第59話 ルールは公平に。


「まだ来てないみたいだね……」


「そうだな」


 〈トリップゲート〉を使用後、脇道を通り抜ける。

 約束していた銅像のある広場まではそれ程に遠い場所ではないので、三人はその場所にと直ぐにたどり着いた。

 たどり着いた三人はプルンとリッコを探したが二人が見当たらない。

 仕方ないので〈マップ〉を使用し〈マーキング〉を付けたリッコとプルンの位置を確認してみると、この周囲にはまだおらず、武器屋だろうか、離れたお店の方にいることがわかった。

 


「おっ、ミツ、見てみろよ。あそこで遊戯物やってるぜ」


「本当だ。何だろうね? ねぇ、二人はまだ来てないっぽいし、少し行ってみようか」


「そうですね」


 広場中央の銅像を囲む様に周囲にお店があるが、そこにはまだプルン達は来ていなかったため、三人は時間つぶしに遊戯物店へと足を進めた。


「は〜い、いらはいいらはい! 指定の的に5本中3本矢を当てたら景品ゲット! 誰でもチャレンジしてみてくれ。挑戦料は一人一回銅貨3枚だ! ただし弓職の人は5本全てを当てることが条件だ! そうでもしないと景品全て取られたら、俺が家でかみさんから的として弓を撃たれちまうからな」


「あははは!」


 店の人の呼び込みの声に周囲に湧き上がる笑い声、それをきっかけと店を囲むように辺りの人が物珍しそうに集まって来た。


(へー、つまりは射的の弓番かな)


「さぁご覧あれ! 今回用意した数々! 景品は武道大会にちなんで今回は先程近くの武器屋と防具屋で仕入れた品々だ。普通に買うと銀貨3枚、いや高い物だと金貨1枚以上の目玉品もあるよ〜」


 店の中に作られた景品を飾るための即席の棚には、数々の武器が並べられていた。


「お〜!」


「おい、あれ確か金貨3枚くらいする大剣じゃなかったか?」


「凄い! あの杖も同じくらいの品よ」


 そんな野次馬の声に反応したのか一人の男が挑戦と声を上げてきた。



「よし! 先ずは俺様だ! 弓と矢をよこしな」


「おっ、ガタイの良い兄ちゃんだね〜! 弓の経験はなさそうだな。よし、お兄ちゃんがこの店初の客だ。3本当てたら好きな賞品をくれてやろうじゃないか」


 店のオヤジは挑戦者の掌を確認すると、弓を扱う者独特のマメやタコ、傷が無いことを確認すると弓と矢を渡した。


「おおー!!」


「いいぞオヤジ! 見た目通りな太っ腹だね!」


「あっはっはっ!」


 店のオヤジの言葉に野次馬と見ていた客からの歓声、それと笑い声がその場を更に明るく賑わいを向上させていた。



「うおりゃ!」


 ストッ


「あれ?」


「あっははは。兄ちゃん、流石に届いてないんじゃ何にもやれねえわ」


「クソッ! まだ矢はあるんだから焦んじゃねえ!」


「さーどんどん撃ってくれ」


 しかし、挑戦した男は次々と矢を放つが、指定の的に届く事もなく全ての矢は地面に落ちてしまっていた。


「ちくしょう! 全然飛ばねえじゃねーか!」


「は〜いお疲れさん、参加賞の研磨石だよ。次の人どうぞ、参加賞にも数の制限はあるからね、目玉の景品少ないから早い者勝ちだよ!」


「次は俺がやる!」


「私もやらせて!」


「はいはい、順番にね〜……へっへっへ」


 5本中3本を的に当てるだけと言う簡単なルールに加えて、銅貨数枚で高額景品がゲットできる遊戯。

 店のオヤジの呼び込みの言葉を聞いた人々は次々と出店前に並び、あっと言う間に列を作り出した。

 次々と挑戦するも、殆どの人が的まで矢が届かなかったりとの理由で未だに景品をゲットできた人はおらず、それでも人々の列が耐えないのは店のオヤジのトークが上手いのか、時折見せる運良くお客が2本の矢を的に刺すからだろうか。


 そんな中、子供がゲームにチャレンジする際に誤って矢を落す事があった。コロコロと自分の足元に転がる矢を拾い上げ子供に返そうと思ったその時。


「んっ?」


(何だかこの矢、普通の矢より何か変な気がする……。矢に何かしてるなこりゃ)


「はい、気をつけてね」


「お兄ちゃんありがとう」


 矢を受け取ろうと子供が駆け寄り、矢を渡す際に子供の持つ矢と弓、両方に鑑定をしてみた。すると矢には油が染み込ませており、弓は悪品と表示されている。



「はい、残念でした〜、次の方どうぞ」


「くそっ! 全然飛ばねえ! これだから弓は面倒くせえんだ!」


「5本中3本! いや〜お姉さんが弓職じゃなければ景品ゲットだったのに残念だねー」


「あれ〜? おかしいわね」


「へっへへ、残念でした〜」


 弓職である【アーチャー】【ハンター】がチャレンジしているが当たる事は無く、更にはいつも使っている物ではない為に気づいてないのか。それとも本職を欺く程の小細工がまだ仕掛けられているのか、射的屋のオヤジはそんなお客となった人々を見て不敵に笑っていた。



(悪質だな……。なら)



 先程よりは減ってきた列にスッと自分が並ぶと、リックが声をかけてきた。


「なあ、何か難しそうだけどやってみるのか?」


「うん、平気だよ」


 例え商売としても、元から景品を渡す気の無いこんな悪質な店ではただ単にお客は浪費するだけ。そんな出店には一つ痛い目にあってもらおうと列にならんだ。



「さ〜、いらはいいらはい! 次は誰がチャレンジするのかな」


「自分です。あっ、自分弓職なんで矢は5本当ての方で」


「おお、こんなにちっこいのに弓を扱えるのかい」


「……」


(一言余計だ)


「じゃーこれな。さー皆離れた離れた! このちっこい少年が弓を引くよー、当たってもうちは治療費出さないからね」


「あっはっはっは」


「的近くのやつは離れとけよー、わっはっは」


「……」


「さあ、5本全て当ててくれよ」


 受け取った矢の3本は鑑定すると普通の矢、残り2本が油を染み込ませた矢だった。どうやら5本全てを油矢にするとバレる為の工作だろうか、また弓の方も弓を扱わない者には解らない程に弦が緩めになっていた。


(なるほど、細かいところまで細工されてるな……なら)


「すみません、これって何回も挑戦してもいいんですか?」


「んっ? ああ、勿論何回でも挑戦してくれ。勿論5本当てた後でも金さえくれたら何回でもチャレンジしてくれて構わんぞ」


「そうですか、言質は貰いましたよ」


「おっ、おう?」


 店のオヤジの言葉を聞いた後、自分は〈時間停止〉を発動させた。


(ねえユイシス、確認なんだけどシャロット様から貰ったスキルの〈物質製造〉って物は改善する事もできるかな)


《はい、可能です。〈物質製造〉のスキル効果は(物を作り出す)です。今ミツが手に持つ矢と弓、スキルを使用していただければ壊れていようと作り直すことも可能です》


(ありがとう)


 ユイシスの言葉を聞いた後、時間もないので先ずは弓に対して〈物質製造〉を発動。

 弓に取り付けられた見た目解らない程度に緩めになっていた弦をピンッと張り直し、弦を二度三度と試し、弓をまともに引けるようにした。


 そして一度〈時間停止〉を解除し。


 バンッ!


「えっ……」


「先ず一本目ですね」


 油を吸っていない普通の矢を的へと射抜く。


「おっ、おお! やるねちっこいの。まあ弓を扱う職なんだ、一本くらい当ててくれないとね」


 店のオヤジのちっこいと言う言葉を流し、次の矢を放つ。


 バンッ!


「2本……」


 バンッ!


「3本……」


「おお! ちっこいのに凄えぞ!」


「いけいけ!」


「やるじゃねーか坊主。だが4本目からはまだ当てた奴がいないからな〜。そろそろ当ててくんねーとこっちも渡す為の景品が無駄になっちまうぜ。へっへっへ」


 表面上では顔色変えずに笑顔のままの店のオヤジ。4本目からの矢は油矢だけに普通にやっても当たることは無いのを知っていて店のオヤジは余裕をかましていた。


 そしてまた〈時間停止〉を発動。

 残った二本の矢に(物質製造)を発動した。

 イメージとしては矢の中の染み込んだ油を取り出す、また見た目を変えることのない様に矢を作り直すことだ。

 手元に握った矢にイメージを送ると、矢は一度グニャリと形を変えた。

 形を変えた矢は元の姿に戻るが、掌には矢と取り出した油の2つがあり、鑑定すると植物油と普通の矢と表示されていた。

 油はいらないのでアイテムボックスへとしまって〈時間停止〉を解除した。



「では残りの2本は連続で行きますね」


「へっ?」


 バンッ! バンッ!


 〈連射〉のスキルを発動し矢を的の真ん中へと命中させた。


「おおぉ!」


「すっ、凄え!」


「全射命中させたぞ!」


 何人もの挑戦者がいたが未だに達成者がいなかった見せ物屋。初めて出た全射命中、その場にいた観客は歓喜と驚きに声を張り上げていた。


「はい、全て命中させましたよ」


「おっ、おう。おっ、おめでとう! いや〜、参った参った。さぁ、景品を持っていきな」


「ならあの杖を下さい」


「くっ、やっぱりそれにするのか。店としては目玉品を持って行かれるのは痛いが仕方ねぇ」


 店のオヤジは出店に飾られた目玉景品である杖を自分に渋々と渡してきた。


「どうも」


 景品を受け取り、また最後尾へと並びなおす。

 すると景品はちゃんと獲得できることを見ていた周りの人達も、また列に並び出し、途切れ途切れの列がまた長い行列を作り出した。

 自分の後に挑戦した人の中には残念ながら成功者はおらず、また自分の番と順番が回ってきた。  



「代金はこちらに、矢をお願いします」


「えっ?」


 ジャラっと仮設テーブルの上に挑戦料の銅貨を置く。


「いいですよね?」


 ニコッと軽い笑顔を向け、店のオヤジに矢を催促するが、オヤジは矢を渡す事を躊躇っている。


「うっ……」


「どうしたオッサン。問題はないよな?」


「そうですね。こちらは先にちゃんと確認もしましたし」


 自分の言葉に躊躇う店のオヤジ。

 そんなオヤジを見て後に立っていたリックとリッケの二人は、先程の言質を取っていたこともあり、加勢の言葉を飛ばしてくれた。すると他の客も続けて声を出してくる。


「そうだそうだ、逃げんじゃねーぞ!」


「わ、解った、解った。約束だ」


 そして渋々と渡された矢は今度は5本中4本が油矢と言う、もう絶対に取らせないと言う店のオヤジの悪質さを悪化させていた。


(はぁ……)


 内心ため息をしながらも出された矢をまた〈時間停止〉と〈物質製造〉を利用しまた普通の矢に戻した後に矢を放った。


 バンッ! バンッ! と次々に的に当て、全ての矢を当て終わっては店の目玉品をまた貰い、並び直してまた代金を払っては油矢を普通の矢に戻して矢を的へと撃ち込み景品を貰う。

 そんな事を繰り返すと、いつの間にか店の周りには多くの野次馬が集まり、まるで出し物を楽しむように驚き周りは歓声の声を上げていた。

 そして列に並び直して5回目の代金を払おうと銅貨を台の上に乗せると、店のオヤジは慌てたように流石に待ったの声を出してきた。

 しかし、他のお客が店のオヤジの待ったを止め逆に自分にもっとやれと今は後押しまでしてくる流れだ。


「くっ……」


 次々と目玉品を取られてしまい景品棚は寂しくなっていた。例え自分が居なくなったとしても、もう店には最初の時程に客を呼び寄せる景品はもうほとんど無い。銅貨数枚でこの後稼いだとしても、自分が獲得した景品代の元を取れずに終わってしまうだろう。


(まぁ、そろそろ勘弁してやるかな)


「二人とも、そろそろ待ち合わせの場所に戻ろうか」


 手に持つ弓を仮設テーブルに置き、後ろの二人にもう待ち合わせの場所へと行こうと促した。


「あっ、そうですね」


「何だよ、もう少し良いじゃねーか」


 獲得した景品を二つずつ持ってくれているリックとリッケ。リックは周りの観客同様に楽しくなっていたのかまだ遊ぶことを押してくる。


「まーまー。あっ、そうだオジさん」


「なっ、何だ」


 手招きする自分に近寄る店のオヤジ。

 その顔は目玉品を取られてしまい少し怒った表情をしていた。しかし、自分は気にすることもなく耳打ちをする様に最後に声をかけた。


「矢は普通に戻した方がいいよ。そうしないと気付いた人があの的みたいにオジサンを的にしちゃうかもね」


「うぐっ!」


 悪戯っぽい笑顔のまま言葉を伝えると意味を直ぐに理解したのか、自分が今まで射抜いた的を見てオヤジは顔を真っ青にし、無理やりと思える笑顔で解ったと言葉を返してくれた。


 順番を待ってくれていた人に場所を譲ると、今度こそ自身も当ててやるとその人は店のオヤジに弓と矢を受け取っていた。鑑定しオヤジが渋々と渡した矢は5本全てが普通の矢になっている。

 どうやら少しは反省したようだ。


(素直だな……。まぁ、脅迫に感じるかもしれないけど、本当に本人が的になる前に理解してくれたか)


 追加として弓の弦は全てが緩んでいたので〈時間停止〉を使用して店の弓全てを普通に戻しておいた。


 これで公平なゲームになるだろう。

 店のオヤジには悪いが心からザマーと言っておこう。変な小細工をして知らない客からお金を巻き上げようとしたこれはオヤジへの罰だ。


 待ち合わせの場所へと行くと、プルンとリッコは銅像の前に腕組みしながら待っていた。



「あっ! リッコ、来たニャよ」


「遅いわよ! どこで道草食ってるのよ」


 待たせたことに怒っているのかリッコの顔が少し赤い。こちらを向き、ダンッダンッと足を踏み、さっさと来なさいと表現しているのが見えた。


「あはは、ごめんごめん。近くに居たんだけどね、ちょっと遊んでたんだよ」


「ニャッニャッ! 三人だけでズルいニャ! そのせいでウチら大変だったニャよ!」 


「んっ? 何かあったの。何だか機嫌悪そうに見えるけど?」


「フンッ! 待ってる間、知らない男から次々と声かけられてウザかっただけよ」


「そっ、それは災難だったね」


 人も賑わう中、女の子二人が銅像前にジッとしていた為に、ナンパ的な男が近寄ってきたのだろう。


「ニャ、何とか追い返したから平気ニャ。ところで……何ニャ、その武器は?」


 プルンが不思議そうに指さしたのはリックとリッケが未だに持ってくれていた武器の品々。人前ではできるだけアイテムボックスを使わないようにしたので少しの間持ってもらっている。

 獲得した目玉品、それは全体を緑に染め、中央に大きな青い玉をはめ込んだ杖。

 全体が赤く刃が大きな大剣。

 柄は綺麗な模様が入り、波の様な刃の仕上がりのダマスカスナイフ。

 岩をも砕きそうな、握る所から全てを硬い鉄で作り上げたウォーハンマー。


「あ〜、これは遊戯物の景品だよ」


「はぁ〜、遊戯物って……。子供ねアンタ達」


「いや、それがね」


 自分は先程の店に使われていた弓と矢に細工がされていたことを皆に伝えると、リックとリッケは何故自分がここまで店の景品を根こそぎ獲得したのかを納得してくれた。



「ふふっ、あんたに目をつけられたら店も潰れちゃうわね〜」


「でもよく気づきましたね? 矢に細工がされてるなんて」


「これでも元アーチャーだからね。ってか矢は今でも使ってるんだから違和感くらいは感じるよ」


「ふ〜ん。ねぇ、ミツこの杖貸してくんない?」


 リッコがリッケが持ってくれている杖を奪い取ると、ニコッと笑顔のままに自分に景品の杖の貸出を頼んできた。 



「リッコ、お前自分の杖あるんだからいらねえだろ?」


「あんた莫迦ね〜。こんな高品質な杖使うチャンスなんてないでしょ!」


「リック、いいんだよ。別に使うつもりもなかったし」


 自分が持っていてもアイテムボックスの肥やしにしかならないのは目に見えていたので、ならば使いたいならとリッコの言葉に二つ返事に承諾をした。


「ならプルン、あなたもこのナイフ借りときなさいよ」


「あれ? プルン、そう言えばナイフ買いに行ったんじゃなかったの?」


「そうですね? 腰に携えてる訳でも無さそうですけど」


「ニャ〜」


「どうしたの?」


 新しい武器が欲しいと先程武器屋にナイフを買いに行ったはずのプルン。だが何処にも買ってきたナイフを持っていない。

 どうしたのかと詳しく聞くと、プルンは耳をペタンと倒し更には今にも泣きそうな表情に見る見ると変わってしまっていった。

 そんな隣でリッコは悲しそうなプルンと逆にフンスと鼻を鳴らし、怒り口調に理由を説明をしはじめた。


「フンッ、プルンが買おうと思ってたナイフを後から来た客に買われたのよ」


「えっ? どういう事?」


「リッコ、あれは相手が悪かったニャ……」


「何かされたのか? だったら俺達が言って買い取り返してくるぜ!」


「リック、良いニャ良いニャ。貴族が相手じゃリックが危ないニャ」


「なっ! 何で街の武器屋に貴族が来るんだよ」


「知らないわよ! それで店の人も流石に相手が相手だから何も言えなくて、結局買おうと思ってたプルンが選んだナイフを持って行かれたのよ」


「そうだったんだ、タイミングと言うか運が悪かったね……」


「ニャ〜」


「だ〜か〜ら! ミツ、そのナイフプルンに貸してあげなさい!」


「うん、良いよ。寧ろこれはプルンにあげるよ」


 リッケからダマスカスナイフを受け取ると、はいっとプルンの手に渡した。


「ニャ! 本当にいいニャ? ミツも使いたかったんじゃなかったニャ?」


 自分の思わぬ言葉と行動にプルンは驚きに目を丸くして耳をピンッとたててきた。


「いや、自分にはスキルの風刀があるし。元々あの店の人を懲らしめるためにやっただけだから武器が目的って訳じゃ無いからね。あとリッコも使うならその杖あげるよ」


「えっ、ほんとに! 本当にいいの!? やった! ミツありがとう!」


「ありがとうニャ!」


 二人は思わぬプレゼントに受け取った武器をギュッと抱きしめ喜んでいた。

 しかし、この世界だから喜ばれるのだろうか、ナイフや杖を渡して喜ぶ女の子の二人を見ると、自分はあははと乾いた笑いをだしていた。



「おーおー、怒ってたと思えばもう笑ってやがる」


「しっ、リック。また機嫌悪くなりますからそこは黙ってて下さいよ」


「それじゃ洞窟に戻ろう……んっ」


「どうしたニャ?」


「あっ、ごめん皆、少し待っててね」


「どうしたのかしら?」


「また出店の方に行ってしまいましたね」


「ニャ?」


 自分は一つの出店を見ると、皆に言葉を残しその店へと駆けだしていった。




(雑貨屋かな……)


「いらっしゃいお客さん! どうです、バリンタンの名物品ですよ」


 出店の方へと駆け寄ってくる自分を見て店のお姉さんはお客が来たと元気に声をかけてきた。



「へ〜、名物品ですか……。ところでバリンタンってどこですか?」


「あらら。バリンタンの街はここから西の方に行ったところにあるわよ。ここみたいに大きい街じゃないけど」


「そうなんですね。木々が豊富なんですか?」


「あら、良くわかったわね? そうなのよ。これとか森に住む生き物に似せて作ったの、どう? うまく作られてるでしょ」


 店のお姉さんは木でできた木彫りの動物を手にのせて見せてきた。それは今にも駆け出しそうな馬、翼を大きく広げた鳥、または口を大きく開けた狼だ。


(木彫りと言えば熊だけど、ここには無いみたいだな)


「おー、上手く作られてますね。ところでこちらの品なんですけど」


 自分が指をさしたのはポツポツと穴の空いた卵状の丸い彫り物だ。


「こっち? これはね〜ここの穴から空気を吹き込むと音が鳴るの」


「あーなるほど」


 編み籠に入った大小様々な卵見たいな物。

 お姉さんは1つそれを手に取り、上からふーっと空気を吹き込むとピーっと音を鳴らした。

 

(やっぱり笛か。って言うかオカリナかな?卵見たいな形だけど)


「面白いでしょ。私の祖父が作った力作なのよ」


「いいですね。では、それ下さい」


「はい、ありがとうございます!」


 卵笛と一緒に先程お姉さんが見せてきた木彫りの動物三体を一緒に買うことに。

 これは教会に帰ったらプルンの弟妹であるミミ達のプレゼントとしてあげよう。


「皆おまたせ」


「おう、早かったな」


「ミツ何買ってたニャ?」


「ん? ふっふっふっ」


 プルンの言葉に自分は洞窟で試す新しいスキルを考えると、沸々と笑いがこみ上げてきた。


「なっ、何よ。また私達を驚かせる気なの」


「ん〜、そんな事ないよ〜。くっくっくっ」


 スキルの一番のターゲットであるリッコを見ると、自分の笑いを怪しんだのか若干身体を引いて身構えている。


「何か企んでますねこれは」


「まー後で解ることだろ。早く洞窟に戻ろうぜ」


「そうだね」


 皆は目的の物を買い終わったので気を引き締め直し、また洞窟の6階層のセーフエリアえと戻るために人気の無い路地裏に入る。

 自分は〈トリップゲート〉を発動させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る