第177話 教会の視察もかねて。
「それではこれより、試しの洞窟最下層にてのゼクスさん、それとバーバリさんの戦いを皆様にご観覧していただこうとご披露させていただきます」
ここはフロールス家にあるホール。
ミツは周囲の多くの注目を浴びつつ、ホール中央で森羅の鏡を持ち立つ。
ミツの魔力をぐんぐんと吸い取り、虹色の靄を出し始める鏡を警戒と興味本意の視線が集まる。
王族や自身の主を守ろうと靄を警戒するものもいた。その中、前に立つと邪魔だとエメアップリアはベンガルンを手で払う。
虹の靄は大きく膨れ上がり、ミツが見上げる程の高さに浮かんでいる。
いつもの大きさでは壁側に立つ人や、視力の弱い人には見えないので、靄をできるだけ四角形に、そしてホールの広さと人数を考慮し、横20m、縦15mと映画館のスクリーンの様に空に映し出す。
それを驚きと興奮に見守る人々。
カイン、アベルの両王子を囲み、兵達も森羅の鏡を警戒しつつも、靄の中に映る映像に困惑していたよ。
アベルの隣、少しだけ離れた所にて椅子に座る王宮神殿の神殿長及び、巫女姫のルリは相変わらず森羅の鏡をキラキラとした瞳に見つめている。
各国の代表として今だにフロールス家や近くの屋敷に寝泊まりをしているローガディア王国のエメアップリア。
彼女の私兵であるチャオーラやベンガルンも驚きの表情。
エメアップリアが周囲の視線も気にせずと立ち上がろうとするのを後ろから抑える役目の筆頭側仕えのメンリルが控えている。
周囲が驚きの声を漏らす中、静かにミツのやる事を見守るのはエンダー国の王妃レイリーと息子のジョイス。
レイリーの機嫌が良いことに彼女がこの場に同席する事になったことで、ジョイスは護衛として母の側にて護衛を続けているのだろうが、彼らの側に控えるアンドルとスリザナ達は、相変わらずマザコン王子の対応に呆れている。
何故ならレイリーの一言一言に敏感に反応し、彼女が暑いと言えばジョイスは部下に風を送らせるためと扇を扇がせたり、また喉が乾いたと漏らせばフロールス家のメイドを急ぎ呼び寄せるなど、周囲の視線も気にしていない様子に彼らは心の中でため息を漏らすしかない。
大人達とは別に、少し離れた席に座る三人の子供達。
フロアの上に突如と現れた靄に興奮しつつ、ロキア少年か天井に向けて指を指す。
「うわー。ねえねえ、兄様、お兄ちゃんは何をしようとしてるの?」
「んっ……いや、すまんロキア。お前の一人だけの兄である俺でも、あれは見たことが無い品だ……」
姉のミアは上に向けたロキアの指をそっと下げさせる。
「フフッ。あらあら、お兄様。今更ミツ様のなさる事に驚いていては気苦労が耐えませんよ。ここはお母様のように楽しむべきではないでしょうか」
「……。ミアよ、俺は今にもあいつに質問攻めを始めてしまいそうな母上の動きに内心ハラハラしているんだぞ。王族の近くだと言うのに、義母上が幾度も母上を窘める姿に気が気ではない思いだと言うのに」
「お兄様……そのお気持ち、お父様も同じでしょうね……。それより二人とも、お喋りはその辺で」
「まったく、何が始まると言うんだ」
しだいと静まる周囲のガヤガヤとした声。
それをタイミングとミツは鏡へとイメージを送り映像を映し出す。
しだいと靄の中には試しの洞窟最下層にある試練の扉が見えてきた。
ゼクスが向上を述べるところからの映像である。
「私の名はゼクス! 主を守る剣を振り、己の力を見極める為にまいった! 私の剣に相応しき相手を願うとする!」
突然映し出された映像。それだけではなくゼクス本人の声すら自身の耳に聞こえてくる。
数人は本人が声を映像に合わせて当てているのではと思い、ゼクスへと視線が向けられる。
しかし、彼は紳士的な佇まいのまま、主であるダニエルの近くに立っているだけだ。
ロキアはゼクスが映像に流れ出したことに、自身を囲むように座っていた二人の兄と姉の袖を軽く引く。
「あっ! 兄様、姉様、あれはじ〜やだよ」
「「……」」
映像だけならば、武道大会の戦闘を映し出すためと魔石画面がある。
これは鳥型の魔導具がカメラとなり、映像を送るテレビモニターのような物。
しかし、テレビの様に映像は流れても音を拾うことはできない。
更には既に起こった事を映し出す再生機能など見たことの無い人々は驚きに眉尻を上げる。
貴族だけではなく、その場を守る兵ですら動揺が隠せず思わず声が漏れていた。
「……よかろう。死す時、其方の血肉を捧げよ」
そして、洞窟の声がフロアに響くと声は静まり、霧の中から出てきたベルフェキメラの姿が映し出される。
大きな画面に映し出されたベルフェキメラの映像に、思わず悲鳴を漏らす貴族婦人。
映像の解像度が高すぎて、本物のベルフェキメラが目の前に現れたと勘違いした兵の数名が腰の獲物に手をかける。
だが直ぐに映像がゼクスに変われば、婦人や兵達は落ち着きを取り戻す。
「力を示す者よ……。死して己の慢心に悔いるがよい……」
「はあっ!」
洞窟の声がまたフロアに響いた後、映像内のゼクスの戦いが始まる。
その映像と戦いの音にまるで目の前でその戦いを見せられている気分と、その場にいた者全てを引き込んでいく。
ゼクスの戦う姿に、流石に元とは言えシルバーの冒険者であり、フロールス家に仕える者と感心する人々。
ロキアは最初こそベルフェキメラの姿に怯えていたが、大好きなゼクスの勇ましい姿にそんな気持ちも吹き飛ばし、今の彼は目をキラキラにさせ、凄い凄いと無邪気に声を出している。
ゼクスの戦うベルフェキメラは各国で危険度はとても高く、とても人族一人で倒せるようなモンスターではない。しかし、彼は歴代の戦士に数えられる程の英雄でもある。
次第とベルフェキメラに好戦的な戦いを見せ、最後にはゼクス一人だけでベルフェキメラを討伐する姿に、フロア内には拍手と換気の声が上がる。
拍手が巻き上がる中、席を立ち上がるカイン。彼は近くに座るダニエル、そしてゼクスへと称賛の声をかけると、また周りから拍手が湧く。
「素晴らしい! 流石フロールス家を守る堅牢剣鬼の戦士。ダニエルよ、貴殿に仕える者の力は其方の屋敷だけではなく、国も守る程の武功をみせるであろう」
「はっ! カイン殿下のお言葉、ゼクスの主として、心より誉れと感無量にございます」
「うむ。それでは少年、次を見せてくれ」
カインはミツの方へと振り向き直し、次の映像を促す。
「はい。続きましてローガディア王国より、バーバリさんの戦いをご覧ください」
次はバーバリの番と言えば、ローガディア王国の方からざわざわと興奮気味な話し声が聞こえてきた。
「よし、バーバリ、お前がどの様な戦いをしてきたか楽しみにしているっての」
「はっ。ですが姫……。謙遜する言葉ではございませんが、私とゼクスの戦いは所詮あの少年の前座の武芸を回した物であることをお伝えします。私の尻尾の揺れが戦士として勝利を導く……」
「長い、そしてお前の言葉は途中からいつも意味も分からぬの。ハッキリと結論だけを申せ!」
「も、申し訳ございません……」
バーバリの恭しい言葉も、森羅の鏡の映像に興奮気味なエメアップリアの彼女は聞く耳を持たず、スパッと話をきってしまう。
二人のやり取りに近くにいるベンガルンとチャオーラが軽くため息を漏らす。
「団長……。今は他国からも団長は注目を受けている。そのような行動は今は止めてくれ」
「そうです。それに団長だけではなく姫様、貴女様もお気を付けください。姫様の振る舞いは一つ一つ他国の者から見られていることをお忘れなく」
「フンッ。言われぬとも」
「分かっておるっての」
「「はぁ……」」
ミツはエメアップリア達の会話を聞き耳スキルで拾い苦笑しつつ、森羅の鏡へとバーバリの戦闘時の映像を出し始める。
先程のゼクスの戦いに興奮しているのか、先程よりも少しフロアの上に浮かぶ霧の靄に集まる視線が増えている。
それでも自身が守るべき主の護衛を、手を抜くような者はここにいるはずもない。
さて、酒場での飲み会があった二日後。
ミツはフロールス家へとお呼びを受けていた。
連絡をしてくれたのはダニエルの妻子のパメラ婦人とロキア少年、そして二人の護衛とゼクスと数名の護衛が教会へと馬車での訪問である。
突然領主婦人の来訪にて教会内に居たエベラ、サリーは竦む思い。
礼拝に来ていた街の人も祈りを止め、パメラに失礼の無い様にと距離を開けては膝をついている。
パメラは頭を下げ、少し身を低くしたエベラの前に立つ。
「失礼します。私は領主ダニエルの妻、パメラと申します。貴女がここのシスターエベラで間違いはございませんか?」
「はい。パメラ様。私がエベラでございます。この度は態々この教会へと足をお運びいただけたことに感謝を送らせて頂きたく、またお礼申し上げます」
「貴女の気持ち、受け取らせていただきました」
「改めて、パメラ様へと心より感謝申し上げます」
「私も祭壇に祈りを差さげても宜しいでしょうか」
「はい。是非とも」
パメラの祈りに付き合うエベラ。
二人が神に祈る時間を邪魔しないようにと、ゼクスがサリーへと今の内にミツを呼んできて欲しいと頼む。
サリーはゼクスへと恭しく返事を返し、ミツの居る裏庭へと彼を呼びに行く。
時間もおかず、サリーがミツを連れて戻って来た。
「お待たせしましたゼクスさん」
「いえいえ。お忙しい中、お呼びたてしてしまい申し訳ございません」
「こんにちは、お兄ちゃん」
「いえ、大丈夫ですよ。少し日曜大工な事をしてただけですから。こんにちは、ロキア君。今日はどうしたの?」
「うん。えーっとね。今日はねー。……忘れちゃった」
「あらら。気にしなくても良いよ。自分はロキア君が態々来てくれた事が嬉しいからね」
「! エヘヘッ。うん!」
「ミツさん、本日はパメラ奥方も共にこちらに来ております。今はあちらの方で祈りを捧げ中です」
「パメラ様も? 皆さん揃ってお祈りに来たんですか?」
「ホッホッホッ。いえ、本日の予定としましては、ミツさんにフロールス家に来ていただきたく、そのご連絡でございます」
「態々ありがとうございます。分かりました、必ずお伺いします」
祈りを終えたパメラが立ち上がり、踵を翻しミツの方へと近づく。
「これはミツさ……ん。お元気そうで何よりです。本日は突然来訪した事に先ずは謝罪を。そして領主ダニエルからの言付けをお伝えしにまいりました」
周囲の目もある中、また思わずミツに対して様呼びする所だったパメラだが何とか持ち堪える。
女性として美しいパメラ。
彼女の貴族婦人としての挨拶やその佇まいに周囲の男性は惚れてしまいそうになるが、よく考えて、相手は領主婦人。
そんな考えを口にしたなら不敬罪と罰せられてしまう。
だが、周囲の視線も気にせずと、その女性と対話する少年の彼は、日常的な会話を口にしている。
「はい。昨日は久しぶりのお休みということで、のんびりとしてました。今日は暇だったので日曜大工的に新しい家具とか作ってましたよ」
「家具? それはミツさんが販売を目的とされる物でしょうか?」
新しい家具と耳にしたパメラは薄っすらと汗をかき、表情は変えず笑顔のままミツへと質問する。
「いえ、違います。ここの教会で使用する物ですよ。ダニエル様には連絡が行ってると思いますが、この教会の他に教会があるじゃないですか。その二つの教会とここが一つの教会へと合併するので、新しく来るシスターや、空き部屋に自分みたいな客人用の家具です」
「はい。話は伺っております。ですが家具を用意するには少しばかり早いのでは? 普通ならば、家具などは部屋などが完成する二月ほど前に職人に依頼を出すものです……」
「あー……。丁度いいや。これはパメラ様には話しておくべきかもしれませんね。どのみちダニエル様にも自分から言うつもりではありましたけど、先にお二人には話しておきます。実は……」
ミツは教会の合併の話を耳にしていた時からの考えを、少し小声気味に二人へと伝える。
話の内容はシンプルだが、彼がやろうとする事はサラリと流せる内容ではなかった。
「「!?」」
「と言うことで、材料が集まり次第早速取り掛かろうかと」
話し終わったときのミツの顔は、何ともイタズラを考える子供のように無邪気さを感じる表情に二人は見えたのかもしれない。
ゼクスはそんな彼の考えに笑いが溢れ、いつもの飄々とした笑いをこぼす。
「ホッホッホッ。それはさぞかし見物でしょうね」
「……」
「パメラ様?」
ゼクスとは違い、パメラの表情は険しく、だが怒っているとは違う真剣な話し方をする。
「……ミツさん。失礼ながら、その際は王宮神殿のルリ様と共にまたこちらに伺わせていただいても宜しいでしょうか?」
「ルリ様ですか? んー。エベラさん、少し良いですか?」
少し離れたところでミツ達の会話が終わるのを待っていたエベラを呼び、後日、王宮神殿の神殿長であるルリを呼んでも構わないかを確認する。
確認と言っても貴族のパメラが決めては庶民のエベラ達には元々選択権などは無いのだが、ここは一応流れを話す意味も込めて彼女へと事情を説明することにする。
「はい、勿論。王宮神殿の神殿長様が態々足をお運びいただけるだけでも私達は感謝の思いでございます」
「分かりました。それではその際、こちらへと伺わせていただきます」
「はい。お待ちしております。と言っても自分が迎えに行った方が早いですかね?」
「フフッ。はい。ミツさんが宜しければ。あら? あの子供達は?」
「あっ!? 」
話は決まったと安堵するパメラ。
すると大勢の大人達に興味本意に中を覗いていたのか、顔を出してこちらを見ていたヤン、モント、ミミの姿に周囲の大人達の注目が集まる。
「これは失礼いたしました。あの子達は親を失い、孤児としてこの教会にて身を受けました子供でございます」
エベラは子供であろうと、貴族相手にヤン達の失礼な態度に彼女は冷や汗をかくおもいと頭を深々と下げ、彼らの素性を説明する。
誇り高い貴族なら理不尽な理由を付け、子供相手であろうと不敬罪と重い罪に問われたかもしれない。
だがパメラは貴族でありながらもその様な行いはせず、庶民を一人の人間と扱いを忘れない。
彼女が視線を少し下げれば、息子のロキアも同じ年子に興味があるのか、視線はキョロキョロと落ち着きを失っている。
「……」
「ロキア、少しばかりですがあの子達と遊んできなさい」
「母上、よろしいのですか!?」
「ええ。ゼクス、私はミツさんが作られている家具などを拝見させて頂きますので、ロキアをお願いしますね。ミツさん、宜しいでしょうか」
ミツはゼクスの方に軽く視線を向けると、ゼクスも同じ様にミツの判断を待っているようにこちらを見ていた。
ゼクスが溺愛するロキアの為だとミツは二つ返事にそれを承諾。
「はい、勿論」
「はっ。奥様、おまかせ下さい」
ロキアがこちらを伺っていたヤン達へと声をかけ、彼らが遊ぶ間とミツは〈物質製造〉スキルで作っていたクローゼットなどの家具をパメラへと見せることに。
クローゼットはただ単に衣類を入れるだけではなく、少し工夫を加えている。
使用する相手がシスターの女性であること、更にこの世界の女性達の服は基本長いスカート服。
衣服を収納する際、ハンガーに服を通してかける物だが、シワなどをを避ける為とどうしても高い位置にかけなければいけない。
それを少し工夫し、クローゼットの扉を開けると、一緒にハンガーをかける部分が下り、取り出しを助ける効果を付けてみた。
更に肌着など小物が収納できる引き出し、貴重品を隠すための仕掛け等々。
ミツが思う[あったら良いな的な]クローゼットをパメラへと見せると、彼女も女性でありこの収納に少し食い気味に次々と質問してくる。
様々な家具を説明する中、ミツが造り出した物の中でパメラや側仕えのメイドさん達が1番驚いたのが折り畳めるテーブルと椅子だったかもしれない。
構造は簡単だが、意外と思いつかなかったこの品々。
天気のいい日に外でお茶をする時にでもコレがあれば便利だとパメラが言うと、ミツはなら材料があれば簡単に造れる物ですよと言葉を返す。
パメラはその言葉に少し難しい顔を作る。何故ならミツが作り出す品々はこの世界の職人に作らせるには難しい品ばかり。
だが、今回は彼の言うとおり、折り畳めるテーブルも椅子も本家の職人が見ればあっさりと同じ物を作る事はできるだろう。
しかし、構造は簡単でも、先ずはそれを造る為の技術が求められるのは確か。
誰でも造れるようになるまでは、庶民が買える金額に収まる品ではない事をパメラは考えを述べていく。
更に付け加えるなら、ミツの使う〈物質製造〉スキルで作られる品々は、この世界の職人に言わせるなら全てが理不尽な構造をしている。
例えば家を作るなら、木を切り形をできるだけ整え、必要な箇所にだけ釘を打ち込む物。
しかし、ミツが家をスキルで作ろうとするなら、統一された木材、高さが足りないなら木材同士を一体化させ伸ばし、釘など使わなくても木組み式を活用する事に、釘を使うよりも強度のある建物ができる。
以前ミツが造った井戸小屋がまさにそれである。
パメラも以前話した井戸の事も気になっていたのか、視察をかねて教会を見て回る事になった。
教会は領主の配慮にて無税対象となっている分、やはり贅沢などしていては指摘されるのかとミツは内心思っていたが、パメラの見るのは建物の状態や、ここに住む者達の健康状態を優先とした視察ばかり。
例えプルンの部屋にいつの間にか増えたのかナイフ等々の飾り物が置かれても、それを咎めたり気にすることもしてはいない。
いや、本当にいつの間に増えたのか? プルンはナイフを集める趣味を持っていたようだ。
そして最後にパメラが一番見ていたのが井戸小屋と、備え付けのお風呂である。
井戸小屋に関しては報告を受けていても実物を見ればまた違う反応。
護衛の兵士さんに試しと水汲みをさせたりと、彼女は側仕えのメイド達と話し合い、活用性を確認している。
ミツはこの場所が狭いので動滑車設置タイプを使用している事、他にもシーソー式や、足踏み水車式等々説明すると、説明を受けたその場の人たちは、彼らは鳩が豆鉄砲を食らったかのように表情を唖然とさせている。
これは口で説明するには難しいなとミツは思い、ならばとアイテムボックスから木材を二つ取り出す。
ミツは木材に〈物質製造〉スキルを使用し、足踏み水車とシーソー式のモデル人形を見せて説明。
この場にいる人達の殆どが既にミツの物質製造スキルを見た事あるのでそれ程驚きはしなかったが、人形に関しては皆さん食い入るようにマジマジと見ている。
これを街の井戸に活用するかは、パメラがダニエルとエマンダに話を持ちかけるのは自由にと、ミツは人形をパメラに渡して彼女は帰ることになった。
ミツとパメラが話し合う間にロキアとヤン達は教会の庭で遊び仲良くなったのだろう。
帰り際には互いに手を振り馬車を見送る姿が微笑ましく思ってしまった。
そして、約束の日にミツはフロールス家に客人として出向く。
今回の目的はヒュドラの血をミツがローガディア王国の友好の証として渡す為の献上式。
渡す物が物だけに、各国の注目が集まる。
式を行う際、先ずはフロールス家に場を貸してもらったことをローガディア王国の代表としてエメアップリアの挨拶。そして、カイン殿下の言葉の後にミツが入場する。
フロアに集められた各国の種族とフロールス家の近隣貴族。
その数は大会の閉会式の時以上の人の数。
アベルがフロールスに来た事も人が増えた原因でもあるだろう。
ミツが入場すると、静まりかえったフロアに彼の着ている黒鉄の鎧が音を鳴らし、更に注目を集める。
ボソボソとあれは黒鉄かと驚きの声が聞き耳スキルで聞こえてくる。
ミツが両手に持つ小さなクッションの上には、小さな小瓶が乗せられていた。
中に揺れる液体が主張するように、ユラユラと美しい色を見せてくれている。
ある程度距離を縮めたミツが止まり、その場で膝を折り言葉を待つ。
エメアップリアは大勢の注目を浴びつつ、裏返りそうな声を抑え声を出す。
「この度は貴殿の願いに応えるためと、場を用意した。貴殿が望むことを申すが良いの」
「はっ! 私、冒険者のミツはこの場をお借りし、ローガディア王国との友好を望むことを願います」
この言葉にローガディア王国の面々は頬を上げ喜ぶ者がちらほら。
しかし、反対にセレナーデ王国の貴族からは困惑と疑念の視線がミツへと向けられることになる。
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