第117話 黒幕

「はい、今回、ラルス様達を虜囚した犯人に関してです」


 この一言で、部屋の空気が重苦しい物へと変わった。

 先程まで穏やかな表情を見せていたダニエル様とエマンダ様は表情を固くし、豊かな高原を見るような優しい瞳がスッと彼らの目から消えた。


「……ゼクス。賊はどうした」


「はっ。ご子息の方々への不敬を行いました賊は一部を私の手にて始末。残り数名を街の衛兵詰所へと、ミツさんのお力にて連行しております。今は気絶しておりますので気を取り戻ししだい、拷問をしてでも犯行の全てを吐かせる予定を立てております」


 厳しい視線をダニエル様から受けたゼクスさんは、ラルス達を虜囚した男達の現状を報告する。

 ならば良しと、ダニエル様は一度頷き、自分へと視線を戻して会話を続ける。


「ミツ君、その賊がどうかしたかね」


「はい。ゼクスさんには申し訳ないのですが、その誘拐犯である賊達を捕縛する際に、彼らに宛てられた今回の虜囚計画の命令書の様な物を見つけてまして」


「「「!!!」」」


「そ、それは本当かね!?」


「はい。これです」


 ガバッと椅子から立ち上がる勢いと、少し腰を上げるダニエル様。

 その驚いた表情はダニエル様だけではなく、エマンダ様もラルスも目を見開き驚きであった。

 アイテムボックスに手を入れ、その時に見つけた指示書を取り出す。

 それをダニエル様へと手渡すと、すぐにその中身を走り読みし始めた。

 ダニエル様が指示書を読んでいる間と、ゼクスさんの方へと視線を送れば、他の三人とは違い、ゼクスさんはやはり気づいていたのか、彼の口から聞こえてくる言葉は静かなものであった。


「ミツさん……。やはり何かあったのではと思いましたが」


「すみません、ゼクスさん。それを見つけた時に直ぐにでもゼクスさんに見せるべきだと思ったのですが、近くにセルフィ様もいらっしゃいましたので、出すのを躊躇ってしまいました」


 セルフィ様の名を出すと、ゼクスさんは口をつぐみ、心の中で何か腑に落ちたのか、そのまま目を伏せる。

 ラルスの口からも「ああ……」と小さく納得した声が口から漏れていた。


「左様でしたか。いえ、ミツさんのそのご判断は間違いではございません。もしあの時にそれを見せられていたら私も判断を誤り、失態をみせたかもしれません。それを考えれば、その場でそれを出すのは賢明では無かったでしょうな」


 自分の判断が間違いではなかったと、ゼクスさんから肯定する言葉を告げられるとホッと内心で安堵する。

 だが、その気持ちも次の瞬間、ダニエル様の激怒の声に打ち消されてしまった。


「……くっ! こんなくだらない事に、俺の子供は恐怖を味わったのか! 絶対に許さんぞ、ベンザ伯爵!」


「「「!?」」」


 ダニエル様は手に持つ指示書をテーブルに叩き付けるように置き、ベンザ伯爵の名を叫ぶ。

 その言葉に目を見開く三人。


「……」


 あまり見せない自身の夫の態度に、夫を宥めるように口調を優しくして口を開くエマンダ様。


「あなた。私にもそれを拝見させて頂いてもよろしいでしょうか……」


「……。構わんが、怒りに魔法で燃やすなよ」


「承知しました……」


 エマンダ様の声に少しだけ沸点が下がったのか、ダニエル様はテーブルに置いてある指示書は燃やすなと一言添え、腕組みをしながら椅子にもたれかかる。


「しかし旦那様。それがあるからと言って、本人に叩きつけたとしても、知らぬ存ぜんとしらを切られてしまってはあの下衆……失礼……。ベンザ伯爵は言いきるでしょう」


「その通りだ……。あの者は様々な悪事を踏んで余罪まがいな事をしても、自身の力にて全てを消しておる。この文があったとしても逆に俺達が作り出した偽装物と開き直るのが目に見えている」


 ベンザ伯爵の悪名は元冒険者時代のゼクスさんの耳にも入る程。

 その為ゼクスさんの口からは、伯爵へと向けられる会話内容ではなかった。

 今までに幾度も、カバー家には余罪があると報告を受け、国の監査が入ったこともある。

 しかし、調べても何も証拠らしい証拠が出てこず、ベンザは「伯爵である私を妬んでの嘘の報告でしょうな」とニヤニヤと満面に笑みを浮かべながら監査を追い返し続けていた。

 証拠がなければ、ベンザの罪を証明できない。

 結果、何人何十人という人々が泣き寝入りする結果となっていた。


 話している間と読み終えたのか、エマンダ様は大きく深いため息を漏らしながら、テーブルへとその紙を置く。


「これに使われている印は間違いなくカバー家の印で間違いありませんが、似た物を作ろうと思えば作れます。しかもこの文の字ですが、あの者が書いたとして綺麗すぎます。以前あの者が字を書いたところを拝見いたしましたが、心の汚れと比例した文字しか書けぬことを私は記憶にしております」


「うむ。印は王から受けたまわった品。それを偽造したと主張し、更にあの者は汚くも、そこを狙ってくるであろう」


「実行犯として捕まえた賊も証人としては使用できませんね。その様な者は知らぬ。こちらが用意した者だと言い張るでしょう……。更には言葉巧みにボロを出させるにもあの者が直接族に対して指示を送る事はしないと思われます。恐らくですが、他者が指示者……」


「くそっ! ベンザめ! 幾度もなく俺の足元を狙い、更には俺の宝と言える子に手を出すとは!」


 ダニエル様は怒りをぶつける様に、バンッと強くテーブルへと両手を拳にしてぶつける。

 エマンダ様も内心煮えくり返る怒りに満ちているのか、ベンザの名を出すだけでもその目は怒りに満ちていた。

 ラルスも恐る恐るとテーブルの命令書へと手を差し伸ばし目を通せば、父と母と同じ様に、彼は心から怒りに満ちていた。


 そんな三人の反応とは反対に、静かに言葉を喋りだすゼクスさん。


「……旦那様。私めがその者の口を裂いてでも真相を吐かせるのは如何でしょうか」


「……ゼクス」


「いやいや。相手はダニエル様と同じ伯爵様ですよね!? それやったら今度はゼクスさんの立場が大変な事になりますよ」


 さらりと恐ろしい提案を出してきたゼクスさんだが、その目は冗談などではなく、許可が出ればすぐに実行しますと、本気の瞳であった。

 溺愛するロキア君が味わった痛みと恐怖、それを知っているからこその発言なのだろう。

 自分の言葉に、大の大人が気まずそうに互いの視線を外した。


「「……」」


 しかし、自分も気持ちは同じ。

 証拠もあると言うのに、ベンザ伯爵をそのまま野放しにする気は爪の先ほどにも無かった。


「それなら、自分にいい考えがあるんですが」


「その考えとは……」


 何か策があるのかと、皆の注目を集める。

 アイテムボックスにまた手を入れ、中から心奪われる程の一つの美しい鏡を取り出す。

 それは森羅の鏡である。

 ゼクスさんは眉尻をピクリと動かし、自分が今からやろうとしている事が解ったのだろう。

 ダニエル様は今まで見たことのない美しい工芸品である森羅の鏡に、幾度も目を瞬かせる。


「ラルス様、その文を貸してください」


「ミツ、いったい何を?」


 ラルスが握りしめていた指示書を受け取り、取り出した森羅の鏡を、これからどう使うのかを説明する。


「はい、これは物の周りであった事を映し出す魔導具です。これのお陰でラルス様達を連れて行った馬車を追うこともできました。この文を渡した相手や、書いた者が映し出されればそれは十分な証拠となるんじゃないかと。ゼクスさんは知ってますよね。さっきお見せしましたし」


「何と! その様な物が!」


「ミツさん。本当に貴方様はいったい……」


 魔術だけではなく、魔導具にも詳しいエマンダ様ですら聞いたことのない珍物。

 周囲が目を丸くするが、その視線は気にせずに、森羅の鏡を手にしてテーブルに置いた指示書をジッと自分は見つめながら魔力を鏡へと送り込む。

 

「では……行きます」


 鏡は以前使用した時と同じ様に、表面から真っ黒に変わり、モヤモヤと虹色の霧が溢れ出し始め、鏡の上に球体を作り始めた。


「こ、これは……」


 現れた球体に驚きながらも、ジワジワと映像が見え始めた事に、エマンダ様は好奇心満々と食い入るように球体を見始めた。

 そんな妻を止めるようにダニエル様は「こら……」と小声に窘め、息子のラルスも「母上……」とこちらもそんな母に呆れ口調にエマンダ様を呼び止める。

 周囲の視線が自身に集まったことに、エマンダ様は口元を抑え、オホホホと貴族婦人の様な上品な笑いを残し、上げかけた腰をゆっくりと椅子へと戻す。


 森羅の鏡が出した球体に映し出された場所は、小奇麗な寝室であった。

 そこに置いてある机にて一人の男性が今、正に指示書へと虜囚計画を指示した文章を書きしめている所であった。

 しかし、その男は文章を書くたびに小さなため息を繰り返し、進んで指示書を書いているようにも見えない。


「……」


「誰ですかね?」


「この者は確か……カバー家の執事をしている者ですね。幾度か目にしたことがございます」


「なるほど……」


 指示書を書き終えたのか、男性は静かに筆記具である羽ペンを置き、書いた文に目を通せばまたため息をついてはボソリと呟き始める。


「はあ……。旦那様のご命令とは言え、私は何をしているのか……。申し訳ございません、フロールス家の皆様方……」


 誰も聞いていないと解っていても指示書に向って謝罪の言葉を送る男性。

 彼は指示書を静かに丸め始めた後に部屋を退出。

 映像が彼の持っている指示書を追っていくと、一つの部屋の前で彼の足が止まったのが解った。

 部屋の扉をノックした後、中にいる人物へと声を掛ければ、中から聞こえた声に、映像を見ている周囲の顔が険しくなる。


「旦那様」


「おお、ゼルマイヤか、入れ」


 旦那様と声をかけられた男は、直ぐに執事のゼルマイヤへと部屋の入室を許可する。


「はっ」


 部屋の扉を開け、中へと入ると一人の男がゼルマイヤを迎え席を立つ。その男は見た目は部屋の中だと言うのに汗ばみ、私利私欲に肥えたその体が動くたびに肉を動かしている。

 男はカバー家の伯爵であるベンザ・カバー。

 フロールス領地の隣にカバー領地はあり、ダニエル様と競う様に互いの利益を国へと貢献し続けている。

 だが、成り上がりのダニエル様を疎むベンザは、見えないところで常にフロールス家へと様々な嫌がらせを繰り返していた。

 ベンザの姿が映し出された時から、ダニエル様は眉間を深く寄せ、エマンダ様も手に持つ扇を握りしめていた。


「して、例の物は書き上がったか!?」


「……はい。ご命令どおりの文にございます」


「そうか。早くよこせ!」


 ベンザは執事のゼルマイヤが恐る恐ると差し出す指示書を奪い取るように取り上げ、中を広げて見始めると下卑た笑いで笑い出す。


「ヒョッヒョッヒョッ! うむ、ゼルマイヤ、時間はかかったが十分なできだ」


「ありがとうございます……」


「早速賊を雇い策を実行しろ。タイミングを間違えるなよ。それと犯行が済み次第、その賊は必ず殺せ。証拠を残すヘマをすれば……解っておるだろうな?」


「……はっ……旦那様……」


「これに印を押したらまた渡す。お前は下がれ」


 ゼルマイヤが何かを言おうとしていたが、ベンザは聞く耳持たぬとあしらうように手を振り、ゼルマイヤを部屋から追い出す。

 その対応に口を閉ざすゼルマイヤは頭を下げた後に部屋を出ると、直ぐに別の人物が部屋へと入ってきた。


「あなた、入りますわよ。あら、随分とご機嫌ですこと」


 ノックもせずに入室してきたのはベンザの妻であるティッシュ・カバー。

 指示書をニヤニヤと見ていたベンザは今は機嫌が良いのか、いきなり入ってきた妻のティッシュを咎める事もなく話し出す。


「お〜、ティッシュ。丁度よい。ヒョッヒョッヒョッ。これを見ろ、ワシの計画は完璧だ。これでフロールス家は破滅に向かうのみ」


 ベンザは企むような笑みを浮かべ、妻へと手に持つ指示書を突き出す。

 それを何の事やらと受け取るティッシュ。

 ティッシュがそれを読み終える時には、彼女もベンザ同様に不敵な笑みを作り上げていた。


「まあ、なんて心惹かれる文なのでしょうか」


「ヒョッヒョッヒョッ。ダニエルのあの者の性格ならば、息子共に何かあれば間違いなく死ぬ気で探すだろう。見つからぬ子の為に、慌てふためくあの愚か者の領主としての最後の顔を見る時がワシは楽しみでならんわ! 更にだ、ティッシュ、よく聞け。これがあいつが主催として行っている武道大会の真っ只中に起こったとしたらどうする」


「……それは勿論」


「そうだ! 運だけで王族に生まれたあの世間知らずな小僧や、経営の理論も知らぬ辺境伯の対応もおろそかになるだろうさ。そこに加えてだぞティッシュ。あのダニエルの小僧が戦う対戦相手、そやつに大量に金銭をかけておけばどうなる。ダニエルの息子は不戦敗、賭けた金は確実に大金となって懐に増えて帰ってくるのだぞ」


「まあ。たった一つの文にその様にいくつもの策が込まれ、それがカバー家の財を増やすなんて。流石あなた。頭のキレは誰よりも優れたお方ですね」


「ヒョッヒョッヒョッ!」


 二人は更に下卑た目で目の前にある指示書、これ一枚でフロールス家が崩壊していく予想に君の悪い笑みを浮かべ続けている。

 ベンザはダニエル様が主催として行っている武道大会を本心で毛嫌いする程に邪魔したいと日頃から思い続けていた。

 それは王族が幾度も来訪するのは貴族としても名誉なことでもあり、イベントと言うことでダニエル様の懐事情も右肩上になる事でもあるからだ。

 フロールス家はそう言ったイベントを定期的に行うことに収入を得ているが、カバー家は違う。

 カバー領地は敷地面積はフロールス家の半分であり、その更に半分を山々に囲われた産業に不向きな地形を管理している。

 フロールス家の様にイベント事を行うのも広さが足りず、王族等を招待するにも山道で中々招待もできない。

 更には馬車などの移動も困難な為に、商業としての発展も開花が見受けられることはなかった。

 ならば何故カバー家が伯爵までのし上がってきたのか。

 それはカバー領地にある魔石が取れる山脈あっての事である。

 ベンザの父はまだ子爵の爵位であった。

 今は既に遥か高みへと行ってしまったシーツ子爵。

 シーツ・カバーは、狭い地形でも産業を広げようと、山を削り土地を広げる計画を実行することとなった。

 山を削る際、まれに出てくる魔石がゴロゴロて出てきたことに驚き、調べてみると何と自身の領地内にある山の殆どが魔石の鉱脈であることが判明した。

 シーツ子爵は収益の多い鉱山の発掘に力を入れることに見事子爵から昇進し、シーツ・カバー伯爵となる事ができた。

 ベンザはそんな父の伯爵の地位を引き継いだ、二代目伯爵である。

 父であるシーツが他界して数年。

 鉱山も掘り続ければ物はなくなり、以前掘れば必ず出てくる魔石も日に数個とあきらかに収益を減らす結果を見せていた。

 それはそうだろう。

 数年と掘り続ければ鉱山は廃坑と変わり果て、ベンザは著しくも収益を失いつつあった。

 今は伯爵の地位を引き継いでいるため、国からの援助金として生活は問題はない。

 しかし、自身の伯爵である地位が下級貴族の様に節約生活と言うことがプライドが許せなかった。

 そこでベンザが考えついたのは隣のフロールス領地である。

 ダニエル様が失脚すれば、一時的でもベンザが隣の領地を管理することになるだろう。

 その際、血を吸うヒルの様に、新しく管理する者が来るまでとフロールス領地の金を蝕み、寄生虫のような考えを巡らせたベンザであった。

 あくどい事を繰り返すうちに、それが当たり前の感覚とこの計画を思いついたのだ。


「ところであなた。いつの間にフロールス家に配下を忍ばせたのですか?」


「ヒョッヒョッヒョッ。ダニエル……あいつは貴族のくせに、薄汚い民衆と肩を並べて考えをもつ事は貴族内では有名だ。だが貴族としてその考えに反感を持つ者はおる。そんな奴等が何処からか連れて来た者をワシが指示を出し手駒として使えば、簡単にあいつの屋敷へ人一人送り込む事など容易い事。ヒョッヒョッヒョッ。目の前に金をチラつかせれば薄汚い下民なと簡単に操ることもできる。まぁ、多少金は使ったが、それはその時の賭け金で補えれば問題はない些細なこと。それに半分を前金として渡すが、残りの成功報酬を渡す時にはそ奴は既に金を必要としない状態になっておろう」


「まあ、恐ろしや恐ろしや。ホホホホホ」


 しだいと消えていく球体から映し出されていた映像。

 癇に障るような笑い声を最後と、森羅の鏡は普通の鏡の様に周囲を映し出していた。



「この指示書を出すように差し向けたのは間違いなくそのカバー家のようですね」


 森羅の鏡を覗き込み、自分の顔を見れば無意識と険しい顔をしていることに気づき、表情を戻す。

 視線を変え、周囲をゆっくりと見渡すと今にも爆発するように、拳を作り震えるラルスの姿が目に入る。やはりダニエル様やエマンダ様も同じなのかと思いきや、ダニエル様は眉間に深いシワを寄せて目を積むり口を閉ざしていた。


 エマンダ様もゼクスさんもダニエル様の言葉を待っているのか何も喋らない。

 そして、ゆっくりと目を開けたダニエル様の瞳には強い決意が込められたように、自分を見据える。


「ミツ君。私は他の貴族から疎まれていることは十分承知している。自身のやりかたや行いが貴族的ではないと理解もしておる。結果、今回ベンザ伯爵が行ったことは、もしかしたら他の貴族が行ったかもしれない……」


「あなた……」


「旦那様……」


「父上!」


「だが……。私は……。私はな! 私の貴族という志をこの様な下衆に踏み躙られて許せることはできないのだよ!」


「はい。旦那様のおっしゃる通りにございます。あの者は我々フロールス家の宝に土足で踏み込み、あまつさえ傷までつけました。私はフロールス家の剣として、敵対する者を切り裂くお許しを頂ければ、主人の望む結果をお出しいたします!」


「父上! 私はゼクス程に力はありません。ですが、家族を思い、民を思う心は父から母から、熱く、熱く教えられております。その気持ちを今は踏み躙られ、更には自身の私利私欲の為だけに他者を不幸に陥れさせる者は、絶対に許せません!」


「あなた。民は貴方様の味方です。例え貴族としての行いを間違えようと、民無しでは貴族は成り立ちません。この場におりませんが、パメラも貴方様のお考えに、賛同の理を答えるでしょう」


「うむ……。ミツ君。君に力を貸して欲しい。これはフロールス家領主であり、家族を、民を思う私、ダニエル・フロールスからの願いだ」


「……はい」


「私は……ベンザ伯爵を、王族の前で断罪したいと思う」


 ダニエル様の言葉に各々が深く頷く。

 今すぐにでも行動を起こしたいが、荒れた闘技場、未だ混乱する人々、そう言った事が落ち着くまではベンザ伯爵を断罪する事ができない。

 しかし、悠長にしていれば王族であるカイン殿下は王国へと帰り、マトラスト辺境伯と巫女姫様のルリ様も神殿へと帰ってしまう。

 特に王宮神殿の神殿長であるルリ・ミーパル・ファータの力にて、ベンザの断罪を確実にしたいと思っていた。

 ルリ様のスキル、彼女の〈心理の瞳〉と〈裁きの声〉この二つのスキルは罪人を捕えるにはこれ程丁度いいスキルはない。

 〈心理の瞳〉これは相手の虚言を見破る効果を持ち〈裁きの声〉これは対象の罪悪感を沸き立たせるスキルである。

 例えベンザが口八丁と足掻こうが、このスキルを使用された普通の人は逃げ場などないのだ。


 まぁ、自分はユイシスから貰った加護の効果にてそれを無効とするが、神の使いであり女神様のユイシスの行いなのだから、神殿長のルリ様なら、心から許してくれるだろう……と、自分の中で勝手に納得しといた。


 その時が来れば必ず協力する事を自分も約束すると、ダニエル様と硬い握手をする。

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