第192話 新居の準備
少し気分転換と部屋の中の美術品を見回るミツ。その中、彼は興味を持つ物を見つけた。
「これは……」
「ミツさん、それは砂盤でございますよ」
「砂盤……ですか」
ゼクスが教えてくれた砂盤。
これは主に軍議等の陣形を考える時に使われる品であるが、フロールス家ではこれを災害時の対策用として使用しているそうだ。
以前使った形跡があるのか、川と山、そしていくつかの村を小さな人形で表している。
因みにフロールス家にある砂盤は一般的な家庭用のテーブルと変わらない大きさであろうか。
ゼクスは側にあるレーキを使い、一度砂を平らに見せる。
その後器用にも即興な地形を作り、砂盤の使い方を簡単に教えてくれた。
「この様にフロールス家ではこれを使用し、災害や賊の対策などに活用しております」
「ラルスが次の学年に上がる際、砂盤の授業を行うので以前私が教えていたのだよ。まぁ、あいつは直ぐに使い方を覚えてしまったので後はロキアとコレを使い遊んでいたがな」
「フフッ、ラルス様はロキア君の良いお兄ちゃんをやってますね」
ミツがそう言うとダニエルは弟を溺愛するラルスを思い出したのか鼻を鳴らし頬を上げ笑いこぼす。
ゼクスはそんな兄弟の姿を想像したのか、もう顔がデレデレである。
またゼクスが綺麗に砂盤を真っ平らにしたのを見た後、ミツがポンと手を打つ。
「あっ、ダニエル様、この砂盤、ちょっと使っても良いですか?」
「? 構わんよ」
「ありがとうございます。それじゃ、これを使って教会の内装を話し合いましょう」
「「……?」」
お茶の準備が終わったのか、席に座り直したダニエルの前にお茶が置かれる。
ミツもタンターリからお茶を受け取り、少しだけ含み喉を濡らす。
「さて、ルリ様、質問をよろしいでしょうか?」
ルリはコクリと頷き返す。
「質問ですが、あの、教会と神殿の違いを詳しくお教え頂けませんでしょうか? 教会を創り直す際、間違った物を創るわけにもいきませんので」
「「はい。私が知る事を貴方様にお教えします」」
ミツはルリへと教会と神殿の違いを簡単に彼女に説明してもらう。
教会とは、同じ宗教を信仰する人々の団体の事、もしくはその宗教の教義を広めたり、儀式や礼拝を行う場所の事を指す。
主に教の集会所の事を指すが、それ以外の宗教でも集会所を教会と呼んでいるものもあるそうだ。
信者が神様に祈りを捧げたり、聖歌を歌ったりするが、教会に神様がいるという訳では無い。
神殿とは違って、信者の為の場所なので、様々な場所に沢山の教会がある。
写真などで見たことのある女神像や神像等は設置されていない事が多いそうだ。
現にプルンの教会には銅像一つも置かれてはいない。
また神殿とは、神様を祀っている神聖な場所であり、教会の様な一般的な信者の為の場所ではない。
神の依り代や神像といった崇拝対象が安置されている。
主に祭事を行う場所で、信者が気軽に足を運べる場所では無いそうだ。
また、神様の住処の様なもののため、あちこちに(同じ神の神殿が)あるものではない。
必ずしも建造物とは限らず、山であったり洞窟等を神殿としている場合もある。
王宮神殿は様々な者が祈りに来るので、特に祈りの場は広く造られていると教えてもらった。
(なるほど。話を聞く限りでは建造物に関しては制限は無さそうだ……。なら日本に居たときにテレビで見た事のある教会を造っても問題ないかな……。あっ、そうだ)
「ルリ様、お教えいただきありがとうございます」
「「いえ、貴方様のお役に立てたなら私は幸いにございます」」
ミツはルリに一度頭を下げた後、席を立ち、砂盤の前に立つ。
そして彼は平らにならされた砂盤に手をあてがえ〈物質製造〉を発動する。
「「「……」」」
「「「「「!?」」」」」
砂盤の砂をグニャリグニャリと形を変え、今ミツが寝泊まりしている教会の模型を造り出す。
教会は鮮明に造られ、破損した外壁塗装まで細かく再現されている。
創造神のシャロットの加護の効果もある分、ミツのイメージを鮮明に、そのまま再現してくれる。
初めてミツのスキルを目の前で見せられたルリの側仕えや護衛達は驚きの表情を浮かべていた。
ダニエル夫妻は何度も見た事にもう慣れたのか席から立ち上がり側に近づいてくる。
「ふむ。ミツ君、相変わらず素晴らしい力だね」
「ありがとうございます。それで、今の教会の内装がこんな感じにっと」
ミツは教会の模型の屋根部分を持ち上げると、屋根は外れ、2階の内装があらわとなる。
部屋数は多いが、家具も無い空き部屋が数個。
今2階で使用している部屋は、エベラ、プルン、子供達、サリーとカッカ、そしてミツの5部屋である。
部屋の内装はエベラと共に修繕修理を行った時のそれを思い出しながら作ってみている。
「まぁ、これは屋根を取り外す事ができるのですね。しかも教会の中にある部屋まで細かくとても分かりやすいですわ」
「エマンダ様、ありがとうございます。はい、2階部分は本当に部屋だけで、1階がこちらですね。神様にお祈りをする場と、皆が生活するダイニングとリビングです」
重箱を開けるように2階も持ち上げ、1階を見せる。
一瞬にして教会の外装だけではなく、内装の部屋の細かい家具までを再現した少年の魔法に目を丸くする面々。
一通り内装を見た後、ダニエルが2階と屋根を重ねて元の教会の姿に戻し話を続ける。
「君の見せてくれたこの教会では、やはり10人近く住むには少し狭いな」
「そうなんですよ。特に食事する場は椅子を引いたり、通路の通り道は人一人通る程度しかありませんからね。ですので、ダニエル様の許可を頂けるなら教会をこの様に変えようかと」
「「「……!?」」」
ミツはもう一度〈物質製造〉スキルを使用し、先程作り上げた教会をテレビなど見たことのある教会へと作り直す。
周囲の驚きを受けつつ、その後にパメラ、エマンダ、そしてルリの助言を貰いつつ教会の内装を決めていく時間が過ぎていく。
小さな教会が土地を増やしたことに広くなり、使いやすさと生活するには良き場を考えることができたと皆は自身のことのように満足していた。
庶民的な考えを持つ婦人とルリだからこそ不要な物は省き、教会である事を忘れない内装と作りができたのかもしれない。
これが貴族考えの人だらけなら見栄を張るギラギラな教会になっていたかも。
ダニエルにはもう一つミツからの頼みごとがあった。
それは臨時で開放しているお風呂場の継続である。
あそこには日銭を姉弟で稼ぐ者や、何とか仕事を見つけ働く者が多くいる。
その話を告げると、ダニエルだけではなく、パメラとエマンダも少し表情がこわばる。
話を聞くと、やはりお風呂場で使用している魔石は隣の領地、ベンザ元伯爵から買い取っていた様だ。
しかし、ベンザが断罪され今は領主が不在となり、今はマトラストの厳しい監査中の為、魔石の行き来を止めている状態。
ここでならば自身が魔石を作りますと言う発言はミツはしなかった。
魔石がスキルと魔法を使用してミツが作り出すことができる事を知っているのは極々僅かな人だけ。
創造神のシャロットが友好を結べといったルリは大丈夫だろうが、他の人の前でミツは魔石を作る事をセルフィから止められているために口を噤む。
それは魔石を作る事のできるミツ本人の危険度も上がり、更にはプルン達仲間達に魔の手が迫るかもしれない。
そんな事になった時のミツがどの様な行動に出るか分からないし、止める事のできる人が居ないのだ。
後の最悪な状態をミツは一瞬頭をよぎり、そうですかの言葉を添えてその話を止めた。
ダニエルも理解してくれたのか、話の切り目に疑問を持たずに、逆に少し安堵した表情を彼は作っている。
内心、また目の前の少年は何かやらかすのではないかとハラハラしていたようだ。
気がつけばセルフィとミツの行動に振り回されているダニエルであった。
ヒュドラの解体はやはり一日で終わることはなく、翌日に持ち越しての作業が決められた。
一日中ヒュドラを置いといては見張りなどの無駄な人材を使わなければならないので、日が暮れた頃にミツのアイテムボックスへと一度回収である。
だからといって何もする事がないわけではない。
カルテット国に献上する素材。
剥ぎとったヒュドラの鱗を改めて汚れを拭き取り積荷に詰める雑用が待っていた。
と言っても流石にそれはミツの仕事ではないので、セルフィは私兵のアマービレ達に指示を送り、彼女達を中心として数十名がかりて作業が行われるだろう。
ミツは教会の話をセルフィに伝え、明日ヒュドラの素材を置いたら直ぐに教会の方に戻る事を告げている。
解体作業はバーバリとセルフィの二人が見守るという事でのちを任せても安心できる。
翌日。
「よーし、引っ張れ!」
「おらっ! リック、リッケ、力を入れろ!」
「クソッ重え!!」
「くっ!」
ガンガの掛け声の後、リックとリッケ、二人の父であるベルガーが二人へと声をかける。
他にも庶民地に住む人々の手を借り、今は教会の一つの取り壊しを行っている。
ボロボロの壁などは簡単に壊せたが、流石に建物を支える柱となれば大人数の人手を借りての作業。
その中、男性に混じり数名の女性も柱に括り付けたロープを引っ張っていた。
「うぉりゃぁぁ!!」
「せゃあぁぁぁ!!」
ベルガーよりも身体は大きく、変わらない逞しさを持つマネとライムが気合を入れて声を出す。
ミシミシと柱がへし折れていく音に更に力を入れる面々。
そして、ボキッっと音が聞こえた瞬間、皆は持っていたロープを捨て、一目散とその場を離れる。
「おしっ! 倒れるぞ! 離れろ!」
人々が離れた瞬間、教会全体を支えていた柱が折れる。
既に骨組みだけとなった教会は倒壊し、その場に土埃を舞散らせる。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……。よし、後はミツが来るのを待つだけだな」
「ケホッケホッ……。そうですね。マネさん、突然声をかけたのにお手伝い頂きありがとうございます」
「んんっ、気にすることないってばさ。あたいらも暇してたからね。なっ、ライム」
パンパンと手の汚れを払うマネは、横に座り込むライムへと声をかける。
ライムは前のパーティーから抜けた為、今はヘキドナのパーティーに加入している。
寝泊まりもマネ達と一緒なため、今日はライムの日用雑貨を買いに街を歩いていたようだ。
教会に珍しく人が多く集まっていたので、顔を出したマネ達。
そこにリックとリッケを見つけたので声をかけたのが二人が手伝う事になった流れである。
「まー。別にこれくらいなら気にすることないっちゃ。それよりあれは本当にそのままにしとくっちゃ?」
「ああ。もう直ぐミツが来るから、あいつのアイテムボックスに入れてもらうからよ」
「でっ? その本人は何処に行ったっちゃか?」
キョロキョロとライムがミツの姿を探すが、彼の姿が見当たらない。
今はガンガとベルガーが手伝ってくれた人々に感謝を告げているところだ。
「買い出しですよ。教会の壁に使う白塗りをリッコ達と買いに行ってます」
白塗りとは壁に塗るペンキの事である。
白塗りはライアングルを囲む壁や武道大会の会場の壁に使われている品物。
日本のお城に使われている白漆喰を創造したらその白さが分かるかもしれない。
しかし、白塗りは値段が張るため一般的な家では使わないが、今回ダニエルから特別として白塗りの代金を領主家が受け持ってくれる話となっている。
ならばとミツがその証明をエマンダから受け取り、直接買い出しに向かっているのだ。
領主家から役所を通すと無駄に日数もかかるのでそれを省く為でもある。
倒壊した教会を前に、数名のシスターが祈りを捧げ始める。
「あれは何をやってるっちゃ?」
「ああ、一応神様を祈る場所だったからな。ああやって最後の祈りを送ってるんだよ」
「へ〜。あれ? あの端っこに居るのってお前さん達の仲間の娘っ子じゃないか?」
「そうですよ。今日はプルンさんはシスターとしての参加をしてます」
横並びに祈りを捧げているシスターの列に、エベラ、サリー、プルンの姿もある。
彼女たちもこれから家族となるシスターが元祈りを捧げていたこの場所に、最後の祈りを送りに来ていた。
この場を今まで管理していた女性の二人のシスターが教会の解体を手伝ってくれた人々へと感謝を伝へ話を始める。
その話を聞いて時間が経つ頃、ミツ達がやって来た。
「あれ? もう教会の解体終わったの? 随分と早かったわね」
「おう。戻ったか。まぁ、ミツのアイテムボックス内に白塗りを入れてるから手ぶらなのは分かるけどよ、何かお前達ズルくねえか? こっちは力仕事してたんだぞ」
気軽におわった事を確認するリッコにリックが少し目を細めミツ達を見渡す。
彼の言った通り購入した白塗りは全てミツのアイテムボックスの中であり、彼女達は手ぶらで帰ってきている。
「仕方ないじゃない。私も手伝うつもりで行ったけど、購入した白塗り、全部ミツ君がボックスの中に入れちゃったんだもの」
共に同行したローゼは少し呆れ気味に事情を説明。
その言葉にリックの目が更に細められていく。
「それってさ、お前達行く必要あったか……?」
「あんたもしつこいわね。ミツがお店知らないって言ったから案内もしてあげたのよ。なに、あんたはか弱い妹に力仕事でもやらせたかったの?」
「いや、それはねえけどよ……。お前がミツとこの場を離れた後、親父がすげぇ面倒臭かったって話だ」
「お父さんが?」
「ベルガーさん、どうしたの?」
「「……」」
ミツがリッコとローゼと教会を離れていく後ろ姿を目にしていたベルガーは、二人の息子が呆れる程に作業に集中していなかったのである。
作業中にチラチラと二人が向かった方向を見るわ、他の人からの質問に上の空だったりと、露骨なほどに娘を心配しすぎな親の姿そのままである。
ガンガが大声でベルガーボウイ、いい加減にせんと嫁に告げると声を張り上げたことにハッとするベルガー。
息子達の前であり、嫁のナシルにいらぬ事を告げられては旦那としての面目丸つぶれである。
周囲からの笑いもあり、息子二人の冷たい視線にベルガーが渋々とやっと作業を進めていたようだ。
親の恥を態々仲間たちに言いたくない彼らは口を閉ざしてしまう。
話が終わったのか、プルンが小走りにこちらに近づいてくる。
「ニャ! 皆、話も終わったニャよ」
「お疲れ、プルン。それじゃ瓦礫と廃材を全部貰うね」
「わかったニャ。あの二人にもちゃんと説明してるから持っていっていいニャよ」
解体した後の教会の廃材はミツが回収することを前もってダニエルに一筆書いてもらった羊皮紙をシスターの皆には見せている。
ミツはシスターに礼を尽くし、元教会の場へと足を踏み入れる。
「小僧、回収するなら、大きな物から回収しろよ。下手に小さな物はそれが支えとなっておるかもしれん」
「はい、分かりました」
ガンガの忠告を受け、ミツは教会の真ん中に立っていた柱に触れアイテムボックスへと収納する。その後大きな材木から壁に使われていた煉瓦を次々と回収。
シュッと一瞬で消えていく廃材に呆気にとられる街の人。
それを呆れながら見るのは仲間達である。
「いや、大体入るのは分かってたけどよ……。あれはもう、凄えとしか言葉が出ねぇな……」
「教会があったとは思えないですね。あっさりと空き地になっちゃいましたよ」
「アッハハハ。ミツが居たらよ、馬車何十台分になるってばよ」
「マネさん……ミツ君のアイテムボックスは、恐らく十ではすみませんよ……」
「百台くらいじゃねえか……?」
「莫迦ね、洞窟の素材があれだけ入ったのよ。きっと千台に決まってるじゃない」
「シシシッ、お前ら知ってるかシ? アイテムボックスの大きさは所持者の強さに比例するって噂があるシ。それを考えるならミツのボックスはそこのお嬢ちゃんが言ったように何千台分もあるかもしれないシ」
「「「なるほど……」」」
「って、シュー!? お前いつの間に居たんだってばよ!?」
突然会話に入ってきたシューに驚く面々。
だと言うのに当の本人は果物をかじりながらムシャムシャとそれを頬張っていた。
「何言ってるシ? ウチ、ミツ達と一緒にここに来たよ」
「き、気づかなかったっちゃ……」
「マジかよ……。リッコ、本当かよ……」
リッコはフルフルと首を横に振り、リックは隣に居るローゼへと視線を向ける。
しかし、彼女も同じ反応をみせる。
(ははっ……。シューさんは神出鬼没な人だね……。ほんと、いつの間に居たのやら……)
「全く、綺麗さっぱり片付けよって。お前さん、回収したそれをどうする気だ? そんな物を」
「ガンガさん、これはそんな物じゃありませんよ。回収した品は教会を綺麗にするために使う材料です」
「お前の言ってることがワシには分からん。壊れた物は使えまいというのに」
「まぁ、それが普通ですね」
ガンガの疑問を苦笑に返すミツ。
その後もう一つの教会へと足を向ける。
距離はそれほど遠くは無いので談笑混じりに皆と移動である。
二つ目の教会は火災にあってしまった教会である。
教会は半焼してしまい、嵐などが来たら簡単に倒壊してしまうかもしれない状態に置かれていた。
ここでもシスターが最後の祈りを送り、その後に解体作業が始まった。
すす汚れが酷いのでこのまま初めてはすす煙が舞い上がり、作業をする人達が大変だ。
ミツは作業を取り掛かる前と、半焼した教会に洗浄魔法の〈ウォッシュ〉を発動。
ミツが突然水をぶっかけたことに唖然とする人々だが、次第と黒ずんだすすの汚れが落ちていき、汚れが落とされたことに驚く周囲。
その後は一刻もせずに半焼した教会の取り壊しが終わってしまう。
二つ目と言うこともあり何処から壊すべきなのか、また半焼していた分、屋根などが無かったことが皮肉だが作業効率を上げていた。
更に言うなら足元に落とされたり取り外した材木を次々とミツが回収した為、動きやすかったのもあるかもしれない。
普通なら10日以上かかる作業が午前中だけで終わると言う解体作業だが、ガンガも呆れるスピードで終わってしまったことに少し時間ができた。
「坊主、昼飯ができるまで少し良いか?」
「はい? ガンガさん、どうかされましたか?」
プルンの教会に戻ったミツ達は、シスター達が昼食を作る間と少し休憩をしていた。
ミツが子供達と庭で遊んでいる中、ガンガが指を折りミツを呼ぶ。
「じーじ、にーに連れて行くのメェ!」
「そうだよ! じっちゃん、今は俺達がにいちゃんと遊んでるんだぞ!」
「ズルいズルい!」
「ガッハハハッ! 安心せい、暇そうな奴らならそこにもおるから、ちびっこ共はそっちで遊んでおれ」
「えっ?」
そうガンガは談笑していたリック達の方へと指を指す。
子供達は次の遊び相手を見つけたようで、目をキラキラさせつつ、ワーッと声を出しながらリック達へと突撃して行ってしまった。
子供の雪崩に巻き込まれたリックは抵抗もできず、三人に押し倒されている姿に周囲から笑いが溢れている。
「元気な奴らじゃ」
「子供はあれくらい元気じゃないと駄目なんですよ」
「フンッ。そうじゃな……。ところで坊主、お前にはこの井戸小屋について説明してもらおうか。どうも作りがワシにはよく分からん、造ったのはお前ならばワシに説明できるじゃろ」
ガンガは井戸小屋をコツコツと軽く小突きながらミツへと不敵な笑みを見せる。
珍しい作り方だけにガンガの匠心に火をつけたのだろうかと思い、ミツは二つの木材をアイテムボックスから取り出す。
「木組み式ですか? 良いですよ。じゃ、分かりやすく説明するなら……」
結局プルンがお昼ができた事を告げに来ても二人の会話は終わることはなかった。
ガンガの熱意がミツにも伝わったのか、それともプラモなどが趣味だったミツのオタク心とガンガの匠心が偶然重なったかは定かではない。
ネットなどの知識などをガンガへと教えていくと、ガンガは厳しい瞳で形を変えた木材を見つつ、組み合わさった時の感動を彼は声を出しながら歓声を上げていた。
「うむ……面白い! 鉄などいつも叩いておるが、木材も勿論ワシらは扱う。しかし、こんな組み立てがあるとは……。坊主、これは誰から教わった!?」
「えーっと……」
「誰じゃ! ええいっ! さっさと言わぬか!」
「な、亡くなった祖父からです……」
「……」
勢い迫るガンガの迫力に負けたのか、ミツは思わず共に旅をしていたと言う設定の祖父の話を出す。
既に亡くなった祖父からの教えと言うことにガンガは急激に頭が冷えたのか、目頭を抑え、スマヌと返答を返すのみであった。
何か悪いことしてしまったと思ったのか、ガンガの質問は木組みの基本的な事だけに集中してしまう。
ミツはこれは自分も悪い事をしてしまったと思い、ガンガの質問にはユイシスの助言を貰いつつ答えることに。
次第と元気を取り戻してきた彼らの元に、昼食を持ってきたプルンが声をかける。
「二人ともいい加減にするニャ。皆はもう昼食を食べ終わったニャよ」
「態々ありがとうね、プルン」
「何じゃ、プルンか。今いいところなんじゃ、飯はそこに置いてよいからお前さんは早よいけ」
ガンガは集中している所を邪魔された事にプルンへと手を振り少し邪険にあしらう。
態々昼食を持ってきた人に対して、ガンガのその態度にプルンの笑みに影を落とす。
「ムカッ……。はい、これミツの分ニャ」
「うん」
リッコと共に作ったのか持ってきてくれたのはスパイダークラブの身を焼いたサンドイッチだった。
チーズや他にも具をぎっしり挟んだのか、香ばしい香りに加えて食欲をそそるいい香りを漂わせる。
鼻をひくひくと動かしたガンガはプルンへと手を差し伸ばし、サンドイッチを要求。
「ほれ、ワシにもよこさんか」
「……ハグッ!」
「なっ!?」
しかし、プルンはガンガにサンドイッチを渡すことは無く、彼の目の前でガンガのサンドイッチをバクリと食べてしまう。
「ムシャムシャ……ジジイの分は無いニャ!」
「コラッ! このジャジャネコが!」
ガンガの張り上げた声に合わせプルンが駆け出す。
それを追いかけてガンガもその場を後に行ってしまった。
「……元気だな」
微笑ましい二人の姿を見送りつつ、ミツは昼食を食べながら一人モクモクと続きを続けるのだった。
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