第189話 ヒュドラの解体
「これより、ここに居るすべての者、四国の力を合わせ、冒険者ミツ殿が単独にて討伐したヒュドラの解体を行う! 皆の者も心得ておると思うが、今回扱うヒュドラの素材。これは一つ一つと貴重なレジェンド品の素材となる。鱗一枚、血の一滴足りとも無駄にできぬ品を今から我々は触れる事となる。これは貴殿達の名誉な事、またこの機会を与えてくれた彼に感謝し誉れとするが良い。それでは、主に解体は手なれた者を前に、不慣れな物は荷運びの働きを見せよ! 今回この解体に関して全面的に指揮を取らせてもらう、我、ローガディア王国のバーバリが承る。諸君の働きに期待する!」
「「「「はっ!」」」」
バーバリの声に、その場にいる兵士全てが声を合わせ返答を返す。
その兵士達、全ての視線のほとんどを集めるのはバーバリにではなく、近くにいるミツに向けられていた。
ここはフロールス家、西の訓練所である。
ヒュドラの解体を行うことを決めたミツ。
彼は解体を行う際、ダニエルへとバロンとの戦いでも使用した屋敷の隣の平地を借りてもよいかと声をかけていた。
だが、そこは解体するには足元は悪く、作業を行うには少し使いづらい場である。
ダニエルは他の場所でも良いかもと彼の好意もあり、屋敷内のこの場を使うことになった。
ここならば屋敷内の訓練所と言うこともあり、解体などには使い勝手も良い。
暫くこの場での訓練はできなくなるだろうが、元々カイン達が来客している内は、家族の誰もが訓練などする事はないと場の提供である。
「それでは……ミツ殿。討伐したヒュドラを出していただけようか」
「はい。分かりました。それとバーバリさん、いつも通りの話し方で良いですからね」
「ぬっ……」
ミツはバーバリへと言葉を残し、中央へと歩き出す。
その後ろ姿を見送りつつ、ミツと共に側にいたゼクスが飄々とした笑い声をバーバリへと向ける。
「ホッホッホッ。良いではありませんかバーバリさん。ミツさんがそう望まれているのですから、彼に対して我々はいつも通りの対応で良いのですよ」
「ゼクス、お前は……。フンッ!」
ミツが訓練所の中央に立ち、アイテムボックスへと手を入れる。
観客席には各国の代表者、そしてダニエルの家族がこちらを伺っている。
この解体を1度目にしようと今日もフロールス家に来賓した周囲の街に住む貴族達。
彼らの視線を受けつつ、ミツはヒュドラを一気に取り出す。
「よっと」
アイテムボックスから取り出したヒュドラの亡骸。その大きさと、また今にも動き出すのではと思う迫力に周囲からざわめきが立つ。
太陽の光にキラキラと反射するヒュドラの鱗に見惚れしてしまう貴族もチラホラ。
ヒュドラがアイテムボックスから出された事を確認後、バーバリが拡散機の魔導具を使い声を出す。
「それでは、先ずはヒュドラの血抜きを行う! 血を入れる為、樽の準備をせよ!」
兵士達は馬車に乗せた樽を下ろし、ヒュドラの近くへと運び始める。
「さて。先ずは血抜きだね」
「少年君。血を出すなら何ヶ所か別々に取った方がいいわね。その前に、先ずは心臓に近い部分から傷を入れるといいわよ。そこから空気が入って、他の場所の血の出が良くなるもの」
ヒュドラの解体を手伝う為とセルフィがミツへと近づく。
彼女は動物の血抜きなどは手慣れているのか、血抜きのコツをヒュドラに指を指しながら教えてくれる。
「セルフィ様、ヒュドラの心臓ってどの辺なんですか?」
「んー。これだけ大きなモンスターとなると、恐らく君が大きな傷をつけた場所じゃないかしら? あの部分は君が治しちゃったから、もう一度切らないとね」
「そのままにしては血がどんどん流れちゃいますからね。仕方ないので倒した後に傷は自分が塞ぎましたから、えーっと。ちょっと見づらいですね」
「そりゃ、うつ伏せになってちゃ腹部分は見えづらいでしょうね……!?」
セルフィはペシペシとヒュドラの体を軽く叩く。すると彼女は違和感に気づいたのか、ヒュドラに手を添えたままに眉間にシワがよる。
「これを取り出すときに、仰向け状態に出すべきでしたね……。んっ? 如何しましたセルフィ様?」
「いや、気のせいかしら……。このヒュドラ、まだほんのりと体温を感じるのよ……。もう数日も経つから、表面の皮も硬くなるはずなんだけど……」
「ああ。なるほど……。あの、セルフィ様、少しお耳を……」
「何?」
「あのですね、自分のアイテムボックスなんですけど……」
ミツは周囲に誰もいない事を軽く確認した後、声を少し落とし自身のアイテムボックスの事を彼女に教える。
それはミツの持つアイテムボックス内は、時間が停止して腐敗や老廃をしない事である。
ミツがセルフィへとこの事を話す理由としては、いつかは取り出した素材などで感の鋭いセルフィにはバレると見通しての事。
それなら自身からその事を彼女に伝え、あえてその場で口止めをした方が相手の口も固くなるという人の心理をついた作戦である。
「なっ!?」
「如何されました、セルフィ様?」
思わず驚きに声を出してしまうセルフィ。
その為、彼女の私兵であるアマービレが直ぐに駆け寄り声をかけてきた。
「んっ!? な、何でもないわよ。さっ、アマちゃん達も動いた動いた!」
「はあ……?」
「ふぅー。少年君、今の話本当なの……」
「はい。自分のアイテムボックスの中身は時間が止まっています。なので入れた品は鮮度はそのままに、劣化も腐敗もする事はありません。だからヒュドラは倒したその時のままの体温を残してたんですよ」
「なるほど……。少年君、その事を他に知る人は……」
「いえ。セルフィ様だけですね。セルフィ様には伝えても問題ないかと思ったのでお教えしました。まあ、他の人にもし聞かれたら相手によっては答えますが、自分から言うことは無いですね」
これが見ず知らずの者が口にした発言ならば、セルフィは相手は口八丁と心の底から信じることはできなかったかもしれない。
だが、セルフィはその言葉をすんなりと受け入れていた。
それは今まで目の前で見せられてきた驚く出来事の数々に、彼女自身、少し感覚が鈍くなっていたのかもしれない。
しかし、目の前の少年の言葉は目に見えない信頼感を彼女に感じさせるには充分であり、それが決め手なのかもしれない。
呆れ、ポカンとしていた表情は次第と彼女に笑みをつくる。
「そう……。フフッ……はっははは。相変わらず面白いわね君は。そっかそっか、私が一番最初か、ククッ……」
「セルフィ様?」
「いや、いいのいいの。気にしないで。それよりも先ずはヒュドラの向きを変えないと……。グラ、リゾ! ヒュドラの胴体を横向きにするわよ。アマちゃんは他の者を使い紐を通して」
「あっ、セルフィ様。紐なら自分が出しますのでそれを使ってください。その辺にある紐よりかは丈夫な作りですから」
「分かったわ。さっ、皆で取り掛かって!」
セルフィの号令とバーバリの指揮に動き出す兵士達。
ミツは次々と〈糸出し〉スキルで出した紐をロープに作り直しその場に積み上げていく。
紐の長さは充分だが、ヒュドラの大きさとその重さが作業効率を下げてしまう。
「やっぱり時間かかりますね……」
「アレだけの大きさですもの。大人数いても向きを変えるだけで時間はかかるわね」
ミツは一度ヒュドラを下げ、仰向けにしようかとセルフィへと言葉を伝える。
しかし、ここまで大きなヒュドラとなると、仰向けにするよりかは横向きに血抜きを行わなければ血の出が悪いとの事。
ミツの傷つけた傷は丁度ヒュドラの胸部分。
その場に血抜き用の穴を開けたとしても血が取り出しにくいそうだ。
なので今のヒュドラの体は横向きに寝かされた状態。
この作業だけでも一刻を軽く超えてしまい、先に兵士達が順番と昼食を回し始めている。
ミツ達はその場から離れることもできない為、近くに仮設的に食事の場が作られそこで昼食を取る事になった。
ロープを固定する為と杭を打ち込む音が響く。
その音が止まると直ぐに一人の兵がこちらに走って報告をする。
「セルフィ様、ヒュドラの固定が完了しました!」
「ご苦労様。それじゃバーバリ様、スパッとよろしくお願いします」
セルフィは近くに待機していたバーバリへと声を飛ばす。
彼の今の格好は洞窟に潜った時と同じ武装状態。
精神統一をしていたのか、バーバリはセルフィの言葉にゆっくりと目を開く。
「承知。我が剣に斬れぬ物無し、任されよ。しかも相手は既に動きを止めた獲物。小僧、逆に斬りすぎて後に声を出すなよ」
「はいはい、その時はまた自分が斬り過ぎた分は治しますから気にしないでください」
今回の解体の作業は四国同盟の力を合わせると決まっているが、大きな解体を行う際は力のある獣人国の面々が行うことになっている。
一番槍とバーバリは自身の得物である大剣を鞘から抜き、ヒュドラへとその剣先を向ける。
近くに居る者はバーバリの闘気を肌に感じるかもしれない。
ビリビリとした雰囲気にバーバリが毛を逆立てる。
赤くゆらゆらと見える闘気のオーラが彼を包み、バーバリの髪の毛に赤いメッシュが染まっていく。
そして大きく振り上げた彼の剣が気合と共に振り下ろされると、振り下げた剣から真空波が発動。
「はあああ……。たぁ!!」
周囲に突風を巻き上げ、ヒュドラにバチンっと大きな音を響かせる。
「「……」」
「あらあら……」
「……フンッ」
鼻息一つ残し、バーバリは大剣を鞘にゆっくりと戻し、踵を返し戻ってきた。
その行動に思わずミツが突っ込みを入れる。
「いやいや、バーバリさん、フンッじゃありませんから。斬れてませんから。何を良し!
みたいな感じに鼻を鳴らしてるんですか」
バーバリの真空波の斬撃は、ヒュドラの胴体の皮1枚すら剥がすことなくその状態を保っていた。
何が起きたか分からない兵達はそれを見ているが、目的である傷を付けれていない。
ミツの言葉にバーバリは彼からしれっと視線を外す。
「……」
「えっ、無視!?」
「狼狽えるな。……今日は少し腹の調子が思わしくない。それにヒュドラの素材も数日日が立っておる分、アレは硬直が進んでおるのだろう」
バーバリの腹の調子は知らないが、ヒュドラの素材は時間停止したアイテムボックス内に入れていたのでそれは無い。
バーバリの言葉に思わずミツの目が細くなる。
「……」
「なっ!? こ、小僧、その目は何だ」
「いえ……」
「小僧、言っておくがな! 我に斬れぬなら他の誰もこの場の者には斬れぬぞ! 何か思うならばお主が斬ればよかろう。あの傷を付けたのは元々はお主なのだから」
「いや、それはそうですけど、ここはバーバリさんに斬って貰わないと駄目なんでしょ?」
「くっ……」
ヒュドラの胴体につけられたバッテンの大きな傷は、ミツ本人が嵐刀出付けた傷である。
ならばミツがまた同じ様に斬って傷を付けようと思っていたが、お偉いさん達の考えとしてはバーバリの力量を改めて見たいと言う言葉がチラホラと出ていたようだ。
武道大会でミツに敗れ敗退してしまったバーバリだが、ローガディア王国では獅子の牙団長であり、王の懐刀の彼。
本当の力をこの場で見せる事が他国への抑止力にもなり、いざという時に頼れる者を自身の目で判断したいのだろう。
「全く、周囲からの外見なんて気にしてないで、少年君にズバッと斬って貰えばいいのに」
「セルフィ嬢、我もそれは心に思うが、視線あるうちは仕方あるまい……。小僧にばかり頼ってばかりの所を見せてばかりでは顔が経たぬ」
「はあ〜。だから面倒くさいのよね王族様って」
解体作業の効率を考えれば、セルフィの言うとおりにミツがスパッと斬れば済む話である。
それができないのがもどかしいのか、セルフィは腕組みをしながらイライラと足を鳴らす。
ミツはバーバリの斬撃を受けたヒュドラを見つつ、バーバリへと疑問と声をかける。
「んー。バーバリさん、失礼ですが手持ちの武器ではそれが一番の品物ですか?」
「うむ。国へ戻れば勿論これ以上の武器はあるが、今の手持ちの中では……」
「そうですか……」
「ねえ、私が周囲の視線を集める間に少年君が斬っちゃうのはどう? それで直ぐにバーバリ様が剣を振り抜く姿を見せれば良いんじゃない?」
「しかし、それでは……」
これは名案とセルフィが悪戯な笑みを浮かべ案を口にするが、バーバリは困り顔。
二人を置いて、ミツがヒュドラの方へと駆け出す。
「よしっ! セルフィ様、バーバリさん、ちょっと待っててくださいね」
「「?」」
スタスタとヒュドラへと近づき、ミツは探しものをするように周囲を見渡す。
「えーっと……。こっちよりこれかな……」
「あの子、何をする気かしら?」
「小僧、先程から何をしておるのだ?」
「おっ! 丁度これは取れそうだな。よしっ」
ミツはヒュドラの前足で何か見つけたのか、それをズボッと引き抜きセルフィ達の元へと戻る。
「少年君。それ……」
「ヒュドラの爪か」
「はい。お二人とも、ここで問題です。動物の体で硬い物って何だと思いますか?」
「えっ?」
「骨と牙、そして爪であろう」
「そうです。骨では足の大腿骨、歯では奥歯、そして爪は親指が一番硬いんです」
「それは分かるけど、だからってそれをどうする……まさか……」
彼女はまさかと眉尻を上げ、バーバリもその反応にミツへと視線を向ける。
二人の視線を受けつつ、ミツはヒュドラの爪に対して〈物質製造〉を発動。
ぐにゃりぐにゃりと形を変え、ミツはヒュドラの爪をバーバリの持つ大剣と瓜ふたつに作り変えてしまった。
「はい、バーバリさん。同じ大きさで作りましたので扱いは同じで良いと思います。今度はこれを使って斬ってみてください。それと支援をバーバリさんにかけておきますね」
「こ、小僧……お前という奴は……。フンッ、良かろう。貴様の想いに応えてやろう」
バーバリはミツが差し出した大剣を受け取り、もう一度ヒュドラへと歩みを進める。 ヒュドラの爪で作った大剣は曇りガラスの様に色の無い剣。
鉄や鉛などの混ぜ物をしていない純粋なヒュドラの素材100%で作り上げた剣の刀身の輝きは、周囲の者達の視線を無意識に集める品である。
「リンメル……バーバリの持つあの剣は、あ奴がいつも持つ剣とは違う様に見えるが……」
「はい。姫様のお言葉は間違いございません……。恐らくベンガルン殿が申した報告でありますあの力。恐らくあの方が先程あのヒュドラの爪をバーバリ殿が今手に握る剣と変えたのでしょう……」
「なっ!? メンリルよ、ヒュドラの素材は加工するにも幾人もの腕の立つ職人が必要だと言っておらぬかったか!?」
「はい……間違いなく申し上げました……。なのであの方がヒュドラの血を我が国に献上する際も、血の扱いですらとても難しいと私だけではなく、バーバリ殿も認識した事……。それを僅かな時間もおかず、我々の前であの方は爪を剣と変えてしまいました……。私自身信じられない光景に、姫様にお伝えする言葉が見つかりません……」
エメアップリアと筆頭側仕えのメンリルの言葉に背後に控えるベンガルン達の顔も驚きの表情。
その中、チャオーラは戻ってきた自身の左腕にそっと手をあてがえ、周囲とはまた違う表情。彼女は蒸気する様に頬を赤く染めていた。
獣人の女性は自身より強い者を夫とし、更に周囲の者が持っていない力に惚れ込んでしまう傾向がある。
チャオーラは先程の戦いに加えて、自身の腕を治してくれたミツへといつの間にかほの字を書いていたようだ。
「うむ……この剣……。末恐ろしい小僧だとは思っていたが、ここまで見せるとは……。フンッ! 樽を持つ者は構えよ! 我れがこの剣を振りぬいたその時、直ぐに駆け出すがよい!」
「「「おうっ!」」」
バーバリの言葉に獣人の兵か合わせて声を出す。
その言葉を聞き入れたバーバリにまた闘気が走る。
先程とは違い、ミツのおまじないである能力上昇系スキルを受けたバーバリの斬撃は先程以上の風圧を周囲に与える
「はあぁぁぁぁ!!!てやぁぁぁぁ!!!!」
バーバリが剣を振り下ろした瞬間、空気をザクリと斬る音の後、また真空波がヒュドラへと走る。
ヒュドラに当たった真空波は先程以上の斬撃音を響かせ、ヒュドラの胸部分に一本の線を浮かせた。
「「あっ」」
ミツとセルフィの声がハモった瞬間、まるで決潰したダムのごとくヒュドラの血が勢い良く吹き出してきた。
「なっ!?」
バーバリは自身でやった事だと言うのに驚き、剣とヒュドラを交互に見ている。
そんな彼の驚きは置いといて、ミツは咄嗟に〈時間停止〉を発動。
今にも兵士達にかかりそうなヒュドラの血を〈吸血〉で回収する。
すると血はみるみると集まり、大きな血の玉を兵士の上に作り上げた。
この現象はヒュドラの胸部分の傷を治す際、流れ出ていた血を集める時にできた事である。
兵士達は降り注いで来るであろうヒュドラの血に体を縮め身構えていた。
しかし、その衝撃が彼らを襲うことはなかった。
恐る恐ると頭を上げれば、ふわふわと空中に浮かぶ赤い球体が目に入る。
その光景に兵士達は目を瞬かせ、口をポカーンとオープン。
「うおっ!? な、何だ!」
「ぬっ……。兵士達よ、慌てることはない! 落ち着いて行動せよ!」
「バーバリさんの言うとおりですよ。皆さん、樽の蓋を開けてください」
「「「!!!」」」
いつの間にか側に居たミツの存在に兵士達は更に驚き。
別に敵対する相手ではないのは頭で理解していても、いきなり近くに人が現れたら誰でも身構えてしまうかもしれない。
獣人の兵隊はミツの言葉を受け、樽の蓋を次々と開けていく。
その近くにフワフワと空中に浮いたヒュドラの血を近づかせ、樽の中にゆっくりと入れていく。
血は樽から溢れることもなく、中身がヒュドラの血で満タンに満たされる。
「少年君、そっちはお願いね。バーバリ様、私達は尻尾の部分から回収しますのでこちらもお願いします」
「承知した。お前たち、動きを止めるな。ミツ殿の血抜きいつもと同じペースと考えるな。今の樽に入れ終わったなら次の荷台をを運び入れよ」
「「「はっ!」」」
ミツの〈吸血〉スキルの使用効率もあったのか、バーバリがセルフィの指定した場所の尻尾を切った後は他の場所を斬ってもヒュドラは血を流すことはなかった。
それは元々ヒュドラの血が少なかったのかと勘違いされるかもしれない。
いや、違う。レベルMAXまで上げた〈吸血〉スキルはヒュドラの血を隅々まで血を吸い取ってしまったのだ。
セルフィの予定とは違ったが、作業効率が短縮されたことに誰も文句を言うことはなかった。
「セルフィ様、次は?」
「いや、少年君、私がヒュドラの解体手順を知ってるわけないじゃない。んー。普通なら鱗を剥ぐ作業が順番なんだけど、血を抜いたから内蔵が肉に潰されそうね。先にお腹を掻っ捌いて中を空っぽにしましょうか」
「内蔵処理ですね。わかりました。それじゃバーバリさん、よろしくお願いします」
バーバリに声をかけると彼は頷きを返す。
あとは何か魚の処理によく似た光景だった。
ヒュドラの腹部からバーバリが剣を入れ内蔵を取り出す。
手慣れたもので戦士達は取り出されたヒュドラの臓器を傷つけることなく運び出していく。
そのままにすると内臓は腐敗の足が早いのか、大きな桶に入れられ、用意されていた薬をかけられ薬漬けにされていく。
元々この国には臓物系の食文化が無いのか、躊躇いなしとヒュドラの臓器を薬漬けにしてしまうようだ。
ミツも食べれない物に関してはそのまま口を出すことはなかった。
後処理が必要な事は勿論分かっているし、向こうがやってくれるなら止めることもない。
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