第188話 欲しい物(素材)はなんですか?

 空が次第と青く明るく元に戻る頃、リック達が座る椅子から立つと同時に、鐘の音が街内に響く。 

 カーン、カーン、カーンと鳴るこの鐘の音の鳴らし方は、冒険者へと緊急招集をかける物とは違い、領主ダニエルが街にいる人々にと、言葉を伝える為に使われる鳴らし方である。


「ライアングルに住む街の者よ。また、他の街より足を向け、この街に来ている冒険者、商人の者達よ。私は領主、ダニエル・フロールスである」


「領主様ニャ!」


「ああ……」


 街の中にダニエルの声が響き渡る。

 彼の声を聞くためと、家にいる者は窓を開け顔を出し、歩く者は足を止め、ダニエルの声を聞く為と耳を向ける。


「皆の者。先程、突然空が暗く、まるで夜の様になってしまった事に、今も皆の者は狼狽しておると思う。だが安心して欲しい。あれは我が屋敷にて、今、実験として行われている魔導具の効果である。気づいておると思うが、先程振り始めていた雨は止んでおる。我が屋敷では嵐などの危機となる洪水を防ぐ為に、雨雲を消し去る魔導具の実験を行っておる。しかし、雨雲を消すことはできたが、今回の事で問題も分かった。起動するには先程のように大きな起動音が街にまで届いてしまう程の音を出してしまう。そして、空を夜に変えてしまったことに皆を不安とさせてしまった。これに関しては街に住む者には私から謝罪の言葉を送る。今後また同じような事があるかもしれぬが、皆の者は慌てることはない。以上」


 ダニエルの言葉に街の者はホッと安堵するため息を漏らす。

 そして、あちらこちらからと街の者は領主様は大会が終わったばかりだと言うのにお忙しそうだや、我々の為にありがたいと声が聞こえてくる。

 空が暗くなったからと言っても僅かな時間。

 まるで大きな獣の様な音は、ただの魔導具の起動音。

 ほんの少し驚く事はあったが、洪水の災害を無くすためと、街の領主様は頑張っていらっしゃる。

 街の者はそれくらいならと、今回の出来事に対しては領主へと深く追求する者は出てこなかった。

 いや、そもそも領主相手に口を出す事などできもしないし、そんな事を思わないのが普通である。

 しかし、実験をするにしても街が混乱する事はあきらか。

 街の衛兵、そして冒険者ギルドに連絡がいっていない事に対しては改めてダニエルに代わりゼクスが連絡をまわす予定である。


 リック達も領主の言葉に疑問は残るが、それを口にすることはない。

 何故なら彼らは苦笑いを浮かべつつ、互いにその言葉を受け入れようとしていたから。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵


 フロールス屋敷の多目的ホールにて。


 ダニエルの街の放送が終わると同時に、マトラストは席に座る者達へと言葉を繋げるように話し出す。


「以上により、ダニエル殿には領主本人が言葉をする事に、街の者への混乱を防ぐ防壁をしていただきました。これにより、先程の出来事に対して口を開く者は出ますまい」


「「「「「……」」」」」


 その部屋には、まるでマトラストだけしか居ないのと思わせる程の静寂が満ちる。

 だが、その部屋には王族の五人、そしてその者達を守る為と数多くの私兵や護衛兵に満ちている。

 先程のミツとバロンの試合を観戦していた貴族達や、試合に参加していた者達はこの部屋に入りきれない。

 その者達は別室にて、アベルから待機が命じられている。


 まるでお通夜の様な空気だが、真っ先にこの場で同席しているミツに対して声をかけなければいけない人物が居る。

 アベルは自身の心臓をつかむおもいとゆっくりと声を出す。


「少年……いや。ミツ殿、良いであろうか……」


「……。はい。アベル様」


「うっ……。いや。その……。先ずは貴殿に謝罪を申したい」


「謝罪ですか? それは何の謝罪でしょうか」


「勿論私の騎馬部隊の副隊長。貴殿に暴言を吐いたバロンに対して……」


「そうですか……。はい。自分は気にしていませんので、アベル様がそこまで思われる必要もありません」


 ミツは何故王族であるアベルが自分に対して敬称を付けたのか疑問符を浮かべ、一瞬言葉を止めてしまう。

 そのミツの一時の沈黙は、アベルにとっては次の言葉を詰まらせるには十分な緊張感を持たせてしまう。

 アベルは自身が王族である事を前提とした考えを持っているが、ミツを相手にその肩書は全く意味をなさない。

 何故なら先程見たばかりの目の前の少年の力。

 人としてはありえない力をその小さな身体に秘め、更には自身の部下が既に失態を相手にしでかしている。

 信じられないが竜をも従えている彼には、剣先を向けることは愚かな行為である。

 今のアベルは硝子細工を扱う以上の緊張と、王族としてはあり得ない程な低姿勢感を周囲に見せている。

 しかし、今のアベルの態度や言動をここに居る誰もが責めたり見下したりはしない。

 何故なら同じ状況に自身が立たされたなら、誰もが同じ様な事を考えるかもしれない。


「左様か……。ならば、ミツ殿には感謝の言葉を送る」


「いえ。そのお気持ちだけで十分です。ところで、レイリー様。よろしいですか?」


「……。申してみよ」


 話を振られたレイリーはゆっくりとミツの方へと顔を向ける。


「はい。レイリー様のご希望とした戦いではなかったかもしれませんが、先程の戦いは少しはお楽しみいただけたでしょうか?」


「……」


 また部屋の中に静寂が満ちる。

 ミツはレイリーの機嫌を損ねたのかと少し不安に周囲を見ると、アベルやカインは顔をそむけ、二人は視線を泳がすばかり。

 ならばセルフィ様は如何かとそちらを見れば、彼女は眉間にシワを寄せ、何やら悩むように目を瞑っていた。

 だが、この空気の中で、まるでネコのように目を爛々とさせながらミツを見ているエメアップリア。

 彼女は何か聞きたい事でもありそうだが、ミツとレイリーの会話が終わるのを今か今かと待っている。

 今はレイリーへと話をミツが振った状態。

 彼女の返答も待たず、ミツが別の人に話を降ることも、他者がミツとレイリーの会話に入る事は大変不躾である。


「童よ。問に答えるが良い」


「はい」


「「「「……」」」」


 ようやく口を開いたレイリーの表情はいつも通りだが、言葉がいつもより早口なのは気のせいだろうか。

 ミツの言葉に耳を傾けると、周りの者達も視線をそちらへ向ける。


「うむ……。先ずは他の者も気になるところから。童よ、お主はヒュドラを討伐したと申したな? ならば先程童が見せた物に対しての答を求める」


「はい。レイリー様のご質問にお答えします。先程、バロン様との戦いでお見せしましたヒュドラは私が討伐したヒュドラで間違いございません」


「……」


「ですが、あれは私のスキル〈幻獣召喚〉にて出した私のヒュドラでございます。バーバリさ……様に話を聞きました、ローガディア王国に害を及ぼしましたような野良のヒュドラとは違います」


「「「「「!?」」」」」


「バロン様には、幾度もヒュドラを倒した事を否定のお言葉が私めにかけられたものですから、ならばとあの場でヒュドラを出させていただきました」


「そうか……」


 レイリーはそのミツの返答に困惑状態に言葉を返す。


「ならっ……!」


「あー。少年君……。私からいいかしら?」


「はい、セルフィ様。何でしょうか?」


 話が止まったタイミングと、エメアップリアではなく、セルフィがミツへと言葉をかける。

 二人とも声を出したのは同じタイミングだが、セルフィの方が周囲の視線を集めた為に、彼女はそのまま言葉をつなげる。

 セルフィは一度ローガディアの面々の方へと言葉を添えた後、改めてミツと視線を合わせる。


「失礼。あのね、私だけじゃなく、ここの屋敷に仕えるゼクスとバーバリ様は君がヒュドラを倒したところを見てるし、更に君自身がさっき皆の前で魔導具を使ってヒュドラとの戦闘を見せたじゃない?」


「はい。それでもバロン様には信じてもらえなかったので」


「いや……。少年君、別にそこまでしなくても、君のアイテムボックスに入れてる倒したヒュドラの亡骸を見せるだけでも、あの人だけじゃなく、半信半疑な者達は信じるしかないと思うけど……。倒した事が虚言と言われるなら、倒した物を見せた方が早いわよ……」


「あっ……」


「「「「……」」」」


 セルフィの言葉は、正に正当な答えであった。

 レイリーはヒュドラを倒す程の力を示せと彼に告げ、その後行われたバロンとの勝負。

 森羅の鏡にてヒュドラとの戦闘を見せ終わった後、直ぐにでもミツが倒したヒュドラの亡骸を見せる事ができれば、その場で騒ぐバロンの口を閉ざす事もできたかもしれない。

 

「はぁ……。少年君……。お莫迦……」


 その時ミツに向けられたセルフィの小さなため息と言葉は周囲には聞こえずとも、呆れた者を見るような視線は周囲の困惑を増す事になった。

 それでも彼が物事をポジティブに考えるなら〈幻獣召喚〉や〈サモン〉等の大きな物を出す時のスキルの検証などは、あの場以外で出す事などないとミツは考えることにした。

 その場に居る者達は、改めて目の前の少年の底しれぬ力を自身の目で見ることができたと、彼らもそう心に思うことにしたようだ。

 表向きにはカイン達は苦笑を浮かべてはいるが、内心では呆れていたようだ。


「よ、良いであろうか!」


「は、はい。エメアップリア様」


 緊張と次こそはと言う思いが重なったのか、彼女の声は大きくなり、思わず自身の声だというのに驚きと恥ずかしそうな顔をするエメアップリア。

 

「す、すまぬ……。で、では。貴公に聞きたい」


 エメアップリアの質問は先ずはフォルテ達、五人の精霊について。

 彼女達は天使ではなく〈精霊召喚〉のスキルで出した娘だと説明すると、エメアップリアだけではなく、周囲の者達も驚きの表情。

 以前セルフィから〈精霊召喚〉で出せる精霊は戦いなどはしないと説明を受けていた。

 きっとそれがこの世界では当たり前なのだろう。

 ダカーポとフィーネの二人の力を思い出したのか、ゴクリと誰かが唾を飲み込む。

 

 会話の途中だが、ダニエルが部屋に入室。

 静かに、会話の邪魔にならないようにしている彼だが、ミツがダニエルの方を見ている為か、周りの注目を集める。

 ダニエルが頭を下げた後、椅子に座った事を確認後にミツが彼に話しかける。


「ダニエル様、すみません。街への放送など、お手数をおかけしてしまったようで」


「いや。君が気にする事は無いよ。あれは領主としての私の役目でもあるからね。それよりも、君のお陰で屋敷に被害が無かったことにこちらからも感謝を伝えたい」


「いえいえ。あれは自分がやらかした事ですから。お屋敷の外観は大丈夫だと思いますが、衝撃に家の物とか壊れてませんか? もし壊れてたりしたら、後で自分が直しますよ」


「そうか。いや、そう言ってもらえるだけでも私としても感謝するよ。ありがとう」


 ミツとダニエルの何気ない会話。

 だが、周囲の者が見ても二人の友好が高い事が良くわかる会話であった。

 ミツとダニエルの会話途中だが、セルフィが二人の会話に入ってくる。

 先程も告げたが、誰かが誰かに話を振っている最中に、その間に割って入ることは不躾な事なのだが、彼女が二人に対してその様な考えは持っていない。

 その気軽さが彼女の良い所であり、友人のパメラが頭を抱える場でもあった。


「ねえねえ、少年君、ダニエル様」


「はい、セルフィ様?」


「いかがなされましたか?」


「あのね、さっきも話したけど、少年君がヒュドラを倒したことをまだ信じてない人も居ると思うのよ」


「まあ、そうですね。召喚で出したヒュドラですが、倒していないと勘違いされてる人もいるかもしれません」


「ヒュドラを召喚……。なるほど……」


「ダニエル、お前は今ので分かったのか……」


 ダニエルはミツの話を少し聞いただけで、あのヒュドラはミツが召喚した物だと直ぐに納得する。

 そのダニエルの反応と理解力に、カインは彼の評価を無意識と上げていた。


「だからね、少年君、君はヒュドラの素材を皆に分けるって言ったよね? なら、皆の前で倒したヒュドラの解体をすれば皆の納得も得られると思うのよ」


「なるほど……。でもセルフィ様、解体するにもライアングルの街の冒険者ギルドでは、アレを解体できる職人が居ないと言われ、突き返された品ですよ? 誰が解体するんですか?」


「えっ、そうなの? 使えないわね……。なら、私達がするわよ。私達って、結構魔物の解体とか得意だから」


「「「!?」」」


 セルフィは冒険者ギルドの対応に少し眉尻を下げた後、これは名案と一つ手を打つ。

 その内容に後ろに控えるアマービレ三人の私兵は驚きの表情。


「は、はぁ……。達って……」


「大丈夫大丈夫。ヒュドラって言っても、莫迦みたいにデカイ蛇みたいな物よ」


「物は言いようですね……ん?」


「ほらっ、少年君……」


 ミツがセルフィの提案に少し呆れつつ目を細めていると、彼女は小声にミツに何かを促している。

 その視線はエンダー国のレイリーをチラチラ。

 ミツはそう言えばと、彼女へと話しかける。


「……あっ。えーっと。レイリー様」


「なにかの」


「あの、ヒュドラの素材でご希望される部位とかありますか?」


「「「!?」」」


 ミツがレイリーへとヒュドラの素材に希望を求めた事に、セレナーデ王国の面々は眉尻を上げ驚きの表情。

 これは明らかにミツはセレナーデ王国よりもエンダー国を優遇している事が明らかになってしまう。

 バロンの失態が影響し、この結果になってしまったのだろうと護衛兵達にもそう考えが浮かんでいた。

 逆にエンダー国の面々は喜びの表情がチラホラ。

 先程力を見せた強者が、自国にレジェンドクラスの素材で欲しい物は無いかと言ってきたのだ。

 相手から指し伸ばされた友好の手に、レイリーですら口元が緩むほどの喜びに感じていた。 


「ほう……。童は妾の言葉を聞き入れると申すに間違いないか?」


「はい」


「……」


 レイリーは一度周囲を見渡し、口元を扇で隠しフッと笑いをこぼす。

 セレナーデ王国の面々は焦りの表情を浮かべるもの様々だが、カルテット国のセルフィはニコニコの表情。

 ああ、これはあの娘が口添えしたのだなと彼女は直ぐに理解する。

 お気楽な性格のセルフィはレイリーの好むタイプの相手である。

 かたっ苦しい挨拶や性格の相手を嫌う彼女にとっては、セルフィの行為は行為として素直に受け取ることができたようだ。


「ならば童の言葉を受け入れ、我が国はヒュドラの龍玉をたわまりたい」


「「「「「!!!」」」」」


 レイリーの希望する品にその場の全員が驚きの表情。 

 しかし、約一名。

 龍玉という言葉にピント来ていないのか、少しだけ首を傾げるミツ。

 

「龍玉ですか……」


「んっ……やはり童にも不可であろうか」


 レイリーは自身の希望はやはり無理かと眉尻を少し落とす。

 今も周囲が驚きの表情を浮かる程の龍玉と言う品。

 これは竜族にだけ、体の中にある見た目宝石の様な品である。

 しかし、その龍玉が握りこぶし分の大きさの物であれば、虹金貨100枚は軽く超える品。

 それが今回のヒュドラの龍玉となれば想像もできない程の価値を出すのは明らか。 

 この龍玉、ただ単にキラキラと美しさを見せる品ではない。

 実は龍玉にはその竜自体の魔力が凝縮され込められている。

 龍玉は簡単に言えば魔力の篭った魔石のような品。

 だが、自然の魔力が込められた魔石とは違い、竜がこめた魔力となれば、龍玉の力も底しれぬ品である。

 龍玉の本当の価値を知る者は数少ないが、セレナーデ王国の知恵者たるマトラストはその言葉に絶句であろう。


「いえいえ。あの、失礼ながら、龍玉ってどの部分なのかちょっと分からなくて」


「……フッ。良い、無知なる童に妾が知恵を授けてやろう」


「ありがとうございます」


 ミツの言葉にレイリーは一度訝しげな視線をミツへと向けるが、彼が本心で知らないと言っていると思うと、思わず彼女に笑いがこみあげて来る。


「うむ。龍玉とは、簡単に言えば心臓じゃ。竜族は普通の魔物とは違い、龍玉で生命を繋いでおる」


「あー。心臓ですか。はい、分かりました。他にご希望はありますか?」


「「「!?」」」


 レイリーの言葉を二つ返事での承諾。

 更に彼女へと希望はないかと言葉をそえるミツに、またセレナーデ王国の面々の視線が彼に向く。

 レイリーは一度言葉を止め、これ以上の要求をする事はなかった。


「……よい。妾はそれで十分の喜びと感謝を童に伝えよう。それではカルテットの姫君よ、貴女は何を望む」


 レイリーの言葉に周囲がざわめく。

 その言葉はセレナーデ王国の言葉を聞くこともなく、対面に座るセルフィへと話を振った為である。


「んー。私ですかー。それじゃ、鱗をもらえるかしら?」


「鱗ですね。分かりました。他には?」


「いえ。我が国もそれだけで十分。後はセレナーデ王国へお渡し致します」


「それじゃ、えーっと。セレナーデ王国の皆様は何をご希望されますでしょうか」


 早々と受け取るものは受け取ったとセルフィは話を切り上げ、後はセレナーデ王国へとヒュドラの素材の選択を譲る。

 ミツはこの場で誰に話しかけるべきか悩んだゆえに、セレナーデ王国の皆様という言葉を選択して返答を待つことに。

 ここでも実はミツはセレナーデ王国に対して、個人的に話しかけようとする者がいないと周りから履き違えた勘違いをされていた。

 それは、ローガディア王国にはエメアップリア様と。

 エンダー国にはレイリー様と。

 カルテット国にはセルフィ様と告げている。

 これは本当に偶然な事だが、セレナーデ王国の面々はミツからの友好の手はこれっきりになるのではと思っていた。

 

 カインは震える拳を握りしめ、隣に座る兄へと言葉をかける。


「兄上……」


「ああ。ここはカイン、君が彼に伝えておくれ」


「はい」


 この時、カインから見たアベルの表情はとても穏やかに見えていた。

 それは既に全てを受け入れた者の表情。

 カインはならば自分も覚悟を決めるべきと、ミツへと言葉を告げる。


「冒険者のミツ殿よ。まず、貴公の好意に我が国は心より感謝申す。しかし、貴公には我が国の者が失礼な物言いをしてしまった。よって、今回の貴公からの献上はとても嬉しく思うが、丁重に辞退させていただく。これがセレナーデ王国としての返答である」


 カインの言葉に静寂が満ちる。

 静かに椅子に座り直すカインを見て、周りの他国の者たちもその選択を出してくるだろうと予想はしていたのだろう。

 誰も驚きの表情を浮かべず、口を閉ざしたまま。

 しかし、ミツだけがそんな返答が来るとは思っていなかったのか、彼は焦り口調となりカイン達へと話しかける。


「えっ? いらないんですか? えー。如何しようか……」


 頭を下げ、少し考え込む素振りを見せるミツにエメアップリアが話しかけてきた。

 

「ミツよ、どうしてそこまで困るっての?」


「はい。エメアップリア様。実は皆様にヒュドラの素材を渡しする際、申し訳無いのですが皆様にも素材の解体を手伝って貰えたらなと思っていたところで」


「解体。それはこの街ではできぬと言っておったな」


「はい。ですので、数多く兵を連れていらっしゃいますカイン様とアベル様にはヒュドラの素材をお渡しする代わりに、兵の皆様にも素材解体を手伝って貰いたいと、後とお願いする予定でした。ですが、素材を受け取らないセレナーデ王国の皆様に手伝えとも言えず、如何しようかなと」


 ミツの言葉に、好機とアベルが光を見つける。


「それなら、私はここに来る道中、魔物に襲われていた所を貴公に助けてもらった借りがある。その借りを返すためにも、ヒュドラの解体を喜んで手伝わせて欲しい」


「兄上を助けて頂いたならば私にも恩義はある。ミツ殿、我の兵もヒュドラの解体に手を貸そうではないか」


「本当ですか? それは助かります。ありがとうございます、アベル様、カイン様」


「わ、我が国からも手を貸すっての!」


「ならば妾からも力を童に」


「エメアップリア様、レイリー様も、本当にありがとうございます。それでは、早速と言いたいのですが、もう日も暮れそうなので、明日にでもヒュドラの解体を始めたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


「構わぬ」


「貴公の力となろう」


「力仕事は我が国が一番早いっての!」


「準備もある。童の言葉を受け入れよう」


「まかせなさい!」


 一人の少年の言葉に、自国の王族だけではなく、他国が一丸となって動き出すその光景に護衛兵、またダニエル達は目を丸くしていた。

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