第52話 守る為の選択

「リックしっかりして!」


「リック! リック!」


 弟妹である二人を守る為にと、リックはデビルオークの体当たりで粉砕し周囲に弾け飛んだ壁の破片から自身を盾とし二人を守ったのだ。

 その為、リックは飛んできた土や氷の塊を直接受けてしまう。

 着込む鎧はボコボコに、更には少しでも後ろを守る為と広げた右腕は痛々しい程の傷を受け、かなりの出血を出しており、身に着けた鎧を赤く染めていた。


「リック、起きてください! 起きて!」


 リッケは慌てながらも傷ついたリックに回復をし始めた。


「ゴホッ……ゴホッ……いっ、痛ってて……」


「「リック!」」


「よう……。二人とも大丈夫か……」


「バカ! バカ! 私たち守ってあんたがボロボロじゃない!」


「リック、ありがとう。お陰で僕達はかすり傷程度です。今傷を治してますから動かないで下さい」


「おう、そうか……」


 リッケのその言葉にニヤリと頬を上げるリック。


 身体中に無数の傷を受け血を流していたリックだったが、咄嗟に左手の盾にて自身の頭を守った事に危機的致命傷は避ける事はできたようだった。

 

 遠目でであるがリッケが倒れたリックを治療をし、リック自身の身体は横に倒れてはいるが、動いている事を確認した自分はホッと安堵のため息を漏らす。

 そして、横で慌てているプルンに状況を説明する。



「大丈夫? 本当ニャ!?」


「うん。今リッケが治してるから大丈夫だよ。それに、あっちでも問題あるみたいだし」


「ニャ!」


 自分が見る方をプルンが見るとまだ晴れない土煙の中でリティーナ嬢が治療士を求める声が聞こえて来た。



「お願い誰か! 早く来て!」



 土煙で姿は見えないとはいえ、近くには鼻の効くデビルオークがいる。

 鼻は効くが視覚は駄目なのか、デビルオークは辺りをキョロキョロと見渡しながら声のするリティーナを探していた。


「急がないと。プルン! 君はリッケ達のところへ、肩を貸して通路まで避難して」


「わっ解ったニャ、ミツは!?」


「自分はゲイツさんとリティーナ様を助けて来る」


「気をつけるニャよ!」


「うん。さっ! 行って!」


 自分はプルンの腕を掴むと自身とプルンに支援をかけ直し、いつものおまじないである能力上昇系スキルをかけた。


「んっ……。あっ、ありがとうニャ」


 突然自身の腕を捕まれ頬を染めるプルンだが、それがいつものおまじないだと解るとプルンは一言お礼を残してリッケ達の方へと走り出した。



(さて、あんなデカイのをどうやって倒すか……)


《ミツ、戦闘自体はサポートします。ですが、敵のスキルを戦闘中に発動させると周囲の人々に被害が出ます。戦闘の前に避難を早めに終わらせる事をオススメします》


(早めにと言ってもね……。取りあえずゲイツさん達を助けないと)


 ユイシスのアドバイスを貰い、デビルオークとどのように戦うか考えるうちに、少しずつ周囲の土煙が晴れていくのが見えた。そんな中、人を呼ぶリティーナの声の方をじっと見つめていたデビルオークも見える。


 そして。


「誰かっ……!」


 ブオオオォォォ!


 自身の声をかき消す程の大きな声がリティーナの後から聞こえて来た。


 リティーナは目に涙を浮かべ恐る恐ると振り返ると、そこには黒い毛に覆われ、そしてその巨大な体に合わせたような大きな口。

 正にモンスターと言える程の恐怖が目の前で熱い息を吐きながらリティーナとゲイツへと大きな口を開けていた。


 リティーナはカタカタと恐怖に歯を鳴らし、余りにもの恐怖にリティーナは無意識に漏らしてしまい下半身を濡らしてしまっていた。

 リティーナは気絶しているゲイツに助けを求めるかの様に必死にしがみついていた。



(嫌! 誰か助けて!)


 リティーナの心に死が過り、助けを求める言葉を口に出せず心で叫ぶその時だった。



 ボキッ!


 ブゴオォォ!


 何かをへし折る音の後に、デビルオークはまた洞窟内を揺らすほどの太い声が上がっていた。


 ブッブッボ ブモッブモッ


 しかし、その鳴き声は先程に響かせていた恐怖を感じる声ではなくそれは何か泣き叫ぶ声にも感じた。

 リティーナはその顔を恐る恐ると上げ、後の方へと顔を向けた。



「お前、歯磨きとかしてないだろ。だからこんな簡単に折れるんだよ」


「ミ……ミツさん……」


「大丈夫ですか、リティーナ様!」


 自分はプルンに支援を使うと同時に、勿論自身に対しても能力上昇系スキルを使用している。

 その状態でも十分過ぎる程の移動速度を出すのだが〈電光石火〉のスキルを使用し、その速さと勢いを使い、口を大きく開け今にもリティーナ達を喰い殺そうとしたデビルオークの口に向かって〈正拳突き〉を使用したのだ。

 結果勢いと攻撃するスキル効果もあって、デビルオークの左側の牙は根本からボッキリと折れ、殴った勢いでデビルオークの巨体を転倒させたのだ。


 自分はリティーナの方に笑顔を向け、足を載せていた折れた牙を素早くアイテムボックスへと収納後、デビルオークからの視覚を奪う為にと〈煙幕〉のスキルを発動させた。


「なっ! なんです! なんですの! ミツさん何処! 何処ですか!」


 突如として現れ周囲を見えなくさせた煙幕はリティーナの混乱を再発させてしまい、片腕でゲイツを掴み、もう片方の腕をブンブンと振り回し自分を探していた。


「大丈夫です、自分はここに居ますから落ち着いて」


「っ!」


 振り回す腕をパシッと捕まれ、目の前に自分がいる事に安堵してくれたリティーナ。



「リティーナ様、怪我はありませんか?」


「私は何ともありません。でもゲイツが私を庇って! 早く治療をしなければゲイツが死んでしまうわ!」


「解りました」


「ミツさん、早く治療士を! あぁ、でもこんな何も見えない状態では! でも何で煙が えっえっ? 煙が何で!?」


 少々混乱気味のリティーナ。


「落ち着いて下さいリティーナ様。煙は敵の目を欺く為自分が出しました。ゲイツさんも自分が治しますから安心して下さい」


「えっ、煙がミツさんで。えっ、治すのはゲイツって」


(あらら、相当混乱してるな)


「取りあえず、ゲイツさんを見せてください」


「はっ、はい」


 ゆっくりとゲイツから離れるリティーナ。

 ゲイツを鑑定すると、症状は瀕死とまでは行かなくとも、HPは半分ほど削れ、状態も気絶と表示されていた。


「良かった、気絶されてるだけみたいですね。でも頭を怪我されているので念の為に」


 ゲイツの頭の方へと手を翳し〈ハイヒール〉を唱えた。


「ハイヒール!」 


 その瞬間ゲイツの頭に緑と青の眩い光がおおい、ゲイツの傷は全て治ったのだ。


「よし、怪我が頭だけに心配だったけど何とか治った」


 ゲイツを鑑定すると状態の気絶はそのままだが体力は回復を確認する事ができた。


「あっあっあ……」


「次はこっちかな……。リティーナ様」


 口をパクパクとさせながら、先程目の前で起こった事に驚きを隠しきれていないリティーナ。



「失礼しますよ」


 自分はリティーナの肩に手を乗せると、まだ困惑のリティーナに〈コーティングベール〉を使用して心を落ち着かせた。


そして、自身の先程目の前で起こった事に改めて驚きながらも、リティーナは心を落ち着かせた事で現状を少しづつ把握できてきたようだ。


「あなた、治療の魔法が使えたのですか!?」


「えぇ、多少ですけど。それよりも煙が出ている間に皆の場所に避難しますよ。リティーナ様、動けますか?」


 多少と言うが、使用した〈ハイヒール〉は〈ヒール〉とは違い、中級回復魔法となるので多少治療魔法が使えるからと、治療士なら誰でもホイホイと使える物ではない。

 リティーナは剣術しか身に着けていない為、知識の足りない彼女はその凄さを今ひとつ理解していなかった。


「えぇ、ありがとう、私は大丈夫よ。さっ、ゲイツを連れていきましょう」


「はい! デビルオークが此方に気づく前に行きます」


 リティーナがゲイツを持ち上げ、ゲイツの右腕を自身の肩にかけようとしたが、自分は返事と共に一人でゲイツを肩に抱えた。


「……。 いっ、行きましょう」


「さっ、リティーナ様、此方へ」



 ブモモオォォ!


 ブンッ! ブンッ!


 ゲイツを抱え、皆のいる方へと小走りながらすすむ自分とリティーナ。

 そんな後からはデビルオークが殴られ事に牙を折られ、怒り叫び、目の前に現れた邪魔な煙を払う為とブンブンと腕を振り回していた。

 しかし、スキルの〈煙幕〉は先程の土煙とは違い、それはスキルの煙。

 その為、デビルオークがその大きな腕をブンブンと左右に振り回し風を起こしてもその霧を振り払う事は出来ない。

 煙幕を消すには発動者が意図的に消すか、時間が経過しなければ消える事は無い。


 そんな煙幕の煙を走り抜ける二人。


「リティーナお嬢! 坊主!」


「だっ、旦那!」


 煙を抜けるとそこには、前衛冒険者二人が武器を構え立っていた。

 二人は飛んでくる壁の破片を受けてしまったのかその顔や身体の所々には怪我をして血を流していた。


「あなた達! 良かった、無事でしたのね」


「へいっ、俺らはハイオークの死体に隠れて何とかこの程度に済みました」


「それよりもお嬢様はご無事で!? それと旦那は」


「私は大丈夫です。怪我はありません。 でも、ゲイツは私を守る為にと飛んでくる壁の一部を受けて……」 


「旦那! 旦那、しっかりしてくれ! 直ぐに治療してもらうからな!」


「坊主、すまなかったな。後は俺達が変わるぜ。急ぐぞ、早く治療してもらわねぇとゲイツの旦那が危ねえ!」


「おうっ!」


「あっ、ゲイツさんの傷なら……」


 ゲイツの傷は自分の治癒魔法で今は完全に塞がりHPも回復している状態である。

 出血した血はそのままにしている為、それを見た前衛冒険者は自分の言葉を聞く事なくゲイツを受け取ると急ぎ通路の方へと行ってしまったのだ。



「ミツさん。話は後、取りあえず皆の処へ急ぎましょう!」


「そっ、そうですね」


 リティーナの言葉を聞き入れ、皆の居る通路へと駆け出した。その進む途中リッケとプルンの二人がリックの両手を肩に回し避難している後ろ姿が見える。


「リティーナ様、先に行ってください」


「えっ? ええ」


「皆!」


「「ミツ!」」


「リッケ、リックの状態は!?」


「はい、傷は治せました。大丈夫、今は気を失ってるだけです」


「そう、解った。二人とも、リックは自分が運ぶから走って!」


「えっ!? わっ!」


 自分は二人が抱えているリックを奪うかの様な勢いで抱え上げる。

 そしてそのままスピードを落とさず走り出した。


(こんな形で運ぶのスキルが役に立つなんて思っても見なかった)

 

 そう、先程プルンを抱えた時も、ゲイツを運ぶ時も、二人にそれ程重さを感じることも無く素早く移動できていた。

 それは、以前キラービーからスティールしたスキル〈運ぶ〉を活用した為。

 自分の走るスピードは何も持っていないかの様に素早く、スタスタと走りプルン達以上に進む速さを出していた。


「皆、遅れないで!」


「解ってる! もう、何であんたはそんなに早いのよ!」


「リッコ、話するのは後ニャ! 取りあえず急ぐニャ」


「もう!」


 ブモッブモッ! ブモモモオォォー!


 ドカッドカッドカッ! ドカッドカッドカッ!


 突如として煙の中からデビルオークの鳴き声。

 その後、地面の何かを殴っているのか、桁魂程の音を鳴らしながら響いてきた。


「何だ! 何事だ!」


「わかんねよ! お嬢様! 早く! 早くこちらへ!」


「キャァ!」


 爆風と共に、自分の発動した〈煙幕〉の煙が少しづつ消えて行くのが見えている。

 その消えて行く煙の中に見えた物は倒したハイオークの亡骸だったと思える肉片があちらこちらに散らばっており、デビルオークの手は赤黒く染まっていた。


「なんて奴だ……」


 デビルオークは払っても払っても消えない煙にイラ立ち、スキルの〈ラッシュパンチ〉を使用し、無差別に地面を殴りだしたのだ。

 殴る時に手応えを感じたデビルオークはその手を止める事はせず、怒涛の拳を繰り出していた。

 だが、デビルオークの手応えのある殴った相手は冒険者では無く、先に倒された亡骸のハイオークだったのだ。



「お嬢様、急ぎ下さい! あれか此方に気づく前に。急いで通路の奥へ、あの大きさなら通路の方では小回りは効きません、何とか逃げ切りましょう!」



「えぇ! 皆さん急いで通路の奥へ! 走って! さっ! 急いで!」


 リティーナの言葉に次々と通路へ走り出す面々。


 しかし、自分は通路入り口で足を止めた。


(ユイシス、デビルオークからこのまま逃げ切れるかな)


 確かに小回りは此方が効くだろうが、デビルオークには優れた鼻の嗅覚がある。


 煙が晴れ、獲物となる自身達を鼻をならしながら探しているデビルオーク。



《逃げ切る事は不可能です。洞窟の通路、尚且つ集団での人の足ではデビルオークの走るスピードにはいずれ追いつかれます》


(どうしたらいい?)


《では……。》


 デビルオークの方を見ながら、ユイシスの助言を聞く。


「ミツ、急ぐニャ!」


「ミツ君!」


 そんな後ろからプルン達が声を上げてきた。


「リッケ、プルン、悪いけどリックをまたお願いできるかな」


「えっ!? あっ、はい」


「ミツどうしたニャか?」


 肩に背負った未だ気絶しているリックを二人にゆっくりと渡す。


「お兄さん、下への道は他に解りますか?」


「あっ? あぁ。少しだけ遠回りになるが解るぞ」


「なら、皆はそちらから下へと行ってください」


「はっ、はぁ?」


 突然の言葉に混乱する前衛冒険者。


「あっ、アンタまさか!」


「念の為に皆にはおまじないかけとくから。支援は後でリッケに貰って」


「ちょっと話聞きなさいよ!」


 バッとリッコとプルンの腕を左手で取り、右手をリックの肩へと差し伸ばした


「っん!」


「ニャ! ミツ!」


「リッケ、皆をお願いね。6階のセーフエリアでまた」


「ミツ君!」


 能力上昇系スキルを掛け終わると、三人を通路側へと軽く押す。


「離れて!」


(アースウォール!)


 ドンッ! ドンッ!


 通路側入り口にプルン達三人を押し入れ、自分は入り口へと〈アースウォール〉を重ねがけした。



「土と氷の二枚がけでも壊されたけど、意味がなくても時間稼ぎにはなるかな……。これでいいのかいユイシス」


《はい、ミツの希望とする仲間への被害無しを遂行する為には、人が居ると達成出来ません。その為今はこの方法しかありません》


 ブモモモオォォー!


 〈アースウォール〉の土壁を出した音に気づいたデビルオーク。

 その前には自分が立っており、やっと目的である獲物を見つけたデビルオークは大きな口からダラダラと唾液と牙を折られた事で血を流していた。


「ここに居たら後が危ないかな」


〈電光石火〉などのスキルは使用せず、ゆっくりとデビルオークの視線から自身を見失わせない程度の速さを出し、背後に塞いだ入り口から離れる。

 そして、デビルオークはそれに釣られるかの様に視線は自分から外す事をしなかった。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 ドンッ! ドンッ! ドンッ!


「ミツ! 開けるニャ! ウチも戦うニャ! ここを開けるニャ!」


 自分の出した〈アースウォール〉へと叫びながら、何度も拳を叩きつけるプルン。


「プルン……」


「何故です! 何故土壁を出したのですか! まだ彼はフロア内に居るのですよ!」


「ひっ! わっ、私じゃあり、ありません!」


「そんな! 貴女以外にこれを出せる者がいるとでも!」


「そっ、そんな事言われても……」


 リティーナは突如として現れた〈アースウォール〉の土壁を発動できる魔術士であるルミタを責め立てた。



「貴族さん、これを出したのはその人じゃないわ……。ミツよ」


「えっ、なっ!」


 壁にもたれ掛かったプルンの肩に手を置いたリッコがリティーナを止めるかの様に声をかけた。



「そんな、坊主は弓職だろう! なんで魔術がつかえんだ」


 リッコの言葉に驚く面々。


「でっ、でも土壁でしょ! ルミタが解除すれば問題ないじゃない!」


 そこにゼリの一言が入る。

 皆の注目を集めたルミタは一息深呼吸入れ、壁の前へと歩き出した。


「ゼリ……。わっ、解った、私その壁解除する。その後彼連れて、またここ塞ぐ」


「そうよ、ルミタさん早く! 早くしないとミツさんが!」


「ふんっ!」


 ルミタが〈アースウォール〉の土壁へと杖をかざす。

 しかし、その壁はひびやき裂一つも入る事なく、何も反応を起こす事は無かった。


「うっ、嘘……。解除、出来ない……」


 何も反応しない土壁に、ルミタが目を見開き驚く。


「無理よ。魔法で発動した壁を直ぐに解除するには発動者以上の魔力が居るのよ……。ミツの魔力がどれ程かは私も知らないけど。この壁を崩せないって事は、ルミタさんよりもアイツの魔力の方が上って事なのよ……」


「そんな……」


「バカ……」


 壁を解除できなかった事に驚くルミタ。

 それを聞いた面々は唖然と驚き、リッコは土壁に自身の手を当てている。


「そんな事よりおじさん! したっ、下への道は何処ニャ! 下に行って、またそこのフロアに上るニャ!」


「そうです、案内して下さい! 急いで下に」


「おっ、おう。解った、解ったから」


 ガバッと顔を上げたプルンは下へと進む道を知っている前衛冒険者に詰め寄ると、それを見たリッケも同伴するかの様に声を上げた。


 その言葉に直ぐに駆け出す面々。

 ゲイツも気絶している為、プルン達の今の勢いを止める者はこのパーティーには居なかった。



(ミツ! ミツ!)



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 ブモッ ブモッ


「あ~あ。せっかくのハイオークの素材が」


 走りながらデビルオークが殴り潰してしまったハイオークの亡骸一帯を見ると、その亡骸は見事にモザイクが必要な状態に原型を留めることなく全て潰されていた。



「ありゃ全部駄目だね。今後は倒したら直ぐにアイテムボックスへ入れる癖をつけとかないといけないかな。さて、どうやって倒そうか……」


《ミツ、デビルオークは基本火の耐性を高く持ってます》


「だよね。リッコの火壁のダメージも無さそうだし。自分の忍術でも駄目かな?」


《忍術の鬼火では効果は薄いでしょう。また火柱も同様ですが、嵐の炎は風を使用している為前の2つよりかはマシなダメージを与えれます》


「マシなだけで決定的ではないのね……。ねぇユイシス、あれの弱点って何?」


《弱点は水と氷です》


「そうなんだ。ならっ……んっ?」


 体を丸めたデビルオーク。

 すると、まるでその姿はクラウチングスタートを思わせる程に体を縮めていた。


「まさか……」


 ブモモモオォォー!


 鳴き声と共に走り出したデビルオーク。

 先程の相撲取りのようなドシドシとした走り方とは違い。


 ドドドドッ!


 度道の走りを見せ自分へと突進したのだ。

 

「はっ! はやっ!」


 直ぐにランニング程度の足の速さをすぐに止め、〈電光石火〉を発動しその場をすぐに離れると。


 ドドドドッ ドカッ!


 走って来たデビルオークは走って来た勢いと共に体当たりをと自分が居た場所へと激しく打つかった。


「ひぇー。あの大きさであの速さは危ないな。速度減少かけとこう」


 体当たりをし、地面に倒れているデビルオークに〈速度減少〉を使用する。

 するとデビルオークが目に見えて動作の一つ一つが遅くなったのが解った。


《ミツ、長引かせては洞窟が崩落する可能性も出てきます。早めの討伐をオススメします》


「そっ、そうするよ……」


 確かに、巨大な体での体当たりを何度も壁にされたら洞窟は崩落する可能性も出てくる。


 デビルオークへと攻撃を先ずは1手目と仕掛けた。


「まずはこれ! アイスランス!」


 パキン!


 放った〈アイスランス〉はデビルオークに命中はするものダメージを与える事は無く、脆くも砕け散ってしまった。


「あれ?」


《アイスランスのLvが低過ぎます。デビルオークのぶ厚い毛に守られダメージを与えることができません》


「なっ、なら次! コールドブレス!」


 ブッヒッー!


 息を大きく吸う。

 片手の親指と中指で丸を作り、そこに息を吹きかける。すると吹きかけた先からは青と白の光が吹き出し、デビルオークを冷たい暴風が襲った。



「おっ、これは効いたみたいだな」


《ミツ、デビルオークは体を覆った毛で相手の攻撃を防ぎます。コールドブレスの連続使用を推奨します》


「おっけー! その真っ黒な毛を真っ白に染めてやるよ!」


 そして、デビルオークの攻撃を避けつつ、コールドブレスを浴びさせ続けた。


《経験により〈コールドブレスLv3〉となりました》


 デビルオークへと向かってブレスを数回使用後、パキっと音を鳴らしながらデビルオークの毛が折れたのが見えた。


「おっ!」


《今です。凍りついたデビルオークに攻撃を》


「うん。忍術風球! っん!?」


 ユイシスの言葉にデビルオークの背後に素早く周り、凍りついた体へ投げつける為と発動させた〈忍術〉の〈風球〉を見た途端一言驚きの言葉を上げた。


「でっ、でかっ!」


 その掌には以前発動した〈風球〉とは違い、以前は野球ボール程の大きさだった物が今は3倍はあろうかと思わせるバレーボール程の大きさとなっていた。

 〈風球〉が掌に高速音のシュルシュルと音を鳴らしながら存在していた。


(あぁ……。そう言えば風刀が大きくなったから、これも大きくなったのね……。なるほど、なるほど)


 デビルオークは〈速度減少〉と〈コールドブレス〉の重ね効果か、その動きは鈍く目に見えた。

 

 〈風球〉を出した手を大きく腕を振り上げ、デビルオークの凍りついた体へと投げつけた。



 バキバキバキ! ババババッ!


 ブグキャァァァ!


 木々を薙ぎ倒すにも似た音の後、命中した〈風球〉がその場で炸裂。

 デビルオークの断末魔の声がフロアを巡った。


 この時、デビルオークには予想以上のダメージを与えていた。

 それは毛の一本一本が氷柱の様に鋭く凍りついてしまったデビルオークの毛。 

 それを〈風球〉を受けると、衝撃で折れ、同時に弾け飛び、デビルオーク自身の体を突き刺していたのだ


「んー。まだスキルは回収できないか。状態異常として麻痺でも与えてみるかな……。あっ、そうだ!」


 フッと思い出すかの様にデビルオークから距離を開ける。

 それを見たデビルオークは好き勝手に攻撃され、目の前で離れようとしている獲物を見て激怒。

 受けたダメージは大きく、激しい痛みを体を巡る度に怒りが増し、もう目の前の獲物は食う事より殺す事に決めたデビルオークは自身の怒りを込めて殴りかかってきた。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



「おじさん、次はどっちニャ!」


「待て、そんなに急ぐとスモールオークの罠にかかるぞ! 今まで来た道とは違うんだ。此方の道からは慎重に行くんだ」


「そうですわプルンさん。もう私達が通ってきた最初の道から外れてます。モンスターも出てくるかもしれません、慎重になって下さい!」


 プルンの急かす言葉にブレーキをかける前衛冒険者とリティーナ。



「くっ……。解ったニャ……。ゴメンニャ……」


「プルン……。おじさん、悪いけど私を前に。プルンの横に居させて」


「お嬢さんそれは。いや、解った。お嬢さんの前は俺が守ってやる、豚共が来たら頼むぜ!」


 プルンの焦る言葉に自身も応えるかの様に声をかけるリッコ。

 前衛冒険者もリッコの気持ちが解ったのか、止める言葉は止め大きく頷くのだった。



「ありがとうおじさん。プルン、敵が来たら引き付けといて、私がやるわ」


「解ったニャ。リッケ、そっちは大丈夫ニャ!?」


「はい、僕は平気です! でも、二人も無理しないで下さいよ」


「リッケ君、本当に大丈夫? ずっとお兄さん一人で背負ってるけど……。きつかったら私も手伝うわよ」


「ありがとうございますゼリさん。でも大丈夫です。それより先を急ぎましょう、彼が待ってます」


 自身の顔の汗を拭い、そう言って言葉を切るリッケ。

 その言葉にゼリを含むその話を聞いていた面々は表情は暗く俯いていた。


 絶望。


 皆の頭にはその言葉以外浮かぶ事は無かった。


 誰が見ても倒せるとは思えない程の恐怖的なモンスターの前に一人残った少年。

 彼の生存の可能性を持つ者は居らず。

 プルンとリッコ、そしてリッケの勢いに着いていく形で今は後を着いているのだった。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 ブゴォオオオ!


 ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!


 ブンッモモオオォォ!


 デビルオークの攻撃の勢いは激しく。

 スキルの〈ラッシュパンチ〉の一撃一撃は当たってしまえば地面に散らばるハイオークの肉片と同じ状態となるだろう。


 自分はデビルオークの攻撃を交わしながら〈煙幕〉を発動し、またもう一度デビルオークの視界を奪う事にした。


《経験により〈煙幕Lv2〉となりました》


「よし、試してみるか」


 目の前に再度現れた煙幕を振り払う為と、デビルオークは煙を振り払うかの様にまたその腕をブンブンと左右に振りまわしだした。


 そんなデビルオークの足元近く、暴れる足に踏みつぶされない程度に距離を開ける。


「取りあえず足を止めるか」


 自分の構えたその腕には小さな光が集まり、明るい光が一気に放たれた。


「ライトニング!」


 カメラのフラッシュ程の明るい光がデビルオークが経験をした事もない痛みが襲った。


 ブヒヒヒヒヒ!


 体を痙攣させ、足を崩すデビルオーク。

 〈麻痺攻撃〉とは違い、電撃の痺れなのかデビルオークの顔はだらしなく崩れる。

 大きな口を開け、顎をガクガクと痙攣を起こすかの様に震えていた。


《ミツ。スティールが可能となっております》


「本当だ。ならっ!」


 ユイシスの言葉を聞き、デビルオークを鑑定すると状態が瀕死と表示されていた。

 数手の攻撃を仕掛けたが、その中でも一番ダメージを与えた忍術の〈風球〉の威力は高く、その殺傷力の高さを改めて実感する程だった。


「スティール!」


《スキル〈ラッシュパンチ〉〈岩盤落し〉を習得しました、経験により〈打撃強化Lv2〉〈打撃耐性Lv2〉となりました》



ラッシュパンチ

・種別:アクティブ

一定時間連続のパンチを繰り出す、使用者のステータスが威力とスピードに反映する。


岩盤割り

・種別:アクティブ

地面を叩きつける事により、地面に強い衝撃を与えると、地面を起こして敵にダメージを与える。




「よし、めぼしい装備品もしてない見たいだし、これで終わりかな……。あれ?」


 スキルを奪い。

 その後、デビルオークの口の奥にキラリと光る物が見えた。


「何だろうあれ?」


 未だにうねり声を上げながらガクガクと震え続けているデビルオーク。


「取りあえず終わらせないと。スパークアクション!」


 倒れているデビルオークのひたい部分に手を当てながら〈スパークアクション〉を発動した。


 パァン!


 それはまるでピストルの様な音を鳴らした。

 デビルオークを電撃で一瞬にして、その脳内を焼き切るとデビルオークは鑑定すると亡骸表示となっていた。


「上手いぐわいに口を開けてくれてたな。これなら」


 口の奥にある光る何かに向かって〈スティール〉を発動し手の中に移動させた。



〔蛇頭のタグ〕



「何だこれ?」


 それは、蛇の顔の焼印が入った鉄製のタグだった。

 

「んー。こんなのモンスターが作れるわけないしな……。だとしたら誰か既に被害者が出てたのか……。仕方ない、これも一緒に冒険者ギルドに渡しとくか」


 アイテムボックスへ倒したデビルオークと見つけたタグを収納。

 残念ながらハイオークの亡骸はデビルオークの攻撃で肉片とかしてる為〈傀儡〉にも使えないし素材は悪品と解るのでその回収を諦める事にした。


《ミツ、先程の戦いにて、サードジョブ【エンハンサー】フォースジョブ【ヒーラー】フィフスジョブ【ソードマン】のレベルがMAXとなりました》


「おっ、早いね!」


《4階層での多くのモンスター討伐の効果もありますが、リッチとデビルオークの上級モンスターの討伐時の経験をミツの総取りの結果です》


「総取り……。えっ!? デビルオークならリッコも火壁でダメージ与えてなかった?」


《はい、リッコの〈ファイヤーウォール〉は確かにデビルオークの体当たり時にダメージを与えておりましたが。残念ながらリッコは既にウィッチのジョブレベルはMAXとなっており、経験の配布は適応されませんでした。結果、デビルオークの討伐経験はミツの単独取得となります》


「そっ、そうなんだ……。何だかリッコに申し訳ないな」


 ハイオークとデビルオークの足止めと、魔法の壁を出したのはリッコの〈ファイヤーウォール〉火壁だけではないが、敵にダメージを与える事の出来ないルミタの〈アースウォール〉土壁と、もう一人いる魔術士の〈アイスウォール〉氷壁を出した二人は戦闘経験を習得する事はできなかった

 

《ジョブを変更しますか?》


「今は良いかな、後でまとめてやるよ」


《……。余り貯め過ぎるとあとが大変ですよ》


「うぐっ! 解ってるよ、落ち着いたらゆっくり考える」


 まるで宿題を貯め過ぎた子供に悟る親の様なユイシスの発言に顔を苦笑させるしかできなかった。


 〈マップ〉を目の前に出し〈マーキング〉を使用したプルン達の場所を確認した。

 


「えーと。ふむっ、少し遠回りだけど下へと行く道に行ってるみたいだ。なら追いかけるより予定通り下で皆を待とうかな」


 自身で出した〈アースウォール〉の土壁を解除し、下の階層へと進む事にした。

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