第217話 新たなシルバーランク冒険者

 ギルドマスターの部屋に集められた数名の冒険者達。

 彼らはチームのリーダーの代表として部屋に招き入れられている。

 ランクは皆バラバラでグラスが大半だが、シルバーの猛者も居る。

 

「いや〜、突然呼び出しちゃってごめんね。少しあんた達にお願いがあって」


 ギルドマスターのエヴァは軽口を叩きつつ、目の前の椅子に座る冒険者達へとそんな言葉をかける。

 その中、鬼族でありシルバーの冒険者が一番と声を出す。


「まったくです。ギルドに入ってきた途端部屋に来いだなんて、ホントいきなりでしたよ。これがエヴァ様の頼みじゃなかったら早々と街を出てましたね」


「ははっ……。すみません、ガランドさん」


 ガランドと名を呼ばれた冒険者。

 鬼族の中で数人と以内シルバーの冒険者の一人。

 特徴としてはアフロの様なチリ毛、肌は赤く、鎧も赤。

 これが鎧ではなく、虎柄パンツでも履いていればまさに赤鬼だろうが。

 ボリンの謝罪にガランドは手を差し出し肩を軽く上げる。

 彼は見た目によらず礼儀正しく、敬うものには言葉遣いを選んでいる。


「別に呼ぶのは良いけど、いつまでもこんなむさいおっさんの集団の中に居たくはないんだけど。ってか酒臭い! 誰か飲んでるでしょ!?」


「リナ、キーキーと五月蝿え。お前の甲高い声が頭に響くんだよ」


「酒の臭いはディオ、アンタ!? って言うか酔っぱらいが来てんじゃないわよ!」


「だから五月蝿えって言ってんだろうが!」


 男女の言い争いに周りの冒険者も嫌な顔を作るが口を出そうとはしない。

 何故なら、その二人もシルバーの冒険者であり、彼らよりも実力が遥か上なのだから。

 女性の方はリナ。

 最上級魔法の使い手であり、指折りに入る程の魔術士である。

 大きな帽子から出ているオレンジ色の髪の毛が彼女の特徴である。

 他に特徴と言えば、彼女は特別な性癖をお持ちの女性である。

 それは後に分かることなので、後にしよう。


 男性の方はディオメデス。

 疾風と呼ばれる彼は見た目によらず剣聖並の実力者。

 若い頃のゼクスに引きは取らず、黙っていれば容姿も良いので見た目はいい男だ。

 しかし、口を開けばだらしない本性が表に出るため、女運は全く無い。

 酒とギャンブルが一番の彼だが、シルバーになる程の実力が彼のダメさ加減を目くらましにもしていた。


 この場に居るシルバーの冒険者はこの三人だけ。

 残りはゲイツと同じくグラスの冒険者だけだ。

 彼らはモブキャラなので説明は省かせてもらう。

 

「ねぇ、ギルドマスター。それで、私達も含め、これ程に冒険者を集めた理由を話してくれてもいいんじゃない?」


 リナの言葉に、エヴァは集めた冒険者を一度見渡す。

 そして、ゆっくりと自身の焦る気持ちを抑えつつ、急ぎ本日集めた理由を話し出す。


「そうね。理由としては今日シルバーの冒険者になる予定の奴が来るのが理由かしら」


「ほー……。我々と同じシルバーですか……」


「「……」」


 ガランドはエヴァの言葉に興味をしめし、自身の思い当たりそうな人物を思い浮かべる。

 リナとディオは周囲を見渡し、取り敢えずこの場に居るグラスの冒険者が該当者ではないことを確認。


「そうそう。それで突然で悪いけど、そいつの実力を確かめる為にも、あんた達の力を借りたいなーと。あっ、勿論お礼はするわよ」


「まぁ、それぐらいでしたら……」


「エヴァさん、その人物って誰ですか? この場に居る者ではなさそうですが」


「もう直ぐ来るんじゃない? 細かい時間は指定してなかったけど、お昼前には来てくれとは言ってるから。それと私も昨日初めて顔を見たけど、見た目に騙されないようにね。油断したらこの場の全員がのされるかもしれないから」


 エヴァのさらりと告げたその言葉に、一瞬その場の者達は何を言われたのか分からなかった。

 

「……えっ?」


「いやいや、ギルマス、流石にそいつを過大評価し過ぎだし、俺達を莫迦にしないでくれよ」


「うむ……。そやつと同じ意見は癪だが、エヴァ様、この場に居る者たちは冒険者として優れたものばかり。この場におらぬ仲間たちも実力があるのは確か。それを理解してのその言葉でしょうか……」


 ガランドは眉間にシワを少し寄せ、自身だけではなく、この場にいない仲間達の力量を彼女に軽く思われる発言に不快に思う。


「まー、私もこんな事言いたくないんだけどね……。そうね……。ねぇ、ガランド、貴方確か北方領土にて野良の竜と出くわして戦ったわよね?」


「ええ」


「まじかよ、おっさん!」


「誰がおっさんだ!?」


 ガランドはディオの言葉にぐわっと表情を怒りと変える。 


 驚いたのはディオだけではなく、周りに居るグラスの冒険者。

 そしてガランドの隣に座るリナも眉尻を上げている。


「はいはい。それでその竜ってどれくらいの大きさで、討伐には幾日かかったかしら?」


「むっ……。あれは馬車程の大きさはあったであろうか。貴族の護衛を含めた任務中、守りを優先とした戦いゆえ被害も出してしまった」


「あー、そりゃ仕方ねえな。ギャーギャー五月蝿く騒ぐ奴のおもりしながら竜と戦えとか俺でも難しいぜ」


「守るのがそれじゃね……」


「その者を守る為に護衛を残し、我々は竜の討伐に向かった。近くに小さくとも村があったからな。放っておく訳にもいくまいと我々だけで切り込んだのだ。また被害も出してしまったが、4日目にて相手が疲弊したところを討ち取りました」


「うん。悪いわね、嫌な記憶を話させちゃって」


「いえ……。それで、その話が何か?」


「ええ。取り敢えずシルバーになる予定の冒険者は竜をも倒す実力者って事だけを伝えておくわ」


「「「!?」」」


「ほぉ……。中々の強者のようですな」


「へぇ、そりゃ楽しみじゃないか」


「倒したと言っても野良でしょ? 罠や数で押して倒したんでしょうけど、ガランドの話を聞くとその候補者も実力は確かみたいね」


 グラスの冒険者達は驚くが、シルバーの三人はそれを興味を示させる為の話と受け取ったようだ。

 そりゃ誰も竜の討伐を一人と言う想像はつかないのは当たり前。

 エヴァは三人の反応を見た後、机の下に隠していたヒュドラの鱗を出し、皆を驚かせようかとその時だった。

 部屋の扉がノック音を出し、皆の視線はそちらへと向けられる。


 ギルドの職員がミツが来た事を伝えると、エヴァは通す事を促す。

 シルバーとなる者がどのような者なのか。

 緊迫とした部屋の中、コツコツと足音が近づく。


「失礼します」


 部屋に入ってきたミツの姿を見て皆は一瞬固まるが、後ろに続いたゲイツが顔を出せば皆の視線はミツから直ぐに外され、ゲイツへと集中していた。

 恐らく皆はミツをゲイツの仲間、若しくは小間使と勘違いしてるのだろう。

 グラスの冒険者の中にはゲイツを知る者が居たのか、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

 部屋に入室すると、シルバーの冒険者達はゲイツを品定めと言わんばかりに上から下を見る。


「改めて来てもらって悪いわね。先に紹介しておくわ。こっちがディオメデス、対面に座るのがガランド、その隣に座るのがリナよ。この三人はシルバーの冒険者で……」


 エヴァは長テーブルに座る面々を紹介していく。

 ミツとゲイツが自身も紹介と言葉を出す。


「セレナーデ王国、ギルド本部ギルド長、エヴァ様。本日はお時間を頂きありがとうございます。皆様、初めまして。ご挨拶させて頂きます。自分はミツと申します。ここより南下した街、ライアングルの街にてグラスランク冒険者をしている者です。本日昇格試験、よろしくお願いします」


「「「!?」」」


「えー……。マジなの?」


 ミツの言葉に視線が集まる。

 彼が見せたグラスランク冒険者カードがキラキラと光を反射させた。

 後ろに居るゲイツもミツがグラスになっていた事を知らなかったが、周りの人と比べたら、彼の表情はさもありなんと直ぐに心を落ち着かせていた。


「はっ!? ギルマス、まさか今日の試験ってあの子供がするのか!?」


「驚いた……後ろに居る人かと思ったわ」


「フムッ……。エヴァ様、我々は見届け人として呼ばれた訳ではない様ですが……ご説明をよろしいですか?」


 エヴァはクックックッとまるで眼鏡をかけた黄色いカエルの様な笑い声を出し、周囲の驚きを楽しんでいる。

 代わりにボリンが説明を入れた。

 しかし、その内容はミツがアルミナランクになる程の実力がある事を隠しての説明。

 取り敢えず先ずはグラスのミツの実力を判断するためと、この場に居る他のグラス冒険者を相手と模擬戦をさせるそうだ。

 最初こそ彼らはミツと本当に戦うのかと疑問的な質問もされたが、エヴァは戦えば分かると早々と闘技場の方へと場を変えることになった。

 因みにゲイツに関してはミツの仲間だと思われているので彼との戦闘はしない。

 いや、ゲイツ本人に参戦するかと問えば、彼はミツの力の一部を知っているだけに、ハッキリとこう言うだろう。


 断る!


 久々のシルバーランク冒険者がでるかもしれない。

 その話を耳にした人々。

 ギルドにいた冒険者達が自身も見ようと闘技場の観戦席は多くの野次馬が集まる。

 円状に作られた闘技場は場外など無い。

 そこの中央に立つ一人の少年、それと24名の冒険者達。


「おいおい、ガキ一人に何だこりゃ?」


「いくらシルバーランクの昇格試験とは言え、これじゃガキはなぶり殺しになるぜ」


「エヴァ様も悪趣味な性格してるな……」


「これより、冒険者ミツ殿のシルバーランク昇格試験を行う! 条件はただ一つ! この場に居る同レベルのグラスランク冒険者全員倒す事、以上!」


 ここでランクアップに関して話を入れよう。

 新人であるウッドランクからブロンズランクアップになる為には、最低30回の採取依頼や街の清掃依頼をこなさなければならない。

 これはギルドへの信頼を確実にする為も含めているが、依頼に対しての責任感を背負わせるためである。

 ミツとプルンはそれを省いているが、それは今はスルーして欲しい。

 次にブロンズランクからアイアンランクへ。

 この場合は冒険者としての実力、つまりは力量を確かめる必要がある。

 採取依頼ではなく、モンスターを確実に討伐できる実力者こそアイアンへと昇格できるのだ。

 次にアイアンランクからグラスランクへ。

 これは高ランクのモンスターの討伐の実力も必要だが、もっと必要なのが他者を導く指導力が無ければ昇格はできない。

 未来に生きる若手冒険者を死なせない為には、自身の経験などをしっかりと教える指導者でなければならないのだ。

 間違った指導者では、教えを受けた若手は誤った判断に自身だけではなく、他者を死に導いてしまう。

 そしてグラスからシルバーへ。

 今までの経験を活かし、シルバーは個人の力が一番に必要とされている。

 それは特化した力を持つ者が一人でもそのチームにいれば、モンスターを逃がすことなく討伐できるからだ。

 信頼、経験、知恵、そして力。

 その四つ全て揃ってのシルバーランクであり、全ての冒険者が目指し憧れる存在なのだ。

 アルミナランクに関しては伝説的なので、後に話そう。


 グラスからシルバーランクには、その者の力を見せることが分かりやすい。

 だからと言って討伐したモンスターを見せれば良いと言う訳ではない。

 今回はチームで戦うのではなく、個人でその力をギルドマスターに示さなければならない。

 手っ取り早いのが同等のグラスランク冒険者と戦わせる。

 これがシルバーランクへの扉なのだ。

 一見集団リンチに見えるだろうが、シルバーになる程の実力者ならば、たかだか数十の冒険者を相手に負けていては、その者は尻を蹴られ、出直してこいとギルドから追い出されるだけだ。


 ミツの前に揃ったグラスランク冒険者の面々。

 先程部屋に居た者以外にも、彼らの仲間のグラス冒険者が共に戦うことになる。

 因みにこれはミツに告げられているが、参加する者の参加費用はミツ本人が払わなければならない。

 それが試験料となり、更には怪我をさせた相手には治療費も上乗せとなる。

 ゼクスの時は相手に怪我をさせた人数も多かったので、金貨100枚を超える大出費となってしまっている。

 まぁ、シルバーになれば金貨100枚などは依頼を受ければ簡単に取り戻せる金額でもある。

 しかし、それは昇格すればの話。

 負けてしまえば金だけを失う事になる。

 シルバーの冒険者が少ないのは、この制度のせいかもしれない。

 なんせ下手をしたら100人集まったら100人分の参加費と治療費を払わなければならないのだから。 


「おい、本当に良いのかよ……。相手は一人だぜ?」


「止む終えんだろう」


 相手が子供に見えるだけに躊躇いを少し出す面々。

 しかしそこはグラス程の冒険者達。

 相手はそれ程野実力者と腹をくくり、自身がやられてはならんと各自模擬戦用の武器を構える。

 流石に殺す訳ではないが、相手の戦意を喪失させなければならない。

 これが逆にイキった野郎ならば、彼らも手に持つ武器を躊躇いなどせずに振り下ろすだろうが。

 

 ミツも模擬刀の短剣を二本手に持ち、身構える。

 スキルや魔法の使用はokされているが、バフのスキルと魔法の必要はないとユイシスから告げられている

 彼は純粋なステータスの力のみで今回戦うことを決めていた。

 と言っても目の前のグラス冒険者とミツのステータスでは既に10倍以上に離れているのでユイシスの判断は間違いないのだ。

 

「なぁ、ガランドさんよ、あのガキがどれくらい持つか賭けねえか?」


「……」


「止めなさいよそんな悪趣味。あの子が可哀想じゃない」


「へっ! あーあ、ギルマスの命令だから居てやってんのに、賭けの一つもできずかよ。つまんねえなー」


「本当につまらん事なら良いがな……」


 リナとディオは気づいていなかった。

 ミツを見た瞬間、ガランドは背筋に悪寒を感じる気持ちに襲われたことを。

 それは偶然なのか。

 いや、彼は二人と違い鬼族である。

 鬼族や獣族は戦闘民族である為に強者には敏感に反応してしまう。

 しかし、それは当てにならない女の勘レベルの物。

 それでもガランドはモンスターとの戦闘時にそれを感じればその戦闘は回避してきた。

 だからこそ危機を回避し、今迄上手く生きながらえてきたのだから。


「それでは、始め!」


 エヴァの声が闘技場に響き渡る。

 一番手と、ひときは背の高い男が前にいる冒険者をかき分け模擬刀片手に前に出る。

 

「まったく、ギルドマスターも本当うめぇ話くれるぜ。おいガキ! 俺は信じちゃいねえが、お前も同じグラスである以上はこっちは本気で行くぞ」


「はい。先輩方の胸を借りさせていただきます


「上等だ!」


 男の言葉に互いに駆け出す二人。

 一気に勝負を終わらせるつもりだったか、男は模擬武器となる棍棒を大きく振り上げ、両手で握り振り落とす。

 ドカンッと地面を叩く音が響くと思いきや、ドカッと何かを殴る鈍い音が耳に聞こえた瞬間、冒険者達の頭上を先程の男が大きく飛んでいく。

 それを視線で見送り、地面に倒れる男は先程の威勢は何処へやら。

 胸の鎧は大きくへしゃげ、口から泡を吹いて気絶してしまっている。 

 まさかと驚く他のグラス冒険者と観戦している面々。

 

「「「!?」」」


 特にその動きを見ていたシルバーの冒険者の三人は、これはただの見世物ではないとミツの戦いに目の色を変える。


「次、行きます」


 その言葉に直ぐに冒険者達は握る武器の力を入れ構えを取る。

 だが視線を戻した瞬間、体に走る重い衝撃。

 握っていた手に力が入らない。

 魔法を唱えようとするが口のろれつが回らない。 

 バタバタと意味も分からないままに倒れていく冒険者達。

 それを観戦する人々はもっと分からないだろう。

 見た目は成人もしてなさそうな子供冒険者の動きではないと。

 例えば武器を構え、視線を変えた冒険者がミツの方角を見たとする。

 しかし、彼はその視線上に姿を入れる前と次の動きをしている。

 上から見ると滑稽に見えるかもしれないが、戦う相手としては混乱するだろう。

 隣に倒れていく他の冒険者を見た時には、反対側からも人が倒れ、軽いうめき声が聞こえるのだから。

 左、いや右だと、後ろからは彼の場所を伝える冒険者も居るが前に立つ奴らの反応が遅すぎる。

 いや、実はミツの居場所を指示している人ですら、彼の居場所を教えるのがワンテンポ遅れているのだ。

 彼は〈残像〉このスキルを使用しながらも戦っている。

 ステータスの素早さの数値も高い彼にとっては、残像の幻影をその場に残す事は効果を増している。

 姿を捉えたと冒険者の数名が模擬刀を振るうが、それは残像だ。

 一人、一人と確実に倒していく彼の姿は、正に止まらない連攻。

 ミツは模擬戦を相手としたグラス冒険者32名を、自身は無傷のまま全員を倒してしまった。

 地面に顔を押し付けうめき声を上げる者や、ダメージは無いと起き上がろうとするが全身が麻痺状態と動けない者様々。

 

「そこまで! 勝敗は決したわ! この戦いの結果にて、グラスランク冒険者ミツの、シルバーランク昇格を認める!」


 エヴァの声が静寂が満ちる闘技場に響き渡る。

 彼の戦いを目にした者の中には、ディオのように賭けをしていた奴も居たのだろう。

 教者と言われた冒険者、何十人と倒れるその光景は唖然と見るしかできない。

 何故なら、その光景を作り出したのが一人だけその場で立つ少年なのだから。

 ゲイツは内心、心からこの戦闘に参加しなくて良かったと思っていた。

 確実な金が手に入るとしても、そのリスクが大きすぎる。

 僅かな金を得たとしても、今倒れた連中は知らぬものからしたら少年程の子供に手も出せずに負けたと陰口を言われるかもしれない。

 だがそれよりも、その一手も振ることもできずに地面に倒れたというグラス冒険者としてのプライドの問題もあった。

 怪我人は少なそうだが、ミツが支払う金額はゼクスと同じ金貨100枚とは言わないかもしれない。 

 何故ならグラス冒険者一人に対して、金貨5枚の支払い義務が彼には課せられてしまう。

 今回32名の冒険者を相手にする事になったので、彼は金貨160枚を払わないと行けないのだ。

 と言っても、彼はフロールス家に料理のレシピを売ったり、今までの討伐したモンスターの素材代もある。

 更には今もライアングルの街の冒険者ギルドに定期的に竜の買い取りを出しているので、彼に金銭面での心配は何もない。

  

「シルバーランクだ! シルバーの冒険者が新たに出たぞ!」


「凄え、見た目子供だが、めっちゃ強えぞ!」


 新たなシルバーランク冒険者が出た。

 その言葉に観戦していた冒険者達がミツへと歓喜と拍手を送る。

 

「まじかよ……。あんなガキに……あんな力が……」


「フムッ……。力は本物か……」


「まいったわねー。あんな子がシルバーに来ちゃうのか……」


 ディオ、ガランド、リナも先程の戦いを見せられては、彼がシルバーになる事を認めずには居られないだろう。

 しかし、闘技場の賑やかなムードも、エヴァの言葉でまたその場は静寂と満ちる。


「先ずはおめでとう。今この時を持って君はシルバーの冒険者よ」


「ありがとうございます!」


「うん。それでは続けて、今シルバーランクに昇格した冒険者ミツの、アルミナランク昇格試験を始めるわよ!」


「「「「はっ?」」」」


 それは正にその場にいた全員が心から思った言葉そのままだった。


「お、おい……。今、ギルドマスター、何って言ったんだ? 俺の聞き違いか? アルミナって聞こえたぞ……」


「お、俺もだ……」


 ざわざわとした言葉が次第とガヤガヤと騒がしくなる。

 そこに一喝とエヴァの言葉が彼らを黙らせる。


「静まれ!」


「「「……」」」


「皆が驚くのも仕方ないわ。アルミナランク冒険者なんて居たのはもうズッと昔……。でもね、それはそれ程の人物が今迄居なかっただけ」


「エヴァ様、それではあの少年がそれ程の実力者と言っているような物。しかもです、いきなりシルバーの冒険者になりたての人物が、その……。物語で出てくるようなアルミナランクは流石に」


「それによ、アルミナランクの昇格試験って何をするんだっての」


「……えっ。まさかとは思うけど」


 ガランドはエヴァの言葉に疑問を持ち、ディオは訝しげな視線を向ける。

 そしてリナはまさかと思ったのか、自身の近くに居るディオとガランドへと指を指す。

 エヴァはリナの考えが当たりと、彼女の指先は、あんたもよとリナを指していた。

 

「アルミナランクの昇格試験に関して、文面が残されていたわ。その中に、勇敢たるアルミナになる為には二つの力を示す事とあったの」


「ギルドマスター、その試験ってのはなんですか!?」

 

 観戦席から聞こえた冒険者の声。

 その質問に応えると、エヴァは先ずは一本指を突き立てる。


「一つ! 誰も倒せぬ脅威を倒し、幾万もの人々の未来を作る。これに関しては既に彼はクリアーしているわ。なんせ彼は一人で竜を倒す実力を持っているのだから」


「「「!!!」」」


「う、嘘だろ……。竜の討伐なんて軍隊が動くレベルだぞ……」


「ガランドさんやディオさん、リナさんでも倒せるだろうが、一人は流石に……」


「彼が竜を討伐した証もちゃんと私は受け取ったわ。それに関して疑うだけ無駄よ。そして二つ目……」


「二つ目はグラスからシルバーになるのと同じ……」


「えっ、つまりそれって……」


「これより、冒険者ミツ、ガランド、ディオ、リナの四人で戦ってもらうわ! 彼が三人に勝てれば良し! 力を示したその時、アルミナランクの昇格をギルドマスターとして認める!」


「「「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」」」


「シルバー同士の戦いだ! 他の冒険者を呼べ! こんな大勝負二度と見られねえぞ!」


 興奮湧き出す冒険者達。

 エヴァがパチンッと指を鳴らすと、ゴゴゴッと地面を揺らす地響きが起きる。

 慌てる者もいれば今から起きる事に冷静に対応するものと別れる。

 下がれ下がれと冒険者が声を出せば、室内だった闘技場の中心に、天井から光が差し込む。


「おおっ!」


 次第と光はミツの立つ場所まで届き、上からパラパラと砂埃が落ちてくる。

 この闘技場、外観は花の蕾の様な見た目だったが、今は花が開花したように大きく広がり、闘技場に陽の光が明るくてらしている。

 話を聞きつけたのか、冒険者ギルドにいた冒険者、そして多くのギルド職員がボリンの指示に従い配置につく。

 彼らは闘技場の周り、一定の距離に置かれた球体の場所へと移動。

 恐らくそれは魔導具だったのだろう。

 魔法と物理障壁をした時のように、キラッと光る透明な壁が展開されたのが見えた。

 花びらのように広がった天井は観客席にもなるのか、次々と入ってきた人達はその場へと移動。

 中には依頼を申し込みに来た一般人も居るのだろう。

 チラホラと防具など付けていない人も目に入る。

 そう言えばと思いだし、自身も今は黒鉄の鎧を付けていなかった事に気づくミツ。

 彼は朝食を食べた後、ゲイツとそのままギルドへと足を向けたので、今着ている服は、ディオンアコーで購入していた庶民服である。

 庶民服とは言え、リッコ達に自身に似合う服を選んで貰ったので、彼にとってもお気に入りの服になっている。

 しかし、うっかりするのもここ迄。

 次に対戦するのはゼクスやバーバリと同等のレベルの相手。

 防具無しで戦闘を行うのは、ゲームをクリアーした後、強さそのままで二週目をやる時だけだ。

 ミツが準備をしている間、ガランド、ディオの両名はエヴァに問いただす勢いに質問していた。


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