第194話 新しい教会と新居
シャラシャラと鈴の音に周囲の注目を集めるルリ。
彼女が皆の視線を集める間と、ミツは教会の中へと一人入る。
「急がないと〈影分身〉」
自身の分身を出す〈影分身〉スキルを発動。
彼は直ぐに出てきた分身にも同じスキルを使う事をお願いする。そしてそれを数回行う。
14人となった分身達にミツはこれからの流れを確認しつつ、それぞれを持ち場へと振り分けていく。
「5人は居住する家を担当、残りは自分と教会の方をやるよ。それじゃ、皆はローブを取らないように気をつけて」
ミツの言葉に各々が首を立てに振る。
教会の外ではルリの祈りが終わったのか、鈴の音が止んでいる。
「「神に教会を作り変える許しを得ました。どうぞ、皆様の祈りをもう一度教会へお向けください」」
ルリの言葉に恭しく頭を下げるエベラ達。
彼女達は身を返し、教会の方へと祈りを捧げ始める。
「この様な儀式、今迄行った事あったか……?」
「いえ……。先程巫女姫が踊った舞は年祭での舞かと……。それよりも殿下。彼の姿が教会の中に入ったきり、姿を見せておりません。私はそちらの方が気がかりでございます……」
「マトラストの言葉に俺も同意見だ……。あの者、次は何を……」
マトラストの耳打ちにカインは訝しげに教会の方へと視線を向ける。
すると教会の中から白いローブを被った人々(ミツの分身)が出てきた。
カイン達は彼らの姿を見て目を丸くしてしまう。
何故なら、ルリを含めて、護衛兵も全て外に出ていたはず。
周囲の護衛兵が警戒心と疑問を思っていると、先頭を歩くミツがローブを取り顔を見せる。
「皆様、これより少々埃がまい散りますが、どうかお許しください。それでは、王宮神殿のルリ様の祈りが神に届きましたことを証明させて頂きます」
先頭のミツが顔を見せた事に、更に後ろに居る者達が誰かと疑問に思う面々。
その疑問とする中でアベルがミツに質問する。
君の後ろに居るのはフロールス家の者でも、ここの教会に住む者でも無いようだが、彼らは誰かと問う。
するとミツの正面に立つアベル達だけが見える程度に、分身達が少しだけ被っていたローブを上げ、彼らは顔を見せる。
「「「「!!!」」」」
目の前の少年に瓜ふたつの人物が目の前に並んでいる。
驚きすぎると人は言葉を出せなくなるのか、彼らは口を鯉の様にパクパクさせていた。
そう言えばと彼らが分身を見て真っ先に思いついたのは先日の戦いで見せたミツそっくりな人物であった。
改めてアベルは彼らは君の仲間かとミツへと問いをかける。
ミツは素直にはいと答え、更に彼らは自分と同じ力を持つ、頼もしい仲間ですと返答する。
ミツの言葉の意味を直ぐに理解した者は絶句であろう。
少年一人でも既に国が相手するには困難する者である事は嫌なほど理解している。
それが10人以上だ。
周囲の様々な思いが込められた視線を受けつつ、ミツは後方に立つ分身へと〈念話〉を使い指示を送り始める。
ミツが言葉を出さずに動き出す分身の姿は、王族を守る護衛兵達に無駄な警戒心を与えてしまったかもしれない。
直ぐにマトラストが兵へと構えを解く言葉を彼らに飛ばした事に、その場の緊迫とした空気は霧散するように消えていく。
「始めます」
ローブを被った数人が教会と周囲の空き家へと手を添える。
その瞬間、教会と空き家は光だし、グニャリグニャリと姿を変えていく。
「「「!?」」」
突然目の前で起きた事に唖然とする人々。
教会が光出したと思えばその姿は大きな岩と大量の木材、そして土と腐敗した草木が山となって姿を見せる。
中には教会を囲む壁を肩車をして中を覗き込んでいた人も居たのだろう。
壁も無くなってしまったので、護衛兵の厳しい視線を彼らは受けそそくさと人混みに隠れてしまった。
「家が……教会も壁も消えちまった……」
街の庶民だろうか、そんな誰かの声が静寂となったその場には皆の耳に届く。
次第とざわざわと声が広がり、何だ何だと周囲に動揺が広がる。
だが、その声を一気にかき消す音が周囲に地面を揺らす振動と共に響かせた。
ドーン! ドーン! ドーン!
ドカッ! ドカッ! ドカドカドカッ!
ガラガラガラガラ!
「きゃぁ!」
「うわっ! 何だ!?」
振動と耳を塞ぎたくなるような大きな音に怯える人々。
彼らが次に目にした物は、次から次と、どこから取り出したのか大きな岩と廃材の山々だった。
それを次々と教会の跡地に置き、空き地と空き家だった所まで様々な物を置いていく少年の姿。
唖然とするのはその資材の量もだが、岩などを置いている少年と背丈の近いローブを被った者達のその行動である。
あきらかに人の手では運ぶ事の不可能な大きさの岩、重さで言うなら500キロはあろうかと思う岩などを、たった二人だけで場所を移動させているのだ。
虫などの蟻は自身の50倍の重さの物なら運ぶことは可能だが、人間など亜人種でも自身の倍の重量までしか持つことはできない。
更に目の前の二人の様にえっちらおっちらと簡単に動かすことなど不可能である。
「失礼します……。今から教会を立て直します。皆様、少しこの場からお離れいただきますでしょうか……」
「うむ……引け……」
分身の一人がアベル達へと、その場を離れることを促す。
その言葉を受けたアベルは兵へと手を振り、路地の方へと移動を始める。
野次馬を後退させるに時間が取られることもなく、ルリ達は路地の方へと移動を済ませた。
元教会があった場所と、空き家2軒分。
そして空き地を合わせると、かなりの広さになるが、この場全てを建物で埋め尽くす訳ではない。
元々この教会には小さな畑も敷地内にあったのだ。
しかし、今までその畑で作っていた作物を買い取っていた獣人の村人がパタリと姿を消し、作物を作ったとしても、誰も買い取ってくれなくなってしまった。
更にその作っていた作物は獣人専用なので、人が食べては腹痛を起こす食べ物。
街の市場では買い取りても見つからずの品。
貧困とした時期もあったこの教会だが、その時獣人であるプルンは、人族である弟妹をさしおいてそれを食べる事は絶対にしなかった。
貧困から脱却したこの教会ならば、もう教会で畑仕事など不要だと思うだろう。
しかし、畑はあって困るものでは無い。
エベラの頼みもあり、井戸小屋近くの敷地は以前より大きめの畑にすることにしている。
何を育てるかは彼女達の自由である。
教会の周りの壁が無くなった事に風通しも良くなったのか、砂塵が吹き荒れる。
「お、俺はまだ寝ぼけているのか……」
「はははっ……だな。俺もお前もまだきっと昨日の酒が抜けきってねえんだ……」
「だよな、そうだよな……」
現実逃避をするような発言がちらほら。
その発言にクスリと笑みをこぼすミツは、これから作る教会のイメージを思いつつ、分身達へと一言添えて、彼らに目配せを送る。
人形や家具を作るとは違い、建造物をイメージするのは難しい。
なので、一つの建物を分身と分けて作る事に。そうする事にイメージがごちゃごちゃとせず、予定通りの教会ができる事をユイシスにアドバイスとしても貰っている。
もしかしたら途中でMPが足りなくなるかもしれない。
そんな時の為に分身の二人は待機してもらい、ミツはアイテムボックスからギーラから貰った青ポーションを取り出し懐に入れていた。
「皆様、今一度神に祈りを」
「「「神に祈りを!」」」
その言葉を合図とミツと分身が合わせて声を出し〈物質製造〉スキルを発動する。
対象となった資材や岩などが虹色に光だしグニャリグニャリと形を変えていく。
「おおっ!」
「な、何を!?」
「「「……」」」
資材が突然光りだした事に思わず言葉を口にする者、疑問と警戒心を上げる者様々だが、殆どの人達は口を開き唖然とするしかできなかったかもしれない。
グニャリグニャリと動いていた資材などは次第と動きを止め、光だけがぐんぐんと高く上がっていく。
この現象に思わず護衛の人達はアベルやカインを守る為に前に立つが、見えぬ、邪魔だと言われ逆に彼らから離れている。
こらこら、二人とも王族なんだから大人しく守られていなさい。
建造物となると少し時間がかかったが、次第と光が収まり、建て直された教会が姿を見せる。
「「「「「!!!」」」」」
周囲の驚きもそのままに、ミツはエベラ達の側に、そして彼はそれっぽく膝をつく。
「皆様、神の御業はここに。シスターの皆様、おめでとうございます。皆様の祈りは神にお答え頂きました。この教会にて、また日々神に祈りを捧げることが貴女方の善行でございます」
「はい。私達は誠心誠意、心より尽くさせていただく事をここに誓わせていただきます」
「「「「「「誓います」」」」」」
「それでは教会の踏み入れは先ずは王宮神殿の神殿長様よりお願いします。後に皆様もお入りください。中を広く造り替えてますので、先程入りきれなかった護衛の皆様も入ることは可能となっております。ダニエル様、お手数でございますが、外の護衛はフロールス家の兵の皆様にお願いいたします」
「……う、うむ。任されよ。トスラン、ゼクス」
「「はっ!」」
ダニエルは私兵のトスランとゼクスを呼び、教会の周りをフロールス家の私兵のみで守りを固めさせる。
あまりにもありえない出来事に動揺するものがいるが、ミツの言葉の後にルリが動き出し、それに続くように王宮騎士団の彼女たちも動き出す。
ルリを守る彼女達は、警戒心よりも目の前で見せられた奇跡に高鳴る自身の鼓動を落ち着かせることに必死なご様子。
特に驚いているのはルリを護衛している二人の女性、レイアとアニスだろうか。
彼女達もルリと話し場に立ち会った時、ミツが砂盤で模型として作り上げた建物と外装がそっくりそのままなのだから。
新しく創り上げた教会はミツがTVで見たことのある教会をイメージしている。
流石に大きな教会などは土地面積などの問題もあるので造れないが、彼が最適と思える教会が目の前に建造された。
ちなみにミツがイメージとして使った教会は、ドイツにある聖イシュトヴァーン大聖堂である。
一時期ドイツのソーセージやチーズなどにハマっていた彼は、映画にも出てきたこの大聖堂を一番に印象深く覚えていたようだ。
と言っても内装が事細かく映されていた訳もなく、写真などで見た事のある程度。
更にはミツ本人がドイツに行って本物を見た訳ではない。
外装は間違いなくそれに似てはいるが、内装はミツのオリジナルも入っているのでそこはご愛嬌と言うところだ。
外は先程彼が買い出しに行って購入してきた白塗りを贅沢にも使い切り、真っ白な教会にしている。
「……はぁ」
「これは……」
「こ、この様な事が……」
「信じられん……」
ルリを始め、アベル達が中へと入っていく。
彼らは今まで見た事のない建造物と内装に目を丸くしては周囲を観察。
護衛兵にとっては何が起こるか分からないために、もう常に気を張りっぱなしで落ち着かないだろうが、別に落とし穴や罠の様なギミックがある訳でもないのでミツはスタスタと彼らの前を歩く。
流石にルリや王族の二人に未知の領域を歩かせるわけにも行かない為だ。
教会の中に入り少し歩けは礼拝堂にたどり着く。
そこにはいくつもの像が並び、祈りに訪れた者達を優しく向かい入れてくれる場に造られている。
そこで主祭繵に飾られている像を見たルリは、直ぐ様目の前で膝をおり、祈りの姿勢を取る。
彼女に続くように、側仕えのタンターリ、シスターのエベラ達もその場で祈りを捧げ始めてしまう。
彼女達がそこまで恭しくさせてしまう像は、聖イシュトヴァーンの像ではなく、ミツ本人が唯一神と信じる相手を像としている。
そう、主祭繵に飾られている像は、ミツがいつも対面して話している創造神シャロットである。
更にその姿はミツが数回しか見たことの無い大人バージョンのシャロット。
いつも見ている姿のままでは、ルリの姿を模してしまう為、こちらの姿を像として飾っている。
そのシャロットの像には、ある物を持たせている。
それはミツがシャロットから譲り受けた森羅の鏡。
本物と同じ性能は無いが、シャロットから受けた創造神の加護の効果に、造られた像も鏡も美しく仕上がりを見せてくれている。
その像を目にした者は全ての心を引き込む魅了とさせる何かを感じさせるのだろう。
銅像相手だというのに数名の男性陣は頬を染めているのだから。
「う、美しい……。何たる芸術か……」
「あ、兄上……。上をご覧ください……」
「ああ……」
「「おおっ……」」
カインの 言葉に上を向く人々。
見上げた天井はドーム状となり、暖かな光を取り込む為に硝子を使用している。
本当なら美しい絵が描かれて居たはずだが、記憶が朧気な為にそれは断念した。
皆が天井の光に目を瞬かせていると、主祭繵に近づいたミツはスキルの〈マジックアロー〉を使用して雷の矢を作り出す。
それを灯り代わりと像を明るく照らせば、像に影ができ更に立体的にその美しさを上げる効果を出す。
「こんなもんかな。エベラさん、そちらから見て変じゃないですよね?」
「ええ、とても素晴らしいと私は心から思います」
エベラは改めて見上げる主祭繵の像を見ては、喜びに笑みを返してくれる。
「良かった。後で新しくできた住まいの方も確認してください。部屋の割り振りはエベラさんにお任せしますので、決まったら自分が家具を置いていきますね」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いえいえ。お世話になったのはこちらの方です。本当にお世話になりました」
ミツがエベラへとこの場を借り、今迄お世話になった事に感謝の言葉を伝える。
それはこちらの言葉ですとエベラは笑みを見せているが、目尻に涙を浮かべ始めている。
彼女にとって、目の前の少年は深い恩人となっているのだから。
そんな話をしていると二人の会話が聞こえたのか、カインが慌ててこちらへと近づいてきた。
エベラは場を譲るように下がる。
「ま、待て!? ミツ、貴殿まさかこの街を離れるつもりなのか?」
「はい、そろそろ街を出ようかと」
「「「!?」」」
カインの問にミツはまた間をおかずに返答。 流石に今回ばかりはそうかの一言で済まされる内容ではなかった。
カインは後ろに居るアベルとマトラストへと視線を送り、彼らからもミツを呼び止める言葉は無いかと視線にて訴えかけている。
一時の間を置き、マトラストは仕方ないと逆にカインを止める言葉をかける。
「なっ!? いや、それは……」
「……」
「殿下、彼が旅人である事は周知していた事です。何を慌てましょうか」
「マトラスト! し、しかしだな……」
カインは周囲を見渡し、ならばとダニエルなら呼び止める事ができるだろうと彼に迫るが、ダニエルは申し訳ございませんの返答を返す。
それは人情にミツにこの場に止めたとしても、それは只の時間稼ぎにしかならない行動であり、王族のカイン達に見苦しいと言う泥を塗る行いでもある。
場の空気が悪くなってしまった事に、ミツが場の空気を変えるためとルリへと話題を振るように話しかける。
「えーっと……。そうだ。あの、ルリ様」
ルリは口を小さく開け、はいと応えた後にこちらに視線を向ける。
「教会に関してのアドバイス、また色々と教えていただいた事、ありがとうございます。おかげで素晴らしい教会を造ることができたと思います」
「「いえ、これは貴方様のお力。私の言葉などなくとも、貴方様ならばいずれこの様に素晴らしき建造を行われたと思われます」」
「いえいえ。それでですね。ルリ様にはお願いがありまして」
「「はい。私めにできる事であれば」」
ミツは改めて事前の話し合いで決めていた事を王族のアベル達の前で話し出す。
人々の前で突然建造物を建てた事は王宮神殿の力を使ったと言う事にしてもらう。そしてこの教会を神殿の管理下に入れる話である。
その事にアベルとカインは驚きの表情を浮かべるが、重鎮のモズモとマトラストは反応は見せなかった。
恐らく神殿と言う形ある物に、雲隠れさせた方が良いと直ぐに思いついたのかもしれない。
実際王宮神殿ならば様々な奇跡に巡り合う場として、建造物を一瞬で建てる事は可能と言えば可能なのだ。
しかし、それには大量の魔石と、大量の魔導術式の書かれたスクロールが必要とし、更にはそれを行うには神殿長の魔力を使用する事である。
残念ながらルリにはそこまでの魔力も無いので、今回は回復薬を飲み続けたことに人々の耳へと話が流れるだろう。
そして最後にミツが告げた言葉はその場にいる全員が驚きを見せる言葉でもあった。
「あの、ルリ様の王宮神殿を見に行く事ってできますか?」
彼の言葉はカイン達に取っては朗報であり、思わぬ言葉であった。
王族のアベルとカイン、そして巫女姫のルリがまたミツが出したトリップゲートでフロールス家の屋敷へと帰った後。
新しく建造された教会には、街の人々が押し寄せ大変な騒ぎとなっていた。
教会に居るシスター達だけでは大変なので、暫くはフロールス家の私兵の数名を教会の護衛として回してくれた。
ダニエルに感謝を伝えると、ここの教会を神殿の管理下に置くなら元々数名の私兵を付ける予定である事を教えてくれる。
私兵は元々下街に住む者ばかりなので、屋敷の寮住まいよりも食事レベルは下がるも、やはり実家からの通勤が楽だと希望者のみを回してくれたようだ。
数日も経たずに教会の近くには兵達の詰所が作られる話を聞く。
ミツが、ではそれも造りますよとダニエルに告げるが、ダニエルは苦笑いを浮かべつつやんわりとそれを断る。
断る理由として領主家が直々に教会の側に建造物を建てることで、周りへ認知させ、賊などの抑止にする為だそうだ。
ミツはバーバリ達に任せていたヒュドラの解体の方に顔を向けた後、また明日続きを行う為と彼のアイテムボックスへとヒュドラを収納する。
胴体の鱗剥がしが終わったので、明日で残りも全てが取り終わるだろうとセルフィが告げてきた。
日が暮れる前と教会に戻り、エベラの指示に従いアイテムボックスに入れていたベットなどの家具を希望通りに配置していく。
女性の多いこの教会にはミツが新しく作った、あったら便利だなクローゼットを各自の部屋に置いてある。
使うかまだ分からないが、一応ミミが年頃になった頃に今の子供部屋から出た時、自身の部屋を持つことを考えて彼女の分も勿論家具一式を部屋に置いてある。
これはミミが15歳の成人の祝い品としてのミツからの贈り物として、後にエベラから部屋の鍵を渡されるだろう。
ヤンとモントの二人にもプレゼントを用意してあるので、それはその日まで倉庫の奥に隠してもらうことに。
荷物を出し終えたミツが教会の方に足を向けると、人混みに教会内はごった返していた。
一応列を作りフロールス家の兵の指示に従って入るので人混みで怪我などすることはないだろう。
「おお、なんとべっぴんな銅像じゃべ……。この様な美術品がこの教会に飾られるとはなあ。流石神殿に認められた教会だけなことはあるべっさ」
「んだぁ、んだぁ」
「しかし、こんな美しか石像様が拝めるなら、家にけえって嬶の面見るよりいいんじゃねか?」
「ちげねぇだ。アハハハハッ」
教会内に聞こえる笑い声。
その内容に周囲の人達も思わず笑って笑みが溢れる。
彼らが見るのはシャロットの石像ではなく、主祭繵の近くの壁に彫り浮かべさせたユイシスの石像である。
彼女の姿は正に女神であり、更にそのリアルにできたプロポーションに、人々(男)の視線を釘付けにしてしまう。
ユイシスは理想としてはミツが好むタイプなので、彼の要望丸出しなのだが、それを知るものは誰もいない。
更に近くには豊穣の神であるリティヴァールの像もある。
彼女の近くには精霊のフォルテ達がまだ二頭身の姿をしていた幼い姿を共に像としている。
ここ迄神々の像を作っているなら勿論あの神様もいない訳がない。
彼も今では創造神の見習いである神なのだから。
その像を前に、子供の鳴き声とその子の母親であろうか二人の声が聞こえてきた。
「わーん! ごめんなさい、ごめんなさい!」
「ほらっ! 今度イタズラしたらここでお仕置きだからね!」
「嫌だ嫌だ! もう悪い事なんかしないから、ごめんなさい!」
「……流石にありゃ悪餓鬼でも反省するな」
「俺が子供だったら絶対入りたくねえわ……」
「ありゃ、懺悔室っけ? けったいな鬼がおるっけーよー」
(はははっ……。鬼じゃなくて、一応神様なんだけどな……)
子供の腕を引っ張り、懺悔室に入れようとする母親の姿。
子供はその部屋に入りたくないのか、涙や鼻水を出しつつ、今迄行った悪戯を謝罪し始める。
二人が入ろうとする懺悔室は、以前使用していた物と同じであるが、少しだけミツのアレンジを入れてある。
それは箱状の懺悔室の上には、元破壊神バルバラの像が入り口を入ろうとする者を見定めるように、まさに鬼の形相とした顔を向けている。
元々迫力のあるバルバラの表情は、どうしてもイメージが強すぎて、彼の表情だけは穏やかな顔に変えることができなかったのだ。
流石にあそこまで怖がられては使いにくいだろうとエベラに相談すると、彼女はそのままで良いと返答してくれた。
どうやらアレはアレであの様に使い道がある様だ。
ミツは未だに泣いている子を見てはなるほどと納得した。
今日はまだ部屋の片付けなどがあるので早々と教会の扉は閉められる事になった。
部屋の方に戻れば荷崩しの作業にまるで引越ししてきた様な散らかりよう。
ミツが使用する部屋は元々客室だったので、ベットと荷物を収納する木箱しか置かれてない。
更にはミツ本人がアイテムボックスを持っているのでそれ程荷物を出すことも無く彼は他の場所を手伝いに回ることにした。
新しくできた居住する家は前の家の倍の広さ。
通路は二人がすれ違っても身体の向きを変えることなくすれ違える広さを取っている。
部屋の広さは客間を除き、一人一人と12畳の広さを与えてある。
以前はベットと衣服を収納するクローゼットを置くだけで部屋の2/3を取っていたが、今は部屋を広々と使えて皆は喜んでいた。
何処を手伝おうかと思っていると、プルンに呼ばれ部屋の中に。
彼女はガンガから借りたのか壁に木を打ち付けるトンカチと穴を開ける為の刃物を持っていた。
「ミツ、悪いけど壁に穴を開けてこれを打ち込んで欲しいニャ」
「んっ? 何これ?」
「ナイフを飾る為の棚を作るニャよ。折角買ったり、ミツから貰ったナイフをボックスに入れっぱなしは勿体無いニャ。ウチも領主様のお屋敷みたいに壁に何か飾りたいニャよ」
「あー。なるほど。アンティークを趣味に持つのね。でもさ、それならガンガさんにお願いすれば? あの人なら直ぐにやってくれると思うけど」
「爺は教会の方にずっといるニャ。何か造りがどうだとか、バランスがどうとかブツブツ言ってたニャよ。ウチの話聞いてくれないから、工具だけ借りてきたニャ」
「なるほどね。ガンガさんって建物の事になると食いつきが良くなるよね」
「それよりミツ、手伝ってニャ」
「はいはい。と言ってもソレなら良い方法があるよ」
「んっ?」
「まだ少し木材が余ってるから、ちょっとこれを使おうか」
「何するニャ?」
ミツがアイテムボックスから木材を数本取り出す。
それをスキルを使い形を変え、一枚の板状に変えていく。
「壁に穴を開けたら、壁の強度が下がっちゃうからね。何よりエベラさんに怒られるからそれは無しの方で」
「ニャハハハ。危なかったニャ……」
「流石に新築の壁に穴を開けたら駄目だよ。さて、ナイフを飾りたいならこんな感じの板を貼ると便利かな」
「ニャ? ミツ、何で板に穴がこんなに空いてるニャ? それとこの小さな木をどうするニャ?」
ミツは家具屋などでよく見かけるパンチングボードとその穴に差し込む為の木ピンを作る。
木ピンは穴の数だけ作り、小さな木箱にザラザラと入れておく。
「これはね、ナイフの形に合わせてっ、この木ピンを差し込んでいけば……。どうかな?」
「ニャニャ! いいニャいいニャ! カッコイイニャ!」
パンチングボードに綺麗に飾られたナイフ。
紐などでぶら下げているよりも見た目も良くプルンは気に入ってくれたようだ。
これなら自身の気分でナイフの場所を変えたり、サイズが違うナイフでも見栄え良く飾る事ができるだろう。
プルンは早速と自身のアイテムボックスからナイフを取り出し、先程付けたナイフの横に並べるように飾り付けを始めた。
「ニャニャ、ニャ〜。ニャニャ、ニャ〜」
「……」
プルンはご機嫌に鼻歌を歌いながら、次々とアイテムボックスからナイフを取り出しパンチングボードへと取り付けていく。
それをじっと見ているミツは少し苦笑い。
プルンのいつの間にか趣味となったのか、彼女のアイテムボックスから次々と出てくるナイフの数々。
年頃の女の子なら服やアクセサリーを好む物だが、彼女にとっては服は着れれば何でも良いの男子中学生の様な考えを持っているのだろう。
以前防具屋にてリッコとミーシャがプルンの容姿を褒めていたように、彼女の顔もスタイルも人に好まれるタイプなのは確か。
このまま男勝りな娘になってしまっては母親のエベラも頭を悩ませるかもしれない。
じーっとミツはプルンを見ていると、彼女もミツの視線に気づいたのだろう。
気恥ずかしいのか、彼女の頬が染まり少しフンスとミツへと視線を返す。
「な、なんニャ? ウチの顔に何かついてるかニャ?」
「んっ。いや、ちょっとプルンの顔を見てただけ。プルンって可愛い顔してるよね」
「……なっ!? ニャにを!」
突然自身に向けられた思わぬ言葉に、彼女の顔はボンッと煙を出すような恥ずかしさに襲われる。
顔を真っ赤にしたプルンがミツへと手を指し伸ばそうとしたその時、部屋の外からバタバタと子供たちか駆け寄る。
「兄ちゃん兄ちゃん! 来てくれよ!」
「来てきて!」
「にーちゃ!」
「んっ? ヤン君、それに二人ともどうしたの?」
「兄ちゃん、俺達秘密の入り口見つけたぞ!」
「高い所に行けたの!」
「にーにも、いくの!」
「ああ。柱塔の入り口を見つけたのかな。あそこは危ないから三人だけで行っちゃ駄目だよ」
「分かってるよ! だから兄ちゃんを呼んでるんだよ!」
「なるほど。よし、行こうか」
「わーい!」
「ねーねも行く?」
ヤンとモントに手を引かれ部屋から出ていくミツ。ミミはプルンも誘うが、プルンは木ピンをパンチングボードの穴に入れ始める
「う、ウチはいいやる事があるニャ。四人で行ってくるニャよ……」
「? うん、にーに、まってー!」
テコテコと小走りに三人の後を追うミミ。
プルンは静かに部屋の扉を閉め、壁を背にその場で蹲ってしまう。
「はぁ……顔が熱いニャ……。莫迦……」
彼女は顔を手で抑えても、今は隠しきれない耳までも真っ赤となっていた。
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