第231話 謁見の日。

 畑を貸して欲しい。

 その言葉に、ゼクスは別の場をミツへとすすめる。


「ホッホッホッ。はい、その村は貧困としておりました所、最近ある方の力にて村を持ち直されました」


「えっ」


「村の発展のために出稼ぎの若者も戻っては来たものの、ある事にて、村を失った新たな住人がその村に移住。人が増えたことに少々食料に関して心細い面が見えてしまいます」


「あの、ゼクスさん」


「そちらの村長様は新たな住人を受け入れることを心良く受け入れては頂けましたが、やはり不安もあるのでしょう。先日、屋敷の方に手紙が一通送られてきまして」


 ゼクスはその言葉を残し、少し部屋を退出。

 直ぐに戻ってきた彼の手には羊皮紙を折りたたんだ手紙。


「それがその村の村長さんからの手紙ですか……」


 手渡された手紙をミツが中身を読むと、内容は畑の増加と、使用する場の許可を得るための手紙であった。

 畑など村人が勝手に増やせば良いだろうと思うだろうが、実は村人は畑を勝手に増やしてはいけない決まりになっている。

 何故なら領地は領主の物であり、例え村人の家の近くの空き地であろうと、そこは領主の持ち物。

 また別に畑を増やしすぎると害獣やモンスターを引き寄せる可能性も出てしまう。

 そうすると既にある畑にまで被害が流れ込む恐れもあるのだ。

 その為に領主は私兵を数名監査員として送り、その村の人数で新たな畑を増やしたとして管理ができるのか、また被害は出ないかと調べなければならない。


「はい。旦那様の耳にも入った件でございますが、その村に関して監査員を数名送ることが後日決まりました。既にその村はとある方の善意にて救われた村。しかし、村を失った村人を向かわせたのは領主の旦那様の判断にございます。手紙の内容が真実ならば、村人同士の問題となる前と解決に動くのが領主としての勤めにございます」


「流石ダニエル様ですね。村長さんの手紙を無下にせず、直ぐに動いてくれてるのは自分も嬉しく思います」


「はい。それがフロールス家領主、ダニエル・フロールス様にございます。さて、そこでミツさんのお話に戻らさせていただきます。貴方様のご希望は作物、王都で購入されました種の検証でまちがいございませんね」


「はい」


「結構。でしたらミツさん、その村の監査員として。また、私の補佐として共に参りませんか?」


「はい。行かせていただきます。スタネット村に」


 スタネット村の村長。

 ギーラからの手紙を見てはミツは行く事を決意する。

 アイシャとの約束も果たすためと、彼が村に行く際は、雪も降り出す冬の前の話となる。

 その前には、創造神のシャロットがおすすめとした場所へと先に足を向けることになる。


「では、貴方様のお力もお借りすることもあるかと思われますが、目的は畑の借り受けでございます。残念ながら我々は馬車ではなく騎馬にて移動となりますので、その場でできました作物は放棄しなければなりません。後日回収の兵を向かわせたとしても、あの場は野生の動物も多く、恐らく回収に向かったときには既に荒らされた場となることだけをご覚悟ください」


「それなら仕方ないですね。自分もアイテムボックスを持ってますけど、まだヒュドラの素材やらなんやらで、自分のボックスに入りきれないと思いますので」


「ホッホッホッ。それでは致し方ありまするまい」


「ホントホント。仕方ないですね」


 二人で何を話合わせているのか。

 今更ながら周囲でミツの服の採寸などの手伝いをしている側仕えのメイドたちは苦笑を浮かべつつ作業を進めるのであった。


 フロールス家を後にした後。

 王都へとプルンとサリーの二人を迎えに行った後、改めて教会へと帰る三人。

 二人は一日だけの王都見学に興奮しつつ、十分に羽を伸ばせた休日を過ごすことができたようだ。

 

 次の日は王城へといくので、王都の宿屋に迎えが来る予定となっている。

 一日だけだったが、ミツはまた王都の宿屋へととんぼ返りである。


 プルンとの話し合いはこんなバタバタとした状態で話す内容でもないので、時間ができてからゆっくりと二人で話し合う事にした。

 

 次の日、宿屋の前に迎えに来たのは騎士団のクリフトであった。

 ミツがおはようございますと先に声をかければ、彼は周囲の視線も気にせずと恭しく騎士の礼をミツへと向ける。

 顔を上げた彼は満面の笑みに瞳はキラキラ。

 その視線にミツはあははと苦笑い。

 うん、どんなに彼がイケメンでいい笑顔を向けられても、その笑顔を向けているミツはノーマルだからね。

 流石にクリフトが乗ってきた馬の後ろに乗せて移動ではなく、専用の馬車を用意されていた。

 クリフトが乗る騎馬を馬車の隣につけ、まるで大名行列のように前後と長い列を作り城へと向う。

 それを見る王都の人々は、何だなんだと物珍しい物を見るような視線を向けている。

 

 城の大きな門を潜り抜け、城の前にはマトラストが待っていた。

 互いに軽い挨拶を済ませた後、ミツは借りてきた礼服へと着替える為と城内を移動。

 そのままクリフト含む数名が部屋の扉を守りに付くためと共に移動し、一つの部屋へと到着。

 中には三人のメイドさんが待っていたのか。クリフトは先程ミツから預かった礼服をメイドへと渡し、部屋を退出。

 守りはおまかせ下さいと言葉を残すが、城内で敵なんて居ないでしょと彼はアハハと笑い済ませる。


 パタンと閉じられた扉の中では何があったのか。


 着替えを済ませたミツはクリフトの案内にて謁見の間へと足を勧めていた。


 「ミツ様、我々はここ迄にございます。後はそのまま真っ直ぐ進みください」


「はい。扉が開いたら王座の前まで止まることなく歩くんですよね」


「左様です。それでは」


(さて……。中にダニエル様達も居るけど、少し我慢してもらおう……)


 謁見の間には既に多くの貴族が列を作り、王族の三人も既に中にいる状態。

 周囲の視線は王族のレオニス、アベル、カインの三人とは別に、今回ミツと深い繋がりを繋げたダニエルへと向けられていた。


「間もなくですな」


「数百年ぶりのアルミナ冒険者。いや、ロストスキルのトリップゲート使用者をこの目で拝見できるとは」


「いやはや。フロールス家も中々良い者を見つけましたな」


「まったくです。聞くところ、今はフロールス家が先の見えぬほどの伸びしろがあるそうな。領地の場は辺境ですが、ここで少しでも手を結んでおくべきですな」


「確かに、ごもっとも……」


「そう言えば……これは少し耳にした話なのですが、どうやらその少年……。意図的に人の髪を生やす事もできるそうな……」


「そ、それは誠ですか!?」


「ええ。私もそれを耳にした時はまさかと思いましたが、フロールス家で行われた催し物の中で拝見した複数の者達が目にした真実らしいです」


「そ、それは……それは……」


 周囲からボソボソと聞こえてくる言葉。

 噂の本人としては悪い気はしないが、かけられた言葉全てに応えてはきりがない。


「フッ。噂わ耐えませぬな、ダニエル殿」


「いえ。全ては彼の功績にございます。私は彼と友好を結んだまで。マトラスト様こそ、前日彼の元へと態々足を向けられたそうな。最後に彼の背中を押したのは貴方様です」


「貴殿が謙遜するではない……。いや、そう言ってくれるなら気も救われる思いなのは本音であろうか。なんせ目を離したらどこに行くか分からぬ渡り鳥の様な少年だ」


「ハッハハ。確かに。ですが、その鳥もひょっこり戻ってくるのも我々家族は楽しみにしております」


「フッ……。貴殿の知らぬ間に、お主の屋敷にあの少年は雨風を凌ぐ為の巣をいつの間にか作ってるのではないか?」


「それはそれは、屋敷の主として嬉しい事です」


「「「……」」」


「名誉たる冒険者アルミナランク。冒険者ミツ殿。ご到着にございます!」


「来たようですな……えっ」


「!?」


 噂話と口を開く者。

 本日までに予定通りことが進んだ安堵と会話する者。

 そして悪事を秘め、事の発端を楽しみと待つ者達。

 彼らの気持ちはどうあれ、城の兵声がホールに響いだ後、ガチャリと開けられた大きな扉から舞い込んできたのは全員を震わせる圧であった。


「「「「!?」」」」


 コツ、コツ、コツ、っと、静寂の満ちたホールに靴音を鳴らし進む少年。

 目を背けたくなるその威圧感には、思わず膝をおってしまいそうな貴族も居たかもしれない。

 見た目はただの少年。

 しかし、その者には自国の王に向けるべき同じ位の忠義を見せなければいけないと思わせる雰囲気が満ちていた。

 彼は多くの貴族の間を歩く際、知り合いのダニエルにでさえ同じ威圧を振りまく。


「……ムムッ」


 いつも周囲に笑顔を振りまく少年が何故あの様な圧を出すのか。

 ダニエルとマトラストは困惑と小さく唸ることしかできなかった。


 ミツが王座の前まで歩き勧め、歩みを止める。

 本来ならばこの場で膝を床につき、頭を下げ王が席に座るまで待つのだが、彼は膝を折ることはしなかった。


「……」


「「「「!?」」」」


「ミ、ミツ殿。どうか膝を付き、王が姿をお見せするまでお待ちください……」


「お。おい、ミツ……」


 二人の王子、アベルとカインの言葉が聞こえてもミツは首を横に振っては、彼は立った状態で王を待つ姿勢は変えなかった。

 余りにも信じがたい行いに貴族列の数名が、王子二人の言葉を蔑ろにするミツへと強く言葉をかけた。


「不敬な!」

 

「自身の行いが誤りであると、貴殿は分からぬのか!?」


「ぶ、無礼者! 王の謁見にて、その態度はなっ……!!! ぐふっ!」


 次々と飛ばされる言葉にミツは列の方へとゆっくりと振り向く。

 すると声を上げた者がミツの〈威嚇〉スキルを受ける。

 これは向けられた相手の動きを止めるだけの効果しか持たない。

 しかし、実は今のミツは、分身がオークキングから奪った〈王の威厳〉のスキルも共に発動していた為に、スキルを向けられた相手は以前試した〈ダウンフォース〉+〈威嚇〉の効果よりも強く恐怖の気絶を体験する事になる。

 何故王族や貴族の集まる前で彼がこのような真似を行ったのか。

 それは客人として呼ばれた彼だが、少し気になることがあるので仕方なく彼は周囲から声がかけられ難い方法を取っている。

 ミツは別にこの国の王に忠誠を向けるために足を向けた訳ではない。

 ミツの強さは既に知れられた事実ではあるが、ユイシスのアドバイスもあり、ミツへと軽々しく声をかけることをさせない為でもある。

 無作法、無法者と罵られようと、今のミツはスキルの効果で威厳を出しつつ、この国の王と話すべきだとユイシスの言葉である。

 そこでミツへと罵声を向けた者へは、無礼者はどちらだと言わんばかりの対応手段。

 今の彼は正直虫の居所が悪い事もあり、自身に言葉を飛ばした者へと遠慮のないスキルの発動である。


「ごはっ!」


「うっ!?」


「「「!!!」」」


「うわっ! カマーセ殿! フラッグ殿! ツイッデ殿! ああ、他の方々まで……」


「あっ……ああっ……あっ」

「っぐ……」


 バタバタと倒れる貴族の姿に、周囲にどよめきが走る。

 見る限り、ミツは彼らの方に振り向いただけであり動いてはいない。

 しかし、彼が倒れた者に何かしたのは間違いないとカインが慌てて声を出す。


「ミツ! 貴殿、今何を!?」


「待てカイン。その者は最初から膝を折る気はないと言っておったではないか。いらぬ言葉を入れたあいつらの愚行だ」


「なっ、兄様……」


「おい。倒れた者をここから出せ。王にそのような物を見せるな」


「「「はっ!」」」


 レオニスの言葉に直ぐに動き出す兵士たち。

 彼らは急ぎ倒れた者たちをホールから出していく。

 またパタリと閉じられる扉を一瞥したミツはレオニスへと視線を向ける。


「失礼しました」


「構わん。客人に不躾な発言を吐いた自滅であろう。おいっ、客人が参られた。王を呼ぶが良い」


「はっ!」


 レオニスの言葉に兵の一言。

 そしてホールに静寂が満ちる。

 ゆっくりと姿を見せたセレナーデ王国、王妃ローソフィア。

 彼女はミツの雰囲気を既に入る前と感じ取っていたのか、驚くことなく王座へと座る。


(この国の国王様って女王様なんだ)


「ようこそ。冒険者のミツ。私はセレナーデ女王、ローソフィア・アルト・セレナーデ。先ずはここ迄足を向けていただいたことに感謝いたします。そして我が息子である二人を魔物から救っていただけた事を言葉として、貴方には是非伝えたいと思っておりました」


 ローソフィアはゆっくりと。

 静まり返ったホール内の端にいる兵の耳にも聞こえる透き通った声を出す。


「いえ。自分の行いでカイン様、またアベル様をお救いできたことは運が良かっただけです。自分が居なくともお二人には優秀な護衛の方々が側におりましたので、二人はどのみち守られたと思います」


「そうですか……。貴方の恭謙たる気持ちに改めて感謝します」


「はい。ありがとうございます」


 先ずは感謝。

 これは相手の心に自身の言葉を届けるには一番の効果かもしれない。

 ローソフィアの狙いは間違いではなかった。

 先程まで触れてしまえば指を切ってしまいそうな刃物の様な雰囲気を出していたミツがそっと警戒する雰囲気を消したからだ。

 流石王だと話を聞く貴族たち。

 ローソフィアは相手がただの客人として扱っては行けないことを前提するが、同じ目線に立たぬよう王としての威厳を保ちつつ話をすすめる。


(ふっ……お見事ですローソフィア女王殿下。しかし、ミツ君……いったい如何したというのだ……。君があの様な雰囲気を周囲に向けて出すとは……。ここに来るまでに、誰かに余計な事でも吹き込まれてしまったのか? いや、彼は容姿は我が息子のラルスよりも少年であっても心や考えはその辺の大人以上。ならば何故に……)


 ダニエルの向ける視線の先は、先程よりも威圧感が多少収まったミツの姿である。


「貴方の話はアベルとカインから多くの話を耳にしております。また他国との友好の架け橋となっていただいた事も。この国の王として、これ以上の無い感謝を貴方には伝えなければなりませんね」


「アベル様とカイン様がどの様なお話をローソフィア様にお伝えしたのかはわかりませんが、他国の架け橋となるきっかけを作ってくれたのはダニエル様であって、自分はそれに乗ったまでです。ああ、それとカルテット国のセルフィ様の言葉も大きいかもしれません」


「左様ですか。フロールス家ダニエル」


「はっ!」


「其方の働き、国を持って感謝します。よき働きを今後も頼みましたよ」


「御意に!」


 声をかけられたダニエルは恭しく頭を下げる。

 その時、レオニス、アベル、カインと三人がパチパチと拍手をすれば、貴族たちが大きな拍手をダニエルへと向ける。


 ローソフィアとの話は意外と長く続くことになった。

 王の謁見と言うのは大体一言二言お目通りに来た者へと話を伝え、はいの一言で終わってしまう物だ。

 だが今回謁見に来たミツに対しては一言二言で終わる内容の物ではない。

 それはミツが使用するトリップゲートの事もだが、今回来た目的の彼のアルミナランク昇格の祝辞を伝えなければならない。

 流石に話が長くなるので大きなことは謁見の間で話を済ませ、細かい話は別室で行う事と話を伝えられる。


「それではこれより! 我が国に新たな光を導きし冒険者ミツ殿! アルミナランク昇格の祝行を行う!」


 パチパチと湧き上がる拍手。

 彼は昇格の祝い金と数点の美術品や武器、そして土地を受け取る権利を貰った。

 土地と言っても領土の様に管理するのではなく、誰かの領土の土地を自由にして良いそうだ。

 貰った土地の面積は東京ドーム10個分。

 中々の広さだけに、恐らくこれが使えるのは子爵家以上の貴族が持つ領土だけだろう。

 この場にいる者は、是非ともミツに自身の領地を使ってくれと思うものが大半である。

 そりゃ自身の持っている領地に、アルミナランク冒険者の家が建ったとしたら、彼を見てみたいと思う人達が流れ込んで来るのだから。


 これにてミツのローソフィアの謁見は何事もなく? 取り敢えず終わりを迎えた。

 場を変え、椅子に座ってゆっくりと話となるので場が変わる。

 謁見の間から出ていくミツを直ぐにクリフト達が彼を護衛するように周りを囲み城内を移動。

 ミツの変わりように驚くクリフト達であったが、彼らはあえてその理由を聞くことはしなかった。


 城内を移動中、カインの私兵であるラクシュミリアとバローリアが壁に並びこちらへと視線を送っていた。

 ミツもゲートでの移動の際でも彼らの姿は見かけているので当たり障りのない会釈程度は返している。

 チャオーラやベンガルンの様に、二人へと気兼ねに話せないのは二人の雰囲気が今は仕事モードだからだろうか。

 

「とんでもない子だったわね……」


「……」


「全く、あんたがあの子の顔を見に行くって言うから付いてきてあげたのに、結局遠目から見るだけ?」


「別に……」


「なによ?」


「別に俺はお前に付いてきてくれとは口にしていないが?」


「! はっ! それは余計な事をしましたね隊長殿! フンッ!」


「何なんだ……?」


 ラクシュミリアの素っ気ない言葉に何故か苛立ちを抱えるバローリア。

 何故突然バローリアが怒り出したのか意味もわからないラクシュミリアの視線は、未だ貴族が待機するホールの方へと向けられていた。


「どう言う事だ……」


「おいっ! 何故あの者は生きておる!?」


「しっ! この場でのその話は控えておきましょう……」


「うっ……。ああ……」


 額に汗を出し、悪事を企んた者がコーン伯爵へと耳打ちをするが、コーンは人の多いこの場でその話は不味いと声をかけてきた貴族の言葉を止める。

 自身ですら動揺が隠せていない彼は一先ず自室に戻り現状を確認すべきと直ぐに動き出す。


 城内の談話室へと集まる人々。

 女王ローソフィアから息子の三人。

 そして文官の偉い人が二人付き添い、マトラスト、ダニエルだけが部屋へと入る。


「改めて。私の息子達を紹介いたしますわ。アベルとカインは既に挨拶を済まされていると思われます。そしてこちらは第一王子であるレオニス」


 ローソフィアの言葉の後、レオニスはミツに怯えなど見せず、堂々たる挨拶を返す。


「私はレオニス・アルト・セレナーデ。改めて挨拶させて頂こう。そして君のアルミナランクに祝の言葉を伝える」


「初めまして。改めましてミツと申します。はい、レオニス様のお言葉、ありがとうございます」


「フッ。貴殿の話は聞かせてもらった。また前日の戦いも……。他国との手を厚く握る君には、是非とも我が国ともこれからも手を取り合いたい物だ」


「はい。それは勿論です。自分はこの国が気に入ってますので、邪険な事をされない限りはお手伝い程度はご協力しますよ」


「おお! そうかそうか。いや、物分りの良い知恵者ではないか。カイン、弟が君を部下にしたいと話をしたそうだが、やはり誰かの下に付くことは難しいか? 君が良ければカインよりも良い条件で私の部下に」


「あっ、いえ、それは……」


「レオニス、おやめなさい」


「……。失礼。少々口がすぎたようだ」


 レオニスの言葉を止めるように母の厳しい言葉がレオニスへと飛ばされる。

 焦りすぎたかと、彼は直ぐにことばをひきさげる。


「いえ。カイン様も、アベル様も、またレオニス様からのお言葉は自分は嬉しく思います。ただ自分はやる事を先に承った身。それをやり遂げる前と誰かの願いを叶えるのは先に言葉をかけたお方に失礼となりますので、今は誰の下に付く気もございません」


「そうか……。残念だが、無理を言っても貴殿は首を立てに振りそうもないな」


「ハハッ。すみません。でも何かあればさきほど言いましたとおりお手伝いは喜んでしますので」


「そうか。ではその時にでも君の力を貸して頂こう」


 話は他愛もない会話から始まった。

 レオニスもこの場でミツを自身の手の内にとは考えてもいない。

 それは彼が城に来る前と、大臣とあれやこれやと話し合っていたのもある。

 

「無理無理無理無理! 殿下、無理にございます!」


「何を言う! あの力だぞ!? 俺以外の手に入ったとしたら脅威でしかないわ! それともお前は安安とアレを野放しにしろというのか!」


「しかし殿下。アベル王子やカイン王子ですら数日あの少年へと声をかけずに戻られたわけではありまするまい。恐らく、あれやこれやと手を尽くした上で未だに自身の兵にすらできていないのですから。ここはフロールスの者の様に手を取って、知り合いから友情へと切り替えていく方法では如何でしょう。下手に触りすぎるとああ言った者は森鼠の様に逃げてしまいますぞ」


「ああ、面倒くせえなー! 奴相手では力ずくってわけにもいかんし」


「アルミナランク相手に、力で喧嘩売るとか莫迦を通り越して無知者ですぞ。おお! では、色物で誘ってはいかがでしょうか!?」


「なに? 色物だと」


「はい。カノ者もまだ未婚の男であることは連絡を受けております。流石に城では母上……。失礼。王の目もございます。殿下と夜の街へと行かれ、こちらで用意しましたいろっペーえお姉ちゃんや、ムッチムッチなオナゴを当てればイチコロでしょう」


 大臣は女の身体をイメージさせるように自身の体をうねらせ、手を使いボン、キュッ、ボンを表現する。


「ん〜。女なー。しかし大臣。そこまでの強者となれば女など選び放題だろう。今更街の女を当てて腰は振るだろうが、俺の配下になるかと首を振るのか?」


「……横に振るかもしれませんな」


「莫迦者! 横に振ってどおする! そうだ! あいつはアルミナになる程ならば、俺と同じで戦う事が趣味かもしれん! 奴を戦える場へ連れていってはどうだ? あいつの戦いを褒めて褒めて褒めちぎって、お前がヨイショすればまだ子供のあの者ならば調子にのって俺の誘いを受けるかもしれんぞ!」


「うわ〜。しれっと雑用をこっちに回して、自分だけいいとこ取るつもりだこいつ……。はぁ、殿下、それは周りが反対するでしょう」


「ムムッ、確かに。真っ先にマトラストが止めに来るかもしれんな……」


「ですが、殿下の狙いとつけられた所は良いかもしれません。先ずは相手の好みを聞いてみては如何でしょう? この場で私達だけで話し合っても相手の好みに合わなければ意味もありません」


「まー。それもそうだ」


 とっ、二人で話し合った事だが、いざミツへと話しかけるも、母の目もあるこの場で流石に血生臭い話や、女の話題と話す会話も限られてしまう。


(焦る必要もない……。少しづつだ。相手が食いついたその時、一気にひけばよいのだ)


 レオニスの考えを読んでなのか、近くにいるアベルも様々な話題をミツへと振ると共に、勿論彼もまだミツを手の内にいれる事を諦めてはいなかった。

 彼の話題もミツの好む物は何かや、そう言う話題がちらほら。

 因みに彼の答えは何故か濁した答えばかり。


「そう言えばローソフィア様はもう女王様をやられてどれくらいになられるんですか?」


「そうですね。まだレオニスやアベルが幼き頃で、カインが赤子には私は王の椅子に座ることになりました」


「へー。カイン様って因みに今おいくつですか?」


 話を突然振られた事に、口に運ぼうとしたクッキーを掴んだ手を止めるカイン。


「俺か? えーっと、数年前に15の祝をした後に、3回冬が来たから18だな」


「えっ?」


「えっとは何だ。こう見えてもお前よりは俺は歳は上だぞ」


「いえ、年上が上だから驚いたのではなく、ならカイン様はもう直ぐ19の誕生日なんですね」


「まぁ、既に成人した身としては、1つ歳を取ろうが俺は興味はないな」


 その言葉の後に、カインは摘んでいたクッキーを口に放り込む。


「そうですか……折角誕生日を迎えられるのならとお祝いを考えたのですが、カイン様には不要でしたかね?」


「なっ!? コボっ!」


「「!?」」


「ほ、ほら、カイン。慌てずに飲むと良い」


「ず、すみまぜん。アベル兄様……コホッ」


 ミツの言葉にクッキーを喉につまらせるカイン。

 マトラストはここでその話を入れてくるかと、彼は一人ほくそ笑んでいた。


「いや、これは誕生日関係無しですが、元々カイン様にはお約束もありましたので、それを19の誕生日にみせただけです。カイン様、覚えていますか?」


「んっ、ああ。貴殿が俺との会話の中で交わした約束だ。忘れるわけもなかろう。寧ろ覚えていてくれたことにこちらとしては嬉しく思うぞ」


「そうですか、良かった。あれから随分と日も経つので忘れられてたらどうしようかと思いましたよ」


 マトラストとダニエルの表情も柔らかい事に、この事は二人も知っているだろうが他者から聞けばこれは二人だけの内緒話に聞こえたのだろう。

 ローソフィアも息子の事であるし、レオニスにとっては自身を省いて内密な話など許されない事だ。


「二人で何の約束をされたのですか?」


「そうだ。我々を放ってミツ殿とカインだけでの会話とはどう言う事だ」


「すみません、ローソフィア様、レオニス様。実は、自分は少しだけ物づくりができまして。以前その作品を皆様の前でお見せしたところ、カイン様に気に入られまして」


「なるほど。それで、カインは貴殿に何を願ったのかね?」


「はい。レオニス兄様。私めは愛犬のトールの人形を彼に頼んだのです」


「何? あの毛玉の人形をか?」


「毛玉って……。レオニス兄様、トールにはちゃんと私めが名を授けました。毛玉と言う名ではありません」


「ああ、すまんすまん。カイン、そう怒るでない」


 カインの愛犬トール。

 実はこのトール、レオニスが戦時に出向いたさい、凱旋時に荷箱に入り込んだのだ。

 野犬となれば面倒くさいと処分される所を、レオニスが気まぐれと、城内でいつも一人遊びするカインへと授けたのだ。

 それからもう10年以上。

 野生の血は何処へ行ったのか、トールは日頃城内で昼寝三昧の生活を送っている。


「ミツ殿、良ければ皆様がいらっしゃいますこの場でその人形を作ることは可能ですか?」


「はい、マトラスト様。問題ありません」


「ありがとうございます。カイン様、直ぐにトールを連れてまいります」


「ああ。アイツなら今頃俺の寝室の床に寝ているはずだ。頼んだぞ」


「はっ!」


 マトラストもカインとの対話することも多いので彼に対してもトールは警戒は無い。

 しかし、いつものように呼んだら来てくれるトールだが、部屋の近くに来た途端、尻尾を下げその場で動きを止めてしまった。


「どうした!? こっちだ、大人しく来てくれ!」


「んっ? マトラスト、いかがした?」


「はっ! それがこの部屋に近づいた途端、突然トールが怯え出しはじめまして……」


「どれ。トール、こっちに来い。トール! あれ? おかしいな。どうしたトール? 何を怯えておる?」


 カインとマトラスト、他にも周りはトールが慣れている者達ばかり。 

 しかし、トールはその場で動くこともせず、うずくまってしまっている。


《ミツ、貴方が今発動しております〈王の威厳〉この効果にて小さき生き物は怯えてしまいます。スキルを解除することをオススメします》


(あっ。自分が原因だったのね! こりゃ悪いことしたな)


 ユイシスの言葉を受け、ミツは今迄発動していたスキルを解除する。

 

「「「!?」」」


 すると先程まで彼から受けていた威圧感が、スッと消えた事に驚く部屋の人々。


「おっ! やっと落ち着いたか。よしよし。こっちに来い。すまんな、待たせた」


「いえ、そちらがカイン様の愛犬のトールですか」


「ワフッ!」


 ミツの前に姿を見せたのは大型犬のミックス犬であった。

 ミツは早速とアイテムボックスから角材を取り出し、トールを観察する。

 

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