第64話 戦いの後に。
「うぉ! 何だありゃ!」
「ミツ君とリッコでしょうか!? 眩しすぎてよく見えませんが」
「ニャニャ!?」
「二人ともさがれ! 何か落ちてくるぞ!」
リックの声と同時に二人は壁際へと走りだす。
そして、時間も置かずに上からボトボトと降り落ちてくる亡骸となり真っ黒になった蜘蛛の集団、中にはまだ燃えてる物や息があるのかジタバタと暴れている蜘蛛もいたが、激しいダメージに受け身も取らず高い天井から落ちたと同時に死んでいくのも多々いた。
「お前らこっちに来い!」
リックは咄嗟に、ミツが作り出したT型土壁を屋根代わりとその下へと駆け込んだ。
その声にリッケとプルンもその場へと移動。上からの蜘蛛の落下に当たる心配もなくなったが、まだ油断はできない。
「ニャ〜、あの二人やり過ぎニャよ」
「かなりの数がいたみたいですね」
光がゆっくりと収まり、周囲の明るさが洞窟の照らす程の薄暗さになったと思っていると、リッコを抱えたミツがまた段差段差をゆっくりと降りてきた。
「皆大丈夫!?」
「おう、大丈夫だ。誰も怪我もしてねえ」
「お二人ともお疲れ様です」
「良かった。あそこから湧いてた蜘蛛の通り道はもう塞いだから大丈夫だよ」
自分が指差す方へと皆は視線を送ると、二人の〈ライトニング〉を通した細い通路は衝撃に入り口を少し崩落させ、大きな蜘蛛のスパイダークラブは通路を通るのは不可能となっていた。
「そうか、あれならもう増えることもないな。後は落ちてきたくたばりぞこないと隠れてる奴だけだ。お前ら最後まで油断するなよ!」
リックの声と同時にまた戦闘が開始された。
虫の息となった比較的倒しやすい蜘蛛はリッケに任せて、壁や岩陰に隠れた敵には自分とリッコが遠距離での攻撃、そして接近戦でのプルンを守りながら立ち回るリック。
立ち回りとして問題なく、次々と蜘蛛の数を減らしていくことができた。
戦闘を再開すると、プルンとリックの二人が先頭に立つ陣形となる。その際、数体のグリーンスパイダークラブの〈発光色液〉がプルンへと発射された。 だが、リックが側にいたおかげで、プルンはその攻撃を盾で守られて蜘蛛の的となることは無かった。
しかし、リックの盾には蜘蛛のターゲットとなる〈発光色液〉がこびり付いている。
蜘蛛の的はリックへと向けられ、次々と蜘蛛が襲い掛かってきた。
「くそっ! こいつら、あきらかに俺を狙ってやがる!」
リックは盾を前に蜘蛛の鋭い牙の攻撃を払い除けてはいるが、まだ数も数、次から次へとその攻撃は続いている。
「リック! 蜘蛛はリックの盾に付いた液体を目印にしてる!」
「そうか、野郎め! ならこれで!」
リックは蜘蛛から一度距離を置き、盾を横にし、蜘蛛の少ない方へと腕先を向けた。
そして、右手を盾の内側へと潜り込ませると、ビュンっと音を出しながら左手の盾が飛んで行き、蜘蛛がターゲットとした盾を手放したのだ。
地面にカランカランと音を出しながら落ちるリックの盾。すると、直ぐに蜘蛛がその盾に群がり、爪や牙でガスガスと攻撃を繰り出していた。
リックが突然自身の持つ盾を飛ばす行動に、モンスターよりも仲間たちの方が一瞬目を奪われていた。だが、蜘蛛の動きとリックの声に、皆は瞬時に我にかえるかのように戦闘を再開した。
「今だ! リッコ攻撃しろ!」
「ライトニング!」
兄の声に妹が応える様に、蜘蛛へと杖先を向けた。
閃光の光が杖先から放出されると、蜘蛛は瞬く間にその光に包まれ、そしてその熱量に蜘蛛は次々と燃え尽きていく。
リックは自身の左腕のベルトで固定したアタッチメント、それを見ながら一つため息を漏らしていた。
そんなリックに自分は側に近づき、一言伝えた。
「盾、買っといて良かったね」
「あぁ、買っといて良かったわ……」
リックが新しく買った盾。
店主の説明では今一つ使いどころが解らなかったが、盾を手放すことで危機を回避することができた。
靴に続いて早々に役に立っただけに、リックは何とも難しい顔をしている。
あの店主の押し売り状態が二度も自身を守っただけに、素直に喜べないのだろう。
そして、もう蜘蛛は数を増やすことなく、次々と倒されていった。
「これで最後ニャ! リッケ!」
「はい!」
最後の一体を倒し終わった時には、周囲は既に薄暗く、間もなくと洞窟内は真っ暗になりそうになっていた。
「皆お疲れ様。周囲を確認したけど、もうモンスターは居ないみたいだよ」
「終わったニャー」
「プルン、休んでる暇ないわよ。早く倒した蜘蛛の素材集めないと、もうあたりが薄暗いわ」
「ホントニャ。なら皆で手分けしてかき集めるニャ!」
「あっ、それなんだけど。取り敢えず良品となりそうな素材は先にアイテムボックスに入れといたよ。周辺にまだ回収してないのは、粗悪品の蜘蛛だけど、どうしようか?」
「ナイスだミツ! ならもう下に行こうぜ。十分拾えたんだろ? 別に全部が全部持っていく必要もねえだろ」
「まぁ、そうだね。かなりの数は入れてるよ。途中から足の数とか、もう数えるのが面倒くさくなって数えるのをやめたけど」
「あんた戦闘中に余裕ね……」
「あははっ、もう殆ど蜘蛛もいなかったからね」
(残ってた蜘蛛の中に赤蜘蛛の姿はなかったからできたんだけど)
自分は倒した蜘蛛素材を直ぐにアイテムボックスに入れていた。それはプルンが狙って蜘蛛の足を先に切り落とし良品とした物を優先としてだ。
「ニャらウチはもうここには用は無いニャ」
「それに回収するにも残ってるのは、形止めてない物ばっかだし、集めるのも大変よね」
「殆どお前が燃やしたり吹き飛ばしたりしたからな」
リックの言葉に少し自慢げに胸を張るリッコ。
「なら先へ急ぎましょう。話してる間も段々と暗くなってますし」
洞窟の灯りは外が夜になると同じ様にその明るさを失う。それは洞窟内の魔力が一時的に無くなるためだと言われている。
「なら、一応松明つけとくか? ミツ、預けてた松明出してくれや」
「うん、良いけど。危ないから足元は自分が照らすよ」
「はっ? 火でも出すのか?」
「いやいや、それだと危ないからそんな事はしないよ」
リックに言われてアイテムボックスの中に入れていた携帯用松明をリックに渡した。
それと別に弓を取り出す。
自分が何をするかわからないと、取り敢えずリックは受け取った松明に火をつける。
周囲が松明の光で明るくなると同時に、自分は〈マジックアロー〉の1つ、雷の矢を出した。
バチバチと電気の流れる音に驚いた皆だったがそれよりも。
「うわっ! 眩しっ」
「ニャンニャ!」
突然現れたまばゆい光に驚いていた。
「それってさっき戦いで出してたやつ?」
「あれ、見てたの?」
「えぇ、まぁね……」
「ニャニャ〜、リッコは戦い中にミツを見てたのかニャ〜」
「なっ!? プルン、違うわよ! こいつが使ってたところを見てたのよ!」
「ニャハハ、解ってるニャ解ってるニャ」
「あんたねー!」
「いふぁいニャ〜いふぁいニャ〜」
自分の返答に頬を染めるリッコ、そんなリッコをからかう言葉を飛ばすプルン。
それが冗談となると更に顔を真っ赤にしたリッコが、プルンの頬をつまみムニュッと引っ張っている。
「えーっと……」
「ミツ、二人は放っとけ。でだ、それが松明の変わりで使うのか?」
「あっ、うん。でもね、これ1本出して終わりってわけじゃないよ。これはね、こうやって! 進む先の通路天井に刺して行けば足元も明るく見えるでしょ」
「おう……」
「あ、明るいですね………」
「ふ〜、また変なことして」
「いててっ、ニャハハ、通路の先まで見えるニャね」
下へと続く通路は薄暗く、足元も見えないほどだった。
しかし、雷の矢を天井に刺して行けば、はい完了。安全に下へと降りていくことができた。
ちなみにリックがつけた松明だが、その火は早々に消していた。
「到着ニャ〜!」
「ふ〜、やっと着いたぜ」
「誰もいないわね……」
「殆どの冒険者が4階で帰ってますからね」
到着した8階層のセーフエリア。
事実上この試しの洞窟での最後のセーフエリアだ。
この先には8階、9階、そして最下層の10階にいると言われているフロアマスターがいる。
今回武道大会の都合上、これ以上洞窟内を探索する時間がない。
皆には行けるところまでの約束もしていたので、自分達の洞窟探索はこのセーフエリアまでとなる。
「さて、予定通り帰ろうか」
「ニャ! 早くさっきの足食べたいニャ!」
「まだ言ってる。食べるのは良いけど、あれは調理しないと食べれないからね。煮るか焼き入れしないと生食は駄目だから」
「ならミツが調理してニャ」
「言うと思うたわ……」
「ニャハハ」
そんな話をしていると、リックが一つため息をしたあと、あたりを見渡していた。
「ふー……」
「どうしたのリック、帰るよ?」
「あぁ、解ってる。いやな、俺達初めての洞窟探索なのにここまで来れたんだなって……」
「そうだね。皆の力合わせてここまで来れたんだよ……」
「……フッ」
「?」
自分の言葉にリックはジッと自分を見たあとに軽く鼻で笑ってきた。そして、リッケとリッコ、プルンと皆で輪を作るように話し始めた。
「皆解ってると思うけどよ。俺達がここまでこれたのも、お前のおかげだよ。ありがとうなミツ」
「どうしたのいきなり!?」
ガシッと両手を自分の肩へとのせてくるリック。
「いや、今言っとかないと後々言うのもな」
「ミツ君、前も言いましたけど僕達3人だけだと、きっと2階で洞窟探索は終わってたと思います。それに、もしかしたら、3階でのバルモンキーの群れに襲われてたかもしれません」
「ありえるわね。リックの言葉にほいほいと3階に降りてたかも」
「おいおい、なんで俺なんだよ。そん時はお前も絶対賛成してたぞ!」
「はいはい、もしも話での言い争いは止めてくださいね」
「「フンッ!」」
「はぁ〜。取り敢えずミツ君、プルンさん、お二人とも洞窟探索のご協力ありがとうございました。ミツ君には色々と教えてもらったので、これからは僕もミツ君みたいにとは無理でしょうけど、できるだけ頑張ります!」
自分とプルン、二人の手を両手で握り礼を言ってくるリッケ。
「ミツ……」
「リッコ?」
「……まぁ、今回はこれで帰るけど、またこの先の続き皆で行きましょうね!」
「うん」
「フフッ、あんたのお陰でつまらない洞窟探索にはならなかったし、私自身強くなれたわ。色々あったけどミツ、ありがとうね」
「自分も楽しかったよ。皆でまた来れるのを楽しみにしとくね」
「そうニャ、また皆で来るニャ」
リッケの握る手の上にそっと手を添えるリッコ、そしてその上にリックが手を乗せてくる。
「それじゃあ帰ろうか」
洞窟の外へと出るためにと、試しに転移の扉に自分が手をかざすが扉は反応しなかった。
「やっぱり、もう時間的に使えないのかな」
セーフエリアのフロアの壁際にある赤い扉。
転移の扉は通常魔力を通せば外へと繋がる扉となる。だが、それは昼間のように洞窟が魔力が満ちている時だけ。
今は開けることもできないただの赤い扉だ。
「ふ〜ん。でも私達には関係ないわね」
「そうニャ」
「それはそうなんですけどね」
普通なら明日の朝洞窟内がまた魔力が満ちるのを待つのだが、自分達はその必要もない。
「トリップゲート」
創造神たるチミっ子シャロット様から頂いたスキル〈トリップゲート〉を使えば外へ出るのは問題ない。
しかも転移の扉とは違い、これは自分が行ったことのある場所なら行ける交通に便利なスキル。
つまり、一方通行の転移の扉ではまた1階層からのやり直しだが、これを使えばまたここ、8階層からのスタートができるのだ。
それが例えくじ箱で当てられたスキルでも使った者勝ちだね。便利便利。
〈トリップゲート〉を出し扉の向こう側を覗き込み誰も居ないことを確認する。
「よし、誰もいないね……。皆通って良いよ」
自分の言葉の後に次々と光の扉から出てくる仲間たち。周囲が暗いとゲートの枠の光が少し眩しいか。
「えーっと、ここは酒場の裏か?」
「うん。ほら、この上がここに来たときに泊まった部屋だよ」
「なるほどな。ほんと便利なスキルだなそれ」
お店の中へと裏口から入ることもできないので、ゲートをしまい、酒場、もとい宿屋の入り口へと移動。
「素材品とかは帰ってからライアングルの街で良いかな? エンリエッタさんに昼間話しちゃったし」
「ニャ? エンリに会ってたニャ?」
「はい、大会の受付時ですけど、ミツ君のアイアン冒険者カードが本人なのかを確認として来られましたよ。でも、何やら問題事があったみたいで、直ぐにそちらの方へと行かれましたけど」
「それに素材の他にライアングルの冒険者ギルドにも報告があるからね……」
「んっ? あぁ、そうニャね……」
プルンも皆もその報告内容に思い当たったのか、自分の言葉に皆を少し気落ちさせてしまった。
これは本当なら昼間に報告すべきことなのだが、エンリエッタの忙しさもあったので報告しそびれたのもある。
「さてと! 飯だ飯! 疲れた時は飯だぜ!」
「そうニャ! 早速蜘蛛の足を食べるニャ!」
「食わねえよ!」
「ニャんですと!?」
リックは気分を持ち上げようと空元気に声を上げる。
それに続くプルンだが、その内容はリックに即時却下とされた。
酒場へと入ると、大人数の冒険者が既に酒が入った杯を片手に盛り上がりを見せていた。
「随分と騒がしいな?」
「時間も時間だし、酒場ってそんなもんじゃない?」
店の中を見渡していると、一人の冒険者が自分達の方を見て声を上げてきた。
「おっ! お前ら、我等の救世主達が来たぞ!」
「来たか! 待ってたぜ!」
「ガハハハ! さぁさぁ、こっち来い!」
よく見ると、防具や装備品を外しているので直ぐには解らなかったが、酒場にいる面々はリティーナが雇っていた臨時の冒険者だった。
既に出来上がっているのか、リックが前衛の冒険者二人とダトロトに連れて行かれてしまった。
「わっ! ちょっと待て待て」
「さー飲め飲め! ここの代金は既にお嬢様が払い済みだ! 飲まなきゃ勿体無いぞ! アッハハ!」
「ムググッ! ゴクッゴクッ……ぷっはー! い、いきなりだな! おっしゃ! それなら飲めるなら飲んでやるぜ!」
日本ならお酒は20歳からだが、ここは日本ではない。15歳から成人として認められるため、17歳後半のリックがお酒を飲んでも問題はない。
そして、次から次へと渡される杯の中の蜂蜜酒をグビグビと飲んでいくリック。
そんなリックを見ていると、横から甘い声を出した女性が近づいてきた。
「リッケ君〜。やっと来た〜、もう〜、わ〜た〜し〜待ってたんだからね〜。えへへ、リッケ君が来た〜」
「うわっ、ゼリさん! 酔っ払ってます? 大丈夫ですか?」
皆と同じようにお酒の入った杯を片手に、フラフラと危なげながら近づいてくるは女性冒険者メンバーの一人、弓士のゼリだった。
しかし、その女性の格好が普通ではない。
皆と同じ装備品となる軽装備は外して入るが、丈の短いタンクトップ、前かがみになると暴れん坊な胸が激しくアピール、足を組み直すだけでも下着が見えるほどの短パン。
明らかに露出が高い格好でのお出迎えだ。
「うへへ〜、酔ってませ〜ん。わーたーしーは〜元気でーす!」
「おかえり……。無事に戻ってきたね……。良かった……」
出会い早々にリックに言葉通り絡むゼリ。
そんな後から付いてくるように、女性冒険者メンバーの一人、魔術士のルミタが顔を出した。
「ルミタさん、ありがとうございます。ところでゼリさんのこの状態は?」
「んっ……。えっと……確か。ゼリ……お酒飲むといつもこう?……後……酔っ払うと……側に誰か居なきゃ……だめ……。だったかな……」
「えっ?」
「ちっ……下手くそ……」
「んっ? ゼリさんどうしました?」
ルミタの何とも説明口調な言葉に戸惑うリッケ。
露骨なアピールと行動に、リッケを除いて、見てる自分もリッコ達も苦笑い。
「ん〜にゃんでもないの〜うへへへ。リッケきゅ〜ん。おしゃけ一緒にのも〜ね〜」
「えっ、ちょっと」
「ふう〜……任務……完了……パイ……ゲット……フフッ」
ゼリは酔っ払っているとは思えない程の力で、リッケをグイグイと引っ張り邪魔が入らないようにと端の方へと言ってしまった。
ルミタの最後の言葉でこれはゼリの策略なのは理解した。
多分このまま放っといても大丈夫だろう。
ってか女性だけが固まったところに、リッケを真ん中に一人を囲むようにしてるだけにハーレムみたいな光景に見える。……羨ましいな。
「お嬢さん方、よろしければあちらで料理などいかがですか。お酒は静かにどうでしょう」
声をかけてきたのは、キザなセリフをちょくちょくとリッコ達にかけてきていたシューサーだ。
言葉はチャラいが、女性を大事にするのが上手いのかもしれない。
「ふむ、そうね。二人とも、先にご飯食べちゃいましょう」
「そうニャね」
「うん」
「少年、君はあっちだ」
「えっ?」
席に進もうとすると、ポンッと肩を叩かれ、そのままカウンターで食事する二人の方へと目を向けていた。
「あー、ちょっと行ってくるね」
「ウチ達も行くニャ」
「いいよいいよ、挨拶に大人数は逆に迷惑になっちゃうし」
「そう? ならプルンあっちのカウンターで食べましょう」
「ニャ」
「お嬢様方、俺が用意してる席があるぜ」
「あっち狭いからこっちでいいわ」
「ニャ」
「あっははは、またまた振られちまった。またまた1つこれで俺は強くなったな!」
「私こいつ苦手……」
「ウ、ウチもニャ……」
そそくさとシューサーの側から離れるリッコとプルン。するとシューサーはコップ片手に、今度は女性パーティーの方へと近づこうとするが、ゼリの一睨みで撃退され、がっくりと肩を落とし、その場でガブガブと酒を飲み始めていた。
「リティーナ様、ゲイツさんお疲れ様です」
「ミツさん、無事のご帰還を喜びいたします」
「うむ……。ちゃんと戻ってきたな」
「はい、洞窟内も暗くなって来ましたからね、8階層で帰還しました」
「んっ? 8階層? 6階層で引き上げて来たのではないのか?」
「いえ、6階層にはモンスターが殆どいなかったのでそのまま7階層に進みました」
「そうか……随分と早かったな……」
「それはそうと。リティーナ様、ここの代金を持ってくれたそうで、ありがとうございます。本当は仲間もお礼の言葉を言いたかったのですが、人が多いとご迷惑と思いまして自分が代表としてお礼を」
「いえ、その言葉だけで十分ですよ。あなた達には何度も命を助けられましたし。お礼がこの場だけで済むことではないのですが、今の私にできることがこれくらいで……」
「いえいえ! 皆も楽しんでるみたいで十分ですよ」
「フフッ、ありがとう」
ゲイツから席を譲ってもらい、リティーナとゲイツの間に座る。
席に座ると、用意されてたかのようにコップを渡され、三人でお疲れ様と乾杯。
中身は二人と同じ木苺を磨り潰し、自然の炭酸水で割ったジュースだ。
リティーナには似合う飲み物だが、怖顔のゲイツには可愛い飲み物だけに、少し笑みがこぼれた。
「ゲイツさん、そう言えば何か報告しなきゃいけないとか言ってませんでしたか?」
「あぁ……。それなら一応ここの洞窟の管理者には報告済みだ。あとはライアングルの街の冒険者ギルドに報告すれば終わりだな……」
「そうですか」
「そうだ。ミツ、お前達が進んだ先に変なことはなかったか? 何かあったならそれも一緒に報告しとこう」
「変なことですか? そうですね、6階層のモンスターであるエイバルは、10体ちょいしか居ませんでしたね」
「ふむ、それは極端に少ないな……」
「何処かに集中してモンスターが集まってたフロアがあったのでは?」
「そうですね、自分達は取り敢えず下へと進む道を目指してましたから、もしかしたら何処かに集まってたのかも」
「かもしれんな……流石にその数は少なすぎる。7階層はどうだった?」
「あ〜、酷かったですね……」
「んっ? 何があった」
「はい、下へと降りる道が蜘蛛の巣だらけで、入り口から結構な数のスパイダークラブとの戦闘になりました」
「く、蜘蛛ですか……」
「はい、蜘蛛ですね」
蜘蛛と言う言葉に少し顔を引きつらせるリティーナ。彼女もリック同様に虫が駄目なのか?
「そうか、だがお前達なら問題なかろう」
「ええ、でも問題が先にありまして。入り口にいた数とは比較にならないほどに下へと下りる前のフロアにワサワサと……」
「そ、そんなにか……」
「あれは見る人が見たらトラウマになるかもですね」
「ふむ……まぁ、今こうしてお前たちがいると言うことはそこも片付けてきたのだろ」
「あ、はい。ほとんどリッコ、えっーと、彼女の魔法で倒してましたけど」
「なるほどな。取り敢えずそのことも伝えとこう」
「お願いします」
宴は続き、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
途中からリティーナが出したお金を超えそうになると解ると、皆は金を出し合って他の店から酒ダルを買ってきて宴が終わることはなかった。
酒はリック達前衛の冒険者が湯水のようにグビグビと飲み、それを開始と飲み勝負が始まっていた。
酒樽からは蜂蜜酒独特の甘い匂いが漂い、それを一人がコップに並々とついでは飲み、飲み干したコップを次の人に渡すと言う、中々周囲も盛り上がる勝負だ。
そんな無茶をしている兄の様子を見ながらリッケも周りの女性から、生々しい女性冒険者特有の悩みを聞かされる。
内容は男性冒険者から向けられる下心見え見えの視線から始まり、依頼主が女だと莫迦にして依頼達成後の報酬内容を誤魔化したりと、更には依頼中に月経に襲われ、その匂いにゴブリンが来たと言う悲惨な話だ。
その時は運良く他の冒険者が助っ人に来てくれて怪我もしなかったのだが、血の匂いでモンスターを呼び寄せたと依頼主が言ってきたせいで喧嘩になり、受けていた依頼は流れになったとか。
内容も内容だけに自分が受けていたら、そうですね、大変でしたねと女性には受けの良くない返答をしていただろう。
だが、妹を同じパーティーに入れている分、リッケの返答は女性には上手いものだった。その返答は自身をクッションのようにと言葉を優しく受け止め、聖職者だっただけに優しく相手の痛みを自身の事のように受けるリッケは女性からの視線は更に熱くなっていた。……イケメンやなリッケ。
リッコとプルンの二人は飲むことはしないので、食事が終わればデザートのフルーツを食べながら談話していたが、気づけばリッケ達のところへと移動し、リッケのハーレム率を更に上げている。
と言っても、二人は先程またシューサーが声をかけてきたので、逃げるようにゼリの方へと移動したのもあるが。
ゼリも義妹予定のリッコを邪険にすることもなく会話を楽しんでいる。
自分はリティーナとゲイツ三人で冒険者話に花を咲かせていた。
ゲイツには今まで戦ってきたモンスターやその特徴等。冒険者としての心配りや付き合い方。
内容の一つとして、知らない場所での情報集めには、酒場に行き、口が軽い奴に酒を奢れば大体の情報が入るとか。
また、リティーナの子爵家としての今の貴族としての情報などなどを聞いていた。
内容はそこまで秘密と言うこともなく、誰か何処の領地の娘と結婚したとか、新しく改革した土地の情報など。ハッキリ言って聞いていてサッパリだった。ゲイツはふむふむと内容を理解してるのかリティーナに質問を飛ばしてるが自分は聞いてるだけ。だって土地名とかそこの領主の名前来てもピンとも来ないし。
それでもリティーナは楽しそうに話、そして他の領主がやはり羨ましいのか、自身の父親と比べる時が話の中にチラホラと見受けられた。
宴も進むと話つかれたのかリティーナが隣でウトウトとし始めていた。
「むっ、お嬢。そろそろ部屋に戻りますか」
「ん〜、そうですね……。ミツさん、すみませんがお先に失礼いたします」
リティーナがゲイツの差し出した手に自身の手を起き、席を立とうとしたその時だった。
「やってやる! ミツ! リッケ! 二人とも来い!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます