第151話 可憐に踊る二つの花

 ミツと分身、二人が'戦闘を続けながら先へと進む道中。

 分身は通路の先に笑みを向けた後、インプの亡骸を回収していたミツへと駆け寄り声をかける。


「なあ、相棒」


「んっ? どうしたの」


「どうしたじゃないよ。気づいてるだろう。先にまたモンスターがたむろってる……。アレを俺達が倒すには、もう勿体ねえと思わねえか?」


「うん。流石自分の分身。考えもゲーマー思考だね。ミーシャさん、ローゼさん。お二人とも良いですか?」


「んっ? ミツ君、なにかしら?」


「うっ……」


「ちょっとミーシャ。さっきミツ君のおませなところも良いって自身で言ってたじゃない。いつまでそんな腰を低くしてるのよ」


「ち、違うのよローゼ! だ、だって……さっきのは……その……いきなりだったから……。ううっ」


「はあ〜」


 ミツは分身へと頷きを一つ送り、後方にいる二人へと声をかける。

 ローゼは直ぐに返事を返すが、ミーシャは少し躊躇うような返事の仕方だ。

 話を聞く限り、まだ少し警戒と言うか、気まずいのだろう。


「ミツ、今度はローゼにまで変なことする気ニャね! 二人に何する気ニャ!?」


「いや、プルン。何もしないって……」


「寧ろこれから何かするのは二人の方だな」


「「「「……」」」」


 腕組みをしながら不敵な笑みを作る分身へと、女性陣の冷たい視線が向けられる。


「いやいや。なんで皆そんな冷たい視線なの!? 君もちゃんと説明しないと、また勘違いされるでしょうが!」


 ミツは慌てて、先のフロアにインプが溜まっていることを説明する。


「なるほど。この先のインプを今度はローゼ達が優先して倒せってことか……。ローゼ、行けそうか?」


「ええ。私は平気よ……。私はね……」


「だ、大丈夫よ。私なら、その……本当に大丈夫だから……」


 先程の事を思い出したのか、ミーシャは顔を赤くしつつ、戦闘する事を承諾する。

 その様子を伺っていたセルフィ。

 彼女はミツへと声を飛ばす。


「はぁ……。ねえ、ちょっと少年君。こっち来て」


「はい、セルフィ様」


「おう、何だいセルフィ様?」


 共に分身が自身の方に来たことに少し戸惑うセルフィだが、分身に聞かれて困る話ではないと、彼女は話をすすめる。


「……まぁ、良いわ。あのさ、もうあの娘、街か何処かに返したら?」


「えっ!? セルフィ様、それは……」


「最後まで聞きなさい……。まあ、私は一部始終見てるから言えるけど、あの状態でこのまま戦いを続けるのは、彼女を危険に晒すだけよ。あの娘が君の仲間と言うなら、判断を誤っちゃ駄目。っか、お尻触られたぐらいであんな潤んだ瞳しちゃって。女としての気持ちも分かるけど、ここは戦場なのよ。取り敢えず1匹を一人で倒せないなら、あの娘にはさっさとお帰り頂きましょう」


「んー。セルフィ様のお考えは確かなんですが……」


「全く、相棒は悩み過ぎだっての」


「あのね、ミーシャさんがあんなふうになったのは君のせいだからね!」


「はいはい。なら、元の状態に戻せばいいんだろ」


「どうするの?」


「いつも自身に使ってるスキル使えば良いじゃん」


「えっ? あ〜。そっか」


 ミツがいつも自身に使用しているスキル。

 それは戦闘前と戦闘後に必ず使用している〈コーティングベール〉である。

 これは緊張した気持ちや不安とするネガティブな心の時等々、精神に関係する時に使用すれば、スッキリとした気分と気持ちを持ち直すことができる。

 例えミツのステータスが目に見えて高い数値を出し、戦闘が優勢だとしても、やはり心を強くするには慣れるしかないのだから。

 元々チキンハートなミツには、このスキルは無くてはならないスキルである。


「ニャ? 止まるニャ! 今のミツはミーシャに近づいちゃ駄目ニャ!」


「プルン、大丈夫。少し話をするだけだから。だから、ナックルをつけた拳を自分に向けないでね」


「もう、話すだけよ。変なことしたら今度はこれだからね」


「も、勿論……」


 ミツがミーシャへと近づこうとするのを止めるプルン。

 リッコはミツの言葉を聞き入れつつも、杖先にはバチバチと少しライトニングの電撃を光らせる。

 その光に映るリッコの笑みが、冗談ではなく、本気だと理解できた。

 あははと苦笑を浮かべるミツ。


「ミーシャさん。先程は自分の分身が失礼なことしてしまってすみませんでした」


「い、良いのよ。ミツ君のおかげで私の傷も治ったし、何だか今まで痛かった場所も、肩も楽になってるし」


 ミーシャの肩の痛みの原因に、直ぐに思い当たるミツ。彼の視線は彼女のタプンタプンと揺れるお胸様を視界にいれる。

 ミツは頬を少し赤らめつつ、話を続ける。


「そうですか……。いえ、それなら良かったです。それと、この状態を作り出した自分が言うのも申し訳ないのですが、このままだとミーシャさんを街に返さなければいけなくなるかもしれません」


「えっ? どうして……」


「実は……」


 真面目な雰囲気を会話に入れつつ、ミツは今のミーシャが戦闘では足を引っ張る可能性があることをセルフィの言葉をオブラートに包み彼女へと伝える。

 ミーシャも貴族であるセルフィからそんなふうに思われていた事に、自身の甘さに彼女は悔しさと恐怖にギュッと拳に力を入れる。


「ごめんなさい。ここは戦う場なんですから、セルフィ様のおっしゃる通りね……。ミツ君、私、皆にまだ戦える所を見せたいわ」


「はい。勿論です。ミーシャさんにはまだ(経験稼ぎの為に)側にいてもらわないと困りますからね」


「〜〜〜」


 少年の言葉足らずのセリフに、ボンッと顔を赤くするミーシャ。


「それで、ミーシャさんの体の調子を戻しますから、少し手を貸してもらえますか? ……ミーシャさん?」


「あっ……いや。その……えーっと。手だっけ? は、はい! ……どうぞ」


「それでは、失礼します」


 顔を真っ赤にしたミーシャが顔を伏せ、スッと右手を差し出す。

 彼女の震えるその手を優しく握り、ミツは〈コーティングベール〉を発動する。


「「ムッ……」」


「はいはい、二人とも武器は下ろしましょうね」


「今の彼は、ミーシャさんへと治療の為に手を握ってるだけですからね」


 ミツの行動に、構えを取るプルンとリッコを止めるローゼとリッケ。 

 

 コーティングベールの効果はミーシャの気持ちをリフレッシュさせたのか、彼女は調子を取り戻し、戦闘を行える状態に戻った。

 セルフィに深々と頭を下げたミーシャは、分身が先程通路の先から〈挑発〉のスキルで一体のインプを連れて来ていたので、そのモンスターへと杖先を向ける。

 周りのサポートを貰いつつ一人で一体のインプへと氷槍を突き刺し討伐する。

 調子を取り戻した彼女はいつもの笑みをミツへと送っていた。

 セルフィにミーシャの闘える状態を理解してもらい、この先もミーシャを共に連れて行くことを了承してもらう。


「さて、ミーシャさんの調子も戻ったところで、お二人には頑張ってこの先に溜まっているインプを倒してもらいます。その際、勿論サポートはしますが、インプの討伐は必ず二人で行ってください。先にミーシャさんの魔法での攻撃。続けてローゼさんの弓での攻撃でトドメの流れです」


「しつも〜ん。ミツ君、如何して私達だけなの? 皆で戦えば早く終わるわよ?」


「ミーシャの言うとおりね。ミツ君、何を狙ってるの?」


 ミーシャは疑問符を浮かべ、ローゼへと視線を送り。ローゼはその視線を受け、ミツへと訝しげな視線を送る。


「はい。実は、お二人のジョブ。ダンサーが間もなく極め終わる頃になります」


「「「「「「はっ!?」」」」」」


 思いもしない言葉に周囲の進む足が止まり、一斉に驚きの声を上げる。

 セルフィは急ぎ足にミツへ近づき、カクカクとミツの身体を揺するように質問してきた。


「ちょっと、少年君! その話本当なの!? だって彼女達、さっきダンサーにジョブを変えたばかりなのよ!?」


「小僧! いくら何でも早すぎる! ジョブと言うものは数日数年と戦い、そして極めるもの! お前の話を信じたとしたら、たったの二刻もせずにこの娘達はジョブを極めたことになるのだぞ!?」


「皆さんの驚きも分かります。ですが、間違いなく。間もなく二人はダンサーを極め終わります。恐らくですが、8階層のミノタウロスの戦闘経験がお二人を急成長させたのではないでしょうか」


「そ、そんな事って……」


「ありえるのか……そんな話が……」


(ふむ……。彼の話を信じるなら、彼自身も成長しているのは確か。全く……末恐ろしい少年ですね)


 少年の話に唖然とするセルフィとバーバリ。

 ゼクスも驚きはするもそれを口には出さず、喜び合うミーシャとローゼをみては息を漏らす。

 真実を確かめる為と、セルフィとバーバリも二人だけで戦う事を承諾し、ゼクスもミツと共に彼女たちをサポートする事になった。


 少し歩き、目的のフロアへと到着する。

 無数のインプを目視にて確認後、戦闘が始まった。

 先程立てた計画通り、ミーシャは先手の攻撃を仕掛け、氷槍を作り出しインプへと放つ。

 ミーシャもミツのスキル〈マジシャンメロディー〉の効果を出し、魔法出だした〈アイスランス〉は鋭利な先を作り、敵に飛んでいくスピードも比較にならない程に素早く飛んでいく。

 グサリグサリとインプに氷槍が突き刺さったと思えば、すかさずとローゼの矢が敵のトドメを刺す。 

  

 今、彼女達はミツの分身が出した氷壁を前にして、インプへと魔法と矢の攻撃を行っている。

 氷壁には以前ミツが忍術スキルの一つ〈天岩戸〉を出したときに使用した狭間からの攻撃と同じ方法である。

 天井まで貼られた氷壁をインプは超えることもできず、接近戦の攻撃を封じられる。

 インプはそれならばと狭間に向かって、コールドブレスでの攻撃を始めるが、彼女達は攻撃を仕掛けられたとしても、少し避けるだけで氷壁が彼女たちを攻撃から防いでいる。

 こんな一方的な戦いから逃げ出そうとするインプも中には居るが、インプの逃げる場所は既にミツが土壁を出し、逃走ルートを塞いでいる。

 その異様な戦闘の光景に、セルフィとバーバリは言葉を失っていた。

 更に次々と出てくる土壁は、ジワジワと氷壁との距離を縮め、インプを氷壁と土壁のサンドイッチ状態にしてしまう。

 隠れる場所もなく、一方的ではないが優勢な戦いにてミーシャとローゼはインプを倒していく。

 インプを倒すのは二人だが、倒される前と、〈ハイディング〉スキルで姿を消していたミツは、スキルを奪い尽くす勢いにスティールを発動している。


《経験により〈毒爪LvMax〉〈悪食LvMax〉〈アシッドブレスLvMax〉〈コールドブレスLvMax〉〈重圧の叫びLvMax〉〈牛歩の進みLvMax〉となりました》


 インプは混乱の中で戦闘をしていた。

 突然現れた氷壁からは、攻撃が飛んできて仲間のインプが次々と死んでいく。

 逃げ出そうとした腰抜けのインプは、これも突然現れた土壁に騒ぎ奇声を上げまくっている。

 反撃と抵抗のブレスも全く効果を出さない。

 更には側で死んだ仲間のインプが次々と突然その姿を消していく。

 混乱、恐怖、困惑。

 そして、自身の腹部にドスッと氷槍が突き刺さった時にはそのインプの額に矢が突き刺さる。

 騒がしかったフロアが最後のインプの声を響かせ、静寂と場を変える。


 その中、ミツの頭の中ではユイシスの声がはっきりと聞こえてくる。


《対象者、ミーシャ。ローゼ。共にジョブレベルがMaxとなりました》


「よし……。お疲れ様ですお二人とも」


「ふ〜。流石に疲れたわ」


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 息を切らしながら顔から汗を流す二人へと、ミツはアイテムボックスから布を二枚取り出し、それを渡す。


「ミツ君、ありがとうね……。ひゃっ! つ、冷たい」


 ローゼが受け取った布は、ミツが前もってキンキンに冷した水で濡らした冷した布である。

 驚きにそれを受け取ったローゼだが、疲れと戦いの後に動いた熱くなった身体には喜ばれる品となった。


「冷たくて気持ちい〜」


「ふ〜。ありがとうね。結構な数のインプを倒したつもりだけど、これで私達成長したのかしら……」


「はい、お二人の頑張りはちゃんとでましたよ。ミーシャさん、ローゼさん。おめでとうございます。先程の戦いでお二人のダンサーのレベルがMAXになりました。これでミーシャさんはマジックダンサーに。ローゼさんはティアスターになる事ができます。10階層へと下る道は直ぐそこなので、そこでお二人のジョブを変更しましょうか」


 ミツの言葉に疲れも一気に吹き飛んだのか、二人は喜び、皆も先へと歩き出す。 

 リックがローゼへと話をふる。


「なぁ、ローゼとミーシャもジョブを変えたんだから、帰ったら装備は買い直すんだろ?」


「ええ。勿論。ミツ君のお陰で装備を買い直す分のお金はあるんですもの。ねっ、ミーシャ」


「ふふっ。そうよね〜」


「自分のおかげ?」


 二人の話を聞くと、武道大会で賭けにて懐が厚くなったのはリック達だけではなく、彼女達もかなりの金を手にする事ができたようだ。

 ローゼとミミはそのお金を使い、今住んでいる家の修繕費に当て、トトも家具を買い親へと送ったようだ。

 ミーシャは何を買ったのかと聞くが、彼女はまだそのお金は手を付けていないと言っていた。

 彼女は賭けにて得た金は今使っている杖に埋め込んだ魔石の魔力がなくなった際に、大きい魔石を買い直すために使う予定を立てていたそうだ。

 一瞬ミツは魔石なら自分が魔力を入れましょうかと口走りそうになるが、つい最近エマンダに自身が魔石を作れる事を仲間には喋らない方から良いと忠告を思い出した。

 それはミツがカセキとなった物へと魔力を込めればまた新たな魔石となること。

 この事を仲間達へ教えたとして、誰かがそれを見知らぬ者が耳にしたとしよう。

 その際、口を滑らせた者からその周囲の人々に何かしらの危険が迫るかもしれない。

 魔石の貴重度を考えるとミツを脅してでも欲しい物が魔石なのだから。

 それは不可能かもしれないが、ミツの見ていないところで仲間達が虜囚されたラルス達の様な目にあってはミツの心が耐えきれないかもしれない。

 忠告をミツは聞き入れ、ミーシャへと魔石の購入ならばエマンダに自分が相談してみると持ちかける。


「えっ!? 本当にいいの!?」


「はい。以前エマンダ様が魔石の購入を考えているなら相談を受けると言ってくれましたから。ミーシャさんの魔石の事も自分が聞いてみますね。きっと市場には並ばない大きな魔石が買えると思いますよ」


「ヤッタ! ありがとうミツ君!」


 ミーシャは両手を上げ喜び、ミツの手を両手に掴み自身の胸元へと引き寄せる。

 喜びに彼女自身無意識なのだろうが、完全にミツの掴まれた手の指先がミーシャの暖かな肌に触れていますのは、本当にありがとうございます。

 喜ぶミーシャの話を聞いていたリッコも同じ魔術士なだけに、魔石の購入なら私もとお願いしてくる。

 一人も二人も変わらないのでリッコのお願いも聞き入れておくことにはした。

 お金の使い方は人それぞれなのだから、リッコも賭けにて得た金は魔石に投資するようだ。

 

「……」


「おや、どうなされたセルフィ様?」


「いえ……。彼……。少年君は本当に素直な性格ね……」


「ホッホッホッ。まったく。それがミツさんの魅力にございます」


 セルフィは内心驚きであった。

 セルフィもミツが魔石を作れる事。また、エマンダがミツへと魔石の事を他者に話す事を止められていた事を彼女は知っている。

 血の繋がりもない、赤の他人の言葉を聞き入れるなど珍しく、相手が貴族であっても、ミツ程の実力も力もある者は聞き入れない事が当たり前と思っていたセルフィ。

 しかし、目の前の少年は約束を守り、仲間にも口を閉ざし、相手の好む答えを返している。

 自身で魔石を作れるのだから、彼は湯水の様に魔石を振る舞うこともできただろう。

 だが、利益よりも彼は仲間を選んだ。

 この事に、ミツにとっては目の前の仲間たちは金を山の様に積み上げても差し出すような真似はしないと、セルフィは内心の驚きは羨ましいと言う気持ちに変わってきていた。

 

 10階層に下りる前のフロアへとたどり着く。

 皆の見守る中、ミツはミーシャへと森羅の鏡を差し出す。


「どうぞ、ミーシャさん」


「う、うん……」


 ミーシャは森羅の鏡を受け取り、息を飲みながら祈る思いと鏡を覗き込む。


「……!? あ、あった。 あったわよ! ほら!」


 驚きと喜びに声を上げるミーシャの指先には【マジックダンサー】の虹色の文字が浮き出ていた。

 それを見た大人たち。

 言葉を失い、驚きに険しい表情と変わっていく。


「「「……」」」


「おめでとうございます。ミーシャさん」


「おめでとうニャ! ミーシャ。こんなに早くジョブを変えた冒険者は絶対にいないニャよ」


「うん。ミツよりも早いんじゃない?」


「なら、二人がミツよりも凄えってことか!?」


「いえ、リック。お二人のジョブがこうも早く変えれたのは確かにミツ君の持つ鏡のお陰ですが、一番はお二人の努力ですよ。牛鬼とインプを努力して戦い抜いた事を忘れては失礼ですからね」


「そうだね。初めて戦うモンスターにも怖じけずに戦い抜いた所は褒めるべきだと思うよ」


「そ、そうだな。ローゼ、ミーシャ。二人とも凄えぞ!」


 男性陣からの凄い凄いの自身を称える言葉に、ミーシャとローゼは頬を赤くして喜びに笑みを作る。

 ミーシャは早速【マジックダンサー】へとジョブを変える。

 虹色の文字を人差し指で選択し、ズラリと並ぶマジックダンサーのスキルの一覧を見て彼女は目を輝かせる。

 この時も一応男性陣のミツは離れて見ていたが、見たことの無いスキルにミーシャは助け舟とスキルの説明をミツへと頼み、鏡を見せる。


「失礼しますね。えーっと……。〈クリスタルダイヤモンド〉〈フレイムウィップダンス〉〈フロストフラワー〉〈エレメンタルソウルハート〉〈ノヴァ・シューティング〉〈サキュバスの口づけ〉〈魔力増加Ⅲ〉〈魔女帝・歩みの教え〉の八つですか。ミーシャさんは何個スキルを選べる感じがしますか?」


「ん〜。なんとなく六つかしら?」


「分かりました、六つですね。それでは……」


 ミツは心の中で聞こえるユイシスの言葉をミーシャへと伝えるように、スキルの説明をしていく。

 〈クリスタルダイヤモンド〉

 舞を踊り、周囲に魔力の結晶を作り雨の様に降り注がせる。

 〈フレイムウィップダンス〉

 火の蛇を出す。蛇が踊るように標的へと襲いかかる。

 〈フロストフラワー〉

 氷で花を描き、鋭い花びらが相手に舞い散る。

 〈エレメンタルソールハート〉

 踊りを見た者は魔力を一時的に低下させる。

 〈ノヴァ・シューティング〉

 閃光の魔法を出し、無数の光熱の光を浴びさせる。※アンデッドモンスターには効果が増す。

 〈サキュバスの口づけ〉

 スタミナ、活力、興奮増加の効果を出す。

 ※相手が魅了状態だと効果が増す。


 〈魔力増加Ⅲ〉は効果は分かるのでそれは省く。

 〈魔女帝・歩みの教え〉

 踊りスキルを使用時〈ステップ〉への経験増加。魔法使用時の経験増加。

 

 スキルの説明が終わると、ミーシャは周囲の意見を取り入れつつ、習得するスキルへと目星をつけていく。


「こんなに沢山あると、やっぱり悩むわね〜」


「慌てずにゆっくり選んでください。先ずはミーシャさんの得意な魔法属性を優先して、次に戦闘での立ち回りをイメージしてみて下さい。そうすれば必要なスキルだけが残りますから」


「ん〜。なら私は水属性の魔法が得意だから〈フレイムウィップダンス〉は外すべきね」


「そうね。反発する属性を取得しても効果も威力も半減どころか、発動しない事もあるって聞いたことあるわ。モンスターとの戦闘時にそんな不発があっちゃ、ミーシャの命が危なくなるわよ」


「そうよね〜。私もリッコちゃんみたいに火属性が得意なら選択できるんだけど。ねえ、ミツ君。君から見て、どれが私に必要なスキルか分るかしら?」


「自分がですか? んー。ミーシャさんにオススメするなら、先程言っていた〈フレイムウィップダンス〉と〈エレメンタルソールハート〉を除いた六つですね。このエレメンタルソールハートですが、踊りを対象に見せなければ効果は出しません。正直言って、戦闘中に相手が自身の踊りを最後まで大人しく見ているでしょうか? それならまだこの説明から広範囲攻撃と分かる〈クリスタルダイヤモンド〉と〈ノヴァ・シューティング〉は使いやすいと思いますよ。それとミーシャさんの得意とする水属性を使用する〈フロストフラワー〉ですが、これはもしかしたら今使っている〈アイスランス〉の氷槍よりも強力な攻撃魔法になるかもしれませんね」


 ミツの説明に納得するミーシャとリッコ。

 どれもミツは使ったことの無いスキルだが、ゲーマーとしての感が彼の力説に説得力を持たせていた。

 ミツの説明を聞き、ミーシャ自身も納得したのだろう。

 ミーシャはミツのオススメとする六つのスキルを選択し、彼女は【マジックダンサー】として、これから美しい戦いを魅せて行くこととなる。


 続いてローゼが森羅の鏡を受け取り、彼女も新しく表示された【ティアスター】にジョブを変えていく。

 ティアスターの特徴は矢を自在に操ることができ、更には魅力を高めた戦いができることであろうか。

 スキル一覧には〈サンシャインシューター〉〈スリーシュート〉〈ポットチェンジ〉〈ラブステップ〉〈ビューティフルダンス〉〈ドラゴンダンス〉〈ショータイム〉〈カレイドスター〉この八つのスキルが表示されている。


「ローゼもスキルは六つ選べるニャ?」


「……」


「ニャ? ローゼ聞いてるかニャ?」


 プルンの声が聞こえていないのか、ローゼは森羅の鏡に映るスキルの一覧を見たまま目を見開いていた。

 そして、彼女は驚きの発言をする。


「……ぶ」


「えっ? 何、ローゼ聞こえないわよ」


「それが……全部選べるの……」


「全部? 全部って、表示されてるスキル全部って事!?」


「う、うん……」


「おー。ローゼさん、運が良いですね」


 ジョブを変えた時に選べるスキルの数は、ランダムだとユイシスから聞いたばかり。

 それがミツがいつも使用しているウィンドウ画面での選択だけではなく、森羅の鏡にもそれが該当するとは思っても見なかった。


 スキルは全て取得できることが分かっているので、説明は不要かと質問すると、ローゼ本人では無く、セルフィが教えてと言葉を飛ばしてきた。どうやら彼女も【ティアスター】のジョブが気になっていたようだ。

 ミツは笑みを作り、セルフィの希望通りにユイシスからスキルの説明を聞いていく。

 

 〈サンシャインシューター〉

 放つ矢が光の力を受け、分裂して雨の如く降り注ぐ。


 〈スリーシュート〉

 弓から矢が離れた瞬間、矢は三本に数を増やし真っ直ぐに飛んでいく。


 〈ポットチェンジ〉

 自身の属性の衣装を取り出すことができる。着替えた後に踊りスキルを使用すると効果が増し、取得経験も増加する。


 〈ラブステップ〉

 対象の嫌気を減らす事ができる。

 使用を続けると感情は愛情と変わっていく。


 〈ビューティフルダンス〉

 疲労、睡魔、脱力感、などのバッドステータスを回復する。

 ※見た者は細胞が活性し、若さ(美しさ)を取り戻す。


 〈ドラゴンダンス〉

 魔力を使い、竜を出すことができる。

 出てくる大きさは使用者の魔力量によって変わる。


 〈ショータイム〉

 注目を自身に向けさせ、敵意を減らす効果を出す。


 〈カレイドスター〉

 自身を成長させ、身体能力を上げる。 

 魔力、素早さ、運のステータスを大きく増加させる。


 説明が終わると目をキラキラさせる女性達。

 ミツは何故そこまで食い入るように見ているのかが理解できなかった。

 確かに弓を扱うローゼにとっては攻撃スキルもあり、更にはステータスを上げるスキルもある。

 しかし、特殊上位ジョブと言う割にはミーシャの【マジックダンサー】やミツの経験した事のある【忍者】の様に攻撃特化型ではなさそうだ。

 スキルの説明を聞き終わったローゼがスキルを選択していく。

 すると、最後に選択した〈カレイドスター〉のスキルを選択した瞬間、ローゼに目に見えた異変が起きる。


「えっ!? うっ!?」


「「「!!!」」」


 突然ローゼが呻き苦しみだしたと思いきや、彼女は体を丸め、蹲る様に前かがみに前に倒れてしまう。


「ローゼ!?」


「ローゼさん!」


「あっ……ああっ! あああ!」


 突然意味もわからず倒れた彼女に周囲は駆け寄る。

 ミツは急ぎユイシスへと、ローゼが苦しみだした理由を求める。

 ユイシスの返した答えは、ローゼが〈カレイドスター〉のスキルを取得した事による身体の急成長が原因であることを伝えられた。

 ならば如何したらいいかと質問すれば、ユイシスはとんでもない言葉を返してきた。


《対象者、ローゼを苦しみから開放するなら、彼女の服を排除して下さい》


(分かった! ……えっ!?)


 ローゼの今着ている服を脱がせば、彼女は締め付ける衣類の痛みからは確かに開放されるだろう。

 しかし、そんな事をミツがすれば、次こそ本当に女性陣からの制裁を食らい、分身の経験した痛みを今度は本人が味わうことになってしまう。

 

「くっ……苦しい……」


 しかし、その間もローゼは締め付ける衣類に苦痛の表情を浮かべ、顔には脂汗を流し始めている。

 ミツは躊躇ってはいけないと、ローゼの苦しむ理由を皆へと伝える。


「ローゼ! どうしたの!? 何処が苦しいの? ミツ君、ローゼに回復をお願い!」


「ミーシャさん、落ち着いてください。ローゼさんは怪我をした訳ではないので回復は必要ありません」


「なら、如何して!?」


 友人であり相棒的な存在のローゼの苦しみに慌てるミーシャ。彼女へと落ち着くようにミツは優しく声をかけた後に動き出す。

 彼は誰もいない方へと土壁を突然出し、以前洞窟内でリッコ達が使用した即席のシャワールーム部屋を作り出す。


「「「!?」」」


「ミツ、どうしたニャ!?」


 突然土壁を次々と出し始めた事にプルンが慌てて側にやってくる。


「プルン、ローゼさんを急いで中へ。そしたら直ぐに彼女の服を脱がせて」


「ニャ!? ミツ、また……」


「いや、今はスケベ心はないから。早く、ローゼさんは新しいスキルを得たことに身体が急成長して苦しがってるんだよ。だから、早く中に連れて行って、彼女の服を脱がせて楽にさせて」


「ニャ! そう言う事ニャね! 分かったニャ! ミーシャ、ローゼをこの中に連れて行くニャ!」


 プルンとの話し声が聞こえていたのか、ミーシャとリッコはローゼの両手を肩にまわし、中へと連れて行く。

 ここにはスケベな奴が居るからウチがこの場所は守るニャと、プルンは入り口に立ち、意気込みをあらわにしていた。

 プルンさんは一体誰のことを言っているのか、清純無垢なミツさんは検討もつきませんね、はい。


 時間もおかず、個室の中で呻いていたローゼの声が止まる。

 ミーシャとリッコが彼女の衣類を脱がせたことに締め付ける痛みから開放されたのだろう。

 

 すると、リッコが中から出てきてミツへと声をかける。


「ねえ、ミツ。ローゼさんは今の軽装備の服がもう着れないみたいなのよ。でも、彼女の服の予備、全部が身体のサイズに合わないらしくて。悪いけど、あんたのゲートを使って、街まで服を買ってきてもらえないかしら?」


「服を? んー。別にそれは良いけど、先にローゼさんには試してもらいたい事があるんだけど」


「?」


「ローゼさん、聞こえますか?」


「ええ。聞こえてるわよ」


「お身体はもう大丈夫なんですよね?」


「うん。心配かけたわね。大丈夫……まあ……着れる服が無いから大丈夫とは言えないわね。ははっ……」


 ミツが声をかけるとローゼは普通に返事を返してくれた。

 確かに今のローゼの姿は想像できないが、取り敢えず今の状態では皆の前に姿を出すこともできないのだろう。

 彼女の笑いは羞恥に乾いた笑いを溢していた。


「あの、先程ローゼさんが選択したスキルに〈ポットチェンジ〉ってのがありましたよね。それを試しに使ってみて頂いてもよろしいですか?」


 リッコの言われた通り、ミツが街まで急ぎ女性服を買いに行っても良いのだが、その前にミツはローゼが取得したスキル〈ポットチェンジ〉を使用させることにした。

 説明には衣類を出すと書いているので、もしかしたら代用品として使えるかも知れないと思ったのだ。

 ゲーマーとしての知恵なのか、それともアニメオタクとしての知恵なのか。

 テレビアニメで魔女少女が衣類を出すシーン等を見たことあるので、それではないのかと検証も兼ねていた。


「あー。分かったわ……。んっ? ミーシャ、如何したのよ。そんな顔して」


「えっ……いや。ローゼ、あなた本当に大丈夫なの?」


「大丈夫、大丈夫。本当にもう痛みも無いから」


「そ、そう……。ふふっ。あなた、後でミツ君に鏡を借りて自身の顔を見てみなさい。自分でもビックリするわよ」


「?」


 ミーシャの言葉の意味も分からないと、ローゼは疑問符を浮かべるのだった。

 ローゼはさっそくとスキル〈ポットチェンジ〉を発動。

 ミツ達がいる個室の外からでも、上からもポワッと緑色の光が見える。


 そして、暫くしてローゼが個室の中から出てくる。

 

「「「!?」」」


「ど、どうかな……」


 ローゼは頬を赤くしつつ、〈ポットチェンジ〉で出てきた踊り子のドレス服を着ていた。

 布面積は多くもなく、少なくもない。

 飾りは小さな装飾、生地の色ま緑と青の混合色で、彼女のオレンジ色の髪の毛が服と似合い、ミツの中では夏の海をイメージさせる。

 代用品の防具としても問題なく使えるようなドレス服を身にまとい、皆の前に出てくる。

 それよりも〈カレイドスター〉のスキル効果は、ローゼの身体の成長を著しく伸ばしていた。

 耳が見えていた髪の毛が肩まで伸び、美しく艶を出している。

 一重の瞳は筋肉が発達したのか二重に。

 子供体型に近い身体のラインがシッカリとし、大学生と思わせる大人びた身体に成長を見せ、胸も明らかに膨らみをみせている。


 そんなローゼの姿に皆は三者三様と、彼女へと感想を述べていく。


「あらあら。面白いスキルね」


「ホッホッホッ。これはこれは。この様な場所に美しく可憐なお嬢様を拝見できるとは」


「ニャ〜! 凄いニャ! ローゼ、凄く綺麗だニャ!」


「ホント、一瞬別人かと思ったわ……」


「凄いですね。外見がここまで変わったと言うことは、戦闘にどれだけ影響を出すのかわかりませんね。ねえ、リック」


「……」


「リック?」


「あ、ああ……綺麗だな……」


「!?」


「えっ。あ、いや! 違っ! 俺は……」


 誰もそんな事を聞いてはいないと思ったが、リックは自身のもらした言葉に頬を染める。

 その言葉が聞こえていたのか、ローゼも頬を染め、プルンとリッコはニヤリと二人へと笑みを見せている。

 こらこら、女の子がそんな顔しちゃいけません。

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