝罪を示す行動なのかもしれない。

 その光景を逃げ腰に見つめるティッシュ。

 彼女はゼルマイヤと違い、今にも逃げだす思いと暴れ続けている。

 屈強な兵士が彼女を取り押さえるが、まるで暴れる野獣の如く彼女は動き続けている。

 兵士は爪で顔を傷つけられたり、腕を噛まれたりと傷だらけ。

 余りにも無様な姿を晒すティッシュに貴族達からは冷ややかな視線が彼女へと向けられていた。

 最後の命乞いと、ティッシュは先程の言葉をローソフィアへと言葉を告げるが彼女の決意は既に決まっている。

 

「ダニエル様! どうかお許しを! 私めの愚かな行い、一生をかけて償わせてくださいまし! ああ、貴方様が望むならば私めを第三者婦人、いえ妾にでも、何でしたら側仕えでもいたしますゆえ……どうか、どうか……」


「……」


 ティッシュは近くに居たダニエルへと、彼の情に訴えるように涙を流し助けを求める。

 しかし、彼女とベンザの行いは許される行いではない。

 ダニエルは目をつむり、首を横に振る。


「ティッシュ婦人、貴女も元は貴族の女。潔い最後を」


 毒入りのワイングラスを手にした文官がティッシュへと冷たく言葉をかける。

 そして、彼女の口元へとグラスの飲み口をあてがえるが彼女は口を開かない。

 仕方ないと文官はティッシュの鼻をつまみ、痛みにて彼女の口を開かせる。

 ゴブッっと流れ込む彼女の口の中へと毒が入れば、即効性の毒は彼女の命を削り取る。


「!? あがっ! あっ、ああ……」


 一度大きく咳き込むティッシュ。

 彼女の口から吹き出す血を止めることはできず、そのまま彼女はゼルマイヤ同様に床に倒れその命を止めた。


 そして、ベンザの刑も執行される。

 彼の刑は二人のように静かな物ではなかった。

 城に仕える貴族、数百名。

 彼らが見守る中、ベンザと汚職を手を貸した数名の貴族と、領地を監督していた視察官長が処刑台に並べられていた。

 処刑台に並ぶ者たちは痩せ細り、既に絶望の表情しか浮かべる事しかできない。

 既にベンザの妻と執事の刑は執行された事をベンザに伝え、二人の切り落とされた首が近くに置かれる。

 それを見たベンザは更に絶望の顔を見せた。


 改めてベンザの重ね続けた罪を執行官が読み上げ、国に対する損害はなんと30億以上である事が告げられた。

 その被害額に唖然とする貴族たちだが、呆れは怒りへと変わるのはそう時間はかからなかった。 

 ふざけるな、死して詫びろ、生き恥をさらすななどの、他にも罵声がベンザ達へと向けられる。

 そして、ベンザを除く貴族と視察官は斬首と首を落とす。

 ベンザは一番苦しみを与える刑と四肢裂き刑となった。

 両手両足を縄で結ばれ、それを騎馬に取り付け同時に走る刑である。

 ベンザの罪を考えると、これでも甘すぎると言う者すら居るのだ。

 よって更に苦しみを与える為と、四肢を失った後に胴体へと高温の油を浴びさせる地獄が待っている。

 転がる貴族と視察官の首を見るベンザには、もう残された時間は残りわずか。


「ベンザ・カバー。最後に言い残す言葉はあるか」


 執行官の質問にベンザはゆっくりと口を開く。その声はか細い物であったが、彼が聞き直せばベンザは声を張り上げ国への不満をぶちまける。


「……くない」


「?」


「ワシは悪くない! 悪いのはこの腐れた国だ! この国がワシに何をしてくれた!? ワシら領主が苦労して集めた金を、税という言葉を使い当たり前と奪うこの国だぞ! 民が差し伸ばしてきた手は国ではなく、ワシに向けられた物だ! それをワシが如何しよと、お前らに何の関係がある!? ワシはこの国が憎い! 滅べ! 滅んでしまえ! この国など、帝国に攻められ、滅んでしまえば良いのだ! ヒョ、ヒョヒョヒョ」


「! 刑、執行!」


「滅べ!」


 それがベンザ元伯爵としての最後の言葉であった。

 彼らの首は城の裏で骨になるまで晒される事となる。

 これがフロールス家に様々な悪意ある行為を続けたカバー家の終わりとなった。

 しかし、それとは別に、フロールス家。いや、ダニエルに向けられた最後のナイフは既に彼の背中へと投げられていた。


 その日が訪れる前の事。

 ダニエルとミツは一室にて話をしていた。

 

「叙爵ですか!? ダニエル様、おめでとうございます」


「うむ、ありがとう。これも君の協力あっての事だよ」


「ハハッ、協力と言っても自分は知ってる事をお教えしただけですよ」


「いや、誰も知らぬ知識は大きな物だよ。ああ、自身で話していて悪いが、家族にはこの事はまだ伏せておいてくれないかな。帰った時に驚かせてやろうと思ってね」


「フフッ、良いですよ。ああ、そう言えば奥様達も何かダニエル様を驚かせる話を隠してるみたいな事をゼクスさんから聞きましたよ。ご夫婦揃って同じ考えですね。ホント、仲の良いことで」


「そ、そうか。ハッハハハ」


 やっと胸のどこかにモヤモヤしたと気分にしてしまうベンザの事が消えた事に、彼は久しく笑い声を出す。


「ちなみにダニエル様が叙爵されるのって何時の事なんですか?」


「うむ、ベンザは既に処罰された事に、後はあの者の領地を私が管理することとなる。領主不在の領地など長くは開けるわけにも行かぬからな……。今回ばかりは早く呼ばれるかもしれんな」


「んー。何だか叙爵は嬉しい話だとは分かりますが、あの人の領地を引き継ぐと思うと嬉しさも半減しますね」


「まったくだ……。君には話すが、あの土地は山々が多く、昔は火の魔石が良く出たと言われた場所なんだがね。取り尽くしてしまったのか、今では昔の50分の1程度しか取れておらん。今は奴隷送りにした罪人で作業をしておるが、その魔石も出なければ罪人の管理で赤字にしかならんのだよ」


「まあ、奴隷になった人達のご飯も出さないといけませんし、その人達を監視する人材も入りますからね」


「知らぬ者が見れば、宝の山を引き継いだと思われるだろうが……。はぁ……」


「とんだハズレくじを掴まされたと」


「……そう言う事だよ。まぁ、いざとなれば奴隷は他の領主へと渡すことも考えているよ。領地が増えたのは他の近隣貴族も同じだからね。人手が欲しいと言うなら無償でも私は譲っても構わん」


「人材派遣ですか。そう言えばそんなのもありましたね」


「んっ? 何の話だね?」


「ああ。ダニエル様の先程の人を譲る話ですが、人材派遣、つまりは人手が欲しい所にダニエル様の所有する奴隷を送って金銭を頂くんです。勿論その送った人材が不要となればまたダニエル様の領地へと戻して別の仕事をさせるか、もしくはまた人手不足の所に貸し出すと言う奴ですかね」


「ふむ……中々面白い話だね。詳しく説明してもらえるかな」


「はい、良いですよ」


 ミツは前世での派遣スタッフとして日払いの仕事をしていた時の事を思い出しながらダニエルへと人材派遣の流れを説明する。

 ミツのやっていた派遣はバイト感覚と日払いから月払いと選べるタイプ。

 大学生になり、自立する一歩として金を稼ぐことにしたのだ。

 彼のやっていた仕事は様々。

 一日中その場に居ては、目の前を通り過ぎる人の数を数えるバイト。

 ティッシュ配りにチラシ配り。

 コンビニやスーパーの在庫計算をしたりと、本当に一日で終わりそうな仕事ばかりだ。

 ダニエルはフムフムと頷きを繰り返し、その話を妻にもしたいと、彼は内容を紙に下記示し始めた。


 明日はセルフィの言っていた約束の日。

 一先ずミツはフロールス家へと足を向ける事をダニエルに告げると、ならば先程の内容を忘れる前と、自身も家に帰ると言ってきた。

 それでは明日の朝にでもお迎えにあがりますと、その場を後にするミツ。

 彼が部屋から退出後、ダニエルも疲れが来たのか早々とベットに入ることにした。

 シーンと静まり返る客室でウトウトとし始めるダニエル。

 しかし、窓も開けていないと言うのに窓のカーテンが揺らいだ事を違和感とそちらへと視線をやれば違和感。


 そう、そこには黒い服に身を隠した人物が視線を向けていたのだ。

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