第61話 二人の買い物
6階層で出てくるモンスターは亀の姿をもっしたエイバルだった。
エイバル自体に魔法攻撃が効果はなく、硬い甲羅の中に手足を引っ込めてしまうと仲間が持つ剣やナイフの攻撃は、これまた硬い鱗に守られ刃を通すことはできなかった。
自分のサポーターであるユイシスに倒し方を聞くと、甲羅自体に衝撃を与えれば良いと答えをくれたので、いざ攻撃。
だが、自分が攻撃すると素材を駄目にしたりと失敗を続けてしまう結果に……。そんな時、リッコが機転をきかせ、リックがウォーハンマーで甲羅を叩き、出てきた手足、そして頭をリッケが攻撃し倒すという流れができた。
そして意外なことにエイバルは食用となる肉や素材となる甲羅だけではなく、体内に大量に含む血も素材品ということが鑑定で判明した。
あーだこーだと考えながら血は傷口を凍らせて止血しそのまま持ち帰ることにした。
「他にモンスターが出ませんね?」
4体のエイバルを倒した後、先へと進むがモンスターの気配が少ないのか、先程の戦闘から全然モンスターが出てこない。
「ほんと。まぁ、私としては楽で良いけど」
歩み進めるが敵が出てこないため、少し談笑交えての探索を続ける面々。
「何言ってんだよ。敵が出なきゃリッケが強くならねぇだろうし、目的のジョブに早く転職できねぇだろ。後それに稼ぎにならねぇだろうが!」
「いや、リック。僕は流石に転職したてでそんな直ぐに次のジョブになれるなんて思ってもいませんよ。クレリックから今のジョブまでの転職だって2年かかってますからね」
15歳の成人を迎え、その後直ぐに【クレリック】として今の17歳までの2年間を過ごした日々。強くなることを皆の前で宣言したリッケだが、リッケの中ではまた同じ期間ぐらい年月がかかると考えていたようだ。しかし、兄であるリックの言葉はリッケの考えをあっさりと崩すものだった。
「莫迦! 男がそんなダラダラと次の目標目指してどうすんだよ。今俺達の近くには2年なんて必要としない奴もいるだろうが」
「えっ……。あっ!?」
リックの言葉に後ろを歩いてる自分を見て、不可能ではない可能性が目の前にいることを改めて自覚したリッケ。
「そうですね……。そうですよね! 戦いも続けて転職すれば、僕もミツ君みたいに強くなれるんですよね!」
「知らん!」
リッケはやる気に満ちた顔をリックに近づけるが、リックは顔をそむけると共に言葉を返した。
「うぇ! リック、そこは「そうだ!」とかの言葉をかけてくれないんですか!?」
「はぁ〜。あのな、俺ができることは、たじろぐお前の尻を蹴ってでも前に出すことで、お前の先を示す訳じゃねぇ。先を決めるのはお前であって俺達が引っ張ることじゃねぇよ」
「それは解ってますが……」
「解ってるなら、もう俺が言うことはないからな」
「はい!」
強くなることにまだ心に甘えがあったリッケは、兄の以外にも背中を押してくれる言葉に心を熱くし、腰に携えた剣をギュッと握ると進む足のスピードを心持ちあげた。
「ねぇ、あんた達は後ろでさっきから何してるの?」
「ニャ?」
「んっ? いや、今のところモンスターの気配も無いみたいだからさ。今はプルンにあげたナイフに錆止めに油塗ってるところだよ」
「油?」
エイバルの戦闘ではプルンはやる事がないので先頭では無く、後衛の自分とリッコを守る位置に立ち位置を変えていた。その際、ユイシスからのモンスターが潜伏していると言う助言も無いので、手持ち無沙汰な自分はフッとプルンに渡したダマスカスナイフを見て思いついた事があった。
「はい、プルン。これで大丈夫、たまにまた拭いてあげてね」
「ありがとニャ」
刃物を長持ちさせるため、ダマスカスナイフをプルンから一度受け取り、アイテムボックスから革布とイメージして取り出したオリーブオイルを出し、布にオリーブオイルを染み込ませ、刃の部分を磨きあげた。
これは日本での記憶なのだが、たまたまTVで見た主婦必見の裏技方法だ。
本当は刃物専用の錆止め油があるようだが、自分のアイテムボックスは食べ物は出せてもそんな錆止めの油は出すことはできない。
その時、代用品として最適なオリーブオイルを思い出したのだ。
ピカピカに磨かれたナイフを受け取るとプルンは嬉しそうに受け取ってくれた。
「ふ〜ん。プルン、あんた武器屋でナイフ買えなくて逆に良かったわね」
「ニャははっ」
「そう言えばさ、下町の武器屋に貴族の人って来るものなの?」
「ん〜。私は見たことないわね」
「ウチもニャ。だから店に入ってきたときは驚いたニャ」
「ほんとほんと。しかも私達の買い物止めさせたのよ」
「どういうこと?」
自分が質問すると、二人は苦い顔をしながら渋々と話を切り出してきた。
それはプルンの転職記念として武器を新調するために、下町の武器屋に足を運んだときの話だ。
「リッコここニャ?」
「そうよ、ここのお店は狩りとして使えるナイフが多く揃えているお店なの」
加工品専門として店が並ぶ場所。
ここは周りには食品店などの食べ物を扱うお店はないため、プルンは足を運ぶ場所ではなかったのだろう。
「おー、こんなお店があるニャて知らなかったニャ」
「そうなの? まぁ、こんなナイフ専門としてのお店なんて、本当に拘った人しか来ないでしょうからね」
店に入るとプルン達以外にもお客はおり、豪腕な人や魔法使いなどのナイフを扱うことの無い客層はおらず、背中に弓を携えたハンター系やプルン同様にシーフ系のような俊敏性高そうな人々がナイフを見ていた。
店は以外と奥行きがあり、見た目によらず数々な品揃えを揃えていた。
だが、専門店と言うだけに陳列された商品はナイフオンリー。
店には店員が数名おり、お客相手にナイフの説明をしたりオススメの商品を見せている。
「ニャ! このナイフ、金貨20枚って書いてるニャ……」
「うわ〜、ナイフ一つにそんな大金出す人なんているのかしら」
プルンとリッコは店の奥、表面をガラスのような物に覆われた高価なナイフ棚を見てお互いに意見を飛ばし合っている。
「ニャニャ! リッコ見てニャ! 隣のは金貨30枚ニャ!」
「呆れた、宝石だらけで完全に飾り物ね」
「いらっしゃいお嬢さんがた。どんなナイフをお求めかな?」
「あっ、すみません」
店の中央にあるカウンターに立っていた店員であるお爺さん。二人がナイフを見ながら商品を探していると思い声をかけてきた。咄嗟にリッコは少しナイフに悪態を言ったことに謝罪を言うが、お爺さんは気にもせず商人として話を勧めてくれた。
「ニャハハ。ウチ冒険者やってるニャ、探索とかで使いやすいのはニャいかニャ?」
「ほう、お嬢さんは冒険者か。ちなみにジョブは何だい?」
「シーフニャ!」
「なるほど、ならあんまり短すぎないのがいいね」
よっこいしょとカウンターから出てくるお爺さんはプルンの希望も含め数種類のナイフを見せてくれた。
流石ナイフ専門店、それだけに多種多様の形をした物があるようで、お爺さんは使い者となるプルンに合いそうな物を出してくる。
プルンの前に並べられたのは基本的な形であるダガー、スキナー、プッシ、フィレだ。そして最後にお爺さんの出したナイフがプルンの目を輝かせた。
「これいいニャ!」
それはフィレットナイフと言う刃渡りが長いナイフだった。例えるなら刺身包丁にも似た物と考えれば解りやすいかもしれない。切れ味も良く素材の剥ぎ取りやモンスターの戦闘でも使い勝手がいいとお爺さんのオススメでもあった。
「へぇー、いいわね。ん〜、何だかミツが出す風刀にそっくりじゃない。……あれあれ、あれれ〜。プルンさんもしかして〜、も〜し〜か〜し〜て〜」
「ニャ!? ちっ、違うニャ! 偶然ニャよ!」
「はいはい、偶然ね〜。凄く狙った偶然に感じるのは私だけかしら」
「〜〜〜」
プルンが目を輝かせて手に持つナイフを見たリッコ。ニヤニヤとプルンに何処かで見たことあるナイフだと質問すると、リッコの思っていたことが図星だったのか、一気に顔を真っ赤にしたプルンは口ごもるしかなかった。
「お、お嬢さんがた。すまんが他のお客さんもいるから暴れんでおくれよ」
突然の女子トーク、キャッキャッと話し出す二人にやれやれとお爺さんが他のお客さんの迷惑になると軽く注意してくれた。
「あっ、ごめんなさい」
「ご、ごめんニャ」
「お嬢さんはそのナイフでいいのかな?」
「いいニャ! 気に入ったニャ、これをくださいニャ」
「まいど、お嬢さんは運が良いね。それはうちの店にある最後の一本だよ」
「ほんとニャ! 運が良かったニャ!」
フィレットナイフの金額はプルンにとっては安いものではないが、今までミツと一緒に冒険者の依頼をこなし、ほんの少しだがプルンの懐にも余裕ができていた。
シーフへと転職した自身へのご褒美としてフィレットナイフを買うことを決めた。
「うんうん。ならお嬢さん、こっちに来て鞘を選んでおくれ」
「あら、鞘っておまけ的に作られる物じゃないの?」
「んっ? あぁ、普通なら革の鞘でこっちが勝手に決めるんだけどね。お嬢さんならこのナイフを大切に使ってくれそうだからサービスで鞘を選ばせてあげるよ」
ニコッと軽く笑いながらまたカウンターへと戻るお爺さん。
「ありがとニャ!」
「お祖父ちゃん! またお客にサービスして!」
お爺さんのお孫さんだろうか? お孫さんの言葉もはいはいと流しながらも、お爺さんはカウンターの上にプルンが選んだナイフに合う鞘を並べだしてきた。
「ニャニャ。どれにするかニャ〜」
カランコロンカラン
「んっ! いらっしゃいませ」
「ニャ?」
「んっ?」
店の扉が開く音にお爺さんが顔を向け、その後少し顔を険しくしたことに二人も扉の方へと視線を向けた。
扉の前には物々しくも貴族の私兵と思わせる男が一人、緑と白の鎧に身を固めた男が店の中を見渡していた。そして、軽く見渡した後、外へと何やら合図を送ると同じ様な鎧をした私兵が続々と入ってきたのだ。
「お前ら手を止めろ、端によれ!」
「何だ? 誰だ?」
「ニャ!? 何事ニャ?」
「プルン、こっちに!」
突然入ってきた私兵に命令され、混乱しながらも店の店員と客全てを店の端へと寄せる。安全を確認したのかまた外へと合図を送ると、次に入ってきたのは明らかに下町の庶民とは思えない服装の男だった。
「ふん! 随分と薄汚い場所じゃないかね……」
入ってきた男は周囲を確認して、悪態を履きながらも店の商品を見始めだした。
そんな様子を見ながら端に寄せられたお客がボソボソと話し出してきた。
「誰だ?」
「解らねぇ、でも多分何処かのお貴族様だと思うぜ」
「シッ、黙ってろ。下手に話し声が聞こえたら何されるか解ったもんじゃねえぞ」
お客を囲むように左右を私兵が囲みその場から動くこともできないお客と店員はジッとしてるしかなかった。
貴族と思われる男は、奥へと進むと高額ナイフを陳列している棚に釘付けとなった。
「ふ〜ん。店がこれだけに品も期待できないと思ったが、意外とまともな物もあるではないか」
「ありがとうございます。お褒めの言葉、恐れ入ります……」
商品の説明のためにとお爺さんが側に付き、棚の商品を取り出し貴族の側仕えへと手渡していく。
男は品が気に入ったのか、棚に飾ってあった金貨30枚のナイフ、他に数個の商品を選んで側仕えに持たせ買い物を終わらせたようだ。
お爺さんはナイフが売れたことにそれ程に喜びと表情を崩さず、次々と貴族の側仕えが持つ商品の包を準備し始めた。
もう要は済んだと帰るさい、視界に入った一本のナイフに貴族の男は興味を惹かれた。
「んっ? おい店番、そこに置いているナイフを見せろ」
「ニャ!」
それは先程プルンが選んだフィレットナイフだ。カウンターに1つ置かれていたために目立ち、貴族の視界に入ってしまったのだろう。
「んっ? 何だ、下民ふぜいが私の買い物の邪魔をするのか」
今迄端に寄せて眼中にもなかったプルンの声から、驚きと批判と感じる声が聞こえたことに眉間にシワを寄せ不快そうに質問する男だが、貴族と思われる男に庶民であるプルンがここで反論する言葉が出せるわけがない。
「いや……そんなこと無いですニャ……」
「ふん! 獣ふぜいが。 店番、それを早く見せろ」
「はい……どうぞ」
渋々とフィレットナイフを差し出すお爺さん。
私兵がお爺さんからナイフを受け取ると、直ぐに貴族の男は私兵の手からナイフを奪うかのよに手に取ると、ニヤリと頬を緩ませて声を出した。
「ふむ、作りは安っぽいが中々に斬れそうだな。これもついでに貰おう、いくらだ」
「えっ……」
「だから、これはいくらだと聞いてるんだ!」
「それは……」
「店主! お前は売り物でもないものを店に置いているのか! それとも我が主を侮辱しているのか!」
既にそのナイフは買い取りてが決まってますとも言えないお爺さんは口ごもり、売る事をためらっていると私兵の一人がぐっと前に出てお爺さんに怒声をあげてきた。
「いえ! そんなことはございません! そちらは金貨4枚 でございます。余りにも低額のため、貴族様にオススメするのはこちらとして大変申し訳なく、それこそ失礼になると思い言葉を止めてしまいました。大変申し訳ございません」
言葉の後プルンの方を見たお爺さんは目を伏せ、買う予定だったナイフを別の人に売ってしまったことを謝罪していた。しかし、プルンもその場の状況を見ていたため、反論する言葉も出せない状態なのは理解している。軽く微笑み、首をかしげてお爺さんへと仕方ないと答えたのだった。
貴族の買い物品は予定より以外と多くなったようで、庶民がいる前で多額の金を出すのは危険だと側仕えの一人の提案にて一度客を全員外へ出すことになった。
買う予定だったフィレットナイフは貴族に買い取られ、その場に残っても後味が悪いだけなので直ぐに二人はその場を後にした。
待ち合わせの場所に戻る際、プルンは仕方ないと思いながらも、欲しかったフィレットナイフが買えなかった事に段々と落ち込みだし、隣を歩いていたリッコにも気分が移ったかのように、トボトボと二人は歩きだしていた。
そして待ち合わせの場所にたどり着いた二人はどっと疲れたのか、自分達がまだ来てないこともあり、石像を背に座り込んでいた。すると時間もおかず二人の前に足音が止まり、リッコとプルンはリック達が来たと思い少し微笑みながら顔を上げたが、その場にいるのは知らない男だったと言う。
男達は自身に突然向けられた笑顔に何を勘違いしたのか、無理矢理に近い誘い文句をくりだし、更には座り込んでいたリッコの肩を掴み引っ張ろうとしたのだ。
ただでさえ先程までの貴族の身勝手な買い物にイラッとしていたリッコは、一言男たちに。
「消えなさい」
「へっ?」
右手に持つ杖先と、左手に火玉を出して男達へと向けたのだ。
「ひっ!」
「ウチら待ち合わせしてるニャ、悪いけど遊ぶなら他を当たるニャ」
そう言いつつ、プルンも無意識にギラリと男達を睨みつけていた。
そんな二人に男達は焦り、顔を青ざめさせて直ぐにその場を後に走って何処かへと行ってしまったらしい。
「「はぁ〜」」
買い物の不完全燃焼、気分も落ち出店を回る気力も今の二人には無かったという。
そして時間が立つと落ち込んでいた気分は少しずつイライラへと変わり、何も知らず射的屋でのほほんと遊んできた自分達へと内心八つ当たりに言葉をぶつけていたようだ。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
「なるほど……。改めて聞くとタイミングと言うか、本当に運が無かったね」
「フンッ! もう別にいいわ。私もプルンも思わぬところで新しい武器が手に入ったんだもん」
「ニャニャ、本当ニャ。ミツ、ウチこのナイフ大切にするニャ!」
「うん、射的屋の景品だけど、品は本物だから長く使ってあげてね」
話をしてスッキリしたのか、二人の顔はもう忘れたようにニコニコと笑っている。
(しかし、そんな貴族もやっぱりいるんだな……。生まれが偶々貴族ってだけでそこまでイキってるのか)
二人の話を聞きながら進むと、前にいるリックからこの先のモンスターの状況を聞かれた。
「なあミツ、さっきから全然モンスター出てこねえけど、この先もいないのか?」
「んっ……どうだろう。ちょっと待ってね」
(ねえユイシス、リックの言ったとおりさっきからモンスターの気配もないんだけど、この先もいないのかな?)
《はい、このまま下の7階層へと進む最短距離を進んでいくと、モンスターとの遭遇はありません。ルートを変えて別の道から下へと進めば、数体のモンスターとの遭遇が可能です。ちなみに遭遇するモンスターはエイバルです》
(どうしようかな……)
「えーっとね、リック……」
ユイシスの助言をリック含む皆に説明すると、皆は一度足を止め、この先進む道の選択を相談することとした。
「あ〜、どうすっかな。折角エイバルの倒し方解ったのに、この階を省略するのも勿体ねえしな」
「でもさ、次も当然モンスターは出てくると思うよ?」
「そりゃそうだけどよ……ん〜。リッケはどうしたい?」
「僕ですか? そうですね……。僕は戦えるチャンスがあればモンスターを倒したいです。幸いですがここのモンスターはリッコの魔法で動きを止めてしまえば簡単に倒すことができますし」
「そうか、なら答えは決まったな」
「解った、じゃ〜モンスターの居る方にルートを変えるよ」
「はいはい、どうせ私は足止めだけの暇なお仕事をするだけだからいいけどね」
「リッコ、ウチなんか何にもしてないニャよ?」
「プルン、あんたは上の5階層でスモールオークを何体も倒してたでしょ。順番だと思って休んでなさいよ」
「なら次はリッコとプルン、二人に少し頑張って貰おうかな」
「んっ?」
「ニャ?」
「あんたまた何か企んでいるでしょ。何するか先に言いなさいよ」
リッコは自分の意味深な言葉にハッと気づいたかのように質問してくる。
「ハッハッハッハッ! 企むだなんてリッコさんは疑り深いな〜」
「あっ、こいつまた何かやらかすぞ」
「僕もそう思います」
「ウチもニャ」
「何? ねぇミツ、あんたホントに何やるつもりなの?」
皆の驚く顔が内心少し楽しくなってきたせいか、リッコとプルンに試す新しいスキルを使うのが楽しみだ。
何をするのかをリッコから問われるが、種明かしを先にしては楽しみも半減になるので、言葉は返さずに、ニコリと笑顔だけを返しとくと何とも言えない表情を皆は浮かべていた。自分は早く下の階層へ行きたい気分を抑えながらも、ユイシスが教えてくれたエイバルがいる方へとルートを変えて先へと進んだ。
「おっ! 居たな」
「8体ですか。結構いましたね」
通路を進み、少し広めのフロアにたどり着くと、フロア内にエイバルを数体見つけた。こちらの姿を見せてしまうと、突進攻撃をされてしまうので、フロア内を覗くように中の様子を伺っている
「リッコ、あれ全部動き止めれる?」
「ん〜。多分大丈夫、でもそんなに長くは無理かも」
「なら、ちゃっちゃと俺が叩いて、リッケが斬るしかないな」
「はい、スピード勝負ですね」
「皆頑張れニャ〜」
リッコは集中を高めて杖先をエイバルへと向け、リックはハンマーをギュッと握りしめ、リッケはゴクリと唾を飲み、まだ少し緊張した気持ちで武器を構え、そして戦闘がお休みのプルンはひらひらと手を降って皆に声援だけを送っていた。
「リッコ、すまねえが足止めには蔦の方を頼むわ」
戦闘開始する前、リックは少し考え作戦の提案を促した。
「どうしたのリック?」
「いや、あいつらの甲羅が沈むとさ、角度的にハンマーで叩きにくいんだよ」
「なるほどね。プルンはリッコの守りよろしく」
自分の言葉に皆は戦闘の合図と頷き、そして動き出した。
「行くわよ! ニードル!」
「走れ!」
「はい!」
突然現れた茨に動きを止められたエイバル。何をするにも突然の奇襲に混乱状態のまま暴れることしかできないまま、走ってくるリックとリッケの攻撃を受けるはめとなった。
二人の動きには無駄もなく、すぐに戦いは開始された。
首を出しジタバタと暴れるエイバルを優先としてリッケは首元に剣を突き刺してエイバルを倒し、リックはリッケが次の攻撃目標となるエイバルの甲羅にハンマーを叩きつけていた。
自分は鑑定し、亡骸状態を確認した上で刺し傷にブレスを吹きかけ血を止める役だ。
勿論まだ二人の攻撃が届かないエイバルからはスキルをしっかりと頂くことを忘れない。
(スティール!)
《経験により〈コールドブレスLv4〉〈硬質化LvMAX〉〈筋肉強化LvMAX〉となりました》
(よし!)
出現数が少ないエイバル、そんなスキルを何とかLvMAXまでできたこと、また今回攻撃ではなく止血のために使用していた〈コールドブレス〉のレベルが上がったことに自分はグッと拳を握り、笑みを浮かべていた。
しかし、戦闘も順調に進んでいたが、残りラスト1体と言う時にトラブルが起きた。
「リッケ!」
「えっ?」
手順通りにハンマーでエイバルの甲羅を叩き、手足そして首が飛び出たところをリッケが剣を振り下ろそうと構えていたが、リッケの位置が悪かったのか、飛び出したエイバルの頭がリッケの腹部へと口を開けて攻撃をしようとしていた。
「くっ!」
「リック!」
リックは咄嗟に右足を出し、エイバルの頭めがけて蹴りを入れると、エイバルの噛みつきの攻撃を阻止することができた。
だが、今度はエイバルはやり返しと、蹴られたリックの足に向かってガチンッと、力一杯噛みつきを仕掛けてきた。
そして大きな口で咥えられた足を引っ張られ、その衝撃にリックは転倒してしまった。
「ぐっ、こいつ! リッケ、俺は大丈夫だ! 今のうちに首を斬れ!」
「はい!」
噛み付いた口を開けることなく、グイッグイッっと更に甲羅の中へとリックの足を引き込もうとしていたエイバル。
足首を動かしても柔軟なエイバルの首はその動きに合わせ動き、口からリックの足を離すことはしない。
ならばとリックはグイッと一気に足を引き、エイバルの首を甲羅の中から引きずり出すと、空かさずリッケの剣がエイバルの伸びた首をスパッと斬り落とした。
「大丈夫!?」
「リック回復します!」
尻餅をついた状態のリックに駆け寄る面々。リッケは自身の不注意と謝罪を入れながらリックの足へと回復をかけようとする。
だが、リックは大丈夫と回復しようとしていたリッケの手を止め、直ぐに立ち上がった後にパンパンと体についた砂埃をはたき落としていた。
「あっ、いや。回復はいらねえ、別に痛みもなかったからな」
「えっ? で、でも、思いっきり噛まれてましたよ!」
「ああ、でも本当に大丈夫だから」
「そうですか……。すみません」
「おう、気にすんな」
リックは本当に痛みもなさそうに足首をグイグイっと動かして、大丈夫だろと言っている足をみせている。そんな足元を見て自分はある事を思い出しリックに一言伝えた。
「靴……買っといてよかったね」
「ああ……買っといてよかったわ」
リックの今装備している靴は、押し売りな感じに買わされた店主オススメブーツ、鉄が仕込まれた安全靴だ。
エイバルの噛み付いた場所が丁度足先だったため、痛みも怪我もしなかったのだろう。
身構えていた程にモンスターの出現はなく、あっさりと6階層を抜けたことに少し拍子抜けしてしまった。だが、次のも同じとは限らないと、リックの注意が入り皆はもう一度気を引き締めなおす。
「結局ここでは14匹しかモンスター倒せなかったわね」
「こんなに少ないとやっぱり張り合いもねえし、倒すモンスターも先がなげえな。あと何匹だ?」
「確かミツ君は86匹倒せばと言ってましたよね? ならあと72匹……。先は長いですね」
「でも残念、今度は二人がやすみよ! 次は私達が倒すんだからね」
「そうニャ! 二人は後ろを守っててニャ!」
下へと続く道の前に立つリックとリッケ、二人の間に割り込むかのようにプルンとリッコが二人を押しのけ、次は私達が戦う番と前へと出た。
「おっとっと。二人とも無理しないでくださいよ。一応洞窟の下の階層です、更に強いモンスターが出るかもしれませんよ」
「解ってるニャ解ってるニャ、油断せず行くニャ」
「はいはい、また魔法が効かないモンスターの時は俺達が貰うからな」
「うっ……。さ、流石に連続では出ないでしょ……ねえミツ?」
「どうだろうね。その時はその時でまた考えようか」
皆はコクリと頷き、下へと続く道を下りだした。
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