第150話 下心の独り旅
「もう、本当に最悪よ……」
「よしよし、運が悪かったニャね。狼に噛まれたと思って諦めるニャ」
未だ顔を真っ赤にしつつ、恨めしく先頭を歩くミツへと視線を送るリッコをプルンが宥める。
「おい……。狼に噛まれて諦めがつくか……」
「リック、そこは黙ってましょう。今下手に口を挟むと、またリッコが暴走しますよ」
「リッコさんも災難だったわね……。にしても彼、本当にミツ君にソックリ……。ミーシャ、如何したの?」
「ウフフ。真面目なミツ君もいいけど、ちょっとおませな彼も良いかなって」
「……あっ、そう。ミーシャ、痛い思いしたくなきゃ、そろそろ色ボケた考えは払った方がいいわよ。ここはもう9階層なんだからね。」
「分かってる。でも……。ここは随分と空気が重いわね……。何だか口元に手を抑えられて呼吸してる気分だわ〜」
分身のリッコへの過剰な接触と、ミツのボディースキンシップにて羞恥に暴れ始めたリッコ。彼女は周りの停止の言葉に押しとどまり、何とか下の階層へと足を勧めていた。
今はミツが側にいるとリッコが落ち着けないと言うこともあり、ミツが先頭を歩き、分身は皆の後方を歩き進んでいる。
ミツの分身とは言え、まるで別人の様な彼に一人後方を守らせるのは不安と、バーバリが分身と共に歩を勧めていた。
「……」
「おっさん、折角隣を歩くんだしよ、何か話題とかないわけ?」
「お、おっさん!? 小僧、我はまだ45だぞ! おっさんという歳ではない! 無礼な発言は貴様の命を削るとしれ!」
「はいはい、45がおっさんじゃないと言うなら、若いおっさんだな」
「き、貴様!?」
しかし、後方から聞こえてくるのはケンケンとした二人の話し声。
それが聞こえているというのに、セルフィとゼクスは気にせずと前を歩き続けている。
談笑はそこまでと、先頭を歩くミツが声を出す。
「モンスターが来たよ!」
「「「!?」」」
声に反応し、警戒を高める仲間たち。
その後、洞窟の先からケラケラと、子供の声にも聞こえる不気味な笑い声が足音と共に近づいてくる。
ケケケッ。ケラケラケラ。
足音がペタペタと足ヒレを地面につけたような音が無数。
その後、薄暗い洞窟の奥から姿を見せたのは、紫の肌、触覚のような物を頭から出し、赤い瞳をぎょろぎょろと動かすインプが姿を見せる。
先頭を向かってくる二匹のインプへと、ミツは鑑定を行う。
インプ
Lv25 悪魔族
毒爪 Lv5
コールドブレス Lv3
重圧の叫び Lv2
インプ
Lv27 悪魔族
毒爪 Lv4
悪食 Lv2
アシッドブレス Lv4
牛歩の進み Lv4
モンスターであるインプがミツ達を目視した瞬間、更にケラケラとした声を出し、ニタリと口の頬を不気味に釣り上げる。
「構え!」
「「「「「!?」」」」」
その時、突然リッケの声が響く。
彼のスキル〈勇気の剣〉スキルが発動。
その声と同時に、皆はインプへと一斉に武器を構える。
勇気の剣のスキルが発動した事に、仲間たちの戦闘能力が向上した。
「おう、やる気だなリッケ!」
「大声を出すなんてあんたらしくないけど。その意気込み、嫌いじゃないわよ!」
「こ、声が勝手に出ちゃいまして! す、すみません!」
「いいニャ、いいニャ。あいつらにウチ達の力を思い知らせるニャ!」
「先手必勝! 後方からの援護は任せなさい!」
「踊りながら魔法を使うにはまだ慣れないわね〜。取り敢えず動きを止めたモンスターから狙っちゃうわよ〜」
インプへと戦闘を仕掛けようとする若者たちの前に、スッとゼクスが立つ。
彼もリッケのスキル効果が発動しているのだろう。ゼクスから闘技が見える様な雰囲気を感じ取れる。
「皆さん、戦闘を仕掛ける前にもう一度注意と私の言葉をお聞きください。インプとの戦闘時、相手の爪には十分に注意する事。そして、連携を崩してはいけません。倒せると思える時こそ、単独で進むことはせず、連携での戦いをして下さい」
「「「「「「はい!」」」」」」
「結構。それでは先ず私が斬り込みます。その後、ミツさんに続き攻撃を仕掛けるのです」
「了解です。皆、援護は頼んだよ」
「おうっ!」
「任せるニャ!」
ゼクスは先人を切り、その場から駆け出す。
続けてミツも走り出す。
ゼクスの走るスピードは、足の怪我が治ったことに今まで以上の速さをだす。
ミツもゼクスのスピードに合わせ、それに続き、スキルのマジックアームで作った土のナイフを作り手に握る。
ナイフの形は今プルンが持っているダマスカスナイフに似せて作り、両手に構える。
ギギッ!?
「ハッ!」
「セイッ!」
ミツの戦いは先にスキルを取れる状態から始まるので、まずは脅威となる毒爪をナイフにて切り落とす。
ゼクスのレイピアのひと突きはインプの喉元に突き刺さると、その衝撃に胴体と首を吹き飛ばす勢いを見せた。
我先に冒険者に牙を向けたインプの首と腕が飛んだ。
ゼクス本人も自身にかけられた支援に目をみはり、彼はすぐさま策戦を変えた。
「ミツさん、インプの数もまだ少ないうちに手分けいたしますぞ」
「わかりました! リック、リッケ、プルン! ゼクスさんと自分は左右から責めるから、正面から斬り込んで! 後ろの人たちは援護射撃を!」
「おう! 行くぞお前ら!」
リックの声に反応するように、仲間たちは動き出す。
リックはインフィニティストライクを発動しつつ、インプへと斬り込む。
まだ狙いが甘く、どこに飛んでいくか分からないスキルだとしても、接近して放つ事に確実に当てることはできると考えたのだろう。
リックの案は上手くいき、まだ五メートルは距離はあるインプの足元に着弾する。
ボカンっと地面の土埃を出す程度の威力だが、インプ達の動きを止めるには十分だった。
槍先を突き出し、ドスッと鈍い音にインプへ攻撃を当てていく。
「おしっ! 1匹!」
ギャギャギー!
「何っ!?」
リックの槍を腹部に受け、倒したと思ったインプが奇声を上げながら暴れだしたことにたじろぐリック。
リックの槍はショートランスなだけに、突き刺したインプとリックの手の距離が近い。
インプはもがき、毒爪を使いリックの腕を引き裂こうとした。
「クソっ!」
その時、ドスッと鈍い音にインプのひたいに矢が突き刺さる。
「リック、油断しないで! 相手は子鬼じゃないのよ! ジョブを変えたからって自身の力に溺れないで!」
「くっ! ああ、分かってる! 助かった」
ボウガンを構えたままリックへと強く声をかけるローゼ。
リックは彼女の言葉に、ジョブを変えて慢心とした気持ちがあった事を早々に窘められる。
次は油断するかと、リックはいつもの戦闘に戻し、盾を前に突き出す。
ローゼはリックの後ろにつき、後方から次々とボウガンの矢を放つ。
「リッケ、行くニャよ!」
「はい、お願いします!」
「ニャ!」
ギャギャ!
自身に迫ってくる二人の冒険者に対して、インプの口から白い息が漏れ出す。
インプのスキル、コールドブレスである。
吹き出した白い息は二人の冒険者を包み込む。
ギャギャッギャー!
自身の攻撃が当たったことに喜ぶような声を出すインプ。
しかし、それは当たったことを確認したあとにすべき行動である。
ザザッっと自身の背後に足音が聞こえた事に驚くインプ。
直ぐにその場から離れようとするが足が動かない。
いや、足どころか、振り向こうとした首も反撃の為に繰り出そうとした腕も動かない。
プルンのスキル〈ストッパー〉が発動していた。
インプの足元の影にはプルンのダマスカスナイフがいつの間にか突き刺さっている。
背後に回ったプルンはミツから受け取っていたナックルを装着し、インプの背中へと〈正拳突き〉を打ち込む。
ボキボキっと骨を砕く音とインプの苦痛の鳴き声が混ざり、他のインプへと恐怖心を植え付ける。
リッケはそんなたじろぎ動きを止めていたインプへと剣を握り直し、自身の新しいスキル〈オーラルブレード〉を発動。
このスキルは単体に対してではなく、広範囲的な攻撃スキルだったのか、数体のインプの腹部に斬撃の傷をつける。
自身の腹部に攻撃を受け、血を流した事に恐怖するインプだが、抗うように数体のインプの口から、近くにいたリッケへとアシッドブレスが降り注ぐ。
だが、リッケにインプのアシッドブレスが当たることはなかった。
リッケの前にキラキラと透明に輝く石壁が突如として現れ、リッケを守っていた。
「大丈夫か、リッケ!」
「は、はい!? これはリックが!?」
「ああ! 上手くいって良かったぜ!」
リッケを守った輝く石壁は、兄のリックの新しいスキル〈城壁〉であった。
インプはアシッドブレスがリックの城壁スキルで防がれたことに焦りをみせる。
だが、そのインプ姿も、洞窟内を夕陽のように真っ赤に染めたと思えば、インプは灼熱の業火の中へと飲み込まれ、その姿もろとも消し炭と変えてしまう。
リッコの〈爆豪火炎〉の威力に、城壁越しにいるリッケもビビるほどである。
戦闘が有利に動き、残り数匹のインプを残したところでトラブルが発生。
洞窟のモンスターは洞窟の魔力にて生み出される。
その為、ミツとプルンのスキル、〈感覚強化〉と〈センサー〉のスキルが発動した時には、一歩出遅れてしまった。
「ミーシャさん! 後ろ!?」
「えっ? キャー!?」
「「「!?」」」
「ミーシャさん!?」
「ミーシャ!」
物陰からインプがリスポーンし、後方にいたミーシャの背後へと〈毒爪〉の攻撃をしかけていた。
インプは更に追撃と倒れたミーシャへと襲いかかるが、それは叶わぬ結果になる。
ミツの分身が直ぐに駆け寄り、インプへと素手の攻撃。
スキルも何も使っていない、ただの殴りにて、インプの意識と命を刈りとってしまう。
分身は倒れたミーシャに駆け寄り、容態を直ぐに確認する。
「ミーシャ、大丈夫か!? よし、俺が回復する。まだ周りにインプが出てくるかもしれねえ。お前らは周りに注意を向けていろ!」
「「「!?」」」
ミツの姿の分身が声を出し、倒れたミーシャと彼へと駆け寄ろうとした仲間たちが驚き足を止める。
確かに、突然現れたのが1匹だけとは限らない。
セルフィとバーバリはお互いの顔を見た後、コクリと頷く。
「その少年君の言うことが正しいわ! 皆、治療が終わるまで警戒を怠らないで」
「後方は我に任せろ! お前達は戦いから目を背けることなく剣を振るうのだ!」
「「「はい!」」」
セルフィとバーバリの言葉に、まだ戦いは終わっていないと気を引き締める仲間達。
ローゼもミーシャが心配だが、回復もできない自身が近寄っても意味が無いことを理解し、分身へと声をかける。
「頼んだわよ、ミツ君に似た人」
「ああ。任せろ」
うつ伏せ状態に倒れたミーシャが起き上がろうと動き出す。
「ううっ……。痛たた……。私ったら、油断しちゃったわね〜。 !? 痛っ……」
ミーシャはお気楽な話し方をしているが、彼女のその表情は誰が見ても無理をして作っているのはわかる程に顔色が悪い。
「取り敢えずそのままの体勢でいいから、やられた傷を見せろ」
「やっ!? ちょっとミツ君、待って!」
分身はミーシャの背中の傷を確認するためと、彼女の服をめくる。
血が滴り、爪痕がクッキリと残された場所は青黒く変色を始めていた。
突然背中とはいえ素肌を見られた事に羞恥に慌てるミーシャ。
だが、服をめくった当の本人の分身はミーシャの羞恥など気にせずと治療をすすめる。
「取り敢えず先に毒を消すぞ」
「う〜。お、お願いするわね」
痛々しい傷を治す為、分身は〈キュアクリア〉を発動。
キュアクリアの効果は直ぐに現れ、ミーシャの肌色から毒気が消える。
「うっ……。お、終わったの?」
「まだだ。次は傷跡の治療をするから少し我慢しろ」
「ふぐっ!?」
分身はアイテムボックスから顔を拭う時に使う綺麗な布を取り出し、ミーシャの口に無理矢理に咥えさせる。
突然自身の口に布を加えさせられた事に慌て暴れそうになるミーシャだが、分身は彼女の身体をしっかりと抑えているために身動きが取れない。
暖かな光が薄っすらと見えたと思ったら、ジワジワと熱を感じる背中の傷。
「んんっ!?」
「こんな傷、すぐに治してやるからな。それと、他の傷跡もおまけに消しといてやる」
「ふぐっ!?」
分身はミーシャの背中に無数の傷があることに気づき、これもついでにと〈ヒール〉と〈再生〉スキルを発動。
緑と暖色系の光がミーシャを包み、彼女の身体を熱くしていく。
いつも仲間であるミミに回復してもらっている暖かな光。
それとは違い、治療に熱を感じる事に驚くミーシャであった。
「んんっー! ううっ! あっあ……。はぁ……はぁ……はぁ……」
今まで経験したことのない感覚にミーシャは息を切らし、くたりと力を抜く。
彼女の背中は〈再生〉スキルを使用したことに肌荒れ一つない綺麗な背部となった。
これで終わればミーシャの危機に駆け寄った分身は、颯爽とした救世主のイメージで終わっただろう。
「はぁ……はぁ……。お、終わったの?」
「……。いや、まだ少しだけ……」
ミーシャの潤んだ瞳が分身の男心に火をつけたのか、彼は何を思ったかミーシャの臀部へと手を置いた。
「きゃ!? ミ、ミツ君!?」
「いや〜。ここも怪我してるんじゃないか? ほら、尻がこんなに腫れちまってるぜ」
サワサワ、サワサワと顔は真面目だが、やってる事はただのセクハラである。
ミーシャは尻が腫れていると言われ、自身の臀部をサワサワと触られ続けられる事に更に顔を真っ赤にし、流石にこれ以上は駄目と、分身の手を払おうとしたその時。
「「このスケベ野郎!」ニャ!」
「ぐはっ!」
ゴチンっと鈍い音と、二人の女性の拳が分身の頭上に落ちるのは正に同時であった。
「ぐおお!! うおおお!! 頭が!! 脳みそが揺れる!!!」
分身は殴られた頭を抑えながら、地面をゴロゴロと転げまわっている。
戦闘を終わらせていたのか、周囲に仲間たちが集まってくる。
「何やってんのよ、このスケベ!」
「やっぱりミツはスケベニャ!」
「「「……」」」
頭を抑えながら悶える分身。
分身であるが姿や声はミツと同じなだけに、それを見ていた面々は言葉を失う。
「なあ……。お前のあれ、大丈夫か? 色々と……」
「言わないで……。自分でも不安になってるんだから……」
「あれって、やってる事は酒場にいそうなオジさんですよね……」
二人のゲンコツがかなり痛かったのか、分身がミツとリッケへと治療を求めるが、二人は視線を逸らすしかできなかった。
だって今も分身の後ろにいる二人が怖い顔して睨んでるんだもん。うん、触らぬ神に祟りなしである。
「くそっ、治療してもまだなんだか違和感あるぜ」
「はあ……自業自得だよ。(スティール)」
結局誰も治療してくれない雰囲気に諦めたのか、分身は自身の頭にヒールを使用。
別にスキルの自然治療があるのだから、そのままにしてもいいと思うが、痛みが引くのを待てなかったようだ。
治療の最中、リッコがそのスケベな頭の中も序に治しておけばと厳しい言葉を飛ばしていた。
ミツの分身がまたどさくさ紛れにエッチな事をするのでは無いかと女性陣から声が上がり、今はミツと分身の二人が前を歩いている。
二人が先頭を歩けば出て来るインプはミツにスキルを抜き取られ、分身の手によって亡骸と変わり果てる。
《経験により〈毒爪Lv3〉〈悪食Lv5〉〈重圧の叫びLv5〉〈牛歩の進みLv4 〉〈アシッドブレスLv3〉〈コールドブレスLv7〉となりました》
毒爪
・種別:アクティブ
爪先から猛毒を出すことができる。
レベルが上がると効果が増す。
悪食
・種別:パッシブ
腐った物、食物でない物を食べることができる。※食べすぎに対しては腹痛を起こす。
重圧の叫び
・種別:アクティブ
相手の判断を鈍らせる効果を出す。
牛歩の進み
・種別:アクティブ
相手の思考を遅らせる効果を出す。
アシッドブレス
酸の効果を持つ液を出すことができる。
レベルが上がると効果が増す。
ミツは試しと〈毒爪〉を使用する。
爪の先を紫のマニュキュアを付けたような毒々しい色と変えていく。
モンスターであるインプにどれ程の効果を出すのか検証である。
ミツは素早い攻撃に、インプの肌へと爪を立て、切り傷を追わせる。
分身には検証するインプは討伐せずに、他のインプを相手にしてもらう。
時間もおかず、検証のインプはゴフッと一度咳き込み、続けてゴハッと吐血をしてバタリとその場で倒れる。
ピクピクと痙攣をし、最後はバタバタと暴れその命を止めた。
スキルを解除すると、ミツの爪は元に戻る。
〈重圧の叫び〉と〈牛歩の進み〉。
この二つはとても恐ろしいスキルだった。
これを同時に使うと、モンスターはまるで脳を失ったかの様に突然その場に立ちすくんでしまう。
これをもし冒険者が両方同時に食らってしまったら、冒険者が目の前のインプの様にただの的の状態となる。思考も回らず、判断もできない。
目の前の敵に対して全く動けなくなるのだから。
〈アシッドブレス〉と〈悪食〉に関しては、この場での検証は控えておく。
二人は戦闘をしつつ、インプのスキルを回収を怠らない。
数十と敵を倒していると、敵の攻撃パターンが読めてきたのか、少し会話をする余裕ができ始める。
「それで、他の街ってどんな感じだったの?」
ミツは分身へと出向いた先の街の事を質問する。
「そうだな……。ああ……娼婦館が豊富だったな」
「!? ま、まさか入ったの!?」
「フッ……。子供と勘違いされて入店すら断られたわ」
「あっ……そう………。ってか、入ろうとはしたんだ……」
分身は街へ到達するなり、自身の使えるスキルを駆使して娼婦館を見つけ出した。
そして、ニヤリといやらしい笑みを作り、いざ娼婦館へと入店。
受付のガラの悪そうな妖精にジロジロと見られ、お前はドワーフ族か、それともハーフリングかと問われる。
ここで分身がどちらかだと嘘でもいいから発言しておけば、彼は新世界の翼を羽ばたかせた男となったのかもしれない。
だが、彼は人族だと答えた為に、店から追放。
意味もわからず、隣の娼婦館へと足を向ける。しかし、そこでも分身は同じ答えを返したことにまたもや門前払い。
意味も分からないと少し抵抗を見せた分身に、2軒目の娼婦館の受付をした獣人族がその答えを教えてくれた。
それは人族のまだ15にもなっていない人族の青年が好奇心と、一件の娼婦館へと入ってしまった事があったそうだ。
彼は未成年で大人の翼を広げ、それを自慢と仲間たちに話してしまう。
その話が娼婦館のオーナーから商人ギルドへと伝わり、二度と未成年を入れないようにと、厳しく全ての娼婦館のオーナーへと伝えられた。店は人族の子供一人の行為で自身の店を潰されてはたまらないと、来店する客には厳しく目を光らせている。
ミツの見た目は正直13歳と言われても違和感のない童顔である。
その為、ミツの分身が俺は15だと言っても、店の者は信じる事無く彼を門前払いしていた。
しかし、実は分身が追い出される前に冒険者カードを見せれば店に入ることはできたのだ。
冒険者カードは15の成人を迎えなければ得ることはできない。
その事も思いつかない程に分身の頭の中は色ボケた考えでいっぱいであり、その考えにたどり着くことができなかったようだ。
娼婦館は諦め、分身はあちらこちらで女性へと声をかけていた。
下はアイシャと変わらない歳の少女から上はギーラと変わらぬお婆様にまで。
いや、ストライクゾーン広いな分身よ。
しかし、どれもこれもちょっと話せば女性と言う者は分身の下心に感づくのか。
食事を奢らせてサヨナラするお嬢さんや、最初こそ分身に愛玩動物を愛でるような視線をしていた女性は、去り際分身をクズを見るような冷たい視線に変わっていたりと、分身のナンパ?は尽く玉砕し続けていた。
分身の心は既にズタズタ。彼のガラスのハートはもう限界。
その時、シクシクと地面に蹲り、情けなく泣いていた分身に声をかける者がいたそうだ。
その人はその街の冒険者ギルドの受付嬢。
分身は声をかけてきたその人の顔を見た瞬間立ち直り、顔や服についた砂埃を払い、キザっぽく彼女と会話を始めた。
瞬時に気持ちを切り替える分身。
どうやら分身のガラスハートは防弾ガラスだったようだ。
ネーザンの依頼がある事を思い出した分身はその受付嬢にギルドに案内してもらい、ディオンアコーのギルドマスターへとネーザンの手紙を渡す。
手紙の内容は知らないが、ギルドマスターは幾度も分身と手紙を見ていたそうだ。
「後はそうだな……あっ。そうそう。ディオンアコーって街の冒険者ギルドに、ジャーマンスネークの討伐依頼が出てたね」
「ジャーマンスネーク……。えっ? ガンガさんからの取ってこいって言われた素材のアレが!?」
「ああ。折角だから依頼を受けようとしたんだけどねー……。その依頼、グラスランクじゃねえと受けることができねえって言われて却下された」
「え……えー。グラスって……。ガンガさん、そんなベテランしか受けれない依頼対象を持ってこいって言ったのか……」
「まあ、確かに今の俺達じゃ依頼は受ける事はできねえけどよ……。別に受ける必要無くないか?」
「えっ? どう言う意味?」
分身の説明に疑問符を浮かべるミツ。
「相棒。忘れたのか? 冒険者ギルドの依頼が今のアイアンのカードで受ける事ができないなら、別にギルドを通さずに倒せって事。別にギルドは素材の持ち込みが許可された場所なんだから」
「あ〜。なるほど」
ミツはそう言えばと、思い出したかのようにポンと一つ手を打つ。
倒したインプの亡骸をアイテムボックスに収納中、通路の奥を見ていた分身が、ニヤリとほくそ笑むような笑みを作っていた。
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