第63話 為せば成る

 プルンは倒したレッドスパイダークラブの足を持ってきて、自分とリッコに見せてくる。

 それは蜘蛛独特の毛が無数に生えており、見た目はただの蜘蛛の足だった。しかし、プルンはその足を目を爛々とさせながら見ている。



「よく見るニャ! これ凄く良い匂いするニャ。ウチ、これ食べれると思うけど、ミツは解るニャ?」


 プルンの言葉に、えっと自分とリッコは少し顔をしかめ、恐る恐ると取れた蜘蛛の足に鑑定をしてみる。



レッドスパイダークラブの足 [良品]


食用として食べれる、香り良くジューシーな肉が詰まった足。〈生食不可〉



 鑑定すると驚いたことに、プルンの言ったとおりに蜘蛛の足は食用として鑑定表示されていた。



「あっ、確かに……。これ食べれるみたいだね」


「アンタそんなことも解るの?」


「あっ……。うん、まぁ、少しだけどね」


「ニャ、やっぱりニャ。ウチの鼻は間違いなかったニャ」


 プルンは嬉しそうに言葉を返すが、少しだけ訝しげな視線を送るリッコ。

 そんなことよりも今はプルンが持ってきた蜘蛛の足。

 流石に見た目が蜘蛛、食べることを考えると自分もリッコも抵抗心が出てしまい、お互い目を合わせ苦笑い。

 確かにプルンの持ってきた足には臭みは無く、破れた部分からは桜色の半透明な身が見えている。

 だが、鑑定で食用と言われても素直に美味しそうと気持ちは湧いてはこない。だって見た目蜘蛛の足だもん。


「皆さん、終わりましたか?」


 声のする方へと振り返るとリッケとリック、二人がこちらへと来ていた。先程より少しリックの表情がマシになったかと思う。リックは今は周囲に倒された蜘蛛を見ても思考停止してはいないが、やはり顔色が悪い。

 

「リック、まだ駄目っぽい? 前3階で見たことある茶虫と赤虫は平気だったよね?」


「いや、動かない状態なら何とか平気だ。あとアレは数も少なかったし、あんなカサカサ動かねえだろ。でも今回のは……あぁ〜気持ち悪い! 思い出すだけでも鳥肌がたつぜ。ってかプルン! お前何持ってんだよ! 捨てろ! 今すぐそんなもの捨てろよな!」

 

 リックはプルンが手に持つレッドスパイダークラブの足に顔を真っ青にしながらも、怒声を込めた声で蜘蛛の足を捨てることを促してきた。



「ニャ! 駄目ニャ! これは後で食べるニャ!」


「食べるって……。勘弁してくれ、虫が食えるわけねえだろ!」


「食べれるニャ! 持っていくニャ!」


「食えねえ! 捨てろ! それが例え食えたとしても捨てろ!」


 だが、きちんと鑑定して食べれることが解っている蜘蛛の足。リックに自分も確かに食べれることを説明したが、もう捨てろ捨てろの一点張り。



「見た目は蜘蛛の足だからね、虫が苦手なリックには本当にキツイよね」


 リックの気持ちも解る。自分も、もし夏場に出てくる黒い悪魔に同じことができるかと言ったら死んでも無理だ。

 このままでは進むに進めないので、食べる食べないは後にして先に進むことを提案する。


「兎も角さ、倒したモンスター集めようか」


 少々捨てる捨てないの言葉の言い争いはあったが、これも素材として持っていけばお金になるかもしれない。最後は渋々納得のリックだが、最後まで食べることに対しては反対を押し等してきた


 そして倒した蜘蛛達を集めようとした時。


「フンッ、あんた達は今回は戦わなかったんだから、倒したモンスターをかき集めるくらいはしなさいよね」


 リッコの言葉で、あちらこちらに倒された蜘蛛をかき集めはじめた。



「うっ〜、触りたくねえ」


「リック、自分が回収するから、リックは二人の護衛してていいよ?」


「いや、戻ったら戻ったでまた面倒くせえ小言言われるかもしれねえ……やるよ」


 自分の言葉にリックはやれやれと肩をすくめていた。



「うげぇ! 本当にこれ食えんのか!?」


「どうしたのリック?」


「いや、流石にこれを食えとか、俺には本当にマジ無理なんだけど」


 リックが指をさした蜘蛛の足。それは何やら青臭い臭いと液体を出しながら、自分が拾った瞬間、ドロッっと足の中の身が出てきた。先程プルンが見せてくれた物とは同じモンスターから出たとは思えない酷い素材品だ。鑑定すると悪品と表示され、食用も不可だった。


「あれれ? 何で? プルン、ちょっとこっち来て」


「どうしたニャ?」


 周囲を警戒しながらも、リッコと話してたプルンに手招きしてこちらへ来てもらう。


「プルン、さっき取った足少し見せてもらえるかな」


「ん? はいニャ」


 鑑定をもう一度試してみるが、やはりプルンと自分が拾った物は同じレッドスパイダークラブの足。だが、良品と悪品、見ただけでも解るほどに違いがある。


「ニャ!? そっちのは臭いが駄目にゃ! そんなの食べたらお腹壊すニャよ!」


 プルンは顔をしかめ、更には漂う青臭いにおいに咄嗟に鼻をつまむほどだ。


「もしかしてだけど、同じモンスターで、食べれるのと食べれないのがいるのかな?」


「プルンが踏み潰したモンスターがたまたま食べれるモンスターだったってこと?」


「踏み潰して無いニャ! 確かに足は取れたけど、ちゃんとナイフで倒したニャ!」


 リッコの言葉にプルンはプクーっと頬を膨らせそっぽを向いてしまった。



「何か違いがあるのではないですか?」


「ニャ〜、違いって言われても見た目も同じニャよ?」


「こっちがプルンが倒した蜘蛛ね。同じ赤色よね?」


「大きさも対して変わりませんね……」


「たまたまじゃね?」


 プルンが倒したレッドスパイダークラブと自分とリッコが倒したレッドスパイダークラブ。

 3体を並べ、皆で考えてみるが良くわからない。



「あれ? 何で」


「どうしたのよミツ」


「プルンが最後に倒したスパイダークラブは良品で素材になるんだけど、他の倒したのは全部悪品になってる……」


 違いを見比べるためにも鑑定すると、プルンの倒したのは良品だが、自分とリッコが倒した蜘蛛の素材は全て悪品と表示が出ていた。倒した本人でも解るが、自分とリッコの攻撃は蜘蛛にとってはオーバーキルな攻撃ばかり、悪品になっても仕方ないが、なぜプルンの倒した奴だけ?

 唯一先手の攻撃、風刀で斬り落とした足の数本だけが良品としてみつかっている。


 解らないこと、知らないことは知っている人に聞くのが正しい選択。


(ねぇ、ユイシス。何か違いとかがあるの?)


《はい、ミツが今いる洞窟内での出現するモンスター。こちらの3色のスパイダークラブの素材は、処理をする前に亡骸となった瞬間、素材全てそれが悪品となります。偶然にもミツが倒した最初の1体とプルンが倒した1体、こちらが処理が済となり良品となりました》


(なるほど。でっ? その処理方法ってどうやるの?)


 まさかモンスターを倒す前に何かをしなければ行けないとは。ユイシスの説明だとたまたまそれを自分とプルンはやったのだろう。


《亡骸にする前に足を取ってください。されば素材は良品となります。こちらは足が付いたままスパイダークラブが亡骸になった瞬間、胴体と足の間にある膜が破れてしまい、胴体の血と足の液体が混ざり合い悪品と化します。》


(あー、確かに。自分もプルンも先に足を胴体から切り離した後に倒してる)


 ユイシスの説明を聞きながら、プルンが倒したレッドスパイダークラブを確認する。

 よく見ると、取れた足の付け根部分には白い膜があった。

 


(しかし、倒し方が制限されるなら、リッコの攻撃だと全て悪品になるなこりゃ)


「やっぱりさ、偶然じゃないの? また倒してれば運良くまた出るんじゃない?」


「そうニャね〜」


「いや……もうさ、あいつら自体でなくても良いと俺は思ってるぜ……」


「リック、それはないニャ。何体か通路の奥に逃げたから確実にいるニャ」


「……」


 プルンの言葉にリックは眉を寄せ、本当に嫌そうな表情を浮かべている。


 取り敢えず蜘蛛の倒し方を皆に説明しなければ。



「ミツ君、どうしました?」


「あのね、皆これなんだけど」


 ユイシスの説明を伝えると、先程は偶然に拾えた良品の蜘蛛の足。

 それが確実に取れる方法が解ると、プルンは嬉しそうに喜んでいたが、リッコは不満そうに唇を尖らせている。


 

「何よ、また私に戦いを休めっていうの!?」


「いや、そんなことはないよ。先にあのレッドスパイダークラブやブルースパイダークラブ、あとグリーンスパイダークラブの足を切り落とした後なら、リッコの攻撃で倒しても問題ないからさ」


「フンッ! 私は先手で倒したいの! 後モンスターの名前長いわよ!」


「うっ、それは自分に言われても」


 リッコのやる気の気迫に少したじろぐ自分。

 そんな自分の後ろから小さくため息が聞こえたと思ったら、リッケが自分とリッコの間に入るように前に出てきた。


「はいはい、落ち着いてくださいねリッコ。あなたが先手の攻撃でモンスターを倒したいと言うのなら、今後ミツ君とプルンさんが足を切り落としたモンスターは僕が倒しますよ。僕は目標のモンスター討伐数がまだまだですからね。リッコが嫌と言うなら僕が代わりに喜んで戦いますから。あっ、そうなるとリッコは前にたつ必要もなくなりますから、リックの側にいて後ろでおとなしく傍観しててください。それとモンスターの名前ですけど、前と同じように名前を略してしまいましょう。そうですね、そのまま赤蜘蛛とか青蜘蛛でいいのではないですか」


 リッケはリッコに笑顔のまま説明をしているが、これは兄から妹へのお説教の言葉が入ってるのだろう。

 言葉の中には、嫌なら後ろに下がってろと厳しい言葉が見受けられるし、なにより今のリッケの表情が怖い。

 うん、笑ってるけど笑ってない笑顔って怖いんだよ。


「んっ……。フンッ!」


 リッケの言葉に少し驚いたリッコだが、直ぐに兄の言葉の意味を理解したのだろう。

 言葉を返すこともなくそっぽを向いてしまった。


「はぁ〜、すみませんミツ君。リッコは少々活発な時がありまして……」


「あっ、いやいや、大丈夫大丈夫。自分もリッコの気持ちも解るし、それに自分の説明も悪かったと思うし。リッコ、流石に出てくる赤蜘蛛達の足を全部切り落とすなんて、自分とプルン二人だけじゃ無理だと思うからさ。遠くの奴とか、自分達の攻撃範囲以外はリッコの攻撃に頼ってるからね」


「そうニャ! リッコの魔法は大切ニャ!」


「……そう。……解った」


 何とかリッコも納得してくれたのか、ホッと安堵する。

 先に進もうとすると、リッコが側に来て小声で、ごめんっと誤ってくれた。

 自分はリッコの頭にポンッと軽く手を乗せ笑顔で返事を返した。

 少し気恥ずかしいことをしたが、リッコからも笑顔を返されてしまった。

 それをやれやれと見守る仲間達。



 色々とあったが、自分達がいる場所はまだ7階層の入り口フロア。

 昼に一度外に出て、またここに戻ってきているので、少し急がないと洞窟内の明かりが暗くなってしまう。

 自分は〈獣の目〉スキルで暗い場所を進むのは問題はないが、皆は薄暗い中でモンスターとの戦闘になってしまう。

 一応、携帯用の松明をリック達が持ってきてはいたが、危険に変わりはない。


 通常普通の蜘蛛は眼はそれ程見えておらず、夜動くのは一部の限られた蜘蛛だけ。

 ここにいるモンスターである蜘蛛達は周囲が暗くなって、眼が見えてるのか見えてないのかが解らないが、どちらにしろ油断はできない。

 それは緑蜘蛛の〈発光色液〉が問題だろう。

 明らかにこれは獲物を狙うためのスキル。

 先程見たが、明るい状態の洞窟でも十分明るく見えた。

 そんな物を暗い場所で受けたりすれば、本当に蜘蛛の餌になるだろう。


 蜘蛛達のスキルは魅力はあるが、仲間を態々危険に晒すような真似はしたくない。

 何より、今はリックがここではあまり戦力にならない状態。

 そんな状態で探索を進めるのは、戦争で突撃しか指示が出せない無能な上官と同じ。

 仲間は駒ではない。仲間の命とスキル、天秤にかける必要もなく答えは出る。


 〈マップ〉を確認し、8階層へと最短距離を探し出す。

 横道など、わき目もふらず真っ直ぐに進めば最短距離だ。

 少しペースを上げて、先へと進むことにした。

 しかし、予定通りに行かないのが洞窟での戦い。


 下へとおりるフロアへとたどり着く前に、ユイシスから注意の言葉が飛んでいた。

 それは先程の入り口にいた蜘蛛の数を大きく超えるほどの蜘蛛が先にいること。

 

 フロアの広さは先程の倍。

 しかし、そこにいる蜘蛛の数は倍以上。

 あきらかに蜘蛛の数が多すぎる。

 迂回ルートも考えたが、下へ行く道は遠回りな上、ユイシスに確認してもらうと同じ様に蜘蛛が溜まっていると伝えられた。


 それを伝えるとまたリックの表情がこわばっていく。

 数も数、先程と同じ様にリックをこのままにリッケに護衛させるのは、二人が危険なのでリックに少しだけ魔法をかけることにした。

 

 それは通路を進む途中に数体の蜘蛛と鉢合わせた時だ。

 リックにかける魔法、それは自分も戦闘前と後に使って心を落ち着かせている〈コーティングベール〉少しでも蜘蛛に慣れてもらうためにと、後ずさるリックに蜘蛛を見る前と後に使用する。

 勿論虫嫌いなリック、カサカサと動く蜘蛛を見た瞬間、動揺が隠せないほどに慌てている。

 そして動揺したらスキルをかけて心を落ち着かせ、また動揺したらスキルをかけると、何度かそれを繰り返す。

 何とも荒い方法だが、無理やり蜘蛛に慣れさせる方法は無いかとユイシスに相談してみたところ、この荒療治方を教えてもらった。


 リックが蜘蛛を見ても大丈夫なら、次は倒した蜘蛛を触ってもらったりとステップアップをする。

 すると今度は、ギャーギャーと言葉にならない言葉を出し始めたと思ったら絶句と表情を変える。

 だが直ぐにスキルで心を落ち着かせて、はいもうワンチャン。

 リックには悪いが、今後の戦いをするにはここで心を鬼にしないとリック自身が危険になるのだ。

 その際、自分はリックの側から離れることはできないので、戦闘はプルンとリッコ、二人に任せていた。


「はー、最悪だ……」


「もう慣れたみたいだね」


「くっ……。フンッ! 何度も何度も蜘蛛の足を持たされるわ、蜘蛛の胴体触らせるわ、最後はなんだ!? まさか切り取った蜘蛛の頭を持たされるとは思ってなかったぞ!」


「あはは……ごめんごめん。流石に最後のは自分もやり過ぎだと思ったんだけどね」


「動かない頭なんだから平気ニャ」


「そうよ、ちゃんと倒した奴なんだからグチグチ言わないでよ。フンッ、しつこい男」


「お前ら……」


 そして


 カサカサ……カサカサ……


「こっ、これは凄い……」


「うひゃー、ニャンニャこの数……」


「フンッ、さっきの言い争いが莫迦みたいね」


「リック、黙るのは構いませんが、気絶しないでくださいよ」


「大丈夫だ……大丈夫だ……俺は大丈夫だ」


 全然大丈夫には見えないが。

 意識がある分、荒療治の効果もあったのかもしれない。


 フロアを埋め尽くす蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛。

 50体、いやそれ以上は確実にいる。


 こちらに気づいた蜘蛛の集団。

 一斉にピタリと動きを止め、ギョロリと眼だけをこちらへと向ける。


 そして、止まったと思った蜘蛛が動き出す。

 


「オラッ、来やがれ!」


 槍と盾を構え、襲ってくる恐怖を消し去るように大声を上げるリック。


「援護します!」


 剣を抜き、剣を両手持ちに構えるリッケ。


「その足美味しくいただくニャ!」


 拳とナイフ、交互に突き出し構えるプルン。


「全力出すわよ!」


 杖先を蜘蛛の集団に構え、バチバチと音を出しながら杖先を光らせるリッコ。


「押し切るよ!」


 両手に風刀を出し、また忍者っぽく構える。


 皆は武器を構え、ザッと踏み出した。


 青蜘蛛のように飛び掛って来る蜘蛛もいれば〈毒液〉や〈発光色液〉を飛ばしてくる赤蜘蛛と緑蜘蛛がいる。

 避けれる攻撃は避け、向かってくる敵は両断や武器で突き刺す。


 まさにその場は混戦状態。


 リックに襲い掛かってくる青蜘蛛は牙を突き出し攻撃を仕掛けるが、側にいるリッケの斬撃をくらい倒されている。

 そしてリッケを狙った赤蜘蛛の毒液はリックの盾で塞いで攻撃をしのいでいく。


 プルンに襲いかかる蜘蛛達の糸出しはリッコの火壁で塞ぎ、リッコに飛びかかる青蜘蛛は攻撃を仕掛ける前にプルンに足を切り落とされ、そして首を切り落とされていた。


 リックの動きは最初はぎこちない立ち回りだったが、1体の蜘蛛を倒した後は何か振り切った様に機敏な動きで戦いを見せている。

 守りと攻撃がまだ苦手なリッケもリックとの戦いは慣れたもの。


 兄が怪我すれば直ぐに弟が治療を行う。


 兄が盾で抑えた蜘蛛には弟が蜘蛛の頭に剣を突き刺す。


 弟が届かない攻撃には兄がかわりに攻撃をする。


 弟が攻撃されそうな時は兄が盾で攻撃を弾き返す。


「リッケ!」 「はい!」


「リック!」 「おう!」


 先程からお互いに名前を呼び合うだけでそれ以上の言葉が飛んでいない。正に兄弟での阿吽の呼吸の戦い。


 だが勇ましい戦いを見せるのは兄弟だけではない。


「プルン飛びなさい!」


「ニャ!」


 プルンへと左右に飛び掛って来る青蜘蛛と赤蜘蛛。

 プルンはその場から勢いよく飛び上がり蜘蛛の攻撃を避ける。突然目の前から獲物が消えたが蜘蛛の襲いかかった時の勢いは止まらない。

 蜘蛛同士ぶつかったと思いきや、光の閃光が2体を包み込み、そして瞬時に燃やし尽くす。

 プルンはシュタッと着地と同時に、リッコの方と向かって走り出す。

 そしてリッコの背後に緑蜘蛛が近づこうとしていたが、手に持つナイフでスパッと足を切り、前方回転の勢いそのままに頭に向かってかかと落としを入れて頭を潰す。


 四人はお互いの長所も短所も理解している、理解してるからこそできる戦いだろう。


 そして約一名、蜘蛛が一番集まった場所へと駆け出し、二本の風刀を乱舞の様に振り回し戦いを繰り出していた。

 四方八方と飛び掛って来る蜘蛛の集団。

 しかし、蜘蛛は目の前の獲物に飛びかかると同時にその足を全て切り落とされ、次々と地面に叩きつけられている。

 動いて抵抗することも、逃げることもできない。

 何をされたのか、解らないうちに意識はぼんやり遠くなる。考えることもできず、そのまま命の鼓動が止まっていく。

 それでも群がる蜘蛛、倒した蜘蛛に飛びつき、死んだ獲物に牙を刺そうとするがその牙は届かない。

 その代わりと、自身の首と足全てが一瞬にして胴体から離れてしまい、意味も理解もすることなく死んでいく。



(スティール! 折角の素材品、また食べられてちゃたまらんのよ)


《スキル〈眠り攻撃〉〈幻覚攻撃〉〈束縛〉〈発光色液〉〈粘液糸〉〈蟲の目〉を取得しました、経験により〈糸出しLvMax〉〈毒液Lv8〉〈出血Lv8〉〈麻痺攻撃LvMax〉〈幻覚攻撃LvMax〉〈眠り攻撃Lv5〉〈束縛LvMax〉〈発光色液LvMax〉〈粘液糸LvMax〉となりました〉》


眠り攻撃

・種別:アクティブ

身体に眠気を与える、レベルが上がると眠りの効果時間と効果が上がる。


幻覚攻撃

・種別:アクティブ

幻覚効果を与える、レベルが上がると幻覚の効果時間と効果が上がる。


束縛

・種別:アクティブ

紐、ロープ等の道具を使用時の束縛の効果を高める、レベルが上がるとうまく縛れる。


発光色液

・種別:アクティブ

光る液体を出すことができる、レベルが上がると光の強さが変えることができる。


粘液糸

・種別:アクティブ

粘度のある糸を出すことができる、レベルが上がると粘質度を変えることができる。


蟲の目

・種別:アクティブ

相手の温度を色として見ることができる。



 蜘蛛の集団と戦闘をする前、自分はプルンから蜘蛛の足を多めに欲しいと催促されていた。

 戦闘が始まると素材を悪品にしないように戦うのは危険につながる。

 だが、目を爛々とさせたプルンのお願いを断るのもできなかった自分は、優先に蜘蛛の足を切り落としていた。

 普通に倒しては狙いを外して風刀で蜘蛛を真っ二つにしてしまう。


 ならどうするか。答えは簡単に出る。

 蜘蛛は襲い掛かってくる際に、8本の足を広げて掴み襲い掛かってくるか、もしくは鋭い牙を向けて飛び込んでくるかの2パターンしか無い。

 飛び込んできた蜘蛛がいれば〈時間停止〉を使い蜘蛛の動きを止める。

 そして急ぎ近づき風刀の先端で足をスパスパと切り落とし、切った後はアイテムボックスに直ぐに片付ける。

 最後に〈麻痺攻撃〉で状態異常にした後〈スティール〉にてスキルを回収。

 一匹に対して5秒ほどの時間に抑えて使用している。それは仲間に何かあるといけないので、ディキャストタイムを余りかけない程度にスキルを使用していた。


 時間が動き出せば、蜘蛛が飛び込んだ先には自分はいない。

 蜘蛛は着地するにも足は無いわ麻痺状態で動けないわで地面に転がる。

 胴体は後でまとめてトドメを刺し、回収を考えていたが放置していたらまた他の蜘蛛に食べられそうになってしまった。

 それをされては困るので、少し流れを変える。

 スキルを奪ったモンスターは直ぐに倒し、アイテムボックスに入れるようにする。

 

 10……20……30と次々と倒し続けるが蜘蛛が減らない。

 プルン達も蜘蛛を結構な数を倒し続けているが、減らないモンスターの数の状況に焦りを出し始めた。

 倒しても減らない、むしろ数が増えているにも思えてきていた。

 何か原因があるのではないかとユイシスに聞いてみると、どうやら他のフロアに溜まっていた蜘蛛がこのフロアに集結してるとのこと。

 しかし、通路らしい通路は自分達が来た道と、奥にある道の二つだけ。モンスターだけが通れる道があるのではないかと、フロアを見渡して探す。よく見ると天井の端のほうから出てくる蜘蛛を見つけた。

 


「あそこか?」


 確認するために〈マップ〉を出し蜘蛛が出てくる場所を拡大して表示する。そこは隣のフロアと繋がった細い細い道が確かにあった。

 


「ニャ〜、こいつらしつこいニャ!」


「泣き言言ってる前に1体でもいいから倒せ!」


「どうします、一度通路に戻って立て直しますか?」


「ミツ、どうする!? このままだと数に押されるぞ!」


「解ってる。取り敢えず増える蜘蛛を止めないと」


「何だ、解ってるなら教えろよな。湧いてるのは何処だ、俺が潰してやる!」


「いや、天井のあそこから出てるんだけど、リックの攻撃は届かない」


 自分が指差す場所を皆は見ると丁度そこから数体の蜘蛛が出てきていた。


「クソッ、面倒くせえな! リッコ、蜘蛛が出てくる場所に向かって魔法を撃て!」


「莫迦! あんな天井近くなんて撃ったら、衝撃で天井が崩落するわよ」


「ならどうする、あの虫共が止まるまで戦い続けるのか!?」


「いや、リックの言ったことをためそう」


「本気なの!?」


「大丈夫大丈夫。下から撃つから天井に当たるんだよ。魔法を正面からモンスターが出てくる場所に撃てば問題ないでしょ」

 

「何を言ってるのよ? 対面には壁しかないわよ」



「無いなら作れば良いんだよ。皆離れて」


 壁に手をあてがえ、自分は〈アースウォール〉土壁を真横に発動。


 ドンっ!


 通常下から飛び出す土壁。

 それを横の壁から出現させると言う発想はリッコ達には無かったようで、自分は今更ながら常識外れなことをしたようだ。


 だが、それをしない理由も直ぐに解った。


 べギッ!


「あっ……」


「危ない! 離れて!」


 壁から飛び出した土壁がボキッと自身の重みに耐えきれず、根本から折れてしまった。



「うわ、失敗したな……」


 ドシンっと音を出しながら、周囲に土煙を起こし地面へと落ちる土壁の一部。その衝撃音に蜘蛛達は怯えたのか、一度戦闘を止め、少し離れてこちらの様子を伺っている。


「ケホッ、ケホッ。あんたね、無茶なことしてんじゃないわよ」


「ごめんごめん、もう一回試すね」


「まだやるの!? また落ちてくるに決まってるじゃない」


「いや、落ちてくる理由も解ったし、先に土台を作れば大丈夫だよ」


 リッコの呆れた声も飛ぶ中、自分は先ず普通に下から土壁を出した。

 次に、その上に先程出したように横から土壁を出現させ、先に出した土壁の上にのせる。

 正面から見ると、土壁はT字状態にその形を止めている。

 安定感は無いが、横から飛び出した土壁が折れ落ちることはなくなった。


《経験により〈アースウォールLv2〉となりました》


「呆れた……。こんな方法はあんたしか思いつかないわね」


「褒めの言葉として受け取っとくよ」


「フンッ、でっ? これどうするのよ」


「まだまだ、これ一つじゃ足りないよ」


 T字型土壁を作ったが、これではまだ数が足りないし上には届かない。届かないならこれを階段状に次々と作るまで。


 奥に続いて今度は高めにまた土壁を出す、そしてその上に土壁を横から出して繋げる。これを繰り返し、T字型の土壁階段が10個以上完成した。


「ありえない……」


「でかいニャ……」


「どこから突っ込む?」


「そうですね、階段にしては段差段差の間が少し高すぎる、ではどうですか?」


 仲間からは呆れる声や驚きの声が出ているがそれは後回し。

 土壁階段が完成したところでまた蜘蛛が動き出した。

 


「リック、リッケ、プルン、3人で少し戦ってて。自分とリッコで蜘蛛が湧いてくる穴を潰してくる」


「おう! さっさと行ってこい」


「回復は任せてください!」


「リック、倒す前に足はちゃんと取るニャ」


「余裕ねえよ!」


「ははっ、無理はしないようにね」


「ねえミツ、これどうやって登る……きゃっ!」


「リッコ、しっかり捕まってね。よっ! はっ!」


「〜〜〜」


 リッコの言葉を遮り、自分はリッコをお姫様抱っこ状態にして土壁を登り始めた。勿論スキルの〈運ぶ〉の効果もあり、リッコを抱えてもバランスを崩すこともない。そして、登りと言っても段差段差をジャンプしていき、一番高く作り上げたT型土壁の上へと到着する。


「飛び虫みたいな奴だな……」


「リック……」


 リックの言った飛び虫とは、草原や原っぱによくいるバッタに似た虫。リッケも内心カエルを想像してしまったために言葉を止めた。


「二人ともよそ見は駄目ニャ! 美味しそうな足が来るニャよ!」


 人一人を抱えて淡々と登っていくミツを見て、目を細めて呆然とその様子を見ていた二人。

 そんな二人にプルンから言葉が飛んできたが、その内容が私利私欲の言葉だけに二人の表情が変わることはなかった。


「お前な……だから食わねえって言ってんだろ」


「リック、あれは素材です。食用としてはなくお金になる素材と考えて行きましょう」


「リッケ駄目ニャ! ちゃんと食べるニャ」


「なら足はお前が切れ! トドメは俺がしてやる」


「リック、ならトドメは僕にやらせて下さい」


「俺の出番なくね?」


 襲い掛かってくる蜘蛛の集団。だが、リックとリッケの2人でも十分捌けていた戦闘にプルンが加われば、安定感を増した戦闘が繰り広げられていた。

 



「よっと、到着!」


「全く……フンッ……莫迦」


 段差段差をピョンピョンと飛んで登ってきた自分の腕から、ゆっくりとリッコを土壁の床へと下ろす。床となった土壁の広さは、大体畳2畳ぐらいの広さ。


「ごめんごめん、これしか登る方法なくて。それよりリッコ、武器を構えて」


「んっ? うわっ、気持ち悪。リックがいたらまた白目物ね、フフッ。せっかくだからあんたも攻撃しなさいよ」


「いいの? さっきリッコ先手が欲しいみたいなこと言ってたけど」


「ムッ! そんな前のことなんて忘れたわ。やらないなら私だけでも十分よ」


「はいはい、それではリッコさんのご相伴にあずからせて頂きます」


「フフッ、素直でよろしい」



 二人が見た先には、蜘蛛の集団がワサワサと通路から出てくる光景だった。狭い通路から次々と出てくる蜘蛛を見て、背筋がまたゾクリと身震いしてしまう。



「リッコ、ちなみに何の魔法撃つ?」


「そうね、ライトニングでいこうかしら。でもどうして」


「いや、せっかくだから同じ魔法で倒そうと思ってね」


「えっ? あんた、ライトニング使えるの?」


「んっ? 使えるよ?」


「はぁ……まぁ、良いわ。もう突っ込むのも莫迦らしく思ってくる」


「まぁまぁ。さぁリッコさんや、増えていくモンスターを止めないと」


「んっ、解ってる。ちょっと待って、やっぱり足場が怖いわね」


「そう?」


 足場を確認しながら、恐る恐ると土壁の床を踏みしめるリッコ。


「怖い?」


「んっ、まぁ、ちょっとね」


「そっか……」


 リッコはちょっとと言うが、少しだけ引き攣った表情を浮かべ、今は何とか我慢しているようにしか見えない。

 攻撃に集中してもらうためにも、自分は腕の片方をリッコの腰へと手を回した。これは安全とリッコを落ち着かせるためにしただけで、下心は全くない。



「ひゃっ! あんたね……女の身体にそう簡単に触るもんじゃないのよ……。まぁ、別に私はいいけど……」


「ごめんね。でも自分もこの場所でリッコを手放しにするのは怖いから許してね」


「ふっ、フンッ! と、取り敢えず構えなさい。蜘蛛がまた出てきたわよ!」


 彼女の吐息が少し届くか、甘い香りがリッコから漂う距離。

 意識したら自分も恥ずかしくなるので今は蜘蛛を倒すことに集中する。



「うん」


「行くわよ!」


 蜘蛛がワサワサと出てくる細い通路に向かって、リッコは杖先を、自分は掌をかざした。


 そして息を合わせるように。


「「ライトニング!!」」


 リッコの杖先から放たれた大きな閃光の光、その周りを渦状に絡み回る自分の閃光。



 周囲を一気に明るく照らし、閃光に触れる蜘蛛は一瞬にして燃えて焦げていく。

 蜘蛛が出てきていた穴の通路には大量のモンスターが潜んでいたらしく、光がその通路内を照らすときには蜘蛛だと思われる物が燃えて消えていくのが薄っすらと見えていた。



 そして、ユイシスのナビの声と目の前に一言をのせ、ウィンドウ画面があらわれる。

 

《【忍者】のジョブがMaxとなりました》

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