第206話 ボーナス!。
「ミツ、この娘どうするシ?」
フォルテたちと共に周囲の偵察を終えたシューが戻って来た。
彼女は横に寝かされた状態のネミディアを如何するのかを聞いてくる。
勿論周囲にモンスターが居ないと理解しても、女性一人をこの場に残す事などできるわけもない。
「ここに放っておく訳にも行きませんからね。一先ずヘキドナさん達の居るところまで連れていきますよ。後は街の宿にでも連れていきますかね」
「シシシッ。ミツは優しいね。普通なら野ざらしで捨てられても仕方ないシ」
「流石にそれはできませんよ。それより偵察ありがとうございます。間違いなく周囲にモンスターの気配はもう無いんですよね?」
「うん。ミツの精霊達にも手伝ってもらったけど、一匹も居なかったシ」
「分かりました。お疲れ様です、シューさん。皆もありがとう。それと……そっちの娘たちもね」
小屋の外にはミツが出した精霊の五人と、分身が出した精霊の五人が白と黒で左右に別れて居る。
ミツの言葉を受けたフォルテ達は恭しく頭を下げるも、分身の出した精霊達は軽い返答を返している。
それが気に食わないのか、フォルテが注意を促すも、五人はそれをスルー。
分身が小屋から出てきた時は、五人はまるで甘える猫のように分身へとじゃれ付き出す。
「マスター、あの鬼長娘がこわいですー」
「私達も頑張ったんですからね! 先ずは褒めの言葉も出さないなんて、あいつの方が見た目は白でも中身はブラックですよね!」
「なっ!? マスターに対して淫らな真似はお止しなさい!」
「「「怖いですー。アハハハハ」」」
「まあまあ、そのへんで。同じ仲間どうして止めようね。ところでフォルテ、その服は?」
「はい。近くで焚き火をやっていた場所に落ちておりました。小屋の中にいる女性には服が必要かと思いまして、一応お持ちいたしました」
「そっか。態々ありがとうね。そのままじゃ汚れてるから一旦洗おうか」
偶然だが、フォルテの持ってきた服はネミディアが寝てしまった後にオークにはぎ取られた衣服。それを洗浄魔法である〈ウォッシュ〉を使用し汚れを落とし、フォルテ達に任せて小屋の中で寝ているネミディアに着せてもらう。
「それじゃ、こっちは下げるぞ」
分身は用が済んだと精霊達を下げる。
少し駄々をこねるような声が聞こえるが、彼は精霊達を宥めるように言葉を促す。
「「「「「マスター、我々、いつでもお呼びくださいませ」」」」」
その言葉を最後と、黒野精霊達は光となり、その光は分身の中へと消えていく。
「マスター、終わりました」
「ありがとう。それじゃフォルテたちも一先ずもどす……」
ミツもフォルテ達を休める為と魔法を解除しようとしたその時、シューが突然ビシッと手を上げる。
「ミツ、最後にお願いがあるシ。アネさんのところまでで良いから、もう一度空を飛びたいシ!」
「空ですか? 分かりました。自分はあの人を先にヘキドナさんたちの居る場所に連れていきますので、シューさんは後から来てください。それじゃ、誰かシューさんを抱えて飛んでくれるかな?」
「私が承ります。シュー様、お手をどうぞ」
「シシシッ。ありがとうだシ」
シューの希望を叶えるためと、フィーネが前に出る。
彼女を後ろから抱きしめる様に、フィーネはシューを抱え空を舞う。
「ヤッホー! ミツ、また後でだシー!!」
「はーい。気おつけてくださいねー」
この場からヘキドナ達がいる川辺近くまでは、飛べば10分ぐらいだろうか。
理由を説明すればヘキドナは呆れるだろうが、彼女がそこまで怒ることはないと思う。
「それじゃ俺もここで」
「うん。検証もしてくれてありがとうね」
「構わない。趣味みたいなもんだ」
分身は満足気に笑みを作り、スッと影に戻った。
その瞬間、分身がオークやゴブリンから〈スティール〉にて奪った驚く量のスキルがミツの中へとなだれ込む。
《スキル〈アースアーム〉〈アイアンクロー〉〈アイスノヴァ〉〈ウォークライ〉〈ウォーターカッター〉〈エナジードライブ〉〈ガードクラッシュ〉〈ギルティ〉〈シャドーウォーク〉〈ジャンプ〉〈スプリント〉〈ダブルショット〉〈タフネス〉〈テイム〉〈ディスタンスソード〉〈ニードル〉〈バトルヒーリング〉〈フェイク〉〈ポイズントラップ〉〈リバウンド〉 〈体力吸収〉〈力上昇〉〈反応〉〈回避〉〈昇り龍〉〈下り龍〉〈急所撃ち〉〈解毒〉〈握り潰す〉〈指弾〉〈無手破砲〉〈建築〉〈疲労軽減〉〈透視の眼〉〈止眼〉〈短剣術上昇〉〈両手剣術上昇〉〈片手斧術上昇〉〈両手斧術上昇〉〈弓術上昇〉〈口笛〉を取得しました。
経験により〈アースウォールLv5〉〈アイアンクローLv6〉〈アイスウォールLv5〉〈アースアームLv7〉〈アイスノヴァLv3〉〈アイスジャベリンLv4〉〈ウォークライLv3〉〈ウォーターカッターLv2〉〈エアスラッシュLv4〉〈かぶとわりLv7〉〈ガードクラッシュLvMAX〉〈シャドーウォークLvMAX〉〈ジャンプLvMAX〉〈シャープスラッシュLv8〉〈スティールLv6〉〈スラッシュLvMAX〉〈デスブローLv7〉〈スリープLv8〉〈ダブルショットLv5〉〈ディスタンスソードLv5〉〈ニードルLv4 〉〈バッシュLv8〉〈ハイディングLv8〉〈パワースイングLv5〉〈ヒールLvMAX〉〈ファイヤーボールLvMAX〉〈ファイヤーウォールLvMAX〉〈ハイヒールLv5〉〈トラップ探知Lv4〉〈罠解除LvMAX〉〈罠仕掛けLvMAX〉〈威嚇LvMAX〉〈力上昇LvMAX〉〈双拳打LvMAX〉〈強撃LvMAX〉〈双竜脚Lv3〉〈昇り龍Lv8〉〈下り龍Lv6〉〈流し切りLv9〉〈旋風脚Lv3〉〈二段突きLv8〉〈崩拳LvMAX〉
〈岩石砕きLv5〉〈岩石割りLv3〉〈正拳突きLvMAX〉〈力溜めLvMAX〉〈握り潰すLvMAX〉〈無手破砲LvMAX〉〈剣術上昇LvMAX〉〈槍術上昇LvMAX〉〈攻撃強化LvMAX〉〈短剣術上昇LvMAX〉〈両手剣術上昇LvMAX〉〈片手斧術上昇LvMAX〉〈両手斧術上昇LvMAX〉〈弓術上昇LvMAX〉〈獣の目LvMAX〉〈媚液LvMAX〉〈解体Lv7〉〈発見Lv8〉〈聞き耳LvMAX〉〈口笛LvMAX〉〈自然治癒LvMAX〉〈自然治療LvMAX〉〈速度減少LvMAX〉
条件スキル〈王の威厳〉〈獅子咆哮波〉〈波動拳〉〈ターゲット〉〈奇跡の一撃〉〈紅蓮一握〉〈ニ虎双牙〉〈次元天蓋〉〈焦熱炎牙〉〈雷火崩拳〉を取得しました》
アースアーム
・種別:アクティブ。
腕に土や岩を身にまとう事ができる。
アイアンクロー
・種別:アクティブ。
相手の頭を掴み締め付ける。レベルに応じて威力が増す。
アイスノヴァ
・種別:アクティブ。
雪を降らせる事ができる。レベルに応じて雪が溶けにくくなる。
ウォークライ
・種別:アクティブ。
仲間の闘争心を上げる。レベルに応じて効果が増す。
ウォーターカッター
・種別:アクティブ。
水の刃を出すことができる。レベルに応じて強さが増す。
エナジードライブ
・種別:アクティブ。
MPをHPへと変換できる。
ガードクラッシュ
・種別:アクティブ。
盾を持つ相手であっても、それを貫通しダメージを与える。レベルに応じて威力が増す。
ギルティ
・種別:アクティブ。
相手が嘘を付いた時に違和感を感じる。
※感じるだけであって嘘と断定はできない。
シャドーウォーク
・種別:アクティブ。
影の中を移動できる。レベルに応じて移動距離と影の中に居る潜伏時間が長くなる。
ジャンプ
・種別:アクティブ。
高くジャンプできる。
スプリント
・種別:アクティブ。
短距離ダッシュのスピードが早くなる。
ダブルショット
・種別:アクティブ。
弓を使用時、矢を二本同時に撃つ事ができる。
レベルに応じて威力が増す。
タフネス
・種別:パッシブ。
スタミナが増加する。
テイム
・種別:アクティブ。
魔物を仲間にできる。
※仲間にできる魔物は自身の強さの同等まで。
ディスタンスソード
・種別:アクティブ。
闇属性の剣を出せる。
※この剣で斬られてできた傷は治りが遅くなる。
ニードル
・種別:アクティブ。
相手の足場に茨の蔦を出すことができる。
レベルに応じて蔦の強さが増す。
バトルヒーリング
・種別:パッシブ。
相手にダメージを与えると自身の傷が治る。
フェイク
・種別:パッシブ。
相手に自身の嘘を信じやすくさせる。
ポイズントラップ
・種別:パッシブ。
毒を使用した罠を作った際、毒の効果が増す。
リバウンド
・種別:アクティブ。
投げた物を跳ね返すことができる。
体力吸収
・種別:アクティブ。
相手の体力を吸い取ることができる。
力上昇
・種別:パッシブ。
力が増す。
反応
・種別:パッシブ。
反応が早くなる。
回避
・種別:パッシブ。
回避速度が増す。
昇り龍
・種別:パッシブ。
下からの攻撃力が増す。レベルに応じて威力が増す。
下り龍
・種別:パッシブ。
上からの攻撃力が増す。レベルに応じて威力が増す。
急所撃ち
・種別:アクティブ。
相手の弱点となる部位の攻撃を与えた際、ダメージを増加させる。
解毒
・種別:アクティブ。
解毒をすることができる。
握り潰す
・種別:アクティブ。
手で掴んだ物を潰す力が増す。レベルに応じて威力が増す。
指弾
・種別:アクティブ。
親指にて空気の玉を打ち出す事ができる。
※最大威力はステータスの力と魔力が影響する。
無手破砲
・種別:アクティブ。
掌から衝撃波を出すことができる。
※最大威力はステータスの力と魔力が影響する
建築
・種別:アクティブ。
建物を作る技術が上がる。
※〈物質製造〉スキルがある為、活用は無い。
疲労軽減
・種別:パッシブ。
疲労し難くなる。
透視の眼
・種別:アクティブ。
物を透視することができる。
止眼
・種別:アクティブ。
見た者(物)の動きを止める。
短剣術上昇
・種別:パッシブ。
短剣を使用した戦闘が向上する。
両手剣術上昇
・種別:パッシブ。
両手剣を使用した戦闘が向上する。
片手斧術上昇
・種別:パッシブ。
片手斧を使用した戦闘が向上する。
両手斧術上昇
・種別:パッシブ。
両手斧を使用した戦闘が向上する。
弓術上昇
・種別:パッシブ。
弓を使用した戦闘が向上する。
口笛
・種別:アクティブ。
近くに居る魔物を呼び寄せることができる。
レベルに応じて遠くに居る魔物を呼び寄せることができる。
王の威厳
・種別:アクティブ。
威厳と風格を身に纏う。
無意識とその者に従いたくなる。
獅子咆哮波
・種別:アクティブ。
獅子の波動を出すことができる。威力はステータスの力に反映する。
波動拳
・種別:アクティブ。
目に見えた衝撃波を飛ばす事ができる。
ターゲット
・種別:アクティブ。
目標と決めた物は一度目を離したとしても直ぐに照準が合う。
奇跡の一撃
・種別:パッシブ。
攻撃をする際、高確率にて相手へのダメージ増加。
紅蓮一握
・種別:アクティブ。
紅蓮の刀を出すことができる。
※攻撃に火属性のダメージが加わる。
ニ虎双牙
・種別:アクティブ。
両手に魔力の虎を出す。
※虎の大きさはイメージで変わり、虎が動ける範囲は使用者の魔力による。
次元天蓋
・種別:アクティブ。
斬られた者はその部分だけ次元の彼方へと消えてしまう。
焦熱炎牙
・種別:アクティブ。
高温の牙を相手に突き刺す。
雷火崩拳
・種別:アクティブ。
雷と火を手に纏わせ、相手の体内で爆発させる。
「な、何……この数のスキル……」
数多くのスキルと魔法、そして既に持っていたスキルのレベルアップ。
ウィンドウ画面に表示されたその項目の一覧にミツは驚きの言葉しか出せなかった。
《ミツ、既に知っていると思いますが、その場にはオークキングが生息しておりました。オークキングが居る集団は、通常よりも強い個体を生み出してしまい、更には繁殖力も増加いたします。分身が倒したオークの数は300を超えますが、その内の7割がオークリーダーや、オークチャンピョンなどの、オークから進化した特殊個体です。もし分身がこの場のモンスターを倒さなければ、近隣の街などが被害にあっていたでしょう。更にその場にいる者を餌とし、確実に数を増やしたのは間違いございません。また、分身が倒したオークキング、それと貴方が倒したツインヘッド・ジャーマンスネーク亜種ですが、共に同じ原因を糧として進化を遂げております》
「原因って……。あっ、まさか!」
《はい。貴方とセルフィ嬢の探しております紫の魔石です。倒した二体の体内には既に色を失った魔石があります》
「うわっ……こんな所で紫の魔石に関係する魔物と会うなんて。これはセルフィ様に報告案件だな」
他にも紫の魔石で進化した魔物が居るかもしれないと一瞬思った彼だが、周囲の偵察に出ていたメゾ達に話を聞くも、そう言う進化したモンスターは見なかったとの事。
ミツは一先ずネミディアを抱え、ヘキドナ達の居る場所へと移動する。
この時、ミツがネミディアをお姫様だっこ状態に彼女を運んだ事に、精霊たちから少し嫉妬心を受けていた事に彼は気づいていなかった。
結局ミツが抱えていたネミディアは奪われるようにダカーポが代わりに運ぶ事になってしまう。
ミツがジャーマンスネークを捜索しに離れた後。
大量のデルデル魚の亡骸の鱗を取り、頭と身体と切り分ける作業を終わらせたリックたち。
「ひー。お、終わったー!」
「皆さんお疲れ様です。リック、休むなら手を洗ってからにしましょうよ。顔も洗わないと、魚の鱗が付いてますよ」
デルデル魚の解体作業に疲れたのか、リックは腕を広げ、仰向けに倒れる。
リッケの言うとおり、デルデル魚の解体をしていた者は、もれなく全員生臭いお手手。
「ううっ、手が生臭いニャ〜」
「でも、言われた物全部捌き終わったわね。ミミ、何匹分いた?」
「えーっと……こっちが240匹。それと6、7、8匹……。お姉ちゃん、248匹だよ」
「頑張った! うん、私達本当に頑張ったわ!」
川に大量発生していたデルデル魚。
対策をした事に簡単に釣れる魚になったとしても、それを全て釣り上げてしまったリック達は本当に凄い。
マネやライム達も釣り上げるのを手伝ってくれていた分もあるだろうが、彼女達はただ単に釣りを楽しんでいたに過ぎない。
解体に関しては彼女達はお手出し無用と、周囲の警戒やリック達の解体技量を伺ったりしている。
危険な魚が川から居なくなった事で川に足をつけて休んでいるヘキドナとエクレア。
「気持ちいいですねー。こんな状態でお弁当があれば良かったんですけど」
「腹ごなしは坊やとシューが戻ってからでもいいさ。意外ともう戻ってくるんじゃないかい」
「えーっ? リーダー、流石にそれは無いですよって言いたいですけど……。あの子の事だからありえそう……」
先程狩りに出ていったミツの態度。
なんて事もないみたいに走り去った姿を思い出すと、何だか既に討伐してこちらに戻って来ているのではないかと予想してしまうエクレア。その勘は当たりである。
勿論その予想を思いついたのは彼女だけではなく、隣にいるヘキドナも同じ予想を立てている。
「ジャーマンスネークか……。坊やも随分と厄介なモンスターを探してるもんだね。確かあれはグラスランクの冒険者が20人近くいるだろ? アイアンだけなら50は必要な強さと大きさがあったはずだけどね……。何だろうね……。坊やが相手だと逆にジャーマンスネークの方が50は居ないと駄目な気がするよ……」
「アッハハハハ。リーダー、それってもうどっちが脅威なのか分かりませんよ。まぁ、少年の情報はシューが持ってきてくれるので、後で戦いの内容を聞けばいいですね」
「ああ、そうだね。全く、エンリも面倒な仕事を回すもんだ。坊ややあの子達の強さが知りたいなら自分で行けばいいのに。フンッ」
「緊急招集の時の戦いで、少年の強さは十分理解させられたと思いますけどね。私なら下手な探り入れて警戒される方が、彼にとっても悪手だと思いますけど。今回はあの子達の分を報告って感じでいいんじゃないですか? あっ、話変えますけど、そう言えばあそこの村の人達って如何なったんですかね? 話だと領主様は他の村に移住させるみたいな事話してたような」
エクレアの言う村の人達というのは、以前緊急招集にてモンスターに村を襲われた人達のことである。
村人含む、家畜の動物を保護できたが、村はミツの魔法で焼き払ってしまったので人が直ぐに住める状態ではなくなってしまった。
土は焼かれ、微生物まで死んでいるので作物は育たない。
井戸の水も熱に枯れ果て、干ばつ状態に今はカラカラである。
「あそこの奴らなら今頃受け入れのできる程の広さがある村に馬車で送られたみたいだよ。最近領主の計らいで待遇改善されたスタネット村だったか? あそこは今は畑も広く広げているそうだからね」
「リーダー、この間領主様のお屋敷に行ったときに話聞いてたんですね。私達は部屋には入れませんでしたけど……。まぁ、本音を言うならリーダーが代表として行ってくれたのはマネも居たので助かりました」
ヘキドナ達は武道大会にて人命救助を行った事で、領主直々と褒美として屋敷に呼ばれていた。四人はおっかなびっくり状態にフロールス家に足を踏み入れたが、まだアベルやカインが寝泊まりしているフロールス家はいつも以上に警備や貴族の出入りが多く、彼女達に余計な気疲れを与えていたようだ。
「私は二度と行きたくないね。ほんの少しだけの時間でもあの場は息苦しくて出された茶の味も分かんなかったからね」
エクレアに自身の険しくなった表情を見せまいと、手で顔を隠し頭を伏せるヘキドナ。
そんな姉の気持ちを察したのか、話題を変えることに。
「そ、そうでしょうね……。所でリーダー、今私達が来てるあの街。ディオンアコーの街って、隠れた別名があるの知ってます?」
「……」
「フフフッ。その様子だと知ってるみたいですね。表向きは衣服や色を前に出した染色の街って言われてますけど、それは昼の顔。夜はその色に染めた衣服を女が着こなし、男を誘惑する誘の街ですよ」
「私には関係ないね」
「関係なくはないでしょ。リーダー、良いんですか? 本当にこれがラストチャンスかもしれないんですよ!?」
「なんのチャンスだい……。いや、あんたの言いたい事は分かってるから、言わなくて良いよ。ああ、それならあの嬢ちゃん達を連れていきな」
ヘキドナは下流の方に視線を向けると、そこには手に付いた汚れやナイフの血を落として話しているプルン達の姿。
彼女の言葉にエクレアは姉を呆れる者を見る視線と変わり、反論する意見を出す。
「リーダー、敵に塩を送って如何するんですか!? 取り敢えず街に戻ったら私に付き合ってくださいよ! 逃げたりしたら少年をけしかけますからね!」
「あ、あんた……そんなに熱い女だったかね?」
「フンスッ!」
彼女が何に対してやる気になっているのか分からないが、街に戻った後に直ぐに身を隠そうとした姉の考えを先読みしたのだろう。
ヘキドナはその場をハイハイと軽く流していたが、後に彼女は赤面の思いになる程の恥をかくことになるとは、この時思うわけもない。
「戻りましたー」
談笑混じり話し合う中〈トリップゲート〉を使用し、機嫌良く戻ってきたミツの声が響く。
ミツの後ろからは精霊の四人が共に通ってきた。
戻ってきた少年の他に、美しい羽を背につけた女性達が共に来た事に驚く面々。
この場ではトトとミミを除き、全員がミツの精霊を見たことあるとしても、容姿も美しい女性を共にしては彼女達は少し飽きれた視線を向けてしまう。
その中、ダカーポに抱えられたネミディアを目にしたヘキドナが一番に呆れた口調に口を開く。
「坊や、戻ったのかい……。はぁ……坊や、あんたの狙いはモンスターの素材じゃなかったのかい? 何で女を連れてきてるんだい。それとも何かい。その女の生皮剥いで楽しもうってのかい。あんたにそんな気持ち悪い趣味があるとは……」
「いやいやいや! ヘキドナさん、いきなり何を言い出すんですか!? この人は森の中でモンスターに捕まっていたところを助けたんですよ」
「フッ、冗談だよ。坊やは女の裸に興味があったとしても、そんな悪趣味持ちじゃないって事はね」
「そうそう、ってヘキドナさん、止めてくださいよ! もう、まったく……。あのね、皆もそんな視線送らないでね。偶然見つけて保護した人なんだから」
「でも、あんたがスケベな奴ってのは事実じゃない。さっきもニヤニヤしながら戻ってきてたし。どうせその寝てる人の裸でも見たんじゃないの?」
「がっ! なっ!? リ、リッコさん、何をおっしゃいますか。自分はそ、そんなことは。ごごご、ござ、ございませんよ」
「「「「……」」」」
確かにリッコの言うとおり、ゲートを使い戻ってきた時の彼の顔は満面の笑みだったが、それは大量のスキルを獲得したことの心の喜びである。
確かに小屋の中に案内された時のネミディアの姿は裸であったが、周囲に精霊達がいる手前、ジロジロと彼女の裸を見たわけではない。
ほんの少し。そう、ほんの少しだけ、フィーネの羽の隙間から見え隠れしてしまった彼女のお胸様や太もも様がチラチラしていたが、それを忘れてしまう程にも、大量のスキルGETは彼には優先されることなのだ。
「ミツはもうスケベな奴って事は、皆知ってるニャよ」
「フングッ!?」
戻って早々に突然のスケベ野郎宣言。
やり取りが冗談だと理解しているのか、後に居るフォルテ達もミツのリアクションに笑みをこぼす。
シューが共に戻ってきてない事に関しては、やはりヘキドナから呆れ口調に言葉がこぼれたが、直にここに来る事を告げると、そうかいの一言で済まされてしまう。
「ミツ、肝心のジャーマンスネークは見つけたニャ?」
「お前が戻ってきたという事はそうなんだろうけど、一刻も経ってねえからな」
「大丈夫、ちゃんと倒してきたよ。見つけたのが進化種した奴だったけど、ガンガさんに渡すなら問題ないと思う」
「そうか……。今さらりとまた凄いこと聞いたような気もするけど、もう俺は気にしねえぞ」
「ははっ……。元々討伐には数十人の高レベル冒険者が必要だったはずですけど……。えーっと、倒したのが進化種だと、それは国の軍隊が動かないと駄目なんじゃ……」
「それもミツ君には今更よね……」
目的の素材は手に入ったと、軽く返答を返すミツ。
もう驚くことに慣れというものが生じたのか、リックは腕組みをしながら気を落ち着かせようと川の方へと視線を向ける。
リッケの言葉も、顔を向き合わせたローゼと苦笑い。
本当に倒したのかとトトが訝しげに言葉をかけてきたので、切り落としたジャーマンスネークの頭を皆へと見せる。
突然現れた切り落とされた頭に皆は絶句である。
ミツはトトに信じてくれましたかと笑顔で対応。彼は少し怯えた声を出しつつ、ちゃんと疑ったことに謝罪してくれたのでミツは良かったの一言を告げ、またアイテムボックスへとそれを収納する。
「ミツ、直ぐに街に帰るニャ?」
「んー。討伐したときに少し発見もあったからね。それを少し領主様とセルフィ様に報告する事もあるんだけど……。いや、急ぐこともないかな」
「そうかい。なら取り敢えず目的の物は全部揃ったんだ。さっさとここを引き上げる準備をしようじゃないかね。ほら、お前たちは自身が捌いた魚は頭と体で別々に袋に入れときな。それと坊や、少し話があるからちょっとこっち来な」
「はい?」
ヘキドナはミツに指をクイッと動かし少し森の中へ移動。
彼女は手頃に大きな木を見つけたのか、コンコンとそれを軽く小突く。
「坊や、お前さんの魔法で切り落としたジャーマンスネークの頭を運ぶ為の荷台は作れるかい?」
「荷台ですか? できますけど……。運ぶなら冒険者ギルドまで自分が運びますよ?」
「いや、こう言う物は堂々と表から持ち込んだ方が何かと都合が良いんだよ。取り敢えず作れるならちゃっちゃと作っておくれ」
「分かりました」
ヘキドナはミツの後ろへと下がり、少年に前を譲る。
目の前の少年はヘキドナと同じ様に二度三度と木をコンコンと叩き、目の前の大きな木の厚みを確認。
すると彼はこれならと言葉をこぼし、掌に水球を出す。
おいおい、木に水やりをしてくれとは言ってないんだけどねと、彼女がそんな考えを過ぎらせたその時。
少年の掌にある水球を木に向かって投げたと同時に、水球はスパンッと音を鳴らす。
何だと首をかしげるヘキドナだが、いつの間にか斬られた断面から次第とズズズとずれていく目の前の木。
バキバキと木の枝を鳴らし地面に倒れると思われたが、倒れる前と少年がキャッチ。
ゆっくりと静かに地面に降ろされた木は、直ぐにぐにゃりぐにゃりと形を変えていく。
丸太となった木が形を変え、荷台と変わる。
そんな目の前で見ている光景が信じられないとヘキドナは改めて驚きの表情を作る。
「これくらいかな? こんな事ならもう少し首を短めに切るべきだったかな」
出来上がった荷台の上に切り落としたジャーマンスネークの頭を乗せるも、少し首がはみ出ているが、まぁ……ギリセーフだろう。
「坊や、荷台を使うのは街の近くからで良いからね。取り敢えずこの頭と荷台はお前さんのボックスに入れておきな」
「はい」
「にしても……。エンリの気持ちが少し分かった気もするよ……」
「んっ? エンリエッタさんがどうかされたんですか?」
通常なら不可能だろうと思われるジャーマンスネークの頭と荷台をまとめてアイテムボックスへと収納する光景を見つつ、ヘキドナは呆れ口調に口を開く。
「……本人も気にせずに自重もしない奴を近くに置いておくと、周りの大人が胃を痛くするもんだと」
「ハハハッ。痛いままだと辛いですよね。自分がその方に回復でもかけましょうか?」
「そう言う言葉が出せるなら、少しは考えて動きな。ギルドであんたに言った言葉、忘れてんじゃないわよ」
「わっと!」
分かってて言っているのか、ミツの悪戯な言葉にヘキドナは彼の首に腕を回し、ぐっと自身の方に引き寄せる。
自身の胸に少年の頭が当たっていようと気にせず、取り敢えずこの少年の頭を乱暴にガシガシとなでておくことにした。
「ちょっとちょっとー。何二人でじゃれあってるんですかー。リーダー、私も混ぜてくださいよー」
「エクレアさん、別にじゃれあってる訳では無いですよ」
「フンッ」
「わっプッ!?」
二人の声にこちらに来たエクレア。
彼女の言葉に鼻を一つ鳴らしたヘキドナは、ミツを腕から離し、エクレアの方へと放り投げる。
体重をヘキドナの方にかけていたミツは、突然の事にエクレアの胸元へとバランスを崩す。
「おっと。リーダー、シューが戻ってきたらお昼は何処で食べます? 街に戻って珍しい物でも食べに行きますか? あっ、その前に少年の倒した奴と、あの子達の討伐報告が先ですね。その後は約束通り私に付き合ってもらいますからね」
「ああ……エクレア、それは良いけどね……。はあ、少し力を緩めてあげな。坊やがお前さんの胸でおっちんじまうよ」
「あら。私、ちょっとしか力入れてないんですけどね」
「はぁ……はぁ……はぁ。や、柔か、じゃなくて、苦しかった……」
本心丸出しの言葉は聞こえていたのか、エクレアは少し照れ臭そうに頬を掻いているが、対面のヘキドナの目は細められていく。
「あの子たちの言う事も正しいのかもね……。坊や、鼻の下伸ばす暇あるなら、お前さんが出したあれをさっさと片付けな。あんな物置いたまま帰れるわけもないからね」
「は、はい!」
「えーっと、もしかして、邪魔しちゃいました?」
「気にし過ぎだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます