第116話 領主様との話場。

 ネーザンとエンリエッタ、二人の調書を受けた後の事であった。

 自分は偶然にも試合で戦った相手。獣人国、獅子の牙の団長であるバーバリとの鉢合わせをし、思わぬ相手との会話が始まってしまった。

 バーバリの表情には疲れが見え隠れ、先程まで何かをしていたのかと思えるくたびれた感じが口調で感じ取れていた。

 戦いの傷がまだ残っているのかと質問すると、彼は首を横に振り口を開く。


「ああ。別に痛みも残ってはいない。それにあれは試合での戦いの傷、別に残ろうが恥とはならん」


「そうですか……。まぁ、その……戦いの傷も気になるのですが、あの……。その髪はどうされたんですか?」


 自分が視線を向けるのはバーバリの顔の周りの鬣。以前見た時とは違い、随分とスッキリと言うかバッサリと切られたように毛の量が減って違和感を感じてしまう。

 突然イメチェンをしたとしても、何故に今のタイミングにと言う違和感しか出てこなかった。

 ちなみに、何故彼が直ぐにバーバリかと解った理由だが、流石にその身体の大きさも含め、声と顔は変える事はできないのだから当たり前である。

 

 バーバリは自分の視線に気づいたのか、苦々しい笑みを浮かべながら、地肌が見え隠れする鬣を撫でる。


「むっ……これは大したことではない。それよりもだ、貴様ゼクスが何処にいるか知らぬか?」


 バーバリは鬣の事に触れられたくないのか、無理矢理にゼクスさんの名前を出してきた。


「ゼクスさんですか? 恐らくダニエル様のところへ行かれたのでは。自分も少し顔を出すつもりでしたので一緒に探しましょうか?」


「い、いや。別に急用と言う訳ではない。急ぎの案件があるわけでもないのだ……」


「そうですか……」


 やはり無理矢理話題を変えたかっただけだったのか、ゼクスさんへの面会を希望していた訳ではないバーバリは少しだけ口調を早めている。

 気まずい対面であり、お互い何を話せば良いのか解らない無言が間を埋めてしまう。

 そんな空気の間を割って入って来たのは先程会話に出てきたゼクスさん本人であった。


「ホッホッホッ。ミツさん、こちらにいらっしゃいましたか」


「ゼクスさん」


「……ゼクスか」


 突然現れたゼクスさんに自分は笑みを返すが、バーバリは感情もなくゼクスさんを一瞥するのみであった。

 そんなバーバリへと視線を向けるゼクスさん。

 少し考えた後、視線が合うことにそれが誰なのかを理解したようだ。


「おや……失礼。バーバリ殿でしたか。随分と貴殿にはお向かぬ容姿ゆえ気づきませんでした」


「フンッ……。我は行く。ゼクス、ここで俺と会ったことは忘れておけ」


「……。承知いたしました……。ですが1つ。バーバリ殿、貴殿、試合後に主人には会われたのですか?」


「……」


 その言葉に一度勧めた足を止めるバーバリ。

 だが直ぐに再度歩みをすすめる。バーバリは返事を返すことなくこの場から去ってしまった。


「ふ〜。やれやれ。やはりですか」


「ゼクスさん、いったい何が?」


 ゼクスさんは視線を自分に戻すといつもの執事としての表情となり、自身がここに来た要件を話し出す。


「ふむ……。説明は後にでも宜しいでしょうか。実は、旦那様がミツさんのご面会をご希望されておりまして」


「ああ。はい、問題ありませんよ。ちょっと皆に話してきますね」


 これだけの騒ぎがあった後、ダニエル様との対談があることは大体は予想できていた。

 領主であるために色々な事を片付けなければいけない中、自分との話場の時間を作ってくれている。ネーザンとエンリエッタ、二人から受けた調書とは別の案件だと直ぐに察しがつく。


 ゼクスさんとの会話を終わるのを待ってくれていた皆の方へと進む際、ゼクスさんは一言言葉を付け足すように自分を呼び止める。


「あ、ミツさん。どうぞ、是非とも皆様もご一緒に旦那様へのご面会をお願いします」


「えっ? 皆もですか?」


「はい。観客席の皆々様の避難協力の件にございます。私、遠目に拝見させて頂きましたが、心に衝撃を受けた思いと感動し、皆様のご活躍は誠にご立派にございました」


「なるほど、ゼクスさんも見られてたんですね。でも……何処から? 自分辺りを見渡してましたけどゼクスさんのお姿は拝見できませんでしたけど?」


「ホッホッホッ。はい。私は旦那様や奥様、他の貴族様と共に、多目的ホールに設置しております魔石画面を通して闘技場の様子を拝見しておりました……。勿論、貴方様のご活躍もですぞ」


 多目的ホールには、会場に設置してある魔石画面と同じ作りの物が置いてある。

 勿論その大きさは家電テレビ程の大きさではあるが、試合の進行を確認するには問題ない大きさである。 

 騒がしい場所などを好まない貴族のご婦人などが直接会場には行かず、ここでゆっくりと観戦をしたりと、VIPルームの様な接待をメイドから受けたりもしている。

 ゼクスさんの言うとおり、多目的ホールで闘技場の様子を伺っていた貴族の人々。

 人々は唖然と、その画面に映る四頭の竜が動き回る闘技場を眺めていたそうだ。

 だが、火の竜が動き出した時、映像を送るための鳥型カメラが火の竜の熱に飲み込まれ、多目的ホールへと映像の配信が途中で止まってしまっていた。

 

 今、ゼクスさんの目に自分はどの様に見られているのだろう。

 驚きか。恐怖か。それとも一周回って呆れているのか。

 何にしろ、相手が話場を用意しているのならそこへ出向けば良いだけ。


「そうですか……。では、大まかな説明は不要ですね」


「はい」


 皆の居る方へと移動した後、ゼクスさんの言葉をそのまま伝える。

 リッコは近くにゼクスさんが来たことに緊張していたが、それ以上に領主様との対談に共に行くことに、彼女は頭を少し手で抑える仕草を取る。


「……と言う事でさ。今からダニエル様の所に皆も一緒に行ってもらえるかな?」


「うわ〜。来るとは思ってたけど、こんな早く領主様との話場が来るなんて……」


「リッコ、遅かれ早かれ話が来ると解ってるなら、もう先に済ませましょうよ。それに領主様の無事な姿もみたいじゃないですか」


「そ、そうね……。それにゼクス様が態々迎えに来てくれてるんですもの」


 リッコの視線の先にはいつもの笑顔を振りまく執事の姿があった。

 リックとプルンも、共に行くことに問題ないと返事が帰ってくる

 自分は視線を変え、建物に背を預けているヘキドナと、ミーシャと話をしているローゼへと声をかける。


「ヘキドナさんもローゼさん達も大丈夫ですか?」


「はぁ……。領主の命令にそむける訳ないだろ。マネ、飯は我慢しときな……んっ?」


 軽く嫌そうなため息を漏らすヘキドナであったが、流石に領主様相手では、失礼にも対面を拒む言葉は口からは出すことはしなかった。

 やれやれと隣にいるマネへと声をかけながらポンっと彼女の方へと手を置くヘキドナ。

 すると、ヘキドナの手に伝わる小刻みな震え。


「あばばばば……。り、領主様にご面会って……」


「ちょっとマネ、あんまり緊張しないでよ。私まで緊張がうつるじゃないのよ……。もう!」


「もしかしてご褒美が貰えるかシ!? 姉さん急ぐシ! ほらっ! 早く、早く〜」


 マネは領主のダニエル様とのまさかの対面をする事、そして貴族様と言う自身には縁もない人物の前に姿を見せる事に、マネの頭の中で考えが追いつかず、今までに経験したことのない緊張に体を震わせていた。

 周囲もマネのそんな姿、目に見えて震える体を見ると緊張が移るのか、エクレアも後の事を考えその体を身震いさせている。

 シューだけはそう言った緊張は無いのか、自身が働いたと言う実績を領主様に褒めてもらえると考えてか、彼女の口から出る言葉はまるでお手伝いをした子供の様な発言であった。

 自身の腕を引っ張るシューに、ヘキドナは相変わらず能天気な性格だなと内心呆れているが、今はその何も考えていない頭が羨ましくも思っていた。

 

 先程からローゼとミーシャは、二人でコソコソと話し合うように自分の方へと視線を送っている。 

 いや、視線は自分だけではなく、後ろに立つゼクスさんへと向けられてもいる。


「ねぇ、ローゼ、あの人って……」


「ええ……。前大会優勝者のゼクス様よ……。ミツ君凄いわね……。あんな凄い人と普通に会話してるんですもの。私、こんな近くでゼクス様を見たの初めてよ」


 冒険者内でも有名であった元シルバーランクのゼクスさん。

 そんな彼を見て、ローゼはあれと首を傾げては自身の記憶を探る。

 自身の記憶違いと思ったのか、気のせいとボソリとそう聞こえたので、自分は二人が初対面ではない事を教えた。


「んっ? ローゼさん。ローゼさん達はゼクスさんを一度は見てると思いますよ?」


「「えっ?」」


 何時、何処で、どの様と、自分と川辺で初めてあった時の話をすれば、思い当たる人物が記憶から出てきたのだろう。

 ローゼは目を見開き、ゼクスさんを見る。


「嘘っ……。あの時、ミツ君と一緒にアースベアーと戦ってた人って」


「ホッホッホッ。はい、私にございます。いえ、結果は彼が一人でアースベアーを倒してしまったので、私は只の時間稼ぎしかしておりませんでしたね」


 ゼクスさんは時間稼ぎしかと言う言葉を告げるが、彼がいなければ自分がその時【忍者】になる為にとキラービーを倒す余裕は無かっただろう。

 身を傷つけてまで自分に時間を作ってくれたのは、ゼクスさんの働きによってである。

 そんな謙遜するゼクスさんの言葉を否定したのは、ローゼのパーティーで前衛として戦うトトであった。


「そんな事はありません! ゼクス様の戦い、俺、凄え感動しました! 前の大会のゼクス様の戦いを見て、俺、絶対に冒険者になりたいと思ったくらいだし!」


(トトもリッコと同じ、ゼクスさんをゼクス様呼びするタイプなんだ)


「ホッホッホッ。それはそれは。私の様な者を見てそう思っていただけるとは。失礼ですが、貴殿のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか」


「は、はい! 俺、トトって言います! まだ冒険者になりたてです。けど! 絶対、ゼクス様みたいに強くなりたいです!」


 トトはゼクスさんの問に背筋を伸ばし、見事な直立にてハキハキと言葉を返してきた。

 そんなトトの態度は当然ねと思ってか、近くにいたリッコはうんうんと頷いている、


「それはそれは。しかし、トトさん。気を急いでは冒険者として長く続ける事は難しくなりますぞ。ご自身の力を高めるとしても、お仲間が居るのでしたら周りを見ずに戦うこともできません。貴方は見たところ前衛ですね。前衛は周囲を見て仲間の被害を抑える役目を持ちます。貴方はまだお若い。ゆっくりと成長を楽しみなさい」


「は、はい! 頑張ります!」


 ゼクスさんの激励の言葉を受け、トトは喜びと深く頭を下げる。

 言葉の通り、前衛とはただ単に前で戦い、目の前の敵を倒すだけが役割では無い。

 周りの状況を見極め、判断力等が問われたりする。

 パーティー内での前衛がリーダーの人が多いのは、それも関係してるかもしれない。


「ホッホッホッ。それでは皆様移動いたします。他貴族様のいらっしゃいます多目的ホールへは皆様も足を運びにくいと思い、別室にて領主様がお待ちになられております。では、どうぞ参りましょう」


「「「はい!」」」


 若者の素直な返事に、ニコリと笑みを返すゼクスさんは、綺麗に踵を返し、領主様が待つ部屋へと案内のためと歩き出す。


 領主様の執事でもあり、有名人でもあるゼクスさんが先頭を歩けば、通路の人々は自然とその道をあけていく。

 何だ何だと人々の視線が自分たちへと当てられるのは少しだけ恥ずかしかった。

 

 案内されたのは貴族や大会係員が会議などで使う部屋の一室。

 扉を守る人はフロールス家の屋敷でも見たことのある人であった。

 ゼクスさんが扉へと近づき、周囲に響くノックをする。


「失礼します。旦那様、ミツ様、皆様方をご案内いたしました」


「うむ。入りなさい」


 部屋の中からは領主であるダニエル様の声だけが聞こえ、その声に皆は改めて背筋を伸ばし、緊張とゴクリと息を飲む音が耳に聞こえる。

 ゼクスさんがガチャリと扉をあけて、どうぞと短い言葉を告げる。

 ゼクスさんの視線を受け、自分が先に入るべきだと思ったので、軽く頭を下げた後に部屋へと入室する。

 それを真似てか、後に入る人皆が頭を下げて部屋へと入ることになった。

 部屋の中には貴族であるダニエル様、エマンダ様、ラルス、そして数名の護衛兵がその部屋にいる。

 ダニエル様の側には、近衛兵であるトスランの姿もあった。

 フロールス家の近衛兵や護衛兵の中には下級貴族の息子も混ざっており、只の平民である皆は格の違いの人々から受ける視線に緊張にガチガチ状態。

 緊張のあまり手足を同じ方向に出して歩くマネや、キョロキョロと小動物のように辺りを見渡すシュー。

 いつもならそんな二人に「止めてよ」と、羞恥に声をかけるエクレアだったが、彼女も緊張のあまりにそんな頭は回らず、口元が軽く震えていた。

 ローゼ達も緊張のあまりに、視線は常に床しか見ていない。領主様だけではなく、周囲の人だれでも、視線を合わせた瞬間に不敬罪になるのではと意味も解らない心配を抱えていたそうだ。

 プルンもリック達も領主様との対面は初めてではないのだが、数十人者の視線を受けては口を閉ざし何も喋らない。

 唯一口を開いた者と言えば、自分がこの部屋に入った瞬間、護衛兵の人々が、おおっとか、あの少年は、等の自分に向けられた言葉であった。

 勿論自分もこんな緊迫とした部屋に入って緊張しない訳がない。

 部屋に入る前と、しれっと自身に〈コーティングベール〉を使用し緊張を霧散させていた。

 本当にこのスキルは会談などの場所で重宝するスキルだと思う。


 領主様の前と言うことで、自然と皆が片膝を付く姿勢となる。

 自分は少しタイミングを遅らせながらも、同じように膝を折り頭を下げ、ダニエル様の言葉を待つ体制をとった。

 その際、ダニエル様と視線が合うと、ダニエル様は何か申し訳なさそうに少し苦笑いを返しながら、小さく頷きをしていた。


 領主の前に自身の姿を見せるだけでも緊張するのか、誰かの鎧がカタカタと小刻みな金属音を鳴らす中、ダニエル様はその場の皆に聞こえる声で言葉を口にする。


「皆、態々ここまで足を運んでくれてすまない。そしてこの度は街の者、いや。多くの人々を救ってくれたこと、この街の領主として心より深く感謝する。皆の働きは我々だけではなく、多くの貴族の目に止まった。この度の働きにて後日感謝と礼を改めて送ることを約束しようと思う」


「「「「はっ!」」」」


 ダニエル様の言葉の後、隣にいるエマンダ様が軽く頭を下げ話は短くも終わった。


 話は終わりと扉が開けられ、皆はこの場の空気に耐えられずと、そそくさと部屋を出て行こうと部屋の出口へと向かう。

 その際、自分も部屋を出ようとした時、君は残りなさいとダニエル様に呼び止められた。

 プルン達には先に部屋から退出してもらうことに。皆もこうなるだろうと思っていたのだろう。

 先程とは違い、自分一人が部屋に残り、仲間たち皆は部屋の外で待つことになった。


 正面にはダニエル様、エマンダ様、そしてラルスが先ほどとは違う雰囲気をだしながらこちらを見ていた。

 

「さて。改めて……」


「えっ……」


 一言言葉を口にしたダニエル様が一歩前に出る。


 そして、ダニエル様は自身の右手をスッと前に出してきた。

 ダニエル様の視線と手を交互に見た後、握手でも求められてるのかと思い自分はその右手を握り返す。

 だが、それは握手を求めて差し出された手ではなかった。


「「「!!!」」」


「ありがとうございます。我が子を救い、助けてくれていただけた事。領主ではなく、子を持つ父として……私の子供を命ある状態と救ってくれたことに貴方様には心より感謝いたします」


 ダニエル様は突然自身の前で手を掴んだまま膝をつき、そして自分の手の甲をダニエル様自身の額に当てた。

 周りの驚きからすると、最高の感謝を示す行為なのは解る。

 同じ様にエマンダ様も自分の前に立ち、ダニエル様と同じ様に自分の手の甲を自身の額とあて、ゆっくりと口を開らく。


「わたくしも感謝しております。いえ、感謝と言う言葉では足りません。子の母として、我が子へまだ愛を注ぐことができるのも貴方様のおかげ。フロールス家は……貴方様のお力にて、滅びの道より救われた未来へと変わりました」


 事実、虜囚されてしまった者を救い出せる可能性は限りなく低いと言われている。

 それは人が虜囚されたとして、誘拐犯が馬車を全力で走らせれば捕まえるにも捜索全てが後出しになり、痕跡を辿っていては更に捜索範囲から馬車は遠く離れてしまう。

 犯人の馬車の目撃情報が3〜5日前の証言、更に馬を乗りつぶし、走り続けたりされたりすれば、その馬車には追いつくことが不可能と言われているからだ。

 今回フロールス家の三人が虜囚されてしまったことは不運であるが、三人の命は無事であった。

 ミツと言うイレギュラーな存在がいた事は、その不運を蹴り飛ばし、三人の命を保ったまま帰路に付くことができた事は幸運と言える程の出来事であった。

 

 それを理解している二人は、周囲の人の目も気にすることもなく、父親として、そして母親として深々と頭を下げ続ける。

 自分には二人の感謝の気持ちは十分に伝わってきた。


「お二人のお気持ち、しかと自分は受け取りました。どうか、お二人ともお立ちください」


 エマンダ様の手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。

 ダニエル様も立ち上がり、その顔を覗き込めば今にも泣きそうな顔であった。

 息子のラルスも、まさか父と母がここ迄庶民である者に対して、深い感謝を込めた礼をするとは思っていなかったのだろう。

 彼もまた、潤むその瞳から流れる涙を我慢しているのか、父親同様に頬を染め、鼻先にツーンと走る痛みに我慢しつつ、鼻を少しだけ赤く染め上げていた。

 

「それと。貴方様のお力にて救われた民の件に関しても……」


 ダニエル様はいつもの喋り方ではなく、相手に敬意を払う喋り方である事に、周囲の人々から微かであるが、ざわざわとした声を〈聞き耳〉スキルにて耳に入って来る。

 平民であり、旅人の自分に貴族では上位に入ると言われた伯爵が敬称を付け、へりくだる様な態度に自分は思わずダニエル様の会話を止め、口を出してしまった


「あの、ダニエル様。自分に敬称は結構ですから……。その、名前に様を付けられると言うのはどうも言葉がくすぐったくて……。良ければいつも通り喋ってもらえますか?」


 その言葉に驚きながらも頬を上げるダニエル様は招致したと、彼は頷きで返事をする。


「そうか……。ではミツ君。貴殿の力にて、我が民が救われた事にも、感謝を受け取って欲しい」


「いえいえ。その件に関しても皆の力あってですから。お礼は後日また皆にお願いします」


「ああ、勿論だとも。それと申し訳ないがまた後に君を呼ぶこととなる事を知らせておく。相手は以前対談したラルス殿下とマトラスト辺境伯。話の内容はあれだ……。あれだけの事を君はやったのだから理解はしてるね」


「はい」


 領主の言葉に、自分にまた視線が集まる。

 護衛兵の人達も、貴族様を守る為と、多目的ホールの外に待機。

 その場から見える闘技場へと視線をやれば、頭を突き出した竜の姿を見て驚きだったであろう。

 しかし、ゼクスさんが断面的であるが竜の正体は誰かのスキルであり、こちらに危害を与えるものでは無いだろうと言う言葉を聞いていたおかげなのか、甲の中の視線の中に「ああ、やっぱりか」などの納得した視線と、それに近い声が聞こえてきた。


「うむ。態々足を運んでくれて感謝するよ。では、一先ず話はここで切り上げるとしよう。」


「……あの。最後に1ついいですか」


「んっ? 構わんよ」


「その……」


 自分が何かを告げようとする際、視線がチラチラと周囲の人々へと剥けられていることにダニエル様は気づいたのだろ。

 ほんの少しだけ目を伏せた後、部屋にいる護衛兵と側仕えの人を全て部屋から追い出す様に手を振る。


「皆、一旦退出を」

 

 ダニエル様の言葉に、ざわりと少しだけその場の空気が変わった。

 近衛兵であるトスランは、ダニエル様と軽く視線を合わせると、頭を下げた後に護衛兵へと指示を出す。

 護衛兵の人達はガチャガチャと鎧の金属音だけを鳴らし、素早く部屋から退出。

 

「では、旦那様。私も失礼いたします」


「あ、いえ、ゼクスさんにもこの場にいて頂いたほうが良いかと……。ゼクスさんにも関係のない話でも無いので」


 側仕えである女性数名の後に、執事であるゼクスさんが最後と部屋の扉に進むのを自分が呼び止める。

 呼び止められた事にゼクスさんは主人に許可を得るために、ダニエル様の方へと視線を向け、主人はコクリと頷き許可を出す。


「……承知いたしました」


「それでミツ君、話とは?」


 立ち話も疲れるだろうと、部屋の長椅子にテーブルを挟んで対面状態に座り、話をする事に。

 領主夫妻が座り、自分も客人としての扱いとして座っているが、ラルスとゼクスさんは立ったままである。

 ダニエル様の問に、自分はゆっくりと話し出す。


「はい。今回、ラルス様達を虜囚した犯人に関してです」

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