第181話 洞窟内での戦いを見て
昼食も終わり、少し時間を置いてフロアに椅子が並べられていく。
改めて大勢の貴族がフロアに集まり、その場にはミツの話を聞き漏らさないようにと、石版と石筆を握りしめた貴族の文官が壁際に並んでいた。
勿論その人達の主は前の席で座っての観覧する事になる。
王妃レイリーの言葉とアベル第二王子の希望という言葉でもあるので、今回席を外す不敬者がいる訳もない。
そして、ミツは森羅の鏡を手に握り、大勢の注目を集めフロア中央に立つ。
先程からミツが見せる品々に驚きっぱなしの人達。特に今ミツが手に持つ森羅の鏡をみたご婦人方は、表面に色味がない鏡を見て少し興奮気味である。欲しくてもあげないよ。
「それではこれより、試しの洞窟最下層にてのゼクスさん、それとバーバリさんの戦いを皆様にご観覧していただこうとご披露させていただきます」
こうしてゼクスの戦いを森羅の鏡を使用し皆に見せている流れである。
ちょっと話が長くなってしまったが、続けてバーバリの戦いが始まる。
と言ってもバーバリの戦いは一撃必殺であっさり終わってしまったのでそんなに長くは映像として映されてはいない。
しかし、バーバリの対した相手はベヒモス。
これもゼクスが倒したベルフェキメラ同様に、一人で倒すような魔物ではなかった。
ベヒモスが虹の靄に映し出された瞬間、アベルの居る方からガタリと音が聞こえる。
周囲は気にしていないが、ミツはそちらに視線を送れば、貴族様の文官の一人が石版を思わず落としていたようだ。
ベヒモスの姿を見て恐怖したのはその人だけではなく、バーバリの弟であるベンガルンとチャオーラですら恐怖に少しだけ見をふるわせていた。
戦闘が始まり、ベヒモスがバーバリへと強い体当たりを決める。
鏡を通してフロアに響く衝撃音。
(少しだけ音量が大きいかな? まあ、大画面で見るなら音もこれくらい無いと楽しめないよね)
ミツのいらぬこだわりに、戦闘音に怯える人々。
そんな事を考えている間と、森羅の鏡で映し出されている戦闘は進み、バーバリがベヒモスを押し返す姿に周囲から驚きの声が上がる。
そして彼の必殺のスキル、獅子咆哮波がベヒモスへと放たれ、ベヒモスを討伐。
ベヒモスの首チョンパのシーンは子供や女性には刺激的なシーンな為に、そこは見えないようにイメージ。
ドシンと倒れるベヒモスに大きな歓声と拍手が巻き起こった。
カインが立ち上がり、二人を称える為と声を張り上げる。
「素晴らしい! 流石ローガディア王国、獅子の牙団長のバーバリ殿! 貴殿の武勇に我々は心を震わせる思い。皆の衆、バーバリ殿、そして先程ベルフェキメラを討伐したゼクス殿、こちらの二人の勇敢な戦いにもう一度拍手を送ろうではないか」
彼の言葉にフロアに拍手の嵐が巻き起こる。
セレナーデ王国にも実力は確かなゼクスがいる。そして友好を深めているローガディア王国にも強者である戦士がいる。
貴族達は国に危機的なモンスターが現れようと、この二人がいれば安心と喜びに二人へと止まることのない拍手が送られる。
しかし、その巻き起こる拍手も鬱陶しく思う者が居た。
それはアベルの部下のバロン副隊長。
彼は副隊長になる実力はあるのだが、時折見せる曲がった性格が欠点な人物でもある。
いや、彼を簡単に言えば嫉妬深い男であろうか。
自身は王族であるアベルに仕える部隊の副隊長。
バーバリは兎も角、伯爵程度の男に仕える執事ごときが自身よりも勝るのは許せなかったのだろう。
表向きには周囲に合わせ拍手を送っているように見えるが、彼の拍手に気持ちなどこれっぽっちもこもってないだろう。
後にリッケ達の戦いもあるのだが、そこは見せる必要もないのでそのシーンはまるまるカットである。
「それではレイリー様、アベル様のご質問にお答えいたします為、ヒュドラ討伐をご観覧ください」
ミツが静かに言葉を告げる。
虹の靄に集まる周囲の視線。
まだヒュドラの姿すら見えていないというのにカイン達の手には汗が握られていた。
ゆっくりと映し出されるミツの後ろ姿。
先程からミツが思っていたのだが、虹の靄から映し出されている映像はまるでTVを見ている気分と錯覚させる。
それはミツ自身の後ろ姿が映し出されたことに、これは何個のカメラで撮したんだろうと思ってしまう。
ざっと数えても5カメかな?
ミツが洞窟の声に返答する姿が映し出された後、靄の中から飛び出したヒュドラの頭に吹き飛ばされるミツ。
このシーンもカットすれば良かったかと少し後悔。
だが、先手を取られたミツを気にするものはここにはおらず、周囲の貴族達の顔から血の気が引いていく。
森羅の鏡はヒュドラの声も拾っていたのか、グルルと唸る声が貴族達の心臓を恐怖に包み込む。
蛇みたいにシュルル、シュルルと言う鳴き声ではないようだ。
虹の靄に映し出されたヒュドラの姿におもわず腰を抜かす者、恐怖に震えて歯をかちかちと鳴らす者、恐怖に押しつぶされその場で気絶してしまう者様々。
その場から逃げ出したい気持ちもあるだろうが足が動かない。
いや、王族の面々を残して自身だけ逃げたなど後々になって知られたら自身の貴族としての人生が終わる。
「な、なんと言うことだ……。あの者は本当にヒュドラとの戦闘をしたというのか……。兄上……」
「……」
カインは驚きつつも隣に座るアベルに視線を送り声をかける。
だが彼は弟の声も今は耳に入ってこないのか、顔を引きつらせ、噛みしめる奥歯をガリッと音を鳴らす。
森羅の鏡からバーバリの声が響き、おもわず周囲の者がバーバリへと視線を送る。
しかし、彼は不機嫌な顔をしたまま腕組みをして動かない。
どうやら森羅の鏡の存在に動揺を隠すためと、無意識に眉間にシワを寄せているようだ。
ヒュドラの攻撃が始まり、スキルの〈グラビティーボマー〉が次々と地面を削る。
またその衝撃音と破壊力に人々へと恐怖が襲い始める。
ミツが反撃するが、それも簡単に霧散されてしまう。
更に攻撃は続き、ヒュドラの口が開きブレス攻撃がミツへと降り注ぐ。
咄嗟に張った氷壁〈アイスウォール〉も簡単に溶かし、ブレスがミツを包み込む。
周囲からキャーキャーと悲鳴の声が聞こえるが、別にミツが死んでしまった訳ではない。
画面いっぱいに赤く広がるブレスが人々へと更に恐怖が襲いかかる。
「あ、ああ……。あ、アレが我が国を壊滅させた魔物……」
エメアップリアは映像に映し出されたヒュドラの姿に恐怖し、彼女は震え、身を縮める思いに襲われる。
「姫様、恐れるのは理解します。ですが今は我慢の時。恐怖に目を背けず、アレが倒されるまで見る事が貴女の役目にございます」
「バ、バーバリ……でも……」
「ご安心なさい。貴女が受け取ったヒュドラの血こそ、彼の勝利の証ではないですか。どうしても震えが止まらぬのなら、私の手を握りください」
バーバリはスッと自身の手をエメアップリアへと差し出す。
ゴツゴツとした大きな手。
王である父とはまた違う暖かな手が差し出される。
バーバリの差し出した手をエメアップリアは一度ニコリと笑みを作り見た後、視線を変える。
「うん。チャオーラ、隣に来て手を握って欲しいのね」
「はい、姫様」
「なっ、あれ?」
「隊長……」
エメアップリアは姉のように慕っているチャオーラを隣に呼び寄せる。
彼女の震える手を優しく包むチャオーラを自身の手を見た後、少し羨ましく思うバーバリであった。
弟のベンガルンはそんな兄を見て少し呆れていた。
さて、視線を映像に戻すと、〈天岩戸〉スキルにてミツがギリギリのところで危機を回避していた。
彼の動き、そして速さに椅子に座り観覧する貴族だけではなく、その場を守る兵達からも動揺が見えてくる。
だが、これから起きる現象(映像)を見る者(一部を除いて)全ての者が口を開き唖然とする。
それは戦っているミツが〈影分身〉スキルを発動し、彼の姿が増えたことにあった。
何だなぜだと思わず声に出す者、そしてミツに向けられる訝しげな視線の数々。
影分身のスキルが全く周知されていないのか、それともこれまでの戦いで向けられた視線なのかはいざ知れず。
上空に映し出された映像を見ていたミツがここで一つ思いついた事を試す事に。
映像をイメージで思い浮かべれば虹の靄に変化が起きる。
(あっ、できた)
「「「!!!」」」
ミツがやったのはテレビでよく見る映像を真ん中の半分にして、画面を二画面する方法。
それと下に小さく別の小窓の映像を流す。確かワイプと呼ばれる物であったか。
映像はミツ本人とヒュドラ、そしてワイプには分身の動きを映している。
戦闘の動きでミツと分身の映像を変えたり、一番動きのある者を真ん中に表示して残り二つをワイプとして表示。
テレビで見るとなんてことも無いが、これが意外と大変な編集であった。
今更だが、いつも見ていた番組の編集者さんにお疲れ様と心の中で伝えておこう。
映像が切り替わり切り替わりと見ているダニエル達はもう唖然とするしかできない。
森羅の鏡を見るのは初見では無いものの、映し出された戦闘に彼等は改めてヒュドラと戦う少年を普通の旅人ではないと心の底で確信してしまう。
映像の中のミツが分身を出した事に驚きはした物の、それも前もって見ていた彼らは周囲の貴族よりかは冷静を保てている。
ヒュドラが〈龍の瞳〉のスキルにて分身の〈ハイディング〉スキルを見破り〈コールドブレス〉を発動。
また危機的場面も見られたが、分身が無事なことに思わずダニエル達はホッと息を漏らす。
だが、その安堵の息も飲み込む光景が映し出された。
〈サモン〉のスキルで呼び出された軽トラック程の大きさの竜。
それが一匹や二匹とは言わず、数十体が召喚される。
竜の姿が画面いっぱいに映し出される。
竜の力は貴族内でも知られている。
自身の街や村に現れてはそこに住む人々を食い殺し、小さな村など簡単に竜一匹で壊滅できるのだから。
中には野良の竜の討伐の依頼を受けた領主もその中にいた。
特にマトラストは辺境伯だけに独自の兵を持つ者であり、あらゆる危機的依頼などを受け、数しれず解決してきた男。
だが、そんな彼だこそ竜の討伐依頼ほど頭を悩ませるものはなかった。
竜の討伐には軍を動かさなければ倒すことができない。それが大小かかわらずに。
相手が小さな竜だからと言って手を抜いては寝首をかかれる結果になっては身も蓋もない。
ヒュドラを討伐したと言い張る少年。
ならばあの数しれない竜の数をどう言うふうに倒したのか。
いつの間にか靄の映像に食い入るように見ていたマトラストであった。
頭を悩ませる竜も、その倒す方法も直ぐに映像として映し出される。
ワイプで映るミツと分身が互いに見合わせた後、分身の映像を大きく表示。
眉間にシワを寄せ映像を見る者は分身が〈影分身〉スキルにて更に三人に増えたことに目を見開く。
そして、一人の分身が〈嵐刀〉を発動。
二刀を構えた彼はいとも簡単に目の前の竜を討伐。
分身の動きが早すぎてミツがイメージで首チョンパの映像を隠すのが遅れるほど。
その光景に等々マトラストでさえ口を開き言葉を失った。
更に他の分身の二人も次々と竜を討伐。
その光景は正に武の無双。
周囲の反応がその時の自身達を思い出すように、ゼクス、セルフィ、バーバリの三人が苦笑い。
今気づいたのだが、分身がサモンで出てきた竜の討伐に、彼等は自身に能力向上のバフの魔法とスキルを使用していなかったようだ。
それでも竜を次々と討伐する彼らの姿には、少しの苦戦の文字が見当たらなかった。
分身達の戦いも人々の目を引くものだが、それよりも一番とフロアがざわめいたのはミツの新たなスキル。
豊穣神のリティヴァールの力が加わった〈精霊召喚〉を発動した時であろう。
「う、嘘……」
「ありえない……」
「て、天使様がご降臨なされたのか……」
ある者は嗜みを忘れ席から立ち上がる者。
ある者は彼女達の姿に見惚れしてしまう者。
ある者はパメラ同様に、ミツを神の御使い者と崇め始める者。
驚き、困惑、動揺。
ヒュドラに天使、物語に出てくるような話ばかり目にして、彼等はもう言葉にならない。
貴族達は似たようなリアクションをするが、王宮神殿の神殿長のルリの反応はまた違った。
驚きはしたものの、彼女は愛おしい相手を見るような視線を精霊達へと送っているよに見える。
召喚されたフォルテ達は容姿も美しく、彼女たちの声も美声が更に貴族の男女問わずに魅了してしまう。
森羅の鏡から聞こえてくる精霊の声。
フォルテ達がミツへとマスターと言葉を伝えれば、突然ルリが立ち上がる。
ガダッとした物音にミツがそちらを振り向けば驚き。
ルリはポロポロと涙を流し、そしてミツに向かって祈りと膝を付く。
突然の事にどうすれば良いのか周囲を確認。
彼女が涙を流し、膝を付く姿に気がついたのは意外と少なく、大抵の人々は未だに映像内のフォルテ達に視線が釘付け状態。
ルリの側仕えや護衛兵が彼女を椅子に戻し、落ち着かせるように声を掛けている。
(ルリ様の気持ちも分かるけど、泣いて喜ぶ程に感動されるとは思ってもみなかった……。まぁ、そりゃ自身が信仰する神様の使いの天使を見たんだから、彼女がああなっちゃうのも仕方ないか)
精霊召喚で出したフォルテ、ティシモ、メゾ、ダカーポ、フィーネの五人の姉妹。
彼女達が戦闘に加わり、戦闘の映像が更に激しさを増す。
華麗に翼を羽ばたかせ、優雅に飛び回る彼女達。
そこだ、危ない、避けて、光の攻撃だ!
空中を自在に飛び回る美しさに次第と歓声の声が上がりだす。
ゼクスの話を聞いていた幼き少年も、天使を目にした事に興奮状態。
兄様兄様! 姉様姉様! こんな感じに二人の兄と姉を呼んでは指差す映像に、ロキア少年は目をキラキラさせては目が離せない。
そんな少年の無邪気な行為に無意識とミツは笑みを溢す。
ロキアが幾度も二人を呼んでいるのだが、流石に二人はロキアの様に今まで観てきた物に既に驚きの連続。
ラルスとミアは、ああ、ああ、や、ええ、ええ、と、まるで軽い返答しかできていなかった。
そして、ヒュドラに向かってミツが駆け出し、吐き出されたブレス攻撃も二人の精霊に守られながら、ミツの二本の嵐刀がヒュドラの胴体へと一撃を入れる。
その光景に周囲から、おおっ! と歓声に似た声が上がった。
しかし、耳を塞ぎたくなるような声がヒュドラから上がると、苦しみに周囲の竜を巻き込み暴れだす。
その光景は恐怖に貴族達をまた引き込んで しまう。
そして怒り状態のヒュドラから吹き出す必殺の一撃。〈龍の息吹〉。
人々は紫の炎など今まで一度も見た事もないのだろう。彼等はヒュドラの口から吹き出した炎に目を奪われる。
映像内では龍の息吹にて逃げるように飛び回る精霊達、そして激しく破壊される洞窟内。
こんな化物を本当に倒せるのか!?
このまま逃げ帰ってきたのではないのか。
様々な意見や考察、そして恐怖にて考えてしまう最悪な状態。
もう誰一人虹の靄に映し出された映像から目を放すことができない。
それはフロールス家で働くメイドや護衛兵の人達ですら。
龍の息吹に破壊された壁の瓦礫がガラガラと音を鳴らし崩れていく。
ゴクリと幾度目の唾を飲み込むカインとアベル。
レイリーも流石にいつもの冷静な表情はできず、彼女の表情も分かりやすい程に変わり続けている。
大きい、そして脅威と言えるヒュドラを目に、ローガディアの人々は自国を襲った魔物に身を震わせる思い。
これを討伐ではなく、街から追い払うだけに数万の戦士が命を落とし、先々代の王が命を落とし亡くなってしまった。
エメアップリアは周囲の怯え、恐怖心が伝わってきたのか彼女の目に涙を浮かべさせてしまう。
自身の手を握るチャオーラは大丈夫ですよと安心させる言葉を優しくかけてくれるが、やはり彼女も平常を保つのは辛いのだろう。
彼女の手がほんの少しだけ握る力が強くなり、少し自身の手が痛いと思っていた。
そこにバーバリの手がエメアップリアの肩にのせ、いつもの勇敢な戦士の顔を彼女へと向けてくる。
「姫様、ご安心なさい。今は恐怖に心押しつぶされそうな気持ちでしょうが、あの者……いえ。ミツ殿を最後まで信じるべきです」
「「「……」」」
自身が守るべき主へと今度こそ頼れる姿を見せ、そして彼女の口からバーバリが側にいればあんしんなのねと、内心彼はそんな考えを持ちつつ、エメアップリアへと勇ましくも優しい笑みを彼女へとキリッと見せる。
しかし、バーバリのその表情と言葉にエメアップリアだけではなく、チャオーラ、ベンガルン達の護衛数名は目を丸くする。
「な、なにか?」
「いえ、その……」
「バーバリ、お前からそんな言葉が出るのは珍しいのね……。国では部下に褒めの言葉を滅多に出さない頑固者だと父から聞いたことあるのに……」
周囲がその言葉に同意するように、首を縦に頷く。周りの反応にバーバリの眉間にシワがよる。
映像内の戦いもクライマックス。
分身を抱えた精霊達が空中に煙幕の煙を張る。
煙幕に画面が煙しか見えなくなった状態に、如何したどうしたと声が聞こえてくる。
流石にこれでは何も見えない所をミツも悩ませていると、ユイシスの言葉が聞こえてくる。
《ミツ、森羅の鏡から出てきた虹の靄の映像は、全て貴方のイメージで表示されています。煙幕を薄くするイメージを送ってみてください》
ユイシスの言葉に、ミツはまさか映像のコントラスト設定までできることに驚く。
ミツは煙幕に見えなくなった映像に、少しづつ、煙の色を透けさせるイメージを送ってみる。
真っ白な煙が透けていき、ヒュドラの首があちらこちらと動いている姿がまた映し出された。
全ての煙幕を消してしまうと、それはおかしな映像になってしまうので程よく煙は見せている。
ミツと分身がフォルテ達の手から離される。
ミツがスキルを使用し、先ずはヒュドラの動きを止める。
続けて分身の彼らは〈双竜〉のスキルを発動。
ゴゴゴッと洞窟内の壁から無数の土の竜が姿を見せる。
「「「「「!!!」」」」」
土の竜を初めて見る者は驚愕。
そしてヒュドラの首元をガブリと食らいつく迫力に唖然とその光景を見ることしかできない面々。
セルフィやバーバリ達も、ヒュドラの龍の息吹を回避する為と、この時は分身の天岩戸の中に避難していたのでこの光景は初めて見るのだろう。
彼らも脅威と言われたヒュドラが、こうも簡単に捕縛されているとは思っても見なかったようだ。
そしてヒュドラに向かって笑みを浮かべるミツ。彼の笑みにはヒュドラが瀕死になったことにスキルが奪える状態に喜んでの事。
そうれを知らぬものは彼の笑みは背筋が寒気を覚える表情だったかもしれない。
ミツの最後の一撃。
嵐球か勢いよくヒュドラの胴体に直撃。
フロアにズドンっと人々の心臓にまでその衝撃が伝わる。
例えるなら、夏の花火を直に見たときに受ける軽い衝撃の感覚であろうか。
攻撃を受けたヒュドラはドシンと砂煙を上げ倒れる。
次第と煙が晴れ、その場にミツが立つ姿を最後に映像が止まった。
「以上がヒュドラ討伐の戦闘に関する映像です。口で説明するには難しい箇所もたたございましたが、これにて皆様がご納得して頂けたこと思います」
虹の靄がゆっくりと森羅の鏡に戻っていく。
戦闘が終わった事に大きく息を漏らす者、椅子に座り直し周囲をキョロキョロと見回す者。
その殆どがミツが視線を向けているエンダー国の王妃レイリーとセレナーデ王国のアベル王子。
レイリーは目を伏せ黙ったまま。
アベルはミツに向けられた視線に思わず身を震わせる。
先に口を開いたのはレイリー。
「残念である。そう……。妾はとても惜しい思いと童を思う」
「レイリー様、それは……」
レイリーから向けられる厳しい視線。
その視線はミツに緊張を走らせ、周囲も彼女の言葉を待つ。
「童が妾の手元に来ぬ事が、今はとても腹立たしい……。フッ……」
レイリーの視線が厳しい物から変わり、レイリーはミツを見る視線は穏やかに優しく変わる。
そして彼女の手がパチパチと拍手をすれば、それに合わせエンダー国だけならず、セレナーデ、ローガディア、カルテット国から大きな拍手が巻き起こった。
ありえない、こんな子供がヒュドラを討伐した。聞いていた話であるが信じられない話ばかり。
ローガディアに送った血も下手したら紛い物ではないかと疑念を抱いたものもこの場には数いた。
だが見せられた。
少年の戦いを。
話だけでしか聞かなかった内容も、全てその通りと。
エンダー国の王妃が気に入り、そして手放している人物をならば次は我が元に、我が領地に。
そんな考えがその場の貴族によぎってしまう。
たとえ少年が貴族の血が流れていなくても、あの力があればとミツを欲する視線が増えてしまっている。
ミツの予定である抑止力がなしていない。
それは彼の力だけではなく、フォルテ達五人の精霊が魅力的過ぎたせいかもしれない。
セレナーデ王国のアベル王子がなんとか身を振り絞り、ミツへと褒めの言葉を出したことに更に盛り上がる。
しかし、アベルの護衛につけられているバロンはミツを見る目はペテン師だと疑念視。
見せられた映像はベルフェキメラとゼクスの戦い。それとベヒモスとバーバリの戦い。
それも一人で戦うにはありえない戦闘の強さを見せている。
彼は何を考えているのか、ミツが持っている森羅の鏡は偽りの映像を映し出す魔導具だと勘違いしてしまう。
バロンはそうだとしたら、ヒュドラ討伐なと先ずはありえない。
あの三人で口裏を合わせればなんとでもなると。
それに自身も王族のアベルも見たことの無い。更には周りの貴族たちが見たことの無いそんな魔導具など怪しすぎる。
そうだ、あれは偽物を映し出す物だと、バロンの勝手な勘違いに彼を動かしてしまう。
ミツがその場を引き、討伐したヒュドラの話を持ち出そうとしたその時。
「お待ちを!」
「バロン?」
バロンが突然声を上げ、ミツの足を止める。
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