第43話 他のパーティーの事件/少年から青年へ

「ひぃ! モンスターがこっちに来たダス!」


「マムンさん、勝手に動かないで! あっ!」


 ギィーギィー ギィーギィー


 突如としてリティーナ集団に襲いかかるデビルゴースト。

 陣形を崩し集団から抜けたマムンを狙って、数体のデビルゴーストがバサバサと大きな翼を羽ばたかせながら近づいていく。


「あっちに行くダス! あっちの方が旨いダスよ!」


 マムンは剣を左右にブンブンと振り、デビルゴーストを近づけさせないようにしている。

 しかし、その剣が当たる事は無く空を切るばかり。


 そして、数匹のデビルゴーストが一斉にその大きな口を開け、甲高い声をマムンに、また、荷物運びの為の女性奴隷、駆け寄った男性冒険者がデビルゴーストのスキル〈超音波〉を浴びてしまった。


 キィーン!


「ギャーダス! み、耳が! 頭が! 痛いダス痛いダス!」


「うっ! 痛いよ」


「ぐあっ!」


 泣き叫ぶマムンと人々。直ぐさま冒険者の弓者が、デビルゴーストを狙うが素早い動きの的を撃ち落すことができない。

 いや、その冒険者の放った矢は他のデビルゴーストのスキル〈吸引〉で狙いを尽くと外されていたのだ。


「マムン! 皆! 落ち着きなさい!」


「後衛部隊! 一斉にあのデビルゴーストを撃ち落とせ!」


 ゲイツの指示は的確な物だった。


 デビルゴーストに数本の矢での攻撃は外されると言われている。それはデビルゴーストのスキルの〈吸引〉の事を解明されてはいなかったからだ。


 その為、冒険者達の中では避けきれない程の攻撃をすれば倒せると言われている。


 ギィギャー!


 連続で放たれた矢、又は魔道士から放たれた遠距離魔法がデビルゴースト達に次々と命中、落ちたデビルゴーストは地面に落ち、直ぐに他の冒険者の剣でその命を斬り落とされた。


「うっうっ、助かった……」


「皆! 大丈夫!?」


 頭を抑え、意識のある奴隷に近づこうとしたリティーナをゲイツが声を上げて止めた。


「お嬢! 油断するな、まだ終わりじゃない!」


「ゲイツ、何を!? 治療士の皆さん、彼らを治療をしてあげて!」


「お嬢様、ゲイツさんの言うとおり少しお待ちください」


「貴方達まで何を! はっ!?」


「ゲホッゲホッ、オエー。ハァハァ……苦しい、助けて」


「グフフ、グフフフ、フフ、アハハハ!」


「ダス、ダスダス! 俺の、俺の物ダス、全部俺の物ダス!」


 突如先程まで頭を抑えていた人々。


 ある人は口から朝食べたものを嘔吐しながら吐き出し、息を苦しそうに繰り返し咳き込み。


 またある人は突如不気味に笑いだし自分の首を自身の手で絞め始めた。


 そしてマムンは自身の持つ剣を冒険者や荷物を運ぶ奴隷達に向け、何を要求しているのか、全ては自分の物と勘違いしたかのように強奪まがいな事をし始めたのだ。


「何! 何ですの!?」


「お嬢は下がれ! お前ら! そっちの女には回復魔法と水を、そっちの方は手を縛れ、あと舌を噛まないように何か口を塞いどけ。マムン殿は俺が対処する」


「へい!」


「落ち着け、もう大丈夫だから。ほら、ゆっくりと呼吸しろ」


「こら! 暴れるな! 先に口塞ぐぞ! 腕を抑えてくれ!」


「解った!」


 ゲイツの指示で動き出す冒険者達。

 次々と対処されていく人々をリティーナは見ることだけしかできなかった。


 回復魔法をかけられ、先程よりも呼吸を落ち着かせた荷物運びの女性。

 口に猿轡をつけられ荒々しくも呼吸をし、腕を後ろで縛り上げられた男性冒険者。


「マムン殿! しっかりして下さい!」


「ゲハハハ、金! 女! 宝! 全て俺の物ダス!」


「ちっ! 駄目だこのおっさん。完全にイッちまってる」


「ゲイツさん! 加勢します!」


「やめろ! お前達は絶対に手を出すな!」


「なっ!」


「ゲイツ!」


 事実、ゲイツ自身の力ならマムン程の剣術など相手にはならない。


 問題はマムンが貴族の所有物である従者であること。

 ゲイツもマムンに好意的な印象は全く無い、だが、もしこの状態でマムンが自身の雇い主であるリティーナに剣を振るおうものなら、その場で斬り捨てるところだろう。しかし、リティーナ自身この場が全く理解できてないのか、頭が混乱しているために、本人が的確な指示が彼女は出せていない。

 だからと言って、ここで勝手にゲイツがマムンを斬り落とす様な事でもすれば、ゲイツがリティーナに剣を向けたと勘違いされない。


 ガキンっと剣と剣が重なり合った時の金属音を聞いて、リティーナがハッと剣を交えるゲイツとマムンを見て声を上げた。


 


「マッ! マムン止めなさい! 誰に剣を向けているのか解ってるの!」


「はぁはぁ……リ、リティーナ……お前を俺の物にすれば……はぁはぁ、俺はまた貴族になれる……オエッ! はぁはぁ、お前の身体……お前の地位……俺の物に、またあの生活が戻るダス。ふふっ……リティーナに俺の子供を孕ませるダス……ぐふっ……ぐふふ。ふーふー、はー、はー……」


 自身の欲を隠さず、そのまま舌を出し、ゲスい顔をしながらリティーナの身体を舐めるように見ては語りだしたマムン。

 告げられたリティーナは眉間を寄せ、自身に向けられた視線に嫌悪感を抱いていた。


「くっ……マムン………」


「お嬢! こいつは洞窟の呪いにかかってしまってる。悪いがもう助けれん! このままにしておくと他にも被害が出る!」


 洞窟の呪い。


 冒険者の中ではマムンの様にデビルゴーストの奇怪な声を聞くと狂乱する者が出ると言われている。

 そして、それを治す方法は未だに解明されてはいない。

 かかった者は、その足を切り落としても、体をズタズタに剣で切り裂かれようと正気には戻らない。


 デビルゴーストのスキル〈超音波〉これの効果はランダム的な状態異常。


 主に脳を揺さぶるので浅い頭痛や嘔吐。

 この程度なら少し休めば直ぐに戦闘にも復帰できる。


 少し重くて乱心状態。自身を傷つけたりいきなり叫び出したりと他者も怪我をさせる恐れがあるので、主に縄や猿轡をして時間を置き、治るのを待つしかない。


 そして今のマムンの様に狂乱状態。

 この状態は洞窟の呪いと言われるほどに重い物。冒険者の中では心が弱い物ほどこの状態になりやすいと言われており、かかった者は敵味方関係なしに殺し犯し、そして最後はスケルトンやゾンビに殺されてその命が終わる。


 これは悟りの洞窟での精神面の試練だとも言われている。


「はぁ……はぁ、ゲイツ……お前は俺の邪魔ダス、他の男も邪魔ダス…はぁ…はぁ。オエッ! オエー……はぁ…はぁ、リティーナ……いや! 他の女もおいてお前達は死ぬダス!」


 ダラダラとヨダレを出しながら時々嘔吐をし咳き込むマムン。


 マムンの目は真っ赤に血走っている。


 しかし、焦点は全くあっておらず何処を見ているのかが解らない。


「ちっ!」


 狂乱状態のマムン。

 通常の人は自身の力は30%も出せないと言われている。

 それは脳が無意識にストッパーをかけているからだ。

 しかし、今のマムンは違う。

 痛みもなければそんな事を考える頭も今は回ってはいない。

 完全に100%に近い力で剣を振っている。

 だが、技量がそれに追いつかない。

 ゲイツもそれを見極め、マムンに大振りさせる様に振られた剣を殺していた。


「お嬢様、残念ですがマムン殿はもう助かりません! ゲイツの旦那にマムン殿を斬る事を言ってください、そうしないとゲイツの旦那も危ない!」


「そうです! お嬢様! お願いします! ゲイツさんを助けてください!」


 リティーナに声をかける冒険者達。

 それを聞いても自身の従者を簡単に切れとは言える訳もなく、リティーナの判断を躊躇わせてしまっていた。


「くっ!」


 ガキン! ガキン!


「マムン殿! 気をしっかり持って下さい!」


「はぁ……はぁ、死ね! 死ね! ダス! リティーナは、女は俺が孕ませるダス! お前達に渡さないダス!」


 無駄とは解っているが何度も声を上げるゲイツ、このままでは他の冒険者や戦えない荷物運びの奴隷達まで巻き込んでしまう。


 その時、剣の重さに体のバランスを崩したマムン、そのまま荷物を運んでいる奴隷の女性の近くへと倒れ込んだ。


 ドサッ!


「ひっ! 嫌!」


「いかん!」


 そのまま自身の重い体にバランスを崩し、倒れたマムン。

 そして、倒れたと同時に女性の足を掴み、手繰り寄せるかのように女性を引き寄せた。

 力いっぱい掴んでいるマムンをひ弱な体の女性が払いのける事も出来ない。


「はぁ……はぁ。ヒッ、ヒヒヒヒ、おんな、女ダス! ゲヘヘへ、はぁ……はぁ。俺の子を孕むダス、ウヒッ、ヒヒッ」


 荷物運びの女性の奴隷服に手をかけるマムン。

 左手で女性の右肩を強く抑え、右手でビリビリと服を一気に引き裂いてしまった。


 露わになった女性の身体は少し痩せ気味だが、貴族奴隷だけに身なりは綺麗にしている。

 狂乱状態のマムンは正に野獣状態、女性のそんな姿を見たマムンは自身のズボンを脱ぎだし、皆が見ている目の前にも関わらず目の前の女性を犯そうとしている。


「嫌! 助けて! お嬢様! 助けてください! 誰か! いやああっ!!」


 抵抗する女性。しかし、マムンの手から助けようとするが、冒険者達が殴ろうと足で退けようとしてもその場からピクリともしない。


 恐怖、恥辱。女性が泣き叫ぶもマムンは荒々しい息を吐くだけだ。

 次々と他の冒険者も女性を助けるためにとマムンの体を抑えようとするが、重い体は動こうとはしない。


「マムンさん! 止めてくれ!」


「おっさん! ゲスな事してんじゃねー!」


「いやああっー!!」


 響く女性の悲鳴。


「ゲイツ! マムンを斬りなさい!」


 それはその場にいた皆に聞こえただろう。

 苦渋の決断の言葉にリティーナは顔をしかめ、声を上げた。


「……承知!」


「はあ……はぁ、リティーナ、お前も俺の物ダス……俺のも……」


 ドカッ!


 ゲイツの蹴りがマムンの顔を直撃する。

 首を上げるマムン。

 その瞬間、振り抜かれるゲイツの剣。


 ズバっ!


 ゴトッ


 マムンの分厚い肉と脂肪で守られた首がゴトリと音を出し地面へと落ちた。


 ゲイツの剣先からはポタポタと血が流れ、またバランスを崩したマムンの首の無い胴体はドサリと横に崩れ落ち、斬られた首からはドクドクと血を流しはじめた。


「ひッ!」


 目の前でマムンの首が落とされたのを見た女性はそのままショックと恐怖と共に気を失ってしまった。


「お嬢……。すみません」


「……いえ、マムンも危険を解って着いてきてるんです。結果はどうあれ貴方には辛い事を押し付けてしまったわね」


「……」


「マムン、ごめんなさい……」


 リティーナはマムンの首の無い胴体に祈りを捧げた。マムンがリティーナの従者となって数カ月と言う短い期間だが、自身の従者の死亡はやはり胸が痛む。


 暫くリティーナは祈りを続けていた。


 奴隷の女性にも辛い思いをさせたと思いながらも、この場で留まるのは危険とのゲイツの判断。女性の服はマムンが引き裂いてしまったので布で身体を隠し、冒険者が背負って運ぶ事になった。


 マムンの遺体は持ち帰る事は不可能。

 しかし、洞窟内の人間の死体はモンスターの餌となってしまう。

 最悪スケルトンやゾンビになるかもしれない。

 放置する事はできないので、魔術士が火魔法でその場で一気に焼き、マムンの骨はその場で砕くことになった。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 ゔゔぁぁがぁー……


 ドロドロに崩れ落ちるゾンビ。

 それを見てガッツポーズを決める少年。


「よし! 倒せました!」


「やったニャ!」


 〈ヒール〉でリッケがゾンビを倒せるかの検証。

 その結果は自分と同じとは行かず、やはりスケルトン同様に〈ヒール〉2回使用での討伐だった。


「おめでとうリッケ、これでスケルトンもゾンビも倒せる事が解ったじゃん」


「はい、皆さんのお陰で安全に試す事もできました」


「まぁ、殆どミツがやったけどな」


「そうよ。私足止めしかしてないし、リックとプルンの二人なんて動いてもいなかったわよ」


「ニャ! 仕方ないニャ! 全部ゾンビとかなんの嫌がらせニャ!」


「そうそう、倒し方解っててもマジ勘弁して欲しいぜ。それにあいつ自身が任せてくれって言ったんだからよ、俺達は守りに専念しただけだぜ」


「そうニャ!」


「それは解ってるわよ。いや、それよりもミツのその戦い方何よ!? あんた、やっぱりファイヤーボール使えるんでしょ!」


「だから使えないって。これは別のスキルだよ」


(まぁ、正確には火玉って言うより火の玉かな?)


 戦闘開始と同時に〈鬼火〉のスキルを使用して、数体で襲ってきたゾンビを燃やし尽くし処理をした。


 しかし、戦い方は先程の検証時と似た感じ。

 五つ出てきた火玉を一つ一つ投擲の様にゾンビに当てたのだ。

 勿論ゾンビに当たった〈鬼火〉は貫通し、空いた風穴から炎は燃え広がり、バタバタとゾンビを倒して行った。


 自分がこの戦法を選んだのはこれが効率が良かったのもあるが、一番の理由が〈スティール〉をする必要が無かったからだ。


 そう、出てくるゾンビを先程から次々と鑑定しているが、誰もスキルを1つも持っていない。


 結果的に〈時間停止〉を使ってスキル集めも無く〈風刀〉で首を斬るよりも悪臭を出すゾンビは焼いた方が臭いが多少は落ち着く事がわかったので燃やす事にした。


 燃えたゾンビをアイテムボックスに入れながらもリッケの方に話題を変えてみる。


「そんなことよりさ。今はリッケがゾンビを倒せたって言う結果のほうが大切じゃないかな?」


「うっ……。た、確に……。まぁ、良いわリッケ、あんたもゾンビやスケルトンの戦いには協力してもらうわよ」


「それに使うのがヒールだから、間違って誤発しても皆は回復するだけだから安心だよね」


「そうニャ。バンバン打つニャ、リッケ!」


 またシュシュっとシャドーボクシングをするプルン、彼女は攻撃をイメージしてるのだろうか?


「バンバンは流石に……」


「そうだな、また魔力枯渇されても困るし、緊急以外はリッケは取り敢えず支援だけで良いんじゃないか?」


「その時は自分の魔力あげるから大丈夫だよ」


(あっ、あげるにしてもリッケってMPいくつなんだろう?)


 少し考え、フッと皆を見ると、皆は目を細め呆れかもしくは訝しげな視線を自分に送っていた。


「……はぁ、またか」


「また……ですね」


「まぁ、聞いた事ある話だからまだ良かったんじゃない?」


「んっ? どうしたの皆?」


「ミツ、自分で言ってて気づいてないニャ? 今ミツ凄い事さらりと言ったニャ」


「えっ、えっ?」


「ミツ君……自分の魔力を渡す事ができるんですか?」


「うん?……あー。そっか、言ってなかったね」


「はぁ~、もう良いわ。あんたが何やっても私達は驚かされるだけなのよ。でっ、話戻すけどあんた本当にできるの?」


「まぁ、リッケの魔力量わからないけどね。多分大丈夫だよ……まだ、やったこと無いけど」


「ちょっと、大丈夫なんでしょうね!」


「ん~、どうだろう」


(ねぇ、ユイシス、リッケに自分のMP渡しすぎても大丈夫だよね?)


《はい、リッケのMAXMP量は95です。十分ミツのMP量内に収まります。また、渡しすぎて問題になることはありませんので安心して下さい。鑑定時に〈秘密探知〉を使用してみて下さい、相手の詳細情報が表示されます》


(へ~、そんな効果もあったんだ。どれどれっと)


 ユイシスに教えられた鑑定法をリッケに試し、そして追加として〈秘密探知〉を同時に使用してみる。



名前  『リッケ』    人族/17歳


性別男 身長171センチ 体重55キロ


クレリックLvMAX


転職可能new


【支援術】


木の杖orスタナー 治癒士のローブ


HP ______45。


MP______67/95。


攻撃力___25+(10)。


守備力___28+(10)。


魔力_____48+(30)。


素早さ___18+(10)。


運 ______15+(10)。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【ノービス】    Max


【クレリック】   Max


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ヒール________:Lv8/10。


ブレッシング__:Lv6/10。


速度増加______:Lv7/10。


ミラーバリア__:Lv6/10。


※父.ベルガー、母.ナシルとの間に産まれた次兄、母の魔力を高く引き継ぎ、生まれながら高い魔力値を備えている。


兄はリック、妹はリッコ


 鑑定の結果、いつも自身を見ているステータス画面に似た表示がされた。

 違いを上げるなら身長や体重また、下に書かれた詳細ぐらいではないだろうか。

 ってか何だ! 171センチって低身長の自分に対しての嫌味表示か!?


(まぁ、取り敢えずだ。今までは名前とスキルだけだったのにステータスが細かく見れるんだね。一応……便利にはなったね)


「ミツ君、僕の魔力量は今は解りませんが、戦い始めて結構魔力使いましたので、今は半分くらいかと思いますよ」


「うん、解った。じゃ、少し渡すね」


「はい、助かります!」


 そしてリッケにMPを渡す為、手をリッケに向けて考えた。


「……」


「……?」


「どうしたの?」


「いや、ちょっと待ってね」


(ねぇ、ユイシス、どうやって渡すの?)


 そうだ、渡し方をまだ理解してなかった事を思い出した。


《はい、対象者の魔力核に近い場所に触れ、スキルを発動して下さい。リッケの場合は首筋です》


「あ~、リッケ、少し触れるけど良いかな?」


「はい? どうぞ」


「っ!?」


 ユイシスの言われた場所に手を伸ばす。

 首筋と言う人間の急所でもある場所を触られてビクリとリッケが反応をする。


「直ぐ終わるから」


「はっ、はい」


「ニャ~」


「は~」


「手じゃ駄目なのか?」


「うん、リッケの場合ここじゃないと送れないんだよ」


「ふ~ん、まぁ、触れるだけで渡せるなら便利だよな」


「リッケ、送るよ」


「はい、どうぞ!」


(ディーバールチャンスダイ)


 スキル発動と同時に自分の手が光ゆっくりと自身の中からMPが無くなっていくのが解る。

 リッケの方は他者からMPを貰うという初めての経験にくすぐったさもあり、他者の手から流れ込んでくる暖かな自分とは違う魔力を初めて感じていた。


「うっ! あぁあ……くっ!」


「リッケ! 大丈夫!?」


「は、はい……。少しくすぐったいだけです」


「ふ~、終わったよ」


 リッケのMPが満たされると、自分の手からの出ていた光は小さくゆっくりと消えていった。


「……あっ、ありがとうございます。体の魔力が満ちているのが自分でもわかります!」


「じゃ~、次はリッコな」


「はぁ!」


 リッケの魔力が復活した事を確認したリックは、妹のMPの補充も提案してきた。


 確かにリッコも戦い始めて少しはMPを消耗しているだろう。



「そうニャ、ついでにやってもらうニャ」


「ちょっと! 私はまだ十分あるから大丈夫よ! それに……」


「えっ? 何だ」


「うるさい! あんな恥ずかしい真似できないわよ!」


「ははっ、僕でも少し恥ずかしかったですからね。リッコは無理せず緊急以外は使用しなくても良いのでは?」


「そっ、そうよ! 緊急でもない今は必要ないでしゅ」


(しゅ?)


(かんだニャ)


(ひっしだな)


(ひっしですね)


 恥ずかしいのかワタワタと手を振りながら顔を少し赤らめているリッコ。

 年頃の女の子にはたかが首筋と言え嫌なのだろうか。


(ねぇ、ユイシス、さっき魔力核って言ってたけど、リッコも同じ様に使用時には首筋に使うの?)


《いえ、リッコの魔力核は胸になりますので、胸に使って下さい》


(……はっ?)


 ユイシスの言葉に一瞬時が止まったかのような気持ちになった。

 その時、昨日の夜シャワールームから飛び出してきたリッコの身体を思い出す。


《胸に使用して下さい》


(where?)


《breast》


(いや、別に英語で返せって意味じゃないよ!)


「ん? ミツどうした、少し顔赤いぞ」


「大丈夫ですか? もしかして僕に魔力を渡した為に何か体に不調でも!」


「あっ、いや、そうじゃなくて……」


(うっ、駄目だ駄目だ! 仲間をそんな目で見ちゃ! ってなんで胸なんだ、手で良いじゃん! そうだよ、握手でもできるかもしれないし!)


《不可能ではありませんが、その場合リッコに負担がかかる恐れがあります。ミツは仲間にそんな事はしたくないのでは?》


(うっ、それは確かに……。なら緊急時以外はしないようにしよう)


「ん?」


「何でもないよ! リッコの言ったとおりに緊急の時以外は使うのは止めとこうよ!」


「おっ、おう」


「よーし! そうと決まったら先に行こう! もう行こう、さっさと行こう、ほらほら行くよ!」


「どうしたニャ?」


「さぁー、わかんね?」


(ふー。落ち着け落ち着け、自分の中身は30過ぎの男だ。確かにそっち系の経験は少なくても相手は一周り以上下、落ち着け~落ち着け~……。よし! 先ずは先に進む事を確認だ!)


 〈マップ〉を開いて下への道順を確認。

 ゾンビを探しながら道を進んでいたが、下への最短道は問題なく進んでいたので、後少しで降ることができる場所にいる。

 


(さて、後2つほど曲がれば降りれる場所かな……。ん? あれ、マーキングが消えてる?)


 自分はマムンにつけた〈マーキング〉が消えている事に気づいた。

 自分はこの洞窟内では仲間のプルン達4人と、洞窟内での顔を合わせないためにも、マムンとお付の二人の冒険者に〈マーキング〉を使用していたが〈マップ〉に表示されるマークが自身含めて7個しかない事に疑問を抱いた。

 その内消えたのが自分に敵意を持っていたマムンの赤いマークだけが無い。


(ねえ、ユイシス。マーキングって時間経過とかで消えるの?)


《いえ、ご主人様の頂いたスキル効果はそんなことでは消えたりしません。相手につけたマーキングが消える条件は、ミツ自身が消すか、マークを付けられた本人が死亡するかの2つのみです》


(えっ! 死亡!)


 自分はユイシスの言葉に驚き足を止めた。


「ニャ、ミツどうしたニャ? 敵かニャ?」


「あっ、いや、ちょっと待ってね」


「?」


(どうして? モンスターに殺されたとか?)


《いえ、死亡理由は斬首での即死です。モンスターの手ではありません》


(そっ、そうなんだ……)


 嫌な相手だったとしても死んでしまった理由がモンスターの手では無くての死亡。

 あの貴族パーティーにはそこそこに人がいた事を思い出していた。


「また盗賊かな……」


「え? 盗賊! この先に居るのか!」


「っ!」

 

 自分の言葉にリックが反応し、手に持つ武器を構え直すと、他の皆も進む先を見て身構えた。


「いや、ごめん、この先には何もいないから大丈夫だよ。ただ……」


「ならどうしたニャ? 盗賊なんて言い出すから驚いたニャ」


「うん……」


(どうしようかな……。盗賊って決まったわけじゃないし……。それにワザワザ見に行く必要もない……。後、他の2つのマークは消えずにそのまま残ってるし……。でも、死んだ理由が理由だしな……)


 冒険者と言うのは危険と隣り合わせの職業。

 危険を覚悟でやっていない人は先ず居ないだろう。

 だが、護衛はいるとは言え貴族は冒険者じゃない。

 確かにリックとの多少口論もあっだが、それはそれ、気にしたまま洞窟探索も気持ち悪い。


(は~、自分でもお人好しな正確だとつくづく思うな~。よし!)


「ごめん皆。もう少しスケルトンと対人戦の練習したいから、もう一周だけまわってもいいかな?」


「えっ? ここをか?」


「うっニャ~」


 やはり前衛の二人からは余りいい声は出なかった。

 だが後衛の二人はそんなこともなく、自分の言葉に言葉出さなくとも軽く頷き返してくれていた。


「ごめんね、もう少し戦えば武器の扱いも慣れそうなんだ」


「そうか……。なら、お前を先頭にして行くことにするか?」


「なら、凸型ですかね? プルンさんとリックが僕達の後ろでしょうか」


「それならいいニャ。ウチは後ろから来た敵を倒すだけニャ」


「ありがとう、皆」


(そうだ、スキル集めの為に回ると思えば良いんだ。たまたまもう一周してたまたまあの貴族様の近くを通って、たまたま様子を見ればいい。よし決まった!)


「いいのよ、行くならさっさと行きましょう」


「そうですね」


 皆との相談も終わり、今来た道を少し戻り上手いぐわいにリティーナ達のいるパーティーの方へと足を勧めた。

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