第152話 楽しいジョブ変更/教会の来客

 ローゼとミーシャ、二人も上位のジョブに変わることができた。

 今は二人のジョブが如何使えるのかを少し検証の為にと、大人達が側に付いてスキルの検証をしている。

 リックは先程ローゼに対して恥ずかしい台詞を思わず口走り、弟のリッケが止めるも、妹のリッコとプルンに茶化されているようだ。


 その光景を眺めつつ、ミツは壁に背を預け、身体を休める。


「こっちもジョブを変えておこうか」


 ミツもミーシャとローゼ同様に、9階層に下りるときには、ジョブレベルがMAX1歩手前まで来ていた。

 残念ながら上位ジョブの【魔法剣士】【マジックハンター】この二つはまだレベルMAXまでは足りない。

 しかし【イリュージョニスト】【タクティクスシャン】【クルセイダー】はジョブレベルはMAXとなっている。


「ああ……」


「んっ? 何を見てるの?」


 側にいる分身へとミツは声をかけるが、彼の帰ってくる返事は空返事にも聞こえてくる。


「あっ? なにって……あの汗ばんだミーシャ達の身体をな」


「あっ……。そう……。またプルンとリッコに殴られても知らないよ」


「ひっ!」


 ミツのシラけた発言に分身は先程の痛みを思い出したのか、咄嗟に頭を守る様に腕を上げている。

 〈痛覚軽減〉のスキルが発動してあの痛みを味わったのだ。

 下手したら、他のスキルが発動していなければ、今頃分身の頭はザクロの様に破裂してたんじゃないだろうか。

 ってか、下手に今後もミツが鼻の下を伸ばすような事をしたら、本当にいつか死んでしまうのではないだろうか……恐ろしや恐ろしや。


《ミツ、選択するジョブを選んでください》


(うん、解った。新しく出たジョブが楽しみだよ)


 もう分身は放っとく事にする。

 それよりも、今はジョブの方がミツは気になるようだ。


前衛職


【ランサー】【ガード】

【ウォーリアー】【狂戦士】

【武道家】【グラップラー】


New【アベンジャー】

New【ストーカー】

New【キャヴァリアー】


上位


【パラディン】【ドラグーン】

【セイントナイト】

【マジックファイター】

【侍】


New【ルーンナイト】

New【アドベンチャラー】

New【シャーパー】


後衛職


【ハンター】【ボウマン】

【シューター】【アルケミスト】【サマナー】

【アストロジャー】【アポストル】

【ハイウィザード】


New【セージ】

New【ソーサラー】


上位


【ダークメイジ】


New【ウァテス】


盗賊職


【ローグ】【アサシン】

【カットパース】


支援職


【プリースト】


New【パスター】


上位


【セイント】【ダークプリースト】


New【ハイエロファント】


その他


【アオイドス】【テイマー】

【ミミック】【ゴットハンドシェフ】

【アクロバット】【オラウ】

【ポエット】


New【バトラー】

New【ハウスキーパー】

New【カーペンター】

New【ジャグラー】

New【三助】


 自身にだけ見えるウィンドウ画面を見ながら、ミツは新しいジョブが16も出ている事に驚く。

 大会参加の時から、今までの様々な経験とステータスがこのジョブを表示させたのだろう。


(凄いな〜。もう全部取るにはジョブ枠が足りないんじゃないかな……。あっ、そうだ。シャロット様にまたジョブ枠増やしてもらえないか頼んでみようかな)


 通常人族問わず、他種族もだが、ジョブ枠と言うものは一つしかない。

 しかし、ミツのスキル集めのコレクターとしての趣味を理解してなのか、それともただの気まぐれなのか。

 創造神であるシャロットの力により、ミツはそのジョブ枠を増やしてもらい、一度に五つのジョブを経験することができるようになっている。

 この効果はミツの成長を急成長させ、本人も薄々と気づいているが既に人としての力を超えている。 

 ミツの思いつきの提案を心の中で発言すると、シャロットの否定の声が響く。


〘駄目だぞ〙


(シャロット様!? あー。駄目ですか……?)


〘これ以上ジョブの枠を増やすと、あんたの脳と身体が持たないからね。もし増やしたりしたら……〙


(増やしたら……)


〘そうね。体内のなかの血が沸騰するほどに熱を出して、身体の筋肉がブチブチと切れる程に膨張したあと、皮膚は爛れ、髪は全て抜け、視力をうしない、声を出すことも、動くことも難しくなるわね〙


(……このままで頑張ります)


 何とも例え話が悲惨な結果しか生み出さないことに、ミツは両腕を掴み、ガタガタと身震いさせる。


〘ふふっ、そうしときなさい。それよりあんた、今のジョブを変え終わったら一度私の所に顔を見せに来なさい〙


(えっ? 何でですか?)


〘あら。折角スキル取得200を超えたからご褒美でもって思ったけど、いらないのね?〙


(!?)


 これも創造神であるシャロットの気まぐれなのだが、ミツがスキルを50づつ集めた場合はシャロット直々と何かしらの贈り物(ご褒美)を貰える。

 神の気まぐれであっても、ミツはこのご褒美にて森羅の鏡やスキル〈トリップゲート〉等の、人が手に入れられない品々を受け取っているのだから、彼が拒む理由はない。


(行きます! 絶対にそちらに行かせていただきます! あっ、因みに今日の茶菓子って何ですか?)


 掌を返す様な返事に加え、茶菓子を求めるミツにシャロットは呆れつつも苦笑を浮かべていた。


〘はいはい〙


《今日はバルバラ様がバームクーヘンをお作りになられましたので、それを出しますよ》


(えっ!? バルバラ様が作ったの!? ってかバームクーヘンって……)


 シャロットの代わりとユイシスが答をくれる。

 バームクーヘンの作り方はテレビなどで見たことがあるし、今のミツは【料理人】のジョブを経験したことがあるので作り方も分かる。

 棒に小麦粉を融かした材料を付け、火やオーブンの熱に少しづつ焼いて、またその表面に塗っていく工程を繰り返すだけと言う、キャンプなどで子供でも作れる簡単お菓子だ。

 

〘ああ。あやつの大雑把な性格をまず直さねば創造神として使えないからね。細かい作業に料理は丁度いいのよ〙


 元破壊神、現創造神見習いであるバルバラは、シャロットの指導の下で料理をやっているようだ。

 

(はぁ……料理ですか……)


 神の教えがどの様な指導方法なのかが良くわからないミツだった。


 気持ちを切り替え、次に選ぶジョブを選択する。

 何がいいかと思いつつ、またネタ的なジョブを試してみようかとミツは思っていた。 


(ユイシス、新しく出たジョブの説明をお願いして良いかな?)


《分かりました。では前衛からご説明いたします……》


 ユイシスの説明を受けつつ、ミツは次のジョブを選んでいく。


前衛ジョブ


【アベンジャー】

 単体数相手、攻撃特化型ジョブ。

【ストーカー】

 隠密や密偵等の気配を消す事が得意とするジョブ。

【キャヴァリアー】

 騎馬を使用して戦う事を得意とするナイト型ジョブ。


上位

【ルーンナイト】

 魔法と剣を得意とし、多彩なスキルを持つジョブ。

【アドベンチャラー】

 これはプルンも経験している冒険家のジョブである。

【シャーパー】

 詐欺、ペテン行為、フェイントを得意とするジョブ。

 

(アベンジャーとストーカーは使えそうだけど。ん〜……。このキャヴァリアーって奴になったとしても、馬が居ないしな……)


後衛職


【セージ】

賢者、賢人、哲人。神秘的なまでに知識、知恵に優れ、英雄、騎士らに助言を行うジョブ。

【ソーサラー】

悪霊の力を源に魔法を使うジョブ。


上位

【ウァテス】

先を見据え、予知夢、予言ができる。

戦闘スキルも所持したジョブ。


(魔術関係のジョブも面白そうだよね。このウァテスの上位ジョブは特にね)



支援職


【パスター】

牧師であり、他者の心を癒やすスキルを持つジョブ。


上位


【ハイエロファント】

神々の教えを聞き入れ、それを伝える架け橋となる者。



(パスターは恐らく教会に住んでるから出てきたと思うんだよね……。でも、ハイエロファントは……既にシャロット様達の声が聞こえてるしな……)


その他


【バトラー】

執事、使用人、家事を得意とするジョブ。

【ハウスキーパー】

清掃を得意とするジョブ。

【カーペンター】

物を作る大工のジョブ。

【ジャグラー】

賭け事を得意とするジョブ。

【三助】

ミツの様に鼻の下を伸ばし、浴槽にて異性の背部を洗う事を得意とするジョブ。


(はい、この説明文は絶対シャロット様の悪ふざけが入ってるよね! 何ですか鼻の下を伸ばすって! 伸ばしてませんからね!? ってか、この説明だと既に自分が三助のジョブを経験してるみたいじゃないですか!)


 ユイシスの説明に、怒りにふるふると身体を震わせつつ、内心でシャロットへ叫び続けているミツだった。


(まったくもう! じゃーユイシス、選ぶよ!)


《はい、どうぞ》


 心の中でプリプリと器用に怒るミツの言葉を、彼女の姿は見えないが、ユイシスは笑みを作り返事を返しているのだろう。


(ん〜。やっぱりレベルが上がるのが遅いから、上位のジョブは魔法剣士とマジックハンター、これが終わってからにしよう。よし! ユイシス、決めたよ)


《どうぞ》


(ファーストジョブを牧師の【パスター】偽装職を召喚士の【サマナー】サードジョブを掃除人の【ハウスキーパー】で宜しく!) 


《選択により、ファーストジョブ【パスター】セカンドジョブ、偽装職に【サマナー】サードジョブ【ハウスキーパー】が登録されます。

 ファーストジョブ【パスター】がジョブに登録されました。ボーナスとして以下のスキルから三つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》


※祈りの言葉

※ホーリーサイン

※エジュケイション


(と言っても表示されてるのが三つだね。ユイシス、これ三つお願い)


 パスターのジョブに変更するも、表示されたのは三つ。ユイシスに後で聞いてみたが、非表示になっているのは〈ヒール〉〈シャイン〉の二つだったそうな。


《はい。選択により〈祈りの言葉〉〈ホーリーサイン〉〈エジュケイション〉を取得しました》


          

祈りの言葉

・種別:パッシブ

自身に詭弁を述べることに、相手の罪悪感を湧きたてさせる。


ホーリーサイン

・種別:パッシブ

他者の話を聞き入れ、懺悔を聞く。

対話したものに安らぎと安心をもたらす。


エジュケイション

・種別:パッシブ

物事を教える事が得意になる。


(ん〜。戦闘スキルは全く無いけど、会話中に使えそうなスキルを得れたかな。よし、次だね)


《セカンドジョブ、偽造職に【サマナー】がジョブに登録されました。ボーナスとして以下のスキルから五つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》


※幻獣召喚

※精霊召喚

※主の呼び声


 ウィンドウ画面に表示されたスキルはまた三つ。

 ミツは眉を上げ、余った二つのスキルの希望を考える。

 少し考え、ミツの選んだスキルは、魔法剣士で選べなかった〈デコイ〉とアストロジャーの〈モンスター予知〉の二つ。


《選択により〈幻獣召喚〉〈精霊召喚〉〈主の呼び声〉〈デコイ〉〈モンスター予知〉を取得しました。条件スキル〈オートマジックバリア〉を取得しました》



幻獣召喚

・種別:アクティブ

魔力にて幻獣を召喚できる。


精霊召喚

・種別:アクティブ

魔力にて精霊を召喚できる。


主の呼び声

・種別:アクティブ

自身の手にて命を奪った者に限り、影の魂を召喚できる。召喚できた者は幻獣として扱われる。


デコイ

・種別:アクティブ

敵の注目を自身に集める。


モンスター予知

・種別:パッシブ

モンスターが出てくる場所を位置を予知できる。


オートマジックバリア

・種別:パッシブ

自身に危機として迫る魔法攻撃に対して、魔法障壁が発動する。



(おっ! 条件スキルゲット。これは何で取得できたんだろう。それより、さっきミーシャさんがモンスターの不意打ちを受けちゃったから、この〈モンスター予知〉スキルがあれば同じ事は起きないとは思うけど。それと、召喚魔法。ファンタジーなこの世界でどんな幻獣や精霊が出てくるんだろう。ゲームだとクリスタルや魔ガンの弾を使用して召喚してたもんな〜。これは是非とも早めに使いたいスキルだね)


《ミツ。〈オートマジックバリア〉の取得条件は【魔法剣士】のジョブを全て取得する事です。また、幻獣召喚と精霊召喚。共にミツのMPを使用して発動すると共に、魔力量によって召喚した物の強さが変わります。ですので、魔力量を増やすことをオススメとします。それでは最後にサードジョブを【ハウスキーパー】にジョブを登録いたします。ボーナスとして以下のスキルから四つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》


※メイキング

※リフレッシュ

※ウォッシュ

※言葉遣い

※異物感知


(ダニエル様の屋敷で働いてるメイドさん達も、皆もこのスキルが使えるのかな? いや……たしか生活魔法が使える人は居ないってパープルさんが前言ってたし……。これはユイシスから説明受けなくてもスキル名で分かるから良いいや)


《ミツ、どちらを選択いたしますか?》


(えーっとね。この〈言葉遣い〉って奴を除いた四つをお願いしていいかな)


《選択により〈メイキング〉〈リフレッシュ〉〈ウォッシュ〉〈異物感知〉を取得しました》


メイキング

・種別:パッシブ

細かな作業を得意とする。


リフレッシュ

・種別:アクティブ

身体の疲れを癒やす。


ウォッシュ

・種別:アクティブ

水球を出し、触れた物を綺麗にする。

汚れが無くなると水も無くなる。


異物感知

・種別:パッシブ

毒物などの害あるものを感じ取る事ができる。


「うん。中々面白そうなスキルが取れたかな」


「終わったのか?」


 ミツが口を開けば、側にいた分身が声をかけてくる。


「うん。でさ、シャロット様が呼んでるから少し会ってくるね」


「ああ。分かった。こっちは任せておけ」


 分身はゼクスとバーバリから指導を受けるミーシャとローゼを見ていた。

 しかし、その視線の先は二人の女性しか見ていないようにしか見えないミツ。


「……自分が寝てる間に、また皆に変な事しないでね」


「……ああ。もう懲りた」


 自身の頭を触りつつ、視線を変える分身の先には、未だにリックを茶化すリッコとプルンがいた。


 

∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 ミツ達が試しの洞窟に行っている間に、プルンの教会に一人の客人が足を向けていた。


「よう、エベラ」


「あら、ガンガ。久し振りじゃない。あなた、お店を閉めてどこに行ってたの?」


「おう。ちょっと近くの村の開拓を手伝いに出てたんだよ。さっき帰って来てな。序に寄って、じゃじゃ猫の五月蝿い声を聞かねえとなと思ってな」


 鍛冶屋のガンガはスタネット村の開拓の手伝いに手を貸していた。

 彼ができる事は限られているが、それでも猫の手も借りたい程の忙しさだったのだろう。

 ガンガは家の台所などの火を扱う周り作りが終わり、役目は終わったとライアングルの街へと帰ってきていた。


「あらあら。ふふっ。ガンガったら、そんなこと言って。普通にプルンを心配してるなら素直になれば良いのに。でも残念、プルンなら今日もミツさんとお仲間のお友達と洞窟に行ったわよ」


「ほう。小僧とまた洞窟に行ったのか。しかし、あの小僧が来てほんの数日って言うのに、プルンも随分と変わったじゃねえか」


「ええ。ミツさんが家の教会に来てからは、あの子の笑顔も増えたし、何より他の子達にも食べ物で苦しい思いをさせずに済んで本当に良かったわ……。はい、お酒は出せないけどお茶で我慢してね」


 エベラは中庭で遊んでいる三人の子供達を見つつ、笑みをこぼす。


「そうか……。おう、頂くぜ」


 ガンガがズズッと口に含むお茶はしっかりと味もあり、香ばしい匂いをたたせたお茶であった。

 ミツがアイテムボックスから出したお茶をエベラが気に入り、彼がならどうぞと壺にたっぷり補充して渡したほうじ茶である。

 ガンガはお茶は苦手だが、彼もこれを気に入ったのか、おかわりを求める程に彼もほうじ茶を気に入ったようだ。

 そこに赤ん坊を抱っこし、シスター服を着たサリーが部屋に入ってくる。


「あら、ガンガおじさん。来てたのね?」


「サリー、久しぶりだな。カッカもデカくなったじゃねえか」


「もう、まだそんな言う程に子供は大きくならないわよ」


「そうか、ガハハハ」


 ガンガもサリーを幼い頃から顔は知っている。サリーが子を産み、教会に帰ってきたと聞いて、内心ガンガはカッカを孫のように喜んでいた。


「あ、エベラ。他の教会のシスターが来てるよ」


「あら、もう約束の時間なのね」


「んっ? 客人の約束があったのか。なら邪魔をしたか? じゃ、俺はここで失礼するぞ」


 ガンガが席から立ち上がり、帰ろうとするが、エベラはガンガの飲み終わったコップにほうじ茶をまた入れる。


「あら、別に邪魔だなんて思わないわよ。ゆっくりしていって頂戴。サリー、少しガンガの相手をお願いね」


「んっ……そうか」


 前掛けを外し、シスターフードをかぶりエベラが部屋から出ていく。


「ニュフフ。エベラがそう言うんだから、ゆっくりしていってね、ガンガおじさん」


「フンッ。プルンといい、サリー、お前さん達は姉妹揃って五月蝿いもんじゃ。ところで、他の教会のシスターが何しにここに?」


「うん。プルンの友達がこの教会にお金を沢山寄付をしてくれてね。そのお金をエベラが他の教会に分けようって話と、もう一つプルン本人が大きな仕事を成功させたみたいで、報酬が来たそうなのよ。それで領主様にお願いして、教会を一つにまとめようって話なの」 


「ほ〜。随分とプルンも稼ぎ頭になったじゃねえか。それに若いうちに寄付なんて気の利いた事をする友達ね。小僧とは違う奴なのか?」


「小僧? ああ、ミツ君の事ね。いえ、彼とは別。確か、南地区に住むベルガーさんのお子さんだったかしら」


「何? ベルガーボウイの子供がか」


「ええ。ってかベルガーボウイって」


「フンッ。あいつの武器を何度俺が作り直したことか。剣の腕は認めるが、あいつは武器を雑に扱うから何度もぶつかったもんじゃ」


「へ〜。以外な繋がりね。あっ、ごめんガンガおじさん。お客さんに言うのも悪いんだけど、子供たちのご飯作るから、井戸の水を汲んできてもらえないかしら」


「なんじゃ、そんな事をいちいち気にすることもなかろうに。水ぐらい任せろ」


「悪いわね」


 ガンガは両手に水桶を手に取り、中庭へと移動する。

 ガンガの姿を見た子供たちの三人がガンガへと近づく。


「ガンガおじちゃん!」


「じっちゃんだ!」


「ジージ、遊んでー」


「ガッハハハ! 小僧どもよ、元気しとったか!? ミミ、すまんが、今は遊んどる暇ではないのだ。サリーから井戸の水を汲んで来いと言われておるからな」


「ぶー!」


「膨れるな膨れるな、ガッハハハ! はっ……? 何じゃこの小屋は? おい、ヤン。井戸は何処に行った?」


 ガンガは窓からは見えなかった小屋を目の前にして軽く目を見開く。

 その場所は以前井戸とは言えない水を貯めた穴があり、建物がその穴を埋めた場所に建てられていることにヤンへと質問する。


「えっ? 井戸はこの小屋の中だよ。子供だけじゃ入っちゃ駄目って、エベラママから言われてるから俺達は入れないけど」


「何? 小屋の中に井戸じゃと……。どれ……」


 ヤンの言葉にガンガは穴の中に落ち葉などが入らないように外側だけの小屋だと思いつつ、横棒で閉められた扉を開ける。

 だが、扉を開けた瞬間、ガンガは目を見開き小屋の中を見渡すことになった。

 地面は真っ平らに平地され、小屋の中央には見た事もない井戸が一つ設置されていた。


「な、何じゃこの小屋は……。それにこの井戸は……」


 ガンガが扉を開けた瞬間、子供達が中へと入っていく。


「凄えだろ。これ、兄ちゃんが作ったんだぜ」


「ピカッて光って、ピカッって作ったね!」


「ピカピカッ!」


「フムッ……」


 子供たちの話の内容が分らないが、もっと分らないのは目の前の井戸とこの小屋の作りである。

 見たことのない小屋に、木材の組み合わせ方。井戸の表面と内側に敷き詰めた石の使い方。さらに井戸のそこまで見える程の水の美しさにおどろきつつ、ガンガはヤンの説明を受け井戸から水を汲み終る。

 部屋に戻ったガンガは水を水瓶に入れていると、サリーが薪を持って戻ってきた。


「おじさんありがとう、助かったわ。どうしたの?」


「いや……。なあ、サリー。あの井戸を囲った小屋は小僧が造ったと言うのをヤンから聞いたが、それは本当か?」


「私は見てないけど、プルンはミツ君が造ったって言ってたわね。なに、それで難しい顔をしてたの?」


「ああ、少し……気になってな」


 この国やこの街で見た事もない建造物をする者は、基本他国でその知識を得てこの国に来た者である。

 ミツが冒険者であり旅人と言う話はエベラから聞いていたガンガであるが、10代そこそこの人族の子供が小屋と井戸を作り上げたと聞いて、ガンガは驚きを隠せていなかった。

 詳しい話を聞きたいなら本人に聞いてみればと、サリーの言葉にガンガはそうだなと一言だけ喋り、後はエベラが戻ってくるのを待っていたそうだ。


 先程サリーが話した内容に、教会の合併の話を戻ってきたエベラからガンガは聞くことになる。

 先ず、このライアングルの街には三つの教会がある。

 一つはプルン達が住んでいるこの東地区の教会。残り二つの一つはこの教会よりも小さい西地区にある教会である。

 そして最後の一つは建物の劣化が進み、祈る場所以外はボロボロ状態。

 この二つは同じ教会仲間であり、まだ貧困としていたプルン達へと、幾度も食料を分け与えてくれたシスター達が居る場所である。

 その西地区の一つの教会が災難に巻き込まれてしまう。

 隣接していた隣の家が火事となり、教会の半分を焼いてしまう事があったようだ。

 幸いにも死者は出なかったが、立て直すにも金がかかり、先の見通しのできない状態になってしまったそうな。

 劣化の進む教会にはシスターは通いとしており、そこには住んではいない。

 だが、そこも雨の日には祈る場所にも雨が滴り落ち、正直廃墟と言われてもおかしくない場所とかしていた。

 エベラは今までの恩返しと、火事にあったシスターと劣化の進む教会のシスターをこの教会に招き入れることにしたようだ。

 この世界に神々は数柱も居る考えは無いのかと思うが、エベラの信仰する神も他のシスターが祈りを捧げる神も、結局神である事は一緒と言う事でそう言う反発は無いようだ。

 プルンもその事は前もって聞かされているので、エベラに渡している金の使いみちに対して彼女は理解を示している。

 領主様の許可がおりた後は、火事にあってしまった教会の取り壊しとシスターの移転のみである。

 理由が理由なだけにこれは直ぐに受理されるだろうが、教会の取り壊しを終わらせない限りは二ヶ所のシスターはエベラ達の住む教会には引っ越しはできない。

 それは教会は個人の私物ではなく、街の物であり、領主の所有物と考えられているのだ。

 なので火事にあった教会も、ボロボロの教会も、領主様からそこのシスターが管理を任されているので、取り壊しの最後まで見届けなければならない。

 話を聞いたガンガは、なら手を貸すと、両方の教会の取り壊しを引き受ける。

 物を作るよりかは、壊すだけなら直ぐに終わるとガンガは笑いながら答えていた。

 事実、重機も無いこの世界では建物一つ取り壊すにも人材はいるし、時間もかかる。

 エベラはありがとうとガンガの手を取り感謝を述べると、彼は俯き声もかぼそく返事を返していた。

 そんなガンガの姿を見るサリーの顔は、今洞窟内でリックを茶化すプルンとそっくりな顔をしていた。

 いやはや、血の繋がりはなくとも二人は姉妹だと言うことが良く分かる。

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