第144話 乙女のジョブ。
《〈大絶斬〉〈猪突猛進〉を習得しました。〈ノックバックLv4〉〈パワーチャージLv3〉〈大絶斬Lv2〉となりました。条件スキルの対象を獲得しました〈乱れ切り花〉を習得しました》
大絶斬
・種別:アクティブ
岩をも切り裂く斬撃を振り下ろす。
対象の強度が高い程に威力が増す。
猪突猛進
・種別:アクティブ
一定時間攻撃力と素早さを上昇させる。
代わりに、守備力がステータスの半分以下になる。
乱れ切り花
・種別:アクティブ
広範囲の斬撃攻撃が可能。
「次! リッケ、周り込め! プルン、行くぞ!」
「はい!」
「ニャ!」
リックの掛け声と同時に走り出す三人。
リッケは残り三体のミノタウロスの背後を突く為と走り出す。
注意を引きつけるリックとプルン。
二人が前に立ち、ミノタウロスの攻撃をリックは盾で防ぎ、プルンは素早く攻撃をかわしていく。
そして、注意が二人に向けられたその時、ミーシャのアイスランスが一体のミノタウロスの腕に突き刺さり武器を落とさせる。
更に残りニ体の足元の地面が崩れ、二体を転倒させた。
リッコの〈サンドウォール〉が発動。
立ち上がろうとするミノタウロスの腕には、ローゼの矢が突き刺さり、ミツが放つ矢がミノタウロスを地面に打ち付ける。
すかさずと、リッケの攻撃。
彼の剣がミノタウロスの胸の心臓にグサリと突き立てられる。
リッケは暴れるミノタウロスに吹き飛ばされるも、兄であるリックが彼を抱きとめた。
ブモモモッッッ!!
「うわっ!」
「おっと! 大丈夫かリッケ!」
「は、はい! ありがとうございます、リック」
「今は礼は良いから行け! まだ生きてる奴もいるんだぞ!」
「で、でも武器が!?」
「リッケ! 自分に任せて!(この距離なら、吸引!)」
ミツがミノタウロスに突き刺さる剣に向かって〈吸引〉を発動。
突き刺さる剣がカタカタと動き出し、心臓に突き刺さる剣がズボッっと抜け、激しく血を吹き出させる。
引き寄せられるように剣はミツの手元に飛んで来た。
彼は手元に来た剣を大きく一度振り、血糊を飛ばしリッケへと差し出す。
「「!?」」
二人から見たらリッケの剣が勝手に動きだし、ミツの手元に戻ってきた様にしか見えないだろう。
二人は驚きつつも、気を引き締め戦闘に戻る。
「はい、またミノタウロスに剣を突き刺したら、リッケはその場から離れてもいいから」
「そ、そうだぜリッケ! ほらっ、考えてる間にさっさと突き刺してこい!」
「は、はい! ミツ君、ありがとうございます」
リッケは両手に剣を握り締め、地面に倒れ暴れるミノタウロスの脇の腹部に剣を突き刺す。
ミツの言う通りと、彼は素早くその場から離脱し、ミノタウロスが動かなくなるまで待つ。
暴れるミノタウロスが力を尽くしたのを鑑定にて確認したミツは、リッケの剣をスティールにて手元に戻し彼へ渡していた。
同じ戦法を繰り返し、最後の一体も倒すリッケ。
彼はこの数分の戦いで全身から汗を出しながら疲れ果て、安堵のため息を漏らす。
「はぁ……はぁ……はぁ……。な、なんとか倒せました……」
「お疲れ、リッケ。まだまだ先は長いから頑張って。因みに、リッケは後何体倒すのか覚えてる?」
「はぁ……はぁ……。ゴホッ。す、すみません。えーっと、確か……ミツ君のオススメのジョブになるには、僕が86体のモンスターを倒さないといけなかったんですよね? だとしたら……エイバルは8体倒しましたし……スパイダークラブは……確か30~35ですね」
リッケはむせ返りながら、指折り残り討伐しなければいけないモンスターの数を数える。
「だとしたら40体前後か……。どう、このフロアで行けそう?」
「!? ま、待ってください。ぼ、僕がミノタウロスを40体もですか!? 流石にそれは難しいのでは……」
ミノタウロスと数体戦った後、息を荒らげるリッケ。
それに対してミツのスパルタな発言。
顔面蒼白とまでは行かないが、リッケの顔から血の気が引いたのがよく分かる。
側にいた兄のリックは、弟のリッケの慌てぶりに少し呆れていた。
先程の戦いに危険があったと言うのなら、リッケの突き刺した剣にミノタウロスが暴れたぐらいである。
その中、リッコが声をかけてくる。
「ねえ、ミツ。話は後にした方が良くない? 反対側の通路からも来てるんでしょ?」
「うん。そうだね。ねぇ、リッケ」
「はい」
ミツはリッケに手を差し伸ばし、座り込む彼を引き寄せ起こす。
リッコの言う通り、反対側の通路からはニ体のミノタウロスが近づいてきていた。
戦い方は先程と同じと皆に声をかけ、各自通路から出てくるモンスターへと構えを取っていた。
そんなミツ達を後ろから見ていたセルフィ達は、まだ若輩者の青年達が無傷状態と、いともあっさりとミノタウロスを数体を討伐したことに唖然としていた。
「……ねぇ、ゼクス」
「はい。何でしょうかセルフィ様」
「牛鬼って、人族のあの子達の年頃なら倒せちゃうものなの? エルフの森で見つけた時は、兵の数十人で倒した物だけど……」
「ホッホッホッ。彼等を人族の基準と考えるなら、他国にとって人族はとても脅威に見えてしまいますね。……ご安心ください。そのお考えは残念ながら外れておりますゆえ」
ゼクスの言葉に、頭で分かっていてもセルフィの口から安堵の息がもれる。
続けて視線は戦う青年達を、後方から弓を構えて声を飛ばすミツへと向けられていた。
「はぁ……。なら、それを可能にするのがあの子って訳ね……。末恐ろしい子ね……」
「……」
「おや、バーバリさん、いかがなさいましたか?」
「い、いや……。あの戦いを見せられては、俺が抜いた剣が無駄になりそうだな……」
「それはそれは。やはり貴方はお優しいですな。私なんて鞘から剣を抜く気もありませんでしたので、気軽に観戦しておりましたぞ。ホッホッホッ」
「グルッ!? お、お前と言う奴は……」
ゼクスの言葉に唸り声を出してしまうバーバリ。
確かにゼクスの手は後ろで組まれ、腰のレイピアにすら触れてはいなかった。
「あら? もうさっき出て来たニ体の戦闘も終わっちゃったわ」
「魔物の数も先程の半分ですからね。1分もかからず終わりましたな」
「フムッ……。しかし、何故先程からあの小僧にトドメを刺させる声が飛んでおるのか?」
「はて、確かに……」
「そんなの、本人達に聞けば良いんじゃない? おーい、少年君〜。ちょっと此方にいらっしゃいな」
戦闘が終わり、倒したミノタウロスをアイテムボックスに収納を済ませたミツが駆け寄ってくる。
「はい、セルフィ様。どうかされましたか?」
「ねえ、気になってたんだけどさ。何でさっきから、あの青年君にモンスターの最後をやらせてるの? 彼への嫌がらせ?」
「ち、違いますよ! 嫌がらせなんかしてません。もう、あれはリッケの次のジョブの為です」
「?」
ミツの言葉に、疑問符を浮かべる面々。
「ミツさん。ジョブとモンスターのトドメ。これが何故彼のジョブに何が関係するのですか?」
ミツは二人の疑問と質問にリッケの次のジョブ【センチュリオ】の条件を詳しく教えた。
するとセルフィとゼクスだけではなく、バーバリですら目を見開き驚く
「何と……。お前は他者の武の道。これを示す事が出来るのか……」
「ん〜。示すと言うか、自分は教える事はできますけど、結局頑張るのは本人ですよ? リッケの目標とするジョブまでは、モンスターを後40体近く倒さないといけませんからね」
セルフィは口元に手をあてがえ、少し考え込む。そして、口から放した手の指先が二人の女性へと向けられた。
「……なら、あの子達もそうなの?」
「あの子達って、ミーシャさんとローゼさんですか? いえ、彼女達にはまだジョブの話をしてません」
「なら、彼女達にも説明して、二人のジョブを変えてあげることってできるかしら?」
「……そうですね。ここのモンスターのレベルも高いので、もしかしたら二人のジョブも変えることができるかもしれません。ちょっと聞いてみますね」
「ミーシャさん、ローゼさん。ちょっとお話良いですか?」
声をかけながら二人の元へ行ってしまう少年の言葉に、少し頭を抑えるセルフィ。
「ホント、呆れた子ね。自身は教える事しかできないって……。それって、凄い事なんだけど……」
「「確かに……」」
セルフィの言葉に、珍しく口を揃えるゼクスとバーバリであった。
「えっ? 私達のジョブ?」
「はい。折角お二人とも試しの洞窟に来たんですから、自身のレベルアップを兼ねて次のジョブを考えてみませんか?」
「そりゃ、私ももっと強くはなりたいけど……。ねぇ、ローゼ」
「そうね、ミーシャ。私も同じ気持ちよ。でも凄いわね。ミツ君はそんな事も分かるのね」
「ええ、まぁ、少しだけですけど……。取り敢えず、二人もジョブの変更に問題はないんですね」
「勿論。ねぇ、ローゼ」
ミーシャの言葉に、コクリと頷き返すローゼ。
ミツは申し訳なく思いつつ、二人を鑑定することにした。
以前彼女達を鑑定した時、ミーシャのジョブ【ウィザード】のレベルは9。
ローゼのジョブ【ボウマン】はレベルは8だった。
あれから数日たち、数体であるがミノタウロスを討伐したことに、二人にも経験が入っているであろうと思いつつ、二人のステータスのウィンドウ画面が目の前に表示する。
名前 『ミーシャ』 人族/17歳
性別女 身長165センチ 体重52キロ
B90 W65 H95
ウィザードLvMAX。
転職可能new
【魔力術】
アイアンロッド 水魔術士のローブ ソリッドショーツ 付与のネックレス 付与の腰結び
HP __48+(10)
MP__75/90+(10)
攻撃力__10+(10)
守備力__24+(10)
魔力__50+(35)
素早さ__11+(10)
運 __14+(10)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ジョブレベルMAX2職
【ノービス】All+5
【ウィザード】All+5 魔力+25
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
アイスジャベリン____:Lv6
アイスウォール______:Lv5
ウォーターカッター__:Lv6
※父.アンセル、母.リザとの間に産まれた長女。親と喧嘩をきっかけに家を出る。
幼馴染であるローゼと共に冒険者を続けている。身体のコンプレックスが多い為に、自身を性的目で見る者には敵対心を直ぐに出してしまう。
名前 『ローゼ』 人族/17歳
性別女 身長158センチ 体重45キロ
B76 W58 H84
ボウマンLvMAX。
転職可能new
【弓術】
アーバレスト 革の軽鎧 ヒップパング
付与のネックレス 付与の腰結び
HP ______65+(10)
MP______20/20+(10)
攻撃力___35+(10)
守備力___35+(10)
魔力_____15+(10)
素早さ___59+(10)
運 ______18+(25)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ジョブレベルMAX2職
【ノービス】All+5
【ボウマン】All+5 運+20
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
一点集中_______:Lv7
鷹の目_________:Lv6
威力増加(弓)___:LvMAX
※幼き頃に父と母を失い、祖母の手によって育てられる。
数年後、祖母が亡くなった後に幼馴染のミーシャと共に冒険者になる。
血の繋がりのあるミミと共に暮らしている。
二人を鑑定すると、やはり二人のジョブレベルは既にMAXになっていた。
Lv35のミノタウロスを6体も倒したのだから、一つもレベルが上がらない訳がない。
もしかすると、二人はここに来るまでに既LvMAXになっていたかもしれない
それなら二人のジョブを変えなければ、二人がこのまま戦闘を共にしても経験が勿体無いのだ。
ミツの様に自身のジョブレベルをこまめに確認していれば、経験を無駄にすることなくステータスを上げることができる。
しかし、一般の冒険者はそれ程自身のジョブを判別晶で確認することはなく、時期や季節の代わるタイミングに判別晶を使用するようだ。
例えるなら、使う予定もない住民票を態々役所まで行き、お金を払ってまで貰いに行く人はまず居ないだろう。
それと感覚は似ているのかもしれない。
「ああ……やっぱり」
「んっ? ミツ君、何がやっぱりなの?」
「い、いえ。えーっと、ローゼさん達お二人にとって良い事が分かりましたよ」
「ん〜。なにかな〜。ミツ君は私達を見て何が分かったのかな〜」
ミーシャが前かがみ状態でミツに近寄る。
双子山の絶景な光景が目の前に広がり、ミツの頬を染めさせる。
「ちょっと、ミーシャ。何やってるのよ……」
「別に〜。ねぇ〜、ミツ君」
最後にポヨンっと揺れ動く山々に、ミツは心の中でありがとうございますと感謝を告げた後、二人へとジョブの話を持ち出した。
「ははっ……。そ、それでですね。実はお二人のジョブレベルがマックスになっていまして。折角なのでお二人のジョブを変えませんかと」
「!? えっ? 私達のジョブが!? ……えーっと。それは本当なの?」
「はい、間違いありませんよ。先程戦ったミノタウロスの経験が決めてになったのかもしれません」
「あらあら。2年間頑張ったかいがあったわね〜。良かったわね、ローゼ」
「うん! 早速戻ってギルドに判別晶を使わせてもらいましょう! ミツ君、悪いけど光の扉を出してもらえないかしら」
「あらあら、ローゼったら。でも、その気持ち分かるわ。ミツ君、お願いできるかしら」
「いえ、お二人にはこちらを使ってジョブを変えてもらいます」
「「!?」」
ミツはアイテムボックスから森羅の鏡を取り出す。
以前リック達も森羅の鏡を使用してジョブを変更したので、使い方を彼女達へと教えていく。
話を聞いているのか、いないのか。
二人は銀色に輝く森羅の鏡にすっかりと心を奪われていた。
「何……。か、鏡? これって……」
「凄く綺麗……」
森羅の鏡を二人の前に差し出していると、後からセルフィが声をかけてくる。
「? 少年君、それって人探しの魔道具じゃないの?」
「いえ、セルフィ様。この鏡は人探しだけではなく、使用者のジョブも変えることができる判別晶の機能も付いてます。なので、態々お二人がギルドに戻る必要も無いんですよ」
「えっ! 魔導具一つに二つの効果があるの!? 凄いわね……」
魔導具と言うものは一つの術式がその道具の中に書かれていたり、使われている魔石でその効果を出してくれる。
セルフィが驚いたのは、一つの術式に別の術式を重ねてしまうと、普通なら本来の機能をなさないからだ。
セルフィの驚きを笑顔に受けるミツは二人へと視線を戻さず、通路側の方へと視線を向けた。
「と言う訳でお二人には今からジョブを変えて貰いたいのですが……。その前にまた敵がこちらに来たようですね」
「「!」」
「もうっ! これからって時に邪魔な牛鬼ね! ちょっとゼクス、皆と片付けてきて頂戴」
ドシドシとした足音が仲間たちにも聞こえてきたのか、各自武器を通路側へと向け構えを取る。
セルフィは話を途中で遮られたことに少しだけご立腹なのか、ゼクスへと指示を出している。
「承知いたしました、セルフィ様。では皆さん。この老体の身、皆様の邪魔にならぬようご協力いただけますかな?」
「ゼクス様と一緒に戦えるの! やった! はい! 勿論です! ほら、皆。さっさと行くわよ!」
「おいおい、前衛より先に出る魔術士がいるかよ! 行くぞリッケ、プルン! ミツは……」
「うん。大丈夫、ちゃんとそっちの戦闘には注意してるから」
「おうっ! なら、こっちは戦いは任せとけ!」
「良いのかしら。私達も戦った方が?」
「いいって、気にしないで。それより貴女達、それを早速使って見せてよ」
「は、はい!」
セルフィの言葉に萎縮するローゼ。
相手が貴族であることに、彼女はガチガチの返答しかできなかった。
側にいたバーバリも歩き出し、武器を握り直す。
「フンッ。ゼクスだけでは役不足であろう。俺も行くぞ」
「バーバリさん……。それでは、よろしくお願いします。お二人が付いていれば大丈夫ですね。では、先に何方が使用されますか?」
「は〜い。私が先でもいいかしら?」
「ええ。私は構わないわよ」
ミーシャはキラキラとした瞳で森羅の鏡を握りしめる。
そんな姿を見たローゼは、仕方ないと先を譲ることにしたようだ。
「分かりました。それじゃミーシャさん。鏡、いえ。判別晶をどうぞ……。表面にジョブが表示されるので、それを選んでください」
「分かったわ」
ミツの持つ森羅の鏡とギルドにある判別晶。
この二つが似て似つかぬ物だと知るのは、ミーシャが鏡へと触れた時からであった。
虹色の靄が表面に現れ始め、靄が次第と周囲の人々から読めると理解できる程に文字へと形を変えて映し出していく。
「あっ! ローゼ、見てみて、何か見えてきたわよ」
「んっ?」
「え〜っと」
ミーシャが森羅の鏡に写り出た文字を少し興奮気味にローゼへと伝える。
側にいたミツもローゼと同じように森羅の鏡に写し出された文字を見ようと覗き込むと、何故かミーシャはそれを少し隠すように引っ込めてしまった。
「……フフッ。ミツ君も年頃の男の子だから女人の秘密が知りたいのは分かるけど、そんなに近くで覗かれるのは恥ずかしいわね」
「ああ。これはすみません」
「ううん。私は良いのよ〜。でも他の女性にはしちゃ駄目よ。それにしても凄いわね……。これって本当に判別晶みたいじゃない」
(みたい、ではなく、間違いなく判別晶として、神様からそれを頂きましたから……)
森羅の鏡に表示されたミーシャのジョブ候補。それは【ハイウィザード】【サマナー】【ダンサー】【シャーマン】。
ウィザードを極めた者は、普通ならその上のジョブのハイウィザードを選ぶだろう。
だが、別にハイウィザードが間違いの選択というわけではない。
しかし、やはりミツが経験したことのある忍者のジョブ。
これを極めた時のボーナスであるステータスアップは大きく、更にはスキルの強さも比ではなかった。
念の為とユイシスに助言を貰うことに。
(ねえ、ユイシス。この中にあるサマナーを極めた後に出てくるセイレーンの他に、ミーシャさんが上位になれるものってある?)
「はい、ございます。ウィザードを極めましたミーシャが【ダンサー】を極めますと【マジックダンサー】になります。残念ながらこれは女性限定ジョブとなりますので、ミツはこのジョブになることはできません」
(そうなんだ……そう言えば、自分にはダンサーのジョブ候補自体出てないね。なるほどね。分かった)
「ミーシャさん。どのジョブになられますか?」
「ん〜。そうね〜。サマナーは戦闘スタイルが難しいって聞いたことあるし。それだとやっぱりハイウィザードかしらね」
「ミーシャ、そうしなさいよ。下手に戦いのスタイル変えたりすると戦闘ができなくなるわよ?」
「そうね」
「……」
ローゼの言葉も間違いではない事をミーシャは理解していた。
だからこそ、彼女は友が進めるハイウィザードになる事には躊躇いはない。
ミツはユイシスの助言を会話に入れつつ、ミーシャへ【ダンサー】を進める言葉をかける。
「あの、一つ良いですか?」
「何? ミツ君、そんな顔しちゃって」
「どんな顔ですか……。いや、ミーシャさん、その項目の中にあるダンサーはどう思われますか?」
「んっ? 踊り子さん?」
「はい、そうです。確かに、ミーシャさんが先程選んだハイウィザードも強くはなれます。でも、自分はミーシャさんにはこちらをオススメしたいと……」
ミツは至って真面目にミーシャへとダンサーのジョブをすすめている。
だが、この世界で男性が女性に踊り子になれと言う発言は破廉恥な行為なのかもしれない。
ミーシャは少し頬を染めてしまった。
ミツの言葉にセルフィは、またおちゃらけた話し方でからかいだす。
「あらあら、女の子に踊り子になれだなんて。もう、少年君もスケベね」
「ちょっ!? セルフィ様、違いますよ! 変なこと言わないで下さい」
「わー、赤くなった! もう、少年君もなんだかんだで男だな〜、うりうり」
「うわっ!? もう、だ〜か〜ら〜。セルフィ様、違いますって!」
セルフィはゴシゴシとミツの頭を撫で回し、彼をからかい続ける。
抵抗するミツの反応が面白いのか、セルフィは貴族令嬢とは思えないスキンシップをしている。
「ね、ねえ……、ミーシャ。凄いわね、彼。相手が貴族様でも、普通に話してるわよ……」
「そ、そうね……。ホント、私なんて声をかけられるだけで気持ちが萎縮しちゃうわよ」
普通の人なら萎縮するのが当たり前である。
なにせ、相手は貴族様であり、更には高貴な女令である。
平民である者からすれば、格違いの別世界の人。
貴族の言葉は絶対であり、平民は貴族に逆らうなど死を選ぶ様な物。
それが常識であり当然の事。
しかし、目の前の少年は恐れ多くも撫でられた手を掴み返し、更には反対側の手も防ぐためとそちらも掴み返している。
戯れ合う二人がやっと落ち着いたのか、コホンっと咳払い一つで話を終わらせていた。
「まったく、もう。それで、ミーシャさん、如何でしょうか? 勿論無理強いする気はありません。ミーシャさんのジョブですから、好きに選んで良いと思います」
「そう……。なら、悪いけどやっぱり私は魔術士のままジョブをやろうかしら」
「そうですか。分かりました。それでは……」
ダンサーの説明もそこそこだった為か、ミーシャの選択したジョブはハイウィザードだった。
しかし、この選択はミーシャ自身がウィザードをニ年間と言う、長い年月をかけたからこその選択。
ここで本人の今までの努力を無下する選択を強制してはいけない。
別に直ぐにジョブをダンサーにしなくても、ハイウィザードを極めた後にまたジョブを変える選択もあるのだから。
ミツは少し遠回りになるが、それもジョブを楽しむ一つの選択だと元ゲーマーとして理解していた。
効率的な強さは面白いが、幅広く様々なジョブを経験するのは、今まさにミツがやっている事と同じなのだから。
しかし、そこに一人の女性が無理やりと会話に割って入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます