第104話  虜囚

ザーザーと雨が降る中、急ぎ屋敷へと帰る馬車が数台。

 馬車の中にはラルス、ミア、執事のゼクス、客人のセルフィ様、そしてロキア君が乗車していた。

 

「お兄ちゃん凄かったね! 剣がシュシュっとして、魔法がバーンッて出てたんだよ!」


「ええ、本当に。あの試合、是非ともお兄様にも見て頂きたかったですわ」


「そんなにか?」


 ロキア君とミア、二人がミツの試合を興奮冷めぬままと、兄であるラルスにロキア君が身振り手振りに教える。その仕草も周囲からは愛らしく見えるのか、セルフィ様もゼクスさんもニコニコ顔である。


「勿体無いわね。ラルスも見ておけば、後の戦いの対策にもなったでしょうに」


「ホッホッホッ。セルフィ様、それは無茶なお言葉。この武道大会での出場選手は、他者の試合を見ることはできません。ですが、ラルス様も学園で多くのことを学ばれたお方。ミツさんに遅れを取ることはありまするまい」


「あ~ら。そんな事言って。もしラルスが試合でコケたら、あの子の相手はもしかしたらゼクス、あなたになるかも知れないのよ?」


「おやおや。それは恐ろしいですね」


「むっ。セルフィ殿、私があの者に負けるとでも」


「……」


「いや、何かおっしゃってください!」


 少しムッとした表情になったラルスを茶化すように、笑顔のまま何も言わないセルフィ様。


「ふふっ。ねぇ、ロキ坊」


「何、セルフィさん?」


「あなたの弓の師は、今日どうやって戦ってたか、もう一度ラルスに教えてあげなさい」


「うんっ! あのね、兄様、お兄ちゃんは大きな剣を出したらね、シュシュッっと振り回して、ゴーッて魔法出したら、ライオンさんがバタって倒れたんだよ!」


 セルフィ様は少し興奮した口調に説明し終わったロキア君の頭を撫でながら褒めの言葉をかける。


「はい、良くできましたね。解った、ラルス。解ったわよね?」


「えっ? ああ、大体は解った……」


 まだ4歳であるロキア君の説明は、余りにもアバウトな言葉並べであった。

 それでも弟が自身へと一生懸命と説明してくれる姿をみて、ラルスも正直、解らないとも言えず苦笑いである。

 そんな兄の姿を見て、妹のミアがクスクスと笑い出す。

 そして、ロキア君の言葉を補足するように言葉を入れる。


「ふふっ。お兄様、ミツ様はロキアの弓の師でありながら、今回の戦いでは弓を出しておりません。接近戦の戦いの後は剣術、魔術と多彩に技を繰り出されておりましたわ。付け加えるとしたら、ミツ様は対戦相手の守りを下げる魔法も出しております」


「な、なるほど……。そ、それは油断できんな……」


「もー。姉様、僕ちゃんと伝えたよ」


 プクっと頬を膨らませ、姉であるミアへと怒るロキア君。

 そんな少年の姿は、周囲の者の頬を緩ませるには十分な程の愛らしさを出していた。


「あらあら。ごめんなさいねロキア。私もお兄様とお話がしたかったから、ついね」


「ふっ。はっはっはっ!」


 ロキア君とミアのやり取りに笑い出すラルス。

 周囲もつられて笑みが溢れる。

 

 雨の中、屋敷へと帰る馬車。


 その後、バシャバシャと水しぶきを上げながら、通り過ぎる馬車を見送る一人の人物。

 深く被ったローブは雨で濡れないようになのか、それとも顔を隠しているだけなのか。

 理由は解らないが、その人物は馬車が過ぎるのをニヤリとした笑みを浮かべて見送っていた。


 翌日。


「父上、母上、母様、セルフィ様、朝も早くと、行ってらっしゃいませ」


 屋敷の前。子供達であるラルス、ミア、ロキア君は親である三人、それと客人であるセルフィ様の見送りに立っていた。


「うむ。お前達も開始時間に遅れないように来なさい」


 武道大会最終日と言うこともあって、ダニエル様は段取りの確認、婦人の二人もそれに付き添い、セルフィ様はラララとの面会の為にと少し早めに屋敷を出ることに。


「はい。ゼクス、父上達を頼んだぞ」


「はい、ラルス様」


 ゼクスさんはダニエル様と婦人二人の執事兼護衛。

 セルフィ様の後ろにも数人の護衛騎士が控えている。


「あ~ん。ごめんねロキ坊。でも、また直ぐに会えるからね」


 溺愛するロキア君とほんの少し離れるだけでセルフィ様はこの有様。

 いつまで経っても馬車に乗らない彼女に呆れながらも、待つ護衛騎士の皆さんはもう慣れた物で、今の内と持ち場の配置の再確認をしていた。

 最後にはパメラ様の叱責が飛びそうになると、じゃ、っと一言告げて馬車に乗り込んで行くエルフであった。


「今日も降りそうですね……」


 馬車を見送った後、空の雲行きを見て、ミアが呟く。


「なに、雨くらいで俺の火が消えることはない! さて、俺も少ししたら準備をするかな」


 ミアの予想通りにラルスの準備が終わり、ラルス、ミア、ロキア君か馬車に乗ったタイミングに合わせたように雨が降り出し始め、ゴロゴロと雷が雲の上で鳴いている。

 護衛の為と、馬車の先頭を走る騎士と、馬車の後ろを走る四人護衛騎士。

 大会が雨天中止になることは無いが、雨が酷くなると泥濘に足を取られ、馬の走るスピードも遅くなってしまう。それに加え、人を乗せた馬車は更に進みが遅くなり、開始時間に遅れてしまうかもしれない。

 ラルスは御者に一言告げ、急ぎ足と武道大会へと馬車を走らせる。


 バチャバチャ。ガタガタ。

 馬車の中では、ラルスは難しい顔をしていた。

 ミアは兄が試合前だからそんな顔をしているのだろうと思い、声をかけずに、隣に座るロキア君と小声で話をする。


「……」


 しかし、窓の外を見るラルスの表情は更に厳しく、眉間にシワを寄せている。


「おかしい……」


「? お兄様、どうされましたか?」


「ミア、聞くが、今この馬車の御者はいつから屋敷に仕えていた者だ?」


「えっ? えーっと。確か3ヶ月程前でしたでしょうか。確か前の御者が腰を患ってしまったので代わりと入ってきた者ですね。それがどうかされましたか?」


 兄の質問に少し戸惑いながらも、今御者をしている者を思い、屋敷に仕え始めた月を答える。


「そうか。……3ヶ月か。……だとしたら、この者は屋敷に戻り次第、暇をやるべきだな……」


「どうされたのですかお兄様。その様なことを突然……えっ?」


 突然のラルスの厳しい言葉。

 ミアは何故兄がそのような事を言い出したのか理解できなかったが、窓の外を見た瞬間、驚きに言葉を止めた。


「解ったか。この道は武道大会のある会場の方角とは違う……。大きく道を外している」


 武道大会へと向かう際、貴族街を通り、街中を通ることは今のイベント時期は人も多く、人と馬車の接触事故などを起こすかもしれないので、街中を走るのは難しい。

 その為、貴族街に入る事はせず、外周を通って大会のある会場へと向かうのが一番のルートである。

 だが、この馬車は貴族街の外周を進み、途中で道を変えている。

 このまま走り進めても会場へはたどり着けない。それどころか、会場から遠く距離をあけるばかり。


 ミアは馬車の中にある小窓から御者へと強く声をかける。


「えっ、えっ! 止めなさい! 御者! 道を間違えてますよ! 急いで戻りなさい!」


「……」


「止まりなさいと言っているでしょう!」


 ミアの静止する声を無視するように、御者は小窓から中の様子を一瞥するだけで馬車を止めようとはしなかった。


「ちっ! 護衛兵! 馬車を止めろ!」


「「……」」


 ラルスはドアを勢い良く開ける。

 馬車を守るためと、周りを囲んだ護衛兵に馬車を止めるよう声を上げた。

 ラルスの声に反応したのか、一人の護衛兵が扉に横付けする。

 だが、護衛の男から出た言葉は、否定的な言葉だった。


「残念ですが、それは致しかねます」

 

 護衛兵は兜のフェイスを上げ、ラルスに視線をむけると、腰に携えた剣を抜き、剣先をラルスへと向けた。


「なっ!? 誰だ! お前たちは!?」


 ラルスの声にビクリと怯えるミアとロキア君。

 ラルスは剣先を突きつけている男に見覚えが無く、男に素性を求めるが男は答えない。

 ラルスは周囲を見渡し、屋敷を出るときと違い、護衛兵の数が減っていることに違和感を感じた。


「何故数が減っている……。お前、他の護衛は何処に行った!?」


「さぁ……。背中がガラ空きでしたからね、今頃地面で寝てるんじゃないですかね」


 男は不敵な笑いを会話に挟み、ラルスへと答える。

 ラルスは脳内に警鐘を鳴らし、咄嗟に横にあった杖を手にしては杖先を男へと向けた。


「きっ、キサマ!!」


「お兄様!」


 ロキア君を背に守りつつ、腰に携えた剣を握り、鞘から抜こうとする。すると、ラルスは一言。


「お前はロキアを守れ! フロールス家の馬車を襲うとは、この不届き者が!」


 思わぬ強襲にラルスは判断が遅れたが、直ぐに動き出す。

 まず弟妹である二人の安全を確保したい。

 既に人の目につく道を外れ、馬車は森の中に入ろうとしている。

 街中に人は多くとも森には人も目も少なく、助けを呼ぶのにも時間がかかる。


 ラルスは直ぐに杖先へと魔力を込め、魔力で作り出した火玉を目の前の騎士に向かって放つ。

 しかし、それは簡単に避けられることに。

 いや、ラルスの狙いとしては攻撃だけではなく、先程放った魔法は救援を求める火球でもあった。


 森へと馬車が入り込む前と、空高く火球の爆発が起きる。それを振り向き見た男の顔は険しく歪み、ラルスが開けた扉を逆に勢い良く締める。

 ラルスがこれ以上魔法を空に飛ばしてしまうと遅くとも救援が来てしまう。


「餓鬼がっ!」


 男はそうはさせまいと馬車の扉を開かない様に、扉の外側に付けられた手すりと扉の持ちてに鞘を通し、内側から開けれないようにしてしまった。 


 内側からラルスが扉を蹴るが、領主邸が所持している馬車がそんな脆いわけもなく、頑丈な扉を蹴破ることはできなかった。


「くっ! くそっ! はぁ……。はぁ……。」


「に、兄様……」


「……。安心しろロキア。俺がさっき放った魔法、あれできっと父上や母上、ゼクスが来てくれる。もしかしたらセルフィ殿が来てくれるかもしれん。お前が怯えることはない」


「うん……」


「お兄様……」


「……」


 弟であるロキア君を安心させるため、自身の冷静さを保つためと言葉を口に出してはミアと目配せをを送る。

 もしこの馬車にラルスだけが乗っていたとするなら、先程扉が空いた瞬間、近寄ってきた賊へと攻撃を当て、馬を奪い取ることも可能だったかもしれない。

 しかし、馬車の中には弟妹の二人がともに乗っている。年端も行かぬ二人を残して自分だけ馬車から降りることはできない。

 ならばと、ラルスは咄嗟に、攻撃に見せかけた救援の魔法を使用した。

 先程の魔法で誰かが来てくれるかもしれない。

 もしかしたら、運良く近くを巡回している街の衛兵がいるかもしれない。

 確率は低いが、それにラルスは少しばかり望みをたくしていた。

 だからと言って、賊共にそのまま連れてかれるのも危険である。

 街から近いうちに、行動を起こさなければ後戻りできなくなってしまう。

 そう思っていると、馬車が森に入り、直ぐに馬車は止まった。

 ラルスが恐る恐ると窓の外を見ると、別の馬車が止まっているのが見えた。

 しかし、その馬車は荷物などを運ぶ為に使われる荷馬車であった。

 恐らくだが、馬車を乗り継ぎするのだろう。

 フロールス家の馬車では目立ち、直ぐに足がついてしまう。

 窓の外を見ると先程の護衛兵の格好をした男三人と御者と別に、数人の賊と思えるような格好をした男達が視界に入る。


「馬車が止まっている今の内か……。ミア、これをロキアと二人で被っていろ。いいか、絶対に顔は出すな!」


「……はい、お兄様。ロキア、私の側に」


 ラルスは自身が羽織っていたマントをミアへと被せる。マントの大きさもあって、小柄な二人はすっぽりとマントに覆いかぶさる状態になった。

 ラルスは息を大きく吸い込み、杖先に魔力を溜め始める。

 

「おい、さっきの爆発は何だったんだ? 計画には聞いていないぞ!」


 待ち合わせをしていた賊達は顔を合わせた瞬間、先程の爆発に対してピリピリとした感じに騎士の格好をした男に言葉を当てる。


「あれは馬車の中にいる奴が撃ちやがった。問題ない、直ぐにこの場を離れればいいだけの事。それよりも急ぐぞ、街から離れているとは言え、誰が見ていたか解らねぇからな。餓鬼共をさっさと馬車から引きずり出すぞ」


「そうだな。……!? お、おい! ば、馬車の中、あれ燃えてねえか!?」


「何っ!?」


 男達はラルス達を馬車から引きずり出すためと、賊達が武器を手に取る。

 一人が馬車の方を見ると、馬車の中から火の手がチラリチラリと見え、白と黒の煙が窓や扉の隙間から出てきているのに気づく。

 まさか、拐われるぐらいならと、火の魔法を使って焼身する気か!?

 いや、今馬車の扉は外側から開けれないようにしてある。そのせいもあって外に出れないのかもしれない。

 そう思った男たちは急ぎ馬車に近づき、暴れだす前と馬と馬車を繋ぐ紐を斬り、鞘で抑えられた扉を開けようとした。


「ふ、ふざけんじゃねえ! 男は兎も角、女は売り手が決まってるんだ! ここで死なれたら俺達の首が飛んじまう!」


「なっ!!」


 馬車を勢い良く開けた瞬間、男達が目にしたのは衣服を火で燃やしながらも、杖先をこちらに向けていたラルスの姿であった。


「賊が! 燃え尽きろ!」


 ラルスノ持つ杖先から放たれる炎の攻撃〈ファイャーピュラー〉

 扉を開けた男は避ける暇もなく、地面から吹き出す炎が槍の様に男に突き刺さる。

 近くにいた賊の数人を巻き込み、炎で飲み込んでしまった。


「うがあああ!!!」


「ひっ! 火が! 俺の腕が!!」


 一瞬にして炎に突き刺された男は、炎の熱で直ぐに死に絶えてしまった。

 だが、倒せたのはほんの数人。

 賊はまだいる。

 与えたダメージが大きいものもいれば、火傷程度の者もいる。


 ラルスが何か唱えたのか、一瞬にして馬車の中の火、ラルスの衣服を燃やしていた火までもが消えてしまう。

 ミアとロキア君を包み込むラルスのマント。

 これは火の耐性を高くもち、火の粉、小さく燃える程度の火は通すことはない。

 馬車の中で少し火が回ろうと、ミアとロキア君は火傷一つおおってはいなかった。


「我がフロールス家に刃を向ける賊共が! 嫡男であるラルス・フロールスの名において、貴様らを我が炎で燃やし尽くしてくれる!」


 ラルスは自身に身体強化の魔法を使用後、馬車を飛び出す。

 そして、魔法使いと思えぬ程に素早い動きで先ずは腕を燃やされ、目の前に蹲る賊の男に攻撃を仕掛けた。


「邪魔だ!」


「!? うぎゃあああ!!」


 ラルスは躊躇いなしとその男の顔に向かって〈フレイムガン〉を使用。

 ピンポン玉程の大きさの火玉が無数と掌から放出。

 見た目は軽そうに見えてもこれは魔法。

 一つが男の顔面に直撃すると、火玉は小爆発を起こし、男の顔の肉をえぐり取るように鼻を吹き飛ばした。

 更に炎の追加ダメージが男を襲う。

 そのまま顔を燃やし、男は痛みと熱の苦しみを受け、ビクンビクンと体を数度痙攣させては命の炎を消した。

 

「フンッ! 燃え尽きろ!」


 ラルスは杖先を馬車を囲む賊達へと向ける。

 そして、杖先からは炎が吹き出す。

 火は男達に襲いかかると思いきや、形を見る見ると変えていく。


「な、何だ! これは!」


「糞っ、何だこれは! か、絡みついてきやがる!! うわああぁぁぁ!!」


 相手の自由を奪う魔法の一つ〈フレイムウィップ〉 

 まるで蛇のようにうねり迫る火からは逃げることはできず、腕や足、体中に巻き付く火のロープ。

 巻きつかれたら火のダメージは勿論、ロープで縛られる様に相手の動きを止める魔法である。

 馬車の周りにいた数人は縛られたまま燃やされていく、かなりえげつない魔法の一つである。

 賊の男達は暴れるも、フレイムウィップを掴むことができない。

 賊は生きたまま燃やされていき、悲壮な叫び声が燃える火の中から聞こえてくる。


「半分は片付けたか。貴様ら! 我がフロールス家の馬車を襲った罪! 更に護衛兵としていた二人の者の命は、貴様らの命を持って償うこととなろう!」


「うぐぐっ……。ふんっ。魔術士がいることは解っていたこと。だがな、ここまで馬車を連れてきた時点で俺達の勝ちなんだよ」


「だからなんだ。魔術士である俺が居ると解っていてこの愚策を……」


「フヒヒっ。魔術士……」


「!? 誰だ貴様は!」


 突然聞こえてきた不気味な声。

 ラルスが声のする方に視線を送ると、木々に隠れていたのか不気味な衣服に身を覆った男がいた。

 ラルスはその男に警戒し、強く声をかける。


「フヒヒっ……。お初にお目にかかる。フロールス家、嫡男であるラルス・フロールス様……。わたくしはハンズと申します」


 ハンズは茂みを掻き分け、その姿を見せる。

 ラルスは訝しげな視線をハンズに送り、他にも隠れているのではないかと周囲を警戒する。


「ハンズ……。知らぬ名だ。貴様か、この賊共の頭は!?」


「頭……。頭……。いえ、わたくしもこいつら同様、雇われた身。ですが、わたくしの目的は別でございます……」


 ハンズは自身の方から背負ったバッグに手を添えて、まるで愛でるようにそのバッグをなでる。

 その際、ハンズは不気味な笑みをこぼし、ニヤニヤと笑う口元からは、ダラダラとよだれを出していた。


 ラルスはハンズの言葉に眉をピクリと動かす。


「雇われたと言ったな。なら、その首謀の名を履いてもらおう」


「フヒヒっ……。フヒヒっ……。雇い人ですか? 雇い人は……」


「オイッ! なにペラペラ喋ってんだ! そんなことより早くそいつの動きを止めろ!」


「フヒヒっ……」


 ハンズが首謀者の名を口に出そうとした時、護衛兵になりすましていた男、鎧の男に言葉を止められる。


「ちっ……。(もう少しで莫迦の親玉が解ると思ったんだけどな。)動きを止めるだと。先程からやられっぱなしのお前らにどうやって俺を止める!? まぁ、俺に剣先を向けた罪、護衛兵に手をかけた罪、何よりもだ、弟妹である二人に恐怖を味わわせた貴様らに、死以外の選択はないがな!!」


 ラルスは手に持つ杖の根本に力を入れる。

 パキッと音がすると、杖の下部分がスコンっと抜けた。

 まるで剣の鞘を抜いたように、杖の中には剣が仕込まれていた。

 少々握り部分が重いが、杖の中に仕込まれていた剣を見て、鎧の男は驚きに一歩たじろいでしまう。

 その瞬間を見逃すまいと、ラルスは駆け出し、一気に鎧の男と距離を縮める。

 ラルスは横振りに剣を振ると、鎧の男の鼻先を斬る。

 鎧の男が一歩引いていなければ、恐らく今のかすり傷程度では済まなかっただろう。


「なっ!?」


「どうした! 魔術士が接近戦ができないとでも思ったか!」


 今は剣の実力は妹のミアに劣るラルスであるが、学園に入る前まではゼクスに剣の鍛錬を受けていた身。

 ほんの数年、剣を持つ生活から離れていようとも、身体に染み込んだ厳しい剣の鍛錬を忘れるわけもなく、身体強化の魔法の効果もあって、鎧の男を押す程の剣さばきを見せる。


「ちっ! ハンズ! 早く、早くしろ!」


「フヒヒっ……。はいはい……」


「!?(魔導具?)」


 鎧の男はラルスの攻撃に焦りながらもハンズに声をかける。

 ハンズはバッグの中から禍々しい壺を取り出した。

 一見ただのツボに見えるが、明らかに水差しなどで使うような物には見えない。

 なぜなら、壺の周りには何やら文字が刻み込まれているのは明らか。更には壺の中心には魔石が一つ見える。

 ハンズは壺の中心に埋め込まれた魔石に魔力を流し込む。

 すると、壺の中からモクモクと真っ黒な煙が吹き出し始めたのだ。

 周囲にいる賊の男達は直ぐに距離を取り、鎧の男もラルスに体当たりをしては無理やりに距離を取った。

 ハンズは壺から吹き出す黒い煙に興奮しながらもその場から離れようとしない。

 だが、突然ハンズが膝から崩れるようにその場で倒れてしまった。


 それを見たラルス。黒い煙は毒かと思い、直ぐに自身もその場から離れようとするが、先程、鎧の男からの体当たりをくらい、その場から離れるのが遅れてしまった。少しでも煙を吸わないようにと思い、自身の腕を口元に当て息を止める。

 だが、煙が自身の足に触れた瞬間、ラルスは足を掴まれた様に足が動かせなくなり、煙が触れる場所、触れる場所から力が抜ける。

 ラルスもハンズ同様に、膝から崩れ、地面に倒れてしまった。


「なっ! がはっ! なっ! 何だこれは! ま、魔力が……ぬ、抜けていく……。くっ……」


 黒い煙が地面に倒れ込んだラルスを包み込んでしまった。

 ラルスは全身の気だるさと痺れ、この感覚に覚えがあった。そう、それは彼の魔力の枯渇時に起こる症状そのまま。

 ラルスの魔力の枯渇状態の時は、声を出すのも難しくなるほどに、口のろれつも回らない痺れを感じてくる。

 それだけで済むならまだしも、体を動かすのも苦痛となる痺れを全身に感じる溜め、枯渇状態のラルスは指一本動かすのも厳しい状態である。


 焦るラルスとは反対に、ハンズは空を見上げながら不敵に笑い声をもらしていた。


「す、凄い……。フヒヒっ……。こ、これが魔導具の力、錬金術の力……フヒヒっ。使える、わたくしでも使える品……フヒヒっフヒヒヒヒ……フヒっ………」


 ハンズは不敵に笑い、白目をむいてガクリと意識を失ってしまった。彼も魔力の枯渇にて何かしら身体に影響があったのだろう。


「くっ! 魔導具……錬金術だと……。おのれ、その様な物で俺の魔力が……(くそっ……。体中の魔力が一気に流れ出したのか! 痺れで喋ることも……。ま、魔力が、枯渇していく! このままでは……。ミア……ロキア……)」


 時間が経つと壺から出てくる煙が止まり、次第に黒い煙が晴れていく。

 煙が晴れたことに、地面に倒れた二人の姿が見えた。

 賊の男たちは煙に触れないようにと木の上に避難。

 次々と木から降りる賊の男達。

 鎧の男も懸垂状態に木にぶら下がっていたのか、煙から避難していたようだ。


「へっ。魔術士の弱点は魔力の枯渇だ。厄介な魔術士も魔力を奪っちまえばただの廃人。オイッ! この餓鬼が完全に動きを止めたら足と腕を縛りあげろ! その後に馬車の中の餓鬼共も縛りあげるんだ!」


 賊の男達は縄のロープを手にしてはラルスへと近づく。

 まだ動けるのではないかと警戒しながら、足でラルスを小突く。


「ハンズ。ハンズ。起きろ! ちっ、こいつも魔力の枯渇で気絶してやがる。面倒くせえが置いていくわけにも行かねえ。オイッ、こいつも荷馬車に乗せとけ!」


「ちっ、この餓鬼が、7人も殺しやがって! なぁ、こいつも連れて行くのか? もうここで殺しちまったほうが良いだろ」


 仲間を殺されたことに逆恨みし、剣先をラルスの首元に当てる賊の男。


「莫迦か、こういった餓鬼を望む奴もいんだよ。この餓鬼、顔は悪くねえ。手足を斬り落としてダルマにしちまえば、そう言った趣味の爺や婆から金が取れんだよ。抵抗するなら薬漬けにすれば済むだけだ。それに、7人殺されたからなんだ。その分上乗せして金が入るだけだろが」


 鎧の男はその分苦労したことを棚に上げて、依頼者か、ラルスを奴隷として売りさばく先の金の値上げ交渉に使うつもりのようだ。


「へへっ、そうだな。そうだ、馬車の中の娘も連れ出さねえと」


 賊の男は馬車の方へと視線を送り、中にいる女を狙おうと馬車へと近づく。

 馬車はラルスが出した火で少しだけすす焦げている。

 男は扉のドアノブに手を当て、勢い良く扉を開けた。


「うへへ。お嬢さ~ん。オイラ達と一緒にいい所に行かねえか。なんちゃって。オラッ、いつまで隠れたつもりなんだよ……! ゴバッ!」


 賊の男はふざけた言葉を言いながらドアを開けた。

 その瞬間、ドスッと音が聞こえ、男の口に衝撃と共に剣が突き刺さった。


「!?」


「これ以上、私達に近づくことを許しません!」


 ミアは腰の剣を抜き構えを取っていた。

 扉が開く瞬間、先手とばかりに賊の男へと攻撃を仕掛けた。

 ミアは賊の男の口に突き刺した剣を抜く。

 すると男は口から大量に吐血、血が器官に入ったのか、咳込みと激痛に悲壮な声をもらし地面で悶始める。


「ゴバッ! ゴバッ! ゴベっ! ぢ、ぢが、どばらねえ。だずげ……」


「五月蝿えな! 自分でヘマしたんだろうが。さっさと死ねや!」


「!?」


 喚き、叫ぶ賊の男。

 近づく鎧の男は躊躇いなしと、自身の持つ剣を地面で悶える男の首へと突き刺した。

 グゲッと鈍い断末の声をもらし、賊の男を殺してしまった。

 それを見たミアは眉間にシワを深く寄せる。 

 鎧の男はミアにまるで見せつけるように突き刺した剣を、ぐりぐりと動かしながら抜く。


「どうした、お前が突き刺した男が死んだだけだ。何を震えてんだ」


「ち、ちが、違う……。私は殺してない……! はっ!? 兄様! 貴様、兄様に何を!」


 ミアは男の言葉に思わず視線を逸らしてしまう。

 だが、視線を逸らした先。そこには兄であるラルスが倒れている姿が視界に入った。


「ああっ? ふっ……。安心しな、まだ死んじゃいねえよ。まだな!」


「ぐはっ!」


 鎧の男はラルスへと近づき、うつ伏せに倒れるラルスの背中に強く足を乗せる。

 ラルスは顔を歪ませ、衝撃に声を出す。


「兄様! 貴様! その足をどけろ!!」


 苦しむ兄の姿を見て、ミアは鎧の男に対して怒りを向け、身体を奮い立たせる。

 馬車を飛び出し、素早いスピードで兄を踏みつける鎧の男へと駆け出す。


 ミアは剣を男に突き刺す勢いに、剣先を男の喉元へと狙う。

 男は迫るミアの剣先を払いのけるが、ミアの攻撃は止まらなかった。

 突きの攻撃が払いのけられれば間髪開けずと次の攻撃。

 ミアの攻撃はラルスを踏みつけたままの鎧の男では対処は遅れ、無数の傷を負わせる効果をだした。


「ちっ!」


 ミアの剣術はゼクス仕込みであり、今も日課の訓練を欠かすことはない。

 父に頼み、フロールス家の私兵と共に訓練することもある程に、剣に没頭した日常を過ごす人物でもある。

 だが、彼女はまだ成人も間もない少女。

 身体の出来上がった大人を相手するにはまだ成長が足りなかった。

 更に付け加えるとしたら、今戦っている相手は屋敷の私兵との剣の訓練ではなく、非道な戦い方を当たり前とする族との戦いであった。

 

 ミアが鎧の男と鍔迫り合いを行っていると、突然ミアの背中に痛みと衝撃が走る。


「あがっ!」


 一対一が当たり前と考えていたせいなのか、それとも兄を踏みつけていた鎧の男しか目が行っていなかったのが原因なのか。

 ミアの背後に立つ顔に傷がある男、こいつも賊であろうか、そいつの手にはその辺で拾った木の棒が握られていた。 

 うつ伏せに倒れたミア。

 直ぐに立ち上がるミアを、他の賊の男達が後ろから捉える。

 ミアは暴れるも男二人に掴まれてしまう。

 少女の力では振りほどくのは難しく、彼女は目の前に立つ鎧の男に怒りの視線を向ける。

 

「卑怯者! 己の心の小さきことを恥と知りなさい!」


「五月蝿え!」


 彼女の言葉に青筋を立てる鎧の男。

 屋敷へ忍び込み、貴族の子供を拐う仕事のはずが、ラルスとミアの思わぬ戦闘力に手こずり、予定よりも時間に押され苛立ちを感じ始めていた。


 そして、ドスッっと鈍い音がミアの腹部から聞こえる。


「がっ……ぐっ……うっ……」


 ミアは突然腹部を殴られるとは思っていなかったのか、苦痛に顔を歪ませ、逃げられない激痛に恐怖を感じてしまい、目尻に涙を浮かべてしまった。


「1発殴られたぐらいで泣きやがって。どんだけ甘い生活してたお嬢様なんだ。俺達を恥と言うなら、てめぇが常識知らず過ぎなんだ」


「ぐっ……。ゆ、許さない……。フロールス家……ミア・フロールスの名において、貴様を斬り捨ててやる……」


 ミアは咳込みながらも、振り絞る思いに言葉を告げる。それは貴族令嬢の誇りであり、フロールス家の武人としての心得あっての言葉だったろう。


「へっ。貴族が何だ! 名が何だ! お前らは無力なんだよ! お前は汚え豚のような男に慰み者として買われ犯され、豚のような餌で慈悲にて今後は生かされるんだ! 泣こうが喚こうが誰も助けねんだ。声を出せば喉を潰され、逃げ出そうとすれば足の筋を斬られる! 終わったんだよ!お前は貴族の女としてではなく、ただの性欲の捌け口の女になるんだ!」


 鎧の男はミアの言葉に激高し、両腕を抑えられ立たされているミアの腹部に非道な言葉と共に一撃、また一撃と拳を入れる。

 男が手を出したとしてもやはりミアは商品。

 苦痛に苦しみ、咳き込むミアを見て、顔に傷のある賊が止の言葉を告げる。

 

「ゴバッ! ゴホッゴホッゴホッ。 ガハッ!」


「おい、それ以上はやめとけ。価値が下がるぞ」


「はぁ……。はぁ……。はぁ……。おい、まだ時間はあるだろ」


「……」


 血走った目で周囲の賊を睨む鎧の男。  

 傷のある賊はその睨みにたじろぐことは無いが、彼は言葉が出なかった。

 周囲の男達は顔を見合わせるのみ。

 それを見て鎧の男は大きく鼻を鳴らす。


「ふんっ! なら、少しだけ遊んでもらおうじゃねえか!」


 男はミアのドレスのスカートを掴み、強く引っ張る。

 スカートはビリビリと布を裂く音を鳴らし、ミアのドロワがさらけだされる。


「! おい。価値を下げるきか!」


「い、いや……。いやぁぁ!!」


 一瞬何をされたのか解らなかったミアだが、露出した自身のドロワに羞恥と恐怖が襲いかかり、悲鳴を上げる。


「へへっ、別の穴、そこは使えんだろが」


 下衆な笑みを浮かべる鎧の男。

 その発言を聞いた周囲の賊の男達も、こいつにそんな趣味があるとは知らなかったようで、嫌悪の視線を送っている。


「いやぁ! 兄様! 兄様! 助けて!」


 暴れる脚を捕まれ、泣き叫ぶミア。

 ミアの腕を掴んでいる男たちも次第と下衆な笑みを浮かべ、鎧の男に合わせてミアの体の位置を動かし始める。

 妹の悲鳴に反応するように、兄のラルスは身体の痺れに抵抗するように動き出す。

 ラルスは男達の足を掴もうと手を伸ばした。


「ミ……ア……。くっ……。ガッ! ぐあぁぁあ!!」


 だが、さし伸ばした腕は他の賊に強く踏みつけられてしまう。


「動くな。何かすれば、この腕へし折る……」


「ミ……ア……ミアッ! ミアッ! どけっ! どけえ!! ! お前ら、それいぞう、俺の妹に、デを、出してみろ! 焼き殺しでやる!!!」



 魔力の枯渇にて、ろくに動けず、口の呂律も回らなくなってきた今の自分が憎々しい。

 最愛とする妹を守れない自分が不甲斐なく腹立たしい。

 そんな妹を泣かせ、汚れた手に落とそうとする族達が恨めしい。

 憎悪に怒り、血の涙を流す思いとラルスは歯を強く噛み締め、感覚の鈍る腕に強く拳を作る。


「嫌! 嫌っ! お父様! お母様! ゼクス!」


「暴れんじゃねえ!」


 ミアは泣き叫びながらも足で鎧の男を弾こうとするが、足は男の腕に掴まれる。

 鎧の男は拳を作り、泣き叫ぶミアを黙らせる為と腹部にまた一撃いれる。


「!?」


 手加減など全くしていないような攻撃に、ミアは呼吸もできなくなる衝撃に襲われた。

 苦痛の痛みと呼吸困難にミアは涙を流し、賊に懇願するように、周囲に助けを求め始める。


「い、嫌……。た、助けて、い、痛い……嫌……だ、誰か」


 そんなミアの姿をみて、周囲の賊の男達はこうなった女がどうなるのかは知っている。

 痛いのは嫌、殺されたくない、生き延びたい。

 無我夢中に暴れ、抵抗するも所詮は女の力では、男の腕を振りほどく事はできない。

 そうして、どの女も自身の身体を差し出すように犯される。

 親の前で犯される娘、旦那の前で犯される妻、恋人の男の前で犯される女。

 賊の慰み者となった女は事が済しだい、生き残される事は無く、愛する者を先に殺され、次に自身も殺される。

 モンスターの餌としてその辺に野ざらしにされるか、人気の無いところで殺されるのが賊の処理方である。


 ミアは既に買い手の決まっていると聞かされた女。

 だが、連れ去らう依頼を受けているこの族達にとって、ミアの状態がどうなろうと知ることではない。

 男達が受けた依頼は、フロールス家の子供を生きて連れて来い。

 ただこれだけである。つまり既にミアの身体が男を知っていようと、ラルスの腕を切り落とされた状態でも、生きていいれば何も問題はないのだ。


 鎧の男が自身の半身を守る鎧を脱ぎだすと、ミアは森中に響くほどの声を出して、助けを求めた。

 そして、ミアのドロアに男の手が触れた瞬間。


 バシッ!


「いでッ! 誰だ!」


 鎧の男の顔に痛みが走る。

 男は咄嗟に自身の顔を抑えると、痛みが走った場所からは血が出ていた。

 

「姉様から離れろ!」


 声のする方へと周囲の視線が行く。

 そこにはラルスのマントをかぶり、何とか馬車から降りてきたロキア君の姿があった。

 彼は手に持っていたスリングショットを強く握り、近くにあった石を咄嗟に使い、姉のミアを助ける為と、彼女を抑える賊の一人へと撃ったのだ。

 彼の狙った者とは別の人物に当たってしまったが、それが幸いしたのか、ミアはまだ肌着を脱がされてはいない状態となっている。

 弟のロキア君の姿を見て、ミアは泣きながらも彼に逃げることを促す。

 ラルスは何とか首を動かし、馬車の方を見て驚きに目を見開く。


「ロ……ロキア……。駄目! 逃げて!」


「ロ……ギア……!? 何故、で、出てぎた」


「餓鬼が、邪魔しやがって!」


 しかし、相手が子供だからと言って、自身の楽しみを邪魔した者を見逃すような賊では無い。

 鎧の男はズカズカと歩きロキア君へと近づく。

 男から見下される視線は家族の優しい眼差しとは違い、怒りに満ちた視線であった。

 ロキア君は男の迫力に押され、尻もちをついてしまう。


「ひっ!」


「大人のジャましちゃいけねえって、かあちゃんに習わなかったか糞餓鬼!」


「いや、あ、あっ……」


 鎧の男はロキア君の胸ぐらをつかみ、軽々と持ち上げ、怒気を発しながら腕を振り、ロキア君の首を絞める。

 締まる首にロキア君が暴れるも、鎧の男は腕の振りを止めない。


「ヤメロッ! ぎざま! ロギアにざわるな!!」


「や、止めて……、ロ、ロキア……死んじゃう」


 ラルスとミアの声が響く。

 ロキア君はポロポロと涙を流し、兄の名、姉の名、そして最愛とする家族を呼んではゼクスとセルフィ様の名を呼ぶ。

 

 少年へと未だ怒気の言葉を告げる鎧の男。

 その男の元へと、傷のある賊が近づき言葉をかける。


「おい、そろそろ行くぞ。追手が来ても面倒くさい。やるなら後でやればいい」


「糞が!」  


 鎧の男はロキア君を他の賊へと投げる。


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」


「……。荷馬車に入れろ」


 咳き込むロキア君を見て、一応まだ息があることを簡単に確認した後、ラルス、ミア、そしてロキア君三人を荷馬車へと乗せる賊達であった。


 その後、通りかかった狩人に人の乗っていない馬車が発見され、中を見て不審と思った狩人は直ぐに街へと知らせへと走った。

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