第143話 洞窟再び

名前 『ミツ』     人族/15歳


メインジョブ  アストロジャー Lv3。


偽造職     ペドラー    Lv3。


サードジョブ  アポストル   Lv3。


フォースジョブ 魔法剣士    Lv8。


フィフスジョブ マジックハンターLv8。


転職可能 new


【弓術】

【支援術】

【魔力術】

【剣術】


鉄の弓orドルクスア 革の軽鎧 

天使の腕輪(ステータス+20%)


HP ______680+(80)


MP______2052+(80)


攻撃力___735+(150)


守備力___775+(115)


魔力_____831+(170)


素早さ___690+(130)


運 _______696+(130)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ジョブレベルMAX12職


【ノービス】All+5

【アーチャー】All+5 運+20

【シーフ】All+5 素早さ+20

【クレリック】All+5 魔力+15 守備力+15

【ウィザード】All+5 魔力+25

【エンハンサー】All+10

【ヒーラー】All+5 魔力+20 守備+20

【ソードマン】All+5 攻撃力+20

【忍者】All+20 攻撃力+30 魔力+30 素早さ+20

【モンク】All+5 攻撃力+20

【料理人】All+5 素早さ+10 運+10

【ジョングルール】All+5 運+20


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


Level upスキル一覧


ファイャーウォールLv7

ファイャーボールLv6

ウォーターボールLv3

アースウォールLv3

威嚇Lv7

魔法障壁Lv2

ブレっシングLv5

速度増加Lv5

パラライズLv3

ハイディングLv5

糸操作Lv3

挑発Lv4

正拳突きLv2

強撃Lv2

火耐性Lv2

忍び足Lv4

交渉術Lv2


スキル合計数192個


※※※※※※※※※※※※※※※※

称号 『救い人』


※84話から142話までの上昇ステータス。


「結構スキルレベルも上がってる。これもやっぱり分身のおかげかな?」


《はい。ミツは試しの洞窟から戻り後は、戦闘の数も少なかったですが、スキル〈影分身〉の効果にてスキルレベルを上昇させています。ですが、モンスターを討伐している訳では無いのでステータスの上昇はあまり見受けられません》


「そうだよね。流石に町中でモンスターとの戦いも無かったし。ならジョブも増えてはいないかな?」


《いえ、戦闘での経験が数個のジョブを開放しています。表示いたしますか?》


「んー、いいよ。洞窟に行ったらまたレベルアップしてジョブも変えるからね。後のお楽しみとして取っておく」


《解りました》


「ミツー! そろそろ行くニャよ〜」


「はーい! 解った、今降りてくるよ」


 フロールス家での出来事の後日。

 ミツは夜遅くまでフロールス家の厨房で動き続けていた。

 それはその晩の晩餐の際、多くの者がフロールス家で出されると噂にまで出たハンバーグやプリンを狙い、遅くまで滞在していたのだ。

 ダニエル達も客人として来ている他貴族の人々に帰れなど言える訳もなく、急遽いくつもの部屋で食事ができる様にと準備がなされていた。

 大きなホールにはまたテーブルと椅子が並べられ、クロスが引かれていく。

 そこにはセレナーデ王国のカイン殿下を始め、カルテット国のセルフィ、ローガディア王国のエメアップリアが席に座っていた。

 エンダー国のレイリーは食事は共にせず、別室にて静かに食事を済ませていたようだ。

 数も数、閉会式ほどではなくとも、200人以上の食事となれば慌ただしくなる厨房。

 その中、先に帰りますなど言えないミツは、パープルの右腕として料理を作り続けていた。

 その時、また材料が不足し始め、パープルが腹持ちの良い料理は無いかと彼女は質問してきたので、ミツは米料理を提案する。

 この国にも米は存在しているが、市場に出回るのは、あわ、きび、ひえ、と言う、あまりミツが口にしたことの無い米ばかり。

 だが貴族内には独自で米を作り、自身の口に入る分だけを作る者も居る。

 その米はジャポニカ米の様な短米でも、粒の長いインディカ米でもない。

 粒の大きさは中であり、パエリアなどの炒め料理に合うのだ。

 だからと言って、今ここのフロールス家にあるかと言われたらある訳もない。

 屋敷に置いてある米をミツが鑑定して見るが、それは良い質の米でも無いし、豆のように水分をあまり吸い込まない品であった。

 ミツはパープルに米の状態を説明し、ならばと自身の簡単な得意料理を提案する。

 試しとばかりにパープルに料理を見せた後、米との相性を確認。

 パープルはミツが作り出した料理を希望する貴族だけに出す事にした。

 希望する者だけとは言ったが、流石に領主や婦人が認知していなければ出す事はできない。

 小皿に盛り付け、先ずはダニエル達の前にその料理が並ぶ。

 

「これは……黄色の布に赤いソース? 中は……米が赤く染められているのか……。パープル、この料理は何だ?」


「はい、こちらはミツ……コホン。えーっと、三日ほど前に考えついた料理で、オムライスと申します」


「……左様ですか。パープル、味に間違いは無いのですね」


「はい、奥様。この場にお出しして、恥じぬ品でございます」


 パープルの言葉通り、オムライスは米が苦手な貴族にも受け入れられ、ハンバーグの友として皆の食を更に進める品となった。

 エマンダとパメラは直ぐに、これはミツの作った料理だということに気づいたが、見る者が見れば簡単に真似ができる品である為、今回はレシピの契約を行うことはなかった。



 街中を歩くと、やはり気づく人は気づくのか、ミツを見かけると警戒する者や自身や家族を救われた事に感謝と言葉をかけてくる人が居た。

 

「ここまで来るのに、意外と時間かかっちゃったね」


「ニャ〜、仕方ないニャ。声をかけてくる人達は皆ミツにお礼が言いたい人達ニャよ。それを邪険に断るのは失礼になるニャ」


「まあ、そうなんだけどね。あれ……? プルン、あの馬車って」


 冒険者ギルドに近づくと、ギルドの近くに見覚えのある馬車が一台止まっていた。


「ニャ? あれって、領主様の馬車ニャね」


「だよね? ダニエル様が来てるのかな?」


「ミツ、冒険者ギルドになんで領主様が来るニャ?」


「さぁ? うわっ……凄い数」


 ギルド内に入ろうと、馬車から入り口へと視線を変えると、入り口には人だかりができ、混み合う人々で賑わっていた。

 なんとか人混みを潜り抜け、ギルド内へと入れば、そこには見知った人達がギルドマスターのネーザンと話をしていた。


「プハッ! す、すみません。通りますので」


「ニャ〜。どいてくれニャ〜。……ふぅ〜。ニャ!?」


「おやおや、やっと来たかい」


「こんにちは、ネーザンさん……。あの、来て早々聞きたいんですが、何故この人達がここにいらっしゃるのでしょうか?」


「まぁ、世間話を少しね。それよりも、目的はお前さんを待っておったみたいだよ」


「はぁ……」


 ネーザンの言葉に、ミツは溜め息混じりに側にいた人達へと視線を向ける。


「ホッホッホッ。昨日はお疲れ様ですミツさん」


「……フンッ」


「やっと来たわね、少年君!」


 ここに何故この人達が居るのか?

 主君の側から離れていいのか?

 ってか、最後の一人は主君その人だよ。

 いつもの執事服ではなく、以前ミツと模擬戦をやった時の格好をしたゼクス。

 愛想は無いが、鎧の外からも解る程に勇ましい武装をしたバーバリ。

 そして、その格好で買い物にでも行くつもりなのか、彼女の服装はいつも通りの軽装備のセルフィ。

 元シルバーランクのゼクスだけでも声援を浴びそうだと言うのに、ローガディア王国の指折りの剣豪のバーバリと、弓神と言われる程に有名なセルフィ。

 この三人が、武装状態と冒険者ギルドに居る事に、このライアングルの街の近くに、三人が出向かなければいけない程の強敵なモンスターでも現れたのではと思う人も中には居たようだ。

 〈聞き耳〉スキルで、警戒と不安を口にする言葉が聞こえてきた。

 その中に、仲間であるリッコの呼び声が混じっている事にミツは気づく。

 

「ちょっと、ミツ! こっち! こっちに来て」


「あっ、皆。もう来てたんだ」


 人混みに紛れ、リッコ達は先にギルドに来ていたのか、仲間達みんなが揃っている。

 ミツの何気ない言葉に、リッコの兄であるリックは、ミツに顔を近づかせながらゼクス達の方をみる。

 近いね、顔を近づかせるなら女の子の方が嬉しいんだけど。


「来てたのかじゃねえよ! 何でゼクス様や、獣人国の選手代表、それに国の代表者の人が来てるんだよ!? あの人達が来るなんて、俺達は一言も聞いてねえぞ」


「うん、自分も今知ったところ……」


「マジかよ……」


 リック達はゼクスとの顔合わせは初めてではないが、やはりギルドに元とは言え、シルバーの冒険者が居る事に改めてゼクスに対して興奮をしているようだ。

 更に隣にいる二人も、バーバリは大会でも有名な剣豪、セルフィは大会での代表者である事に顔を知る者もいる。

 何故この場にいるのかを皆は知りたいが、ギルドマスターがゼクス達と会話をしていた為に声をかけるのを彼らは躊躇っていた。

 しかし、ギルドマスターのネーザンが話しかけていようと、今ゼクス達にこえをかけようとする彼女には、気にもしない程の話である。


「おじさん、何でここに居るニャ? 依頼でも受けに来たのかニャ?」


 なんの躊躇いも無く、声をかけるプルンを見て、周囲の冒険者の人達は相変わらずお気楽な子だぜと、感心する人も居たようだ。

 プルンがギルドマスターであるネーザンと関わりがある事は、この街の冒険者ギルドに所属した冒険者には周知された事であった。


「ホッホッホッ。私は本日旦那様より休暇を頂いた身。武道大会で体を動かせなかった分、少しばかりバーバリさんと共に運動でもしようかと私がお誘いしたのですよ」


「ふ〜ん。ニャるほどね」


「いやいや、休暇って……。ゼクスさん、今は王族の人達が来てるのでお屋敷はお忙しいのでは? バーバリさんもお姫様の近くから離れて良いんですか?」


「少年君、そんな事気にしない気にしない。屋敷にいてもお偉いさんなんて、お茶飲んで無駄に時間使ってだべるだけよ。それぐらいなら屋敷にメイドがいれば十分なのよ」


「……問題ない。姫にはチャオーラと他にも仕える者が側におる。数日と離れて問題ないのだから、俺が一時姫の側から離れようと、襲い掛かる者全ては獣人の牙と爪の餌食となるだろうて」


「はあ……。それで、セルフィ様は……」


「何? 少年君、その何で貴女がここに居るんですかって目は。フフンッ、仕方ないわね。君が思う質問に私は寛大な心で答えてあげる」


「いや、どうせ屋敷にいても暇だからって、面白そうだからゼクスさんとバーバリさんに付いてきたんじゃないんですか?」


「なっ!?」


「ホッホッホッ。ミツさん、その答えは半分はご明察通りにございます。ですが、どちらかと言うならば、私がセルフィ様にお供をお願いした身でございます」


「……ああ。なるほど」


 ミツの予想は意外と当り、セルフィは屋敷にいても暇を潰していた。

 溺愛するロキアと共に過ごす日々は楽しいが、彼も他貴族の子供たちと交流する時間。

 つまりは、かくれんぼなど遊ぶ時間を与えなければいけない。

 子供達が遊ぶ中にセルフィ程の大人であり、元王族がその中で遊ぶ光景など想像つかないだろう。

 セルフィは気にもしないが、周りの子供達の親にとっては気が気ではない。

 ロキアには護衛を付けると、パメラはセルフィへと言葉を告げたようだ。

 ならば、セルフィは屋敷にいても暇だと告げ、ロキアの護衛を自身の私兵である三人に任せてしまう。

 勿論反対の言葉は私兵のアマービレ達から出たが、彼女達がロキアの護衛を承知したのはゼクスが彼女と共に行動し、護衛すると条件を出したため。

 ゼクスは表向きは休暇中であるが、本当はセルフィの護衛と監視役として共に行動をしていた。

 なら、もう一人の人物は何故共にしているのか。

 これも表向きには、戦友であるゼクスと剣を交える為にと、エメアップリアに休暇を貰っている。

 しかし、やはり彼もただの休みではなく、別の理由にてここに居るようだ。


「コホン……。少年君は今から洞窟に行くのよね?」


「はい。その予定ですよ」


「フフンッ。なら、私達も一緒に行っても良いかしら?」


「えっ? 達って、セルフィ様とゼクスさんと……バーバリさんもですか?」


「はい。ミツさんが許可を頂けるなら、あなた方の同伴をお許しいただきたい。私は既に冒険者として引退した身。冒険者カードは既にギルドに返還しておりますし、セルフィ様やバーバリさんも冒険者カードは所持しておりません。失礼ながらミツさんのアイアンのカードにて我々を同伴させてください。勿論ネーザンさんの許可は先程頂きました」


 ゼクスは共に洞窟に行かせていただければ、戦いのいろはを教えると言葉を継ぎ足し告げる。


「あー。なるほど。でも、自分だけで決めることはできませんので、リック達に聞いてみないと…」


 ミツが考える素振りを見せていると、後ろからバタバタと急ぎ近づいてきた面々。

 ミツを押しのける勢いと彼らはゼクス達を歓迎する言葉を出す。


「賛成です! 私は賛成しかしません!」


「是非、俺達と共に来てください!」


「うわっ! リック、リッコ!?」


「ミツ君、何を躊躇うんですか!? このお誘いを断るなんて駄目ですよ!」


「リッケまで?」


 自身の尊敬する人物と共にモンスターと戦う。

 それは冒険者だけではなく、相手が憧れの人物ならば、誰もが思う思考なのだろう。

 更には、冒険者としての戦いも学べる。

 言葉ではなく、実際にゼクスの戦いを目に見ることもできる。

 彼らは是非の心に、ゼクスの言葉を承諾する。


「あらあら、嬉しい事言ってくれるじゃない。貴女達も賛成してくれるかしら?」


「「!?」」


 セルフィはリック達の後ろにいるローゼとミーシャへと声をかける。

 突然声をかけられた二人は言葉を失うが、慌ててローゼはよろしくと返答を返した。


「は、はい! 不束者ですが、こちらこそよろしくお願いします!」


「よしよし。少年君、悪いわね〜。無理言っちゃって。でも、もしかしたらまだ洞窟の中にモンスターに影響を出す魔石があるかもしれないし。それに……」


「それに?」


「うんん。何でもないわ」


「?」


 セルフィは国から一つの指令を受けていた。

 それは自身の行動に目を瞑る代わりと、定期的に送られる文である。

 内容には、対象者であるミツから目を離すな。

 共に行動し、情報を得よとのこと。

 彼女は最初こそ乗り気ではない内容であったが、後々考えると、大会が終われば日々の生活は惰眠を貪るような生活になるかもしれない。

 暇な事が一番嫌いな彼女は、国を出た理由がそれなのだから、国の指示に対して、嫌と言う程思ってはいなかった。

 

 三人の同伴が突然決まり、喜ぶ者も居れば緊張する者も居る。

 それでも嬉しい気持ちが勝つのか、仲間達は意気込み強く、瞳をランランとさせていた。

 メンバーはミツを始め、プルン、リック、リッケ、リッコ、ローゼ、ミーシャの7人の予定であったが、ゼクス、セルフィ、バーバリの3人追加の10人パーティーとなる。

 トトとミミはまだウッドランクなので、洞窟には入る事を禁じられている。

 この場にいない事を聞くと、二人は同じウッドランクの少年達と臨時のパーティーを組み、採取依頼へと朝から出かけたそうだ。

 プルンもまだミツと出会う頃は、臨時のパーティーを組んでいた事もあると聞いたことがある。


 ネーザンに部屋を借り、そこでゲートを開く。既に多くの人の前でミツがトリップゲートを使用しているが、やはり人の目につけない方が良いと、皆の意見であった。

 ゲートを潜り抜けるとそこはリック達にとって、数日前に訪れていた8階層のセーフエリア。

 浮かれた気分を振り払うように皆は武器を手に取り、気合を入れている。

 ローゼとミーシャにとっては何もかもが初めての事ばかり。

 ゼクスの様な有名人と共に戦うことも、試しの洞窟に来たことも。

 トリップゲートは見た事はあると言っても、緊急時に見た物である為に改めてミツがゲートを出した事に目を見開き驚く。


「それじゃゼクスさん、セルフィ様、バーバリさん。まだまだ半人前の自分達に、皆さんのご指導ご鞭撻、どうぞよろしくお願いします」


「「「「「よろしくお願いします」」」」」


「ニャ!」


 まだまだ冒険者として青臭い若者達。

 その姿にゼクスはいつもの笑みを見せ、セルフィは頬を上げてニヤリとほくそ笑む。

 バーバリもここがモンスターの出る場所だと理解してからは、表情が険しくなり、まるで鬼教官のようだ。

 

「質問です! ゼクス様は試しの洞窟は最下層の10階まで制覇された事はありますか!?」


「はい、リッコさん。ええ、私が歳が20を過ぎた頃に一度だけ」


「い、一度だけですか!?」


「ホッホッホッ。リッコさん、この洞窟は一度だけですが、その一度が私にこの広い世界を見せてくれました。この先の8階層のモンスターと9階層のモンスター。そして最下層にいる者を倒すことができれば、貴方達は身体も心も大きく成長できるでしょう。……ですが、危険な道がこの先にはあります。されど貴方達はその道、冒険者と言う進む道を既に選びました。この先、恐怖に怯え、二度と手に持つ武器を握る事ができなくなるかもしれません。いえ、それどころか、愛する家族、仲よき友の顔を見ることもできず死ぬかもしれません。」


 ゼクスの言葉に、その場にいる誰かのゴクリと唾を飲む音が聞こえる。

 そして、カタカタとリックの手が震え、彼の持つ盾が音を鳴らす。

 兄であるリックが、まさか先程ゼクスの言葉に怯えたのか?

 いや違う。

 彼はニヤリと口を開け、恐怖や不安など感じない、強く真っ直ぐな瞳でゼクスを見つめ返す。武者震いが彼の体も心も震わせていたのだ。


「ゼクスさん! 俺は行くぜ! 俺の持つこの盾は怯えて自身を守るためじゃねえ! 誰かを守る為に俺はこれを持ってモンスターと戦うんだ!」


「……フンッ! なにアンタばっかりカッコつけちゃって。わたし達が怯えて行かないとでも思ってるの!? 莫迦にするんじゃないわよ!」


「そうです! 父さんよりも強く! 大切な人を僕は守る為に、この剣を握るんです! 僕も負けませんよ!」


 三人兄妹の長兄であるリックが勇ましく進む事を宣言すると、妹のリッコ、弟であるリッケも続けて声を出す。

 まあ、リッケの大切な人と言う発言に対して、後々聞きたいことができたのだが、この場の空気を壊すのは止めて、今はあえてスルーした。

 意気込む姿はいい事だが、それを見て少し苦笑を漏らすセルフィ。


「あらあら。君達、そんなに力まなくても良いのよ? 逆にそんなに力入れてちゃ、いざ戦いの時に何時もの力も出せなくなっちゃうんだから」


「左様。セルフィ様の言う通りだ。小僧ども、よく聞け! この先にいる物はお前らがいつも戦う様な子鬼や鬼豚とは違う。今まで経験したことの無いモンスターと遭遇するだろう。その際、戦いの動きを止める愚か者はあいつらの餌食となる。よいか! 戦いで動きを止めるな! 声を出せ! 周囲を把握しろ!」


「「「「はい!」」」」


「ニャ!」


 バーバリの声に改めて背筋を伸ばす面々。

 その場の雰囲気は、正に新兵を育てる場となった。


「では、各自。自身の名と得意な戦いを手短に言え。それを我々が把握していなければ、お前らは戦いの邪魔にしかならん!」


「はい! 先ずは俺が。俺はリック。前衛の盾使いです……」


 バーバリの言葉に続き、誰よりも早くリックが声を出す。まるで会社の新入社員の様に自身の紹介と言わんばかりに、得意な立ち位置や戦いのスタイルを告げていく。

 その流れとリック、リッコ、プルンと次々に自己紹介と話が終わる。

 そして最後がミツである。


「改めて、自分はミツです。前衛では剣と拳、後衛としては弓と魔法。魔法は攻撃、支援、回復が使用できます。今日は回復役として、また戦いの状況に合わせて動きます。皆の戦いの邪魔にならないよう気をつけますので、どうぞよろしくお願いします」


 ミツの自己アピールの言葉の後、周囲からはクスクスと笑いが聞こえていた。

 これが知らぬ者の発言なら詭弁者と疑い、背伸びした発言と思われるだろう。

 バーバリは呆れているのか、彼は目を細め鼻を一つ鳴らす。


「……フムッ」


「ホッホッホッ。バーバリさん、これはこれは何とも心強い若者達ではありませんか。それでは皆さん、先ずはこの老体が先陣に立ちますゆえ、私の後にお続きください。セルフィ殿はミツさんの隣に、バーバリ殿は後衛の護衛に後ろにお願いしますぞ」


「は〜い。少年君、よろしくね」


「構わん。貴様の落ちた剣、この目で拝見させてもらおう」


 ゼクスを先頭にし、隣に盾のリック、剣のリッケ。

 中継にセルフィ、支援のミツ、サポートのプルン。

 最後に後衛を守る為にバーバリ、魔法のリッコとミーシャ、弓のローゼである。

 

 憧れのゼクスが共にパーティーに居る。

 それだけでも仲間達は上機嫌であり、今後経験できないであろうメンバーに、この一時を自身の経験にしようと更に握る武器に力が入る。


 以前試しの洞窟で出会った、グラスランクの冒険者のゲイツ。

 彼はミツ達へと助言の言葉を残していた。

 それはこの先、8階層以降は危険度が上がる為、お前達だけで絶対に行くな。

 その言葉を身に沁みて思い知るのは、モンスターの姿を認識した時であった。


 ブモオオォォォッッ!


「「「「「!?」」」」」


 戦うべきモンスターの姿を見た瞬間、皆の足は止まり、警戒高く武器をモンスターへと向ける。


「ほう。ここには牛鬼が居るのか」


「随分と偉そうに武器なんか構えちゃって。ゼクス、やっちゃいなさい!」


(あれは……牛の様な顔に、大きな斧を手に持つアレって……ミノタウロスだよね。本当に二本足だけで立ってるよ。おっと、鑑定してスキルみないと。鑑定っと)


ミノタウロス


Lv35  牛鬼族


鉄の斧


ノックバックLv3。


大絶斬 Lv2。


パワーチャージLv3。


猪突猛進LvMAX。



「では、セルフィ様のご期待に添えるよう、粉骨砕身と頑張らせて頂きますか。皆様、人としてモンスターに怯える。それは生き延びる上で失ってはいけないことです。ですが、冒険者として見るなら、相手に恐怖に屈してはいけません」


 ゼクスは腰に携えた自身の得意武器であるレイピアを引き抜く。

 洞窟内の壁からでる光を反射させ、彼は瞬時に武人の顔となる。

 武器を構えるゼクスを見たモンスター。

 ミノタウロスがゼクスを敵だと認識したのか、大きな身体とは裏腹に、斧と思える武器を握りしめたまま、素早いスピードで駆け寄り近づいて来る。


「来たニャ!?」


「くっ!」


「ホッホッホッ。私も老体。数体を相手するなら骨を折りますが、まだ一体なら……」


「「!?」」


 足元を蹴る音と同時に、素早くゼクスはミノタウロスの懐に潜り込む。

 その瞬間、ミノタウロスが斧を振り下ろす為と上げていた腕が宙を舞う。

 そして、ゼクスは更においうちとミノタウロスの首元にレイピアを突き刺し、瞬時にミノタウロスを絶命させてしまう。

 腕を切り落とされ、うめき声すら上げることなく戦いを終わらせるゼクス。

 彼の戦いに目を見開く仲間達は、これが引退した身とは言え、元シルバーランク冒険者の戦いなのかと言葉を失った。

 だが、ゼクスが切り落としたミノタウロスの腕を見たバーバリの言葉は更に若者達を驚かせた。


「フンッ。やはり力が落ちたな、ゼクス。以前の貴様なら斬った断面を血で染める事も無かったはず」


「「「!?」」」


「これはこれは、お厳しいですなバーバリさん」


 二人の会話がレベルが高すぎる内容なだけに、リック達はゼクスに倒されたミノタウロスをみて、脅威と言われるミノタウロスの危険度が分からなくなってしまった。

 ミノタウロスは一体だけなら、アイアンの冒険者パーティーでも倒せる範囲であるが、それでも危険度は高いモンスターである。

 知性はバルモンキーやスモールオークよりは上、しかし戦い方は単調であり、その攻撃をしっかりと見極めることが攻略の鍵である。

 ミツは倒されたミノタウロスとバーバリの持っていた切り落とされた腕をアイテムボックスへと回収後、なら次はバーバリさんが戦って見てくださいと進言する。


「フンッ! よかろう。どけ、ゼクス。貴様の戦い型はこいつらには合わぬ。次は俺が前に立つ。お前は小娘共の横にいるが良い!」


 大きな大剣を片手にバーバリが先頭を歩き出す。

 彼が先頭に立つと、意外だろうが見えない安心感をリックとリッケは感じていた。

 

 後衛の護衛を指示されたゼクスだが、やはり彼は有名人。

 彼はリッコ、ローゼ、ミーシャの女性人に黄色い声援を受けつつ、談笑を交えながら彼女達を護衛している。

 羨ましい立ち位置である。

 

 少し洞窟内を歩くと今度は二体のミノタウロスが姿を表す。

 バーバリは後ろで武器を構えるリック達に見ていろと指示を出し、自身一人だけミノタウロスへと歩みをすすめる。

 二体のミノタウロスはまだ戦っていないにも関わらず、息を荒々しくしている。

 そして、バーバリの大剣が先に動く。


「フンッ! オリャ!」


「「おー」」


 バーバリの大剣はミノタウロスの胴体を斬り、身体の上下を永遠の別れにしてしまう。

 ドシンと言う音だけが洞窟内に響き渡った。

 その戦いに驚きと感心する面々だが、一人だけゼクスとバーバリの戦いに少しだけ不満を持つ少年がいた。

 それがミツである。


(……まただよ。またスキル盗めなかったし)


 彼は内心、ミノタウロスのスキルを狙っていた。だが、ミツのスキル〈スティール〉を発動して、相手のスキルを奪うには条件がある。

 それは対象を状態異常にするか、瀕死状態にするの二択。

 この条件を一度でもクリアーしてしまえば、ミツはミノタウロスのスキルを何時でも奪う事ができる。

 しかし、初戦のゼクスも、次に戦ったバーバリも敵を一撃で倒してしまっている。

 このままでは、もう一つの目的も果たせずに終いとなるかもしれない。

 二人が強い事は十分に理解したのでここからは若者に頑張ってもらおう。


「はーい。それでは素晴らしい戦いの見本を二人に見せて貰ったので、次からは皆が頑張りましょう。はい、皆さん手を出してください、支援をかけるよ」


「えっ? お、おう。そうだな」


「ミツ君の言う通り。見てるだけでは強くなれませんからね!」


「牛鬼って魔法は効くかしら?」


「ほら! ミーシャもローゼも手を出すニャ!」


「えっ? ええ……。プルンさん、これって何の意味があるの?」


「良いから良いから、騙されたと思って手を乗せろっせ」


「ローゼ。ミツ君が支援をかけてくれるって言ってたじゃない」


「ミーシャ。支援って、こんなかけ方だったかしら?」


「ローゼさん、これはミツ君の強くなれるおまじないですよ。僕達もこのおまじないのおかげでこの洞窟で戦えるんです」


「そうそう。おまじない様々ね」


「おう! そう言えば、おまじないが無かった時はスケルトンの戦いもキツかったな」


「あれは固かったニャ〜。でも、ミツのおまじないで殴れる様になったニャ!」


 若者達が目の前で円陣を組む姿に疑問を持つバーバリ。

 だが、ゼクスとセルフィはこのおまじないを一度経験している身。

 後の戦闘が如何なるのか楽しみであった。

 皆の言葉に、もう能力上昇系スキルの名前はおまじないで良いかと諦めかけていたミツであった。


「……まあ、効果はちゃんと出てるんだから、呼びがおまじないでも良いけど」


 ミツが仲間達の談笑する言葉を耳にしつつも、自分と彼等に支援を発動していく。

 その瞬間、バーバリは目の前の青年達が、目に見えぬ闘技を高めたことに目を見開く。

 

「なっ……なんと……。フンッ、まったく。面白い小僧だ……」


 その場から歩き勧め、ユイシスの助言を聞きつつ洞窟内を進む。

 すると、ベースボールができる程の広々としたフロアに到着した。

 中のフロアには左右に道があり、どちらからでも下の階層に行けるルートとなっている。


「止まって、リック。ここで敵を待ち伏せするよ」


「来るのか!? ミツ、何匹来るんだ」


「うん……。右通路からは四体で、左からはニ体だね。それと、恐らくその後にまた右から連続で来るよ。武器は何を持っているのか分からないけど、恐らくまた接近戦の斧だと思う。リッコ、ミーシャさんは敵が見えたら先手の攻撃を仕掛けて。ローゼさんと自分は敵の足止めをするから、三人で一体を集中攻撃。一体倒したら次の敵に攻撃を仕掛けて」


 ミツの迅速な策戦に皆が頷く。

 ゼクス達は前衛のフォローをいつでも出来るように構えを取ってくれている。

 時間もおかず、洞窟の奥から獣が走るような足音が聞こえてくる。

 音が近づく度に皆の緊張感も高まり、タラリと顔の汗が滴り落ちる。


「来たぞ!」


「「「「「!?」」」」」


 ブモモモッッッ!!


 リックの声の後、通路から四体のミノタウロスが姿を表す。

 それと同時に、ミーシャはアイスランスである氷槍を、ミノタウロスへとぶつける。

 先端を鋭く尖らせた氷槍は全てとは言わずも、ミノタウロスの身体へと突き刺さる。

 そこに、すかさずとリッコが魔法を発動。

 彼女の構える杖先からは、光が発光。

 バリバリと音を鳴らし、ミノタウロスへとリッコのライトニングが直撃する。

 氷槍の突き刺さる痛みと、身体の内側から襲いかかる熱の熱さと激痛が襲いかかる。

 ミノタウロスは動きを止め、ガクリと膝を折る。


「今です!」


 ミツは弓を構えミノタウロスの肩を狙って矢を放つ。

 ローゼはボウガン使い。

 引き金を引き、矢を飛ばし、ミノタウロスへと命中させて動きを止めていく。

 更に追い打ちと、前衛の三人が集中攻撃を繰り出す。

 リックの盾がミノタウロスの顎を直撃し、意識を飛ばす。崩れる身体に合わせてプルンとリッケが短剣と剣をミノタウロスの胴体へと突き刺す。

 その攻撃に激痛に最後の雄叫びを上げるミノタウロスを鑑定すると、瀕死状態と表示されていた。


(よしっ! スティール!)


《〈ノックバック〉〈パワーチャージ〉を取得しました》


ノックバック

・種別:アクティブ

一定以上の攻撃ダメージを相手に与えると、後方へと移動させる。


パワーチャージ

・種別:アクティブ

相手へ攻撃を繰り出す際、攻撃ダメージにクリティカルダメージが加算される。

低確率にて、相手をスタン状態にする。


(二つだけ? 残り二つは盗みそこねたのか。でも問題ない! 残りのミノタウロスのスキルは先に盗む!)


「リッケ! お前がトドメを刺せ!」


「行くニャ!」


「くっ! はい! タアァァァ!」


 リックとプルンの声に背中を押され、リッケは胴体に突き刺していた剣を一度抜き、改めてミノタウロスの喉元へと剣を深く突き刺す。


 グボッ!?


 瀕死状態のミノタウロスは吐血を漏らし、先頭に立っていたミノタウロスが亡骸となり、地面に倒れる。


「先ずは一体! 三人とも、続けて攻撃!」


 倒れるミノタウロスを観戦し、動きを止めていた三人へとミツが言葉を飛ばす。

 残りの三体のスキルをミツがスティールして奪い取ると同時に、三人の武器が残りのミノタウロスへと刃が突き刺さる。

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