第42話 他のパーティー/浄化の光を

 ドドドッドカーン!


 洞窟内に響く爆音。

 その後に激しく揺れる地響き。


「なっ! 何事ですの!」


「お嬢、よそ見をするな! スケルトンは動きを止めてはいない!」


 ガシッ!


「くっ!」


 爆音に驚き、スケルトンとの戦闘をおろそかにしてしまったリティーナ。

 それを直ぐに激と共にフォローを入れるグラスランク冒険者のゲイツ。


「何事ダスか! お前ら俺の近くにいるダス! 守るダス!」


「へへっ、いいんですかい? ゾンビもマムンさんの近くに行く事になりますよ」


「ダスダス!? そんなことが許される訳が無いダス! あっちへ行くダス!」


「へいへい」


 リティーナとは違い自身は戦闘には参加せず、護衛の後ろに隠れながら指示を出すマムン。


「なぁ、俺は最近雇われたから知らねんだけどよ。何で従者程度のアイツがあんなに偉そうなんだ?」


「あぁ、あいつは従者である前に元男爵家の三男だったらしいんだよ。それで長男が家を引き継いだけど、その下の次男と三男であるあいつは功績も上げれずに一般落ちしたらしい。それでも親のコネでも使ってお嬢様の従者として働いてるんだとよ」


「えっ? でもそうなると、一般市民の俺達と変わんないんじゃ?」


「いや、貴族から貴族の従者になると地位的には一般よりも上になるらしい。俺もその辺は詳しくは知らないけど、あのオッサンが偉そうなのは今の従者の地位あってだそうだぜ」


「へ~。まぁ、俺達雇われ人には関係ないけど、アイツに指図されるのは何かムカつくな」


「本当だぜ……。ゲイツの旦那が居なかったら、とっくにあんな奴置いてとんずらしてるぜきっと」


「いつまで戦ってるダスか! もうさっさと倒すダス! そしてちゃんと守るダス!」


「「ウゼー」」


 臨時で雇った冒険者にアレコレと指示を飛ばすマムン。


 声が飛び交う中、先程の爆音がこの悟りの洞窟で起きることは無いと解っているゲイツ。

 ゲイツはフッと、頭の中で少年達の事を思い出していた。


 ここは4階層、ブロンズランクは入ってこれない場所だが、少年達、彼らをゲイツは見た目だけでまだブロンズランクと思っていた。

 だが、もしかしたらアイアンなのかもしれない。

 少年達が自分達が4階層に入るタイミングをずらし、後にこの階層に居てもおかしくはないのだ。


 3階層でのバルモンキーの群れ、これをたったの数人の少年と少女が殲滅させた。

 その戦闘を見るだけなら、一人の少年以外、あの四人なら今のゲイツと、一緒に雇われている冒険者の方が明らかに力は上なのは確かだ。

 それでも、あの少年達とこの洞窟内で敵対などしたら間違いない……。ここに居るゲイツも含め、全員がただでは済まないだろう。


 先程のセーフエリアには、荷物を猿共の戦闘で失った者が多くいた。

 そんな冒険者達に自身の食料を分け与え、炊き出しを行ったことは、ゲイツの耳にも入ってきている。

 敵対しなければ、寧ろ知らない相手にでも手を差し伸ばしてくる好意が持てる少年達だ。

 俺達は幸い荷物には被害がなかったので炊き出しに並ぶ事はなかったが、それはマムンと顔を合わさせないためでもあった。


 ギャーギャーと冒険者に指示だけを飛ばすマムンに、ゲイツは少し睨みを飛ばしながらも、もう少年達と揉め事は起こさないでくれと心で祈るしかなかった。


 ゲイツは目的である階層についたら、予定を早めて引き上げる事を決めていた。


「お嬢、先程の爆音は他の冒険者が魔法でも打ったのでしょう。今は落ち着いて目の前の敵に集中して下さい」


「そ、そうね。解ったわ」


 剣に着いたゾンビの血を払い飛ばし、次の目標となるスケルトンに剣を構えるリティーナ。


「それとお嬢、今回は他の冒険者が少ない。その分、今はモンスターがかなり生息状態になっている。予定よりも早めに切り上げることを伝えておく」


「そう……。仕方ないわね」


 4階層に入って、リティーナ達は連戦が続いている。

 流石に自身も戦ってるので、ゲイツの言葉の意味はリティーナはすんなりと理解できた。

 ゲイツは他の冒険者としても名が通った冒険者。

 その冒険者の言葉は、自身の安全と今後に役に立つことだとリティーナは理解している。

 だが、従者のマムンはその言葉に反論を出してきた。


「待つダス! お前らには多くの金を出してるダス! 予定より早く切り上げて報酬をせしめようなんて考えじゃないんダスか!」


「はぁ~」


 ゲイツの話を理解してないマムンに聞こえるようなため息をするも、理解力の低いこのオヤジにどう説明したらいいのか考えるゲイツ。


「なんダス、反論しないって事はそう考えてるダスか! これだから冒険者は常識知らずダス! もう頭金は払ってるダス、しっかりと働かないと逆に賠償を請求するダスよ!」


「止めなさいマムン! あなたが言っていることは私に恥をかかせて泥を塗る事だと知りなさい!」


「ムグっ!」


 一喝の言葉としてマムンを黙らせるリティーナ。

 歳はまだ10代半ばの娘だとしても相手は雇い主の娘。自身の立場を考えると何も言えなくなる。

 モンスターも倒し、周りの冒険者が集まり、少し冷たい視線を集めていた。


 そこに前に出たゲイツ。


「マムン殿……。私の依頼は確かにお嬢をこの洞窟での指定日数訓練に付き合う事です。ですが、その前に契約上で第一に優先すべきはお嬢の安全のはずです。私は問題無く契約道理に働いていますよ。この事を含めて賠償と言われるなら、この場で私含め、ここの冒険者はあなた達を置いて帰らせて頂きますがよろしいですかな?」


「ぐぬぬっ!」


 正論と言える事をゲイツに淡々と告げられ、顔を真っ赤にし、苦虫を噛んだかのようにマムンは顔を歪ませていた。


「だ、だったら、必ず最後まで何があってもお嬢様を守るダス!」


「元よりその積りです」


 マムンは一言残すと、また自身の安全のために冒険者に囲まれた中央へと移動し、なにやらブツブツと独り言を言い出す。


 元貴族の息子として剣の修行は受けているが、それは貴族としての剣の立ち回りや礼儀のみ。

 実戦でのマムンは誰から見てもお荷物としか思えない状況でしかない。

 最近下がり気味の自分の評価を上げるためにと、共に付いてきたリティーナの剣の修行。

 結果的にマムンの評価は急勾配の様にだだ下がりだった。


「お嬢、すまん……。嘘とは言えここに置いてくなど、虚言を言ってしまった」


「いいわ、あなたがそんな事をするとは思ってないから。それよりも困ったものね……」


「お嬢様、俺達は立場上マムンさんには強くは言えません。俺達冒険者や荷物持ちの者達はお嬢様にその辺は頼りっきりになってしまい申し訳ないです」


「いえ、その辺の勉強も兼ねての今回の探索……。大丈夫よ。処で、ゲイツ、さっきの音は本当に他の冒険者なの?」


「あぁ……。俺達冒険者は何度もここに足を運んでいるが、あんな音を出すモンスターはいないし、現象もこの洞窟ではありえない。間違いなく他の冒険者だろう」


「そう、私は魔法の事にはサッパリだから解らないけど……。このまま進んで問題がないなら良いわ」


 先程自分が思ってた事をリティーナに伝えとくべきかと思ったゲイツだが、自身の確信の無い言葉にまだ洞窟での探索が不慣れなリティーナに更に問題を背負わせる必要は無いとゲイツは言葉を止めた。


「ゲイツさん! またスケルトンが来ます!」


「よし! 陣形を崩すな! 後方には絶対に行かせるなよ!」


「「「おう!」」」


 戦闘がまた開始され、皆がピリピリとした空気の中、1人まだブツブツとなにやら喋っている人物もいた。


「俺はこんな所に居るべきじゃ無いダス……。あんな小娘に……」


 戦うゲイツとリティーナを睨みつけるマムン。

 彼のその顔はとても深く黒い表情だった。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


「「「「ないわー」」」」


 爆音の後にプルン達は同じ気持ちで声を上げていた。


 目の前にあるべきモンスターの亡骸も無く、砂煙が晴れていく中に少年が1人その場に立っていた。


「あ~、またやってしまった」


 自分自身は自身のステータス上昇を目的として洞窟に来ているが、リック達3人はモンスターの素材、つまりは生活費を稼ぎに来ている。

 それをモンスターの骨一つも残さない程の威力の攻撃。

 このままではリック達の稼ぎにもならない事になる。


「えーと、皆ごめんね。モンスターの素材が……」


 恐る恐るとリック達の居る方へと戻る。

 何か言われる前に先に謝っとく事にしたようだ。


「……」


「まぁ、アレだ、なぁ、リッケ」


「えっ! あっ、はい、えーと」


 言葉に困るリックとリッケ。

 リッコに関してはモンスターが元いた場所を唖然とした表情で見ていた。


「ミツ、凄かったニャ! でも、アレじゃまたモンスターの素材取れないニャ」


 そんな三人とは違い、プルンはすんなりと自分の破天荒な行動に、変わらずいつも通り普通に反応してくれていた。


「うん、半分はちゃんとアイテムボックスに収納はしてるんだけどね」


「あー、何だ、まぁ、半分でも回収できたんだから良しとしようぜ……。なぁ?」


「そうですね。何だか驚きでまだ心臓がバクバクです。でも、結果予想通りでしたから……。んっ。リッコ大丈夫ですか?」


「……」


 ゆっくりとだがリックとリッケが落ち着きを取り戻してきて何とか話を切り出してきたが、未だに放心状態のリッコ。

 目の前で手を降っても気づかないので〈コーティングベール〉を使用して意識をこちらに向けさせた。


「はっ!」


「おぉ、戻ってきたな。リッコ、お前大丈夫か?」


「ええ、少し驚き過ぎただけよ。それよりミツ、また素材駄目にしちゃって!」


「あー、それさっきウチが言ったニャ」


「あっ、そうなの?」


「話聞いてなかったニャ」


「ごめんごめん、さっきも言ったけど半分は回収してるから」


「そっ、なら良いわ。じゃ~先に進みましょう」


「ミツ、もう試したい事は全部やったニャ?」


「「「!?」」」


 プルンのさり気ない言葉にビクリと反応する三人。

 まさかさっきのでまだ終わりではないとは言えない。


「そうだね……。まぁ、今のところはね」


(まだ影分身とかあるんだけど、これは戦いじゃない時に検証しようかな)


「この様子だとまだあるな」


「そうですね。僕達この洞窟から出たときには別の意味で悟ってそうですよね」


「何うまい事言ってるのよ」


「ニャハハ、取り敢えずこの階層も大丈夫みたいだし、陣形はどうするニャ?」


 能力上昇系スキルを使用すればリックもプルンも前衛としてスケルトンは倒せることは解った。

 リッコも同じ様に火玉でゾンビは討伐できることが解ったので自分達はこのまま進むことに決まった。


「前と同じ凹型陣形で行くか」


「そうですね……。ミツ君を真ん中にすれば、後から直ぐに援護は来そうですし。

 僕も彼が隣りに居てくれた方が支援に集中できますから助かります」


「そうね、私もその方が安心するし……。んっ……? はっ!」


 リッコの言葉にプルンがニヤニヤとした表情を浮かべ反応していた。

 物事は言ってないが、プルンの顔が少し冷やかしたニヤニヤとした顔をしている。


「言っとくけど魔法が使いやすいってだけよ! ミツは弓で戦えば私の魔力も乱されないし! そうよ、他に意味なんて無いんだからね!」


 焦るリッコ、自身の言葉をフォローするかの様に、バシバシと自分の背中を叩きながら誤魔化している。

 自分自身は〈痛覚軽減〉MAXなので痛みはないので気にもしていない。


「うっ、うん、解った、解ったから」


「どうしたニャ~。ウチは何も言ってないニャ~。ニャッハニャッハニャッハ」


「う~」


 ニヤニヤと笑いながら顔を真っ赤にさせているリッコにチャチを入れているプルン。

 二人の会話はまるで女子中学生か高校生の会話だ。


「まぁ、取り敢えず前を俺とプルン、後ろはミツを挟んでリッコとリッケな」


「そうですね。もし後ろから敵が来た時、直ぐにミツ君が後ろに回れば、僕とリッコ、僕達を挟む陣形に変わりますもんね」


「うん……。そうね」


「ニャッハニャッハ」


「プルン、その顔しつこいよ」


「ニャ!」


 先へと進む陣形も決め、また少し狭い通路を歩いていく道中、フッとパメラの言葉を思い出した。


「こんなにスケルトンもゾンビも強いのに、何でここが治療士の育成にピッタリなんだろうね?」


「ニャ? 確かに、パメラ様が言ってた事ニャ?」


 領主の第一婦人パメラはまだ新米治療士の時にここに来たと言っていた。

 しかし、スケルトンはランスを弾く程に固く、ゾンビも簡単には燃えてくれない。

 それでもパメラは治療士なら行けるような素振りを言っていたのだ。


 その時、リッケの言葉がパメラのアドバイスを思い出させた。


「ミツ君、そのお方も治療士なんですか?」


「うん、回復のハイヒールを使ってたから治療士だと思うよ……。あっ、そうだ、そう言えばアンデッド系にはヒールを使いなさいって言ってた!」


 パメラを詳しく鑑定はしてなかったので回復スキルの〈ハイヒール〉を使用した事で予想で治療士と思ったのだ。


 更にはアンデッドにはヒールの回復魔法が有効だと言うことも思い出した。


「なるほど、確かに……。治療士だけ使えるスキルと言えば癒やしのスキルですね。育成にピッタリと言うくらいですから、僕達治療士だけが使えるスキルの中で、ヒールがこの階層のモンスターに有効なスキルかもしれません」


「ごめんね皆、大切な事なのにすっかり忘れてたよ」


「ニャハハ、ミツはうっかり者だニャ」


「えっ!? その場にプルンもいたよね……」


「ニャ? そうだったかニャ? ニャハハ」


 はーとため息を漏らすも、プルンは完全に忘れていたのか、もしくは聞いていなかったのか、両腕を頭の後ろに組み気楽にアハハと笑うだけだった。


「まぁ、次にモンスターと出くわしたら試してみましょうよ」


「試すのはいいけどよ。念の為に1匹のときだけにしてくれよな」


「そうよ、それに試すならミツだけがやってよね」


「えっ? 何で自分だけ?」


「一番の理由はあんたが接近戦もできるからよ。もしスケルトンに試して、そいつが突然暴れだしたらどうするのよ? リッケじゃ対処が遅れるでしょ」


「リッコ、酷いですね……。確かに僕は接近戦は苦手ですけど、襲ってくる敵から逃げる事ぐらいはできますよ」


「まぁ、検証はミツにお願いするとして、それが成功したらリッケも試せばいいんじゃね?」


「解った」


「すみません、ミツ君にお願いしっぱなしで」


 話し合いの結果、次に最後に残ったモンスター、スケルトンかゾンビ何方かに自分がヒールのスキルを試す事になった。


「ううん、良いんだよ。リッコの言う事も間違いじゃないし、リッケを心配しての言葉だから、自分は気にしてないよ」


「まぁ~、兄を心配するのは妹として当たり前だもんね」


「おい、俺もお前の兄だよな?」


「はいはい、リッケの半分は心配してますよ」


「はっ、半分ってお前……」


「ちょ、ちょっと、冗談じゃない! まじでヘコまないでよ」


 がっくりと肩を落とすリックに流石に言い過ぎたとリッコのフォローが入っているが、また自分達の話し声に引き寄せられたのだろう。

 通路の奥から数体のモンスターが近づいて来ていた。


「二人とも、悪いけど敵が来たから話は後でね」


 リックを宥めるリッコは言葉を止め、手に持つ杖を迫ってくる敵へと向けた。

 接近するスケルトンがワラワラと奥からやって来るのが見えた。


「ミツおまじない! おまじない早くニャ!」


「はいはい、皆手を」


 能力上昇系スキルを完全におまじない扱い。


 まぁ、自分はそれほど気にしないが、もっと別の言い方はなかったものかと思う。


 自分も含めて能力上昇系スキルをかけ、その上からリッケの支援、更にその上から自分のプロテスをかければ万全だ。


「取り敢えず1匹を残して後は殲滅な!」


「ニャ!」


(今度はスキル取らないとね。状態異常にすれば早いだろけど、スケルトンには即毒は効かないだろうし)


 ガシャン!


(スティール!)


《スキル〈パワースイング〉〈カウンター〉を習得しました》


パワースイング


・種別:アクティブ


鈍器系のスキル、強烈な一撃を打ち込む、レベルが上がると威力が増す。


カウンター


・種別:アクティブ


相手の攻撃に合わせてカウンターを打ち込む、攻撃された威力そのままを返す事ができる。


(リックとプルンがスケルトンの弱点の頭を一撃で落とすし、今は時間停止をして取る方法しかないな。スケルトンの足元を弓で崩しても、瀕死状態までは持っていけなかったし)


 自分はナックルの通常攻撃でスケルトンを倒してしまう恐れを考え、先ず弓矢での攻撃を仕掛けてみた。


 結果は足の骨をバラバラに砕かれたスケルトン。行けると思ったが腕を使い匍匐前進の様に向かってきた。

 それを見たとき、本当にちょっとしたホラーに感じた。

 足の破壊程度のダメージでは結果〈スティール〉はできず、プルンの攻撃で頭部にトドメの一撃を喰らい、それと同時にスケルトンは動きを止める、その瞬間〈時間停止〉でスキルを回収したのだ


(ん~、確実に取れる方法が今はこれしか無い。しかも、使ったあとのディキャストタイムの間に他のモンスターが二人に次々と倒されてしまってる……結構スキルが盗み損ねてるな……)


「ミツ、どうしたニャ? 手が止まってるニャ」


「う、うん。いや……、二人とも倒すスピード上がったなと思って」


「そりゃな、お前とリッケ、二人から支援貰えばその分能力も上がるし」


「そうニャ、それに力だけじゃなくて攻撃のスピードも上がってる気がするニャ!」


 まぁ、現に〈攻撃速度上昇〉のスキルもかけてるのだから攻撃スピードが上がってる事に間違いはないのだが。


 スケルトン6体が現れ、戦闘開始と同時に2体のスケルトンが、リックのランスとプルンの正拳で落ちたのは驚きだった。


 本人達は先程よりも早く動けている事にまた驚きも、最初苦戦していたスケルトンを倒せる事に喜んでいた。


 カタカタ……ガシャン


「良し! 残り一匹だぞ、ミツやってくれ!」


 自分のリィキャストタイムが終わる前にと、リックの連続攻撃がスケルトンに決まり、アッサリと残り一匹のスケルトンを残して全てをランスで頭部をひと突きで終わらせてしまっていた。


「うん、解った。二人は後ろに」


「ニャ」


 自分の言葉の後、リックとプルンは後ろにいるリッコ達の方へと下がった。


 スケルトンを対面に自分は念の為にと左手に〈風刀〉を出し、いつでも対応できるように準備をした。


「まぁ、そのままヒールをかけろって事かな?」


「ミツ、頑張るニャ」


「うん」


(ゲームとかじゃ薬草や回復アイテムで敵を倒せる物もあったけど……)


「ヒール!」


 カタカタカタカタカタ……シュワー


「「「おおー!」」」


 〈ヒール〉を受けたスケルトン。

 その瞬間、骨が高速に音を鳴らし止まったと同時に、一瞬で白い粉となってその場に崩れ落ちてしまった。


 突然の事に歓声をあげる面々。


「ここまでヒールが有効だなんて……」


「凄いわね……。これなら治療士でもここで戦えるわ」


「でも、僕も同じようにやってみて倒せるでしょうか? 僕とミツ君の魔力の差があると思うんですけど」


「なら次はリッケが試すニャ」


「そうだな。出会った敵がいたらもうヒール片っ端からかけて倒しちまえ。もしかしたらミツみたいに一回で倒せる敵がいるかもしれねえし」


「スケルトンはヒールで倒せるかもしれないけど、まだゾンビがいるよ。次にゾンビが来たらまた自分が試してみるからね」


「はい、解りました。ミツ君、お願いします」


 検証を兼ねてあえてモンスターが居る方へと足を進める。

 ちなみに、ヒールで倒したスケルトンを確認すると、骨粉と言う名前で鑑定で表示されていた。

 今は袋も無いので倒したスケルトンの着けていた兜を逆さにし、その中に骨粉をいれアイテムボックスへと収納しといた。


 暫く歩くと現れたのはゾンビ3体、スケルトン1体。そして、見たことの無いコウモリが一匹。

 鑑定して見るとデビルゴーストと名前が表示された。


デビルゴースト


Lv3。


吸血_____Lv2。


吸引_____Lv2。


吸収_____Lv1。


 見た目はコウモリだがサイズが少し大きい様な気がする。

 昔テレビで翼を広げると2メートルを越えるコウモリを見たことがあるが正にそんな感じだ。


 違いを上げるというのならデビルゴーストの体は赤く、口から突き出した長い牙、ギョロギョロ動く目だろう。


(スキルが吸血だけに血を吸うのかな?)


《デビルゴースト。血を求めて洞窟内に住みつきます。気性が荒くまた肉食でもあります》


「皆、あのコウモリっぽいのかなり危ないから気をつけて!」


「コウモリ? あれコウモリって言うの?」


「ああ、いや、正式名はデビルゴーストだよ。ただ、自分の住んでたところにもアレに似たのが居たから」


「ふ~ん、それがコウモリって名前って事ね」


「ミツ、あれの倒し方は解るか!?」


「ごめん、コウモリは倒したことないね。でも、あれは危険だから噛まれないように気をつけて」


 事実、日本ではコウモリを一般市民が勝手に駆除したり殺してはいけない。

 コウモリ自体、多くのダニやウィルスを持っているために必ず業者へと連絡しなければいけなかったからだ。

 また、日本では鳥獣保護管理法と言うのがあったために倒し方など自分が知る訳もない。


(しかし、この世界のコウモリはキモいな~。テレビで見た記憶だともう少し可愛い顔してた記憶だったけど……あの飛び出しそうな眼球がギョロギョロと動くと可愛さなんて無いわ)


「取り敢えずリッコはファイヤーウォールで壁を、先にデビルゴーストを自分が撃ち抜いてみるよ」


「解った! ファイヤーウォール!」


 ゴー!!


 リッコの出した大きな炎の〈ファイヤーウォール〉でデビルゴーストは驚きバサバサと天井まで飛び上がっていった。


「良し、真上! そこ!」


 バシュ!


「あっ、あれ?」


 自分の矢はデビルゴーストの胴体は撃ち抜かず羽の部分を撃ち抜き貫通した。


 羽を撃ち抜かれたデビルゴーストはフラフラとバランスを崩しながらも何とか高い岩壁へ張りついていた。


(あんな大きな的を外すなんて、少し焦りすぎたかな?)


《ミツ、デビルゴーストの〈吸引〉スキルで若干ミツの放った矢の流れを変えられました。その効果で狙いから外されたと考えられます》


 またユイシスの言葉にフッと視線を変えると、近くの岩影に別のデビルゴーストが隠れている事に気づいた。


(うわ~、弓職には嫌なスキルだねー。でも動きが止まってる今なら何とか!)


 バシュ!


 自分の放った矢は真っ直ぐに飛び、壁に貼りついたデビルゴーストの身体を直撃した。矢の直撃を受けたデビルゴーストはそのまま地面へと落下していく。


 ユイシスのサポートでまだもう一匹いる事が解っている。

 そちらの方へと矢を狙いを定め、その隠れた体の一部へと〈即毒〉を着けて矢を命中させた。


 ギュー!


 羽ばたく腕を翼ごと吹き飛ばされたデビルゴーストは声を上げながらそのまま落下していった。


「んっ! あっちにも居たニャ!?」


「うん、でももう動けないと思うから大丈夫。トドメ刺してくるね」


(毒で死んじゃう前にスキル回収しないと)


 自分がデビルゴーストに近づくと、仰向けで口からは毒々しい紫色の泡を吹きながら痙攣している姿がそこにはあった。


(よし、状態異常だ! スティールっと!)


《スキル〈吸血〉〈吸引〉〈超音波〉を習得しました》


吸血


・種別:アクティブ


血を吸う事で自身の体力を回復する。


吸引


・種別:アクティブ


物を自身の方へと引き寄せる事ができる、レベルが上がると効果が増す。


超音波


・種別:アクティブ


目に見えない音波を出し、相手の脳を揺さぶり状態異常を引き起こす、レベルが上がると距離と効果が増す。


(あれ、吸収じゃなくて超音波ってのが来た。説明を見た限りじゃゾンビとかスケルトンには効かないかな?)


 倒したモンスターをアイテムボックスに回収後、リック達の方へと戻って行くと、リックがスケルトンに対して〈ヒール〉を試していた。


「ヒール! ヒール!」


 ガタガタガタガタガタ……バサー


 リッケの〈ヒール〉を受けたスケルトンは骨を激しく鳴らし、それが鳴り止むと同時に原型を止めない骨粉状態となった。


 リッケは〈ヒール〉二回でスケルトンを倒す事ができた。

 自分は一回で落とし、リッケは二回。

 この違い、これは何だと考えればスキルとステータスの違いだろうか。


「やった! 僕にも倒せました!」


 前衛のリックとプルンが苦戦したスケルトンを〈ヒール〉二回で倒せたことで、自分でも戦闘の役に立つと解ったリッケは珍しく腕を上げガッツポーズをきめていた。


「ナイスリッケ!」


「ミツ君、はい! 僕にもヒールで敵を倒す事ができました! でも……ミツ君みたいに一回では無かったですけど」


「それでも凄いニャ! リッケも戦闘に加われば戦闘も楽になるニャ!」


「そうよ、それにミツと比べたら何も出来なくなるわよ」


「確かにな」


 現に五人パーティーで五人皆が戦闘ができて、更には二人が回復ができる状態。


 更に言えばミツと言う前後支援ができると言うイレギュラーの様な戦闘スタイルを持つ人物も居る事で正に少数精鋭、見事にできすぎるパーティーが出来上がっていた。


「リッコ、ゾンビを一匹残して火玉で倒してもらっても良いかな」


「ええ、解った」


 リッコがゾンビを足止めの為に使っていた〈ファイヤーウォール〉を解除と同時に〈ファイヤーボール〉を連続で発動。

 3匹中2匹のゾンビが頭を吹き飛ばされ、そのまま倒された。


 残った1匹のゾンビ、これも先程のスケルトンと同様に〈ヒール〉で倒せるかの検証をする為にあえて倒しはしない。


「皆は少し離れててね」


「臭うから早くニャ」


 プルンは特にゾンビの悪臭いが駄目なのか、少し離れるどころか、リック達から2~3歩距離を開けていた。


「はいはい、じゃー試すよ。ヒール!」


 ボォォおお


 うめき声を上げながら悪臭を出すゾンビ。

 スケルトンの様に粉になって崩れ落ちるような事はなく、ゾンビはドロドロと溶けるように崩れ落ちた。ハッキリ言って気持ち悪い、正にグロ注意だった。


 少し嫌なものを見てしまって眉間を寄せるが、皆は驚きの表情をしながらも歓喜の声を上げていた。


「おぉ、倒せた! マジか! こうなるとこの階層だとリッケは無敵だな!」


「いえ、流石に僕でも飛んでいるデビルゴーストは倒せませんし、僕の魔力も多い訳ではないので無敵ではないですよ」


「そうよ、油断大敵よ」


 皆がワイワイと話している中、自分は倒したゾンビのドロドロの亡骸を見て回収するべきか悩んでいた。


 通常首を切り落としたり突き刺して倒していたゾンビ、体の肉は腐り落ちても原型は止めていただけにアイテムボックスに入れる事はできた。

 しかし、今は違う。

 完全にモザイク処理の入る程の見た目。

 これをアイテムボックスに入れる気にもならない。

 いやゾンビとか元々入れたくは無いけど、何が素材報酬になるかわからないので倒した敵は今までも片っ端から回収してきたのだ。


「……どうしよう」


「ミツどうしたニャ?」


「いや、コレ持っていくべきかどうしようかなと」


 先に倒したスケルトンや頭の無いゾンビは既にアイテムボックスに入れてしまったが〈ヒール〉で倒したゾンビを前に考えている自分にプルンが答えた。


「どう見ても素材として使えるのは無さそうニャ。他の冒険者も捨てていくと思うけど」


「そうだね。ゾンビは原型が留まってるのだけ持っていくことにしようか」


 自分はその事をリック達にも伝え承諾を貰ったので〈ヒール〉で倒したゾンビだけは放置する事にした。


 そして次の戦闘はリッケの番として、ゾンビを探す為に少しこの階層をリティーナ達一向に鉢合わせしないように〈マップ〉を使用しながらフロアを歩く事にした。


(さてと、あの人達はどの辺かな? ……ん? 動いてない、休憩でもしてるのかな……。まぁそれならそれで)


 〈マップ〉を使用してリティーナ達の動きを確認すると、先程確認した場所からそれ程動いてなかった事が解った。


 いや、自分達が倒したモンスター程の量ではないが、リティーナ達も戦闘をしながらも少しづつ進んではいる。

 通常狭い洞窟での戦闘は時間がかかるもの。

 リック達も洞窟の探索は初めてなので、進むスピードに違和感を出す事なく進んでいたのだから仕方ない事だった。


 自分達は次に出会うモンスターまでは罠に注意を払いながらと先へと進んだ。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵


「ちっ! 忌々しいスケルトンですわ!」


「お嬢、敵が振ってくる武器だけ見るんじゃなく、動きもしっかりと見ろ! 次にどういった攻撃が来るかしっかりと見極めるんだ!」


「くっ! てぇい!」


 ガシャン


 リティーナの斬撃は見事に剣を持つスケルトンの頭部を貫き、骨を貫く音と共に崩れ落ちた。


「やった! はっ!」


 息をととのえる暇もなく、剣を盾変わりと次に襲い掛かってきたスケルトンの攻撃を横へと流すリティーナ。


「そうですお嬢。倒したからと言ってそれで終わりではないのです。敵は自分の仲間を犠牲にして次の攻撃を仕掛けてくる!」


「フン、解ってます!」


 また繰り返し始まるスケルトンとの戦闘。


 スケルトンが持つ武器は毎回異なるもの。

 次に戦うのは刃先が欠けた斧を持つ相手だ。


 リティーナが剣の訓練をしにこの試しの洞窟に来た理由。

 それはリティーナ自身貴族家の独り娘。

 いずれは何処かの貴族の子息と結ばれ、自身の家系を絶やす事なく婿を招き入れ、そして自身のフィンナッツ家を繁栄させなければいけない。


 しかし、身分は子爵家貴族としては下の地位である、そんな下貴族に婿に来る貴族など同じ子爵家位、運良くて伯爵家の次男三男。しかし、栄光を取るにはそれなりのことを行なわらければ行けない。


 例えば自身の領地の人口増加、災害からの人命救助、新たな発見や栄光となる功績を上げる事。

 様々な方法はある、只どれも結局は資金源、お金が必要な事が多いい。


 子爵家とは言え、貴族としての援助金は勿論国から回ってくる。

 ただしそれは家の維持として雇っているメイドや執事の給料、食事代や諸々で消えてしまう。

 そのお金を使ってしまえば自身の家が維持することもできなくなるので使う事もできない。


 リティーナの父、レクロウィン・フィンナッツ子爵も自身に力が無いので今の地位で止まっている事に日頃悩んではいる。


 そこでリティーナが父へと提案したこと、それは自身が剣の腕を上げ、王国騎士団に入る事だ。

 王国騎士団は貴族のみで作られた部隊。

 女である身だがそこに入り、何かしらの功績を上げれば自身の父であるレクロウィンの地位も上がると考えたのだ。

 妻に先立たれ、残った一人の独り娘を危険な戦地に送り出すことを悩みに悩んだ。

 地位は低くても安全に日々生活を送ってほしいと父としての強い思いもあった。

 だが、結局はリティーナ自身が決め、無理やり押し切った形となっていた。


(こんなことで泣き言なんて言ってられません!)


「はっ!」


 斧を持つスケルトン、リティーナの剣を受けようとするが、重い上段切りにはボロボロの斧では耐えきれず、斧の根本を折るとそのまま頭部を砕き割られ、スケルトンは動きを止めた


「はぁ……はぁ……くっ!」


「お嬢様、一度お休み下さい。後は俺達が片付けます」


「いえ! まだやれます!」


「……解りました、しかし次の戦闘はゾンビです、動きは鈍いですが油断しないようにして下さい」


 前衛冒険者の言葉に息を切らしながらも、コクリと頷くリティーナ。

 それを見ながらゲイツは安全を上げる為にと、リティーナの周りに護衛の冒険者に合図を送った。

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