第203話 集落
リックたちと別れてジャーマンスネークを探すためと森の中を進むミツ。
彼はサポーターのユイシスの案内に導かれる様に森の中を歩き続けている。
(かなり奥の方に居るみたいだね)
森の奥に入って結構歩いたぐらいだろうか。小さな川や岩山を乗り越え、大きな大木が倒れ自然にできたトンネルをくぐり抜ける。
時折ミツに向けられる危険な獣の視線もあったが、相手はモンスターではなく本当に只の獣。
しかし、ミツの力が野生の勘で直ぐに分かってしまうのか、獣たちはそそくさと逃げてしまっている。
《間もなく目的の場所に到着します。ミツ、自身に支援スキルを使用してください。それと、後方にて貴方について来ている彼女にも支援を送る事をオススメとします》
(彼女? えっ、誰かいるの?)
ミツはユイシスの言葉に足を止め、後ろを振り返る。
「あっ」
「よっと! ミツ、どうしたシ?」
「えっ? いや、どうしたのじゃ無いですよ、シューさん」
ミツの後を付いてきていたのはシューだった。
彼女はミツが森を進むスピードに付いてきたので、彼女のひたいには少し汗がにじんでいる。
「シューさん、何で付いてきたんですか?」
「何でって、ウチはミツを審査する担当になってるからだシ?」
「えっ? 審査って、リック達だけじゃなかったんですか?」
「……。シシシッ。冗談だシ。もうグラスになったミツをアイアンのウチが審査するのは変な話になるシ。付いてきた理由はただウチが一緒に行きたかっただけだよ。アネさんに頼んでウチはこっちに来れたし」
「そうですか。まぁ、シューさんの戦いは一度見てますので大丈夫だと思いますけど、危なくなったら自分が守りますね」
以前、緊急招集に参加した際、シューの戦いはミツも驚く速さでモンスターを討伐していた事を思い出していた。
彼女は素早い動きに危険度も高いキラーマンティスの脚などを次々と切断。
ミツの言葉に一度シューは驚きに眉を上げるが、直ぐにその表情は笑みと変わっていく。
「……シシシッ。ミツは良い子だシ」
「それじゃシューさんも一緒に行かれるなら支援をかけますね」
ミツはシューの手を取り、彼女へと支援をかけていくと同時に、自身にも支援を使用。
「うん、頼んだよ。ところでジャーマンスネークの居場所はミツは分かってるかシ?」
「はい、間もなくだとは思います」
「それじゃ、ミツにお願いがあるシ!」
「お願い?」
「ウチも前のミツみたいに空を飛びたいシ!」
「前、空を? ああ、精霊達の話ですか」
シューはキラキラとした視線をミツに向け、以前メゾがミツの背中に翼となった事を思い出しながら話をする。
ジャーマンスネークがもう直ぐ近くにいると言う話をユイシスに聞いたので、飛んでいく程の距離では無いと思ったミツだが、目の前で期待する視線を向ける女性を無下にもできない彼は、彼女の期待に応える選択を選ぶことにした。
一応ユイシスにも一言入れると、寧ろ精霊達を呼ぶ事をすすめると彼女は告げてきた。
「それじゃ、シューさんのご希望にお応えしますね(精霊召喚)」
「ありがとうだシ」
〈精霊召喚〉を発動し、ミツの体から五つの光がフワリと空中に浮遊する。
次第と光は人の形と変わり、五人の精霊は姿を見せる。
「「「「「マスター。お呼びの声に我らここに。マスター、何なりとご命令を」」」」」
「皆、来てくれてありがとう。実はこれから戦闘になると思うから、皆にはその手伝いをして欲しいんだよ」
「はい、マスターの矛となるその機会に感謝いたします。それで、マスター、そちらの女性は?」
「うわわー……」
フォルテは優しい笑みを浮かべ、改めてマスターであるミツへと感謝を告げる。
ミツの背後からひょっこりと姿を見せたシューへと彼女達は疑問と首を傾げる。
「こちらの人はシューさん。色々と冒険者として教えてもらってる先輩冒険者だよ。皆、自分と一緒に空からモンスターを探す時には、彼女も一緒によろしくね」
ミツの言葉に恭しく頭を下げる五人。
それじゃ早速行こうかとミツの言葉に、メゾが一歩前に出ては手を上げる。
「それではマスター、今回も私めがマスターの翼となります!」
「そう、それじゃ」
「「「それは駄目です!」」」
メゾの言葉にフォルテ、ティシモ、ダカーポが声を合わせ言葉を止める。
「えっ!?」
「マスター、口を挟むことをお許し下さい。メゾ、貴女は以前マスターの翼になるという幸福な時間を得ました。今回は貴女はお休みですよ」
「えー! な、何でですか、ティシモ姉様! 私は……」
「メゾ、良いですね」
「あっ……えーっと……。はい……」
ゴネるメゾの言葉にティシモは笑みを深めつつ、改めてメゾに言葉をかける。
優しくも綺麗な笑みには圧が込められているのか、しおしおと縮んでいくメゾの姿にミツは苦笑い。
「マスター、大変申し訳ございませんが、少しだけお待ちください」
「う、うん。(今のうちに演奏スキルでも使ってようかな……)」
フォルテが一度ミツに言葉を残し、メゾを除いた四人で円陣を組む。
彼女達が何を話し合うのか知らないが、待ちぼうけも暇な彼はアイテムボックスから木笛を取り出し、演奏スキルにて更にステータスを上げておくことにした。
「フォルテお姉様、ティシモお姉様、ズルは無しですよ」
「あら、ダカーポは疑り深いですわね。フォルテは兎も角、私はそんな事はしませんよ」
「ティシモ、何を言うんですか! 長女である私はズルなどと、姑息な真似はしません!」
「あ、ええっと……。それじゃ、お姉ちゃん達、一回勝負だよ」
「「「望むところ!」」」
話しが進むにつれて声がヒートアップする彼女達。互いに睨みを効かせ、四人は声を合わせる。
「「「「ジャンケン……。ポン!」」」」
「「「「あいこで、しょっ! しょっ! しょっ!」」」」
突然始まった四人のじゃんけん勝負。
メゾを除いた勝負と言う事は今回自身の翼役に誰がなるかを決めるじゃんけんなのだろう。
ミツは四人を止めようとするが、彼女達の本気の目が彼の言葉を止めてしまう。
「……。はぁ……。すみませんシューさん、アレが終わるまでもう少し待っててあげてください」
「シシシッ。ミツは精霊にも好かれてるシ」
「ははっ……」
「「「「しょっ! しょっ! しょっ! しょっ!」」」」
彼女達の洞察力が優れたせいなのか、若しくはマスターであるミツの運までも彼女達に影響しているのかは分からないが、四人の勝負は幾度か目のあいこを繰り返していた。
必死に突き出す彼女達のじゃんけんをシューが見ていると、彼女はボソリと思った事をミツへと伝える。
「んー。……ってか、あの子達はミツが前に見せてくれたミツの翼になりたいって事で、ああなったなら、ミツが分身を出してその分身の翼になるのは駄目なのかシ?」
「あっ……」
「「「「!!!」」」」
その時、じゃんけんをし、ミツの背中の翼になる事を争っていた四人の精霊に電流が走った。
ミツも驚いた表情を作りながらも、そうだと分身を出す。
「でも、できれば二人は側に居てくれたら助かるんだけど」
「マスター、ではその役目は私とダカーポが承ります。マスターとそちらの分身のマスターの背にはティシモとフィーネがお側に。そちらのシュー様にはメゾを付けさせて頂きます」
「うん、よろしく頼むよ。君もよろしくね」
「……」
ミツの言葉に気だるい感じに頷きだけを返す分身。
彼はまた分身は無口タイプでも出たのかと内心思っていた。
シューはメゾの近くにより、よろしくねと可愛らしく言葉をかける。
メゾもシューはミツが世話になっている相手と言う事で素直に彼女を背中から抱きしめる。
「では、マスター、失礼します」
「ティシモ、よろしくね」
「はい」
ティシモがミツの背中へと移動。
ミツはこの時、上半身の黒鉄の鎧はあえて外してある。理由としては精霊達の力が見た目によらずかなり強く、力を入れて抱きしめると黒鉄の鎧がギシギシとしなる音を出す事があったのだ。後に鎧を見たら歪んでいる事がしばしば……。
別にティシモ程の豊満なお胸様の柔らかさを感じたいとか、そんなそんな疚しい気持ちはございませぬが、一応ティシモが翼になるのは敵を見つけた時まで待ってもらうことにしてもらいましたとさ。うん、ミツは至って平常である。
シューを抱えるメゾの方には十分な注意を告げ、ミツ達を抱えた五人の精霊が空に飛び立つ。
「わっほー! 高いシー!」
「結構な広さの森だね。どれくらいあるのかな? 大体10キロ以上はありそうな広さだよ、この森は……」
シューはメゾに抱えられた状態で空に飛び立つ。バサバサとなびく彼女の髪、頬を撫でる風の冷たさも気にせずと興奮に声を出す。
ミツは広大に広がる森の広さに唖然としていた。
視力をスキルで強化したミツであっても、森の先の終わりが見えない程に森は広く広がっている。
「マスター、どちらの方角にまいりますか?」
「えーっとね。(ユイシス、どっちに行けば?)」
《ミツのその状態の視線から少し左を向いてください。遠目に山が見えると思われます。その麓に探しのジャーマンスネークが居ます》
「あっちか。ティシモ、あっちの方に真っ直ぐに飛んでもらえるかな」
「かしこまりました。フォルテ、ダカーポ、守りをお願いします。メゾとフィーネは私の後ろを飛びなさい」
「「「「了解」」」」
前を長女のフォルテ、四女のダカーポが飛び、中央をミツを抱えた次女のティシモが飛ぶ。後方を分身を抱えた五女のフィーネ、シューを抱えた三女のメゾが続く。
上空に敵がいるかと言われると疑問だろうが、鳥型のモンスターが生息するこの世界では上空移動にも警戒は必要だそうだ。
空中を飛び少しすると、視線の先にある物がある事に気づく。
「止まって。あれは……村。いや、集落かな?」
「ミツ、何処だシ?」
「シューさん、あそこですよ。あそこだけ大きな平地がある所です」
「んー……。見えないシ……。ミツは目が良すぎるよ。もう少し近づかないとウチは分かんないシ」
ミツが指差す場所をシューは目を凝らして見る、しかし、彼女にはよく分からないのだろう。分身は見えているのか、目を凝らしているせいで少し視線が怖い。
「そうですか? なら、近づいて確認しますか。村や集落ならそこに居る人達から何か」
「いや、まて。アレは人の集落じゃ無いぞ」
「えっ? ……あっ」
分身の言葉に、ミツは改めてその場所を集中して見る。
先程より近づいたおかげが、ほんの少しだけ動く対象が目に入った。
「あー……。シューさん、分身の言う通り、あれは人の集落ではありません。あれはモンスターの巣です」
「そりゃ、考えたらこんな森の奥に人の住む集落がある訳がないシ。それで、ミツはあれを如何するの?」
「んー。別に目的はモンスターの巣では無いのですが、あれがもしゴブリンの巣なら潰さないと駄目ですよね。なので、一応何のモンスターが居るのかだけ確認しておこうかと」
もしミツが見つけたモンスターの巣がゴブリンの生息する巣なら、ミツはそれを潰さなければならない。
それはゴブリンの繁殖力が、周囲の街や村が危険に脅かされる為である。
彼が冒険者登録後、時折リック達から聞かされていたゴブリンの厄介さには他の冒険者も困る程に。
一匹逃してしまっただけに、それが他種族を苗床とし、そして数週間で繁殖。
一匹逃した為にゴブリンが繁殖した近くの村は大きな被害を受けてしまっている。
幼い女の子であろうと、初潮があればそれはゴブリンの苗床となる悲惨な運命を辿るだろう。
そんな悲劇を絶やす為にも、冒険者の中ではゴブリンは無報酬でも駆逐せよと暗黙の了解を取っている。
空を飛べば、見えた目的の広場近くまですぐに到着。
「うげっ、凄い数だシ」
「ゴブリンもそこそこに居るみたいだけど、一番目立つのはあの大きなモンスターかな」
「フンッ。オークか……」
彼らの視線の先には無数のオークの数。
ゴブリンも居るみたいだが、その数倍とオークの数が目立つ。
一応ゴブリンが居ることにミツは少し予定を変更し、この集落を周りに潰しておく事を話す。
「ウチは構わないシ!」
「それじゃ……」
「待て」
ミツの提案を直ぐに了承するフォルテ達と、拳を突き出しやる気を見せるシュー。
よし、行こうかと声を出そうとしたミツの言葉を分身が止める。
「あれは俺に任せて、お前はこのままジャーマンスネークの捜索を続けろ。あれぐらいの量なら俺一人でも十分だ」
「おおっ。いつものミツとはまた違う口調だシ」
「んー。結構数もいるし……それに」
ミツの視線の先には無数のモンスターの数々。今の彼の視線では、オークやゴブリンの居る集落はスキルの宝庫に見えているのだろう。
分身は呆れる者を見るような視線を少し向けた後、呆れ口調に言葉をかける。
「お前の考えが俺に分からないとでも? ちゃんと逃さず取って来てやるよ」
「ありゃ、バレてたか。それじゃ、この集落は君に任せても良いかな?」
「ああ……楽しくなりそうだ」
「?」
シューは何のことかと考え込むが、二人はシューを置いて不敵に笑みを浮かべていた。
この時ミツ本人は新たなスキルの取得、若しくは取得済みの魔法とスキルのレベルアップを考え笑みを浮かべていたが、分身は彼とは違い黒い笑みを浮かべていた。
「フンッ。フィーネ、下に」
「は、はい! マスター、行ってきます」
「うん。フィーネも気をつけて」
分身は一人で行くと言っていたが念の為に護衛としてのフィーネを付けることにした。
戦闘が終わり次第また彼女が分身をUFOキャッチャーの景品の様に釣って合流するだろう。
「シューさん、自分たちはこのまま先に行きますよ」
「分かったシ!」
分身が森の中に降りていく事を見届けた後、ミツ達は先へと進む。
鼻をくすぐる香ばしい香りに誘われ、森の奥を進んでいたネミディア。
彼女は今、ある場所に捕獲と言う形で捕まっていた。
「だーせー! お前ら、絶対に成敗してやる!」
その場で喚き散らすネミディアを見るはゴブリンやオーク。
そう、彼女は今、ミツ達が見つけたモンスターの集落におり、獲物を捕まえておく檻の中に閉じ込められていた。
ネミディアは匂いに誘われ、オークが焚いていた獣の肉を発見。
ネミディアはこれは日頃の行いに天の恵みと勘違いしたのか気にせずとそれを食べ始めてしまった。
その後、肉が焼けるまでその場を離れていたオークが戻ると、自身が焼いていた肉を全て食べ尽くし、寝ていたネミディアを発見。
自身が食べようとしていた肉を横取りされた怒りもあったが、ネミディアを女と見たオークは寝てるネミディアを鷲掴みにして集落へと戻っていた。
その時ネミディアは乱雑な運び方をされていたが、彼女が目を覚ますことはなかった。
それはネミディアが食べた獣の肉には睡眠効果が強くあった肉であり、更には長旅に疲れた彼女には些細なことで起きる力も残されてなかったせいもある。
そのオークも勿論その肉を食べれば眠ってしまうが、食後の昼寝として気にもしていなかったようだ。
オークは集落に戻り、早速とネミディアを苗床にしようと服を脱がせる。
しかし、城を出てから数日、彼女はろくに水浴びなどしていなかったのか、彼女の体臭にオークは鼻をツーンとした感覚を味わう事に。
思わず放り投げた衝撃に、ネミディアが目を覚ます事になった。
自身は先程まで肉を食べて横になっていたというのに、今は何故か周囲がギャーギャーと騒がしい場所に来ている。
更には自身の着ていたはずの服も無く、今の彼女はスッポンポン状態のまま放り出されていた。
「うぇ……。んっ……。んっ? なっ!?」
まだ寝ぼけていたネミディアへと大きな手が近づく。
ガシっと掴まれた瞬間、ネミディアは完全に目を覚まし、声を出す。
「うぎゃー! 何だこの化物は! 貴様! 私を栄光たるアーネストナイトのネミディアと知ってのぐろ……いてっ!」
ネミディアを掴んでいたオークは無造作にも檻の中へと彼女を投げ込む。
これは食べる為の獲物を逃さない為にとオークが作った檻だ。
直ぐにネミディアを苗床としようとしたオークだったが、彼女があまりにも臭う為に水をぶっかけて汚れを洗い流そうと考えたのだろう。
オークは近くにいたゴブリンに指示を出し、水を持って来させネミディアへとその水をかけさせている。
「あぷっ! や、やめ……。止めろ!」
城に仕える戦士としてモンスターに水をぶっかけられるという屈辱もだが、ネミディアの声に引き寄せられるように増えたオークの数に、彼女は次第と恐怖に襲われ始めた。
今は身を守る為の鎧も来ていなければ戦う為の武器もない。
剣はゴブリンがまるで子供の玩具の様に振り回して遊んでいるのが見える。
彼女が震えるのは水の冷たさなのか、恐怖心なのか。
カチカチと震える歯を噛み締め、何か対する策はないかと彼女は周りを見る。
フッと後ろを振り向くと、彼女同様に裸にされた人が横たわっている事に気づく。
しかし、ネミディアの見たものは絶望を更に引き上げる物であった。
「あっ……ああ。ひ、人の……死体……くっ……」
それは上半身裸の女性の死体。
しかし、その死体は腹部が裂け、下半身が全く無い状態と無残な死に方をした人物であった。
恐らくオーク、若しくはゴブリンの苗床とされ、腹を裂いて産まれたのだろう。
死んでしまった女性は、産まれたモンスターの餌となって半分残された状態だった様だ。
ネミディアは檻の外を見れば、同じ様な死体がチラホラと草かげに見え、質が悪い物に関しては人を木にぶら下げ、それをナイフ投げの的にして遊戯物にしている。
彼女は先程まで恐怖に負けそうだった気持ちが消え、今では目の前で自身を笑い飛ばすような声を出すモンスターが憎い気持ちと睨みを向けていた。
それでも状況は変わる事もなく、どうすればいいのか考えるネミディアであった。
周囲を見渡しても、今は自身を苗床とする事を目的とした下卑た視線を向けるモンスターだらけ。
せめて剣が手元にあれば打開策も打てたのかもしれない。
「おのれ……。大臣様の期待とレオニス様の命も遂行もできず、更には姑息な罠に私をかけた上、この様な恥辱を与えるとは! くっ、このネミディア、一生の不覚!」
事実は彼女が勝手に森を彷徨い、そして無謀にもモンスターの飯に手を出した事の繋がりのこの運命なのだが、彼女の中では全てがモンスターの計画的な罠だと思いこんでいた。
そして檻の扉が開かれ、オークの大きな手が彼女へと伸ばされる。
「!?」
オークはガシっと腕を掴み、一気に折の外へと引きずり出す。
だがそれは既に死んでいた女性の上半身。
オークは間違えたとその女性をゴブリンや子供オークが数体いる方へと投げる。
グチャっと肉の潰れる音を出し地面に落ちた後、それに群がる子鬼たち。
興味津々とその亡骸を見ていたと思いきや、子鬼達はモンスターの本性が直ぐに姿を見せる。
ガブリッと一匹、一匹と亡骸に噛みつき、クチャクチャとその亡骸を食べ始めたのだ。
その光景にネミディアは気持ち悪い物が込み上げ、足元に嘔吐をぶちまけてしまう。
「お、オエッ……。ゲハッ、ゲハッ!」
弱りきったネミディアの姿に数体のゴブリンが興奮したのか、ギャギャギャと鳴きながら檻へとへばりつく。
そのゴブリンの下半身は、正に今にも女であるネミディアを犯そうと激しくビクビクと主張している。
「生きて地獄を経験するならば、いっそ……」
ネミディアは生きたまま辱めを受ける事を拒むように檻から突き出していた木の棘に視線を送る。
オークの檻はそれ程綺麗にはできておらず、組み立てスキルを持つオークに無理やり作らせた品物である。
所々に無理やり枝を折った後があるので、ネミディアはそこに目をつけたのだ。
今にも自身を檻から出そうとしているオークの手から逃げる為にもとネミディアは覚悟を決める。
「くっ!」
首筋を棘に付けた後、勢いをつけその場に自身の首筋を当てようとしたその時、先程とは違い、何かを威嚇するようなギャーギャーとしたオークとゴブリンの声が彼女の耳に入る。
彼女がそちらへと視線を向ければ、一人の人物が目に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます