第199話 新街の目的は。

「ちょっと待ったシー!」


 ミツ達がいざディオンアコーの街へと向かおうとしたその時、ギルドの扉を開き、中へと入ってきた少女。

 いや、彼女は既に18の女性。

 少女と言うのは失礼になるだろう。

 

「シュ、シューさん!? どうしたんですか」


「シシシッ。ミツ、皆もまだ居て良かったシ。アネさーん! ミツが居たシ〜」


 シューは外に身体を向け、姉であるヘキドナを大きな声を出し呼び始める。

 呼ばれた彼女は周囲の注目を集め、少し気恥ずかしそうに中へと入ってきた。


「五月蝿いね、そんな大声出さなくても聞こえてるよ全く……恥ずかしいじゃないか」


「アッハハハハ! まぁまぁ、姉さん、ミツが見つかって良かったじゃないですか。ムシャムシャ」


「ちょっとマネ、パンを食べながら喋らないでよ。食べカスが飛ぶでしょ、汚いなー」


「ムシャムシャ、ムシャムシャ、ムシャムシャ。ごっくん。そうだっちゃ。マネ、エクレアの言う通りだっちゃ」


「あんたは食べすぎ! お弁当の分も食べないでよね!」


「んっ? これ朝飯じゃないっちゃ?」


 ライムは片腕に持っていたバスケットの中身を覗き込みつつ、そんな言葉を告げる。

 はっとエクレアが思ったのか、彼女からバスケットを奪い、中身を見ると驚き。


「そんなわけあるか! えー!? もう半分近く無くなってる!?」


「おいおい、ライム、何一人で全部食べてんだよ!?」


「あー! ウチの肉パンが! コラァ! マネ、ライム、今すぐ返すシ!」


「なっ!? あたいじゃないってばよ!?」


「あんた達、少し黙りな!」


 ギルドに入って来たとたん、騒がしく言い合う人達。

 何か自身を探していた様な言葉を耳にしたミツは、恐る恐ると彼女たちへと話しかける。

 

「……。おはようございます、皆さん。本日は如何されましたか?」


「ああ、実はね……」


「莫迦! 一人3つまでって言ったじゃない! 二人で何個食べてるのよ!」


「美味かったっちゃ。エクレア、お前は良い嫁さんになるっちゃね」


「えっ? えへへっ。そんな褒めなくてもー」


「何照れてんだよ、気持ちわりい」


「パンは買ってきた奴で、具は簡単に焼いた物だシ。それ程褒められる料理でも無いシ」


「何だと!? だったら今度から二人の分の料理はしないからね! あーあー、もう私は傷つきましたー! そんなひどい事を言う人には私は今後一切ご飯なんか作りませんからねー!」


「「なぬっ!?」」


「あんた達……だから少しだまれって言ってるんだけどね。私の声が聞こえてないのかい……」


「「「はい! 黙ります!」」」


「アッハハハ! お前さん達は子供だねー」


「「「なにおっ!?」」」


「ははっ……」


 突然やって来たヘキドナ達。

 マネ達がヘキドナの静かな一喝の言葉にやっと大人しくなってくれたと思いきや、ライムの余計な一言にまた騒がしく声を上げる彼女達。

 ミツだけではなく、プルン達もその騒がしさに思わず目を丸くしている。


「はぁ……。悪いね坊や。ギルド長からは聞いてないかい?」


「ネーザンさんからですか? いえ、先程も話をしてましたけど何にも。ねえ、プルン」


「うん。教会とミツが持ってきた素材の話だけでしたニャ」


 ミツとプルンの返答にヘキドナは一度首を傾げるが、フッとプルンの方を見ては何か納得したのだろう。


「そうかい……。まぁ、いいさ。あんた達、今日は何処に行くつもりだい?」


「今日はディオンアコーの街に向かおうと思ってました。武器を作るのに少し必要な素材があるので、皆にも手伝って貰おうかと思いまして」


 ディオンアコーへは、ミツがガンガに頼んでいたナックルを作ってもらう為に必要な素材の一つを取りに行くことになる。

 今のミツならば、一人でも狙いの素材を取りに行く事も可能だろうが、暫く皆と共に冒険ができなくなる事を寂しく思い、仲間達を誘ったのだ。

 新しい街に行ける事もリック達は嬉しいのか、彼の誘いを快く受けてくれた。

 因みに、数週間前にガンガからその依頼を受けていたが、期限などは設けられてなかったので少し後回しになってしまった案件でもある。

 そう、改めていうが、ガンガにナックルの話を持ち込んだのは数週間前の話である。


「ディオンアコー……随分遠い所だね。……いや、坊やが居る時点でそれは関係ないか……」


「ヘキドナさん?」


 自身の口元に手を添えては、考え事をしながらミツをじっと見るヘキドナ。

 目の前の少年の呼び声に反応したのか、ヘキドナは軽く手を振る。


「いや、すまないね。坊や、悪いけどあんた達の冒険には今回一緒に行かせてもらうよ」


「えっ? ヘキドナさん達も街に何か用事でも?」


「街と言うかね……」


「ミツ、ちょっとちょっと。こっちに来るシ」


「はい、シューさん?」


 言葉を探すヘキドナの代わりとシューが前に来る。

 彼女はミツの手を取り、少し離れた場所へと彼を引っ張り連れて行く。

 何だなんだとリッコとリックがプルンの側へ。

 シューはミツの肩を下げさせ、耳打ちをする。


「あのね、ウチ達、実はミツの仲間達の力を調べる事を依頼されてるシ」


「えっ?」


 シューから告げられる、思わぬ言葉に目を丸くするミツ。

 彼の肩にヘキドナの腕が回され、彼女の顔がミツに近づき話をする。


「坊や、お前さんが来てからあいつらが力を付けてる事は私達も噂で聞いてるよ。そこでその力をあの子たちが持て余す様な力ではないか、また大丈夫なのかを見極めるためにも、私達が視察と護衛役として依頼を受けたんだよ」


「それって……ネーザンさんからですか?」


「ああ……。坊やのやり方では過保護過ぎるからね。甘えた状態で育ってるんじゃないかとギルド長からの調査依頼だよ」


「んー。そんな事をしなくてもリック達なら大丈夫だとは思いますけど……」


「ミツ、これはあの子達の為だシ。ミツがあの子達を仲間だと思うならちゃんとウチ達が見定めて、ギルド長に報告すればミツも安心できるシ」


「それにあんた自身が言ったろう。あの子達に目を向けといてくれって」


 試しの洞窟から戻ってきた時、仲間たちはミツの持つ森羅の鏡にて、全員が上位ジョブに変わっている。

 洞窟に共に行かなかったトトとミミは除くとしても、彼らの力は冒険者としての経験を除けばグラスに位置するメンバーとなっているのだ。

 エンリエッタから事情聴取を受けた彼らであったが、実力の確認はまだ取れていない。

 ネーザンはヘキドナ達の力を見込んでこの話を彼女達へと持ち込んだようだ。


「ヘキドナさん、シューさん……。はい、分かりました」


「よし、決まりだね」


「皆、ウチ達も一緒に行くことになったけど良いかシ? 勿論皆の邪魔はしないから、向こうでは好きに動いてもらって構わないシ」


「は、はい。僕達は全然問題ありませんけど……」


「いいんじゃねえか?」


 知らぬ相手ではないと、リック達は二つ返事に承諾。

 

「よっしゃ! それじゃ決まりだっての。お前さん達をあたい達がしっかりと見定めて……わぷっ!?」


「「わあああっー!」」


 しかし、マネが今回同行する目的を口にしそうになり、エクレアとシューが慌てて彼女の口を塞ぐ。


「えっ? マネさん、今何と?」


「ごめん……ちょっと私も聞こえなかったわ?」


「あはははっ! 全然気にしないでね! この莫迦の言う事なんて寝ぼけた発言だから! あは、あはははっ!」


「そ、そうだシ! 今のはマネはさっき起きたばかりの寝言だシ!」


「はぁ……?」


「……大丈夫ですかね?」


「悪いね。あの娘には私からもう一度言っておくよ」


 その後マネはヘキドナに厳しく言われたのか、反省を見せていた。

 冒険の実力を視察するに当たり、気をつけることが本人にそれを気づかせてはいけない事である。

 下手に私はあなたの力を見定めて、それをギルドに報告します等言ったなら様々な問題が起きてしまうからだ。

 一つは相手に良い所を見せようといつもと違う動きや戦いを見せては、自身や仲間達を危険に晒してしまうかもしれない。

 一つは監視者を買収しようとワイロを送るかもしれない。

 一つは自身の悪態の報告をさせまいと監視者を手にかけるかもしれない。

 そう、視察される者も監視する者にとっても、事実を告げる事は互いにデメリットしか生まないのだ。

 今回はある意味知った者同士だけにそんな事は無いと、ネーザンからの配慮である。

 ヘキドナ達ならば、下手な買収や贔屓目無しにプルン達の力を見定めると判断したのだろう。

 街まで移動するのに人数が増えたが、移動は馬車などを使う訳ではないので問題もない。

 ギルドを出た後、人目の少ない裏路地へと移動。

 流石にミツの力がそこそこ知れ渡ったとしても人通りの多い場所での移動はしない。

 そこでミツのトリップゲートを出し、ディオンアコーの街近くまで移動である。


「皆、あそこがディオンアコーだよ」


「すっげー! ライアングルの街よりデカくねえか!?」


 ミツが指差す先の街は大きく広がり、遠目でも人が多い事がよく分かる。

 リックが先を走り、新たな街に興奮する。


「何だか派手な色の屋根が多いわね!」


「この街は染色が盛んなのよ。だから色が豊富な分、家の屋根や物に様々な染色がされてるわ」


「ローゼ、詳しいな!? 来たことあるのか?」


「違うよトト。お姉ちゃん、この街のことをギルドの受付嬢さんに聞いてたの」


「何だ、そうだったのか」


「染色なら少しお店も回って見たいわね〜。ねぇ、服とか見に行っちゃ駄目かな〜」


 リッコの見る先の家々の屋根は、赤や青、緑等々。それはそれは、色とりどりに屋根が染められていた。

 ローゼはリッコに説明するように、ディオンアコーは染色の盛んな街であることを教える。

 彼女が指を指す先には小屋があり、その近くには様々な染色をした染め物が干され風になびいていた。

 トトの疑問も、ミミは姉であるローゼと共にギルドの受付嬢に街の事を聞いていたのだろう。

 風になびく染め物を見ては、ミーシャは街に目的の物が増えたようだ。

 

 しかし、染め物よりかは花よりだんごとは、彼女達にピッタリな言葉であろう。


「ニャ!? 街まで歩いて直ぐニャ! 先にご飯食べに行くニャ!」


「おっ! プルン、そりゃ良い提案だっての!」


「はぁ!? マネ、あんたさっきまで食べてたのに、まだ食べるつもりなの!?」


「アッハハハ。あんなの腹の3割にも届かないってばよ」


「ウチもあれだけじゃ足りないっちゃ」


「底なしだシ……。でも、ウチもお腹空いたシッ!」


「うわっ!? ちょっとシュー、分かったから押さないでよ!?」


 プルンの言葉に賛同する声を出すマネとライム。

 朝食としては食べ過ぎているような気もする量を二人は食べていたのだが、やはり新しい街で出会う食事などに興味をそそられるのだろう。

 シューも自身の小さなてをエクレアの背中に添え、彼女を押すように駆け出す。

 駆け出す仲間達を追いかけるように、ヘキドナの手もミツの肩にそっと軽く添えられた。


「坊や、取り敢えず街に行こうじゃないか」


「はい」


 ミツがディオンアコーの街に足を向けた頃、偶然にも近くの街道に差し掛かる場所の山道にて一人の人物が歩く。

 彼女のツインテールの髪や着ている服はボロボロ状態であり、その辺で拾ったであろう木の棒を杖代わりと歩く一人の女性剣士。

 彼女の名はネミディア。

 レオニス王子の命により、フロールス家に現れたと言われているトリップゲートの使用者の情報集めと、数日前にセレナーデ王国の城から飛び出し消息を断っていた人物である。

 道中、乗ってきた馬には逃げられ、探し回っている間と自身の今いる場所がわからないと気づいた時には、迷子になっていた。

 見つからない馬は仕方ないと諦め、南に進めば良いと思い彼女は立て札を頼りに道を進む事にしたようだ。

 しかし、彼女は不運な道を進んでいた。

 道中、モンスターに襲われ、そのまま川に落ちては着ていた鎧で溺れそうになり、路銀を川に落とすなどの正に不幸を背負って歩く剣士。

 そんな彼女でも、カツカツと言う靴音だけは絶やすことはなかった。

 

「はぁ……はぁ……くっ。間違いなくフロールス領地に入ったはず……。田舎領地と言われても、これ程何も無い領地とは……」


 貴族の娘でありながら彼女の心はそんな貴婦人の様な心得は無く、男勝りな性格。

 だからこそ、今の自身の身なりも乱れボロボロであろうと、彼女は託された命令のみを遂行するためとフロールス領地に向けて足を勧めていた。


「ああ、分かれ道……。どっちがライアングルの街の道なのだ? おのれ、道標の矢印が壊れてるではないか! 全く、領地を保つなら庶民の困ることなく、小さいところまで手を回さぬで何が領主だ!」


 ガンガンと手に持つ木の棒を壊れた立て札に叩きつけるミディア。

 しかし、その怒りもすぐに無くなり、空き過ぎた腹に手を添えては腹の音を掌に感じてしまう。


「くっ……腹が空き過ぎて怒る気力も出ない……。取り敢えず……」


 ミディアは手に持った木の棒を地面に刺し、カランっと軽い音を鳴らし、倒れた木の棒の先を見る。


「こっちか……。待っていろ、ロストスキル使用者! 絶対にお前の情報をレオニス様へと……。待てよ……。考えてみたら私はその者の名前も知らぬ……。いや、その前に男なのか? 女なのか!? ……んんんっんんんっ!! ええいっ! そんな事は如何でも良い! ロストスキル何で凄い奴を使う奴だ! きっと背が高くて、イケメンで、もしかしたら私にご飯をご馳走してくれる良い奴かもしれん! よしっ! 何だかそう思うと足が軽くなった気もする! 行くぞ、我、ネミディアはロストスキル使用者の情報を集めるのだ!!!」


 またトボトボと彼女は歩き出す。

 トリップゲートの使用者の特徴も知らない彼女は気合を入れ直し、街道のある方角とは関係ない森の方を指し示した木の棒に従い、薄暗い森の中へと消えていってしまった。

 偶然にも誰にもすれ違わなかった事も彼女の不運が招き入れたのか、それともたまたまの偶然なのか。


 ディオンアコーの街に入る際、ミツ達は冒険者として冒険者カードを門番に見せる。

 その際、やはりミツのグラスランク冒険者カードと、シューのアイアン冒険者カードを見た門番は二人を二度見する驚きを見せてくれた。

 やっぱりなと、門番の反応が予想できていたのか、リック達からは笑いが溢れている。


「あの門番、失礼な奴だシ!」


「シューさんの仰る通りです!」


「まぁまぁ、そんな怒んなっての。……ブッ! アッハハハ! 姉さんやアタイらならまだしも、あんたら二人じゃぁね……。アッハハハ!!」


「マネ、お前は笑い過ぎだシッ!」


「全くです! シューさん、人を小馬鹿にする様な人は放っといてご飯に行きましょう」


「うん、そうするシ」


「アッハハハ……えっ? ちょちょちょちょ!? 二人とも、冗談じゃないか」


「「ジトー」」


 不機嫌になってしまったミツとシューを慌てて宥めるマネ。

 街に入って早々にこの慌ただしさ。

 やれやれとヘキドナはこめかみを指先でコンコンと軽く小突く。


 街に入って直ぐに目に付いたのは街の人たちの衣服の鮮やかさ。

 ライアングルの街の庶民ならば服の色は茶色やグレーなど、正直華やかさに欠ける服装が一般的である。

 しかし、この街では赤や青等の明るい色を着こなす人が目立つ。

 そう言えばと入り口にいた門番の服装も染色で染められているのか、遠目でも分かる明るさである。

 全員が全員では無いとしても、何だかミツ達の集団が茶色や黒と言う、例えるならおでんの練り物集団に見えてしまう。

 新しい街に来たからと言って直ぐに物珍しい食事にありつけるわけもなく、いつも街で食べている物と変わらない朝食を済ませ、一行はディオンアコーの冒険者ギルドへと足を向ける。

 冒険者ギルドへと入るといつも使っているライアングルのギルドとはやはり雰囲気が違うのか、少し物珍しく見えてしまう。


「ブロンズランクの方を募集してます。一緒に近隣の村に現れたディモグラを退治しませんか! 報酬はモンスターを倒した分お渡しできます!」


「勇敢たる前衛を募集しておる! 条件はアイアン以上、モンスターの攻撃から後衛を守るだけの簡単な仕事だ! アットホームなパーティーメンバーが君を待っているぞ!」


「只今人数問わす、人、獣人と身体の丈夫な人材を募集してまーす。簡単な荷物運び、ウッドランクの新人さんでもできるお仕事ですよー」


 依頼を貼り付けた掲示板の近くでは、声を出し、臨時のメンバーを募集する声が聞こえる。

 でもその内容にミツは直ぐに苦笑いを浮かべボソリと本音を口に出してしまう。


「うわっ……胡散臭」


「坊や、どうしたそんな面して」


「いや、今聞こえた募集内容に少し違和感が……」


「ふ〜ん。例えば?」


「……えーっと。先ずはあのディモグラの退治を募集してる内容ですが、倒した分報酬を渡せると言ってましたよね? つまり、それは自身が一匹も倒すことができなかったらお金は貰えないタダ働きになるって事ですよね……。それとその隣で声を上げてたあの体の大きな男性が言ってた方ですけど、戦うモンスターが何なのか分からないのに、モンスターから後衛を守るだけって簡単な事じゃないと思うんですよ……。最後にあそこの女性が言ったことですけど……。あの人は簡単な仕事と言ってますけど、態々人数を問わない数の人を集めないといけないと言う事は、作業自体は簡単であっても、危険が無いとは言ってないから、あの中ではあの女性の募集内容が一番危険なんじゃないかなと……」


「フッ。坊や鋭い賢い考えじゃないか」


「シシシッ。あんな募集内容を声に出してたら、ライアングルの冒険者ギルドでは直ぐに鬼のエンリの注意が飛ぶシ。それを考えたらここのギルドのレベルが低い事が分かったシ」


 エンリエッタの鬼の形相、シューのその言葉ば簡単に想像できてしまう。

 エンリエッタの居るギルドで、近くで行っている勧誘方は彼女の注意を受けるのは間違いないだろう。


「まぁ……。ここに入って早々に私達に向けられる男の視線が気持ち悪いもんね。職員が居ても関係なしって奴ばっかじゃないかな」


「フンッ! ウチは喧嘩ならいつでも受けてやっちゃ!」


「おいおい、ライム。あんな奴ら相手にしても銅貨1枚の価値もないってばよ。相手にするだけ無駄無駄。それより、そう言えばミツ達はこの街に何しに来たっての?」


「マネさん、自分の狙いはアレですよ」


 掲示板に貼られた依頼にミツが指を指すとマネはそれを見る。


「んっ? ほ〜。ジャーマンスネイクの討伐かい。へっ、アタイ達でも相手にしたくないって言うのに、あんたはそんな気にもしてない顔してくれちゃってよ」


「マネさん、別に気にしてないことも無いんですよ? ジャーマンスネイクの危険度が高いモンスターなのは、プルンやナヅキさんからも教えてもらいましたからね」


「シシシッ。でも、あれは難易度が高すぎて依頼はあの子達は受けられないよ? ミツがこいつを倒す間にお前達はどうするシ?」


 シューは振り向き治り、後ろにいるリック達の言葉を聞こうとするが、隣にいるミツが代わりとその返答をする。


「シューさん、自分は元々このギルドを通してあの依頼を受ける気はありませんよ。自分達は森の中で偶然あれに遭遇して、仕方なく戦うかもしれませんからね。目的の一つとしても、出会ってしまったらそれは偶然ですからね」


「「……」」


「呆れた坊やだね……。そんな事を考えてたのかい」


 言葉を失いミツを見つめる二人。

 彼はモンスターとの遭遇は偶然の出会いと言うが、ミツならばモンスターを探し出すことなど可能かのだろうと、確信はなくとも彼女達をそんな気に思わせてしまう。


「あっ!」


「プルン、如何したの?」


 掲示板に貼られた依頼はプルン達の住むライアングルの街のギルドの依頼とは内容も違う為に目ぼしい物を探していたのか、プルンは一つ気になる依頼を見つけたのか声を上げ、それを手に取る。


「ミツ、これを見るニャ!」


「えっ? えーっと……デルデル魚の討伐。川に繁殖したこのモンスターの討伐を依頼する。数は問わない……。おおっ! デルデル魚だ!」


「ミツ、運が良いニャ! これも一緒にやれば爺の言った奴が二つ一気に片付くニャ!」


 プルンが見つけた依頼は、ガンガから言われていた素材の一つ、デルデル魚の討伐である。

 棚からぼたもちとはこんな時に使う言葉なのか。ディオンアコーの街のギルドの掲示板に、まさか求めていた素材二つを見つけるとは。


「うん! プルン、これも一緒にやっちゃおう!」


「なんだい、その魚もお前さん達の狙いの獲物だったのかい?」


「はい、そうなんですよ」


「なあ、そのデルデル魚って何だ? 討伐依頼が出るってことは、それもモンスターなんだよな?」


「そうね? 私スヤン魚なら聞いた事あるけど、デルデル魚なんて私は聞いたことないわね」

 

 生息地も関係するのか、リックやローゼはデルデル魚に関してそれ程知識は無いのだろう。

 そこにズッと二人の間に入ってきたシュー。

 彼女は腕組みをしながら不敵な笑いをこぼし、一つと指を立てる。


「フッ、フッ、フッ。まだまだ物事を知らない君達に、特別にウチが教えてやるシ。まずデルデル魚は魔法を使うモンスターである事を頭に入れるシ。ただの川魚だと思って近づいたらそれは危険。鳥や虫を魔法で撃ち落としては集団でその獲物を食いつくし、食べた獲物の骨も残らない危険な魚だシ。スヤン魚がウッドランクから受けれる依頼だとしたら、デルデル魚はブロンズから受ける依頼と思うシ」


「おっかねえなー。スヤン魚と同じ魚なのに、全然違うんだな」


「その依頼が出てるって事は、この近くに川とかあるって事だよな? よし、早速釣りができる道具を何処かで手に入れようぜ」


「大丈夫よリック、ギルドの方で道具は安値で買えるわ。と言っても私達は以前使わなかったけどね」


「そう言えばあの時、ローゼ達はミーシャが使った氷壁で魚を囲って捕まえてたニャ! ニャら、今回もそうするニャ?」


「それは難しいシ。川と言っても、浅い所にはデルデル魚はいないシ」


「アレってよ、確か深い川底とかに居なかったか? しかも相手はモンスターだぞ。下手に氷壁で追い込んだら、抵抗と魔法がバンバン飛んできてお前らが危ねぇってばよ」


「なら如何すっかなー」


 シューとマネが改めてデルデル魚の危険性をリックに教えると、彼は腕を頭の後ろで組み考える。


「はぁ。リックは相変わらず莫迦ね。別に普通に釣り上げて上がった所を仕留めれば良いだけよ」


「おっ。そりゃそうだ」


「それじゃデルデル魚は依頼を受けて、ジャーマンスネイクは見つけたら倒すの方で良いかな?」


「「「賛成!」」」


「ウチが受けてくるニャ!」


 プルンはデルデル魚の依頼を受けるためとカウンターへ走る。

 

「ははっ……。リーダー、なんだか少年が言うと大物の方がおまけ的に聞こえませんか?」


「フンッ。あたしは知らないよ」


 ミツ達はデルデル魚とジャーマンスネイク、この二つの討伐に出向くことになった。

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