第180話 昼食会

 調理場での作業も終わり、一先ずダニエルのいる多目的ホールの方へと足を進めるミツ。

 そこに王宮神殿の神殿長、巫女姫のルリと道中鉢合わせる。

 ミツも突然出会い頭に鉢合わせした事に驚いてはいたが、彼女を守るためと付けられている純白の鎧を身に纏った女性騎士の数名が警戒とルリの前に身を盾として立つ。

 

「おっと! すみません」


「姫様、お下がりください。んっ。いえ、謝罪は結構。こちらの不備もございます、お許しを」


 ミツの言葉の後、直ぐに言葉を返してきたのは騎士内のリーダー格の女性であろうか。

 ルリを他の騎士に守らせつつ、ミツと対面する彼女は軽く頭を下げる。

 その際着込んでいる鎧から溢れんばかりのお胸様の谷間が、彼女が前かがみになる事に主張してきた。

 

(で、でかい……)


「何か……」


 女性という人は男性の視線に敏感なのか。

 特に自身の胸などを見られると、その視線にはすぐに気づくと聞いたことがあるがそれは本当らしい。


「あ、い、いえ! 何でもありません! あっ、ルリ様もお騒がせしてすみません」


「いえ。お気にせず。私なら大丈夫です。あっ、ここで会えたのも神のご縁。宜しければ少しお時間を頂けますでしょうか? ゆっくりとまでは言いませんが、少しお話を」


「はい。問題ありませんよ。(やっぱりルリ様のあの顔、重ねちゃうな……)」


「「「!?」」」


 ルリのか細い声を聞き耳スキルにて聞き取り、それをなんてことも無く返答するミツ。

 ルリの言葉を代弁しようと、側にいた二人のシスター服を着ている女性が驚く。

 背丈はミツと変わらない程だが、歳は女性たちのほうが上なのかもしれない。

 代弁する前とミツが返答したこともだが、続けてルリが彼を呼び止める声を出した為である。

 そして、ミツが内心で苦笑を浮かべる理由。 それは目の前の彼女の容姿だけではなく、声すらも創造神であるシャロットと瓜二つであるため。

 これはミツにとって今後の活動しやすいようにと、創造神シャロットの配慮である。

 彼女は成長期のさなか、神の力に彼女の容姿はシャロットそっくりにゆっくりと変えられていた。

 これがアニメとかの放送ならば声優さんは同じ人なんだろうと思う。

 女性騎士の人は代弁者の二人に視線を送り、ミツが言っていることが本当なのかをシスターの二人へと視線を送る。

 彼女達が頷いたことに、ルリを守るためと騎士たちは目配せを送り、軽く頷きあう。

 昼食の時間になれば皆はホールに集まってくる。それならそこでダニエル達を待とうと、ルリと共にホールへと移動することになった。

 移動中もルリは珍しくも口が開いているのか、少し合っていなかった間の事や、昼食の話題を振ってくる。


「貴方様の大変なご活躍、耳にしております。話で聞くだけでも、私はとても興味沸く内容ばかりです」


「そう言っていただけるのは自分としても嬉しく思います。この数日、ルリ様はフロールス家ではいつも何をされていましたか?」


「私は日々の祈りと、パメラ様とエマンダ様と共に、様々な貴族の婦人様方々とお茶会を楽しませて頂いておりました。またフロールス家で出されるお食事も私だけではなく、私を護衛してくれる彼女達も喜んで食しております。えーっと、ハンバーグでしたか。あれはとても美味ですね。パメラ様から聞き及んでおりますが、あれはミツ様がフロールス家にお売りになられた品だそうで。武芸だけではなく、食に関しても素晴らしい才を貴方様はお持ちなのですね」


「ありがとうございます。ルリ様や皆様がお気に召していただけた品。本日の昼食にも提供されますので存分に楽しんでください。(ルリ様って話すと普通の女の子だよね。作り笑いとか無い、素直にフロールス家での日常を楽しんでるみたいだ)」


 ミツとルリの会話を後方にて見守る騎士達。

 しかし、少し離れて見守るためにルリの声が聞こえないのか、一方的にミツの独り言を聞かされている彼女達。

 時折代弁者のシスターへと質問しているようで、自身達もハンバーグが好んで食べている話を聞かされた彼女達の頬が少し赤く染まっていた。

 そして、先程の騎士内のリーダーの女性と他の女性騎士が周囲に聞こえない程度の声で話をする。

 

「隊長、よろしいのでしょうか。あの者はまだ我々にとっての警戒対象。姫様の側に置いては危険かと」


「アニス、今は口を閉じておきなさい。姫の声を聞き取る程の彼の耳。下手したらこの距離ですら聞こえているかもしれないわよ」


「!? ま、まさか……」


 アニスと名を呼ばれた女性騎士は、眉尻を上げ前を歩くミツとルリへと視線を戻す。

 ミツに反応が無いことに、流石にこの距離では聞こえていないだろうと軽く息を漏らす。

 しかし、隊長と呼ばれた女性。

 レイア・シルブァウスの言葉は間違いではなかった。

 彼女達の言葉はミツにとって耳元で話されていると同じ。

 彼の聞き耳スキルはアニスの言葉を拾っていた。

 だが、未だに警戒されていることはミツ自身も承知している。

 それでも彼女達の主であるルリがミツに対して警戒心がないならそれでいいと、彼は彼女達の言葉を気にもしていない。

 フロアに到着すると既に近隣の貴族たちが席に座り、王族のカイン達を待っていた。

 ミツが入室後、コソコソと貴族の人達から自身の話をされるのは苦笑いを浮かべるしかない。

 先に話し場から抜けてセルフィはここに来ていたのか、ロキア達の座る席の方から彼女がミツに対して手招きをする。

 ルリに離れる事を告げ、セルフィの元へ。

 まるで飲み会の際に上司へとお酌をしに駆け回る気分だ。


「どうもですセルフィ様」


「はいはい、挨拶は良いから。それよりも少年君、さっきの話で一つ確認したいんだけどいいかな?」


「さっきの話? ああ、ヒュドラの素材ですか?」


「そう。あれさ、君は皆に渡すって言ったけど、その際は先にエンダーの王妃様に献上しなさいね。先にレイリー様が少年君に話しかけたもの」


「なるほど。セルフィ様の助言、謹んでお受けします」


「よしよし。ってか、何でさっきっからそんな硬い話し方してるの?」


「いや、流石にこうも周りに人がいる状態で、いつもの話し方は駄目かなと思って」


 ミツが軽く周囲を見渡すと、セルフィとのミツにやはり注目が集まっている。

 セルフィ本人はミツの礼儀知らずな話し方を気にもしてはいないが、やはり周りの目と言う物がある以上、多くの視線があるところではセルフィ相手だからこそ、彼は恭しく対応する事にしたようだ。

 しかし、当の本人がミツの努力も無駄にしてしまう程の気軽さである。

 それも彼女の良いところでもあるのだが、側にいるアマービレは頭を抱える内容でもある。


「まったくもう。それよりさっきの話を忘れないように気をつけなさいね。あの人、機嫌を損ねると何するか本当に私でも分からないんだから」


「はい。承知しました」


「よしよし。あっ、三人とも、今の話は聞かなかったことにしてね」


「は、はあ……」


「セルフィ様。できればその際は耳を塞ぐことを一言言ってください」


「? セルフィ様、なんの事なの?」


「アハハ。もー、ミアちゃんは厳しいなー。ロキ坊はまだ難しいお話は気にしないで良いのよ。それよりもこの後のご飯はちゃんと残さず食べようね」


「うん! お兄ちゃんがパー達と一緒に作ってくれたんだよね。僕、ちゃんと食べるよ!」


 ロキアの笑みにミツですら無意識と笑みを返してしまう。

 隣にいるエルフは何故かニヤニヤとだらしない笑みに顔を赤くしてるけど、彼女の事は気にしないでおこう。


「うん。きっとロキア君も気に入ると思うよ。あっ、ダニエル様たちが来たみたいですね。セルフィ様もご自身のお席に戻られた方が良いのでは?」


「ふ〜。私はロキ坊と一緒に食事をしたいけど、今は無理ね。それじゃ君の料理、楽しみにしておくわ」


「はい。それと今回はお付添いの皆さんの分もたっぷりと料理を作りましたのでアマービレさん達も後で食べて下さいね」


 ミツの思わぬ言葉に一瞬驚くアマービレ達。

 彼らもセルフィ同様にプリンを気に入っている話をミツは聞いていたので喜んでくれるだろう。

 三人はミツにお気遣い感謝すると言葉を残し、セルフィの座る席の後ろに移動する。


 そして昼食にしてはフロアを埋め尽くす人の数々。

 貴族の数や王族を守るためと付けられた兵で軽く500人は超えているかもしれない。

 これでも人は少ない方だとゼクスから聞かされた時は驚きだ。

 王族が席に座り、ダニエルが昼食の乾杯の挨拶と席を立つ。


「皆さん、午前の献上式も無事に終わり、本日は冒険者のミツ殿とローガディア王国の友好を更に結ぶためと、我々セレナーデ王国、カルテット国、エンダー国の我々がこの食の席を共にすることで、彼らの友好を祝おうと思います。また、此度は王妃レイリー様、アベル、カイン両殿下、セルフィ様のご希望も重なり、今回の昼食はミツ殿が自作された品を皆様に味わって頂く事となりました」


 ダニエルの挨拶が始まり、その内容にミツへと注目が集まる。

 王族の人達が望んだ品である為、貴族たちからは文句の言葉も出せなかったろうが、内心は平民の作る料理などとやはり小馬鹿に考える者も居るようだ。

 小声であるがそんな声が聞こえてくる。

 しかし、料理が運ばれ、自身の目の前に大皿に盛られた料理を見た瞬間、その考えは貴族達から消えてしまう。


「こ、これは……」


「ホント、言葉にならないね……」


「す、凄いっての……。ベンガルンが言ってたことは本当だったのね……」


「ほう……」


「わおっ! 少年君、贅沢な料理を出したわね〜。あっ、ちゃんと私の希望したプリンちゃんもあるわね。よしよし!」


「……料理に関してのご説明はミツ殿ご本人からいただく」


「えっ? あっ、はい」


 目の前に出された料理を目に唖然とするダニエル。

 料理も凄いのだが、それを盛り付けている皿に彼は何を話すべきか分からず、近くに居るミツへと丸投げすることにしたようだ。


「皆様、本日は献上式にご参加していただき、ありがとうございます。さて、今皆様の目の前にある品。皆様が知るとは違い、目の前の皿に今回の料理を全てを詰め込んだ品にございます」


 ミツの説明に少し場がざわめく。

 それはコース式には一つ一つの料理を楽しみ、少量でありながら目で料理を楽しむ意味も込められている。

 更に使うナイフやフォークもメニューが変われば全て新しくなる為、料理への好奇心を落とさず楽しむことができる。

 しかし、目の前に出された品が全ての料理。

 やはり平民の考えることは分からないとあちらこちらで苦笑が出ていた。


「見た目こそ皆様の知る料理の品々と比べたらお見苦しいかもしれません。ですが、こちらの料理は今回四国をイメージして作りました品にございます」


「ほう……。では君の言うこの料理に意味を聞かせていただこう」


「はい、マトラスト様。こちらの料理は、皆様の希望する料理を作り、飾らせていただきました。フロールス家。つまりはセレナーデ王国の顔となるであろうハンバーグ。これはカイン様だけではなく、巫女姫様もお気にめした品でございます。次に黄色く輝く卵に米を包んだオムライス。こちらはレイリー様のご希望でございます。デザートのプリンはカルテット国の皆々様が喜んでいただける品。そして最後はエメアップリア姫様のご希望であり、バーバリさんも喜んで食べていますロブロブでございます。ロブロブはエメアップリア様から、ローガディア王国では祝の席にこそ出すべき品と教えていただきましたので、今回こちらの4種を出させていただきました。お気づきの方もいらっしゃいますが、こちらの料理はこの四国の友好を表した品でございます」


 ミツが今回作ったお子様ランチ。

 偶然にもこの四国が欲した物ばかり。

 それならと、ミツはこの料理を選んでいた。

 あちらこちらでは、なるほどと納得してくれた声も聞こえるが、中には料理よりもそれを乗せた皿の方が豪華すぎると言う声も聞こえる。

 勿論その対策もミツは考えていた。


「そして今回この料理を盛りました皿でございますが、こちらはこの場にいらっしゃいます。いえ、この場にいない貴族様である皆々様を表した皿にございます」


「「「!?」」」


「たとえ料理が素晴らしくても、それを支える物が貧相ではいけません。こちらの皿は王族の皆様を支え、そして民の心を動かす正に皆様ではないかと私は思います。私はこちらにいらっしゃいますダニエル様の心の器には、大変心を動かされました。人の心を受け止める器。それと皿をかけさせていただきました」


「なるほど。料理は殿下たちであり、この皿は我々貴族か。アベル様、カイン様、この少年、中々面白い料理を出すではありませんか」


「うむ。ミツよ、貴殿の心意気に褒めの言葉を送ろう」


「うん。料理もとても美味しそうだ。さっ、冷めてしまっては勿体無い。早速頂くとしよう」


 マトラストはミツの弁舌に納得してくれたのか、料理を鑑賞しつつ二人の王子へと笑いかけるように話を振る。

 二人の王子からもミツは褒めの言葉をもらうことができた。

 これにてこの料理を莫迦にする者は、ここには居なくなった。


 一方、ローガディア王国の面々は周囲の穏やかな笑いも聞こえないのか、彼等は料理を目の前に唖然とした表情のまま止まっている。

 それは皿に盛られたロブロブのフライに対して。

 彼等はロブロブの希少価値を十分に理解している。

 まだ子供と言える年頃のエメアップリアですら、ロブロブが滅多に食べることができない品であることを理解している。

 だからこそ、ミツがロブロブをまだ持っているなら1匹でも構わないと言う言葉を彼に伝えたほど。

 しかし、実際ミツがアイテムボックスから取り出したロブロブの数は300を超えた数。

 更に全て同じ大きさ、同じ鮮度と全てが一級の品が、一人一皿の上にドドンッと一匹が乗せられている。

 エメアップリアは少し慎みを忘れ、周囲の皿をキョロキョロと視線を泳がせていた。


 そんな彼女に気がついたのか、ミツが視線をやれば、自身が見られていることに気づいたのかエメアップリアは居住まいを正し、小さくコホンと咳払い。


「ミツよ、貴殿の心意気に、我々獣人国より礼の言葉を送るの。これ程のロブロブ、我は見たこともない。存分に楽しませてもらうのね」


「はい。どうぞ、エメアップリア様。そちらを食べられる際はそちらの白いソースをかけてご賞味下さい」


「うむ」


 彼女の近くにいるバーバリが毒味と少しだけそれを食味する。

 大丈夫とバーバリがタルタルソースをロブロブのフライに添える。

 エメアップリアが一口それを食べた事に周りの者も食べ始める。


「「「「!?」」」」


「お、美味しいのね!」


 エメアップリアの言葉に賛同するように、カイン達からも美味いの言葉。

 レイリーも揚げ物が新鮮だったのか、彼女はフライを口に運ぶスピードが早い気がする。

 周りの反応を見てミツはホッと安堵。


「にしても、ダニエルは素晴らしい器を数しれずお持ちで。大層腕の良い職人をフロールスは仕えさせてるようだね」


「ゴホッ!」


「んっ? 如何したダニエル」


 アベルの勘違いした言葉におもわず咳き込むダニエル。

 それを訝しげな視線を送るアベル。

 ダニエルは直ぐに自身の失礼な対応に謝罪し、皿は自身の屋敷に置いていたものではないと言葉を返す。


「も、申し訳ございません。いえ、アベル様。お言葉を付け加えさせて頂くなら、今回料理を盛り付けておりますこちらの皿は私めの所有物ではございません」


「それはどう言う事だ?」


 ダニエルは一度ミツの方に視線をやり、彼が頷いたことに事実を話す。


「はい……。こちらの皿の所有者はミツ殿でございます」


「!? 君がこれを?」


「はい。急遽用意した品ですが、皆様にも喜んでいただけたようで良かったです」


「そうか……」


 今はその言葉だけで済んでいる。

 だが、アベルの食事が終わり、弟であるカインの綺麗に食べきった皿と自身の皿を見比べ彼は二度見するほどの驚きを周囲に見せた。

 彼は自身の皿とカインの皿を手に取り重ね、そしてじっと見つめる。

 全く同じ品。そう言葉を呟いた後、彼の視線は他の物が食べ終わった皿を凝視していた。

 

 食事も問題なく進み、レイリーがデザートのプリンにスプーンを入れた時であった。


「時に童よ」


「はい、レイリー様」


 レイリーに呼ばれた事にミツがそちらへと視線を送る。

 それに気づき、周りの者たちは会話を止め、口を噤む。


「お主、ヒュドラはいかにして倒した。妾の耳には幾人もの話が入り、童が見えぬ。食も終わる、お主がその洞窟内で見た物を気にせず話してみよ」


 レイリーの話の内容は周りの人々も気になる事。

 カインとアベルも、ダニエルを通してゼクスからの話を聞いている。

 エメアップリアもバーバリから話は聞いては入るが、彼女はおとぎ話を聞かされてる気分とその時は半信半疑。

 確かにレイリーのところに直接ヒュドラの戦いの内容を話をした者はおらず、彼女には取り敢えずミツがヒュドラを倒しただけとしか内容が入っていない。


「我々も王妃レイリー様と同じ意見。どうだろう少年よ、君がローガディアの国へと送った品が本物であるかを確かめる意味も込め、君の戦いを話してはくれないか?」


 レイリーの言葉に賛同したアベル。

 彼もヒュドラの話を聞いていても、目の前の少年が倒したなどと心の底からは信じてはいない。

 たとえロストスキルのトリップゲートを使用できる者だとしても詭弁で済まされる内容ではないため。


「そうですね……。はい。それではダニエル様、食事が終わりましたらこの場をお借りしても宜しいでしょうか?」


「うむ。それは問題ないが……。!? ミ、ミツ殿、よもやあれを使われるおつもりでは……」


「「!!!」」


 ダニエルはフッと思い出したのだろう。

 自身の目的であるためとミツが幾度も使用してくれた鏡の存在を。

 ダニエルの少し慌てぶりにカインとマトラストも目を開け、彼等は咄嗟にミツへと止の言葉を出そうとしてしまう。

 しかし、ダニエルの慌てぶりに鋭い視線を送るアベル。

 別にミツ本人は隠すつもりは無いので気にはしていないのだが、周りから見るとミツの持つ森羅の鏡は国宝級と言われてもおかしくはない品である。

 こんな大勢の視線がある場所で見せるのは更にミツを求める存在が高くなってしまう。


「ダニエル様、問題ありません。本音を言うならば、元々ヒュドラの戦いは皆々様に見ていただく予定でした。この場をお借りできた事は自分にとっては運が良かったのかもしれません」


「そうか……君がそう言うなら……」


「一緒にゼクスさんとバーバリさんの戦われたお姿も皆様に見ていただくつもりでしたが、それは問題ありませんか?」


「ああ、それは構わんよ」


 フロールス家でのミツの本当の目的はこれであった。

 創造神のシャロットから大会ではミツの力を観客含め多くの者にみせよ。

 そして今日という日は観客である庶民よりも上。大勢の貴族が集まるこの場こそ更にミツの力を周囲に知らしめるというシャロットの目的でもあった。

 庶民であり旅人のミツが貴族や王族にこんなふうに時間を取り、一人一人とその者の前で鏡を使うのは時間もかかる。

 と言うか、その者にまず合わせてももらえないかもしれない。

 ここには四国の代表者と近隣の貴族も集まっている。

 誤った判断かと思われるだろうが、ミツ自身の自衛対策も兼ね、この場で彼の今の強さを見せて置かなければいけなかった。

 それは先程ミツが木皿を作り見せた事に、彼を自身の手駒に考えている貴族への抑止力をしなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る