第129話 一踏ん張り。

「今日が最後のペナルティー依頼です。皆さん頑張りましょう!」


「「「おー!」」だシ!」


「……はあ」


 冒険者ギルドから課せられたペナルティーの依頼。清掃と運搬作業、その最後の清掃依頼である。

 普通なら初日と二日目に行った依頼も、軽く見ても二つ合わせて一週間近くはかかる依頼である。

 だが、それぞれの依頼を1日、いや、三刻を過ぎた程でその依頼を終わらせていた。

 予想以上の速さでペナルティー依頼を終わらせていることにエクレア、マネ、シューの三人のテンションも高くなり、自分の言葉に声を合わせてくれる。

 まあ、約一名。またお酒を飲みすぎたのかそのテンションに追い付けていない人が居る。


「ヘキドナさん、また飲みすぎですか? 気分が悪いならまた自分が治療しますよ」


 ヘキドナの体調が悪そうなので顔を覗き込みつつ、自分は掌を彼女の額に宛てようとするが、ヘキドナはその手をパシッと止めた。


「んっ……。フンッ、冗談じゃないね。この程度でいちいち治療してもらってたら体が弱っちまうよ。さっ! あんたら、エンリの最後の嫌がらせだよ、さっさとこの仕事を消しちまうよ!」


「「「おう!」」」


(本当に大丈夫かな……。ステータス画面に思いっきりバッドステータスの二日酔いって出てるんだけど)


 ヘキドナの体調を心配し、自分は彼女のステータスを鑑定表示していた。




名前 『ヘキドナ』 人間族/24


性別女 身長168  体重55.8キロ

B94 W63 H92


状態異常_二日酔い


アマゾネスLv8


【剣術】【鞭術】


街娘の衣服 レザーパンツ


※※※※※※※※※※※※※※※※


HP :110


MP:9/9


攻撃力:74+(5)


守備力:45+(5)


魔力:4+(5)


素早さ:45+(5)


運 :34+(5)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【ノービス】   Max

【ソードマン】  Lv3

【シーフ】    Lv4


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【【乱舞:Lv3/10】】


【【蛇鞭:Lv5/10】】


【【狙い打ち:Lv3/10】】


【【バッシュ:Lv1/10】】


【【不意打ち:Lv2/10】】


※まだ幼き頃に母を病で失い、妹のティファと共に生きてきた。その妹であるティファも死去。10代の頃に男冒険者に妹共に襲われそうになった為、自身より歳が上の男性に対して無意識と嫌悪感を出すようになってしまっている。冒険者の仲間を増やしチーム『レディースブラッディー』を設立。自身に合うジョブを求め、幾度かジョブを変更した経験あり。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ヘキドナのステータスには二日酔いのバッドステータスがしっかりとスリーサイズと共に表示してある。

 その為、ヘキドナのスキルが〈スティール〉できる状態にも表示もしてあった。

 いや、盗りませんから。


 彼女は無理やりに腹から気合を出す程の声を出し、妹達であるマネ達をけしかける。


(はあ……。気持ち悪い……。これくらいなら……平気か)


「よく来たね、あんた達……ん?。……さあ、今日はお湯の抜き出しの日だよ。お湯を抜く間に、あんた達には風呂場の汚れた垢をしっかりと落としきってもらうからね!」


 風呂場の責任者であるリンダが腰に手を当て、声を張り上げる。

 リンダはヘキドナ達と共に並ぶ自分の顔を見て少し驚きに眉をあげた。

 自分がお客としてではなく、今日の清掃する者の中にいたことに驚いたのだろうが、リンダは直ぐに今日やる清掃の説明をし始めた。


 昨日、エクレアとシューが掃除した場所。

 その場所がお湯を出すための排水路だったので、エクレアが昨日清掃を終わらせていなかった場合、今日はその場の清掃からのスタートだったかもしれない。

 エクレアの生真面目さを、マネは彼女の頭をワシワシと撫でまわして褒めていた。


「うわ〜。マネ、止めてよね! 髪が乱れる!」


「おっと!? 悪い悪い。さてと、おばさん、掃除ってどこからやればいいっての?」


「ふっ。威勢のいい娘だね。先に男湯の方からやってもらうよ。そっちはもうお湯は抜け終わってるはずだからね」


「よっしゃ! 今日も早めに終わらせて飲みに行きましょうよ姉さん!」


「ううっ……」


「およ? 姉さん、どうしたんです?」


「マネ……。マネは少しはお酒を控えた方がいいシ。そんなに毎日お酒ばっかり飲んでたら、マネの頭が莫迦になるシ……。あっ、もう莫迦だったシ」


「ゴラァ! シュー、誰が莫迦だい! それに飲むときはあんた達と一緒にいつも飲んでるっての! アタイが莫迦になるならお前さんも同じ莫迦になってるっての! あっ、お前さんはもう莫迦だったね」


「ナヌッ!」


「なんだい!」

 

 シューはマネに飛び付き、顔を近づかせてマネに威嚇のつもりなのか、彼女はチワワの様にガルルと唸り声をあげる。

 するとマネもシューへと顔を近づかせ、彼女もシューへと眉間を寄せて睨みを効かせる。

 二人の突然の口喧嘩に頭を抱えるエクレア。


「はあ……。また喧嘩……。もう、二人ともつまんない事でいちいち言い争いなんてしないでよ。リーダーも二人を止めてください」


「はぁ……(気持ち悪い)」


「あははっ……」


 自分が乾いた笑いを溢していると、ポンと背中を軽く叩いてくる人が後ろに。


「まさかお前さんも来るとはね……。お前さんには悪いが、客人としてなら迎え入れたけどね。ここで働く者としてならあたしは厳しいよ」


「リンダさん、今日はよろしくお願いします」


 自分の言葉にリンダは笑みを返す。


「よし。さー娘さん達、口を動かすなら体を動かしながらでも良いだろう。女湯の湯が抜けるまでには男湯を終わらせておくれよ」


 リンダはパンパンと手を叩き、騒ぐマネ達を黙らせて男風呂の清掃へと向かわせる。

 男湯は女湯程広くはないと言うが、脱衣場を入れて大体80畳程度だろうか。

 中には身体を洗う場所と浴槽四つが配置されている。

 中に入るなり、マネは鼻を摘み、浴槽内の匂いに悪態をはく。


「うへ。何だろうねこの匂い。男湯ってのは特別な香草でも焚いてるのかい?」


「? いえ、別に中で火など焚いてませんけどね?」


「くさ〜い」


「シュー、ブツクサ言ってないでさっさとやるよ。って、あれ? リーダーどうしたの?」


「私は脱衣場の掃除をするから、あんた達中4人で中をやってきな」


「えっ? リーダー一人でやるの?」


「ああ、これぐらいの広さなら一人で片付けれるからね。取り敢えずさっさと扉を閉めな!(匂いで吐きそうなんだよ!)」


 ピシャリと扉を閉められ、少し唖然とする面々。


「まあ、男湯のこの広さなら直ぐに終わるっての。お前ら、姉さんよりも早く終わらせるよ!」


 ヘキドナの代わりにこの場はマネが仕切ると、彼女は声をだす。

 自分とシューとエクレアは掃除道具を掲げ気合の声を出す!

 匂いの元はお湯を抜いた後に浴槽に溜まった垢などの汚れが原因であった。

 汚れの固まりとなっていたせいか、排水路の途中で詰まってしまったようだ。


「こりゃ完全に途中で詰まってるみたいだっての……。ちょっとアタイ、外から詰まったところを突いて来るよ」


「マネ、ウチが排水路の場所を教えてやるシ」


 その言葉を残し、マネとシューの二人が排水路の場所へと出ていく。

 先程の喧嘩は何処へやら。

 二人は笑いながら行ってしまった。


 エクレアと残された自分は先に他の場所の清掃を始めることに。


 バシャ! ゴシゴシ……。

 バシャ! バシャ! ゴシゴシ……。 


 汚れた場所に水をかけながら、こびり付いた汚れをブラシで擦り落とす。

 先程までお湯が張っていた場所だけに、少し蒸し蒸しとした熱気が掃除をする二人の肌に汗を流させる。


「大丈夫ですかね……」


「ああ? 何が? あの二人なら直ぐ戻ってくるよ」


 自分の呟きに額の汗を拭きながら答えるエクレア。

 彼女が顔を上げると頬の汗が彼女の胸元へと流れる。


「……いえ、マネさんとシューさんではなく、ヘキドナさんの事です」


「んっ? リーダーがどうしたの?」


 二人の視線は脱衣場を掃除しているはずのヘキドナの方へと向く。

 脱衣場の方からはガタゴトと何やら物音がするのでヘキドナが掃除をしているのだろう。


「いえ。ヘキドナさん、昨日のお酒の影響なのか、今は二日酔い状態じゃないですか。そんな体でひとりで掃除って言うのも心配で」


「えっ? リーダー、体調が悪かったの!?」


「ええ。エクレアさんは気づいてなかったんですか?」


「あ……。いや。リーダー、朝御飯をあんまり食べてないなとは思ってたけど……。ってか、よく君はリーダーが二日酔いって分かったわね?」


「……ん〜。まあ、人の顔を見れば大体の体調は分かりますから」


 本音を言うと、相手を鑑定すれば状態異常ならばステータスと共に表記されるのだが、それをエクレアに言う事もあるまい。


「へ〜。君は人の治療もできるから、やっぱりそう言った事もできるのかな?」


「さぁ、どうでしょうね……ってか。あの……。エクレアさん、先程から少し近いですよ」


「んっ? そうかしら?」


「そ、それと。あの、言いづらいのですが、エクレアさんの服が少しはだけてますから、目のやり場に困るんです」


「ふふっ。私は全然気にしないわ。別に見たかったら君なら見せても気にしないわよ?」


「なっ!? 茶化さないで下さいよ! さっ、掃除を済ませましょう」


「……ふふふ」


 ヘキドナの事も気になるが、今は先に掃除を終わらせるためと自分は汚れた床を磨き続ける。

 エクレアは目を細め、不敵な笑みを見せ、周囲を見回した後に自分の方へと近づいてくる。

 床にブラシを擦りながら感じる視線の方を見ればエクレアがこちらを見ていた。


 ゴシゴシ。シャッシャッ。


「……」


「ニコッ」


 ゴシゴシ。シャッシャッ。


「……」


「フフッ」


 ゴシゴシ。シャッシャッ。


「……」


「チラッ」


「何で態々自分の横に来るんですか! ってか最後のチラッって絶対わざとでしょ!」


 エクレアは自身のはだけたシャツをめくり、自身の豊満な胸をチラッと見せる。

 思わず掃除の手を止め彼女へとツッコミを入れてしまった。


「アハハハッ。解っちゃった? ねえ、君はこんな女の子嫌いかな……」


「えっ……。そりゃ嫌いなんか……思いませんけど……」


「フフッ。ねえ……私ね。予選で君に負けたのはすっんごく腹立たしくてムカついたけど、今は違うの」


「あっ……ははっ。それは申し訳ないです」


「良いの。言ったけど、今は違うの……。今はね君のような強い男が近くに居たんだなって……。ほら」


「!?」


 エクレアは頬を赤くさせ、自分の手を両手で取り自身の胸へと押し当てる。

 彼女の胸から伝わる鼓動。

 トクットクッと小動物の様に鼓動は早く動き、自分の手にそれが感じられる。

 

「ねっ? ドキドキしてるでしょ……。君の周りに可愛い子がいっぱい居るのは知ってるけど、私ね……」


 エクレアは最初こそ只の悪戯心でミツを茶化していた。

 だが、彼女の中で今まで芽生えたことのない、年下の男の子をなぶると言う経験したことの無い感情が、彼女の脳内に電流を走らせた。

 子犬のようにソワソワとした態度。

 見ては失礼と思いつつチラチラと自身を見てくる少年。

 そんな感情にブルブルと身震いさせつつエクレアはミツの頬へと手を添える。

 掌に伝わる少年のビクッとした反応。

 それを見たエクレアはペロリと唇を舌で舐めると、自身の口から熱い吐息が漏れ出す。


「エ、エクレアさん……。その、後ろ……」


「……んっ? 後ろ?」


「お前は子供相手に何やってるんだい!」


 ミツの視線と指先がエクレアの後ろを指を差し、その後直ぐに自身の頭に衝撃と痛みが走る。

 ゴチンッと意識を飛ばしそうな音が聞こえた時には目の前がチカチカと星を散りばめた光景にエクレアは痛みに頭を抑え悶ていた。


「イデぇぇぇっ! おおおっっっっ……ちょっと、マネ……。アンタね……本気で痛いんだけど……」


「ミツ、大丈夫だったかシ?」


 マネの肩から飛び降り、駆け寄るシュー。 

 

「シューさん……。は、はい」


「まったく! 少し目を離すと色ボケやがって! 莫迦な事やってないで掃除やりな!」


「マネ! よくも!」


 まだ頭が痛むのか、エクレアはマネを睨むが直ぐに頭の痛みで目を瞑り、彼女は痛みに耐えるように蹲ってしまった


(は〜。メッチャ焦ったし……)


 突然のエクレアの露骨なアプローチに、語尾がシューみたいになってしまった。

 エクレアが莫迦な真似をまたしないようにと、マネが彼女と共に掃除を始める。

 シューも一応自分にフォローをしてくれている。が、実はブラシでお風呂場の床を掃除するたびに、彼女のシャツの隙間から小さな苺が幾度も見えてしまっていて、シューの方にも視線をやるのは少し躊躇っていた。

 だからといってマネの方を向けば、リッケが興奮した彼女の引き締まった臀部がフリフリ。

 エクレアの方を見ればユサユサと彼女の胸がリズムよく揺れている。

 中々見慣れていない光景に自分は気づかずに耳まで真っ赤になっていた。


「ふー。終わったシ。んっ? うわっ! ミツ、顔が真っ赤だシ!」


「えっ?」


「あらら。ミツ、熱さにやられたのかい? アンタもだらしないね」


「ホント、耳まで真っ赤っ赤ね。大丈夫?」


 掃除が終わったと近づく三人。

 蒸し暑い室内の掃除に三人とも汗でシャツは透けており、肌が見え隠れしている。

 また女性特有の甘い香りなのか、それがまた自分の意識をぼーっとさせた。

 少し後ろに後ずさりすれば、自分の頭に柔らかいものがぶつかり足を止める。


「おっと。何をやってるんだいあんた達は。んっ? 坊や、少し熱いね……。お前さんは少し休んでな」


 自分を受け止めたのはヘキドナであった。

 彼女も今日は掃除と言う事でシャツ1枚と薄着での作業。

 彼女の胸を枕にしつつ、ヘキドナは自分の額に手をあてがえ温度を測る。 

 冷たいヘキドナの掌に心地よくしていると、ヘキドナは眉を上げる。


「いえ。少し外で涼めば治まると思いますから、休む程では無いですよ」


「そうかい。なら、そろそろ私の胸からどいてくれないかね」


「!? わっ! す、すみません」


 慌てて離れる自分の姿に鼻で笑うヘキドナ。

 そんな彼女を見てエクレアがまた露骨なアプローチを仕掛けてきた。


「もー。リーダーを枕にするなんて君は失礼だな。リーダーを枕代わりにするなら私で我慢しときなさい」


「わっ!」


「エクレア、お前さんはまた……」


 エクレアは自分の頭を掴み、自身の胸へと頭を押し付ける。

 その光景に呆れる面々。


「ふふんっ。私もリーダー程じゃないけど胸には自信があるんですよ。どう、少年? 癒やされるでしょ? 熱なんてぶっ飛んじゃったでしょ?」


「……」


「あれ?」


 自身の胸に顔を押し当てた少年がまたあたふたとすると思っていたエクレアだが、少年はスンと動きを止めてしまった事に彼女は訝しげに眉を寄せる。


「あの、エクレアさんの優しさはとても嬉しいのですが……。その、シャツの汗が顔に張り付いて正直あんまり気持ちよくはないです……」


「!? フンッ!」


 思わぬ言葉にエクレアは少しムッとし、少年の頭をその辺に捨てる勢いと放り投げる。


「ボヘッ!」


「「ミツ!」」


「はあ〜。遊んでないで次に行くよ」


 お昼の休憩を入れた後、女風呂の清掃に取り掛かる予定を立てる。

 女風呂は男風呂の倍の広さ。

 いや、もう倍とは言わない。

 ハッキリ言って三倍はあろうと思える広さであった。

 女湯は男湯の溜め湯タイプではなく、常に新しい湯が流れる流し湯タイプ。

 これは利用者数の割合がほぼ女性が一番の理由であろう。

 また、お風呂には子供達だけで入れる低めの温度であり、子供が溺れない程度の浅瀬の湯もある。

 体を洗う場所も男湯と比べたら倍以上。

 それを見ただけでもこの臨時の風呂場の利用者数の割合が想像できる。

 お昼ご飯を食べながらそれぞれの割り振りを決めていく。


「それじゃ、私とエクレア、マネは脱衣場の掃除だね。お前さんとシューは浴槽を頼んだよ」


「アネさん、了解だシッ!」


「ああ。午後になればここで働いている奴らも掃除を手伝いに回してくれるそうだから、それ迄は二人で気張りな」


「はい」


「ミツ、頑張るシ!」


「は〜。ミツを持って行かれたか。姉さんの言葉には従いますけど。んー。姉さん、ミツとエクレアを交換しませんか? あいつが居た方が掃除のスピードが段違いなのは明らかですよ?」


「ちょっとマネ! 私がお荷物とでも言いたいの!?」


「いやいや。そんなつもりはないっての。ただ、お前さんより水魔法が使えるミツの方が汚れ落としには便利だって思っただけだってのさ」


「便利ですか……ははっ」


「マネ、その言い方だとミツにも失礼だシ」


「おっと! わりいわりい。ミツ、別にお前を道具扱いしてるつもりは無いっての」


「いえ、大丈夫ですよ。それじゃ自分とシューさんで取り敢えず頑張りますか」


「シシシッ。ミツ、掃除中に石鹸踏んで転ぶような真似しないように注意するシ」


「オイコラッ! シュー、さり気なくアタイを莫迦にしてるだろ!?」


「なんの事だシ〜」


 男湯の掃除中の出来事であった。

 マネは誤って足元に落ちていた石鹸を踏んでしまい、彼女はスッ転んでしまい、その時水をいれていた桶をひっくり返し、その水を近くに居たエクレアが被り、その弾みで彼女の持っていたブラシがシューに飛んでいき、彼女のお尻に刺さりクリンヒットしてしまうプチピタゴラスが発生していた。

 彼女たちの痛みは直ぐに〈ヒール〉で治したが、シューはさり気なく根に持っていたようだ。

 まあ、マネは尻もち程度、エクレアも水をかけられる程度だったが、シューは突然お尻に棒が刺さる痛みを経験させられたのだからマネに恨みはあるだろう。


「ふ〜。満腹だっての。ミツの飯はヤッパリ美味いね」


 マネがペロリと口元を舌で舐め回す。

 先程お昼ご飯を食べに行こうかと話も出たのだが、態々着替えるのも面倒であり、何より彼女達は今着ている服しか持ってきていないそうだ。

 なら自分が作ろうかと提案すると、ヘキドナ含め、彼女達は二つ返事で頼むと言葉を返してきた。

 汗もかいて疲れもある。

 だけどやはり食欲もあるのでランチとしてそこそこにお腹に溜まる物を考えることにした。

 

 さて何を作ろうかと思いつつ、アイテムボックスへと手を入れ取り敢えず出したパンを見ながら作る料理を考えてみる。

 そうだと思い、自分も久々に食べたくなった物を作ることにした。

 その為には調理器具が必要なのだが、あいにくアイテムボックスの中にはフライパンと鍋数個しか入っていない。

 無いなら作ろうと、先ず取り出したのは大会中にシャシャに綺麗に二つに斬られた大剣。

 それと、セルフィ様との弓の対決中にゼクスさんから頂いた的に使用していた木材。

 これを〈物質製造〉を使用し、グニャリグニャリと形を変えていく。


「よし、できた。握り部分もこれで熱くない」


 自分がスキルで作ったのは直火焼き用のホットサンドプレート。それを4つ作り出す。

 これを使い、自分が作るのはクロックムッシュである。

 パンを挟んで表面はカリッと、噛めば中から溶けたチーズと熱々のハムの塩気が更に旨味を出す簡単料理。

 即席のバーベキューコンロを作り、たい焼きを作る感覚とくるくるとプレートを回して表面に火を入れていく。

 パンの焼ける匂いに引き寄せられたか、1つ焼いてみせるとシューとマネが面白そうと言って代わりにいくつも焼き始めてしまった。

 ヘキドナとエクレアはパンに材料を挟む役割をしてくれた。

 自分は焼けたクロックムッシュを皿に盛り付ける係だ。

 

 自身の腹をポンポンと叩き満腹感を表現するマネ。

 そんな彼女に自分はコップを1つ差し出す。


「お粗末様です。はい、マネさん。午前中でタップリと汗をかかれましたからね、これを飲んで塩分補給と体調を管理してくださいね」


「何だいこの濁った水は? 井戸水かい?」


 マネに差し出したコップに入った飲み物。

 マネの言うとおり中身は白く濁って井戸の水と見間違える品かもしれない。


「いえ、違いますよ。これは、えーっと」


(スポーツ飲料ってなんて言えば良いんだろう?)


 そう、コップの中身はスポーツ飲料水。

 脱水症状防止、運動の疲れを軽減させる飲み物である。

 マネ達にスポーツ飲料と言っても分からないだろうし、彼女達にも分かるようにそれは栄養ドリンクと答えた。


「栄養ドリンクですかね?」


「何で疑問文なのさ……。まっ美味そうな匂いもするからアタイは何でも構わないっての。いっただきま〜す」


「マネは喉が渇いたらスライムも平気で飲むシ」


「わー、マネさんワイルド……」


 この世界のスライムは核を取れば残るは只の水であり、冒険者の中ではマネの様にスライムは飲み水と考える人もいるようだ。

 しかし、スライムの中にも泥水のような土色をした物や、毒を含んだ物もある。

 その見極めができるのは長年の冒険者としての経験ではないだろうか。

 自分は喉が渇けば自身で〈ウォーターボール〉の水玉を出すか、アイテムボックスから水の入った飲み物を出せば済む話なのだが。

 ここで一つ、自分の出す水玉とミーシャや他の魔術士が出す水玉で大きな違いが1つあった。

 それは水の透明度と純水度。

 この違いは魔術士の水のイメージが、発動する水玉へと影響を出している。

 自分の場合は浄水された水が水玉となって出現するが、冒険者のミーシャの場合は、川や水溜りにできた水のイメージが強く、発動すると少し濁った色を出している。

 ミーシャも水は浄水された不純物の無い水を使い、毎日飲み続ければ、彼女も綺麗な水玉を当たり前の様に発動できるようになる。

 しかし、これはまだ魔術士の中では解明されてはいない内容である。

 とある魔術学園では、水玉の透明度は発動者の魔力によって変わるのだろうと大々的に発表されたりしている。

  

「プッハー! これは美味い! ミツ、これはまだあるかい?」


「はい、まだまだありますから、飲みたいならどうぞ。ヘキドナさんも水よりこちらを飲んでくださいね」


「あっ、ああ。水よりも飲みやすいから、なんだか気分も楽になるね」


「それは良かった」


「……フンッ」


 二日酔いのヘキドナには特に飲んで欲しい飲み物がこれである。

 本当は魔法でヘキドナの状態異常である二日酔いを治せば早いのだが、彼女がそれを拒むなら食事でフォローすれば良いと思った。

 屈託の無い少年の笑みに、ヘキドナは少し頬を染め鼻を鳴らすのだった。


(ふ〜。そろそろ今日には帰ってきそうだな……)


 自分はエクレア達の会話を聞きながら、スキルの〈マップ〉を発動していた。

 マップにはこのライアングルの街を中心とした、半径20キロを画面表示してある。

 画面にはいくつもの青いマークが点灯しつつ、ゆっくりとだが街へと近づいている。

 このマークは仲間であるリック達8人である。

 護衛依頼を無事に終わらせ、トトとミミのブロンズランクの採取依頼も完了させたのだろう。

 彼らの様子は適度にマップで確認していたが、寝る時は街や村を使っていたので夜襲を受けたりの危険はなかったと思う。

 皆が帰ってくる頃には、自分もこの依頼を終わらせているだろう。

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