第209話 脱○○

※注意 

今回のお話は大変卑猥な描写が入っております。 

タグにも年齢制限を付けておりますのでご覧になられる際はご注意ください。

また今回の物語りで主人公に対する嫌悪感を感じる、またはイメージが崩れるかもしれません。

それでも今作の主人公、ミツの大人の階段を見守りください。



 街の中を一人歩くミツ。

 そこに声をかけたのは冒険者姿の三人の女性。 


「君、一人?」


「えっ? はい、今はそうですけど? 自分に何か」


 三人とも身長はミツよりも高く、顔は一応美人に入るがミツのタイプではない。

 三人はニヤニヤとした笑みを作り、女達はミツを囲むように話しかけてきた。


「そっかそっかー。君一人なんだね。なら私達と遊ばない?」


 彼女たちは獲物を見つけたと、いやらしくも舌なめずりをする。


「フフフッ……」


「丁度暇してたし、いいでしょ?」


 街なかで突然知らない人からの誘いの言葉。

 これはまさか……。


「えっ?(こ、これは詰まりは逆ナンと言うやつか! 日本ではナンパなんてする事もされた事も無いのに)」


 少し戸惑いを見せるミツに彼女達は不敵な笑みを浮かべつつ、馴れ馴れしくも肩に手を添えたり、少し強引な誘いを続ける。

 しかし、何だかその強引さに少し違和感を感じたミツは、目の前の女性達を鑑定。

 するとあらビックリ。

 彼女達は冒険者ではあるが、窃盗などの余罪も持ち合わせた危険人物だった。

 鑑定の詳細を見て驚いた。

 恐らく自己防衛の為とシャロット、若しくはユイシスの計らいなのだろう。

 彼女達の起こしてきた罪がつらつらと表示されている。

 冒険者としてはアイアンと彼女達もプロの冒険者ではあるが、詳細には男を色香に騙し、金品などの盗みを行っている。

 まぁ、男の方も恐らくそれを分かっていて、目の前の女性達に夜の相手をしてもらっているとしたら口を出すこともないが、彼女達の今までの行いは悪趣味全開だ。

 明らかに成人も迎えていない男の子を金で誘い、騙し騙しとその子の純血(後の)を奪った後に目印としてナイフで傷をつけたり、生意気な男は身ぐるみ全て盗み、縄で縛った後に商人の荷物に入れて何処かの街に送ったり。

 アウト! うん、これは完全にアウトな人達だけに、ミツが無意識と路地の方に後ずさりしてしまうのは仕方ない。

 逃げられない様に、一定の距離を取ろうとしても近づく女性たち。


「あれあれ、どこ行くのかな?」


「あんたがいきなり声をかけるから、その子が怯えてるんだろう」


「ねぇ、君は私達みたいな女の人は怖いのかな? 一緒に来てくれたらとっても気持ちいい事で遊んであげるけどな〜」


 その人の人格や趣味を知らなければ、今の言葉に幾人もの男性がこの女性に付いて行ってしまうのだろうか。

 

「い、いえ、その……実は人と待ち合わせをしてますので。折角声をかけてくれたのにすみませんが」


「あれれ〜、そうなの? でもそんな事、私達と遊んだ後でも良いじゃん。ちょっとだけ、ホントちょっとだけ私達と遊ぼうよ」


「ですが……。(はぁ、仕方ない。時間を止めてさっさと立ち去るか……)」


 女性達のしつこい誘いに内心呆れていた彼は、地面に落ちている石を〈スティール〉を使用して手元に移動させる。

 彼女達の隙をつき、何処かに注意を引きつけようとしたその時、また別に二人の声が割って入ってきた。


「少し目を放しただけで別の女に鼻の下を伸ばしているのかい」


「もう、相変わらず君は節操がないわねー」


「あっ、えっ!?」


 ミツが女性に囲まれて身動きの取れない状態から動き出そうとしたその時、彼が振り向いたその場には二人の女性、ヘキドナとエクレアの姿があった。

 だが、ミツの疑問とする声は二人が居ることに驚いたわけではなく、今の二人の格好だ。

 先程まで着ていた冒険者としての防具ではなく、アラビアンナイトに出てくる踊り子が着ていそうな衣類。

 夜の街を歩くには下心のある男が寄ってきそうな大胆な服装だ。

 ヘキドナは黒をメインとし、口元が透き通って見えるフェイスベールを付けている。

 彼女の体を隠しているようで隠していない踊り子の様なその服。

 透けて見える物は下着ではないと思うが、目のやり場に困るのは間違いない。

 エクレアも水色の似たような服だが、ヘキドナよりも布面積が少なく、自身の身体を見せつけるモデル体型が視線を奪う。


「ああー? いきなり割って入って来て何?」


「フンッ。すまないがその坊やは先約があってね。悪いけどお前達は別を当たってもらうよ。坊や、待たせたようで変な奴に絡まれたようだね」

 

 大人びた色気を出した衣装を着るヘキドナ。

 困っている所にそんな男らしい台詞、助けに来た彼女に思わずミツの心がキュンと奪われそうになる。

 

「そ、そうですよ! 二人が先にお店を探してくれだなんて言うから」

 

「フンッ。悪かったね。それじゃ、行くとするかい」


 突然二人が現れた事も驚いたが、この場はヘキドナに合わせようとミツは話を合わせる。

 彼女は無理矢理に囲んでいた三人からミツを奪う様に彼の肩を引き寄せる。

 立場がまるで男女と逆だが、旗から見るとこれは私の者(男)だと見せつけるように自身の体に引き寄せその場を離れようとする。


「はあ〜。何言ってんだこの女は!? 私達が話してただろうが! 邪魔すんじゃないわよ!」


「あっ!」


 獲物を横から奪い取るようなヘキドナの行動に、冒険者の女性は頭に来たのだろう。

 彼女は武器も持たないヘキドナへと襲いかかるように飛びかかる。 

 危ないっと思い、咄嗟にミツがヘキドナを庇おうとするが、その心配は不要だった。

 フンッとヘキドナは襲いかかってきた女性の頬に平手打ちを打ち付けた後、直ぐに右手に拳を作り、女性の腹部へとドスッと音のする一撃を入れる。


「へぶっ!」


「なっ!? ヤロー! やりやがったね!」


「襲いかかったのはそっちが先、でしょ!」


「キャ! 痛い痛い、止めろ! 止めて! 止めて!!」


 仲間の一人がやられた事に直ぐに他の冒険者が加勢に入ろうとする。

 だが、ヘキドナしか見ていなかった彼女には、エクレアの俊敏な動きを見逃していた。

 突然の耳元に聞こえた声の後、頭に走る痛み。

 エクレアは女性冒険者の髪の毛をガッツリ掴み、足を崩す。自身の足で相手の崩した足を抑え、彼女が叫ぼうがその手を思いっきり引っ張り上げていた。 

 ブチブチと髪の毛が抜け、女性が痛みに泣きだしてしまう。


「エクレア、やり過ぎるんじゃないよ」


「リーダーには言われたくないですー」


 エクレアは渋々と手を離すと、掌から数本もの髪の毛をヒラヒラと落とす。


「さて、この男はあんた達には勿体無い男でね。悪いがまだ手を出すなら……殺すよ」


「ひっ! い、いくよ! 起きろ!」


「くそっ!」


「待って!」


 ヘキドナの睨みにビクリと体を震わせる女性冒険者。

 その言葉は一時的な脅しの言葉ではなく、本当に自身の命を刈り取る殺意が込められていた。

 女性冒険者も幾度もモンスターとの戦いで危機を経験したことがあるのだろう。

 今逃げなければ、ガチで殺されると言う本能が彼女達を走らせた。


「ふー。ヘキドナさん、エクレアさん、ありがとうございます」


「まったく。女相手だと坊やは本当にだらしないね。いつまで顔を赤くしてるんだい」


「ヘブッ!」


 ヘキドナは突然向けられた笑みに着恥ずくなったのか、ミツの頬を両手で抑える。


「ププッ。リーダー違いますよ。今の少年は私とリーダーの格好を見て顔を赤くしてるんですよ」


「フンッ……。坊やならあんな奴ら直ぐに巻けたろう」


「まぁ……。ははっ……」


 エクレアの言う通り、彼女たちが助太刀に来なくても彼は上手く逃げ切れたかもしれない。

 それでも彼は助けられた事は間違いないと素直に礼を伝えていた。

 だが、先程から彼の視線に入ってしまう二人の山々。それを主張する着ている衣装に彼の心臓はドキドキと高鳴りを鳴らしてしまう。


「ところでお二人のその格好は?」


「……」


「フフッ。少年には今まで私達は借りがあるからねー。それをちょっと一気に返済しようかと思って私とリーダーが一肌脱ぐことにしたのよ」


「えっ? 借りと言われても、自分もヘキドナさん達には色々してもらったつもりですけど」


「はぁ……。あんたがそう思っても私はそうは思ってないんだよ。まぁ、その……。あんたが迷惑なら……止めておくけど……」


 ヘキドナは最初こそ呆れたような口調で話していたが、次第と影を落とすように声のトーンを下げていく。

 いつも自信家な彼女が珍しく身を丸める様な態度にエクレアのフォローが入る。


「あ〜あ。少年は私達の気持ちは受け取ってくれないんだね〜。はぁー。君がそんな薄情な男だとは思わなかったなー」


「いえ、別に迷惑なんて思ってなんていませんよ。寧ろこちらこそありがたいです(まー、知らない人と一緒よりかはだいぶマシかな)」


「「!?」」


 誘いを直ぐに承諾するとは思っていなかったのだろう。

 二人は本当に良いのかと、少し驚き、戸惑いを見せてしまう。


「そ、そうかい……。あ、あんたがそう言うなら……ねぇ」


 ヘキドナは次第と頬を赤く染め、エクレアはニヤリと頬を上げる。


「フフフッ。随分とノリが良いわね。なに、本当に今のリーダーの格好に魅了されちゃったの?」


「まあ、ヘキドナさんも綺麗ですけど、エクレアさんも十分お綺麗ですよ」


「……。あ、アハハッ。ハハッ、もう、上手いこと言っちゃって。そ、それじゃーリーダー、行きますか!」


「ん。うん……」


「?」


 ヘキドナのいつもの態度と違うことに少し疑問とするミツだが、二人に両手を掴まれ、目的のお店へと足を向けることになった。

 因みに、三人の女性冒険者がミツに声をかけたのは偶然ではなく必然である。

 彼が冒険者ギルドにて多額の報奨金を受け取った所を見ていた彼女たちは、ミツが持つ金も狙いと、目ざとく近づいていたようだ。

 

 三人が街の中を歩き間もなく、夕暮れ時が近づきお店の灯りが目立つころ、ヘキドナとエクレア、二人の服装と似たような人がチラホラと街の中を歩くのが目に入る。

 勿論その人達も男性に腕組みをし、透けた衣に色っぽい雰囲気を出して歩いている。


「き、今日ってなんかのお祭りですかね?」


 まるで田舎者が東京都心に来た時の様な感想を口にする彼だが、周囲の人も次第と増えだす。

 化粧品独特の花の香り、店前に出した屋台などの酒や肉串の焼ける香りが鼻をくすぐりだす。


「夕飯には少し早いですかね。お二人は何か食べたい物でもありますか? あっ、折角ですからこの街の特産品とか無いですかね」


 両腕に伝わる二人の果実の柔らかさを誤魔化すように、彼は少し焦り口調に二人へと話題を振るが二人の返答はぎこちない物だった。


「そ、そうだね。まあ、坊やが腹を空かせてるなら先に飯にでも……」


「リーダー、もう付きましたよ」


「そうかい……」


「ここって……? お店? あの、これって何のお店何ですか?」


「フフッ。まぁまぁ、入った入った」


「えっ?」


 見た感じ、三人の前にある店は窓も少なく小さな四角い豆腐ハウス。

 しかし、周囲の客層がアラビアンの衣装を着た女性だらけ。

 中に入ると厳つい男性がミツを見て睨みを効かせるが、直ぐにエクレアが胸の谷間から金貨を取り出し、目の前に差し出すと男は道を開け地下へと進む階段を刺した。

 どうやらお店は地下で、入り口は小さな豆腐ハウスを作っている様だ。

 しかし、入場料が金貨一枚とはどんなお店なのか?

 石階段を下りると、次第と鼻をくすぐる甘い香りと独特の香り。そして……女性の甘い声が聞こえる。

 その声にビクリと体を反応させ、思わず足を止めるが後ろからエクレアが自身の胸を押し当て前へ進めさせる。

 

「あ、あの……エクレアさん、このお店は……」


「ははっ、流石に気づいたかな? ここはね……女性が男性を癒やすお店だよ」


「なっ!?」


 驚きの声を抑えつつ、彼は二人に連れられショーが行われる円卓の客席に座る。

 勿論個別の椅子ではなく、長椅子を丸くし、中央に丸いテーブルが置かれている状態で、エクレアとヘキドナがミツを挟んでいる。

 店の中も灯りはステージのみで、他の客の顔などは見えないようにしているようだ。

 〈獣の目〉を使用すれば暗いこの場も普通に見えるのだが、今使用すると見てはいけない物が視界に入りそうなのであえて止めておくことにした。

 席に座り、獣人の女性店員がテーブルに茶香炉のような物を置いた後、エクレアから飲み物を注文を受ける。

 茶香炉の香りは良く、お店に入った時に真っ先に鼻をくすぐった香りはこの匂いのようだ。

 注文を受けた獣人の女性の格好は更に大胆な格好。

 目のやり場に困ると、ミツは二人に何故ここに連れてきたのかを質問する。


「あ、あの。な、何でここのお店に来たんでしょうか……」


「なんでって。君の借りを返す事と、君が疲れてるようだから見て楽しめる場所を選んだんだよ。君にはどうも普通のお返しでは足りなさそうだからね。こう言う雰囲気のお店の方が喜ぶかなって思ったの」


「だからって、お二人がそんな格好しなくても……」


「だ、か、ら。男を癒やす場所だって言ったでしょ」


「はうっ! あ、あのエクレアさん、その、む、胸が……、その、当たってます」


「まぁまぁ、当ててんだから気にしない気にしない。ほら、飲み物も来たからゆっくり楽しんで、ねっ」


「はい……」


 注文した飲み物をエクレアが受け取り、ミツの前に差し出す。

 中は木苺のジュースにアルコールを混ぜて作ったカクテルの様な物が出される。

 二人がゴクリとそれを飲み、ミツも口に当てる。

 アルコールはそれ程強くないのか、ジュースと言われたら本当にジュースと思える品だ。

 

「ふう……。美味いね。坊やもこれなら飲めるだろう」


「はい、美味しいです」


「そうかい、気に入ってもらえて良かったよ」


 そんな些細な話をしていると、ショーが始まるのか、ステージが準備される。

 先程注文を受けた獣人の女性がステージに移動。彼女はステージ裏から持ってきた壁に立つと、男性がステージへと立つ。

 女性の格好も大胆な格好だが、男性が羽織っていたマントを脱ぐと、凄いとしか言えない格好をしていた。

 海外の海水浴場にてマッチョマンが着ているようなブーメランパンツ、それだけしか着ていないのだ。

 彼は準備されたナイフを手にし、壁際に立っていた女性に向けてナイフを投擲。

 見事女性が持っていたメロン程の野菜に命中。

 どうやらこう言ったショーを見せて、お客は楽しむお店なようだ。

 

「あれくらいなら私もできますよ」


「エクレアさんは剣以外も扱えるんですね」


「そうよ、いざと言う時を考えると、一つの武器だけじゃ危ないからね。って、君もそうでしょ」


「ははっ、そうですね」


 少し緊張が落ち着いてきたのか、エクレアとも笑いを入れた会話ができるようになってきた。

 ステージの方では男性が投げる標的がいつの間にか小さくなり、今ではミカン程度の小さな果物を女性が両手に持っていた。

 男性が二本のナイフを手に構えを取る。


(二本投げか。そんなスキルもあるのかね)


 そんな事を考えつつ、飲み物を口にしていたミツ。

 すると、男性がナイフを投げるとナイフの狙いは違うところへ。


「ブッ!」


 投げたナイフは獣人の女性が着ていた衣服を切ったのか、ステージ上で上と下の肌、両方をさらけ出す状態に思わずミツが吹き出してしまう。女性は咄嗟に身を縮め、急ぎ足に切られた衣服を手にステージを降りてしまう。

 そのハプニングに観客は大盛り上がり。

 良いぞ、ナイスだ、などの男性たちの声が聞こえる。

 勿論これは演出であり、男性が投げたナイフが当たる前と、壁の後ろに控えていた別のスタッフが女性の衣類の紐を解いたのだ。


「アハハハッ。良いわね、少年のその反応」


「まったく。ほら、こっちを向きな」


「だ、大丈夫ですから、ヘキドナさん、自分でできますから」


 ヘキドナに無理矢理に口元を拭かれると、彼女の山々がまた彼の近くでユッサユッサと動きだす。


「エクレア、もう一杯頼んでおくれ。ついでに私の分もね」


「はーい」


 エクレアがまた飲み物を注文を頼み、同じ様な飲み物が運ばれてくる。

 ステージ上では五人の女性ダンサーが音にあわせて踊りを披露。

 それを楽しみ時間を過ごしていく。

 暫くすると、ショーの雰囲気が次第と変わる。

 赤い布で松明を囲むと、ステージから照らされていた光がピンク色に変色。

 その明かりの元、一人の女性がステージ上で魅惑的に踊りだす。

 ミツは純粋にステージショーを楽しんでいたが、灯りが変わった瞬間、周りから聞こえてくる甘い声に心臓がドキドキと音を鳴らす。


 スキルを使用していないというのに聞こえてくるいやらしい声。

 すると彼の手を握る二人の女性。


「あ、あれ……。二人とも如何されたんですか……。あ、ああ、きっと飲みすぎたんですね」


「はぁ……坊や……」


「少年……」


 二人は先程よりも息遣いが激しく、体に汗をしたたらせている。

 ピッタリと体を密着させ、次第と二人の顔が近づいてきた。

 二人の態度が豹変した事に目を丸くしていると、それは二人だけではなく、周囲の雰囲気も変わったことを身に感じる。

 何かおかしい。そう思い原因を探れば結果はすぐに出た。

 自身の手を握る彼女達を鑑定すれば、状態がエッチな気分と表示されている。

 はっ? そんな疑問が彼の頭に浮かぶが、目に入った飲み物にも興奮促進効果がある事が表示されている事に今気づく。

 しかし、飲み物を飲んだだけでこうなるのか? いや、飲み物は興奮を促進させる効果があるだけで、根本ではない。

 他にも原因はあるはずと、ステージへと視線を向ければ違和感はそこだった。

 ステージ上で踊る踊り子の踊りは周囲の視線を釘付けにしているが、後に彼女の踊りを見た者は次々といやらしくも本性を顕にする。

 ダンサーの女性にも鑑定を向ければ、スキルの中に〈性本能の目覚め〉と見たことの無いスキルが目に入った。

 このスキルは文字通りその人の中に眠る性欲本能を出す催眠効果のあるスキルだ。

 ミツは状態異常を無効化にするスキルを常にパッシブスキルとして発動している為、こう言った暗示系は効果はない。


「あの、暑いなら離れたほうが涼しくなると思います……んっ!」


 左右を囲まれ、身動きできない彼の唇に、エクレアの指先が当たる。


「しー。これはね、私達ができる君への恩返しなの。だからね、君が無理に私達に感情を入れなくてもいいから」


「坊や、あんたが嫌なら勿論ここで止めておくよ」

 

 そう言いつつ、ヘキドナは自身の胸部を隠していた桃をむき出しにする。シュルリと音を鳴らし、身に着けていた衣類を脱いでしまう。 

 彼の目の前に突き出された桃は桃というよりお饅頭様の様に触れなくても伝わるその柔らかさ。

 先端のアクセントに点けられたおマメはどこを指しているのか、彼女の興奮とした気持ちそのままにカチコチと硬直しているのかもしれない。

 

「ヘキドナさん……」


 男性恐怖症である彼女は少し身体を震わせつつも、自身の肌を隠すこと無く今迄の想いを目の前の男に伝える。


「どう。君が見たがっていた物が目の前にあるんだよ。ここで断るなんて勇気を出したリーダーに悪いと思わないのかな? 勿論、私もね……。君は嫌かな……」

 

 いつの間にかエクレアもヘキドナ同様に上の布は脱ぎ捨て、彼女もヘキドナに負けない美しい実をミツの背中へと押し当てていた。

 両手に華ではなく、両手に果実を掴まされ、掌に伝わる二人の心臓の鼓動。

 状態異常無効化の脅威的なスキルを手にした彼だとしても、甘い香りとまじあった雰囲気、周囲から聞こえる女達の甘い声に彼は若者の興奮に理性をぶっ飛ばす。

 そして、今は本音を二人へと伝えることにした。


「嫌じゃ、無いです……」


「フンッ。素直だね……。坊や、こっちを向きな……。んっ……」


「んっ!?」


「じゃ、私も……」


 ピンク色に染まった空間に二人は今までの感謝の気持ちを伝えるためと、彼女達も彼へと気持ちをぶつける。

 ヘキドナからの熱い口づけの後、エクレアからも思いを受け取る。

 二人が一人の唇を奪い取る度に、口を通り抜ける甘い香りと濃厚な蜜の味。

 すると天上からカーテンが下ろされ、ミツ達がいる場所をすっぽりと隠し、周囲から見えなくしてしまった。

 周囲からの視線を消したことに、二人の女豹は本性を剥き出しにと、目の前の男を我先にと食べ始める。

 脱がされた衣服はその辺に置かれ、彼の主砲が幾度も連射砲と音を鳴らし、二人の女の中を熱く満たす。

 

 その後、一刻ほどその場で三人が時間を過ごした後、人混みを歩き宿へと戻ることに。

 汗はミツのスキルで洗浄し流される。

 着ていた衣服も着替え、いつもの服装に彼女たちは戻っている。

 

「「……」」


 顔を真っ赤にしたミツとヘキドナは口を閉ざすが、エクレアは溜まっていたモヤモヤがスッキリした気分と背筋を伸ばし、彼女は足取りも軽そうだ。


「いやー。二人とも、スッキリしましたねー」


「「なっ!?」」


 恍惚とした表情のエクレアの言葉に、ボッと顔から火が出る思いに襲われる二人。

 

「ば、莫迦! あんたは!」


「エクレアさん、お願いですから周囲に聞こえる声は抑えてください……」


「アハハハッ。ごめんごめん」


 エクレアは二人のリアクションに笑い飛ばし、ミツの耳元へと言葉をかける。


「少年、今回は恩返しの気持ちだけど。君が望めばいつでも私達は相手するからね」


「!?」


 エクレアは周囲の視線も気にせずと、ミツへとソフトなキッスをする。


「フフッ。女はね、強い男に惚れる者なのよ。君は見事私達の心を射止めたハンターなんだから、自信を持ちなさい」


 ミツの手を彼女が握り、指先を自身の胸元に当てる。


「えーっと、ありがとうございます?」


「何でそこが疑問形なのさ! 喜びなさいよね!」


「す、すみません!」


 エクレアのおちゃらけた会話に少しだけ場が和む。

 そのまま歩き進め、宿泊する宿の前に到着。

 するとヘキドナは周囲を気にしつつ、ミツに言葉をかける。


「坊や……。その、私もエクレアもあんたを気に入ってるってだけで、あんたが深く気にすることはないからね。気づいてると思うけど、あんたの周りの娘達も、その……さっき私達がやったことを望んでるかもしれないよ。あんたに女として拒まれると、その娘も可哀想だ……。もしだけどね、相手がそれを望んで来たなら受け止めてあげなよ。その娘にあんたが後に気持ちをどう動かすかなんて自由なんだから」


「……はい。でも、自分はお二人の気持ちも無下にする気もありません。ヘキドナさん、エクレアさん、お二人の気持ち、本当に嬉しかったです」


「そ、そうかい……」


「リーダー、こうやって少年は手広く女を増やしていくんですよ」


「えっ! エクレアさん、何でそうなるんですか!」


「フンッ。それでもいいさ。坊や、取り敢えず腹も減ったし、飯にしようじゃないか。娘達を呼んできな」


「そうそう、運動した後はお腹すきますからね……あだっ!」


 おちゃらけた会話の中、エクレアの頭の上にヘキドナの軽い拳が落ちる。


「あんたはあの娘達の前で余計なこと口走るんじゃないよ」


「痛てて。わかってますよ〜」


 プルンとリッコ、ミーシャの他に、リック、ローゼ、トトとミミ。そしてシューとライムは宿の方に戻っていたのか、彼らはミツ達が戻るまで食事に行くのを待っていたようだ。

 どこに行ってたんだよと腹をすかせたリックの問に、ミツの代わりにヘキドナが口八丁と三人で行動していた事を告げる。

 シューは街の情報も伝えたいとヘキドナの背中を押し、食事へと外に出る。


「そう言えばリッケとマネさんは?」


「二人はまだ戻ってきてねえぞ? いや、お前たちと一緒にいると思ってよ」


「そうなんだ……。何処に行ったのかな?」


 ミツは〈マップ〉のスキルを使用し、リッケとマネのポイントを探す。

 すると二人はここから少し離れた場所に居ることが判明した。

 しかし、二人のポイントが重なっている事に違和感を感じ、リッケのポイントをタッチ。


「ブフォ!」


 するとミツが吹き出す程の驚きの項目が表示された。

 それは二人の項目に【営み中】とまさかの表記。

 流石に確認するわけにも行かないと、彼らを探すか話し合う中、ミツはヘキドナの腕を引き、彼女へと耳打ちをする。


「な、なんだい坊や?」


「あ、あの、リッケとマネさん、二人は大丈夫ですから、その……。今は二人をそっとしといてあげませんか?」


「んー。まぁ、別に無理して探す必要も無いからね。しかたない、二人は放っといて私達だけで行くよ」


「「「……」」」


 ミツとヘキドナの距離感が昼間よりも少し近いことに、怪訝そうな視線を送る娘達。

 しかし、その疑問は空腹感が押しつぶす。

 何故なら、両サイドを埋め尽くす程の屋台の数々。

 その屋台から漂う美味しそうな匂いには、勝てる空腹者などいるわけが無いのだから。


「腹減ったニャ〜」


「ここの街のおすすめのご飯って何かしら?」


「川が近いから魚系かしら? でも、森も近いから獣の肉もありそうね」


「取り敢えず行くシ」


 そして、食事も済ませ、宿に戻ると既にマネとリッケは部屋に戻っていた。

 なんだかスッキリした顔のリッケだが、今のミツも彼と変わらない表情をしていたのかもしれない。

 共に大人の階段を上った二人だが、片方は相思相愛の関係。

 もう片方は恩を返す気持ちが込められた関係と、中身は違うものである。

 

 因みに部屋は男女と分けられて居るので、今はミツ、リッケ、リック、トトの四人部屋である。

 彼らは今日の戦闘を思い出しながら話し合い、次の経験に活かそうと談笑を交えながら盛り上がる。

 一応四人とも大人という事で、屋台で購入したお酒と、ナッツ、そしてミツのアイテムボックスから498円のおつまみチーズバラエティーセットを取りだし、それを食べながら夜ふかしである。

 街に戻ってくる際、ミツが川に落ちたことは今となっては笑い話だが、その時皆が心配してくれた事に少し申し訳なく思ってしまう。

 男の話しも進めば恋話と移り、昼間トトとミミが喧嘩したが仲直りした事は話の種として場を和ませる。

 疲れもあったのか、それとも飲んでいる酒が彼らにはまだ強すぎたのか。

 彼らはほろ酔い状態と会話をすすめる。

 

「まぁ、良かったじゃねえか。後腐れなしに仲直りできたんだからよ」


「はい。リックさんのアドバイスを聞いて良かったです」


「いやいや、別に俺の経験じゃねえけどな。そう言えばリッケ、お前、買い物の後、あの姉ちゃんと今日は何処に行ったんだ?」


「えっ……」


「おっと!」


 リッケは思わず手に持っていたチーズを落とし慌てだす。手から落としてしまったチーズは隣に座るリックが床に落ちる前とキャッチし、自身の口へとパクリ。


「ナイスキャッチ。(まぁー、言えるわけもないよね〜)うん、リッケ、マネさんとは街をデートしてたんでしょ? 何か観光できそうな所でもあった?」


「あっ、ああ、はい。ありましたよ。街の中を流れる川がありまして、そこで色々な色に染められた布ですかね。それが一つ一つロープで固定されて、川の中で綺麗に泳いでるように見えたんですよ。ずっと先まで続いて、見てるだけでも面白かったですよ。他にも鳥使いのショーとか、あっ、一応この街の武器屋も覗きました。そこでマネさんが僕に槍を使ってみないかと言ってきたんですが、僕には剣があると言ったんです。そしたら他にも武器を使える様になった方がいいと助言を貰いました。他にも」


「分かった、分かったから。なんか聞いてるこっちが胸焼けしそうなデートじゃねえか。こっちは惚気話聞きたい訳じゃねえんだよ」


 身振り手振りと二人の1日が説明されるが、思い出すだけでも嬉しいのか、彼は買い物後の二人の足取りを話し出す。

 兄のリックは最初こそ話のネタになると思ったが、中身を聞けばただの惚気話。

 グビッと酒を飲み、プハーっと話を止めさせるようにリッケへと息を吹きかける。


「いや、惚気話をするつもりでは」


「うんうん。分かってるよリッケ。それで買い物をした後は、二人だけで食事して帰ってきたんでしょ?」


「えっ? あ、ああ。はい、そんな感じです」


 この場でリッケの1日を掘り下げることもないと、ミツは早々と彼の話を終わらせる。

 リッケもその方が助かると話を合わせてくれたようだ。


「だよね。ところでリックの方はどこに行ってたの?」


「あっ? 何処って、ローゼと二人でトトとミミを探しに街の中をブラブラとな。それ程面白いことはなかったぜ」


「本当に?」


「ああ? 直ぐにトト達も見つけたからな。その時俺も串肉食ったくらいか?」


「美味かったっすね、あの肉串」


「だな! そうだ、明日帰るとき店がやってたら買って帰ろうぜ」


「賛成っす!」


 こんな他愛もない話を誰かが寝てしまうまで続けた。

 ライアングルの街に帰ればミツは直ぐに旅立ってしまう。

 それを理解していても、それを誰も口にすることはなかった。

 濃い1日を過ごした彼は、周囲が寝静まる時にはシャロットの呼び出しを受け、神々の待つ茶の間へと足を向けていた。


 

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