第198話 アーネストナイト、ネミディア見参!
この話は、まだミツとアベルが出会う前。
そしてヒュドラを討伐する前の前提としてご覧ください。
セレナーデ王国からアベルが出国したその日、王の謁見の間は騒がしくも緊張が走っていた。
「全く、何と言う事をしたのか……」
「アベル様が動き出したということか……」
「トリップゲートの使用者であるその者をアベル様が連れ帰れば、硬直した場が動きだしますな……」
「しかし、もし連れ帰る事を誤ったとしたら……」
「逆に長兄様の有利と場が走るであろうて……」
「モズモ殿が手引きしたとの話もございます。でなければ、アベル様の騎士団団長がこの場に残される事が不可思議な事……」
ざわざわと次第と話し声が増えていく。
中には沈黙を貫き、この場で口を開くことを控えるものがいた。
だが、勿論口を閉ざした者たちですら、心の中では動揺が走り、アベルやモズモの動きは無視できない事である。
そこにコツコツと靴音を立て王座に座る一人の人物。
その者が姿を見せると、謁見の間は静寂が一瞬にして満ちる。
「報告を」
静かに、そして短くもその言葉。
状況の報告をする者にとっては息苦しくなる思いの報告であったろう。
「はっ! ご報告いたします! アベル王子、モズモ様、両名は昨夕より馬車にて城を出立、ご自身の騎兵部隊、三割数の兵と共に馬を走らせたかと思われます。また、騎兵部隊団長はその報告を受けておらず、バロン副隊長の独断の判断として、率いる部隊のみが護衛としてつけられております」
「……目的は」
「はっ! フロールス領地に走り去る数百の影、見張り塔の者が多数確認しております。間違いなくフロールス領地に現れましたロストスキル使用者との接触かと……」
ざわりと場に動揺が走る。
するとその中の一人が声を上げ、報告を止める。
「お待ちくださいませ!」
しかし、その者の発言を止めようと、中央の通路を挟み、反対側の貴族の中から一人の男性が声を上げる。
「王への報告の途中に口を挟むとは!? 王に対して不敬と思わぬか!」
「申し訳ございません……。しかし、アベル王子のむかわれた目的は未だ不明……。状況の確認も取れぬまま確信的な報告には意義を申し立てたい。カイン王子もそのフロールス領地に足を向けられております。ご低愛されます弟君に会いに行かれたとは考えませぬか!?」
「フンッ! フロールス家主催であります武道大会に出向かれておりますカイン王子との接触が目的ならば、騎兵部隊を出す目的はございません。さらにモズモ殿は、カイン様と共にされておりますマトラスト辺境伯の報告後より動きを見せております! これは明らかな王に対しての不敬たる行為! 即刻兵を出し、モズモ殿、またバロン副隊長一行たる兵の捕縛、そして王子アベル様より審問と聞き取るべきかと」
「王子に対して審問とはいかがなるものか!? 貴殿こそ不敬樽発言を改めよ!」
「何を!? 私は正当たる判断としての発言! 無知たる己をここで見極めるべきではござらんか!?」
今にも腰に携えた剣を引き抜く程のバチバチとした互いの関係。
お気づきかと思われるが、明らかに派閥争いが目に見えている状態。
片方はアベルの功績を望み、時間稼ぎをするもの達。
片方はアベルの足を引きずりおろし、モズモ共々消し去る者たち。
同じ国に住む者同士に何とも醜いことか。
報告を聞くだけだと言うのに、王の頭を悩ませるこの重鎮達を止める声がその場に響く。
「何を騒いでおるか!」
「「「!?」」」
「五月蝿い、お前達の声が扉の外まで聞こえておるぞ!」
彼が入室したと同時に、言い合う話し場は静まり返り、スタスタと王の前に立つ者。
彼の名はレオニス・アルト・セレナーデ。
カイン、アベルの兄であり、王位継承権第一位に座る男である。
「レオニス様!」
「王の間にて、貴様らは互いの意見にて攻め合うことしかできぬのか!? アベルの話は俺も聞いた。王よ、このまま奴らの好きにさせてはこの様に政治としても秩序が乱れます。捕縛とまでは行かずとも、直ぐに戻る様に馬を走らせるべきかと。また、当初の予定通りにアルジャン公爵の者を改めてロストスキル使用者の迎えとして送るべきでは」
「……いや、既にアベルが向かったのなら追い手を向かわせることもない。数日には連れ戻るであろうて」
「「「!?」」」
「……承知。ではアルジャン公爵には私めが連絡を入れておきます。失礼」
黒いマントを翻し、レオニスは周囲の者には目を向けず王の間を退出する。
アベルの行いにそれ程大きな反応を見せなかったレオニスの態度に、互いに言い争いをしていた貴族たちは水をかけられた思いと冷静になっていく。
アベルやモズモへ兵は向けられなくとも、今回ミツを共に城へ連れ帰る事ができなかった事に対して、後に彼らは厳しい立場となる事に変わりないだろう。
少し早歩きにて自室に戻るレオニス。
部屋に戻ると同時に室内の椅子が強く蹴られガタンッと音を鳴らす。
「糞っ! 愚弟のアベルめ! 何故にお前が出向くのだ! 糞っ! 糞っ! 糞が!」
彼しか居ない部屋にてレオニスの声だけが響く。
そこに部屋をノックする音。
コンコン コンコン
「誰だ!」
「私でございます」
「……入れ」
「失礼します。おやおや、ご機嫌が少々悪いときに来てしまいましたかな」
部屋に入ってきた男は40~50代程のヤセ型の男。
派手な帽子や服装、ちょび髭を生やし少し顔色が良くはない。
その者は鼻息荒く荒れているレオニスを前にしてもそれ程動揺を見せてなかった。
「フンッ……。五月蝿い。でっ、大臣よ、先程の王の発言、お前はどう考える」
「はい。現状は弟君でありますアベル様の行いに呆れた場の雰囲気もありますが、王はそのことを気にせずとアベル様、またモズモどのへと罪は考えておりません。寧ろ行動に移した彼らを評価しているのではないかと」
「くっ! 俺は王の命で態々遠方へと出向き、数日とこの城を開けていたのだぞ! それなのに何故アベルが取った行動が責められん!? 俺もこの城に残っていたなら馬を走らせ、田舎領地だろうと向かっておったわ!」
レオニスはまた椅子を蹴り上げ、怒りをぶつける。
(何が王の命で態々ですかねー。自分から言い出して出かけたんじゃないですか。しかもその本当の理由が田舎潰した賊を皆殺しに行ったんでしょうが。帰りはしっかりと近くの街で女遊びをして。情報はちゃんと来てますからね。全く、この戦莫迦は)
レオニスは兄弟の中でも一番血の気の荒い者である。
外交は力こそ全てと、賊の討伐などを他の貴族の代わりと出向く程。
旗から見ると危険な場所に王子が向かうのかと思うだろうが、彼自身戦闘を好む戦闘莫迦であり、模擬戦といえども相手に剣を向けることに躊躇いなど思わぬ荒れた性格の持ち主でもある。
代わりに族を退治してくれる貴族にとっては自身の街や村の人を出さずに済むので助かる話もあるが、彼は代わりに出向く見返りが大きすぎるのも悩みの種でもあった。
物資は勿論、移動中の食事などをそこの領主の貴族へと制球するのだが、中には兵の為の女までも要求する事などよくある事。
自身の領地から兵を出し、自身で族退治をした方がよっぽど安上がりに済むこともあるのだ。
しかし、レオニスの王族としての命令も無視できない。
仕方ないとは言え、領地の貴族達は族が出た事は黙ったまま討伐してしまう事が多くあるのだ。
「まあまあ、落ち着きなさいませ。確かに今回アベル王子に先手を取られたことは我々にとっても痛手。本当にロストスキル使用者が実在し、彼らが連れてきたら……ま〜大変ですね。アベル様の株はグリフォンの様に上り上り、レオニス様の手も届かぬ場所に……。失礼、少々口が過ぎました」
「ぐぬぬっ……。おい! 何か良い作は無いのか!」
大臣に向けられたレオニスの瞳は怒りに満ちていた。
大臣は顎に少し手をやり提案を出す。
「ふむ……そんなに邪魔だと思われるなら殺してしまえばよろしいではありませんか。暗殺、毒殺、命じて頂ければ暗部を送り込むことなど容易いことです」
王族に仕える大臣がまさかの発言。
しかし、大臣の性格を今更気にすることもないレオニスは、その提案をサラリと流す。
「……。それは俺が詰まらん。あいつが生きている状態でこそ、奴をギャフンと言わせなければ、俺の気がすまん!」
「左様で……(はいはい、他人は簡単に殺せても身内は手をかけたくないって事ですね。我儘って言うか面倒くさい人だよ)」
「おい、今お前俺に何か思ったか?」
「はい、面倒くさい人、ゲフンゲフン! いえ、弟君を思いやる、野心溢れるお方と関心しておりました」
「そうか……。しかし、暗部を送り込む事はなしとしてだ……。そのロストスキル使用者の情報は欲しいところだ」
「はい。情報があればその者を我々が操る事も容易いことですな」
「よし、アベルが向かって間もない! 即刻情報を集める為の者を送るが良い!」
「ははっ! それではレオニス殿下の私兵の中から優れた者を……」
「莫迦者!」
「アベシっ!」
恭しく頭を下げる大臣の頭にスパンッと音がなる。
「俺の私兵を使ったらすぐ足が付いてしまうではないか! もっとその辺の兵を使え。そうだな……、できれば体力莫迦が使いやすいかもしれん」
「おー、いてぇ……。失礼。……では、最近入りました新兵など如何でしょう? 城に使える新兵ならば体力も並の兵以上。それにレオニス様直々の命令ならば駒としても使いやすいかと」
「新兵か……。良かろう、直ぐに連れてくるが良い!」
「はっ!」
一刻後。
コツコツと言う、鉄の靴が地面を鳴らす音の後、扉が開かれる。
「レオニス様、連れてまいりました」
「早すぎないか!? いや……。その分お前が有能な大臣と言う事だろう……。でっだ。その者がそれか……」
「はい。こら、レオニス様の前ぞ、挨拶をせぬか!」
大臣が連れて来たのは一人の新兵であった。
彼は本当に適当に選んだのか、厠を済ませた後に窓の外を見て、他の兵と共に荷運びをしていた彼女を連れてきたようだ。
「こ、この度は私めに特別な任務をお与えいただきました事に、感謝の極みにございます!」
新人の兵士が身につける兜を取り、素顔を見せる。
紫のツインテールの髪がフワリとゆらぎ、レオニスを前にガチガチに緊張した挨拶をする彼女。
顔は整っており、大きな瞳が印象を受けやすいかもしれない。
また、鎧で胸を潰しているが、横からはみ出た肉が彼女のスタイルの良さを分からせてしまう。
数多く居た兵の中で、彼女だけが直ぐに女だと分かった目ざとい大臣であった。
「うむ。貴様、名を何と言う?」
「はっ! 殿下、私めはネミディアにございます」
「ネミディア……家名は」
「ネミディア・ニコール・シングルトンにございます」
「何っ!? シングルトンだと?」
「おお! 殿下は我がシングルトン家をご存知で!?」
「いや、知らん」
「そ、そうですか……」
レオニスにとっては、ネミディアの家名など興味を引くものではなかったようだ。
「コホン。ではネミディアよ、お前にはレオニス様より特別な命令がある、心して聞くが良い」
一度咳払いを入れ、大臣はネミディアへと命令を伝える。
「……」
「んっ? どうした」
「あの……私めを呼ぶ時はネミディアではなく、ミディアでお願いしてもよろしいでしょうか?」
「……それは何故だ?」
「いや、ネミディアって名前を呼ぶのって長いじゃありませんか? 省略下ほうが大臣様も呼びやすいかなって」
「たった一文字しか略しておらぬわ!」
王子と大臣を前にしてこの娘のこの態度。
呆れた二人は驚きを隠せなかったろう。
思わぬツッコミにはぁーっと長い溜め息を入れる。
「はぁ……。もーよい、それでは今後お前はミディアと呼ぶ。それで良いか」
「はい! ありがとうございます!」
(……大丈夫かこいつで)
ネミディア改め、ミディアの態度に選択を誤ったのではと、沸々と違和感を感じるレオニス王子であった。
これ迄の話を省略した内容としてミディアへと伝え、彼女にミツの情報を探らせる命令を出す大臣。
「なるほど……失われたロストスキルの使用者の情報を集める任務ですか……。かしこまりました! それではこのミディア! レオニス様のご命令を見事遂行いたします!」
「うむ。先に他の奴らには先手は取られてしまったが、お前ならば必ずやこの命令を遂行すと信じておる! 行け、ミディアよ!」
「はっ!」
カツ、カツ、カツと鉄の靴の鳴らす足音が次第と部屋から遠く離れていく。
「おい、大臣。あいつが歩くたびにあの靴音は何とかならんのか」
「はあ……。剣士は靴音を鳴らすものだと言っておりました……」
「……あやつは絨毯の上で如何やって靴音を鳴らしておるのだ?」
「知りません」
その後、ミディアは城で飼いならした名馬一頭に乗り、急ぎ場にフロールス領地へと向かうのだった。
しかし、ミディアは途中その馬に逃げられ、自身の居る場所を見失い、迷子になっていた。
「ぐぬぬっ! このネミディア、一生の不覚!」
そんな事を口にする彼女がミツの情報を得るのはいつの事になるやら。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
日は戻り、レイリーとエメアップリアが国へと戻った次の日。
ミツは黒鉄の鎧を身に着け、冒険者ギルドへと足を向けていた。
「そうかい。教会に冒険者をね……」
「はい。教会は今後王宮神殿の管轄に入ります。こちらが王宮神殿の神殿長の巫女姫様であられるルリ様からの手紙です。どうぞ、お受け取りください」
「うむ。すまないね、態々坊やが持ってきてくれるとは」
「いえいえ、渡すだけなら手間ではありませんので」
ミツはアイテムボックスから一枚の羊皮紙を取り出し、ネーザンへと手渡す。
書面にはプルンの教会が、王宮神殿の神殿長のルリの管轄に入る事が示されていた。
「……。承知したよ。冒険者ギルドからも教会の護衛として依頼を出す事を受理するよ。基本エベラ達の護衛や中の雑務の仕事がメインだね。後は炊き出しの時の人で……まぁ、これならウッドランクの新人にも出せる依頼として丁度いいさね。金の方は神殿に請求するから、エベラ達が困る事も無いね」
「はい。そこが一番助かったのかもしれません。長く見れば冒険者に払うお金も重なって莫迦になりませんからね。ルリ様もあの教会が気に入ったのか、連日と足を向けられたみたいです」
「フッ……。随分なことをやってくれたね、坊や……教会をあんなふうにしちまって」
ネーザンも建て替えられた教会を見ては、その時は唖然と言葉を失ったようだ。
教会を見る周囲の者達は、王宮神殿の奇跡などと言っていたが、ネーザンが真っ先に思いついたのがミツの顔であった。
未だ街の人々の出入りが激しいのか、その時は詳しくエベラから話を聞くことはできなかったが、彼女は内心では確実にミツがやらかした事だと思っていた。
まぁ、その通りなのだが、ミツはあえてすっとぼけた返答を返す。
「さて、何のことやら。神殿の奇跡に自分も感心するだけですので」
「……そうかい。坊やがそう言うならそうしとこうじゃないか」
「ありがとうございます」
「さて。今度はこっちだね。時間がかかったけど、坊やにはこれを返しておくよ。それとこれもね」
ネーザンは以前預かっていたヒュドラの鱗と一枚の羊皮紙をミツへと渡す。
「はい。これがヒュドラである証明書ですか?」
羊皮紙には、素材鑑定書と文面が書かれていた。
「ああ。って言ってもね……。これで本物のヒュドラって証明できるのかは微妙だね……。なんたってヒュドラなんて数百年もの前に討伐されたのが最後だ。しかも……それは子供のヒュドラ。大きさも見た目も違うんだから今回のヒュドラの証明書も頭をかしげる物だよ。取り敢えず竜である事は間違いない事。そしてその価値は高い事は挟めしてるよ」
「いえいえ。何も無いよりかはマシなので。ありがとうございます。あっ、竜で思い出しましたけど、竜を納品しても大丈夫ですか?」
「そうだね。試験所に置いてあったミノタウロスも一通り片付けたし、坊やが持ってる竜を分けてもらおうじゃないか」
「分かりました。えーっと、30体ぐらい出しますか?」
「……はぁ。あんたはここの解体職人を潰したいのかい」
何も考えずに取り出す数を口にすると、流石のネーザンも呆れ顔。
数百ものミノタウロスの解体がやっと終わり、ギルドにいる解体師全員が体力も限界のクタクタ状態だと言うのに、間を置かずにそんな数の竜の素材を渡されては解体師が発狂するかもしれない。
「い、いや、そんなつもりでは。それじゃ
……10体」
「……」
「5体でお願いします」
数を減らしても、ネーザンから向けられる視線が変わらなかったのでミツは両手を広げた手を一つ下げる。
「……まぁ、それぐらいが私としても助かるよ。坊やに渡す金も用意するのは大変だからね」
「別に急いでませんので、お金は落ち着いてから渡してもらっても気にしませんよ?」
「そうは行かないよ。ギルドとしても冒険者が渡した素材はきっちりとその日その場で払う……。いや、まあ……坊やの場合は別としてだね。長々と先送りにして私がボケて渡す事を忘れても困るだろう」
「フフッ。ええ、そうですね。ではそちらも宜しくお願いします。竜は裏の解体小屋に置いていきます」
「分かったよ。それで素材代はあんたが戻ってきてからでも良いんだね?」
「はい。行く所は決まってるので直ぐに戻ってこれると思いますので」
「そうかい。気をつけて行っておいで」
「はい。それじゃ、行こうかプルン」
「ふー。ミツも婆も会話が長すぎるニャ」
先程からミツとネーザンの会話ばかりで、この部屋には二人しか居ないと思われたろうが、実はプルンもミツの隣に座っていたのだ。
「全く、少しは大人しくしてると思ったら直ぐこれだ。プルン、あんたも無理するんじゃないよ」
「部屋の外で待ってても良かったのに」
「ここならお茶も出てくるから気も楽ニャ。ギルドの横の酒場はお茶飲むだけでもお金払うから贅沢ニャよ」
「節約はいい事だけど、お茶飲むだけならリッコ達と待ってれば良かったのに。少し前には、もうギルドに来てたみたいだよ」
「ニャッ!? ミツ、それを早く言うニャよ」
「それではネーザンさん、行ってきます」
「婆、行ってくるニャ! またたっぷりと素材持って帰ってくるニャよ!」
「はいはい、怪我だけはするんじゃないよ」
騒がしく部屋を出ていくプルンにネーザンは口を酸っぱくして注意を促す。
スタスタと階段を駆け下りる二人を視線が集まるが、それは仲間たちの視線である。
「おっ、二人とも、ギルド長とは話は終わったか?」
「うん。もう少し待っててね。裏の解体小屋に素材置いて来るから」
「おう。そんな慌てる事ねえぞ」
「うん。分かった、行ってくるね」
ミツが一言残し、その場を離れる。
彼の後ろ姿を見ていたプルンへとリッコが話しかける。
「プルン、教会の方は離れても大丈夫なの?」
「大丈夫ニャ。今日は神殿のお偉いさんは来ないってミツが言ってたし、教会を見に来る人も落ち着いて来たからエベラにはちゃんと許可も取ったニャ。それに……。何でもないニャ!」
言葉を止め、無理矢理に笑みを作る彼女にリッコは問いただす言葉は出せなかった。
「……そう。……プルン! 今日は暴れましょう!」
リッコはフンスと力こぶを作る様にプルンへと見せる。
彼女の優しさが伝わったのか、プルンはリッコの腕に自身の腕を回し力こぶを見せる。
女の子がやる事ではないと思うが、周囲からはそんな二人に笑みが向けられていた。
「……分かったニャ! ウチ、暫く暴れてなかった分も頑張るニャ!」
「フフッ。元気ね〜、二人とも。でも私も二人の気持ちが伝わっちゃったら張り切っちゃうかも〜」
「おいおい、ミーシャ、張りきりすぎて魔力切れなんか起こすなよ」
「そ、そうですよ。ミーシャさんは無茶しちゃ駄目ですよ!」
「あら、それだとミミちゃんは私とプルンは無茶しても良いって思ってるの?」
「は、はわわ!? そ、そんなつもりでは。ごめんなさい、ごめんなさい!」
「いや、そこ迄謝らなくても……」
「リッコ、あまりそう言う事を言うものでは無いですよ。すみませんミミさん。リッコも悪気はないと思いますので許してあげてください」
「いえ! いえいえいえ! 私こそすみません!」
今回の冒険にはトトとミミも参加している。
同じパーティー、仲間となった二人も同行し、親睦を深める為でもある。
そんな彼らのやり取りを見ていたローゼに、リックが話しかける。
「……」
「どうした、ローゼ?」
「いや、あんた達三人兄妹の中で、何だか彼だけが大人びてるなと……」
「ああ、リッケは元からあの性格だからな……。んっ? おい待て……。その言葉だと俺は子供だと思われてるのか!?」
「あっ、気づいた?」
「お前っ!?」
アハハとじゃれ合う二人も久し振りの冒険に少し浮かれているのか。
テンションが少し高めなやり取りが行われていた。
竜の素材、既に血抜きを済ませた五体分の亡骸を解体所に渡し、ミツが戻ってきた。
「お待たせ。それじゃ皆、行こうか」
「よし、新しい街に行くぞー!」
「「「「「「「オー!」」」」」」」
彼らの掛け声がギルドに響く、
ナヅキ達から向けられる微笑ましい物を見るような視線が少し恥ずかしい。
彼らが向かう先はミツの目的としたモンスターが居る街。ディオンアコーである。
ジャーマンスネークが出没すると言う情報のある街へと、彼らは新たな冒険に向かう事になった。
しかし、そこにバンッとギルドの扉が開かれる。
「ちょっと待ったシー!」
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