第215話 王都の冒険者ギルドへ

 ミツのトリップゲートを使用し、フロールス家から一気にセレナーデ王都に到着した事に唖然とするアベル達の面々。

 彼らはゲートの先の安全を確認後、目の前の王都へと馬車を走らせる。

 その際、アベルとカイン、二人の王子がミツを王城へと招く言葉をかける。

 

「王城にですか?」


「うむ。貴殿には幾度も命の危機を救われた。それは私だけではなく、他の貴族も同様に。これはこの場での礼の言葉だけでは済まされない事だけに、貴殿には是非とも王城に招待したい」


「なるほど……」


「勿論君の予定を済ませた後で構わないよ。我々も彼らに領地を分けるための話し合いなどしなければならないからね」


「そうですね。では、お邪魔させて頂きます」


「おう! そうか! ではその際は私が迎えに行こうではないか」


「えっ!? マトラスト様が態々ですか!? いや、そこ迄しなくても、誰か兵の一人でも向かわせてもらえば向かいますので……」


「構わん構わん。そんな些細な事を気にすることでもあるまい」


「さ、些細って……」


 その後アベルとカイン、それとモズモとマトラストが集まり真面目な表情を作り彼らは難しい話をし始めた。

 部外者のミツはその会話には入らず、少し離れた場所に他の貴族と談笑をしているダニエルの方へと足を向ける。

 歩き進む道中、一騎の兵がアベルたちの方角へと走り向けていく。


「失礼します! 先程セレナーデの王城と、こちらが出した早馬との連絡が取れました。貴族馬車の受け入れは問題なく可能との事。護衛はいつも通り城外での停泊との連絡です」


「うむ。流石に護衛までも城に入れる訳にも行かぬからな。それは理解した。では城へと戻る! 領主達は自身の馬車に乗り、護衛を城外の宿泊場へと回せ。巫女姫、貴女も本日はそのまま自身の神殿へと戻るが良い。後日城からの連絡を回すゆえ、その時はベンザの事含め席に付いてもらう事となるので頼んだ」


「「はい。その時には必ずその席に……。またこの度は共にフロールス家へと同行させていただきましたカイン様のご厚意。改めて感謝を送らせていただきます。」」


「よい。礼ならマトラストに伝えるが良い」


「ハッハハハ。巫女姫もこの度は我々と同じ驚きの数々を経験しましたな。貴女もこれか忙しくなる身ゆえ、休まれる時は無理をしても休まれよ」


「「マトラスト様のお心遣い、感謝いたします」」


 キビキビと指示を出すカイン。

 アベルもそれに付け足しモズモへと指示を送っている。

 王族が慌ただしく動き出した事に気づいたのか、ダニエル達は会話を止め、彼らもこちらに向かってきた先程の兵の伝令を受け動き出す。


「ミツ君、今後君は何処で寝泊まりをする予定だね? 君なら教会に戻って寝泊まりする事も可能だが、私としては、できれば王都にいる間は王都内での寝泊まりを頼みたいのだが……」


「はい、ダニエル様。取り敢えず自分はゲイツさん、あー、えーっと。ディマス子爵様の護衛の人達と同じ宿に泊まりますので、連絡は直ぐにできると思います」


「そうか、ディマス殿の護衛となら問題もあるまい。君はディマス殿とも知り合いだったんだね」


「いえ、ディマス様の娘さんのリティーナ様です。あの方とは試しの洞窟で共に4階と5階を冒険したことがあります」


「そうか……。(思わぬ繋がりがあったものだ……)分かった。では何かあればそちらの宿へと私の私兵を送るとする」


「はい。ダニエル様、その時はよろしくお願いします」


 馬車に乗り込み、窓から少し顔を出しては軽く手を振ってくれるダニエルを見送るミツ。

 ダニエルの馬車に続いて、次々とフロールス家の私兵の皆さんも進み出す。

 長旅をした訳ではないので私兵の皆の足取りは軽く、殆どの私兵さんが進む道中に、ありがとうございます、助かりました等の感謝の言葉をミツへと向けてくれた。

 街に向かって歩く道中、ミツはゲイツの乗る馬ど同速で進み言葉をかける。


「と言う事でゲイツさん、宿まで同行させてもらっても良いですか?」


「フンッ。一人増えた所で何が変わろうか。こちらとしてもお前と……。いや、貴殿と共に酒を酌み交わし、話がしたいと思ったところだ」


「お酒は別に構いませんが、お仕事は良いんですか?」


 ミツは前をゆっくりと走るリティーナが乗る馬車の方へとちらりと視線を向ける。


「お嬢達が王城内に入った時点で我々の仕事は一先ずそこ迄。後は帰るまでの護衛だな。それ迄は我々は王都で自由の身になるから、王都の冒険者ギルドでお嬢達が帰る日数を考えて小口の依頼を受けるだろう」


「王都の宿も安くねえからな。旦那様からの気持ちてきな金もあるとは言え、王都で過ごそうとするならこれが結構カツカツなんだわ」


 ゲイツの後ろを走る前衛の冒険者が言葉を添えてくれた。

 確かに行きと帰りの護衛費は出しても、護衛兵の滞在碑まで出しては貴族様も金がかかる事だろう。

 ダニエルの私兵の様に、完全に屋敷で雇用している兵ならば城の中で生活ができるそうだが、ゲイツ達は雇われの護衛兵。

 この違いだけでも扱いが違うのだからゲイツ達は大変だ。

 日本で言う社員と派遣の扱いの違いだろうか。


「まぁ、今回は貴殿のおかげで随分と旅費が浮いたので、我々も無理した依頼を受ける事はないだろう」


「なるほど。ってか、なんでさっきからゲイツさんは自分の事を貴殿呼びしてるんですか?」


「んっ……」


 口ごもるゲイツの代わりと、前衛の冒険者が会話に入ってきた。


「ゲイツの旦那はお嬢の専属になる為に今は言葉の訓練中なんですよ。旦那自体の言葉遣いを学べとお嬢からのお達しです。俺らもお嬢から言われてますが、俺達よりも旦那の方がお嬢の側にいる事が多いので特に注意されてるんですよ」


「あー、そう言う事でしたか」


「この遠出にて無事に戻り、問題が無ければ俺はお嬢の私兵となる。その時は冒険者としてのゲイツは終わりだ」


「フロールス家のゼクスさんと同じみたいになるんですね」


「ああ、そうだ。フンッ、お前も早くランクを上げ、自身の主と認められる者に身を捧げるが良い」


「あー、そう言えば自分も冒険者ギルドに予定があるんでした」


「そうか? ならば俺達と共に宿を取った後にギルドへと足を向けるとしよう」


「はい」


 そんな話をゲイツ達としつつ、進まない道を待つことに。

 そりゃ1000人もの人が一気に王都内に入る為の場所に集まれば、入り口も混雑して馬車も止まりますわ。

 いや、アベル達は顔パスと既に王都内に入り、王城へと向かっているのだが、止められているのは貴族達の荷馬車が原因である。

 なんせ予定ではここまでの距離を二週間近くかけて来る予定だったので、皆は大量の食料などを王都に持ち込むはめとなったのだ。 

 普通なら一つの馬車に食料樽と水樽が数個調べる程度のはずが、一つの馬車に20個近くの樽を調べなければならなくなったのだ。

 途中の街で空っぽの樽は安値で捨てていく予定が、それをまるまる全部持ち込むことになり、尚且つ貴族達の私兵や護衛兵の荷物も大量持ち込みである。

 中身をチェックするのも時間がかかり、ミツがセレナーデ王国の王都外壁を前にするのに4時間もかかってしまった。

 その間は暇と、リティーナとディマス含め、近くの貴族達皆と青空の下お茶を楽しむ事になった。

 待ってる時間は暇だろうと、各貴族は自身の専属の楽師に演奏させたり、メイドを使いお茶の配膳をしたりとちょっとしたお祭り感じになっていた。そのお陰で、待ち時間は別に退屈はしなかったから良かった。


「大きな外壁ですね……。ここからだと、もう壁の向こうは全く見えませんね」


「この外壁は竜の攻撃も凌ぐと言われている程に、強固な造りをしている……と言われている」


「ははっ、言われているだけで確信はないんですね」


「ああ。事実この外壁は一度も竜どころか、魔物の攻撃を受けたことがない」


「近くにモンスターが出ないからですか?」


「そうだ。このセレナーデ王都の外壁を中心とし、外側に何枚もの外壁が作られておる。そこを検問とし、魔物だけではなく、密入国者を止めておるのだ」


「へー、そんな壁があるんですね」


「フッ……。お前が居てはその外壁も、今回みたいに意味は全くなさぬがな」


 ゲイツのその言葉にミツはアハハと笑いをこぼすが、周囲の者は苦笑いである。


 ミツ達がセレナーデ王都へとゲートを繋げた同時刻。


「殿下! 殿下!」


 バタバタと通路を走る大臣はレオニスの部屋へと駆け込むように扉を開ける。

 

「殿下! 一大事にございます!」


「ぬあっ!」


「どっわっ!?」


 部屋の扉を守る兵を押しのけ、部屋に入った大臣の見た物は、鏡の前で素っ裸にポージングを決めたレオニスの姿だった。


「き、貴様! 部屋にノックも無しに入るとは何を考えておる!? 更に俺の日課の邪魔をするとは!」


「日課なのかよ! こ、コホン。失礼しました殿下。いえ、それどころではありません!」


「なんだ? いつも以上に顔が鬱陶しいぞ」


「ひでぇ! いや、殿下。一大事にございます」


「お前の崩れた顔以上に一大事な事が早々と起きるものなのか?」


「ひっで〜……ボロクソに言うやんこの人……」


 近くに置いてあったバスローブの様な服を羽織、レオニスは側にある椅子に座り、紅茶を口に含む。


「それで、改めて問うが何が一大事なのだ」


「はい、殿下。我が王都の南東側にございます、兵の訓練にも使っております広場にて、突如として光の扉が現れたと報告が来ました」


「ブっはっ! な、何っ!? それは誠確かか!?」


「はい。恐らくですが。その光見た者の中に、それは失われたロストスキルのトリップゲートの光に似た物と証言が回っております……」


「なっ! つ、つまり、そのトリップゲートを使ってアベル、若しくはカインが戻ってきたと言うのか!?」


「……はい。こちらから遠目ですがアベル様とカイン様の旗印が見えたので、ご帰還されたのはご二名でそれは間違いはないかと……」


「なーにー! なら、俺が態々あいつが帰ってくるであろう道中や関所に様々な罠を仕掛け」


「はい」


「あいつの帰路を遅らせては問題を起こそうとしたその策や!」


「はい」


「野党に見せかけた者を配備させ」


「はい」


「命は奪わずとも身ぐるみ全て奪い取られたところを俺の騎兵部隊があいつらを救うと言う算段は!」


「はい、全て無意味だったと……。 寧ろ関所を通ったと言う連絡が来ておりません。恐らくトリップゲートの使用者に魔力回復薬を与えて関所などを全てすっ飛ばしてきたのかと思われます」


「ガーッテム!」


「殿下、アベル様へのお怒りは一先ず置いといて、これからの策を遂行すべきかと」


「お前に言われなくとも分かっておるわ! おのれアベルめ……。おめおめとロストスキル使用者を連れてくるとは……。んっ? そう言えば数日ほど前に、ロストスキル使用者を調べる為にフロールス方面に誰かを送った様な気が……。大臣、その者はどうした?」


「あー、どうしたんでしょうかね?」


「おいおい、何を無責任な発言をするか」


「いえ、普通ならば城を出た後に直ぐにでも初手の報告が来るはずなんですが、その最初の報告も来ておらず……。恐らく野党に襲われたか、魔物に食われたか、消息が不明でございます」


「使えねーなー、おい!」


「いやはや、こんな事になるなら貸し出す馬も下馬を渡すべきでしたな。確かあの者が乗って行った馬は国一番と言われるほどの名馬にございました」


「クソッ! こうなったら次の作戦だ! 第13回、愚弟の手柄は敬愛たる兄の手柄である作戦の決行である!」


「うわー、クソだせえ……」


「んっ? 何か言ったか?」


「いえ! 直ぐにでもその策を打つべく取り掛かります!」


「うむ!」


 レオニスと大臣、二人の策略は動き出す。

 だが、その策略をアベルとカインに試す前と、彼らの前にはイレギュラーな人物がいる事を二人はまだ知らない。


 王都に入った後、態々一言告げたいのか、先に王都に入っていたルリが乗る白い馬車が止まっている。

 どうやらここから王宮神殿とは道が違うようだ。

 一先ずルリの乗る馬車とはここで別れることになった。

 

「それではミツ様、またお会いできますその日を楽しみにしております」


「はい、ルリ様。自分も同じ気持ちです」

 

 ルリはニコリと笑みを返した後、馬車はゆっくりと動き出す。

 彼女の乗る馬車は他の貴族や王族が乗る馬車とは違い、真っ白な馬車なだけに巫女であり、王宮神殿の神殿長の乗る馬車へと街の人々は頭を下げる。

 馬車に続く騎馬を見送った後、ミツの隣に立つ王宮騎士団の隊長格であるレイアがミツへと言葉をかける。

 

「それではミツ殿。僭越ながら私、レイアが貴方様の宿泊されます宿までの同行をお許し頂きたい」


「はい。と言っても、まだ決まってないので他の冒険者の人達に自分も付いていくだけですけどね。取り敢えずレイア様、よろしくお願いします」


 ミツがフッと横を向けば、ゲイツの部下の一人がミツを待つようにその場で馬を足踏みさせている。

 広い王都で逸れないようにとゲイツの指示なのだろう。

 既にゲイツの仲間たちにも〈マーキング〉のスキルを付けているので彼らが何処に居るのかは分かるのだが、人のご厚意は素直に受け取るとする。


「左様でございましたか。いえ、それでは案内も居るようですので急ぐ事はありませんね。僭越ながらミツ殿、良ければ乗られますか?」


 レイア自身は馬に乗り、街の中を移動をするが、ミツは徒歩だ。

 ゲイツの部下も馬の移動なのでその方が良いかもしれない。改めていうが、人のご厚意(女性の誘い)は素直に受け取るべきだな、うん。


「ありがとうございます。でもこのまま自分が乗ると馬が重いと思いますので。よいしょっと。これで身軽になったのでさっきよりかはましですかね」


「えっ……」


 ミツは今身に着けている黒鉄の鎧を脱ぎ、身を軽くしていく。

 胴体の鎧を外し、地面に置くとドシッと重い音を鳴らし少し馬を怯えさせたのか、数歩と馬は後退してしまった。

 彼は馬にごめんねと軽く言葉をかけた後、ガチャガチャと腰と足に身に着けた物全て取り外し、それを一つにまとめ、持ち上げた後にアイテムボックスにポイッと入れる。

 その光景にレイアは驚きの表情を見せる。

 それはミツが身に着けた鎧の重さにもだが、レイア自身を信じているのか、彼が身を守るための鎧を取り外したことに対してだった。

 彼女も騎士として戦いに幾度も経験した者であるゆえ、身を守る鎧の重要性を肌に感じている程だ。

 それは女性だからとか、男性とか関係なしに、身を相手に預けるという行為は相手を信頼していると表現しているようなもの。 

 レイアは目の前の少年に最初こそ警戒心や胸を凝視された事に嫌悪感を抱いてはいたが、それは最初の出会いなら誰でも警戒するし、突然の事に女性としての気持ちが先走った為だ。

 彼の戦いの時に現れた天使の降臨。

 そして教会の建築と様々な奇跡に内心彼に興味を示し始めている。

 勿論それは恋愛とかではなく、ただの好奇心である。


 まるで白馬の王子様に手を引かれたお姫様の様に、ミツはレイアの後ろに乗る。

 そして馬は蹄の音をパカポコと鳴らし、ゆっくりと動き出す。

 少し周囲からの注目を集めるが、ミツを馬に乗せているのは王宮騎士団の騎士である事は街の者なら直ぐに気づく事。

 誰も彼らに言葉をかける者など居なかった。


「凄い人の数ですね。王都って何人くらい住んでいるんですか?」


「そうですね……。詳しい数までは分かりませんが、恐らく10万〜20万人は住んでいると思いますよ」


「そ、そんな数の人がここで住めるんですか?」


「はい。数も多ければやはり様々な問題も出てきます。日々寝泊まりする場所もですが、一番はやはり食料ですね。その数となれば王都の強みは広大な農耕は欠かせません。おかげで庶民の者でも米やパンを口にすることができています。近くの川では毎季毎に様々な魚を取ることもできますよ」


「凄いですね。やはり王都の管理する場所なだけに農耕も広大なイメージが思いつきます。でも、川となればやはりそこからモンスターなどが入り込んでくるのでは?」


「極まれにありますが、川は橋をかけておりますので、橋の下は魚しか通れない程度の柵がしてあります。通り抜けたとしても魚と同じ程度の薄さしかない魔物しか侵入しません。それも兵ではなく、漁師でも簡単に倒せてしまう程弱い魔物です」


「へー、そんなモンスターが居るんですね」


「倒された魔物は、基本その漁師が食していると聞いております」


「魚のモンスターですからやはり食べれるんですね」


「はい。私も幼き頃に一度食した事はございますが、あれは好む人を選ぶ品かと……」


「あ〜。独特なんですね……」


「はい……。フフッ」


 その会話にミツとレイア、お互いに笑いを出す。王都に来る事が初めてな彼にはレイアの会話の内容は新鮮なものばかり。

 進む道中も沈黙になることもなく、談笑と会話は弾んでいた。

 街角を曲がった時、少し先にゲイツ達が馬から降りて話し合っている姿が見えた。

 どうやら彼らの前に建っている建物が宿なのだろう。

 大通りに面した宿を選んだ理由としては、連絡を回してくる馬などが問題なく来るためである。

 ゲイツの近くまで行き、ミツが話しかける。


「ゲイツさん、宿泊する宿はここですか?」


「ああ。部屋も十分にあるそうだ。俺と数名はここで泊まり、他は安値の宿へと場を変えている。貴殿はどうする?」


 ゲイツの仲間全員がこの場で寝泊まりする訳ではなさそうだ。

 宿を見た感じ、確かに安値の宿と比べたら2倍の料金はかかりそうだが、マトラストやダニエルの私兵が連絡を回すなら大通りに面した方が良いだろう。

 そう思うと寧ろここで良いと彼は判断する。


「自分もここにします。レイア様、よろしいですか?」


「はい。それでは神殿からの連絡はこちらに送らせていただきます」


「よろしくお願いします。それとここまで乗せていただき、ありがとうございました」


「いえ。この子も喜んでおりましたのでお気にせず。それではこれにて」


 レイアは馬から一度下りる。

 ミツへと頭を下げた後に神殿の方へと馬を走らせた。

 相手が神殿騎士と言うことで貴族の彼女へと、ゲイツ達も頭を下げ彼女を見送る。


 ミツもゲイツと同じ宿に部屋を取り、直ぐにゲイツ達と共に王都の冒険者ギルドへと足を向けることにした。

 少し距離もあるのだが、馬で行ったとしても預ける場所が無いという事で徒歩での移動だ。

 途中ゲイツの仲間と合流しつつ、大きな建物が目に入ってくる。


「ゲイツさん、あれがそうですか!?」


「ああ。あれが冒険者ギルド本部地だ」


「は〜。大きな建物ですね……」


 魔法があるこの世界だからこそできる建物だろうか。

 目の前に建つ建物、冒険者ギルドは大きな柱がいくつも立ち、大きく入り口を開けた構造をしている。

 表を見て思いつく建物と言えば、パルテノン神殿と言えば分かりやすいかもしれない。

 ギルドを出入りする冒険者の人の数、そして依頼を申し込むためだろうか商人と思える人も中に入っていく姿が見受けられる。

 ドキドキとした気分と、ミツはギルドの中へと足を踏み入れる。


 ギルド内は人は多い物の、第一印象としては役所と思える雰囲気を出している。

 様々なカウンターの窓口があり、それに並ぶ人の列。

 ギルド本部なだけに依頼も多いのか、壁一面が掲示板になっているようだ。

 ゲイツ達は知ってなんたるか、スタスタとそのまま掲示板の方へと歩いていってしまった。

 別にミツは依頼を受けに来た訳ではないのでカウンターの方へと足を進める。


「すみません」


「はい、何でしょう。冒険者登録でしょうか? でしたらこちらの方にご記入をお願いします」


 受付のカウンターにいた女性へと話しかけると、彼女はミツを冒険者希望者と勘違いしたのだろうか。

 突き出された申込書を彼はそっと返し、要件を伝える。


「あっ、いえ。登録ではなく、これをこちらギルド職員さんに渡せと、ライアングルの街の冒険者ギルドのネーザンさんからお預かりしておりまして」


「左様でしたか、失礼しました。はい、えーっと、ライアングル街のギルド長様からですね……。申し訳ございません、失礼ですが貴方は?」


「自分はミツです。グラスランク冒険者をしています」


「グラス……。ではギルドカードのご提示をお願いします……」


 カウンター嬢はグラスと言う言葉に、ミツへと疑いの視線を向ける。

 疑われるのも仕方ないと、ミツは胸元にしまっていたギルドカードを提示する。


「はい」


「!?」


「あの、信じてもらえましたか?」


「……失礼しました。ミツ様ですね。確かにこちらの方をお預かり致します。こちらは当ギルドマスター宛となりますので暫くお待ちください」


「はい」


 カウンター嬢は受け取った手紙を持ち、彼女が奥の部屋へと行くのを見送った後に彼はゲイツ達の居る方へと進む。

 

「ゲイツさん、何かありましたか?」


「いや、これと言って今はないな。どれも他の街への護衛兵任務ばかりで、王都内での仕事にしては殆どがブロンズかウッドが受けるものしか今はなさそうだ」


「旦那、良くてこれぐらいじゃないですかね? 店の護衛任務。これなら王都から出ることもありませんし、数日と食いつなげる程度は稼ぎもありましょう」


「ああ、そうだな。ミツ、お前は依頼を受ける暇もなかろう?」


「そうですね。依頼を受けるとしたらライアングルの方を受けますし、それに……」


「失礼します! お話中申し訳ございません。冒険者のミツ様、ギルドマスターのお部屋にご案内いたしますので、どうぞこちらに」

 

「あっ、はい。ゲイツさん、ちょっと行ってきます。長引きそうだと思ったら先に帰られても大丈夫ですので」


「ああ、承知した」

 

 カウンター嬢に恭しい態度と部屋の奥へと案内されるミツ。

 周囲の者は何事かと少し注目を彼に向けていた。


 ギルドマスターの部屋に続く道中、すれ違う職員からも注目もありながらも、一つの部屋の前にたどり着く。

 

「ギルドマスター、ミツ様をご案内いたしました」


「入りなさい」


 中から聞こえる声。

 カウンター嬢はその言葉を聞き、扉を開けミツを中へと招き入れる。

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