第51話 道中に見つけた悲しい道


 洞窟の5階層を進んでいた。


 先頭を進む自分の後ろからは、時折リティーナと話す自分をジト目にて見つめる二人の視線があった。



「「……ジトッー」」


(はぁ、なんか視線が痛い……)


 リティーナと自分が話している内容はそんな色恋な内容とは程遠いい。

 弓の扱いのコツや、リティーナ自身扱う剣術の質問等などと、更には時折二人の会話にはゲイツも時々会話の中に参加しているのだ。


 そんな会話をしながらも、敵となる標的が近づけば談話の様な会話は止まり、ユイシスの言葉を聞いた後はそのまま迫り来るモンスターの数をゲイツとリティーナへの伝え、直ぐに手に持つ剣を握り直し戦闘態勢を取っていた。



「行きますよリティーナ様」


「ええ、よろしくてよ!」


「緊張はしてませんか? 少しでも不安なら深呼吸してみて下さいね」


 目を開き微笑むリティーナ。

 コクリと頷くのを確認した自分はゲイツの方も確認した後、前を向き駆け出した。


「行きます!」


 現れたのは数体のスモールオーク。

 剣や石斧を持った3体、その後方数メートル後ろにまた別のスモールオークが潜んで隠れている事が解った。

 その中の数体は弓を構えて此方を狙っているので明らかに前に出ている3体を囮として使うつもりだろう。


「奥にも敵はいますね。自分が片付けますので、リティーナ様は目の前の敵に集中して下さい。ゲイツさん、すみませんが少しだけ離れます」


「えっ!? あっ、はい!」


「解った!」


 リティーナに一言簡単ではあるが作戦を告げると一気に走るスピードを上げる。

 後方からゲイツと前衛冒険者の二人が付いてきているのでリティーナを孤立させる事は無いので安心できる。


 フゴッフゴッ! ブゴッ!


 自分が向かってくる3体のスモールオークとの剣がぶつかり合おうとしたその時。

 自分は自身の小柄な身体を更に縮め、目の前のスモールオークの視線から一瞬姿を消した。


 フゴッ!? ブモッ! ブヒッ!


 先頭を走ってくる1体にはあえて攻撃は何もせず、その後ろを付いてきていた2体に対しては懐に潜り込み、心臓があると思われる胸の中心に向かって〈デスブロー〉を発動した。

 この〈デスブロー〉。初めて試すスキルともあって手加減など解る訳が無い。

 

 自分の突き出した拳はスモールオークの身体を突き抜け心臓を一突き。

 それに驚いたが素早くその腕を引き抜き、同じ様に隣のもう1体に同じく〈デスブロー〉で仕留める。


 その際心臓が無くなったとしても数秒は生きているのは理解している自分は〈時間停止〉を発動後〈スティール〉にてスモールオークのスキルを頂くことにした


《スキル〈獣の目〉を習得しました〈罠仕掛けLv6〉〈罠解除Lv3〉となりました》



獣の目


・種別:アクティブ


暗闇の中を鮮明に見通す事ができる。



 突如として目の前から消えた人間に驚く先頭を走っていたスモールオーク。

 更には仲間の悲鳴と共に後ろを振り向くが、その目に映るのは仲間が倒れゆく姿。

 仲間は後方に気づいていないのか、奥の方へと既に走り行くのだった。


 唖然と呆然と愕然と。

 スモールオークの頭の中はいきなりの出来事に混乱状態でその動きを止めてしまっていた。


 そこにすぐ様駆け寄ってきたリティーナ。


 リティーナ自身突然の事で多少動揺はしたが、自身が倒すべき敵は目の前にいる事もあって、感情を押し込め、手に持つ剣の力は緩める事も無くスモールオークへとその足を進めていた。


 スモールオークが自分の方である後方を見て、リティーナの方から目線を外している隙をつき、大きく振り上げた剣を真っ直ぐにスモールオークへと振り下ろした。


 リティーナの攻撃は運悪くスモールオークを致命傷とまでは行かず、分厚い背筋を切り裂く程度になってしまっていた。


(あれなら大丈夫かな……)


 自分は後方に残した1体のスモールオークが、リティーナの剣の一太刀を受け怯み、既にゲイツ達も含め1体を囲んでいる事を確認していた。



(早速獣の目とやらを試してみよう)


 先程スモールオークから手に入れた〈獣の目〉を発動する。

 その瞬間、薄暗かった洞窟内での視界は晴れ、壁に張り付いた苔が取れたと思う程に視界が明るくなった。


(おっ、これは便利! レベルが上がればもっと明るく見えるのかな)


《ミツ、獣の目は他のスキルの鷹の目や小鳥の目とは違い、アクティブ種のスキルとなります。使用時にはスキル使用をイメージして下さい》


(わかったよユイシス)


 後々に何故この獣の目だけがアクティブ種なのかを考えたが直ぐに理解できた。

 理由は簡単。

 随時発動中のパッシブ状態であると昼間は明る過ぎて自身の眼を痛め、寝る時には明るすぎて睡眠を妨げるからだと。


 岩陰に隠れた数体の弓を持つスモールオークを見つけると、アイテムボックスからスケルトンから頂いた槍を取り出す。


 ブモッ! ブモッブモッ!


 自身の方に猛スピードで近寄る姿を見たスモールオーク。

 モンスターは焦りながらも手に持つ弓を構え矢を放つ。


 その際、遠目ながらも鏃の先端にベタリと何かを塗るスモールオークが見えていた。



「また毒付きの矢かな。全く、その毒は何処から持ってきたんだよ」


 ボソリと愚痴の様な言葉を発しながらも放たれた矢を一つ一つ避け。

 また、槍の尾の部分で飛んできた矢を弾き落とした。


 ブモッー!



(考えたら槍のスキルって全然ないよな。もっとスケルトンと戦ってたらあったのかも。取りあえず相手のスキルを貰ってからのスキル試しかな)


 そう考えながらも攻撃の範囲内にスモールオークを入れると、先にスモールオークからスキルを盗み取り、攻撃となる次の手を出した。



(スティール!)


《スキル〈矢製作〉を習得しました、経験により〈獣の目Lv2〉〈罠解除Lv4〉となりました》



矢製作


・種別:パッシブ


矢を製作出来るようになる、レベルに応じて製作できる種類が増えていく。



 スキルを貰って攻撃に切り返し。

 槍を構え通常攻撃の際に発動した〈連撃〉後に〈二段突き〉を使用し、スモールオークへと攻撃のコンボを繰り出した。

 しかし、これも初めて使うスキルだけに力の加減を間違えたのか。

 また、武器が槍だけに無意識にスキルの〈刺す〉を使用してしまい、スモールオークの胴体に2つの風穴を開け、スモールオークはそのまま突かれた勢いで壁にビタンッと張り付き、壁に血の花をつけた状態にて即死の亡骸状態となってしまったのだ。


(あっ……やっちゃった……。まぁ~、スキルは奪い取った後だしいっか)


 その戦闘を横で見ていた他のスモールオーク。

 恐怖に怖気づいたか、手に持つ武器を捨て、我一目散とその場から逃げ出すように洞窟の奥の方へと走りだしていた。


 そんな事はさせる訳もなく、先にスキルを奪い取り。

 その後、スモールオークが捨てた武器の矢と石斧を拾い上げ、逃げ出すスモールオークへと〈投刀〉と〈投擲〉を使用し投げつけた。

 投げた石斧は1体のスモールオークの頭に命中。

 石斧は頭を貫通しまたもや即死の亡骸状態となり、投げた矢はもう1体へ。

 その矢を受けたスモールオークは矢を受けたとは思えない程の、その胴体に握り拳程の大きさの穴を開けていた。


 ブモモッ!


 激しい衝撃に断末魔と共に転げ倒れるスモールオーク。

 鑑定すると此方も亡骸と表示された事を確認した後は、直ぐに倒したスモールオークの3体をアイテムボックスに収納、そして〈ウォーターボール〉を出してざっと手を洗い流す。


《経験により〈罠仕掛けLv7〉〈罠解除Lv5〉〈獣の目Lv3〉〈矢製作Lv2〉となりました》


「ふー……。さてと」


 自分はその場から踵を返し、まだ続いているであろう戦闘に架戦する為にとリティーナの方へと急ぎ戻った。



「はっあぁぁぁ!」


 フギャ!


 気合と共にスモールオークへと切り込むリティーナ。

 敵の不意を付けた事もあって自分がその姿を見た時には、戦闘自体を見ると苦戦することはなかった様に見えた


「リティーナ様! 敵の足を止めます、透かさず攻撃を!」


 奥に潜むスモールオークを討伐に行ったミツの声。

 その声が聞こえると同時に、目の前のスモールオークから突然悲鳴と思われる叫び声が聞こえた


 ピッギャーーブッ!


 ドシンと両膝を付くスモールオーク。

 両手を地面に置き、頭を下げてまるで土下座の様な格好になっている。

 リティーナは下がったスモールオークの頭後頭部隆起に剣を突き刺してトドメをさした。


 奇襲とミツの助太刀もあったとは言え、リティーナは何とかゲイツ達の助太刀も無く、ソロでの討伐に成功した。

 ホッとため息混じりに息を整え、スモールオークの頭に突き刺した自身の剣を引き抜く。


 倒したスモールオークの足には二本の矢が刺さっており、リティーナは改めてミツの弓の腕前に関心を抱いていた。


「リティーナ様、お見事ですね」


「ありがとうミツさん。貴方のサポートのおかげよ。ところで、奥にいたモンスターは?」


「大丈夫ですよ。数も少なかったので直ぐに終わりました」


「……そう。流石ですわね」


(お嬢が1体のモンスターを倒す間に、彼は数体のモンスターを……)


 そう思いながらも目の前に倒されたスモールオークをアイテムボックスへと収納するミツを見るゲイツ。



 そんな戦いを続け進めると、自分の〈マップ〉の地図に違和感のある部屋が表示されていた。


(何だこれ? マップだと通路が表示されてるのに目の前には道がない?)


 それは次の階層へと進む為と一番近い道を探している時に見つけた場所であった。

 通路を進む際に次のフロアに出る手前で自分はその足を止めた。


 

《ミツ、その道は誰かの手によって塞がれた道です》


(人の手で塞がれた?)


 ユイシスの言葉の後、違和感のある壁を手探りし始める。


「どうされましたミツさん?」


「……んっ?」


「いえ、この壁他の場所と比べたら何か変だなと」


「えっ?」


「どれ……。ふむ、確かによく見たら苔で解りづらいが道らしき場所だった形跡があるな」


 ミツが調べていた場所に生えていた苔を自身の持つダガーで削り取るゲイツ。

 その下からは壁であるが、小さな砂や土をを固めて作り出された、違和感のある魔法で無理やり作られた壁が出てきた。


「……こっ、これ……。アースウォールで作られた壁……かも」


 ゲイツの言葉に後衛にいたルミタとリッコが壁を調べ始めた。


「そうね。もう固まっちゃって魔力は感じないけど、これは確かに土壁だわ」


「でも、魔法で作られたなら消えるんじゃないのか?」


「確かに火壁や氷壁は時間が立つと消えるわよ。でも土壁は別。魔力で作られた氷や火じゃなく周りの土を盛り上げたりして作るから物は残るのよ。勿論解除するには魔力が必要みたいだけど」


(確かに、シャワーとして作り出した時もプルンとリッコの寝る場所に作り出したアースウォールの壁を消す時にMPを使ったかも……使うMPが少なすぎて気にもしてなかった)


「お前、土壁使えねえくせによく知ってるな?」


「フンッ、あんたと違って私は使わない魔術も一応勉強してるのよ」


「お~、そうですかそうなんですか。リッコさんは凄いですねー」


 リッコの言葉に流す様に言葉を返すリックだった。


「ゲイツの旦那、どうしますか? 俺達も今まで気づかなかった場所だけに危険もありますぜ」


 前衛冒険者の言葉を聞いたゲイツは自分へと視線を送り、彼は意見を求めてきた。


「……ミツ、この先何があると思う?」


「ん~、部屋が一つあるだけかと」


「そうか……。誰かアースウォールの土壁が使える奴は居るか」


「わっ……私……使えます……」


「旦那? 開けるんですか」


「あぁ、人が意図的に塞いだ場所だと思われる場所だ。不適物があるかもしれん。それに若しくは……」


「ゲイツ?」


「いえ、お嬢すみませんが寄り道をします事をお許しを」


「ええ、構わないわよ」


「いっ……行きます」


 ルミタが魔力を込め、目の前の土壁を崩すかのようにゆっくりとその形を壊していく土の壁。

 予想道理に壁の向こう側にはまだ通路があり、その姿を明らかとした


「手前だけに土壁をしていたのか」


「罠はなさそうですね……。でも……」


「やはりか……」


「ゲイツ、何がありましたの?」


 スキルを使用しその通路とその先のフロアとなる小さな部屋を調べる。

 罠や危険性は無いが、その奥には人影となる形の物が壁を背に座り込んでいた。



「お嬢はこちらでお待ちを、お前らはお嬢を守っていてくれ。ミツは来れるか」


「はい……」


 ゲイツの言葉に自分と前衛の二人が通路先へと進む。


「こっ、こいつは酷えぜ……」


「旦那……」


「あぁ……。恐らく冒険者だろうな……モンスターから逃げる為にここに入り込んだのだろう……。既に死んでいる」


「装備品からして女性ですかね……。スモールオークから逃げ延びる為でしょうか」


「かもしれん」


 ゲイツは壁に横たわる冒険者と思われる亡骸に手を伸ばし、ゴトリと落ちそうになる体を支えながらゆっくりと地面へと寝かせていた。

 

 フロアの中には数人の冒険者の亡骸があった。

 通路を閉じていた事もあってか亡骸の状態はモンスターに荒らされる事も無く、状態を維持してそのまま命を止めていた。


「旦那、冒険者カードありました……アイアンランクカード3枚です」


 前衛冒険者の一人が亡骸の女性冒険者の首の紐を手繰り寄せ、冒険者カードを一枚づつ回収し、それをゲイツへと手渡していた。



「解った、それだけ持っていくぞ。火の魔法を使える奴を呼んで来い。この者を燃やして行く」


「へい……」


 返事をした前衛冒険者が魔術士を呼びにリティーナ達がいる通路へと戻った時だった。


「……ゲイツさん」


「どうした」


「いえ、その……。この人達を連れ出すことは駄目でしょうか……せっかく見つけ出したのですから外に出してあげては」


「坊主……」


 自分は目の前で死んでしまっている女性冒険者達を見て思った。

 冒険者としてここに来たのはいいが何かしらのトラブルでこうなってしまっている。

 冒険者として悔しいだろうし、女性としても怖かったろう。

 最後の抵抗と土壁を作ったものの、それによって帰る事も出来ずに死んでしまった悔しさ。

 できることならモンスターがいる様なこんな場所よりかは外で埋葬してあげようと。


 しかし、ゲイツの返す言葉は思わぬ言葉だった。


「……なぜ。今そう思う」


「えっ?」


「お前はアイテムボックスを所持している事は知っている。それを使えばその死体も持ち出すことも可能だろう。なら何故その言葉を4階層で死んだ者の前で言わなかった」


「そっ、それは……すみません……」


(確かに、何で自分はあの時言わなかったんだろう……。この人の言う事も確かだ)


「だっ、旦那。4階で死んだ奴らは燃やした後にスケルトンにならない様に骨は全て砕いたじゃないですか。目の前の奴らとは状況も違いますぜ」


「ならばこの者も燃やした後に骨を砕けば同じだろう」


「……旦那」


 ゲイツの言葉にミツと前衛冒険者は言葉が出なかった。


「ゲイツ。その方達を運び出す準備をしなさい」


「お嬢……」


「リティーナ様」


 振り返ると、先程火魔法を扱える魔術士を呼びに戻った前衛冒険者とは別に通路入り口で待機している筈のリティーナ達がそこにはいた。


「ここを見つけ出したのはミツさんよ。彼が見つけなければその人達はこの先も誰も見つからないままだったかもしれないのですから、これも何かの縁です。一緒に外へ連れてってあげましょう」


「旦那……すまねぇ。事情を説明したらお嬢様がどうしても見届けるって言うもんだから」


「いや……解った。すまん……。お前らの言う通り先程とは確かに状況もこの者達の状態も違うようだ」


「旦那っ、なら!」


「あぁ、もたもたするな! 豚共が感づく前にここから運び出す準備をするぞ!」


「ありがとうございます、ゲイツさん!」


 フッと鼻息混じりのため息をしたゲイツは何も言わず、ポンッと自分の頭に手をのせていた。


 その後、状況を確認する為と皆を一度フロアに集め、作業を行う間の入り口を守る者と、三人の亡骸を運び出す準備をする為と動き出した面々。



「リティーナ様、色々とありがとうございます」


「いえ、これくらい構いませんわ」


「装備品と遺体を分けるな、一緒に入れておけ」


「今まで辛かったろうに、こんな処に怯えながら死んじまったんだろうな」


「おい、気持ちは解るが先に包むぞい」


「あぁ……」


 三人の亡骸はそのままミツのアイテムボックスに収納はせず、リティーナパーティーの居なくなった四人が使う予定であった寝る時の革布を広げ、各々を一枚一人を包む為にとリティーナが役立ててくれと言ってくれた物だ。

 革布で個別に包む際近くにあった武器や装飾品等を一緒にいれる事にした。



「プルン、そっちを持ってくれ」


「解ったニャ、そっと持ち上げるニャ」


「リッコ、これも一緒に入れてください。恐らくこの人の物だと思われます」


「ええ、髪飾りね……解ったわ」


「……」


「どうしたの……」


「この人……魔術士……」


「えぇ、この人が最後の力を出して土壁を出したのでしょうね……」


「モンスターに捕まるくらいなら仲間だけで死を選んだのよ」


「わっ……私も、魔術士……。でも、この人の……心が強い。私も同じ立場になったら……同じ事できるか……解らない……」


「ルミタ……」


 重苦しい空気の中、皆は死んでしまった冒険者を貴重品を扱うかの様に布に包んでいく。

 そして、それぞれの思いを込め、三人を革布に包み終わったのだ。


 自分のアイテムボックスに三人の冒険者を収納後。


「この場所は豚共に使われるかもしれんな、塞ぐぞ」


「……解った、また……壁作っとく」


 元の通路へと戻ったゲイツは先程のフロアをスモールオークが罠に使うと考え塞ぐことを提案し、その言葉にルミタは先程消した〈アースウォール〉の土壁を作り出した。


 ガリガリ


 ルミタの作り出した〈アースウォール〉の土壁に自身の持つダガーで壁に文字を書き出したゲイツ。



「ゲイツさん何を?」


「あぁ、他の者があけてしまうかもしれんからな。こうやって壁に印を書いとくんだ」



 ※この通路先何も無し、開ける事なかれ。

 モンスターの悪用防止の為ここを土壁にて塞ぐ。

 冒険者ゲイツ。



「よし、先に進むぞ」



 皆の気持ちを持ち直す為か、ゲイツは声を上げ歩き始めた。





(スティール!)


《経験により〈罠仕掛けLv8〉〈獣の目Lv4〉〈矢製作Lv3〉となりました》


 プギャー! ブヒッ!


「リティーナ様!」


「たあぁぁッ!」


「よし! この先を進めば6階層のあるセーフエリアだ。皆油断せずに進むぞ!」


「「おおっ!」」


 先へと進む程に、現れるスモールオークの数は減っていき、戦闘での怪我人も減っていた。


「リティーナ様達は直ぐに外に戻られるんですか?」


「いえ、私達は6階層のセーフエリア近くでモンスターとの戦闘訓練を行います。直ぐに外には出る事はいたしませんわ。ただ、前衛が減ってしまった分予定を変えなければいけませんが」


「そうですよね」


 リティーナのパーティーは4階層にてミツ達と合流する前、スケルトンメイジとゲイツ達は気づいては居なかったがリッチの魔法攻撃でパーティーの前衛の数名が殺されているのだ。

 その為今は臨時と言うかミツいわく偶然同じ道を通り偶然同じ敵を倒して進んでいる。



「ミツ、お前達は先に進むのか?」


「そうですね。次の8階層のセーフエリアまでは頑張ってみようかと」


「そうか、ならば良いが……」


「んっ? 何故です?」


 ゲイツは手を顎に当て、考え節に自分の質問に答えている。



「……ミツ、確かにお前達の戦闘技量があれば8階層までは行けるだろう。しかし、その先にはけして行くな」


「その先と言うと、9階層ですか?」


「そうだ。この悟りの洞くつに出てくるモンスターは基本単体ならばウッドからアイアンまでの危険度しか出現することは無い。だが9階層と最下層はモンスターの桁が違う。お前達が力に自信があったとしても、けして5人だけで行くな」


「はっ、はい! 解りました、覚えときます!」


 厳しく忠告するゲイツの顔は何時もより3割増しに恐顔。その為に自分は背筋を伸ばし直ぐに返答を返した。



《ミツ、その先モンスターが数体居ます。その場に居るモンスターはかなりの力を持つので注意して下さい》


(えっ? スモールオークじゃないの?)


《違います、スモールオークとは異なるモンスターです》


「んっ、どうした?」


「皆さん、この先の下へ進む道へ行く前のフロアにモンスターが居ます。スモールオークとは違う感じです」


「この先にか……よし。ミツ、俺と一緒に来てくれ。お前らはお嬢の守りを頼む」


「おう」


 ゲイツと自分はゆっくりと、そして慎重に通路を進みフロアの入り口に差し掛かると二人は壁に背を当て中を覗きこんだ。



「何かいますね……」


「……なっ!」


「あれは……スモールと言うか普通のオークでしょうか?」


 自分が見たモンスター。

 それはスキルの〈獣の目〉を使用して姿を見ても黒い体毛に覆われ何とかその姿を見る事ができた。

 その黒いモンスターは巨大な体故に近くにいる別のモンスターが小さく見える程だ。



「あれはデビルオークだ……。そして周りにいるのはハイオークだ」


「あれがデビルオークとハイオークですか」


 何かを貪り食う仕草をしているデビルオークとハイオークを鑑定してみた。




ハイオーク

Lv35

正拳突き Lv2。

力溜め  Lv2。



デビルオーク

Lv50

ラッシュパンチ Lv5。

岩盤落し    Lv5。

打撃強化    Lv7。

打撃耐性    Lv7。



「ありえん……あんなのがこの洞窟に居るなんて」


 ブゴッ、フゴッ……。 フゴオォォぉぉ!


 ゴオォー! ゴオォー!


 デビルオークとハイオーク数体の様子を見ていると、突然デビルオークの大きな鼻が上を向き、フゴっフゴっっと周囲の匂いを嗅ぎだした。

 そして、耳を塞ぎたくなるほどのけたたましい鳴き声を突如と上げ、それに釣られるかのように近くのハイオークも声を上げだしたのだ。


「いかん!」


「えっ、バレた!? 何で!」


「鼻だ! あいつらは鼻がかなり効くんだ! 恐らく俺達に付いたお嬢達の女の匂いに感づいたんだ!」


 ブオォォー! ゴオォォー!


 デビルオークの鳴き声の後、ハイオークは巨大なデビルオークとは違い、体は背丈は2メートルを超える程だが足の速さはデビルオーク以上。

 その足をドスドスと地面を鳴らし、次々とゲイツと自分の方へと襲いかかってきた。

 


「ゲイツさん!」


「チッ! 戦いながら引くぞミツ! あれはまともに戦う相手ではない!」


 駆け寄ってくる先頭のハイオークに剣を振り下ろし多少であるがハイオーク達の動きを止めた。

 これはゲイツがハイオークの先手を取る事ができたと言う事でもあり、例えゲイツであっても数体のハイオークを一度に相手をするのは不利なだけに、相手の進行を一時的とは止めたことはその場を離れるチャンスを作った事でもあった。

 しかし、ゲイツと自分がその場を離れようとしたその時。


「ゲイツ!」


「旦那!」


「いかん! お前ら此方へ来るな! 戻れ! 戻れ!」


「ハッ、ハイオーク! なんでこんな所に!」


「何ニャ! 何ニャあのデカイのは!」


「何であんなのがいるのよ!」


 デビルオークとハイオークの声は当たり前だが通路で二人を待っていたリティーナ達にも聞こえていた。

 リティーナ達は一度はその場から離れようとしたが、先を確認しに行った二人を心配と、一同を連れて進んで来てしまったのだ。



「いかん! 魔術士達、全力で魔法で壁を作れ!」


「えっ!? あっ、ファイャーウォール!」


「アッ、アースウォール!」


「アイスウォール!」


 ゲイツの言葉にリッコを含む魔術士三人が咄嗟にゲイツと自分の前に魔法で壁を発生させた。


 その効果もあってか突進してくるハイオーク数体は壁に衝突し、モンスターからの突撃を回避する事はできた。


「おりゃああぁぁ! ミツ!」 


「大丈夫です!」


(スティール!)


《スキル〈正拳突き〉〈力溜め〉を習得しました》



正拳突き

アクティブ

力を込めた拳を突き出し相手へと攻撃する、レベルが上がると威力が増す。



力溜め

アクティブ

力を溜め次の攻撃に威力が加算される、レベルが上がると溜める時間が短縮され威力が増す。



「よし、今のうちに引くぞ。魔術士は皆が通路に入った後もう一度入り口を壁で塞げ! あいつらの進行を止めるんだ!」



 ヴブァーァァアア!



「だっ旦那! 上だ!」


「なんだと!」


「モンスターがよじ登ってきたニャ!」


「いや違う、あのデカイ奴がハイオークを投げやがったんだ!」


「そんなのありかよ!」


「来るぞ、武器を構えろ! こうなったら各個撃破に移る。魔術士はそのまま壁を維持! 前衛は壁を超えてきたハイオークを斬り伏せろ!」


「「「「おおおおぉぉ」」」」


 既に2体、3体目のハイオークがデビルオークに投げられ、その勢いのまま火壁を通り越し、重なった氷壁と土壁へと張り付きその壁を超えてきていたのだ。


「あんなの有りなの! 私の火壁完全に無視じゃない!」


「いや、無視できないからこそ投げているんだ! 元々ハイオークは火に強い。しかし、お前の火壁は明らかに威力が高いのは解る。あいつらも火の耐性はあっても食らいたくないからこそのあの馬鹿げた事をしてるんだ!」


「そうだぜ! それに若干でもあの火壁を通り越す時にはダメージは与えてるんだからよ、頼むから消さないでくれよな」


「わっ、解った!」


「魔術士はそのまま壁の維持、お嬢は俺の後ろに。荷物運びの三人は通路にゆっくりで構わん、敵の注意を引かぬように戻れ、前衛の数名は通路入り口を守りつつ三人を守り回れ。弓を持つ者は登って来た奴を狙撃落とせ、落下時を順番に俺達が仕留める。三人の治療士は一人づつ個別に付け怪我人が出た際は各自の判断で動け!」


「「「おおぉぉ!」」」


 ゲイツの迅速な判断と指示、倒したハイオークを挟んでゲイツとミツとゼリ達のいる3分けの配置となっていた。


「プルンは側に来て! リックはリッコとリッケの二人の前に!」


「ニャ!」


「おう!」



「皆! ハイオークは壁を超える事はできてもデビルオークはあの巨体。壁を超えることはできん。ハイオークの攻撃が止まりしだい躊躇わず撤退する!」


「ミツ来たニャ!」


「行くよプルン!」


 壁を乗り越えた1体のハイオーク。

 その姿は火壁の影響だろうか若干ではあるがその姿にダメージはあるものの、それを気にしないと氷壁から飛び降り、自分とプルンの前に立つと大きな両手を振り上げそれを左右と自分へと振り下ろした。

 ハイオークの大きな拳は自分へと向かうが、振り下ろされた右拳を左に流し、また左拳を右へと払いのけた。

 勢いよく振り下げた拳の勢いもあり、体を膝から崩すハイオーク。

 自然と下がる大きな顔、そのままハイオークの左拳を流し自身の体を右へと回転させながら勢いをつけ、右肘に力を込めながら下がったハイオークの顔面へと肘鉄を一撃を入れた。

 スキルでも無い通常の攻撃であっても、今の自分の攻撃は鉄球を顔面に食らわされた程の威力を持っている。


 凹むハイオークの顔面。

 攻撃を食らいそれによろめく足。


(スティール!)


《〈力溜め〉を習得しました、経験により〈力溜めLv2〉となりました》



 攻撃を横で見ていたプルン。

 自分の攻撃後間髪開けずにと、ハイオークの胴体へとスキルを込めた攻撃を入れる。

 ドシンと音と共に、ハイオークを倒す事ができた。


「次ニャ!」


 他の戦闘は。

 壁を超えたハイオークを壁から身を乗り出した瞬間をゼリの放った矢が襲い、壁の上から下まで一気に落ちていき。そしてリティーナと前衛冒険者は空かさず落下したハイオークへと剣を突き刺しトドメを刺すと言う先手の攻撃を仕掛けていた。


 突然の戦場で混乱気味だったリティーナパーティーの面々もハイオークを次々と倒して行くと皆は戦闘中であるが何とか心を落ち着かせた。


 前衛は前衛、後衛は後衛と、自身の本来の戦いを行ない、パーティーでも被害を出す事なくゲイツの予定道理に何時でも撤退出来るように皆は身構えてもいた



「よし、残り数体だ、倒した後は魔法の壁を残しつつ通路に戻る。皆撤退するぞ!」


「おうっ!」



 ……グルルッ ギリッギリッ


 獣の唸る声と歯ぎしりをする音と共に冒険者を睨みつけるデビルオーク。


 そして自身のその重い体をドシドシと動かし走り出したその時だった。



 ドッカッ! ドッカッ!


 巨大な体を丸めリッコ達魔術士が出した火壁と土壁と氷壁の3枚の壁に向かって体当たりをし始めたのだ。


「いかん! 奴め壁を崩し始めたぞ!」


 フゴオォォぉ! ドッカッ!



「何よ! 私の火壁完全無視なの!?」


 リッコの出した火壁〈ファイャーウォール〉はそのまま見た通り火の壁である。

 物理的な壁ではないので火の耐性の高いデビルオークには、リッコの全力の火壁もダメージ的に効果はいまひとつの様だった。

 そうなってしまうとダメージを与える為ではなくただの壁である為に作られた土壁と氷壁はデビルオークにとっては邪魔な壁でしかない。

 デビルオークは体当たりを1回また1回と繰り返す度に土壁と氷壁にはき裂が入っていき。



 フンゴォオオオ!  ドカーン


 洞窟内が揺れる程の太い声を上げルト同時に壁へと体当たりをしたデビルオーク。

 それと同時に三人の魔術士が作り出した壁は崩壊した。

 リッコの火壁は霧散し、ルミタともう一人の魔術士が出した土壁と氷壁は粉々になりながらもデビルオークの体当たりの勢いを受け周囲へと爆散したのだ。


 その時だった。

 破裂し周囲へと飛んだ壁の一部が、リティーナへと向かって勢い良く飛んで行ったのだ。


「ひっ!」


 壁の崩壊とその向こう側から現れた巨大なデビルオークに驚き動きを止めたリティーナ。

 そんなリティーナを守る為と前に出ていたゲイツが、咄嗟にリティーナを爆散する土や氷の塊から守る為にと覆いかぶさる形を取った。



「お嬢!」


「ゲイツ!」


 散乱とする壁の一部一部がゲイツとリティーナ2人だけではなくリック達やゼナ達へと襲っていた。


「二人とも頭を下げろ!」


「リック!」


「きゃあぁぁぁ!」


 リックは左手に持つ盾を自身の頭を守り。

 後ろにいるリッケとリッコを守る為にと自身の鎧を着込んだ体を二人の盾にと、槍を捨てその分右手を広げ、自身の体を持って飛んでくる氷や土の塊を受けていた。



 幸いな事はゼリ達の居る場所は身を隠す場書があった為、後方にいたゼリを含む者達にはそれ程の被害は出なかった事だろう。



「プルン、大丈夫かい!」


「ニャ! だっ大丈夫ニャ、ありがとうニャ、ミツ」


 自分は壁が崩壊と同時に近くに居たプルンを抱き抱え、その場から瞬時に退避する事ができ飛んでくる土や氷の塊を回避する事ができていた。


 抱えたプルンをゆっくりと下ろした後に周囲を確認する。


 土壁を無理矢理に崩壊させたせいもあってか周囲は砂煙で直ぐには確認できなかった。



「ゲイツ! ゲイツ! 起きてゲイツ!」


 そんな時。

 土煙の中、リティーナがゲイツを呼ぶ声が洞窟内に響いてきた。

 微かに晴れた砂煙の中、気を失っているのか、横たわるゲイツを起こす為に耳元で叫ぶリティーナの姿が見えた。

 その横には夥しい血が流れており、ゲイツの負傷が自分は遠目から確認できた。


「いけない!」


「ミツ! リックが!」


「えっ!」


 ゲイツの負傷に気づいた自分は直ぐにその場に駆け出そうとしたその時、リックに何かあったのかとプルンの声の先を見る。


 自分の見た先、それは大量の土や氷の塊を前に砂煙の中倒れているリックの姿であった。

 リック自体、体は前倒し状態の為、自分の居るその場からはリックの姿は解らないが側にいるリッケとリッコの二人の慌てようからして二人を散乱として飛んで来た土や氷の塊から守り、自身に受けたのだろう。



「リッケ早く回復して!」


「リック! しっかりして下さい!」


 前倒れになったリックを仰向けにする二人。

 仰向けとなったリックの姿は鎧はボコボコに、身体のあちこちからの出血があり、リックの着込む鎧は土と血で赤黒く汚れていた。

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