第221話 冒険者達の祝杯。

 精霊たちの力にて傷を癒やした三人。

 驚きつつ彼らが自身の身体を確認していると、近寄る二人の姿。

 ギルドマスターであるエヴァと副ギルドマスターのボリンだ。

  

「いや〜、皆お疲れさま。予想以上の戦いだったわよ」


 エヴァの言葉に続くようにボリンも労いの言葉を彼らへと送る。


「お疲れじゃねえよ! おい、ギルマス。あんたもしかして、後輩の力を知ってて話を持ち出したんじゃねえだろうな!?」


「……エヘッ」


 周囲から集まる視線。

 エヴァは自身の頬に指先を当て、舌をだしては可愛くウインクを返してきた。

 

「てめえ! ぶっ飛ばしてやる!」


 その態度にガバッっとエヴァへ襲いかかろうとするディオだが、疲労もあったせいか、ガランドとボリン、二人に抑えられる。


「おーおー、まだそんな元気があったとは。たいしたもんだ。まぁ、話は後で部屋でしようじゃないかい。それよりも……」


 エヴァはミツの片腕を取り、高く上げる。


「聞けっ! 皆の者! 武勇勇敢たる一人の冒険者から新たな英雄が誕生した! 数百年と眠りし扉、誰もたどり着くことが困難と思われたその境地! それが今、我らの前で示された! 改めて聞くが良い! その者の名はミツ! ここに冒険者ランク、アルミナランクに昇格した英雄の名を! そして彼の戦い、彼が歴史に残される瞬間! 我らがこの目で見たこの日、彼に祝福を送ろう!」


「「「「「うおおおおぉぉぉ!!!」」」」」


 彼女の言葉が終わると同時に巻き起こる歓声。

 自身の目で見ても信じられない光景。 

 しかし、その者の強さは証明され、宣言された。

 数百年、存在すらしなかったアルミナランク冒険者の誕生。

 偶然とは言え立ち会えたその幸運。

 彼らは興奮は冷めぬまま、遠くまで聞こえる程の歓喜の喜びの声を上げる。

 その声は耳をすませば王族のいる王城にまで聞こえたか聞こえなかったかは定かではない。


 僅か15歳の少年がシルバーの冒険者三人を倒し、アルミナランクとなった。

 この噂は風の如く広がり、数カ月も経たずに国を超え、帝都にまで届く程の話となった。


 王城でミツの戦いを見ていた王族貴族。

 彼らは試合を鳥型魔導具にて映された映像を観戦後、緊急会議が開かれた。

 戦いを見て明らかだが、彼は国を左右する力を持ち、更に力を振りかざす事はしない、猫の隠れた爪状態。

 厄介な事は未だ誰の下にも付いていない事もだが、ミツは以前カインの誘いを断った話をその場の全員が聞くと唖然。

 王族の誘いを断ったと言う事は、彼は地位などに興味はない。

 例え女王ローソフィアの推薦で名誉の叙爵が行われたとしても彼は断る可能性があるだろう。

 勿論それは国に剣を突き出す程の不敬な事であるが、あの戦いを見せられてはそれを面と向かって言える無謀者もここには居ない。

 だが彼をそのまま在野にするのは考えてはいけない。

 アベルとカインの護衛兵、またマトラスト辺境伯、巫女姫のルリの騎兵部隊。

 更に他にも多くの貴族や冒険者。

 それも1000人以上を一瞬で国の前に送り込んだ事実。

 もし彼を在野にしたとして、彼らに安眠できる日々は来るであろうか。

 冒険者ギルドはミツをアルミナランクと認めた。

 その事も配慮とし、彼を王城に招こうが拒もうが既に彼は街にまで足を踏み入れている。

 この結果、つまりはミツを街に入れた時点で選択権は無いのだ。

 だとしたら如何する?

 このまま城とミツは関係ありませんと近づかせない選択をするか?

 いや違う。

 ここはあえて彼を王城に招き入れるが正解である。

 既にアベルとカイン、二人がミツを城に招いて入るが、更に理由を付け加えることが、ミツを確実に城へと招く口実となるだろう。

 下手に関係を持たないと言う選択は、自身の首に自身で縄を巻き、両方の紐をいつ走り出すか分からない馬の胴体に括りつけるような物。

 それに賛成する者は多いが、極一部にはやはり良からぬ事を考える者も居る。

 平穏とした日々を壊したくないと思う者。

 彼が城と関係を持てば自身にデメリットしかない事を考える者。

 そんな彼らは思うだろう。

 彼を殺してしまおう。

 暗部を送り込み、暗殺をすればまた平穏な日々に戻る。彼の存在しなかった日々に。

 周囲が国の事を考える中でも、自身の事しか考えない奴らは静かに動き出してしまう。

 

 話し合いの結果、彼が望むならば叙爵し、そうすれば最低限は国に害を与える事をさせない事ができる。

 叙爵が無理でもローソフィアは息子の二人を魔物から救ってくれた恩として礼を送る。

 相手が庶民権を持たぬ野良の旅人であろうと、望む物があればそれを送り、恩を背負わせる狙いであった。

 と言ってもこの提案はレオニスの提案であった。

 彼はミツの強さに惚れ込み、是非の気持ちもあったのか手の内に入れたい気持ちが出たのだろう。

 何よりもカインの誘いを断り、愚弟のアベルの部外の不作法にて彼からの信頼は落ちている。

 弟二人が既にチャンスを掴みそこねている事が、更に彼の思いを強くしている。

 大臣もレオニスの発言を後押しするように国の利、また他にもこの場ではメリットしか発言していない。

 勿論メリットがあればデメリットもあるが、緊急的に開かれた会議に回答分など用意されていない為、目の前の物しか見えないのは仕方ないだろう。

 一先ずミツの目的は王宮神殿に足を踏み入れること。

 後にルリを通して女王の謁見の流れを作ることとなった。

 

 場面は冒険者ギルドへと戻る。

 ギルド長の部屋へと案内されたミツ。

 彼はテーブルの上に差し出された二枚の羊皮紙に書かれた文字に目を通していた。

 一つはグラスランクからシルバーになった時、グラスのカードをギルドへと返還する内容。これはいつも書いていた物と同じだ。

 もう一つはアルミナになった際、アルミナランクの証明書であるカードは彼に渡すが、それとは別にシルバーランクのカードを彼に渡しておく。

 んっ? これを見てミツはペン先を止める。

 何故シルバーのカードを渡しておくのかと質問すれば理由は簡単。

 アルミナランクカードなど見たことの無い人が大半と言うか、知るものが居ないだろう。

 街や他のギルドで冒険者カードを出す際、誰も見たことのないカードを出されては、街に入る事も拒まれるかもしれない。 

 勿論連絡を回して確認すれば街にも入れるだろうが、その街々に必ず冒険者ギルドがあるわけでもないので、あえて知れ渡っているシルバーの冒険者カードを渡しておくと説明された。

 その際は念の為にアルミナのカードも共に出しておけば問題ないとの事。

 何か言われたなら、それはギルドが責任を持ってミツのフォローに入ると言ってくれた。

 その説明になるほどと軽く言葉を返し、羊皮紙に名前を書く。

 グラスのカードをボリンに渡すと、彼女はクッションが敷かれたトレーを前に差し出す。

 一つはキラリと輝く銀色、シルバーの冒険者カード。

 もう一つは真っ白なカードだ。

 触った質感は固く、見た目プラスチックに見える。

 さて、ここで疑問に思った事だろう。

 何故ランク制度で【アルミナ】が最高ランクなのか。

 最高の鉱石といえば、プラチナ、アダマンタイト、オリハルコン、ゴールドなどを想像するだろう。

 理由としてはこのギルドが作られて間もなく、ランク制度が作られるようになった。

 その際、最高ランクはやはりゴールドにすべきだと話が出たのだ。

 しかし、ゴールドは金貨にも使われている。

 そう、莫迦な冒険者が金貨を溶かし、俺は冒険者で最強なんだと冗談でも笑えない事をされてはギルドの信頼が落ちるかもしれない。

 他にも理由としては、アダマンタイトやオリハルコンもドワーフが良く使う材料だけに手に入りやすい。

 手に入りやすくて問題ないと思うだろうが、それはその時ランク制度を考えた人達へと文句を言ってほしい。

 あれやこれやと話し合いの結果、その時代で意外と出せない色の鉱石に注目が集まる。

 そう、それが白だ。

 鉱石を溶かす為に火を入れる。

 火を入れると如何しても色が付いてしまう為、白と言う鉱石はできなかった。 

 偶然にもドワーフが見つけたその鉱石。

 熱を通しても溶けるだけで色の変化を出さない。

 更にはドワーフだけが知っている加熱方法、そして加工法でしかアルミナのカードが作れないのだ。

 日本ではそんなこともないだろうが、ここは違う。

 結果、アルミナランクには白のカードが渡される事になった。

 

「ありがとうございます」


「喜んでもらえて良かったよ。さて、アルミナとなった君には色々とギルドからお願いする事が多々あると思うけど……。まぁ、そこは今まで通りで良いから。今の所急用的な依頼は飛び込んでないし。と言ってもこの王都本部での話だけどね」


「そうですか。では、何かありましたらご協力しますね」


 エヴァはボリンの方へと視線を向けると彼女はトレーに金色に輝くゴブレットを二つ乗せている。

 一つをエヴァが受け取り、もう一つはミツへと渡す。

 中身はお酒であり、鑑定するとアルコール度数が50%と、ウイスキー並の強さがあった。

 少し顔を引きつらせるミツを見てはエヴァはニコリとほくそ笑む。

 そして一つコホンと咳払いを入れた後、彼女は部屋の中でありながらも声を張り上げ、祝の言葉を述べだす。


「うん、その時はよろしく頼むと思うから。それじゃ改めて。冒険者のミツ。アルミナランク昇格おめでとう。君は今、数百年と現れなかった冒険者、数多くの冒険者の頂点となっている。だが、逆に考えれば君の下には多くの冒険者がいる。君が彼らの手を取れば、共に肩を並べる友がいずれ現れるだろう。頂点は終わりではない。そこから見える景色は今までと違った景色だと思う。それをきっかけと、君ができる事、挑戦者としてそれを成し遂げる事が本当の冒険者の扉を開けることになる。君が強さを見せる限り、君の強さに依存する者が出てくるだろう。しかし、それを拒まないで欲しい。何故なら、君も産まれた時は最初は誰かに依存し、大なり小なりと手を差し伸ばしてもらっている。強くなったのは君の力だ、君の努力だ、君の才能だ。だからこそ見せて欲しい。我々冒険者ギルドは君の働きに期待する。以上! おめでとう!」

 

「ありがとうございます」


 お互いの言葉が絡み合った後、二人はゴブレットの中身をゴクリと飲み干す。

 口の中に広がる強いアルコールの匂い、そして息も苦しくなる喉の熱量。

 〈状態異常無効化〉のスキルを持つ彼であっても、口に含んだアルコールの強さと味はまだカバーできない。

 完全に胃の中に入れるか、体内に吸収させるまではその辛さは継続されるのだ。

 なのでミツは無理やりそれを飲み干し、大きく息を吸い込む。


「くっ! はーー!」


「はっはははは! 美味い! ボリン、おかわり頂戴」


 エヴァはミツが酒が弱いことを見抜いたのか、強者であろうと人並みの弱みがある事に安堵の笑いを出し、側にいるボリンには空となったゴブレットを突き出す。


「駄目です。エヴァ様はそれ一杯で終わりです」


「えー。ぶーぶー、ケチンボ」


「ミツさんはご希望ならおかわりありますよ?」


「い、いえ。一杯で十分ですので……コホッ」


「はい。では」


 ボリンはミツからゴブレットを受け取る。

 勿論エヴァから突き出されたゴブレットも彼女はすかさず回収してしまう。


「なんだよー! ボリン、私に冷たいぞー!」


 エヴァは腕を突き上げ、フンスと頬を膨らませボリンへと怒りを見せる。

 エヴァの見た目の容姿が幼く見えてしまうため、彼女の行動一つ一つが可愛く見えてしまう。

 さて、先にネタバラシをしておくが目の前のギルドマスターのエヴァ・ネーリン・シュレンマー。

 実は彼女、人ではなくヴァンパイアである。

 ミツは彼女を最初鑑定したときから知ってはいたが、もしかしたら本人が隠している事かもしれないと、あえてミツはそこはスルーしていた。

 ユイシスからも彼女の詳細を聞いてはいたが、夜な夜な人の生き血を狙ったような行動はしてないそうだ。

 因みにヴァンパイアの彼女だが、陽の光を浴びたら身体が灰になったり燃えたりはしない。

 昼間は悠々と買い物に外を歩き、食卓にニンニクが出されても彼女はもりもりと食べる程だ。

 ならば杭を心臓に打ち付ければ死んでしまうのではと思うだろうが、当たり前だ。

 ヴァンパイア関係なしに、人にもそんな事をすれば死んじゃうよ。

 ならば人もヴァンパイアも違いは無いじゃないかと問われるだろうが、彼女も実は元シルバーの冒険者。

 人には使えない魔法や能力を持っている。

 ただそれだけだ。

 それを考えたら彼女とミツは似てるのかもしれない。

 彼女とのお話は後にするとしてだ。

 ミツとの話が終わった後、先程対戦した三人が部屋へと入室する。

 入ってそうそうディオはエヴァに食いかかるように詳細を求めてきた。

 共に入ってきたガランドとリナも聞きたいことは同じなのだろう。

 

「説明!」


「はいはい。よいしょっと」


「「「?」」」


 エヴァは机の下に隠していたヒュドラの鱗を取り出す。

 大きさはショートシールド程度の大きさだが、それがヒュドラの鱗と聞いた瞬間ディオの威勢が止まった。

 三人の反応が面白いのか、彼女はニヤニヤとした顔を作りつつ、ミツがヒュドラとの戦闘で勝利したことを告げる。

 別にエヴァとボリンも二人は森羅の鏡でその映像を見た訳ではないのだが。

 それにヒュドラ自体見たことのない。

 ボリンがモンスター図鑑のような物を出し、それを元に説明を受ける面々。


「嘘だろ……」


「呆れた……」


「誠の強者であったか……」


 視線がミツへと集まる。

 彼は大変だったことは認めるが、ヒュドラのスキルが一番の狙いだったのでそれを誤魔化すように笑みを返す。


「いえ、運が良かったんですよ」


「「「……」」」


 その言葉に対して、彼らは強く返すにも唖然とした気持ちが上回ったのだろう。

 誰一人声を出すことができなかったようだ。

 

 ガランド達がエヴァからの説明を受けて落ち着いたところでミツは部屋を退室。

 ゲイツと合流する前とミツはボリンへとシルバーとアルミナへの試験料として金銭を払おうとするが、それはやんわりと拒まれた。

 どうやらエヴァの計らいで彼女が代金を立て替えてくれたようだ。

 流石に金額も金額。

 悪いですよとミツが払おとするが、彼女は理由を説明してくれた。

 先程の四人の戦いは冒険者の闘争心を大きく向上させ、自身もランクアップを改めて目指そうと思う者が出てきたようだ。

 冒険者ギルドの依頼は強制ではない。

 暫く受注されなかった依頼などが、今回の戦いを見たものが我先にとその依頼を受け始めたそうだ。

 ギルドとしては冒険者のやる気を数十枚の金貨で買えたと思えば安いと返された。

 ミツはそうなんですかと返すのだった。


 彼がフロアに戻るとやはり注目を集めてしまう。

 注目を集めるだけで声をかけるものは居ないので、ミツは壁際に集まったゲイツ達の方へと進む。


「ゲイツさん、皆さんお待たせしました」


「来たか。先ずはおめでとうと言っておこう」


「ありがとうございます」


 ゲイツの祝の言葉に続き、他の前衛冒険者達もおめでとうと言葉をかけてくれる。

 場所が場所だけに注目されてはゆっくりと話もできない。

 取り敢えず約束通りゲイツにおすすめのお店でご馳走になろうと彼らもギルドを出る事になった。

 

 街を歩き続け、ゲイツのおすすめと一つの店へと入る。

 外装は少し古ぼけているが、店を大切にしようと、外まで掃除が行き届いた料理屋であった。

 

「いらっしゃいませー!」


「いらしゃいませ!」


 店に入ると他にお客は少なく貸し切りに近い状態の店内。

 声をかけてくれた二人。

 10代半ばの少年と10歳にもなってないだろう女の子だ。


「あっ、ゲイツさん! 今日も来てくれたんですね!」


「ありがとうござります!」

  

 ゲイツの行きつけなのか、昨晩もここに足を向けていたようだ。

 少年は恐顔のゲイツ相手でも嬉しそうにニコリ。

 女の子も兄の真似事とペコリと頭を下げる。


「うむ。今日は祝杯として場を借りる。親父殿が忙しくなるだろうがスマヌがよろしくと伝えてくれ」


「へへっ! こっちはそれが商売ですからね。忙しくて文句言うなら俺が親父に蹴りを入れてやりますよ!」


 少年はそんな事を言いながら蹴りのモーションを見せる。


「フッ、そうか。では先ずは酒を頼む……いや、待ってくれ。ミツ、お前は如何する?」


 いつものように酒を注文しようとしたゲイツだが、今日の主役の意見が優先と、ミツに飲み物の意見を問う。

 彼もゲイツの気配りが分かったのか、乾杯の一杯目でもと、お酒を共にすることにした。


「えっ? あっ、折角なので頂きます」


「そうか。ではキッド、これで人数分の上物の酒を頼む」


 ゲイツは金貨を数枚キッドに握らせる。

 キッドは握らされた硬貨が金貨である事に笑みを浮かべる。


「おっ! ゲイツさん、ありがとうございます! ミッチ、母さんを呼んできてくれ。兄ちゃんだけじゃ店が回らなくなるってよ」


「あい! かっかー! にいちゃ、ダメダメだー!」


「おいっ!」


 二人のやり取りに笑い出す面々。

 店の奥から店主である二人の父親が出てきた。

 ゲイツと話し合った後、ミツの冒険者としての昇格祝いということを伝え、お昼にしては少し豪華な料理が並ぶ。

 豪華と言っても庶民料理の大盛りバージョンだ。

 それでもミツの見た事のない料理もちらほら、下手な高級料理よりも彼はこっちの方が嬉しく思うタイプだ。

 なんせ日本で一度だけ世界三大珍味であるトリュフを食べることがあった。

 しかし、その時の感想としては、前日に鍋で食べた舞茸と香りが同じだなと心の底から思ったほどだ。

 肉団子や野菜スープなどは、教会に帰ったときにでも皆に作ってあげようと食べながら思ってしまう。

 彼らが食事をワイワイと楽しんでいると、ミツを追ってきたのかディオ、リナ、ガランドが店内に入ってきた。

 流石のゲイツも驚いたのか、酒の入ったコップを落としそうになるほどだ。

 彼らは同席するぜと言葉を入れれば、近くにあった椅子を引っ張り一緒に飲みだす。

 彼らの仲間も共に来たのか、スカスカだった席は満席近く、店にいた家族全員総動と接客をする。

 忙しくして悪いなとディオが料理を運んできたキッドに言葉をかけるが、店が儲かって文句を言う奴は俺が蹴り上げますよと言葉を返す。

 その威勢が気に入ったのか、ディオはキッドへとチップを握らせ背中を叩く。

 ならもっと働かせてやると、彼の言葉が周囲を更に盛り上げた。

 この事がきっかけと、昼時でも客入りが少なかったこの店。

 店の彼らは知らないだろうが、アルミナランクとシルバーランクの数名が出入りしたことが噂となり、冒険者の中では特に有名店となりお客が増えたそうな。

 ちなみに彼らが飲み食いした量も多く、たったその一回の昼食だけでもその店の一月分に軽く届いてしまう程の売上を更新したそうだ。

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