第122話 送る思い。
ダニエル達がひらいた緊急会議の後日、お昼に差し掛かる前に鳴るニの鐘と共に、武道大会闘技場を中心とした場所から周囲へとカイン殿下の声が響き渡っていた。
「以上の内容にて、今回の武道大会を中止とする事を伝えると共に、民である皆に不安を与え、恐怖を植え付けた者へ、我は必ずや厳罰を与えることをここに宣言する!」
カインの言葉に、大会の中止は残念だが仕方ないと言う声があちらこちらから聞こえる。
また、ステイルが殺めてしまった大会係員数名の関係者、親族、友はその言葉に涙を流していた。係員を殺めたのはステイルだが、ステイルはすでに死亡。だが、それで済む話ではない。
マトラストの入れ知恵にて、カインは錬金術師協会へとガサ入れを行う事を提案している。
カインの言葉が終わった後、次にダニエルの声が聞こえてくる。
「皆の者。この度不運にも命を散らした者の為、王宮神殿である巫女姫様が祈りを捧げる事となった。耳を傾け、神への言葉を聞き漏らすことなきよう」
ダニエルの言葉にざわざわと騒がしくなるが、衛兵達が静まれと一喝した言葉を飛ばせば、その場はシーンっと静寂が満ち、静まりかえっていた。
皆の注目が魔導具のスピーカーへと向けられる。
静かになった街の中に、創造神であるシャロットに容姿も声も似たルリの声が響き渡る。
「遠く遠く亭々にいらっしゃいます神々よ。
命を生み出す母マザーファンヌ。
我の祈りの言葉を聞き届けたまえ。
一雫から頂きこの命を貴女様にお返しすることをお許しを。
新しく命を授かりし時、願わくばどうかお返しいたしました雫を今一度お与えくださいませ。
深き眠りと目覚めにて春の宴と共に、芽吹命の声がまた我々に届きますように……」
巫女姫であるルリの言葉が街に広がる。
その後、カーン、カーン、カーンと鐘が鳴り響きわたった。
「マザーファンヌって誰だよ……」
思わず自分が口にしたその名。
聞いたこともない名前に考えているとユイシスから言葉が飛んできた。
《ミツ、マザーファンヌと言う神はおりませんが、命を創り出す神と言えばご主人様ではないでしょうか》
(だよね……。シャロット様の名前が知られてる訳じゃないから仕方ないけど。マザーファンヌ……。多分、昔のお偉いさんの名前から取ったとかじゃない? 自分が日本に住んでた頃に海外の教会では、とても偉かった人の名前を忘れないようにって神様の名前に使われてるって聞いたことあるし。その国の習慣みたいなもんだよ。プルンも以前神様は一柱しか居ないみたいな話をしてたし。でもユイシス。神様って他にも居るんだよね?)
《はい。まだミツの会ったことない神々が数柱いらっしゃいますよ》
(まあ。そりゃいるよね)
祈りを捧げるためと近くに住む人々が教会へと足を運び並んでいた。
その中には冒険者もちらほらみうけられる。
プルンも今日は教会が忙しいのか、母のエベラと姉のサリーと三人でシスターとして働いている。
「あれ? あれってリック達じゃない?」
窓から教会へと並ぶ列を見ると、列の中にリックとリッケとリッコ。そして見覚えはない男性と女性の二人が共に話しながら列に並んでいた。
男性を遠目から鑑定してみると、名はベルガーと表示され、ステータスの詳細に三人の父であることが記載されていた。
となると、隣に一緒にいる女性は奥さんだろう。鑑定してしまうと三人の母のスリーサイズが鑑定表示されてしまうので、あえて女性への鑑定は控えておく事とした
「家族揃ってお祈りにきたのかな」
「ミツさん、どうしたの?」
「んっ? ああ、アイシャ。ほら、リック達も祈りの列に並んでるんだよ」
「本当だ」
アイシャは身を乗り出し窓から外を見ると、長い列の中から三人を見つけたのだろう。
ひらひらと手を降る姿を見て、三人もアイシャの姿を見つけたと解る。
ちなみにアイシャが自分の部屋にいる理由だが、別に疚しい事をしていたわけではない。だって母のマーサもこの部屋にいるのだから。
彼女達には、今ある事を手伝って貰っている。
それはアクセサリー造りのお手伝いだ。
何故そんな事をしてるのか。
それは数日前、露店の店で買ったアクセサリーが関係していたりする。
露店で売っていたアクセサリーは身につけると、その人のステータス向上効果を持つ魔力付与品であった。
ネックレスの中央に埋め込まれた宝石。
いや、宝石と言う程ではないが、石に属性などの付与がされているのだろう。その為に石は絵の具で色を付けたような物であり、輝きは殆ど無い。
「アイシャ、そんなに身を乗り出すと危ないわよ」
「は〜い。それで。お母さん、できたの?」
マーサの注意を受けたアイシャは軽く方をすくめた後、マーサの隣に座り、彼女が作っていた小物を覗き込むように見る。
マーサはギュッと結び目をしめると、ハサミで余った糸を切る。
完成した物を自分にも見える様に掌に乗せて見せてくれた。
「ん〜。これみたいに、狩の時に持っていくお守りなら作った事はあるんだけど。やっぱり流石に流行りのアクセサリーとかは私は作れないわね。ごめんなさいね」
マーサが作ったのはミサンガによく似た、糸を複雑に編み込んだお守りであった。
糸の色を変えていけば模様を映し出すことができる品。
主に狩猟時の安全を願ってのお守りを作ってくれたようで、いつも作っていると言う事もあって中々の出来栄え。
昔はやったミサンガと違い、これは切れない方が縁起が良い物と言われている。誤って切らないように主に足首に結ばれているそうだ。
「いえ。寧ろこっちの方が喜ばれると思うので助かります。お〜。凄いですね。紐だけでこんなにも複雑にできるなんて」
マーサが作ったお守りは大体10cm程度だが、これは普通に売り物としても成り立つのではないかと思う程の出来栄え。
「ふふっ。そんなに喜んで貰えると嬉しいわ。これはね、長い程に守りの効果を高めてくれるの。お守りだから本当に怪我をしなくなるって事はないんだけどね」
「なるほど。マーサさん、ちなみにこれに小石を埋め込む事ってできますか?」
「小石を? そうね……。出来上がったこれに必要な所とか、糸で結んだ後に石を包み込んじゃえばできるわよ。でも、包んでるだけだから激しく動かしたりしたら、石は簡単に落ちちゃうわね」
「そうですか……。なら、こんなふうに石に穴が空いてれば落ちませんか?」
自分はテーブルの上に置いてある着色された小石をてにして〈物質製造〉スキルを発動させる。
一度グニャリと形を変えた小石は円形状になり、真ん中に穴を開けた。
石の大きさはあまり変えずに、それをマーサへと差し出す。
マーサは目の前で見せられたスキルに一度目を瞬かせるが、直ぐにその顔は笑顔となっていた。
「まあ。ふふっ。ええ、これなら糸を数回通せば落ちないわね」
マーサは受け取った穴の空いた石をお守りに当て替え、衣服のボタンを付けるようにシッカリと縫い付けてくれた。
「これでいいかしら?」
「はい。ありがとうございます。これを基本として自分でも作ってみます」
「いえ。あなたのお役に立てて良かったわ。この程度ならいつでも言ってちょうだい」
「ミツさんも作るの? 誰に?」
「んっ。これはお世話になった皆に作る予定だよ。金銭を渡すお礼もあるけど、自分は気持ちのこもった方が自分でも貰って嬉しいからね」
「そっか……」
アイシャは母の作ったお守りを見ながら、眉を少し上げる。
「マーサ。そろそろ買い出しに行こうじゃないか」
「はい、お母様」
「お婆ちゃん、叔父さんも何処か買い物に行くの?」
「ああ。村の畑で使う農具や狩猟時に使う道具を買いに行くんだよ。後は帰ってくる若者の寝具や雑貨が諸々必要になるからね。今はお祭り、お店の人もこの盛り上がりに便乗したいのかこの時期は物が安く買えるんだよ。ちなみにバンは1日荷物運びだよ」
ギーラは久し振りの街での買い物と言うことで少し嬉しそうだ。後ろで立つバンはその言葉で苦笑いを浮かべていた。
「そっか〜。ミツさんは今日はどうするの?」
「自分は今日は教会で休んでるよ。最近毎日バタバタしてたからね」
「なら、私もここでミツさんとお留守番してる」
「これこれ。アイシャ、ミツ坊は疲れてるんだ。今日くらいはゆっくりさせてあげなさい」
「え〜」
「ギーラさん、自分は構いませんよ」
アイシャと共に部屋で留守番していることをギーラへと伝えると、アイシャは嬉しそうに笑みを浮かべ、保護者三人はやれやれとした感じに買い物へと部屋を出ていった。
ギーラの買い出しは、スタネット村へと帰ってくる出稼ぎの若い人達を迎えるには必要な物であった。
スタネット村には多額の寄付金が送られた。
その金を使用しては、貧困で荒れてしまった村の復興の為、今、村で畑を荒らす獣避けの柵などが雇われた数多くの職人の手で、着々と作業が行われている。
ミツへと感謝の言葉が一番の目的であったギーラ達であったが、ミツへと賭けたお金が増えた事に、今日は村で使う道具の調達と街へ繰り出している。
「さてと。やるかね」
自分はアイテムボックスに手を入れ、中からアクセサリーを次々とテーブルの上へと置いていく。
「これって前皆と見た露店の飾り物? ミツさん、こんなに買ってたの?」
「うん。色々と試したくてね」
「何するの? 私も手伝うわよ」
「ん〜……。いいのかな……」
アイシャはあまり村から出たことのない村娘。
そんな子が折角街へと足を伸ばして来たと言うのに、部屋の中で黙々と作業をしてもらうのも申し訳なく思ってしまう。
自分が遠慮がちな返答を口にすると、アイシャは少し驚きの後、眉尻を下げては悲しげな表情となってしまう。
「えっ……。私、邪魔かな……?」
そんなアイシャの善意の気持ちを、自分は無下にもできない。直ぐに首を横に振り、アイシャへとこちらからお願いするように言葉を返した。
「いやいや。勿論手伝ってくれるなら助かるし、アイシャが嫌じゃ無ければ、寧ろ手伝って欲しいかな」
「うん!」
アイシャの表情がパッと明るくなったことに、口からホッと安堵の息が漏れる。
「アイシャ、この石は魔力付与品ってのは覚えてる?」
「うん。何となく。確かミツさんと仲間の人がそれを手にしたら光ったよね?」
「そう。これはその人の持つ魔力の属性に対してこんなふうに光出すんだよ。尚且つその人の魔力を上げてくれる意外と有能な魔導具なんだ」
「えっ? 魔導具? アクセサリーじゃないの?」
「いや、魔法攻撃力をあげるなら自分はそれを魔導具として見ても良いと思ってるだけだから。一般的にはただの髪飾りやネックレスなのかもしれない」
「ふ〜ん。それで? それをどうするの?」
「うん。それとは別にね、こっちを見てもらいたいんだ」
アイシャの目の前に差し出したのは、飾り付けなどされていない材料の状態の物を見せる。
それを魔力付与されたネックレスとテーブルの上に並べると、アイシャは二つを交互に見始める。
「ん? ねえ、ミツさん。これは作りかけの物にも見えるけど……?」
「アイシャの言うとおり、これはまだ作りかけだし、全くの別物だよ。これは同じ様に作ったとしても、その人の魔力を上げるんじゃなくて、別の能力。ステータスを上げるみたいなんだ」
露店に並ぶ商品である魔力付与品へと鑑定を使用してみたところ、リッコが手にしたネックレスには火属性効果アップの表示がされていた。
同じ様に、ミーシャが手にした物にも似た様な効果が表示されていた。
しかし、効果の備考に『火属性効果アップ(小)』とあったので、付与の効果は薄いかもしれない。
ならば効果が(中)や(大)が無いかと並ぶ商品を次々と鑑定するが、基本露店に並んでいた物は(小)しか置いてなかった。
商品は数多くあり、基本としては魔力を上げるものばかりだったが、露店の下に籠に無造作に入れられていたアクセサリーに視線をやった時自分は少しだけ目を瞬かせた。
何故ならそこには形は歪であり、艶もないその辺に転がっていても違和感のないただの石にも見えるが、それも付与が施された物であったからだ。
それを鑑定すれば攻撃力アップ(小)や攻撃速度アップ(小)素早さアップ(小)守備力アップ(小)と、様々なステータスを上げることができる物ばかり積み重なっていたのだ。
籠に食いつくように見ていると、露店の主人は申し訳なさそうにそれは加工品として使えない物だと説明し始めた。
なんでも、魔力付与品はキラキラとアクセサリーとしても見栄えが良いが、籠に入れている物は加工も難しく、輝きも薄い。
それに何よりただの石に見える物を誰も買わないので失敗作として籠に入れていたようだ。
店の主人の言葉に、この人は自身で宝を捨てていると自覚していないのではと思い、彼を鑑定してみるが、主人が魔力付与ができるジョブでもスキルを所持している訳でもなかった。
彼のジョブは商人である【マーチャント】であり、ジョブレベルは4であった。
スキルの中に〈小物作り〉と面白いスキルを所持しているがそれもレベルは2。
ただの趣味から始めた商売人であるからして、失敗作と言った物が貴重品だと判断がつかなかったのだろう。
これも一応付与がされていると主人に伝えると、彼は少しだけ苦笑いを浮かべそれでもそれは売れないものだと断言してしまった。
ならば、自分は籠に入った失敗と言われた付与された石を全て買い取ることにした。
石は付与された物だと言う事だが、元々主人が捨てる物なのでそんなに高くは金を取られることもなくあっさりと商談が終わった。
その時店の主人のオススメで購入したブレスレット。
これは装飾品はほとんど付いておらず、ブレスレットとしての価値がある品であり自分はこれも数点購入していた。
雨がザーザーと降り続く外の音を聞きながら、自分は夜に実験をやっていた。
それは数点。先ずは購入してきたこれである。
魔力付与された物を二つ身につけると如何なるか。
自分は部屋の窓を開け、外に向かって指先を外に向ける。
〈忍術〉の一つ〈水鉄砲〉を、魔力付与品を身に着けている時と外した時の比較する為に水鉄砲を発動。
指先から発射された弾は降り注ぐ雨を弾きながら、遠く空の雲の中へと飛んでいく。
次は大きさと威力の調整。
水鉄砲に魔力を込める程に弾は大きくなり、〈風球〉と同じ様にバレーボール程の大きさまで膨れ上がった。
何度か外に向かって撃ち終わったのち、ネックレスを一つ身につける。
中央に埋め込まれた石は青く光出していた。
再度外に向かって水鉄砲のスキルを発動。
水属性攻撃アップ(小)の効果は一段階強くなったと思わせる程に、発射する威力を加速させた。
放たれた水鉄砲が雨を弾く音が強くなったことを、音で教えてくれている。
次に同じ物。水属性アップ(小)をもう一つ身につける。単純に考えて、小が二つで中の威力になるのではと思いつつ、水鉄砲を発射。
しかし、威力はネックレス一つ分を身に着けている時と同じ効果しか出さなかった。
念の為に数点、明らかに多すぎる程にネックレスを首にかける。
ジャラジャラとネックレス同士が打つかる音を鳴らしながらも石は青々と光を出していた。
これならと水鉄砲を発動。
結果としては(小)をいくつも所持しようと、効果は一個分しか得ることができなかった。
次の検証は違う属性同士を身に着けたときの違いである。
水属性と火属性。この二つは反発する属性である事を以前エマンダ様に教わったことがあるので、反発する実験も一緒にやってみようと思う。
火属性である忍術スキルの〈火柱〉を使用するのはここでは危険なので、魔法スキルの〈フレイムランス〉を使用する事にした。
発動したスキルはまだレベルも1と言う事で、これは枝に火を付けた程度の大きさにしかならないのも検証として使いやすいかもしれない。
場所を少し変えて、自分は井戸小屋へと移動する。ここならば、火を使っていて誰か来ても、お湯を沸かす為の竈に火を着けていたと理由も言えるからね。
早速、先ずは火属性を付与されたネックレスを身につける。
ネックレスの中央では、茜色の光が火のようにメラメラと輝きを出していた。
〈フレイムランス〉を発動すると、火の勢いが気持ち若干上がったような気もする。
元々レベル1の〈フレイムランス〉の火槍。
忍術スキルとは違い、魔力を込めてもレベル分にしか強さを出さないので比較が解り難いかもしれない。
だが、ネックレスを外せば大きさは最初に出した時と同じ枝に火を付けた程度に火の勢いは落ちるので、間違いなく効果はあるのだろう。
この状態のまま、自分は水属性を付与されたネックレスを身につける。
属性としては反発する二つ。これは一体どうなるのか?
結果としては、二つを身につけることに問題は無かった。
青と茜色の光が共に胸元で光、再度だす〈水鉄砲〉も〈フレイムランス〉も属性アップした状態での発動を見せてくれている。
そして、各種の属性を付与されたアクセサリーとは別。一見、ただの石に見えるが、一応付与がかかった物を実験を始めた。
自分のステータスを確認し、どれ程の違いが出るのか。
今の自分のステータスは、攻撃力は707+(150)
以前鑑定した時と比べて、ほんの少しだけ上がっている気がする。
707はジョブのレベルが上がればこの数字も上がる物。丸括弧で閉じた中の数字は、スキルで上がる数字だ。
鑑定を使用しながら、攻撃力上昇効果の付与がされた石を麻袋の中から探し出す。
(本当にただ見ただけじゃ見分けがつかないよね……。鑑定スキルを持っていないと解らないよこれは)
石の小分け用として〈物質製造〉で作った木のボウルの中へと種類ごとに入れておく。
(攻撃……攻撃……守備……守備……速度……攻撃速度……守備……速度……速度……。運の付与はないんだな……。守備……守備……攻撃……攻撃速度……攻撃速度)
一通り振り分けをして解ったが、ステータスの運を上げることができる石は入っていなかった。
基本として攻撃力、攻撃速度、守備力、素早さのこの四点だけのようだ。
攻撃力(小)の付与がされた石は加工もされていないので先ずはこれに〈物質製造〉を使用する。グニャリと形を変え、500円玉程の大きさに伸ばしたら、中央に紐を通すための穴を開ける。
この時点でまた鑑定をしても攻撃力の付与は消えていなかった。
(これに、糸出しスキルの糸を通してっと……。よしっ。ステータス確認……どれどれ)
ステータスを確認すれば、数値は714+(150)と変わっていた。
(14増えたってことは……(小)で2%上がったのかな)
同じように守備力と素早さの付与がされた石も加工し、身につける。これも同じ効果でステータスを2%上げていた。
知りたいことは大体解ったので、今日はここまでとして後日これを使って何かを作ろうと決めていた。
そして、大会も終わり一段落した今日。
先程マーサに造ってもらったお守りと石を手にアイシャへと説明を続けている。
「ステータス……って何??」
「ああ。えーっと。身体能力って言えば解りやすいかな?」
「……身体能力? 身体が強くなるの?」
「そうそう。体の中にある戦う能力や走る能力。そうだね、他にも色々あるけど簡単に言えばこれを持っていると少しだけ強くなれるって事かな」
「凄い! そんな事ができるんだね。それでミツさんはそれを如何するの?」
「うん。リッコやミーシャさんはネックレスで身につけて魔法の能力を上げることができたけど。ローゼさんとプルンはアクセサリーとかは身に着けたくなさそうだったからさ、別の物で送ってあげようと思って」
「プルンさんやあのお姉さんにもあげるんだ……」
「そうだよ。ああ、勿論リック達にもあげようと思ってるよ。あれば便利なものだし」
「ふふっ。そうなんだね! でもリックさんって男性だよね? 男の人にもネックレスで渡すの?」
「えっ……いや、流石にネックレスだとリックも受け取ってくれないかもしれないからね。寧ろ自分が差し出したネックレスを喜んで身につけてるリックとリッケの姿が想像つかないよ……」
アイシャはリックとリッケの二人が自分からネックレスを受け取り、乙女の様に頬を染め、ドキドキとした二人の表情を思い浮かべたのだろう。
プッと吹き出し、あははと笑いだした。
「あははっ! そうだね。なら、リックさん達男性にはどうやって渡すの? あっ! だからお母さんにお守りを作ってもらったの?」
「うん。それもあるね。取り敢えずマーサさんが作ってくれたお守りタイプと、ブレスレットタイプ、それとこんな感じに長く作ってベルトみたいにしようかなと思って」
お守りを作る際、余った紐を自分が腰に回すと、アイシャはなるほどと理解したのだろう。
「ベルト? ああ、腰結びね。うん。それなら鎧の下にも着けれるから、きっと喜んでくれるよ。でも腰結びを作るとなると結構時間かかっちゃうね……」
「ふっふっふっ。そこは安心して良いよアイシャ」
「?」
含み笑いをしつつ、自分は掌をアイシャの前に差し出す。
アイシャは差し出された掌を見て、疑問符を浮かべ顔をかしげる。
自分がスキルを発動すると、その表情は一変し、彼女は驚きと興奮し始める。
「先ず、必要な糸を出します」
「わー! 凄い凄い! 掌に糸玉が出てきたよ!?」
「次に、マーサさんが作ってくれたお守りをしっかりと見て覚えます」
「覚えます!」
「そして、糸玉をグニャグニャと丸めます」
「丸めます!」
「最後にそれを一気に伸ばせば!」
「!? 凄い! 糸玉からお母さんが作ったお守りが出てきた! しかも、お母さんが作ったお守りよりも凄く長いよ!」
「この長い物を腰結びとして使うとして、アイシャにはこれをシッカリと縫い付けて欲しいんだ」
「解った! 私頑張る」
「うん。ありがとうアイシャ」
〈糸出し〉と〈物質製造〉スキルの合わせ技。
糸玉から糸先を引っ張りだす様に、糸玉から先程マーサが作ってくれた、柄もそっくりなお守りを次から次へと引っ張りだすように出していく。
イメージはマジックである口から国旗を付けた紐を出す感覚であろうか。
スキルのレベルはMAXなので軟さも強度もイメージ通りのベルト並にシッカリと作り出している。これにステータスが上昇する石を縫い付ければ戦いの邪魔にもならない腰結び、もといベルトの完成である。
アイシャと二人で人数分。取り敢えず仲間の分を作り始める。
石も物質製造スキルで縫い付ければ早いだろうが、そこは気持ちを込めたい自分のただのわがままだ。
一つ完成するたびに、自分は彼らの成長を願っていた。
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