第44話 強さの秘密を教えて


 明るい洞窟を歩く少年達。

 その先で、一匹のモンスターが1本の矢で撃ち落とされた。


 ザシュ!


 ギャッ!


 胴体を撃ち抜かれたコウモリ、そのモンスターは抵抗もできず、一瞬で空中からその場の真下へと落ちていった。



(スティール!)


《経験により〈スティールLv5〉〈吸血Lv2〉〈吸引Lv2〉となりました》


(おっ、久しぶりにスティールのレベルが上がった!)


 少年はコウモリの様なモンスターに手を翳し、その際、その亡骸を見てはニンマリと笑っていた。

 先頭に立つ少年のその笑顔を誰も見てはいなかったが、少年の内心を知らずに、モンスターの亡骸を見て笑みを作る姿は少し異様かもしれない。


 

「なぁ、ミツ。スケルトン狙いで探索して歩くのは良いけどよ。また来た元の道に戻るのか?」


「いや、途中で道を変えるよ。流石に全部のフロア周ってるとお昼も遅くなっちゃうし」


「それは駄目ニャ! ちゃんとお昼はお昼に食べるニャ!」


「はいはい、なら間に合わせる為にも少し早めに歩くよ」


 歩くスピードをほんの少し気持ち早めながらも、モンスターの気配に気を配りながら一先ず来た道を戻る。



「あの〜、ミツ君、お昼に聞こうと皆で話してたんですけど」


「んっ? 何、リッケ」


「……ミツ君はどうしてそこまで強くなれたんですか?」


「……」


(さて、どう答えたものか。流石に神様から貰ったスキルの力でモンスターからスキル奪ってるとも言いづらい。ってか信じられないと思う。まぁ、聖職者のリッケなら信じそうだけど。ん〜、どうしたものか……)


《ミツ、強くなった理由ですので、ジョブの事を説明すれば大丈夫だと思われますが》


(そうか、なるほど。確かに聞かれたのは強くなった理由だもんね)


「あっ、ごめんなさい! もしミツ君が秘密にしてる様でしたら無理には聞きませんので」


 自分が少し黙り込んでしまったことに聞いてはいけない事を聞いてしまったと、勘違いしたリッケは申し訳なさそうに謝罪を言ってきた。



「そっ、そうニャよ。ウチもミツの強さは気になるけど、誰でもそう言ったことを秘密にしてるのは普通ニャよ」


「大丈夫大丈夫、皆が気になるのも解るし、知りたい事を質問するのは悪い事じゃないよ」


(懐かしいな……昔現場で研修で見学に行った時、現場監督によく言われてた言葉をまさか自分が言う事になるなんて)


「おお、マジかよ!」


 自分の肩に腕を回して来るリック、少し大きめの腕と鎧が暑苦しいが、人に頼られるのは嫌ではないのでそのまま話を進めることにした。



「じゃ、先ず質問するけど、強い人の共通した事ってなんだと思う?」


 自分は腕を回したままのリックに問題の様に質問をかけてみる。

 プルン達も質問に頭を巡らせている。


「ニャ〜? 強い人の共通? 共通って何ニャ」


「あら。そうだね、簡単に言うなら強い人はある事が同じなんだよ」


「はいはい! 強さね! 剣士は力が強くて、魔術士とかは魔力が高いのよ!」


「ま〜、間違いじゃないけど正解ではないよ」


「あら」


「努力でしょうか? 訓練を繰り返しおこなってる人ほど強いと聞きますけど」


「そうだね。それも正しいけど、それは自身の力を磨き上げる研磨の様な物だから元ではないね」


「元ですか……」


「ニャ〜、解らないニャ」


 頭を抱え込むプルン。

 リックに関しては考えすぎて眉間にシワが寄りすぎて少し顔が怖いよ。



「じゃ、身近な人で例えてみようか」


「ニャ」


「例えば元シルバーランク冒険者のゼクスさん、あの人元は皆と同じ力だったと思うよ」


「それはそうニャ、誰でも最初からあんなに強かったら変ニャ」


「おう。まぁ……取り敢えず身近な人ではないな」


「そうですよね……。僕達冒険者には憧れの存在ですから、肩を並べて例える相手ではありませんよ」


「そうよ、ミツ、ゼクス様に失礼よ」


(ゼクス様ってか……。あのボッチャまラブ執事が……)


「本人見たことないと噂は美化されるものニャ〜」


「?」


 三人は自分たちの言葉に疑問符を浮かべるだろうが、自分とプルンの中では、ホッホッホッと笑いおどける姿と、溺愛するロキア君に対してのデレデレぶりしか頭に過ぎらなかった。


(ねえ、ユイシス。ゼクスさんのジョブって上位だよね?)


《はい、彼、ゼクス・エンブリオのジョブ【スワッシュバックラー】は上位ジョブです。小柄な盾を装備し、レイピアやエストック等の武器を使い分ける事ができる小剣専門のジョブです。主に接近戦を得意とし、盾を使いこなせば矢等の攻撃を防ぐ事もできます》


(ふむ、なるほど。その情報はあの人と戦う時に欲しかったよ)


「恐らくだけどね、自分と同じ様にゼクスさんも色んな事を経験してると思うんだよ」


「経験……戦いのか?」


「いや、ジョブ、職業だよ。前に聞いたんだけど、ゼクスさんのジョブはスワッシュバックラーなんだけどさ。あれは様々なジョブを経験してこそのあの強さだと思うんだよね」


「えーと、つまりアレか。俺なら今はランサーで槍だけど、お前みたいに弓も使えるアーチャーになれって事か?」


「まー、大雑把に説明するとそうだね。リックの今のランサーも次のジョブ、えーと、何だろう?」


「ランサーを極めた人はライダーになると聞いたことありますよ。僕のクレリックはプリーストだと教えられました」


(ライダー? マスク被ってバイクにでも乗るのかな?)


《【ライダー】獣タイプの生物に騎乗し、槍と盾を装備した騎兵タイプです》


「へぇー、そうなんだ。なら、そのライダーになると槍だけの専門職って感じだろうね。もし判別晶に別のジョブが表示されるなら、ライダー以外のジョブも考えてみたらどうかな? リッケも同じだよ、プリースト以外も出てたら考えてみると良いかもよ」


「ふ〜ん、私初めて判別晶使った時かな。説明を受けた時にね、態々魔法ジョブから剣士になったことのある人の話聞いたことあるわ。その時は変わり者だと思ってたわね」


「そうだね。戦闘スタイルもそうだけど、能力が全く違うものだもんね」


「じゃあじゃあ! ウチもリッコみたいに魔術士になれば更に強くなるニャ?」


「あ〜……どうだろう、モンクとウィッチの組み合わせって自分は聞いた事無いね」


 リッコの持つ杖をいつの間にかプルンが持ち、杖をエイエイと槍のように突き出している。それは使い方が違うのか、リッコにチョップを喰らい軽く怒られ、杖を回収されたプルン。

 二人に歳はそれ程に違いは無いが、姉と妹のような光景だ。


(それ以前にプルンは魔力が無いって以前ユイシスから聞いたことあるから、魔術関係のジョブはなれないんじゃないかな? まぁ、判別晶使わないとなんとも言えないけど)


《【モンク】と【魔術士】の組み合わせでしたら【マジックファイター】と言う上位職が発生します。但し、ミツの言うとおり、残念ながらプルンには魔力はありません。魔術士系のジョブは発生することはありません。獣人族の中である豹猫族のプルンは物理での攻撃、速さを生かしたジョブをおすすめします》


(まぁ、なんか、色々一気に来てどれから返答すればいいやら……。取り敢えずジョブに関しては皆一度判別してもらってからまた話し合おうかな。それと豹猫族? 獣人族の中にも派生があったんだね)


「ニャ〜、そうニャ……。ウチはミツの様に強くなれないかニャ……」


「いや、プルンの速さをもっと生かすジョブがあればそれを考えてみようよ。モンクでの攻撃力と素早い移動できる力の2つが重なれば、プルンはかなり強いと思う」


 自分の言葉にうつ向きだったプルンは顔を上げ、パッと明るくなっていく。


「そうニャ!? ウチはまだまだ強くなれるニャ!」


「そうだね……。皆、やっぱり一度外に戻る? 皆も次のジョブも気になるでしょ?」


 そう聞いてみるが、皆はこのまま進む事を押してきた。

 どうやら苦戦すると思われた場所がサクサクと行けると解ったので、自分の能力上昇系スキル(おまじない)でも苦戦しそうと感じた時に帰るとのことだ。



「そこ曲がるよ。その先モンスターが居るから気をつけてね」


「そうか、お前ら手を」


「はい」


「ニャ!」


「ほら、ミツ、おまじない、おまじない」


 リッコがおまじないを催促してくる。


「はいはい、戦闘はどうする? 自分が倒しても良いけど皆も戦いたいんじゃない?」


「私スケルトン倒してみたい! さっきからゾンビばっかりだもん」


「確かに……解りました。リッコがスケルトンを倒すときは僕がゾンビを倒す事にします」


「俺達はスケルトン以外倒せねーぞ!」


「そうニャー、そうニャー」


 足を広げ、腕組みをしながらふんぞり返るリック。

 それに賛同するかの様に後ろからプルンが腕を上げているが、いざ二人は戦闘の時は戦ってくれる事を祈っとこう。


「たまにはあんた達もゾンビくらい倒しなさいよね。もしくはあのコウモリってモンスターでもいいわよ」


「無茶言うな!」


 リックとリッコがまた兄妹の言い争いを始めて間をリッケが取り持つ。

 いつもの流れは置いとこう。


「えーっと、取り敢えず次のは自分が貰うよ?」


「あっ、話が外れちゃってたわね。ゴメンゴメン、私は後で良いわよ」


「ウチもニャ」


「骨は拾ってやる、スケルトンのな」


《経験により〈攻撃力上昇Lv4〉〈守備力上昇Lv4〉〈魔法攻撃力上昇Lv4〉〈魔法防御上昇Lv4〉〈攻撃速度上昇Lv4〉となりました》


(あっ、また上がった。やっぱりかける人数が多いから上がりやすいのかな? いや、でも他のスキルと比べると上がるスピードが余りにも早いような……)


「……? もういいか?」


「あっ、ゴメンもう少し待ってね」


「慌てることないですよ。ここには暫くはモンスターは出て来ませんからね」


「うん、ありがとう」


 能力上昇系スキルをかけ直した後、今まで来た道とは別の道を進む事に。

 勿論この階層に今居る冒険者自体が少ないため、新しく通る道ではモンスターとの戦闘の繰り返しだ。

 

「いた! スケルトンが4、コウモリが1。リッコ、火壁を宜しく、皆はフォローを!」


「解った! 行くわよ!」


 リック達の頷きを確認した自分は、一気にスケルトンの後ろ、逆さにぶら下がっているデビルゴーストへと近づいた。

 スケルトンはリッコの火壁で道を塞がれ、その場から動くことのできない状態だ。


 ピャー!


 頭上から自分の動きを見ていたデビルゴーストは異様な速さの動きに驚き、自分に対してけたたましい声を鳴り響かせた



(んっ、オエッ……。なんか気持ち悪い……)


《注意、デビルゴーストの〈超音波〉にて状態異常となっております。回復して下さい》


(うっ、二日酔いしたみたいに気持ち悪い……)


 状態異常にも関わらず、自分は無理やりにデビルゴーストの真下まで走りきった。直ぐさま、自身に〈キュアクリア〉を使用して息を整え、アイテムボックスから取り出した弓を構え矢を放つ。


「ふ〜! ……ハッ!」


 バシュ!


 真っ直ぐに放たれた矢はデビルゴーストの羽に命中。

 威力が高すぎたのか、デビルゴーストの羽の根本を吹き飛ばしそのまま地面へと落下していった。


 ギャッ!


(麻痺攻撃追加してたんだけど意味なかったかな? まぁ、いいかな、スティール!)


《経験により〈吸血Lv3〉〈吸引Lv3〉〈超音波Lv2〉となりました》


 〈スティール〉を使用後、デビルゴーストは腕からの出血と落下時のダメージが大きかったのか、自分がトドメを指す前に既に亡骸と鑑定表示されていた。


(あの高さだし、まぁ……死ぬよね)


 デビルゴーストの亡骸をアイテムボックスに入れ、リッコが足止めしてくれているスケルトンの方へと踵を返しす。


 カチャカチャと自身の骨を鳴らしながら、火壁の前で炎が消える瞬間を待つかのように武器を構えるスケルトン達。その背後に回る自分に気づいたスケルトンは目標をリッコ達ではなく、1人立つ自分の方向けて次々と斬りかかってきた。


 対人戦の練習台としてはスケルトンは適材適所かもしれない。

 しかし、剣、斧、鈍器、槍、様々な武器を持つスケルトン。

 同じ戦い方ではなく、1体1体違う動きを見せてくるスケルトンは、まだ冒険者として浅い人相手には苦戦する相手である事は間違いは無い。



(せっかくだから1体づつ相手してもらおうかな)


 自分は1体づつこちらに向かってくるようにと、スケルトンとの距離を一度空けた。

 固まっていたスケルトンは自分の方へと進み出すが、4体中1体が前に出てきた時、後続の3体との間に〈ファイヤーウォール〉を発生させ一対一の戦闘スタイルを取った。



《経験により〈ファイヤーウォールLv2〉となりました》


「ミツ〜、こっちの火壁もそのままで良いの?」


「うん! そっちも張っといて」


 今、リッコの〈ファイヤーウォール〉の火壁とミツの火壁を3体のスケルトンを挟む形となっている



「君は槍か、間合いの練習かな」


 スケルトンは同じスケルトンと分断された事は気にもせず、目の前の自分に対して手に持つ槍を真っ直ぐに突き出した。



 ブン! ブン!


 スケルトンの突き出した槍。

 突き出された槍はそのまま突きの後、真上へと突き上げの攻撃に軌道を変えて来た。

 それをしっかりと見極め、攻撃を避ける。

 アイテムボックスに入れていたナイフで槍の起動を変えた。

 耳元を風を切る音が過ぎ去った瞬間、ガラ空きの胴体にナイフでは弱いので拳の一撃を入れて勝負を終わらせる。



(スティール!)



《スキル〈二段突き〉〈槍術上昇〉を習得しました》




二段突き


・種別:アクティブ


連続での突き攻撃、レベルが上がると威力が増す。



槍術上昇


・種別:パッシブ


槍の技量が上昇する。




「骸骨なのに何であんなに撓りのある槍裁きが出来たんだろう……まぁ、次だな」


 〈ファイヤーウォール〉を一度解除し、3体のスケルトンを進めさせる為に道を開けた。

 またカシャンカシャンと体の骨の音を鳴らし、駆け出したスケルトンの1体。

 同じ様に1体と残りを火壁で仕切り、一対一の状態を作る。

 次にスケルトンの持つ武器はバット程の大きさの鈍器。

 鑑定して見ると只の棍棒と表示されている。


(そう言えばユイシス、スティールのレベル上がったけど、何処までスティールできるようになったの?)


《はい、スティールのレベルが5となってる状態、更には能力上昇スキル効果にて今のスティールの効果は、一度スティールをした事のあるモンスターなら状態異常関係なしにスキルが回収できます。また、自身の体重と同等の重さの物を引き寄せる効果と上昇しております》


(えっ……スティールした事あるモンスター?)


(はい、ミツのこれ迄の戦闘でのスティールを使用したモンスターが対象となっております)


(じゃあさ、目の前でカタカタ骨鳴らしてる人体模型も?)


《はい、対象です》


(なるほど、取り敢えずやってみるか)


 ブンブンと手に持つ棍棒を振りながら近づくスケルトン、少しバックステップにて距離を開け掌をスケルトンへと向けた。



(スティール!)


《経験により〈パワースイングLv2〉となりました》


 ブン! ……コロン


 スケルトンのスキルを奪い取ると同時に、スケルトンは手に持つ棍棒を手からスッポ抜かせて床へと転がしてしまった。

 どうやら既にスキルを発動させていたせいか、突如して使えなくなったスキルに、勢いよく振り回す棍棒を握っていられなかったようだ。



「おおぉ!!」


「ニャ! どうしたニャ!」


「大丈夫か!」


 いきなり声を上げてしまった自分に皆が慌てて戦闘態勢をとった。

 プルンは声を上げながらも拳を前に構え、リックとリッケは武器を握り、リッコの火壁が消えた瞬間にも目の前のスケルトンを倒そうとしている。


「あっ、ごめん、大丈夫大丈夫! あれあれ、いきなりスケルトンが武器投げたから驚いただけだよ。はははっ」


「なんだ、危なそうなら直ぐ言えよ。俺達もこっち倒して助けるからな」


「そうですよミツ君、一体づつとは言え無理しないようにです」


「うん、ありがとうね」


(皆に余計な心配させちゃったな、失敗失敗。でもやった、これはメチャメチャ嬉しい!)


 自分の〈スティール〉は相手のスキルを奪い取るにも面倒くさい条件が付いていた。

 いや、今も条件は付いているが、以前と比べたら今の趣味とも言えるスキル集めがグーンと楽になったのだ。


 武器を失ったスケルトンは何をするでもなく転がった武器と自身の手を交互に見ていた。


 目はないのに見てるとはこれいかに。



「よそ見は駄目だよ」


 先程倒したスケルトンの持っていた槍を拾い、棒立ちしているスケルトンに〈二段突き〉がヒット。

 頭と胴体を貫かれ、ガシャンと音を鳴らし砕け落ちていくスケルトン。


「おぉ、この槍結構使える! 後は纏めて相手しようかな」


 2体目のスケルトンを倒し、次の対戦へ。

 残りの2体は纏めて対戦する為に火壁でしきる必要は無い。

 自分は火壁を解除すると2匹のスケルトンを呼び寄せるため、こっちに来いとばかりに槍を地面に当て〈挑発〉スキルを発動してみる。


「ほれ、こっちこっち」


 コンコン


 言葉は挑発としては弱い。

 だがスケルトンの2体は体の骨をカシャンカシャンと鳴らし自分の方へと駆け出した。



(よし来た!)


 ダガーの様な短剣を持つスケルトンと、また鈍器の棍棒を持つスケルトン、若干鈍器を持つスケルトンがスピードが遅いが、それは持つ武器の違いのせいでもあるだろう。

 先に1体のスケルトンが自分の近くに近づくと手に持つダガーを突き出すもそれを回避、足を引っ掛けスケルトンを転倒させた。


(スティール!)


《経験により〈流し斬りLv2〉となりました》


 ザク!


 振り下ろした槍の先端、槍を刺すだけでもスキルレベルMAXの〈刺す〉が発動。

 それだけでもスケルトンを倒すには十分強力な一撃である。


 最後のスケルトンに目を向けると、スケルトンは既に槍の間合いに入っていた。

 下から振り上げられる棍棒をバックステップにて回避と同時、スケルトンのスキルを回収。



(よっと、スティール)


《スキル〈かぶとわり〉を習得しました》



かぶとわり


・種別:アクティブ


真っ直ぐに振り落とされた攻撃をする、レベルが上がると威力が増す。



 スキルを回収後、目の前の目標を失いも腕を振り下ろすスケルトン。

 地面に叩き付けた鈍器の衝撃で腕が上がる。

 それを見て直ぐにガラ空きとなった胴体、肋骨の隙間に槍を差込み、軽いスケルトンを持ち上げる。

 そして、そのまま自身の反対側の地面に、一本背負いの要領にてスケルトンを頭から叩きつけて戦いを終わらせた。


 ガシャン!


「ふ〜、終わった」


 自分の戦闘が終わったことを確認すると、リッコは火壁を解除した。

 それと同時に駆け足で近寄るリック。


「お前槍使えたのかよ! しかも、なんだよあの戦い方? あんな倒し方ありかよ」


 またガバッと腕を後から首に回すリック、同じ槍を扱う者として先程のミツの槍さばきを興味と驚きで見ていたのだろう。



「おっとと、えっ、えーとあれは武芸みたいな物だよ」


「武芸?」


 自分の言う武芸とは、刀、槍、棒、馬上等等の前の世界でのお祭りで見た事のある武遊の真似事の一つ。

 勿論相手に槍を刺して一本背負い等の披露は無い。



「まぁ、何でもいいや。やっぱりお前槍扱えたのか〜。あ〜あ、使ってる所見たこと無いから槍だけは使えないかと思ってたぜ」


「ふふふっ」


「ニュフフフ」


 両腕を頭に当て、ため息と共に少し愚痴るリックを見てプルンとリッコがクスクスと笑っている。



「なっ、なんだよ」


「ねぇねぇ、今どんな気持ち? 自分だけ大丈夫と思ってたらあっさりと槍さばき見せられてどんな気持ち?」


「くっ!」


「どんな気持ちニャ?」


 リックを煽る二人。

 それをやれやれと見るしか無い自分とリッケだが、煽られてわなわなと震えているリックは違った。


「うがー! うっせーぞお前ら!」


「や〜だ〜、八つ当たりかっこ悪い〜」


「クスクス、かっこ悪いニャ〜」


「八つ当たりが許されるのはウッドランクまでだよね〜」


「ニャハハハハハハ!」


 怒鳴られても二人の挑発は終わらなかった。



 パンパン!


「はいはい、二人ともその辺にしといて下さい、遊んでないで先に進みますよ」


「ふふっ、は〜い」


「仕方ないニャ〜」


 手を鳴らし二人のおふざけを止めるリッケ。

 流石の二人も場所が場所だけにそんなに長くはイジる気も無かったのだろう。

 二人はすんなりと冷やかす様な言葉を止めた。



「まったくもう、二人とも茶化し過ぎだよ」


「え〜、たまには良いじゃない」


「俺は常に小莫迦にされてる気がするぞ」


「あら? そうだったかしら」


「こいつ!」


「はいはい、行きますよ」


 また喧嘩口調になる所をリッケがリックの背を押して、先へと無理やりと歩かせたのでその場は何とか終わった。



「フンッ、次は俺がやるぞ!」


「ならウチもやるニャ!」


「おう、プルン遅れるなよ!」


「ニャにおー! ウチの速さに驚くニャ!」


「二人とも、余り無理した戦闘は止めてくださいよ」


「いいんじゃない、士気が低いよりも戦闘に集中してくれてる分こっちの安全も高まるんだし」


「ははっ、直ぐにサポートできるように構えとくよ」


「見つけたニャ!」


「オッシャ! 俺様の磨かれた槍を食らわせてやる!」


 磨かれたのはリック自身の槍だろうとオヤジ的なツッコミを入れたかったが、そこはグッと我慢した。

 だが先程のリックの言葉に呆れ顔のリッケとリッコも同じことを思ったのだろう。

 勿論二人も口には出さなかったが。


「二人とも、支援の外に出ないで下さいよー」


(倒される前にっと、スティール!)


 リッケの言葉が聞こえたのか解らないが、二人はリッケの支援ギリギリのラインで戦闘を行い、スケルトンとゾンビを蹴散らして行った。


 勿論ゾンビはリッコの〈ファイヤーボール〉の火玉で頭をふっ飛ばされ速攻で終わり。

 残りのスケルトン数体も リックは連続で頭を貫き倒し、少し危険な所は自分が弓での援護、スケルトンの武器を落としたりとトドメにはならないが、今の敵を倒したいと思うリックには邪魔にならない嬉しいサポートだった。


 プルンの方も剣を持つ相手への懐に入り正拳を打ち込み、内側から骨を砕くと言う戦い方が慣れたようだ。

 あえて攻撃を先にさせてその後にスケルトンの脚を崩し、攻撃をスケルトンに煥発入れ見事に倒している。



《スキル〈波斬り〉〈追撃〉を習得しました、経験により〈二段斬りLv2〉〈パワースラッシュLv2〉〈シャープスラッシュLv2〉となりました》



波斬り


・種別:アクティブ


流れる様な剣での攻撃、レベルが上がると威力が増す。



追撃


・種別:バッシブ


武器を使用時の追加ダメージが加わる。



(なんだか説明がポワッとしてるな。まぁ、使えば解るから良いや。しかし流石スケルトン、戦闘のスキルがバンバン貰える。やっぱり戻る事にして良かったかな)


「終わったニャ〜」


「お疲れ様〜」


 パンっと手を合わせ、戻ってきたプルンとハイタッチをする。

 戦闘が上手く行ったのか彼女はご機嫌の様だ。



「フフッ、良かったわね。調子良さそうじゃない」


「ニャ、数も少なかったしニャ、それに体が更に動くんだニャ」


「ふ〜ん、そうなんだ」


「終わった終わった。ミツ、スケルトンの骨纏めてるから回収頼むわ」


「あぁ、ありがとうリック」


 少し遅れてリックが来たが、どうやら倒したスケルトンを一箇所にまとめてくれていたようだ。まぁ、見ていたから知ってたけどリックはさり気ない優しさをしてくれるから嬉しい。


「ニャ! ゴメンニャリック、ウチも倒した時に手伝えば良かったニャ」


「ん? いや別に気にしなくて良いぞ。スケルトン自体重くないからポイポイっと終わらせたし」


「そうニャ? でもありがとうニャ!」


「おっ、おう」


 リックとプルンの戦いが終わり次はリッコとリッケの戦いだ。

 しかし、そうそう運良く行くものではなかった。



 ヴァー……ボン! ボン! ボン!


 モンスターの唸る様な気持ち悪い鳴き声の後に続くは火玉の命中音とドサリと倒れ行くモンスター達。


 ボン! ボン!


「もう! 何でさっきからゾンビだけなのよ!」


「まぁまぁ、倒せる敵ですから問題ないじゃないですか」


 本当はリッコがスケルトンを倒す予定ではあったが、次に出てくるモンスターがゾンビ、ゾンビ、またゾンビと連続してのゾンビラッシュ。結局リッコは火玉でゾンビの頭をふっ飛ばすだけの戦い、リッケも〈ヒール〉でゾンビを倒そうとしたが、リッコの火玉の連射にて次々と倒されていくゾンビを見て支援に集中する事にしたリッケだった。


 自分もこれだけゾンビが出れば1体くらいスキルを持っていると思ったが収穫はゼロ。

 おなじみのおまじないをした後は何もする事はなかった



「はぁ……はぁ……フンッ!」


「おっ、おつかれリッコ」


「おつかれニャ〜」


 目の前に無数に頭を吹き飛ばされたゾンビの数々。

 それをアイテムボックスに回収後、リッコに声をかけるが、不完全燃焼なのか少し膨れっ面で横を向いていた。


 そんなリッコを気にするも、リックが進む先の方に顔を向け少し険しい顔になっていた。



「……なぁ、ミツ。この先から何か聞こえねえか?」


「んっ……。うん、やっぱり何か聞こえるよね……。誰か戦闘してるかも」


 リックの見る先にはリティーナパーティーがいる事は〈マップ〉と〈マーキング〉のスキルで既に把握済みだ。

 しかし、戦闘をしてるか何をしているかまでは解らない。


(もしかしたら本当に盗賊と戦闘してるとか……)


《ミツ、進む先の方でモンスターとの戦闘が行われております。モンスターの数もかなりいますので注意して下さい》


(モンスターか。やっぱり戦闘をやってるんだ。解った、ありがとう)


「皆、この先かなりのモンスターが居るみたい。既に戦闘中みたいだから、もし戦ってるパーティーが危険そうなら助けるけど良いかな?」


「ん〜、戦闘中のパーティーか。まぁ、一言声かけてからならいいかもな」


「なら、大丈夫そうならそのまま走り抜けちゃいましょう」


「二人も良いかな?」


「ええ、良いわよ」


「ニャ」


 皆の顔を見て話は決まった。

 先に進む前にここで支援をかけ直すことにした。


「皆手を」


 そう言うと皆は黙って手を差し出した。

 自分の緊張が移ったのか皆の顔は真剣だった。


 生唾をゴクリと飲み喉を鳴らすリック。

 深く深呼吸するリッケ。

 目をつむって何やら小言で言っているリッコ。

 重ねた手をジッと見つめるプルン。



 能力上昇系スキルをかけた後ゆっくりと歩き出す。

 その際リッケは歩きながら皆に支援を回し始めた。


「皆止まって。かなりいる……」


 広いフロアに入る前、壁を背にして中を覗くように状況を確認した。


「うわ、何だこりゃ……」

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