第193話 引越し準備

 昼食を食べ終わり、午後の作業に取り掛かることに。

 まるで引っ越しをする様に、ミツとプルンは部屋の中でバタバタと動き回っている。

 勿論この場に来ている人たちもだ。


「プルン、ベットや机とかの大きな家具は自分がアイテムボックスに入れておくから、プルンは皆の衣服とかをお願いね」


「わかったニャ。ヤン、モント、ミミ、玩具とかは自分で持って外に出とくニャ。サリーはカッカと外に出とくニャよ。ミツが荷物を動かすとホコリが舞って赤ん坊のカッカに悪いニャ」


「悪いわねプルン。さっ、皆忘れ物はしちゃ駄目よ」


「「「はーい!」」」


 子供達がサリーの言うことを素直に聞き入れ、自身のお気に入りの玩具を持って庭へと移動する。

 その際、布をほっかむりに被ったエベラとのすれ違い。


「ミツさん、台所は終わりましたわ。他にお手伝いはありますか?」


「そうですね……。それじゃお客様がいらっしゃいますので、祈りの場の床だけでも掃除をお願いします。既に椅子とか懺悔室はボックスに入れてますから」


「ええ、分かったわ」


「それなら私達も手伝います。プルン、掃除道具何処?」


「こっちに置いてるニャ」


 リッコ達が掃除を手伝うとプルンの案内に掃除道具を取りに行く。

 祈りの場は最後でも良かったが、意外と荷物が多いので先に使わない品をミツはアイテムボックスへと収納している。

 

 家具などを壁に固定するために打ち付けていた釘を抜き終わったのか、ガンガの声が2階から聞こえてきた。


「坊主、釘を外したから良いぞ」


「ガンガさん、ありがとうございます」


「次の部屋も始めとくぞ」


「はい。先に台所にエベラさんがまとめてくれた調理道具を片付けてきますね。終わったらまた呼んでください」


「おう。と言っても壁に打ち付けた釘を外すだけじゃ、直ぐに終わるわ。コラッ、ベルガーボウイ、まだそれは動かしちゃいかん!」


「おやっさん、頼むから息子達の前でボウイは止めてくれよ」


「五月蝿い、そんな事より力任せに動かしたら家具が壊れるじゃろうが。お前さんは運び出せる物だけを外に持っていけ」


「ヘイヘイ」


 ガンガの声に軽い返事を返すベルガー。

 その近くで何やら小さな笑い声が聞こえる。


「全く……。子を持つ親となっても、あ奴はちっとも変わっとらん」


「なぁなぁ、ガンガさん。親父って若い頃に何かやったのか? ボウイって呼ばれる度になんか面白え顔してんだけどよ」


「リック、話は後にしてくださいよ。時間が押してるみたいですからね」


「ヘイヘイ」


 笑い声はリックだったのか、似た者親子とリッケに急かされ、彼もまた似たような軽い返事を返している。


「フッ。正にあ奴の子か……。よし、坊主! あと少しでこっちは終わるぞ」


「はーい。今行きます」


 アイテムボックスの所持者であるミツとプルンは荷物を互いに詰め込むように入れ、次々と教会の部屋の中を空っぽに変えていく。

 数は力、リック達だけではなく、近くに住む住人達の力も借りて教会の荷出し作業が進む。

 作業が進むと野次馬が増え、教会の方を覗いていたのだろう。

 チラホラと教会が無くなってしまうのかや、エベラ達が何処かの街に移住してしまうのではないかと話が聞こえてくる。

 エベラはそんな不安とする人々に安心してくださいと言葉をかけ続ける。

 人手が取られたことに軽くため息を漏らしつつ、時間も押しているのでミツはある人々を呼びに行くことにした。


「エベラさん、そろそろ着替えの方をお願いします」


「まぁ、もうそんな時間ですか。プルン、サリー、あなた達も早く着替えなさい。皆さんもこちらへ」


 ミツの言葉にエベラはプルンとサリー、そして新しく共に住む事になった四人のシスターと共に井戸小屋へと移動する。

 彼女達は何の着替えをするのか?

 それは教会が新しくなるタイミングと、皆が着ているシスター服、これを新調したシスター服に着替える為である。

 今着ている服を捨てる訳ではないが、やはりお披露目の際は新しい服を着込む方が良いだろう。

 ミツはエベラ達が着替えている間と、ダニエル達の待つ屋敷の方へとトリップゲートを使用し移動。


「お待たせしました。ゼクスさん、こちらの準備は終わりました……?」


 屋敷前にゲートを出せば、多くの兵士が隊列を作り並んでいた。

 屋敷の私兵さんも居るのは分かるが、約束していた人物とは別の人達もその場でミツを待っていたことに彼は言葉を止める。


「おお、来たか。んっ? 如何した」


「いや、まさかマトラスト様がいらっしゃるとは思わなかったので」


 トリップゲートに注目が集まったことにミツが来たことが彼らにも分かったのだろう。

 兵士を掻き分けるように、マトラストとゼクスが姿を見せる。


「左様か……。いや、突然居合わせた私も悪いな。すまなかった。さて、私が居る理由だが、この国、この街で貴殿のやる事を無視する訳にもいくまい。今日はカイン様とアベル様も共にその教会に足を向けさせていただく。ダニエル殿から君がまた面白いことをすると耳にしてね。お邪魔じゃなければ、私達も共にしてもよいかな?」


「はい。そう言う事なら。ところでゼクスさん、ダニエル様達は?」


 マトラストの言葉をミツは二つ返事に承諾。

 寧ろ王族が顔を出す場として知られる事になれば、教会にちょっかいを出すような野暮な人を遠ざける抑止力にもなるかもしれない。

 少年がゴネることもなく、快く受け入れたことにマトラストの頬が上がる。

 さて、ミツが周囲を見渡してもダニエルの姿が見当たらない。

 彼が来るのが早すぎたのかとゼクスに問うと、どうやら王族が来ることになってしまったのでその準備に手間を取っている様だ。


「はい。旦那様方はまもなくいらっしゃいます。お手数をおかけしますが、しばしお待ちを」


「いえいえ。大丈夫ですよ」


「ミツ、領主様はもう来るニャ?」


 トリップゲートの前で話をしていると、着替えを先に終わらせたのか、プルンがひょっこりとゲートから顔を出してきた。


「いや、もう少しかかりそうだから、ゼクスさんが待ってだって」


「分かったニャ、エベラ達に伝えてくるニャ! 皆、もう直ぐ来るニャよー」


「ははっ……マトラスト様、すみません騒がしくしてしまって」


 ミツの近くにはダニエルよりも地位も高いマトラスト辺境伯が居るというのに、プルンはいつも通りの気軽さにミツは苦笑いを浮かべてしまう。

 だが、マトラストはプルンの対応は気にしていないと、彼は笑い飛ばしてしまった。

 

「ハッハッハッ。構わんよ。街の者があれだけ元気な事は、ここの領主が良き働きをしている証でもある」


「ありがとうございます。マトラスト様の寛大なお心に感謝します。……来られたみたいですね」


 屋敷の扉が開けられると、中からダニエル、夫妻の二人、カインとアベル、そして巫女姫であるルリが姿を見せる。

 全員が正装に身を包み、今から何処かのダンスパーティーにそのまま参加してもおかしくないレベルに衣服は完璧であった。

 兵士達が道を開けるように左右に分かれ、マトラストがミツの背中を軽く押したことに進む事を促されたことに気づく。

 周囲の注目を集めながらミツは皆の前に立ち、貴族相手の礼をする。


「皆様。本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。改めてこの場で御礼を申し上げさせていただきます」


「良い、貴殿は言葉を崩しても構わぬ。そうした方が話しやすいだろう。今日の私は王族としてではなく、貴殿の友人として足を向けることにする」


 王族や貴族相手には言葉足らずなミツの挨拶を止めるアベル。

 彼の言葉が正しかったのか、周囲の空気が穏やかに変わる。


「んっ。ははっ、はい。アベル様、お心遣いありがとうございます。皆様もありがとうございます。それでは先ずは兵の皆様を先に。ゼクスさん、先導をお願いしてもかまいませんか? ゼクスさんなら皆も落ち着いて動いてくれると思いますので」


「承知しました。それではお先に失礼させて頂きます」


 ゼクスは一度頭を下げた後、踵を返してはミツが出していたトリップゲートへと足を進め教会の方へ。

 ゲートの先から、何やらゼクスに向けられた黄色い声が聞こえたが気にすることはない。

 いつもの事だ。

 ゼクスが教会の方で話している間と、パメラがミツへとある物を渡してくる。

 

「ミツさん、こちらをどうぞ」


「パメラ様、ありがとうございます」


 差し出されたのは白いローブである。

 ミツはそれを受け取り広げ、自身へと羽織るとローブでミツの身体をすっぽりと隠してしまう。その姿に、正に武道大会に出ていたファーマメントの姿がそこに現る。

 何故ミツがこの様なローブを着込んだのかは後に説明しよう。

 ルリの周りを守る女性騎士達も、鎧の上に似たような白いローブを羽織っていた。

 純白のローブが並ぶ列はなんとも神秘的に見えてくる。

 さて、ここで先程から女性騎士達はミツへと注目を集めていた。

 それは何故か?

 それは先日の戦いにて、ミツが天使に似たフォルテ達を召喚した事が原因だろう、

 ある意味、天使を召喚することができるミツへと彼女達は憧れの視線を送っていたのだ。


「それでは皆様、日が暮れてしまう前と行きましょうか」


「うむ。そうすべきであろう」


 ミツが移動を促すとアベルは一度頷き、マトラストへと指示を送る。

 マトラストは兵士に順にゲートをくぐる事を指示を送る。

 列を乱すことなく足並み揃え兵士の行進である。


「ルリ様、我儘を申してしまい、申し訳ございません」


 兵士がゲートを通り抜ける間と、ミツはルリへと頭を下げる。

 今回教会の立て直しは領主ダニエルの案として話を合わせているが、後に出来上がる教会を、王宮神殿が管理する物と表明するためである。

 そうしなければ教会に対しての悪意ある行為や、その場に住むエベラ達の身を守ることもできなくなる。

 更に一番の理由としては、王宮神殿の管理教会と認められることに、貴族の様に神殿から一定の援助金が送られるようになるのだ。

 勿論様々な決まりやルールにエベラ達の教会は縛られるが、それを差し引いても、もう二度と教会に住む子供達はひもじい思いをすることはないだろう。

 この提案は、パメラが教会に足を向けたときに話し合っていた事である。

 教会はミツに取っても関係ない場所でもない為、彼女の提案をミツは快く受け入れた。


「いえ、頭をお上げください。貴方様の希望は多くの民の救いとなる選択にございます。私にもその協力をさせて頂けるならば、それは私の喜びにございます」


「ありがとうございます。このお礼は必ずお返しいたします」


「……。はい、その時があれば是非」


 ミツの言葉にルリだけではなく、周囲の代弁者のシスターや側仕えのタンターリ、更には女性騎士達も驚きの表情を浮かべる。

 王族がどうにかとミツの好感を上げようと必死にあれこれと作を考える中で、思わぬ好感を得る事のできたのもだが、彼がそこまで思わせる教会にそれ程の価値があるのかと。


 あれこれと裏でミツが動いているが、実はまだ教会が神殿の管理下に入る話はエベラ達にはしていない。

 何故ならこれは貴族が決めた事にしなければ意味がないのだ。

 平民であるミツの提案を貴族が認め、更に神殿が二つ返事にそれを承諾。

 完全に貴族や神殿の立場が無いのだ。

 その為、今回ミツが教会を立て直すにあたり、教会の立て直しを見たルリがそれを気に入り、王族に懇願し、エベラ達の教会を貴族だけが使える技である、力技と言う無理やりに神殿の管理下に引き込む作を取ることになった。

 実際に貴族のやり方としてはこれは至って当たり前な事である。

 平民が物珍しい物を作り出せばそれは貴族に取り上げられるなどよくある事。

 その為、取られることを当たり前として平民は何かを生み出さなければならない。

 平民は貴族の命令は絶対であり、反論など言葉を出すなら直ぐに死である。

 今回偶然にも王宮神殿の神殿長であり、巫女姫のルリだからこそ受け入れた内容でもあった。

 パメラの提案ではあるが、まさか教会を立て直すなどその時の彼女ですら想像していなかったのかもしれない。


 プルンと初めて出会い、そのままライアングルの街の教会に今までお世話になったミツ。

 教会に彼が来たことはただの偶然だったが、これも運命なのか、彼の持つステータスの幸運は確実に周囲の者ですら幸福に変えてしまっている。

 それは共に戦う仲間たちだけではなく、共にご飯を食べたり、お風呂に入ったりと、日夜一緒に笑い会う家族として。

 エベラだけではなく、子供たちにも幸せは送られることになった。

 

 ミツが出したトリップゲートから突然ゼクスが姿を現した事に驚く人々。

 ゼクスは教会の敷地内には関係者である者達だけを残し、他の庶民の者達は外に出す。

 これから領主ダニエルだけではなく、王族と巫女姫がここに来るのだ。

 無いとは思うが、この街に住む民が王族に対して無礼なまねをすれば、その者は処罰され、ダニエルも遠回しに厳罰を受けることになる。

 ゼクスの合図を受け、次に領主家の私兵、そして王族を守る護衛兵がゲートを通り抜ける。

 足並み揃えて進むその迫力に街の者はくすみ上がり、驚きに声を失う。

 アベルとカイン、ルリが通り抜ける前に領主のダニエルと二人の婦人が通り抜ける。                   

「ようこそ、領主様。本日はこのような場所に足をお運びいただきましたこと、お礼と感謝を申し上げます」


 領主夫妻がゲートを通り抜け、続けてミツが後を追う。

 エベラ達は領主が来ることを前もって知っていたので皆は列を作り、膝をついた状態で領主へと感謝の言葉を伝える。

 七人のシスターが並ぶ中には、夫妻の見知った顔のプルンも居るので夫妻はクスリとほくそ笑む。

 あれ程活発な女の子がシスターの服を着れば、おしとやかに大人しくなるのかと。


「うむ。顔を上げなさい。本日は日々君達の神に対する祈りが届いた。我々はそれを見届けるためにここに来たにすぎん。ここの管理をしておる者よ、前に」


「はい」


 エベラはダニエルに呼ばれ、改めてダニエルの前に膝をつく。


「貴女の暮らしぶりを少年を通して私は耳にした。日々の生活の苦労を乗り越え、また今回二つの教会へと厚い手を差し伸ばしたことは私の心を強く動かした。よって、今回急な話であるが、この協会に我々領主家は恩情としていつくしむとする。教会を立て直すにあたり、貴女達には手間を取らせたが許せ」


「領主様のお気持ち、我々は感謝の気持ちに満たされております。ありがとうございます」


 エベラの感謝の言葉に合わせ、後ろに控えるシスター達も感謝の言葉を合わせダニエルへと伝える。

 普通の貴族なら領主自ら出向き、言葉を庶民の教会に態々伝える事では無いが、ダニエルは元から民に寄り添う物珍しい貴族であり、ミツがこの教会に寝泊まりしているからこそ、彼は足を向けたのだ。

 ここまではエベラが話を聞いていた筋書き通りである。

 だが、彼女達が少し気になっていたのは周りを囲む兵の姿。

 フロールス家の私兵とは違い、青と白の鎧など彼女は見たことが無い。

 更に戻ってきたミツの姿に彼女は少し胸騒ぎを感じ始めていた。

 

「ああ、そうだ。今回我々がここに訪れる事をとあるお人に話したら、少々興味を持たれてね。すまないが少し場を開けてもらおうか」


「はい」

 

 ダニエルはわざとらしく会話を入れつつ、シスター達に場を開けさせる。

 エベラは恭しくその場を離れ、領主の執事であるゼクスの指示に場を並びなおす。

 ダニエルと夫妻がゲートを前に膝をつけば、ざわりとシスター達の声が漏れてしまう。

 それもゼクスが人差し指を口元にあてがえ、口を閉ざす仕草に彼女達は自身の手で口をふさぐ。

 何人かはゼクスのそんな仕草に頬を染めていた。

 周囲の兵達がガチャンと剣を鞘から抜刀、

足並みをザッザッと2回鳴らす。

 その後ゲートから出てきたのは王族のアベルとカイン、そしてマトラスト。

 シスターの彼女達はアベルの姿を見たことはないが、カインとマトラストの姿を知る者は居たようだ。

 彼女達も直ぐに膝をおり、頭を垂れる。

 その後直ぐにまた鎧の足並みがザッザッと聞こえ、表を上げなさいと、ダニエルの声に合わせシスター全員が顔を上げる。

 その瞬間、プルンを除き、シスター達は唖然と目を見開き驚く。

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」


「「ご機嫌よう、皆様」」


 突然目の前に現れたのは王宮神殿の神殿長を勤める巫女姫のルリ。

 何故彼女が神殿長だとエベラ達が直ぐに分かったのかと言うと、ルリの着るその服は、王宮神殿の神殿長だけが着ることを許された衣服であり、またその様な純白に金色の刺繍が入った一品などおいそれと着れる者などいないのだ。

 彼女を守る為の神殿騎士である女性達の姿もエベラ達にとっては憧れの存在でもあった。

 エベラ達は改めて頭を垂れ、ルリの言葉を待つ姿勢を取る。

 王族のカインやアベルよりも恭しさが明らかなのは、彼女達がシスターだからこそであろうか。

 これが他貴族の者なら、ルリよりもアベルとカインに深く頭を垂れるだろう。


「「皆様、お約束もなく、こちらに来訪をした事を先ずはお詫びいたします。この度、この街に一つだけとなった教会に関して領主ダニエル様にお話を伺いまして、我々王宮神殿の者が突然足を向けることをお許しください」」


「いえ。皆様のご来訪は我々心の喜び。ですが、この様な簡素な場に足を向けて頂いた事は私達のあやまち。お許しを頂くべきは我々にございます」


「「そう申されるなら。感謝の言葉でお返しいたします」」


「ありがとうございます」


 エベラはこの場の代表者として口を開き、ルリの発言を一つ一つ聞き逃さぬように返答を返していく。

 見た目は娘の様に慕うプルンと変わらぬ年子だとしても、相手は格差違いの人物。 

 ルリを相手に恭し過ぎる事などないのだ。


 後にアベルとカインの短い言葉が同じくエベラ達に告げられた後、皆は祈りの場へと移動。

 綺麗に全て片付けられた場は、護衛の半数が入ることができた。


「皆様。それではこの教会に、最後の祈りを。そして始まりの祈りを神に捧げましょう」 


 ルリの言葉に合わせるように皆は祈りを捧げる。 

 王宮神殿の神殿長と名高いルリの祈りの言葉は、感動したシスター達の胸に熱く届いたのだろう。

 目を熱く、目頭に涙を浮かべる者すら居たようだ。

 

 祈りが終わり、外に並んだシスターへとダニエルがマトラストと王族である二人に目配せを送った後、彼が代表として口を開く。


「それでは、これより教会の立て直しを行う」


 その言葉にギョッとするシスターの姿がちらほら。

 まさか突然来訪してきた領主から日も置かず、教会の立て直しの話を持ち出すとは思ってもいなかったのだろう。

 しかし、ダニエルの言葉には続きがあった。


「立て直すにあたり……今回の立て直しには、王宮の秘策を使用し建造に取り掛かる。これはソナタ達シスターの日頃の神に対する思いが形となる建造方である。極秘な秘策故に、一切の口外を禁止とする。もし事を外一人でも口にしたならば、その者だけではなく、この場の全員に重罪としての厳罰を与える。よいか」


 ダニエルの厳しい視線と、彼から出た言葉は全員が思わずくすみ上がり、一斉に膝をおらせる。

 彼女達の口からは、必ずや口をつぐみますなど、絶対口にしない事を誓わせる言葉が並ぶ。


「よろしい。それでは巫女姫……」


「「はい……」」


 ルリは側仕えのタンターリから一つの道具を受け取る。

 それは棒にいくつもの鈴をつけたスレイベルの様な楽器。

 いや、正直に告げるなら、今ルリが持つスレイベルはミツが〈物質製造〉のスキルで即席に作った道具である。

 即席だけに王族のアベル達も見たことの無い品だけに、本当にそれっぽい雰囲気を出させている。

 ルリがそれを受け取ると、いくつもの鈴がシャラシャラと音を鳴らし、周りの注目を集める。

 

 注目をルリが引きつけてくれている間と、ミツは予定通りに動き出した。

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