第86話 午後の予選

 午前の予選も無事終わり、午後の部が始まるまでの休憩時間。

 正面入口へと行くと、プルン、ヤン、モント、ミミ、それとリック、リッケ、リッコが待っていてくれた。

 子供達が自分を見つけたのか、大きく手を振っては近づいてくる。


「兄ちゃん!」


「凄い! お兄ちゃんって強かったんだね!」


「にーに! あたち、いっぱい応援した!」


「うん、皆の応援のおかげだよ。ありがとうね」


「ニャハハ、勿論ニャよ!」


「ははっ、プルンさんは随分と頬を膨らませては、食べ物に夢中と思ってたのは自分の見間違いかな?」


「ニャッ!? ニャんでそれを!?」


 予選の試合中、待ち時間も長かったのでスキルを使用し、観戦席にいるプルン達をを見つけた時に見たのだが、彼女は両手に何やら串肉の様な物をもってはそれを口いっぱいに頬張っていた。


「弓使いの視力舐めちゃあきませんぜ」


「で、でも、試合はちゃんと見てたニャよ! 本当ニャよ!」


「はいはい、プルンもありがとうね」


 リック達からも労いの言葉と一先ずお疲れと言葉をもらった後、時間までは皆で食事にでも行こうかと話が出た。


「ねえ、リッケ。折角だしマネさん達も誘ってみようか?」


「ま、マネさんですか……」


「何? リッケの思い人が来てるの?」


「なっ!? リッコ! な、何を!」


 妹の思わぬ言葉に顔を真っ赤にするリッケ。

 本当、この青年は解りやすいな。


「はいはい、別に隠すことないでしょ。私達は別に構わないけど、向こうって皆予選勝ち残ったのかしら?」


「ああ、それもそうか……。もしもを考えたら、食事の気分でもないかな……」


「あっ! ま、マネさん」


 マネ達も食事に誘うか悩んでいる内に、人混みからリッケがマネを見つけたのだろう。マネもリッケの声に気がついたのか、手を振りながらこちらへと近づいて来た。人混みを抜け、こちらへと来ると足元にはシューも一緒だった。


「おお、ミツにリッケ。ここに居たのかい。あんたら、何処も怪我もなさそうだね? ってか、あんた達は自分で治せるか」


「は、はい……」


「んっ? どうしたっての、随分と元気がないね?」


「マネ、流石に察してあげるシ。きっと予選で負けちゃったんだシ」


 シューの言葉に少し眉尻を下げるリッケだったが、無理矢理にとマネへと笑顔を振りまくのだった。


「ははっ……。はい、そちらのシューさんの言うとおりで、僕では全く歯が立ちませんでした……」


「そうかい。すまないね、気を使ってやれなくて」


「いえ、その分僕はマネさん達を応援しますから!」


「あー。あっははは、気持ちはありがたく受け取っておくよ……」


 リッケは両手に握りこぶしを作り、マネ達へとエールを送るが、マネとシューの二人の視線が申し訳なさそうに泳いでいた。


「んっ? あれ、シューさん、そちらは誰が勝ち残られたんですか?」


「う~。午前の予選は姉さんとエクレア、二人だけが勝ち残ったシ……」


「えっ……」


「あははっ。って事で、アタイとシューは姉さん達を応援する観戦組だっての!」


「マ、マネさんが負けたんですか!?」


「まあ、あたいもシューも相手が悪かったんだよ」



 女性の大会申込者はそれ程多くなかったようで、ニ回勝てば二次予選へと参加することができる振り分けをされていたようだ。

 ヘキドナとエクレアは予選は問題なく抜けることができたが、シューとマネ、この二人の対戦相手が悪かった。

 シューの戦い方は身の小ささを生かし、素早い動きで相手を翻弄して行く戦い方が基本。それと、敵の不意をつくなどの不意打ちを得意とする戦いだ。

 だが、運も悪く、シューの対戦相手は獣人族であった。

 闘技場では一対一の正面からの戦い。

 シューのスピードが早くとも、獣人族は鋭い動体視力を持ち、闘技場のように限られた範囲ではシューの素早い動きがあっても、あっさりと捕まってしまった。

 そして、暴れるシューは場外へと放り投げられ、場外宣言を受けて敗北してしまったそうだ。


 そして、マネの戦い。

 彼女は一度勝利を掴んだものの、二回戦目にて敗退。対戦相手はマネと変わらない体格、しかし力はそれ以上。彼女の相手は、鬼族の女性だった。

 互いに獲物である武器は持っていたものの、何故か力と力のぶつかり合い、互いに手を組合い相手を力での押しあいが始まった。

 勿論相手の足を崩すために、蹴りは出すわ頭突きをしたりと、観戦者だけではなく、周りに居た出場選手も興奮する戦いを繰り広げていたようだ。

 だが、種族としての力の差が出たのか、人とは違い、戦いが長引くと鬼族は力を少しづつと、ギアを上げる様に力は上がるばかり。

 結果はマネに頭突きが決まったと同時に、マネがダウンして試合が終わった。

 

「……っう!」


「マネさん! 血が!」


 立ちくらみ程ではないが、マネが自身の頭を抑えた後、頭からツーっと一筋の血が流れた。


「ああ……。傷口が治りきってなかったみたいだね……。いいっての、これくらいなら唾つけとけば治るっての」


「駄目です! 僕が治しますから、見せてください!」


「おっ、おお……悪いね……」


 リッケはマネの腕を取り、近くの椅子にマネを座らせては治療を始めた。少し強引に椅子に座らされ、治療を受けるマネは驚いていたが、リッケの真面目な表情を見てはなされるがままであった。


 リッコとプルンはそんなリッケをニヤニヤとした表情で見ている。

 

 そんなやり取りを見ていると、シューが問いかけてきた。


「ミツは何回戦で負けたシ?」


「えっ? いや、シューさん、自分は午後も予選に出ますよ」


「えっ! ミツ、勝ち残ったシ!?」


「ええ、運が良かったんですよ」


「「そんな訳ない……」」


「ニャハハハ」


 おなじみの言葉に呆れるリックとリッコ、そして笑うプルン。


 そんな会話をしていると、人混みの中から少女の声が聞こえてきたと思ったら、自分の背中に軽い衝撃が走る。


「見つけた!」


「んっ!? うぉっと!」


「ミツさん!」


「あ、あれ? あ、アイシャ?」


「ニャ!? 何でこの子がここにいるニャ!?」


「何、誰?」


 後ろを振り返ると、そこに居たのはオレンジ色の髪の毛を揺らし、嬉しそうな笑顔を向けてくる少女。スタネット村で出会ったアイシャであった。オレンジ色の髪の毛、以前と違って髪はポニーテールではなく、一つのお団子のようにまとめられている。

 村で着ていた土に汚れたぼろの服ではなく、少し小奇麗であり、継ぎ接ぎは見えるが一庶民の少女の格好をしている


「ミツさん、久しぶりね! 大会に出るって言うから、皆で応援に来たのよ」


「えっ? 皆って……」


「ミツ坊、久しぶりだね」


「ミツさん、お久しぶりです。ほんの少ししか経ってないと言うのに、随分と強くなられてますね」


「いやいや、マーサ、彼はオークを一人で倒したくらいだぞ。元からそれだけの実力があったんだろ」


「お久しぶりです! ギーラさん、マーサさん、バンさん」


 アイシャの来た方を見ると、人混みからアイシャの母であるマーサ、祖母であり、スタネット村の村長をやっているギーラ、そしてその息子であり、アイシャの伯父であるバンの三人の姿が見えた。

 三人もアイシャ同様に、村で過ごすための服では無く、身を綺麗にした服装である。


「お前さんも元気そうで良かった」


「もう、ミツさんったらまた来てくれるって言ったのに、全然村に来てくれないんだもん!」


「あ、いや、それはその。アイシャ、ごめんね」


 アイシャはプクッと頬を軽く膨らませては、村に来てくれなかったことを軽くせめて来る。


「ふふっ。いいの。だから、全然会いに来てくれないから、私達から会いに来たのよ! どう、ビックリした?」


「うん、驚いた。馬車で来れる距離と言っても、まさか皆で来るとは」


「でしょでしょ! あれ? お姉さんって」


 アイシャが自分の手を両手で掴み、満面の笑みに言葉を返していると、後ろにいたプルンに今気づいたかのように見ている。


「ニャ! 久しぶりニャね、ウチはプルンニャ」


「プルンさん、お元気になられたんですね。この間あった時より、随分と顔色も……他も変わられましたね……」


 アイシャの言葉通り、プルンと初めて出会った時は、彼女の頬や腕周りは少し痩せ、顔色も以前は血色を少し失った様にも見えていた。

 だが、今は満足する程に三食しっかりと食べ、プラスして間食を入れているおかげか、肌艶の色は歳相当に見えるし、血色も良くなったのか、肌は綺麗な薄いピンク色である。

 アイシャがプルンを上から下まで見ると、プルンの胸の部分で視線が止まった。

 直ぐに自身の胸部にも目をやり、彼女は小声でまだ私の方がと、何かを呟いていた。

 

「ニャハハハ。あの時は本当に助かったニャ。改めてお礼を言うニャ」


「いやいや……。お主だけじゃなく、皆が今ここで元気にしていられるのもミツ坊のおかげ。礼ならミツ坊にするもんじゃよ」


「そんな、お礼だなんて」


 プルンは以前オークに捕まっていたことを改めて感謝を伝えるように、何度も頭を下げてお礼を述べる。

 ギーラも、気持ちはミツへと言うべきだと、頭を下げるプルンの肩に手をのせては、微笑みに言葉をのせて伝える。

 

 そんな中、マネの治療が終わったリッケを見てリックが口を開いた。


「ああ、ミツ。話の途中すまねえ。お前その人達と知り合いなんだろ? 立ち話もなんだし、お前はその人達と昼飯でも取って来いよ。俺達が居ちゃ、お互い気も使うだろうし。時間になったら、俺達は観戦席に戻るからさ」


「坊や、すまないねえ。ありがとう」


「あ、いえ。行こうぜ、皆。そっちの二人の姉ちゃん達も一緒に行くだろ?」


「ああ、構わないっての」


「シシシッ。姉さんとエクレアは次の試合で気が立ってるからね、ウチらだけで食べるつもりだったの。昼飯くらいなら付き合うシ」


「ミツ、また午後も頑張るニャ! さっ、ヤン達もお昼行くニャよ」


「「「は~い」」」

 

 プルンの言葉に子供たちは元気よく手を上げている。

 込み入った話にもなりそうなので、リック達とは別々にお昼を取ることになった。


 お昼に選んだのは野菜スープや焼き串を売っている出店。その店で人数分の串肉、パンとスープを購入後、裏に適度な広場があるのでそこでお昼を食べることに。

 自分たち以外にも、色々な人がそこで昼食を食べている。ちょっとした遠足気分だな。

 

 イベントの為にと用意された樽をテーブル変わりに使い、昼食を食べ始めた。 

 アイシャは目をキラキラとさせ、美味しそうに串肉を頬張り、お肉に夢中だった。

 そんな彼女をみては、母親であるマーサがアイシャの頬についたソースを拭ってあげている。

 そんな姿を見せて恥ずかしかったのか、少し頬を染めては笑い返すアイシャだった。

 食事も終わり、少し腹休めと皆と会話を楽しむ。


「そう言えばミツさん、あのお姉さんと随分と仲良くなったのね」


「んっ? プルンのこと? ああ、冒険者登録してから、パートナーとして一緒に依頼とかしてるからね」


「……それは、冒険者としてのパートナーだよね?」


「えっ? そうだけど?」


「そっか……。初めてあった時は随分疲れた顔してたのに、今は元気そうだね。そうだ、ねえ、ミツさん、試しの洞窟ってところに行ってきたんでしょ? その話も聞かせてよ」


「これこれ、アイシャよ。話したい気持ちも解るが、ミツ坊には先に話すことがあるじゃろ」


「あっ! そっか! 失敗失敗」


「んっ? お話って何ですか?」


 話があると聞き返すと、ギーラが真面目な表情を向けた後、突然地面に正座になり、手を地面に当てた。

 それに続くように、バン、マーサ、そしてアイシャもギーラ同様に地面に正座状態。

 突然四人が地面に座ったことに驚きに、ギーラへと近づく。

 ギーラは自分の顔を見た後、頭を下げたまま口を開いた。

 

「ミツ様……」


「えっ?」


 突然ギーラから敬称をつけられ、戸惑う自分を置いてはギーラは言葉を続けた。


「貴方様は我々が病に日々悩み、苦しみ、死の歩みを進むしか残されていない時に、無償にて村人を救って頂きました。それだけでも我々は感謝の気持ちに、この胸が張り裂けぬ思いと言うのに、この度はわたくし共の様な者のために多くの資金をお送り頂き、誠に感謝いたします。村の代表として深く、深く感謝を……。本来ならば村人総員しても貴方様に心よりの感謝の念をお伝えすべきところですが、只今スタネット村は、領主様のご命により改善の為、家、井戸、畑など全てを改装しております。その為、村人を村から離すこともできず、そのことをお詫びとご報告いたします。ここに居ない村人も、貴方様には深い感謝をお伝えできなかったことに念を申しておりました。どうか、ご理解の上、わたくし達、4人だけが貴方様の前にて頭を下げることをお許しくださいませ。そして、貴方様の望むことがございましたら、わたくし達スタネット村人は、必ずや貴方様のお力になることをここにお約束を誓わせていただきます……」


「「「ありがとうございます!」」」


 突然ギーラは頭を下げ、ミツがスタネットに対しての善意の行為をしたことに感謝の言葉を繋げ、それに続くかのように、バン、マーサ、アイシャも感謝の言葉を三人は口を揃えて伝えてきた。

 以前、領主ダニエル様から、息子であるロキア君をモンスターから救ったこと、そして模擬戦にて執事長のゼクスさんに勝利したことの褒美として貰った虹金貨5枚。

 ミツはその時、その虹金貨5枚を全てスタネット村へと寄付したのだ。

 貧困とした村に取っては虹金貨は大金であり、数年分の税収免除や、壊れた家、濁った井戸、荒れた畑などの修理資金に回されたようだ。

 勿論それだけでは無く、ゼクスさんは機転を効かせ、不足していた物をスタネットの改善費として回していた。

 畑を荒らす害獣のようなモンスターを、スタネット修繕までの間見守る兵士に狩りさせたり、不足していた人材を補充するためと、出稼ぎに出ていた家族を呼び戻し、村の発展に力を注いでいた。

 自分はスタネット村にて、ゼクスさんが村で領主様の言葉として発表したことを実行し、今、村は大きく変わっていくことを説明を受けた。

 

「そうですか。ダニエル様とゼクスさんが……。ギーラさん、これからも、皆さんと力を合わせて頑張って下さいね」


「み、ミツ様……。うっ、うう……ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」


「やだな。前みたいにミツ坊で良いですよ。さっ、手が土に汚れちゃいますから、立ってください。皆さんも他の人の視線もありますから」


 ギーラは目の前の少年の言葉に耐えきれずと、大粒の涙を流し始め、それを宥めるようにと、義娘のマーサと息子のバンの二人がそっと肩に手をあてがえた。


「もう、お婆ちゃんったら。いつも私のこと泣き虫って言ってるのに、お婆ちゃんもじゃない……」


 鼻をスンとすすり、目尻の涙を裾で拭うアイシャ。

 その言葉にギーラは「良いんだよ、嬉しい時の涙は流しても」と、笑顔を孫に向けては言葉を伝えている。


 周囲の視線もチラチラと気にはなるが、別にこちらが争いをしてるわけでもないと解ると、注目の視線は少しづつと霧散していった。

 ギーラも落ち着きを取り戻し、アイシャが聞きたがっていた洞窟での話を午後の予選の時間までと、ゆっくりと話を聞かせてあげた。

 皆は驚きに言葉を失ったりと、信じられないとばかりに思っていたが、ギーラはうんうんと全てを信じるように頷き、アイシャは興味津々と目をランランとさせては次々と質問をしてくる。



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 とある種族が泊まる宿屋の室内にて。


「莫迦野郎が!」


「ガハッ!」


 怒鳴り声と共に、重い拳がトラの獣人族の頬に当たり、殴られたその者は宿屋の壁に強く体をぶつけた。


「誇り高き一族の血を受け継ぐお前が、予選ごときで敗退を屈するとは! しかもだ! 負けた相手が武器も持たぬたかが人族の子供と言うではないか! ベンガルン! 貴様、姫に顔に泥を塗るつもりか!」



「くっ……あに、いや……団長……すまぬ……。言い訳などする気は無い……。負けたのは己の油断だ……」


「そうか……。なら、恥じたまま里に帰れるとは思うまいて」


 そう一言告げると、団長と呼ばれた男はナイフを近くの獣人族から受け取り、鞘を抜き捨てた。


「うっ……」


 窓から差し込む光に反射したナイフが、ベンガルンの恐怖を沸き立たつ。


「バーバリ、止めるのね」


「ですが姫!」


 ナイフの刃先がベンガルンの頬に当たろうとしたその時、部屋の奥からまだ幼い少女と思える声が団長の持つナイフの動きを止めた。

 


「私は止めろと言ったのね」



「はっ!」


 部屋の奥、ベットの上に座る少女の威圧のこもった声に、団長であるバーバリは直ぐにナイフを床に置き、片膝をついては頭を垂れた。

 少女の声は聞こえるが、部屋の奥まで日の光は届かない為に、少女の姿が見えない。


「しかし、ベンガルンに土を被せる相手が居るとは……。バーバリ、ベンガルンが敗れた今、我等獣人が試合へと何頭出れるとお前は読む?」


「はっ! お答えいたします。雄は16名中わたくしも含め、4名は試合に行けると思われます! 雌は苦戦をしたようですが、こちらも4名は行けると申しておりました」


「そうか。我等獣人族が試合の半数近くを埋めるとなると、試合の士気も上がろうて。皆の者! 我等が祈願、今回の試合にて必ずや、人、魔族、蜥蜴、他の者には遅れの取らぬよう! 必ずや勝利の牙を!」


「「「はっ! 姫君の仰せのままに!」」」


 その場にいる数名の獣人族、全てが一人の少女へと頭を垂れ返事を返す。

 そんな時、部屋をノックする音がその場の警戒心を一気に高めた。


 コンコンコン


「誰だっ!」


 バーバリが扉の向こうの人物へと言葉をかける。


「バーバリさん、わたしだよ。なんだか凄い音がしたけど、一体どうしたのさ!? ちょっとここを開けておくれ」


「女将か、すまん、少し騒ぎすぎた……! はっ!」


 扉の向こう、返事を返したのはこの宿の主でもある、女将であったことに周囲の獣人族もホッと一息に腰の獲物から手を離す。

 だが、バーバリは自身の拳でベンガルンを宿の壁に吹き飛ばし、壁を破損させたことにヒッと冷や汗が出てくる。


「お、女将、すまぬが今は開けられぬ! 今は武道大会の大事な作戦会議中だ。悪いが、後にしてくれ!」


「そうかい? 解ったよ。でも、あんまり騒がないでおくれよ、他のお客さんにも迷惑になっちまうからね」


「心得た! 以後気をつける」


 女将が去っていく足音に聞き耳をたて、居なくなったことを確認後、バーバリ達は直ぐに壁の修繕を開始した。

 だが、その努力も虚しく、壁が破損したことが女将の耳にはいり、バーバリは壁の修繕費を徴収されるのだった。


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 昼食も終わり、プルン達とまた合流。折角と、アイシャ達もプルン達と一緒に午後の準予選を見ることになった。



「ミツさん、頑張ってね! 私、いっぱい応援するわ!」


「ニャ~。勝ったら祝杯ニャね!」


「ありがとうアイシャ。それとプルン、それはまだ流石に早いでしょ」


「ニャハハハ」


「ところであんた、午後はどう戦うの? 午前中の戦い、み~んな場外に出しちゃったじゃない」


「そうだね~。同じ様に行けそうならそうするけど、今度は女性も相手にするかも知れないからね」


「大丈夫かしら……。対戦相手が女性の時に、どさくさに紛れて、相手の変なところとか触ったりするんじゃない?」


「しないよ!」


 リッコの言葉に直ぐに反論するが、思うところのあるプルンの目がジトっとした視線になり、頬を染めては自分を信じられないと思っているようだ。


「シシシッ。ウチはミツがどんな戦いをするか楽しみにしてるシ」


「はい、シューさんの期待に応えれるようにがんばりますよ」


 ミツがそんなことをするわけ無いと思っているシューは、その場の空気を散らすかのように話題を変えてくれた。

 無邪気な笑みをこぼす彼女だが、身長はアイシャと変わらないのに、歳は18歳と、会話の中では一番のお姉さんであるシューに感謝である。


「……」


「んっ? どうしたのリック?」


 自分達が会話をしている中、リックが人混みの方へと視線をじっと向けていることに気づいた。



「いや、別に……。多分、お前を見てたんだろうな」


「誰が?」


「あの人達だよ」


「ああ、ダスティさんとポプランさんね。別に敵意って訳でもなさそうだから、そこまで気にしなくても大丈夫だよ」


「何で解るんだよ?」


「ん~。勘かな?」


「何で疑問系何だよ……」


 本音を言うと勘なのではなく、ダスティとポプランの二人に〈マーキング〉スキルを使用し、二人のマークが赤の敵意を持った色ではなく、グレーの好意も敵意でもどちらでもない表示だったのでそう答えたのだ。


「はあ……。まあ、お前はリッケの分も頑張ってこいや」


「任せてよ! って、そのリッケは?」


「ああ、リッケなら、あの姉ちゃんと観戦中に食べるための食い物を買いに行ったぞ?」


「ニャッ!? ウチも買いに行ってくるニャ! リッコ、モント達と一緒に先に行っててニャ!」


「ちょっとプルン!?」


 弟妹をリッコに任せて、プルンはダッと出店の方へと駆け出した。


「姉ちゃん!俺、饅頭食いてえ!」


「僕はお菓子!」


「ね~ね、あたちも、おかち!」


「解ったニャ。三人とも、ウチが戻ってくるまで、リッコの側から離れちゃ駄目ニャよ」


「「「はーい」」」


「は~。大丈夫かな?」


 弟妹達の希望を受け、プルンは手を振り、出店の食べ物を求めて人混みへと消えていった


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 午後の二次予選のため、また闘技場のある場所へと戻ってくる。

 先程とは違い、参加人数は男女合わせても32名。

 闘技場の周りには、一クラス分の人が集まっている。



「それでは只今より午後の予選を行います! 午前中に行いました予選とは違い、皆様見てわかるように今回は男性女性、関係なしに混合にて戦って頂きます! そして本大会出場者16名を決めるため、勝負は一度だけとなります。先程皆様に渡しました木札は一度回収後、改めてこちらの赤い木札を渡しております。そちらには1~32の数字が焼印されており、その番号が呼ばれた人は舞台へとお上がりください。勝負ルールは午前中と変わりません。降参、場外、相手を殺してしまった場合に今回追加いたしまして、女性は男性の急所を狙った攻撃、男性は女性への卑猥行為が追加として反則負けとして追加されます。何かここまででご質問のある方は?」

 

 質問は無いかと審判からの言葉に、槍を持つ蜥蜴族の戦士が手を上げて質問を飛ばした。


「はい、そちらの方」


「対戦相手はどう決まるんだ? 1~32の数字が順番に呼ばれるのか?」


「いえ、対戦の組み合わせはこちらのくじ箱にてランダムでお呼びします。他にございますか?」


「あー、俺もいいかい?。女が相手の時、そいつを場外に出す際に、相手に触れても反則負けになるのかい?」


 次に質問したのはダスティだった。

 質問内容は確かに気にはなる。


「いえ、それは行為には入りませんのでセーフとします。ですが、こちらも目を光らせておりますので、それが悪意的な行為と判断したときは直ぐに試合を止めます。他にはございませんか? 無い様でしたら、早速試合を始めます」


 審判が32個の木で作ったボールを箱へと次々と入れていく。その数字が入った箱の中から、ガラガラと木が打つ音を鳴らしながら中のボールがかき混ぜられていく。


「流石に強そうな人ばかりですね」


「フッ……。私には坊やがここに居るのが場違いに見えてるよ」


 自分の立つ横には、ヘキドナとエクレアの二人がいる。


「ですよね~。君、午前の予選はいったいどうやって勝ってきたの?」


「どうって。皆さんを場外に押したり、後は相手の攻撃に合わせてカウンターみたいな感じですかね」


「そうかい。ちなみに坊やは何番の数字だい?」


「えーっと。30番ですね。お二人は?」


「リーダーは17で私は18だよ」


 手に持つ赤い木札に焼印された数字を二人へと見せると、二人も手に持つ札の数字を見せてくれた。


「連番の勝負ルールにならなくて良かったですね。その数字だと下手したらお二人で戦うことになってたかもしれませんし」


「その時はその時だね」


「うひゃ~。リーダー、容赦ないな~」


 審判が箱の中からボールを二つ取り出しては数字を読み上げた。


「8番と16番。こちらの数字の方は闘技場へとお上がりください」


「午前中みたいにまとめて試合をやらないんですね」


「ああ、その方が助かる。相手の技量も見れるからね」


 自分の疑問にヘキドナが答える。


 審判が箱の中から出した数字を読み上げ、声に反応した二人が舞台へと上がる。

 闘技場へと上がるのは大きな槍を持ち、人だと思う人物だが、その腕や首筋には緑色の鱗が見えている。髪は茶色に、後頭部に一本の三つ編みに髪を結んでいる。

 よく見ると、先に闘技場に上がったのは蜥蜴族の選手だった。

 そして、全身を黒いローブに身を隠し、唯一目だけが見える格好の選手。見ただけでは男なのか女なのか、人なのか獣人なのか、全くと言っていい程に情報が取りにくい戦士だ。


「互いに向き合い軽く言葉をかわす」


「貴様、獲物は持たぬのか……?」


「必要ない……」


「フンッ! その言葉、戦士である我に対する無礼であり、己の愚直だとしれい!」


 蜥蜴族の選手は自身の槍を構え、矛先を目の前の選手へと向けた。

 それに対して一歩も動こうとも、それに身構える動作も見せないローブの選手。

 審判の声が響いた瞬間、蜥蜴族の選手は自身の尻尾を地面へとベシッと叩きつけると、その勢いを含めてザッと動き出した。

 気合の掛け声と共に、正面からの槍を突き出す蜥蜴族の選手。

 突き出す矛先がローブの選手へと連撃の攻撃として繰り出された。

 突き、払い、返し。様々な槍の攻撃を繰り出すがどれも避けられ、ローブの選手にかすりもしなかった。

 蜥蜴族との選手がもう一度気合を入れては矛を突き出す。だが、勢いがあったその踏み込みもピタリと止まった。

 いや、止められたのだ。


「な、何っ!?」


 ローブの選手は自身に突き出される槍、その刃と鉄を繋げた場所、口金と呼ばれる部分をガシッとローブから出した右腕一本で掴みとっていた。


「くっ! !? お、おのれ!」


 蜥蜴族の選手が力を込め、そのまま前に突き出す力を更に込めるが槍が全く動かない。ならば、一度槍を引こうとしてみるがそれでもローブの選手は槍から手を離してくれない。

 ならばと、思いきって自分から槍から手を離し、爪と自身の無数の牙による攻撃に切り替えようとした瞬間だった。

 蜥蜴族の選手の目の前に赤い光が現れたと思ったその時、小爆発が起きては爆風が蜥蜴族の選手を襲った。


「がっ! ブハッ!」


 上半身を煤で汚したかのように黒く焦がし、途切れる意識の中、蜥蜴族の選手は一言こぼすだけが限界だった。


「き、貴様……魔術士か……」


 魔術士であれば、身体能力を上げる魔法もある。

 そうなれば自身の槍が掴まれた理由も納得する。

 更には、相手が自身の槍を掴んだことに、力の強い戦士系だと決めつけ、魔術士である概念を捨ててしまったのが敗因だと、蜥蜴族の選手は途切れる意識の中考えるのであった。


「勝負あり! 16番の勝利です」


 観戦席から舞い上がる、驚きと歓喜の拍手。

 それに応えることもなく、ローブの選手は闘技場から降りていく。


「随分な奴がいたね……」


「はい。下手に戦ってたら私もあんな状態に……」


「……」


 ヘキドナとエクレアが、闘技場から出ていくローブの選手を目で追ってはボソリと呟く。

 自分も同じ事を思っていたので、視線が無意識とローブの選手を追っていた。

 

 その後、試合は進み、ヘキドナの番号が呼ばれた。


「17番と28番、上がってください!」


「やっと出番か……」


「リーダー、頑張って!」


「ヘキドナさん、怪我しないように気をつけてください!」


 自分とエクレアの言葉に、ヘキドナはフッと軽い笑いを残しては舞台へと上がっていった。


「マネ! アネさんの番だシ!」


「うおお! 姉さん、ファイト! 応援してますよー!」


「アネさーん! アーネーさーん! 頑張るシ!」


「「あねさーん! あねさーん! あっ! ねっ! さーん! 勝利だっ! 勝利だっ! あっ! ねっ! さーん!」」


 周囲の視線を気にしないと、席を立ち上がり、声を張り上げては応援するマネとシュー。応援は嬉しいが、流石にやり過ぎだろう。周囲の人達はくすくすと笑い、同じようにヘキドナを姉さんと呼んでは応援し始めた。

 マネとシューの観客席からは見えないかもしれないけど、ヘキドナさんのうつむいた顔が真っ赤だよ。


「くっ! あの二人……」


 闘技場へと上がるヘキドナの前に、剣を持ったまま立つ青髪の冒険者。


「随分と人気者だね……。女性相手は苦手だから降参してくれないか?」


「舐めるな……」


「ヒュー。怖い怖い。怖いからさっさと終わらせようか」


 剣を構え、剣先をヘキドナへと向けるのはダスティである。

 ヘキドナは腰に携えていた長さ数メートルはある鞭を、ピシッと音を立てながら地面へと叩きつける。

 


「では、始め!」


 リーチの長い鞭は近づけばそれ程の攻撃はできないと踏んだのか、ダスティはダッとその場を駆け出し一気にヘキドナとの距離を詰めた。

 ヘキドナもそのことは理解していたのか、自身も後ろへと下がり距離を開ける。

 迫るダスティに横から鋭いムチの攻撃が襲いかかる。 

 鞭に剣を取られて攻撃を塞がれてしまうため、ダスティは鞭の攻撃は避けるしかできない。

  

「おっと。せいっ!」


「フンッ」


 鞭の攻撃を一度避けても、ヘキドナの鋭い鞭さばきに蛇のように襲いかかる攻撃に、鞭を払いのけるために足を止めてしまったダスティ。

 


「よっしゃー! 姉さんの勝だ!」


「決まったシ!


「えっ? どうして解るんですか!?」


 マネとシューの言葉に、マネの隣に座るリッケが不思議そうに質問してくる。


「ああなったら、姉さんの鞭の連撃に逃げることができなくなるっての!」


「モンスターもあれを食らったら、皮が剥げるまで生地獄を食らうシ!」


「随分とえげつねえ攻撃だな……」


 シューの答えに、顔を引きつらせるリック。

 子供たちは鞭のペシペシという音が怖いのか、目を伏せてはリッコにしがみついている。


「うう、お姉ちゃん……」


「あの音、嫌……」


「ねーね!」


「はいはい。大丈夫よ」


 鳴り止まない鞭の連続攻撃が繰り広げられ、ダスティの腕や頬にはミミズ腫れの様な傷が無数につき始めた。


「どうした! もう降参するかい!」


「ちっ! まだまだ!」


「フンッ!」


 ダスティが剣の動きを止めた瞬間、ヘキドナの鞭がダスティの剣を絡めとった。

 その瞬間、勝負が決まったと思いきや、ダスティはそのまま剣を鞭から解くでは無く、逆にぐるぐると鞭を剣へと絡ませていった。剣の刃の部分はほとんどが鞭に囚われ、もう斬ることはできない。だが剣先はまだ見えている。

 ダスティは剣先をヘキドナへと向け、またダッと駆け出してはヘキドナへと攻撃を仕掛けた。


「リーダー!」


「ヘキドナさん!」


 自分とエクレアの声が重なり、ヘキドナへと声を上げたその時だった。

 迫るダスティへと向かって、ヘキドナは自身の持つ鞭のグリップをダスティの顔面へと投げ捨てた。


「グハッ!」


 一瞬、物が迫ることに思わず目を逸らしたダスティの隙をつき、ヘキドナが懐に潜り込むには十分であった。

 顔を背けた顔面へとヘキドナの拳が炸裂。

 地面に倒れるダスティに馬乗り状態になっては、ダスティの首筋に指揮棒程の小さな鞭を当てて動きを止めた。


「ま、参った……」


「そこまで! 17番の勝利!」


「フンッ」


「姉さん!!! うおおお!」


「やったシ!」


「よしっ!」


 姉であるヘキドナの勝利に、マネ、シュー、エクレアは自身の事のように喜びを表した。

 ぼろぼろになった状態に闘技場から下りるダスティを、下で待っていたポプランが茶化しているのが見える。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴


「ニャ。遅くなったニャ」


 出店に食べ物を買いに行ったプルンだが、大会近くの出店には行列が多く、待ち時間で時間を取られると判断したプルンは少し離れた出店の方へと買い出しへと行っていた。だが、その判断が間違いだった。

 狙いのお店を探すのに逆に時間を取られてしまったのだ。

 両手に弟妹に頼まれた分の食べ物を持っては人混みを掻き分け進むプルン


「まあ、これだけ買えばモント達も喜ぶニャ。……美味そうニャ~」

 

「嫌っ! 来ないでよ」


「ふニャ?」


 人混みを掻き分けて進む中、通路の方から、消え去りそうな小さな人の声に反応したプルン。

 

「おら、ぶつかっておいて謝罪もねえのかよ!」


「すみませんって謝ったじゃないですか! ちょっと! 妹に触らないでください!」


「シャシャシャ。柔らかそうだね~。お姉さんのお肉も柔らかそうだけど、その子のお肉は、もっと柔らかそうでブスブスと斬りやすそうだね~。ウシャシャシャ」


「ひっ!? お姉ちゃん!」


「止めて! 謝るから! また謝るから妹には手を出さないで!」


「ほ~。そうかい。なら俺達が満足するまでゆっくりと謝ってもらおうか、ゲャハハハ」


「それは素晴らしい考えですね。それならわたくし達三人、貴女様の心のこもった謝罪を受け取りましょう。ですが、その男は貴女の妹さんにしか目が行ってませんがね~。」


「ウシャシャシャシャ」

 

「ううっ……」


「お姉ちゃん!」


 下卑た笑いと笑みを浮かべては、姉妹と思われる二人を三人の男が人の目も届きそうもない路地裏へと連れ込んでいた。

 


「止めるニャ!」


「「!?」」


 微かに聞こえた声を辿って、男のどなり声を頼りと路地裏に来たプルン。


「ああ? 止めろってのは何のことだ……」


「モグモグッ……その人達が怖がってるニャ。ハグハグッ……こんな人もいないところに、ムシャムシャッ、連れ込むなんて……」


「饅頭食いながら喋ってんじゃねーよ!」


「んんっ……。ふ~。お前ら、痛い目合う前に尻尾巻いてどっか行くニャ!」


「おやおや、威勢のよいお嬢さんですね」


「シャシャシャ。斬っていい? この女、斬っていい?」


「へっ。そうだな、それ程色気もねえ餓鬼みたいだし。ってか、餓鬼と言うだけで虫酸が走るぜ! 俺はこのお姉ちゃんにゆっくりと謝罪してもらうから、そっちは斬っちまっても構わねえぜ」


「まあまあ、ここはわたくしに譲って下さいよ。わたしはあれくらい元気な子が好みでしてね~。可愛がるたびに元気が少しづつ無くなって、フッとロウソクの火が消える様に静かになるのが心地良いんですよ。あなたはあっちの妹さんと遊んでなさい」


「シャシャシャ。斬ってもいいって言われた。斬ってもいいって言われた。斬ってもいいって言われた!!!」


「いやっー!」


「止めるニャ!」


 一人の男が、ニ本のナイフを振り回しながら姉妹の妹へと向かって不気味に駆け出す。

 妹を守るためと姉妹の姉は自身の腕の中に妹を包み守ろうと身を固める。


「ゴヘッ!」


 ナイフを振り回し、二人に斬りかかろうとしたその時、姉妹とナイフを持つ男の間にローブを着た一人の人物が間に割って入り込んだ。

 ローブの人物はナイフの男の顔面を掴み、そのまま地面へと叩きつける。


「「!?」」


「ニャ!?」


 突然のことに二人の男は驚き、プルンも駆け出す足を止めていた。


「何だテメェは!」


「……」


「何か言ったらどうなんだ!」


 男の言葉に、全く反応しないローブの人物。

 男の振り上げた腕が、ローブの人物へと振り下ろされるが、その攻撃は当たること無く、スッと避けると姉妹を抱えて大きくジャンプ。

 二人はきゃっと小さい声を出したが、ローブの人物は気にすることもなく、姉妹を抱えたまま男達を飛び越えてはプルンの目の前に降り立った。


「ニャ!」


「……襲われてた?」


「ニャ! い、いやウチじゃ無いニャ。あいつらが、そのお姉さん達を脅してたニャ!」


「……」


 ローブから聞こえた声に、咄嗟に理由を話すプルン。ローブの人物は姉妹をゆっくりと地面におろし、男達へと振り返る。


「おやおや、また変な人が増えましたね~。折角皆さんと遊べると思ってましたのに……ねっ!」


 警戒もなく、ゆっくりと近付く男は、ニコニコと笑みを浮かべていたと思いきや、手に持つ杖から突然刃物を抜き出し斬りかかってきた。


「ニャ! 危ないニャ!」


 杖に仕込まれた剣を知っていたのか、ローブの人物はその一撃を避け、男の顔面へと拳が炸裂。

 

「ダハッ!」


「あ、あれ……」


「テメェ!? ゴハッ」


 ローブの人物は間を置かずと最後の男に腹部に一撃拳を入れた。

 体をくの字に曲げ、バタリと地面に倒れる男だった。


「ニャ~。凄いニャ……」


「ありがとうございます! お二人のおかげで私も妹も助かりました」


「いや、ウチは何も……」


「こいつらは衛兵のところに連れて行く。……理由を話すからついてきて。……君は戻っていい」


「は、はい!」


「わ、解ったニャ……」


 ローブの人物は男三人の足を引きずり、衛兵のいる人混みの方へと連れて行ってしまった。

 呆気に取られるプルン。彼女は出店で買った荷物を持ち、武道大会の方へと走り出した。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



「次。2番と32番の人!」


番号を呼ばれて闘技場へと上ったのは獣人族の選手と兎人族の選手だった。


「へっ! 可愛い兎ちゃんが相手かい。俺様に食われに来たのかね」


「えへへ~。よろしくだピョン」


 闘技場の二人を見ると、檻の中へと獣に餌を入れたように周囲の人達も見えたのだろう。

 獣人族の人達はニヤニヤとしながらその戦いを見ているし、審判もすぐに止めるためにと構えている。


 審判の開始の声と同時に獣人の選手は口を開け、鋭い牙を見せては兎人の選手へと先制攻撃を仕掛けた。


「その柔らかそうな肉を噛ませて貰おうか!」


「イヤン。まさに獣ピョン」


「はっ!」


 襲いかかる獣人の選手の攻撃が当たると思った瞬間、兎人の選手はその攻撃をシュッと避けてはいつの間にか獣人の選手の背後へと回っていた。


「おじさんは私の趣味じゃ無いからごめんね」


「グハッ!」


 背後を取られた獣人の選手の背中に、兎人の選手の少し大きな足がクリーンヒット。

 獣人の選手はそこそこ大きかったにも関わらず、闘技場の外へと吹き飛ばされ、更には壁にドカンッともの凄い衝撃とともにぶつかった。

 壁から剥がれ落ちた獣人の選手は気絶しており、壁にはくっきりとその選手の形が残っていた。


「場外! 32番の勝利です!」


「やったピョーン!」


 闘技場の中央で可愛くジャンプする兎人族の選手。


「まさかここまで呼ばれないとはね……」


「でも、まだ決まった訳じゃないから解ら無いシ……」


 マネとシュー、二人が声を漏らすがその声はリック達にも勿論聞こえていた。


「「……」」


「マネさん……」


「ここにいたニャ!」


 皆が沈黙する中、プルンの声に振り返ると、彼女は両手いっぱいに食べ物を抱え込んでいた。

 プルンはギーラ達にもおすそ分けと饅頭を配り、リッコの隣に座る。


「プルン? あんた何処まで買いに行ってたのよ!」


「ニャハハハ。ごめんニャごめんニャ。試合はもう終わっちゃったかニャ?」


「ああ、そっちの姉ちゃん達のリーダーの人の試合は、しっかりと勝ち残ったぜ」


「凄いニャ! おめでとうニャ!」


「ああ、ありがとうだっての」


「シシシッ。流石アネさんだシ。でも、まだ二人残ってるシ……」


「ニャ? 試合って後何試合残ってるニャ?」


「……後、二戦だよ」 


「次の試合を行います! 4番と19番の選手は前に!」


「「……」」


 この瞬間、準予選最終試合にて、ミツとエクレアの二人の試合が決まった。

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