第229話 焼きイモ。

 トリップゲートを使用し、王都からライアングルの街へと一度戻ってきたミツ。

 彼は教会に置かれた自身の部屋へ戻った後、服を着替える。

 その時、部屋の中の物音に気づいたのか、ガチャリと部屋の扉が開き、顔を覗かせる少女が驚きと声を出す。


「にーに! 居たの!?」


「ミミちゃん、ただいま。うん、今一度戻ってきたところだよ」


「わー! にーに!」


 教会に住むミミはミツの姿を見ては喜びに彼の足元へと駆け寄る。

 ギュッと彼の足に捕まる彼女の見上げる顔は無意識とミツの笑みをより優しくする。

 着替えの途中だが、取り敢えず上だけを着替え、ミツはミミを片手で担ぎ下へと下りる。


「あら、ミツさん。おかえりなさい」


「……ただいまです」


 教会のシスターのエベラ、そして他のシスター達は休憩をしていたのだろう。

 彼女達はミツを見ると、優しくおかえりと迎え入れてくれた。

 その当たり前とした言葉に彼は嬉しくも少し気恥ずかしい気持ちに返答を返す。

 プルンは何処かと無意識に視線が探していたのか、彼女は今教会の方にいるとエベラが教えてくれる。

 彼女とも後で話もあるが先にエベラやミミ達へとお土産を渡すことにした。

 

「ミミちゃん、椅子に座ってもらえるかな」


「あい?」


 喜んでくれたら嬉しいなと思いつつ、ミツはミミが今履いている革靴を脱がし、彼女には新たな靴を履かせる。

 赤色の靴は女の子にピッタリなのか、それを履いたミミは目をキラキラと輝かせる。


「うん、サイズは少しだけ大きいけど、直ぐに足も大きくなるから大丈夫だね」


「あらあら。すみません、気を使わせたみたいいで。ミミ、ミツさんにお礼を言いなさいね」


「あい! にーに、ありがと!」


 ミミはエベラの言葉を受け、可愛らしくペコリとお礼を告げてきた。


「うん。履くのがキツくなってきたら教えてね。直ぐにサイズにあったやつと交換するから」


 ミミは新しく履いた靴で嬉しそうに地面をパカパカと鳴らす。

 そこに教会の方から戻ってきたプルンと姉のサリー。


「は〜。疲れたニャ〜。教会の中は兎も角、外の案内は寒くて嫌ニャ」


「もう近い内に雪が降ってきそうね」


「そう言えば朝、外にあった水溜りの表面が少し凍ってたニャよ」


「そっかー、ならそろそろ薪の補充も増やさないと駄目ね。あら?」


「ニャ? あっ」


「プルン、サリーさん、お疲れ様です」


「こんにちはミツ君、戻ってきたのね」


「ニャニャ、ミツ、いつ戻ってきたニャ!?」


 ミツの姿を見た事にプルンは耳と尻尾をピーンっと立て笑顔。


「うん、ほんのさっきね」


「ミツ、旅は何処まで行ったニャ? 領主様は元気かニャ? 何か美味しいもの見つけたニャ?」


 プルンはミツの背後に周り、彼の肩を掴みアレやこれやと質問をしてきた。

 そう言えばと、王都に既に付いていることを伝えていなかった事を思いつつ、取り敢えず体を揺さぶるのを止めてほしい。


「ちょっとちょっとプルン、久しぶりに会えた事に嬉しいのは分かるけど、質問は一つづつにしなさいよ」


「ニャっ!? ウ、ウチは別に!」


「ねーね、お顔がアカアカ」


「ミミ! 余計な事言わなくていいニャ!」


 姉と妹からの言葉に頬を染めるプルン。

 彼女の気持ちも嬉しいが、ミツに向けられる周囲の視線も気恥ずかしい。


 その場の雰囲気を変えるように、ミツはアイテムボックスから王都のお土産をエベラ達へと渡す。

 エベラ達には神殿でも使われている聖書だ。

 神殿の教えや神々のお話などが書かれた分厚い本。

 これが上下巻と五セットである。

 これはミツからではなく、神殿長のルリから渡されたものでもある。

 ルリと側仕えのタンターリに、彼が建て直した教会に他に何が必要かと質問すれば聖書を進められた。

 例え建物やエベラ達の服が新しくなったとはいえ、中身が今迄では神殿としても教会を支援するのは基本を知っておいて欲しいとの事。

 その際に渡されたのがこの聖書である。

 実はこの聖書、最初に渡されたのは一セットのみ。

 本など貴重な品物であり、高額な本を流石の神殿も何冊も直ぐには用意できない。

 なら他の四セットはどこから来たのか?

 そう、残りの本はミツが作ったのだ。

 聖書を渡される際、それを複写しても良いかとルリに許可をもらった後、二人が見守る前で彼はアイテムボックスから木材と暖炉から煤を拝借。

 パラパラと聖書を見た後、彼は〈物質製造〉を発動。

 流石に材料不足で丸々そっくりには作れないが、文面は間違いなく複写が完璧である。

 複写した四冊の中身をルリとタンターリが驚きつつ確認後、それを教会に渡すことを許された。

 ルリから渡された聖書は保管用として教会に大事に保管として、残りをシスターの皆で読み回して欲しい。

 渡されたエベラ達はまるで遠く先に居る神殿長のルリに感謝を送る気持ちとそれを受け取り、恭しく頭を下げる。

 まあ、約二名……。

 聖書をパラパラと中身を見た後。うえっや、ニ゛ャなどの声を漏らした姉妹はエベラに怒られていたがスルーしといた。

 気持ちは分かるよと、ミツも小学校の時代に学校から渡された国語辞典に同じ気持ちを持ったことがあるのだ。

 ヤンとモントの二人は遊びに行っているので後でお土産を渡すことにした。

 後はお菓子もあるのだが、これを食べるのはエベラのお怒りがおさまるまでおあずけ状態になるかな。

 ミツが帰ってきた事に、エベラ達はご馳走しますと夕食準備をし始めたので彼は畑を借りる事をエベラへと促す。

 何をするのかと詳しい話をすれば、どうぞの一言であっさりと許可が貰えた。

 サリーはカッカのお乳の時間なのか、彼女は夕食ができるまでは部屋で休むそうだ。

 

 シスター服から普段着に着替えてきたプルンと二人で畑に移動。


「ニャ!? もう王都にいるニャ!」


「うん、出発の初日には着いてたよ」


「ニャ〜。ミツはゲートがあるからそりゃそうニャね。それで、今から何するニャ?」


「うん、これだよ。これね、王都の市場で種を買ってきたんだ。冬になれば保存食とかも居るだろうと思ってね」


「……」


 アイテムボックスから次々と取り出す種袋。

 その数に、ミツは驚きとは別の視線が向けられた事を感じる。


「あ、あれ? プルンさんや、なんでそんな可哀想な物を見る目で見てるの?」


「ニャ……。ミツ、残念だけど今から種を植えても食べ物は取れないニャよ。早い物でもできるまでは何日もかかるニャ。それに、多分後数日で雪も降ってくるニャ。そうなると……」


「あ、あーあー。うん、勿論それは分かってるよ。これもプルンには言ってなかったけど、この間ダニエル様のお屋敷で実験した事があってね」


「実験ニャ?」


 数日前、ダニエルの屋敷の畑の一部で行った実験の話を彼女へと伝える。

 後日教会の方でもその野菜を使ったのだが、その時ミツは屋敷で取れた野菜としか言っていなかったために実験の事を言い忘れていた事を今思い出している。


「ニャニャ!? あの野菜が直ぐにできたニャ!?」


「うん。だからまだ雪も降ってないから今なら問題なく直ぐに終わると思うよ……って、プルン」


「ニャンニャ〜。これがシロガネで、こっちがイモニャ。えーっとこっちもいいニャね」


「相変わらず適応が早くて助かるよ」


 プルンは袋に書いた作物の名前を見ながらどれを植えようかと楽しそうに選んでいる。

 どれを選んでも構わないが、成長の速度を考えるなら植えるなら手の回る程度にしておくことを彼女に伝えると、これとこれでと二つの野菜の種を渡される。


「ミツ、これ植えるニャ!」


「イモとカボチャね。イモは日持ちするから良いけど、カボチャはそれ程日持ちしないからこっちは少なめね」


「いいニャよ」


「それじゃ、準備しようか」


「ウチ、道具持ってくるニャ!」


「あっ、プルン、道具はいらないよって……行っちゃった。まぁ、今のうちに魔石の方を用意しとけばいいっか」


 止めの言葉もかける前と駆け出すプルン。

 それはそれで構わないと彼女が戻ってくるまでに魔石の準備とカセキを土の魔石へと変えておく。

 新しく造り直した畑の四隅へとそれを埋めているとプルンが畑道具を抱えて戻ってきた。


「ニャ、はぁ、はぁ。ミツ、持ってきたニャよ!」


「ありがとう。でも折角持ってきてくれた道具だけどいらなかったかな」


「ニャ? 如何するつもりだったニャか」


「うん、こうやってね」


 ミツは畑を以前やった様に〈物質製造〉スキルを使用し畝の形へと変えていく。

 畑の上に落ちていた落ち葉や草などは全て一か所へ、後で別の事に使うのでまとめておく。


「ニャニャ!」


「さっ、早速試してみようか」


「ミツ、こっちはウチが蒔くニャ」


「うん、よろしく。後に自分が水を出すよ」


 検証を兼ねた種は数カ所だけ。

 イモは種芋を使用しているので間隔を開けて植えておく。

 カボチャも一応同じく間隔は開けておこう。

 芽が出るまでは土は適度に被せ、ミツは魔法の水をミスト状態に放出。

 地面の土を湿らせた後、少し待つ。

 すると直ぐにプルンの驚く声が聞こえてきた。


「ニャ! ミツ、もう芽が出てきたニャよ!」


「うん、ここから自分が水を定期的に出すから、プルンは花が咲いたらそれには受粉をしてね。それをしないと野菜ができないから。あっ、その前に間引きもしないといけないからそのタイミングに小さい方の芽は引っこ抜いてね」


「分かったニャ」


 陽の光を受け、グングンと伸びる作物の芽。

 降りそそぐ水を吸い取り、更に青々とした芽が伸びて行く。


「プルン、大きく育ってる方を残して小さい方を抜いてね。それと実が頭を出すから土を更に被せておいて」


「ミツ、随分と詳しいニャね?」


「ああ、ダニエル様の所に仕えてる庭師の人に聞いたんだよ。何だか凄く気に入られちゃってね。王都の種を今度お土産に渡そうと思ってたんだ。そうすればダニエル様の家族だけじゃなく、お屋敷に仕えてる兵士さん達やメイドさんにも王都の野菜とか食べさせることができるかなと思ってね」


「ニャるほど。ミツ、小さいのは全部引っこ抜いたニャ。あっ! こっちの葉っぱにもう蕾ができてる」


「プルン、次はそっちの受粉をお願い。それをしっかりしないと実ができないからね」


「分かったニャ! ミツはしっかりと水をまくニャ!」


「はいはい(しかし……今のプルンさんはシャツ一枚しか着てない為か……あの、水にシャツが濡れて素晴らしい物が透けて見えておりまして、本当にありがとうございます)」


「ニャ? ミツ、如何したニャ?」


「いえ、何でもありませんとも」


 目の眼福とはありがたい事だが、ミツの視線にプルンも自身の服が水で透けていた事に気づいたのだろう。

 彼女は頬を赤くしつつ、スケベと小さな声でそっぽを向いてしまった。

 そのまま彼女はミツに背を向け、上の服を脱ぎ、まるで雑巾を絞る様に水を絞り出す。


「プ、プルンさん!? な、何を」


「服が水に濡れて動きにくいだけニャ……///。誰も居ないから気にしないニャ!」


「自分が居るんですけど……」


「ミツは野菜を見てるニャよ!」


「は、はい!」


 そんな二人のやり取りも野菜の成長は止まることもなく進み、収穫のタイミングが来た。


「よし! プルン、引っこ抜いて!」


「ウニャー! ッ! ニャッ!?」


 プルンはイモの葉っぱを纏めて掴み、力一杯っと引っこ抜く。

 ズボズボと土から根が切れる音が聞こえた後、ズボッといくつもの実を付けたイモが姿を見せる。

 一つ一つの大きさは大人の拳程の大きさ10~20センチを軽く超え、一つの苗には7~9個の実を付けていた


「取ったニャー!」


「プルン、喜ぶのは後で、他のも早く抜かないと」


「そ、そうニャね!」


 その後五つ分のイモの苗を引っこ抜き、収穫したイモとカボチャを収穫。

 カボチャは放っておくだけグングンと成長してしまうので、そこそこの大きさの所で弦から切断して成長を止めた。


「いっぱい取れたニャ!」


 籠いっぱいに積まれたイモと地面に積み重ねて置いたカボチャ。

 早速味見と行きたいところだが、以前のようなナスみたいな野菜とは違い、いも類であるイモとカボチャは生食は避けたほうが良い。

 ミツは様々なスキルがあるので腹痛は起こさないだろうが、プルンが食べたら大変なことになる。

 と言うことで先程集めていた落ち葉を使い、この二つを焼いていこうと思う。

 野菜を全て〈ウォッシュ〉を使用し泥汚れを全て落す。


「プルン、先ず少し浅めに地面を掘って貰えるかな」


「ニャ」


 プルンは先程持ってきていた畑を耕す為の道具を使い浅い穴を開ける。

 その間と、ミツはイモとカボチャをカサカサとした物で包み込む準備。

 これは雑草を〈物質製造〉で作り変えた紙である。

 紙と言っても字を書く為ではなく、新聞紙の様にイモを包むだけである。

 プルンが掘った穴へとそれを敷き詰め、その上から土を被せる。

 そしてその上に枯れ木、落ち葉、火種となる松ぼっくりの様な枯れた物を置く。

 小さな火を起こし、パチパチ音を鳴らしながら煙を上げ焚き火を起こした。


「ミツ、これが料理ニャ?」


「そうだよ。直接焼いちゃうと焦げたりするからね。焚き火の熱で焼き上げるんだよ。地面の中たから食料が焦げることもないから火のそばから離れても大丈夫だよ。勿論ズッと離れちゃ火事になるから駄目だけどね」


「ニャ〜。不思議ニャね。ニャ? ミツ、次は何を作るニャ?」


「付け合せにバターを作ろうと思ってね。草牛の乳が売ってあったからそれも購入してたんだ。あっ、勿論傷んでない搾りたてね」


「王都は何でも売ってるニャね。ウチも行ってみたいニャ」


「うん、今度皆と行こうか」


「……はぁ〜。ミツはもう少し返す言葉を考えるニャ」


「えっ?」


「……ウチと二人で行くのは駄目ニャ?」


「うっ……」


「ニャハハハ! ミツ、か、顔が真っ赤ニャ。もう、少しからかっただけニャ。王都に行く時はリッコ達も一緒に行くニャ」


「アハハハ。ソウデスネプルンサン……。(こんにゃろ……)じゃ、ハイこれ振ってね。振ってる間に筒の中から異物音したら完成だから」


「任せるニャ! ニャ!? お、重いニャ」


「美味しいものを食べる為だよ。さっ、振れ」


「ニャー!! ニャッ、ニャッ、ニャッ!」


「兄ちゃーん!」

「おにいちゃーん」


「おっ。ヤン君とモント君の二人も帰って来たみたいだね」


「兄ちゃん、戻ってきたのか!?」


「お兄ちゃん、遊んで遊んで!」


「ただいま、二人とも。うん、遊ぶのは後でね。今はバター作ってるから、少し待ってね」


「「バター?」」


「アレだよ」


「フニャー!! ウニャーー!! グニャーーー!」


 変な声を出しながら、今もシャカシャカとミルクの入った筒を振り続けるプルン。


「……プルン姉、何変な顔してんだ?」


「変な顔!」


「五月蝿いニャ! そんな事言うなら二人には分けニャいニャよ!」


「「プルン姉のケチ!」」


 二人は口を揃え、いーっと歯を見せる。


「はいはい、二人もやってみるかい?」


「「やるー!」」


「はぁ、はぁ、はぁ。お前達もウチみたいに疲れるといいニャ。はぁ、はぁ!」


 自身のやってる事がどれだけ大変なことなのか、それを思い知らせる気持ちとプルンの頬がニヤリとほくそ笑む。


 しかし、ミツを相手にしては、プルンの考えは浅すぎたかもしれない。

 彼はいくつもの木材と糸玉を数点取り出した後、二人の背丈を確認。

 そしてある物をイメージしつつ〈物質製造〉を発動。

 木材は形を変え、前輪の無い自転車と後輪の先に紐を通した箱を作る。

 一見するとこれは何なのかが分からないだろうが、使用する用途を見れは自ずとそれが分かるものだ。


「じゃ、二人にはこっちで作ってもらうね」


「うわっ! 兄ちゃん、何だこれ?」


「これはね、自分が考えたバター製造機だよ」


「製造?」


「うん。まずこの箱中にミルクを入れた筒をセットします」


 作業中、筒の中からミルクが飛び出さないように箱の中で筒を入れる。


「「うんうん!」」


「そして次にヤン君をここに乗せます」


 ヤンには自転車の様な物に彼を乗せ、ペダルへと足を着けさせる。

 先程背丈を確認していたのでヤンは足を浮かせる事も無くサイズピッタリに足裏をつけている。


「おっと。兄ちゃん、落ちそう!」


「大丈夫、このハンドルに捕まってね」


「お、おう!」


「お兄ちゃん、僕は?」


「はい、モント君はヤン君の後の席ね」


「ニャ! ニャ! また、はぁ、ミツは変なの作ってるニャ。はぁ、はぁ、はぁ。ミツ、これまだ振るニャ!?」


「まだまだだよ。頑張って振ってね」


「ニャーーー!」


「兄ちゃん、それで如何するんだ?」


「うん、それじゃ二人とも足をペダルに乗せて。そう、それで右足、左足と足を前にこいでね」


「こ、こうか?」


「回った!」


「そうそう。そのまま回して回して。よし、動いてる動いてる」


「ニャニャ!?」


 二人がペダルをこぐ度に、後方に取り付けた筒が前後にシャカシャカ。

 一回ペダルを回転させるまでに筒はシャカシャカシャカシャカと最低前後に四往復。

 取り付けている筒の中身が少量のミルクだけに、二人はペダルの重みも感じることなくペダルを回転させ続けた。


 始めての事に面白いのか、二人はアハハと笑いながらペダルをこぎ続けている。

 更にミツは二人へと支援の魔法を使用し、足を踏み外した時の対策としてもシールド系のスキルを彼らに発動。

 更にべダルをこぐ速度が早まったのか、筒の中はシャカシャカと言う音からドボッ、ドボッっと粘度のある音に変わりつつ変化が起こっていた。 


「ず、ズルいニャ! ミツ、ウチもそっちがいいニャ! 疲れたニャ!」


「プルンでは足場のサイズが合わないから無理」


「ニャ!?」


「ひぃ……ひぃ……。ミ、ミツ。お、音が変わったニャよ……」


「ほいほい、お疲れ様。んー。まだプルンの方はもう少しかな」


 彼女から手渡れた筒を振ってみるが、それはまだまだ水音が大きいものだった。 


「ニャ!? ま、まだ振らないと駄目ニャ!?」


「……仕方ない。二人とも、プルンの分も一緒に振ってもらってもいいかな?」


「うん、いいぜ!」


「プルン姉弱々〜」


「行くぞモント!」


「うん!」


「「うりゃー!」」


 ミツはプルンがこうなるだろうとは思っていたので、実は予め筒をセットできる場所はもう一つ作ってある。

 と言うかプルンの筒の中身だが、二人の三倍の量が入れているのでその分重くもなるし、腕の疲労も増加するのは当たり前だ。


「う、五月蝿いニャ。はぁ、はぁ……ケホッ、ケホッ」


「はい、プルン。これ飲んで休んでて」


「プハァー! 生き返るニャ!」


「二人のおかげでバター作りが早く終わりそうだね。イモの方ももう少しだよ」


「……。ミツ、思ったんニャけど、最初からあれを使えばウチが疲れる事もニャかったんじゃ……」


「……あはっ!」


「ニャッー、ミツー!」


 相手にやり返しと言うものは、こう言うさり気ない所で行うのが後腐れも起きず、後の笑い話にもできるのだ。


「アチチッ! さて、焼けてるかな〜。おっ、ちゃんと火も通ってるね。よし、ここに三人が作ってくれたバターを乗せれば。どうぞ、じゃがバターならぬ、イモバターだよ」


「「「おっー! いっただきまーす」」ニャ」


 三人はゆらゆらと湯気を立たせ、出来たてのバターをとろりと溶かせば更に豊かな香りが食欲を増す。

 フーフーと何度も息を吹きかけた後、ガブリとイモバターへとかぶりつく。


「「「うまーい」」ニャ!」


「うん、美味い(鑑定でも分かってたけど、商品にしても売れるレベルに美味しいわこれ)カボチャの方は如何かな? うん、皮も柔くなってるね。少し切り分けてるからこれも食べてみて。こっちもバターを付けても美味しいよ(本当はカボチャ自体甘いからバターは要らないんだけど、これは品種改良されてないカボチャだから、味が濃いイモみたいなんだよね)」


「これも美味しいニャ!」


「うん、美味いぞ!」


「美味しいね」


 三人は美味い美味いと大きなイモを一人一つペロリと食べきり、少し小分けにしたカボチャもおやつ感覚にパクパクと食べている。

 香しい匂いに引き寄せられたのか、サリーがカッカを抱っこした状態にミミと共にやってきた。

 二人にもイモバターとカボチャを振る舞う。


 そして、王都の街の話、冒険者ギルドや神殿の話、最後に後日王様との謁見がある事を話すとその話を聞いていた二人はポカーン。

 今もリスの様にムシャムシャとイモを食べている子供たちは、ミツの話は難しかったようだ。


「えっ? 王都にもう着いてるの!?」


「そ、それより。ミ、ミツ、アルミナランクになったニャ!?」


「うん。王都の冒険者ギルドで試験をしたよ。ほら、これがアルミナランクの冒険者カードね」


 彼は首にかけている冒険者カードをプルンへと渡す。

 共にシルバーの冒険者カードも付いているが、アルミナランクは白い方だと説明すると彼女は目をキラキラとさせそれを見つめている。


「ニャー! 凄いニャミツ! ミツがアルミナなら婆も喜ぶニャ。なんたってミツはこの街の冒険者ギルドからの出ニャからね」


「そうだね。後でネーザンさんにも報告に行こうと思ってる。その前にダニエル様のお屋敷かな」


「ニャ、ミツは明後日にはまた王都に行くニャね」


「うん。その後少しまた用事もできたからそこにも行くかな。何処に行くかは自分もまだ分かってないんだけど」


「ニャハハハ、何ニャそれ」


 そんな会話をしつつ、厨房の方からも夕食の匂いがし始める。

 サリーも王都が気になるのか珍しく色々と質問されてしまった。

 彼女も毎日子育てに疲れているのか、たまには息抜きと何処かに出かけたい気持ちなのだろう。

 夕食時、教会では豪華と言える程の食事がテーブルを埋め尽くし、シスター全員と共に食事をすることになった。

 先程の話をさり気なくエベラへと話せば、確かに毎日育児に付きっきりのサリーの気持ちも彼女は理解してくれたのだろう。

 明日はカッカは私が見ているからと、サリーは教会のお休みを貰うことになった。

 ならばと、ミツはサリーへと王都に行きますかと提案する。

 その言葉に驚きのサリー。

 プルンはニャらウチも行くニャと手を上げ、サリーの護衛役として共に王都に買い物に行くことが決まった。

 サリーはトントン拍子に決まっていく明日の予定に頭が追いついていない。

 まぁ、明日になれば分かるとプルンがモグモグと大きめのソーセージを加えつつ笑っている。

 ちなみに子供たちも行きたいみたいな事言い出しそうだったが、明日の子供たちのおやつが王都のお菓子とエベラが言うと教会でお留守番すると、二人は残るとすんなり言う事を聞いていたよ。

 流石姉弟、似た者同士だとその場は笑いあってた。


 食事も終わり、夜もふけたころ共にベットの中には二人の男女。

 わずか数日ぶり離れただけでも二人の気持ちは高鳴っていたのか、今日も熱い口づけから始まっていた。

 

「ニャ〜」


「プルン、どうしたの?」 


 数試合の戦いの後、ムクリとベットから上半身だけを起こすプルン。胸元を隠していたシーツが落ちることも気にせず、彼女はプラプラと自身の腕を軽く振る。


「昼間にバター作りで腕が疲れてるだけニャ」


「プルン、必死になる程に振り続けてたもんね」


「ムッ、そうニャね。誰かさんの嫌がらせにウチの腕が痛くなったニャ」


「フフッ、そっか。それじゃ後は自分が頑張って動くからね」


「ニャ!? あっ、あっ///!」


 肌寒くなってきた夜。

 少し厚めの毛布の中へと彼女を引き込み、二人の汗が混ざり合う。

 ビクンビクンと幾度も毛布の中では軽い痙攣が起き、チュパチュパと互いを確かめるリップ音が聞こえてる。

 共に満足したのか、彼の腕を枕にゴロゴロと喉を鳴らすと、その音は相手を眠りに誘う落ち着く音であった。 


 次の日、眠そうにあくびを繰り返すプルンへと姉のサリーが彼女の耳元でこんな事を言ったそうだ。


「する事に口は出さないけど、声……少し抑えなさい///」


「///!?」


 頬を染めて告げた姉の顔も妹の顔も真っ赤。勿論近くに居たミツも頬を染めてしまうのだった。


 二人をミツが王都で使用している宿へとトリップゲート出送った後、ミツはダニエルが不在のフロールス家へと足を向ける。


「それじゃ二人とも、夕方には迎えにくるから宿の中で待っててね」


「分かったニャ」


「よろしくねミツ君」


「はい、サリーさん、お休み楽しんでくださいね」


「ええ、ありがとう」


 広い王都、二人だけでは勿論心配もある。

 そこでプルンの影には、前もって分身が〈シャドーウォーク〉のスキルを使用して彼女を守る為と影に潜んでいる。

 このスキル、思った以上に使い勝手もよく、影の中からでもプルンやサリーに対して支援スキルが使用できたりと常に相手にバフスキルを与える事ができる事が分かった。

 分身に1日二人の護衛をお願いすると共に、ミツはダニエル不在のフロールス家へと行くことにした。

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