第190話 友好の証
ヒュドラの解体にて、血抜きと内蔵処理が終わる頃にバーバリに呼ばれるミツとセルフィ。
「んっ! セルフィ嬢、ミツ殿、おふた方こちらに」
周囲の視線もある為とはいえ、バーバリから殿呼びされる事に苦笑いを浮かべるミツ。
「はいはい、如何されました? んっ、バーバリさん! これって」
「うわっ、莫迦みたいにデカイわねこの龍玉」
バーバリが呼ぶ方へとミツが足を勧め、彼が見る先にはヒュドラの心臓である龍玉が既に姿をみせていた。
「これが龍玉、ヒュドラの心臓ですか。硬さも見た目も石に見えますね。思ってたのと違うな……」
彼は龍玉と言えば宝石の様にキラキラとした物か、水晶の様に透明な物を想像していたようだ。
しかし、現物を目の前にしたが、それは大きな岩と思える品にしか見えない。
「うむ、しかしこれは紛れもなく龍玉。これ程の龍玉は我が国でも目にする品ではなかろう……」
「はぁー。バーバリ様、こんな物があっちこっちにあったとしたら異様な光景ですよ。取り敢えずレイリー様に連絡しないと。グラ、エンダー国の兵の誰かに連絡を回して頂戴」
「はっ、かしこまりました」
セルフィは近くにいるグラツィーオへと指示を出しエンダー国の兵へと連絡を回す。
一度こちらに確認を兼ねて龍玉を見に来た兵が驚きの表情を一度浮かべてはレイリーの元へと駆け出す。
「そんなに驚くものですかね?」
「「……」」
慌て駆け出す兵の姿を見送りつつ、ミツは改めて龍玉を見るが、やはりそこまで驚く感覚が彼には分からなかった。
だって本当に見た目が岩にしか見えないのだから仕方ない。
彼の言葉に側にいる二人は呆れているのか、目を細めていた。
「お前はこの龍玉の凄さが分からんのか……」
「龍玉自体初めて見るものですからね。正直これが体の中から出て来たと言われても、龍玉と言われなかったら自分は胃石か胆石と勘違いしてますよ」
「な、何だそれは……?」
「あー。えーっと、人間の体で希に見られる物ですね。胃石は食べた物が固まってできる物で、胆石はバランスの悪い食生活でできる病気です」
「フンッ、貧弱な人族らしい病ではないか」
「ははっ……まぁ、これに関しては本人の食生活が原因ですからね……。自分も反論はできません。さて、それよりも話してる間にレイリー様ご本人が来られたみたいですね」
「品が品だけに自身の目で見たいんでしょうね」
レイリーはいつもより歩むスピードをはやめ、側仕え達にドレスが土につかないように持たせてはこちらに近づいてきた。
王妃であり母のレイリーを護衛するためと側にピッタリと控えるは息子のジョイス。
周囲の警戒を怠るなと、彼は声を出しつつ近づいてくる。
「レイリー様、態々お越しいただきありがとうございます」
「そのままでよい。童の気遣いは心得ておる。それで、品が見えたと妾の場に声が届いたが誠確かか?」
「はい。バーバリさんとセルフィ様にも確認して貰いましたので間違いないかと。まだヒュドラの体内に入ったままですが、目視できる場に。あちらに見えるのがレイリー様へと献上いたします龍玉にございます」
膝をつこうとしたミツをレイリーが呼び止め、ミツはそのまま体の向きを変えては龍玉の方へと手を刺し伸ばす。
その場にいる皆が視線を変えると、目に入ってきたのは大きな龍玉の塊。
まだ全体の大きさは見えてはいないが、既に見える部分だけでもエンダー国の面々は驚きの表情を浮かべていた。
「おお、何と美しき品たるか」
「こ、これがヒュドラの龍玉……。予想以上の品でございますな」
レイリーの言葉の後に、左大臣のアンドルが思わず気持ちを口にする。
しかし、それ程に彼らは驚きを隠せない品を目の前で見せられたのだ。
ここからはエンダー国の兵達がレイリーの指示の元に率先して動き出した。
と言っても龍玉の取り出しには、それ程時間をかけることは無かった。
何故ならミツが龍玉に触れた後、それだけをアイテムボックスへと一度収納し、レイリー達の前に龍玉を出した為である。
一同は驚きの声を更に上げる。
レイリーはゴクリと一度唾を飲み込んだのか、少しだけ彼女の喉が動いたのが見えた。
そこまで興奮するものかと、未だにミツは龍玉をただの岩としか見えていない。
ミツは試しに龍玉へと鑑定を使用してみる。
ヒュドラの龍玉。
凝縮された濃厚な魔力を秘めた石。
万の魔力を備えた龍玉はそれを所持する者へと力を与える。
鑑定結果は魔石と似たような感じの説明であった。
しかし、その力がどれ程なのか、やはりピント来ない。
そこにユイシスの声が聞こえてくる。
《ミツ、貴方の目の前にある龍玉は、魔力値で説明すると、MP30万分もの魔力を秘めています。魔石一個が大体MP100分ですので、目の前の龍玉は三千個分の役割を果たすことができます》
(三千個!? はー……そりゃ皆もあんな表情やリアクションするよね。まあ、あげるって言ったし、今更変更を口にするのも相手の機嫌を損ねるから言わないけど)
「レイリー様、それではこちらの龍玉をエンダー国へと献上させて頂きます。これを縁とし、これからもエンダー国との友好を続ける事を心より願わせて頂きます」
ミツの言葉にレイリーがミツの方へと1歩前に歩む。
「良きに。貴殿の心意気を国の代表として受け入れる事をここに誓おう。これより、我が国、エンダー国は冒険者のミツと深き繋がりをこれからも永久に結ぶであろう。この品は我が国の更なる発展に繋がる。その際、貴殿を我が国に招く際は国を上げて喜んで受け入れると約束する」
「エンダー国と冒険者ミツ殿の友好に祝の言葉を!」
「「「おめでとうございます!」」」
「「「おめでとうございます!」」」
「「「おめでとうございます!」」」
レイリーとミツの二人が握手を交した瞬間、左大臣のアンドルが声を張り上げ、祝の言葉を周囲の兵達が声を合わせ高らかに告げる。
その場の雰囲気はとても良い物だが、ヒュドラの龍玉を見せられた他国の面々は顔を青くするものがちらほら。
それがセレナーデ王国の王族達である。
それは遠目でも分かる程の龍玉の大きさ。
それが無償同然にエンダー国へと流れてしまった。
この場で今更反対の声も出すことのできない彼らは、王族としての立場もあるが見す見すそれを見送る状態となってしまった。
それは先程のバロンとの戦いが大きく尾を引いてしまっているせいでもある。
しかし、ミツにとって貴重なヒュドラの龍玉と血を渡すことに対して、彼に躊躇いや勿体無いと言う考えは実はそれほど感じてはいない。
確かに貴重な品であれば手元に置いておけば何かと役に立つときもあるかもしれない。
だが、長年ゲーマーとしての経験があるせいか、HPとMPを全回復するエリクサーや、ステータスを上げる種、または入手困難なアイテムは結局最後まで使うことの無い倉庫の肥やしとなる事が頭の中でチラチラと考えが浮かんでしまっている。
彼の中では使える物は使いたい人に、必要な所に渡すべき物は渡すべきと考えでもある。
例えば今回渡したヒュドラの血。
回復ポーションと共に使用する事に回復量や効果を増しましにする万能薬にもなる品である。
しかし、既にミツは回復薬の効果を増加させるスキルもあれば、回復方法も多彩なスキルで持っている。
龍玉に関しても同じ事。
ミツがその辺の石屋にてカセキとなった石を集め〈物質製造〉を使い、分身に協力してもらえば、目の前以上の品ですら作れてしまう力を彼は既に持っている。
二国へと貴重な素材を渡し、彼は信頼と友好を得る事ができている。
確かに物を相手に渡して友達になりましょうでは、本当の友人にはなれないかもしれない。
しかし、渡した相手は国の代表となる人物。
今回渡した品は彼らの個人的な私物ではなく、国に使われることは間違いない品である。
考えてみて欲しい。もし自身や家族が治らないと言われた病気にかかった時、他国からその病を治す薬ができたと自国に流れて来た。
その薬を受け取った人が自分や家族の病にその薬を使って治してくれた。
そう考えると治してくれた者、また薬を作ってくれた者に感謝の気持ちだけでも送るかもしれない。
また別の考えもある。
生活に欠かせない電気。
この電気だが、一世帯は年間いくら払っているだろう。
その支払いが一定内であれば向こう30年間使い放題、無料で電気が使えるとなればどうだ?
その一定内に抑えて生活ができるとなれば、その世帯は電気代を払わなくて済む。
その分生活に少し余裕もできるし、物価も次第と下がっていけば更に生活が楽になる。
これらを考えると、ローガディア王国は病率が減り、エンダー国は平民の生活の豊かさが上がる。
ミツの献上した品で、何十万と言う国民の生活が変わる事になったのだ。
逆にそれを受け取るチャンスを失ったのがセレナーデ王国である。
そのことを深く理解してか、頭をうつむかせるアベルであった。
バロンの暴走をあの場で止める事のできなかった彼の大きな失態でもある。
エンダー国の兵達が貴重品を扱う様に、龍玉を荷台に乗せては運んでいく。
それは荷台を囲む兵の数が多すぎて、龍玉の姿がもう隠れて見えない程にだ。
レイリーは後のヒュドラの解体作業には、是非ともエンダー国の兵を使ってくれとまで言葉を残している。
上機嫌な彼女は笑みをつくり、そそくさとその場を離れてしまった。
まあ、この場に残られても周囲の兵士さん達が緊張するので、彼女には席を外してもらった方が彼らも作業に集中できる分その方が良いのだが。
そしてその場に残ったエンダー国の数十の兵。蜥蜴族、骨族、魔族、鳥鬼族、そして鬼族。力仕事や繊細な仕事には最適な人材だった。
そして、その者たちを束ねるは一人の女性。
「ちわっす! 王妃様のご命令にて協力します! でも、私はあんまり力仕事では力になれないから、それは先に言っときますね……。キャハハハ」
そんな気軽な挨拶に笑みを見せるは黒のビキニアーマーを着込んだスリザナである。
色気ムンムンのスリザナの雰囲気に、セルフィの護衛であるリゾルートとグラツィーオの男二人の頬が染まる。
その態度に、二人の間に居たアマービレの肘鉄が二人の腹部に深く突き刺さった。
そのやり取りに苦笑いを浮かべるミツ。
「あはは……。いえ、次の作業はヒュドラの鱗取りです。人手はとても助かりますのでエンダー国のご協力に感謝申し上げます」
「あー、私にそんな固い言葉遣いは良いですから。それに、貴方の贈り物のおかげで、気難しい王妃様があれだけご機嫌なのは私達も助か……喜ばしいことですから。あ、あははは」
「そ、そうですか……」
「そうそう。王妃様がご機嫌だと、あのマザコン莫迦王子……ゴホッゴホッ! えーっと、王子の機嫌もいいので、本当に助かってるのは私達の方ですよ」
「「「……」」」
スリザナの言葉に口を閉ざすミツ達。
しかし彼女の言葉が本心なのか、スリザナの後ろの兵達も無意識だろうか、結構首を縦に振ってる人がちらほら……。
「まあ……。取り敢えず作業を始めますか……」
「そうね……」
「うむ……」
血を抜いて、内蔵と龍玉を取り出したヒュドラだが、まだまだ作業は残っている。
ヒュドラの鱗は頭から尻尾の先までびっちりとあるので、今からこれを全て取らなければ次の工程に行くことができない。
ヒュドラの鱗はミツの見た事のある蛇の鱗と違い、まるで魚の様に、皮膚の表層に板状の鱗が埋め込まれた構造になっている。
ならば魚の鱗を剥がすように、尾から頭に向かってバリバリと何か鱗剥がしでも使おうと思ったが、下手に雑な方法で鱗を剝がしては鱗の品質を下げてしまう。
仕方ないのでその方法は止めるとして、セルフィにどうやって剥がすかを質問。
すると彼女は簡単よとグラツィーオに指示を送り、彼は鱗と鱗の間にナイフを入れ、それをテコの原理を使いパキッと音を鳴らしては取ってしまう。
以外にも鱗の表面は魔法や物理的衝撃は耐えることのできる品物でも、こんなふうに簡単に取る事ができるようだ。
しかし、この鱗を取る作業もかなりの時間が取られるのは明らか。
大きさにもよるが、魚の鱗は片面300枚は軽く超えた枚数がびっちりとある。
それを考えるなら目の前のヒュドラの鱗は何万枚あるのだろうか。
考えるだけでも面倒な事だが、先程グラツィーオが剥した鱗一枚でも虹金貨の価値は出せる品である。
それをおいそれとぞんざいに扱うわけにも行かず、各自バラバラに散らばり鱗を剥がす作業が始まった。
手際良く次々と鱗を取る者もいれば、鱗一枚の価値を考えてしまい、はぎ取るペースが遅い者と別れてしまう。
このままでは日が暮れて次の日になっても終わらない。
セルフィとバーバリ、そしてスリザナの三人の話を聞きつつ、ミツも如何しようかと考えていると、周囲の警備を指示していたゼクスは三人の表情が思わしくない事に気がついたのだろう。
どうしたのかとゼクスが近づいてくる。
「ふむ……。確かにバーバリさんとセルフィ様のおっしゃることは確かに。この作業ペースでは鱗を剥がすだけでも数日かかりましょう」
「ですよね……。参ったな、鱗を取るだけなら直ぐに終わると思ってたんですが、思った以上に作業が進まないな……」
ヒュドラの方に皆が視線を向ける。
作業を行う者は鱗を剥がすにも慎重に、そして剥した鱗を箱に詰めるものはまた丁寧にゆっくりとその作業が見受けられる。
大体鱗一枚剥がすのに2~3分かかっているだろう。
「しかし、この場にはこの様な大物を解体した経験者がまず居らぬ。時間がかかるのは前もって知れた事であろう」
「でも、中にはもう作業に馴れた奴が居るのか、そいつらは結構早いペースで作業を勧めてくれてるわよ。作業を続ければ今よりもペースは上がると思うわよ?」
「んー。そうなんですが……」
スリザナの指を指す先の兵士の中には、確かに素早く鱗を剥がす人が見えた。
しかし、それはほんの一部で、全体的に効率を上げたいミツは眉尻を下げてしまう。
そんな中、観客席の方と荷運びを勧めている騎馬部隊を交互に見ていたセルフィが不敵な笑みを見せる。
「……ニヤリ」
「あの……セルフィ様。先程から何処を見ながらその表情何でしょうか……」
「いや〜。なーに。この場に居ない人達にも、ちょーっとだけ働いてもらおうかなと思ってるだけよ。えーっと、確か……あっ、居た居た。ねぇ少年君、私から一つ良いかしら?」
セルフィは観覧している貴族達を見渡し、とある人物を見つけたのかその不敵な笑みを深める。
その表情にミツは思わず後ずさり。
「は、はい……」
「ちょっと、何で後ずさりするのよ!?」
「あっ、体が勝手に」
「なにを!」
隠す気もないミツの言葉にセルフィがくってかかろうとした時、二人の間にスリザナが入る。
「まあまあお二人とも。この場でのいい争いは、多くの人の目がありますから止めときましょうよ」
「うむ。そこの娘の言う通り。それで、セルフィ様は小僧に何をさせるおつもりで?」
「そうだった……。もうっ! 少年君、君は他国に友好的な手を差し伸ばしてるけど、セレナーデ王国だけちょっと難しい状態に立ってる事は気づいてるわよね?」
バーバリからも同じ様な言葉を受け、セルフィは一度間をおき、改めてミツへと向き直る。
「まあ、自分は気にしては居ませんが、相手がちょっと引いてる感じはしますね」
「ふむ……しかしセルフィ様。それはこれまでの行いの重なりであり、我々が口を挟むことではないし、小僧との友好が結べぬのは国の失態でしかなかろう」
「そうそう。私から見てもあのバロンって奴の発言はヤバイでしょ。私の国であんな事したら生きていられませんよ。ってか、あの場であの男を無理矢理にでも取り押さえなかったあの人達の頭が足りないんじゃ? あっ、だからあんな事になったのか」
セルフィの言葉にバーバリとスリザナは、セレナーデ王国が起こしたミツに対しての今までの言動に呆れつつ、アベル達が座る観覧席へと視線を向ける。
「そうなのよね……。でさ、ここはセレナーデの坊っちゃん達に少しだけ借りを作らせようかと思ってね」
「借りですか……?」
「少年君、今から君があの人達の所に行って、暇してる人材を片っ端から引っ張って来なさい。何もせずに傍観してるよりかは、今なら君にあれこれとやっちゃった人達は素直に言ったことを聞いてくれるから」
「は、はあ……。良いんですかね?」
セルフィの考えとしては、人手が足りないなら補充すれば良い。この様な考えを思いついたようだ。
しかし、この人材補充の案に対して、セルフィやバーバリ達が口を出せるわけもない。
なぜなら他国の人手を自国のために使えと言う言葉は、流石に三人の立場もあり、彼らの性格でも言えるわけもなかった。
しかし、セレナーデ王国は既にミツに対してNOと言う返答ができなくなっている。
勿論無茶難題ならばキッパリと断るだろうが、ヒュドラの解体と言う、後の光栄となりうる手伝いならば彼らは寧ろ喜んで兵士を貸し出すだろう。
ミツが彼らに声をかける事に渋っていると、バーバリが彼の背中を押すように言葉をかけてくる。
しかし、その話の内容の一部に違和感を感じたのか、ミツは疑問符を浮かべてしまう。
「……お前はもう少し自身に向けられた言葉の意味を理解すべきだ。もし我があの場でお前と同じ様な言葉を浴びせられたとしたら、それは国に対して剣を突き付けたと同様であり、許されぬ事だと理解しろ。しかしだ、お前は人族である以上沈めるべき心は持つべきだろう。セルフィ様の言葉はセレナーデ王国に許しの言葉を与える、そう言う意味も込められておるのだ」
「ん?」
ミツがバーバリへと質問しようとするが、間をおかずしてゼクスとスリザナが言葉を入れる。
「ミツさん。この場はセルフィ様のご意向に同意する事をおすすめいたします。貴方様の心の中にはセレナーデ王国に対して対立する意思が無いことを示さなければなりません。それは貴方様の冒険者としての今後にも繋がる道を閉ざすことにもなります」
「ヒュドラの素材すら辞退したんでしょ? そろそろ許してあげたら?」
次々とかけられる言葉に困惑するミツ。
何か話が自身の知らない方向に向かっているのではないのかと思った彼は両手を差し出し、三人を止める。
「えっ? えっ? 皆さん、ちょっと待ってくださいよ!? 自分は本当に気にもしていないんですよ? 何か皆さんの言葉を聞くと、未だに自分が怒ってるように聞こえるんですが……」
そう言葉を出すと周囲が唖然とした顔になった。
「「えっ?」」
「「……」」
「えっ?」
彼の言葉にセルフィはまさかの思いに、恐る恐ると先程の会話の話をする。
「いや、君……あの第二王子に対して、気にしてないしか言ってないじゃない?」
「いや、だから怒ってない意味も含めて気にしてないって言ったんですよ」
彼らは合点がいったと言う気持ちなのだろう。
目を細める者、空を見上げ呆れる者、苦笑混じりに笑みを作る者様々。
「あー。なるほど……」
「はぁ……。少年君……」
「これが平民と王族との考えの違いか……。仕方ないと言えばそうかもしれんが……」
「えっ? 自分気にしてないって使い方間違えました?」
「ミツさん。確かに貴方様の言う通り、平民相手ならば気にするなと言えばそこで互いに話は終わります。しかし、王族に対して気にするなと言う言葉の返しは……その」
ゼクスが言いづらく言葉を探していると、セルフィが掌をゼクスに向け、少し呆れ気味にミツへと説明をする。
「いいわゼクス、私から彼に教えるわ……。あのね少年君。君はあの王子様達に対して、気にしてないって言ったわよね? でもね、それはお前ら、この借りは後でしっかり付けるからなと、同じような意味の言葉を君は言ったのよ……」
「……」
あまりにも予想していなかった言葉がセルフィから出てきた事に、一瞬唖然とするミツ。
「えっ……えっ!? な、何でそうなるんですか!? だってあの時アベル様も感謝するって言葉を返してましたよ!?」
「恐らくあの場、つまりは周囲の目の前でボコられなくて済む意味で感謝するって言ったのよ……」
「ボコって……。あー、だからあんな顔してたのか……」
ミツは先程のアベルとの会話の中、アベルだけではなく、周囲の人達も似たような表情を浮かべていた事を思い出していた。
その時もしダニエルが居たならば、彼の反応でミツも自身の発言に違和感を感じていたのかもしれない。
「それじゃ話は早いわね。少年君がさっきの気持ちをあの人達に伝えればいいのよ。そうすればヒュドラの解体も早く終わるもの」
「そうですね。分かりました。どのみちエマンダ様やパメラ様にも少し話があったので行ってきます」
「はいはい。それじゃ私達は作業を続けるわね」
パンパンと手を叩き、周囲を急かす様にセルフィも腰に携えていた短剣を引き抜く。
その姿にスリザナが恐る恐るとセルフィへと声をかける。
「あ、あの……セルフィ王女? まさか貴女様もヒュドラの鱗剥がしの雑務をされるのでしょうか……」
「えっ? 当たり前じゃないの。ここで私が動いてれば、作業を手を抜くようなお莫迦さんは出ないでしょ。もしそんな子がいたとしても、そんな子はバーバリ様の拳でしつけをすればいいのよ」
「しかし……」
「ガッハハハ! 娘よ、セルフィ様をその辺におる王族と同じ目では見てはいかんぞ。……なれろ」
「はぁ……(自分の国の王族だけが変だと思ってたけど……。他国も同じ様なものなのね……。ってか、お姫様の気まぐれも迷惑なんだけどなー)」
スリザナは心の中ではセルフィの働きはそれ程でもないと勘ぐっていた。
しかし、いざ作業を始めれば彼女はヒョイヒョイと次々とヒュドラの鱗を剥していく。
いくら自国に貰い受ける品としても、そんなにぞんざいな扱いをしては品質が下がってしまうだろうと彼女は思っていた。
だが、セルフィが取った鱗を一枚見れば彼女は驚き。
それは他の誰よりも綺麗に剥ぎ取った品であったそうだ。
いつもおちゃらけたセルフィでは意外だろうが、彼女は手先は器用である。
セルフィの活躍にこれは負けじと、周りの兵達の作業スピードも上がっていた。
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