第41話 洞窟4階層
4階層を探索を始めて直ぐに自分は〈マップ〉のスキルを発動し、マムンにつけた〈マーキング〉の位置を確認していた。
「えーと、恐らくあの人達は左に行ってるね。自分達は右に行こうか」
「そうニャ? じゃ、鉢合わせしたくないし右に行くニャ」
「よく解ったわね? あの貴族パーティーが左にいったなんて」
「あぁ、えーと、足跡だよ! 何人も居るのに、こっちには足跡全然無かったでしょ。それで判断できるんだよ! うん」
((((岩肌の地面に足跡って……))))
咄嗟の言葉もゴツゴツとした岩肌の地面には意味はなかったが、それを突っ込む仲間は居なかったのが救いだろうか。
「この道を真っ直ぐ行けばモンスターと鉢合わせるよ」
「よし! ここでもいっぱい狩りまくるぜ!」
「無理はいけませんよ」
「あっ、ミツ、昨日のやったアレは緊急時以外は止めてくれよな」
リックのアレとは、昨日自分がバルモンキーの群れに使用した〈忍術〉の合体スキル〈炎嵐〉だろう。
あのスキルはモンスターの殲滅には向いているが、素材を目的とした戦いには不向きなスキル。
結果バルモンキーからの危機は去ったが、発動後の戦場は真っ黒になった煤だらけでバルモンキーの亡骸だけだった。
「あぁ、勿論、アレ使うと素材全部駄目になるもんね」
「アレはエグかったわね……」
「それに今日は別の事も試したいし」
「「「「……はっ?」」」」
「あっ、あれ? 皆どうしたの?」
自分の言葉に足を止めたリック達は目を細めながら訝しげに見つめてくる。
「ミツ、ちなみに今のミツのジョブは何ニャ?」
「えっ? ウィザードだよ」
「「「えっ!」」」
「やっぱり変わってたニャ」
頭を軽く抱えたプルンが納得したかの様に言葉を話すが、それを聞いた三人は別の反応をしていた。
「え? え? ミツ、あんた、クレリックって言ってたじゃない、何でウィザードなの。いや、でも昨日アイスウォールの氷壁使ってたし……」
「うん、そうだよ……。って、あっ、しまった。他言無用ってエンリエッタさんから言われてたんだ」
自分のジョブが判別晶が無くても変更できる事。
それはプルンと冒険者ギルドの副ギルドマスターのエンリエッタ、それとカウンター嬢のナヅキ、話は通ってるギルドマスターのネーザンの四人だけだ。
さりげない質問に違和感もなくプルンの質問に答えていたが、ジョブが変更できることは秘密と言われていた案件であった。
「ミツ、ごめんニャ。でもリッコ達に隠し事はしたくないニャ。ってか多分無理ニャ」
「えーと、ちょっと待ってください。いきなり連続で来られても、流石に頭の整理が追いつかないんですけど……」
プルンの言葉も確かだと、少し考えた自分は頷いてるが、判別晶無しでのジョブの変更は流石に常識外れ過ぎているのか、三人はかなり混乱していた。
「リッケ、悪いけどそれはまた後でね」
「えっ? あっ」
あ゙あ゙あ゛グァ〜
カタカタ…… カタカタ……
「来た! スケルトンとゾンビだ!」
進む足は止めていたが話し声に引き寄せられ、数体のモンスターが自分達に近づいてきていた。
スケルトン
Lv8
棍棒
パワースイング__Lv4
スケルトン
Lv7
錆びた剣
カウンター__Lv5
ゾンビ
Lv8
「敵確認! 3体のみ!」
「皆さん支援を!」
自分の言葉を聞いて、リッケが次々と皆に支援をかけていく。
「サンキュー! さー、どう戦おうか。……取り敢えずゾンビはリッコな」
「何でよ!」
「あんな気持ち悪いの俺達が斬ったりプルンが殴ったりできるか! お前の火で燃やせば済むだろ!」
「リッコ、ウチもアレは殴りたくないニャ……」
前衛からは不評のゾンビ。
その姿は肉は腐り落ち、ドロドロと液を垂らしながらズルズルと近づいてきている。
ホラー物の映画などに出てきそうな感じだ。
「なら、ミツがやりなさいよ。あんたも魔法使えるんでしょ!」
「あっ、それは無理。自分壁系しか唱えれないし、唯一攻撃に使えるのがウォーターボールだけど、ゾンビ相手じゃ効きが悪いんじゃないかな?」
「アンタは何でもできても使えない男ね」
「あははっ」
「もう、仕方ないわね!」
あ゙あ゙あ〜
「臭っさ! 悪臭すぎだろ!」
「うっ、鼻がまがるニャ」
ゾンビが一声上げる度、まるで生ゴミと排泄物と下水の臭いを混ぜた臭いがあたりに立ち込めていた。
前衛で間近にその匂いを嗅いでいる二人は罵声を上げながらも、後衛を守る位置からは動かなかった。
「リック! スケルトンが来るよ!」
「なっ! クソ〜、こいつら硬すぎるだろ」
「ニャ! ……イタタタニャ! 骨なのに何でこんなに硬いニャ!」
ガンガンとリックの突き出すランス音が響き、プルンの正拳が硬い骨で弾き返される。
スケルトンからの思わぬ苦戦に少し焦りをだす二人。
「ヒール、何処か弱点みたいな物無いんですかね?」
「ファイアーボール! もう、いい加減に倒れてよ」
リッコはゾンビに何度も火玉を当てては入るが、ゾンビの体を焼くだけで決め手にはなっていない様だ。
(やっぱりゲーム見たいには簡単には行かないんだな)
「皆こっちに一旦集まって! ファイアーウォール」
自分は皆を集め、火壁を出し、ゾンビとスケルトンの接近を止めた。
「どうするの? やっぱり、私達じゃまだ此処は無理なのかしら?」
「いや、自分達はまだ倒し方を知らないだけだよ。
皆の力は十分あるんだから。皆、手を出して」
「ん? 良いけど、何か魔法でもかけるのか?」
「そんなところ」
自分が手を差し出すと、皆はその上に手をおいて、まるで円陣を組むかの様な形をとった。
「行くよ!」
(〈攻撃力上昇〉〈守備力上昇〉〈魔法攻撃力上昇〉〈魔法防御上昇〉〈攻撃速度上昇〉)
《経験により〈攻撃力上昇Lv2〉〈守備力上昇Lv2〉〈魔法攻撃力上昇Lv2〉〈魔法防御上昇Lv2〉〈攻撃速度上昇Lv2〉となりました》
「あっ、ごめん。もう一回そのままね」
「お、おう……」
「ちょっと待って、私も火壁を念のために出しとくわ。ファイアーウォール!」
ガツガツと突っ込んでくるモンスターに少しだけ自分のかけた〈ファイヤーウォール〉が弱まったのを見て、リッコが自身の火壁を重ねがけの様に貼り直した。
そしてそれは驚きの結果を出した。
ゴーーー!!
「「「「「!!!」」」」」
「リッコ! 失敗したんですか? さっき以上に強いですけど」
「違う! 私失敗なんてしてない、いつもと同じ様に使ったわ!」
「これは予想以上だね。皆、さっ、手を」
「えっ? これはミツ君の力なんですか?」
「これはリッコ自身の力だよ。自分は背中を押しただけ」
自分は皆の手を再度重ねると、先程レベルが上がった同じスキルをかけ直した。
「よし、リッコ、もう火壁はいらないと思うから、今度は普通に火玉で攻撃をしてみて」
「ええ、ファイヤーボール!」
リッコが〈ファイヤーボール〉を発生させると、先程よりも少しだけ大きな火玉がリッコから放たれた。
リッコはその時点で驚いていたが〈ファイヤーボール〉がゾンビに当たると同時に、先程まで燃やす程度の火力ではなく、当たった上半身を燃やし吹き飛ばす程の威力を見せた。
ドン!
「えええ!」
「消し飛んだニャ……」
「おおっ! リッケ、皆にもう一度支援をかけ直してみて」
「はっ……はい、リックこちらへ」
「おっおう」
自分の言葉に自身がどう変わったのか恐る恐ると、スケルトンから受けたダメージを治すために、リックを側まで呼ぶリッケ。
「ヒール! ブレッシング、速度増加」
リッケは自身の〈ヒール〉の回復量が上がったこと、また、他の支援魔法も上がってる事が信じられない程に驚いた。
回復したリックも、自分の身体を動かし完治を確認していた。
「うん、支援効果も上がってる。1回で完治だね」
(やはり、魔力攻撃力上昇は支援の効果を上げるのか。魔力攻撃って書いてるけど、あの適当チミっ子の事だし対象だと思って正解だったな)
「凄い……」
「じゃ、二人ともスケルトンの前に出した火壁取るからね」
「解ったニャ!」
「よし、任せろ!」
ゴーゴーと燃える炎がフッと消え、スケルトンがゆっくりとまた此方へと近づいてきた。
「喰らえ!」
「ニャ! 早いニャ!」
ランサーであるリックは、鎧の重さもあって余りスピードが出せないのがデメリットだった。
しかし、自分とリッケの二人からの支援を受け、羽でも生えたかのような速さでスケルトンに駆け寄って行くリック。
ガシャン!
「えっ! マジかよ」
ひと突き。
正にその言葉でスケルトンの頭蓋は貫かれていた。
リックのひと突きは硬い骨も貫くほどの威力を見せた。
「ウチも行くニャ!」
「おー、更に早いね」
元々スピードを持つプルン、リックと同様に自分とリッケの支援を受け、先程とは比べられない程の速さでスケルトンの内側に入り、敵が反応することも無くスケルトンは正拳を撃ち込まれていた。
ガッシャーン
「ニャッはー! 爽快ニャ!」
一撃粉砕。
プルンの攻撃には、この言葉が似合うかもしれない
「うん、皆凄いね」
「いやいやいや、凄いのアンタだから」
「そうですよ! 攻撃力に速さ、それに魔法の効果も上げるなんて凄すぎですよ!」
「スケルトンに硬さを感じなかったぞ!」
「凄いニャ! 凄いニャ! ミツ!」
自身の能力上昇に興奮するメンバー。
「うん、これでこの階層も行けそうかな」
「この階層どころか、フロアマスターまで行けるぜ!」
「いや、それは流石に無理だと思うけど。まぁ、取り敢えず次は自分が試しても良いかな?」
「おう! 順番だな」
「……」
「どうしたのリッケ?」
「いえ、僕達がこれ程の力を出せるという事は、ミツ君の試したい事って……」
「……! ちょっとミツ! 何をするのか先に言って!」
リッケの言葉にゾクッと反応するリッコ達。
今までもミツの行動には驚いてきたが、自身もここまで能力上昇した事も考えると、彼の能力上昇にはリッコ達は予想ができなかった。
「えっ? あぁ、そうだね。殴るスキル1つと、以前見せた剣を出すスキル、あれをね。後は、数個試したい物が」
「まぁ、それなら、大丈夫だろ多分……」
「いえ、リック、油断してはいけません。きっと僕達はまた驚かされるに決まってます……」
「まだ驚くのね……」
「んっ? リッコは驚く事を楽しんでるのでは?」
「流石にこれは想定外よ。まさか私達自身に驚かされるとは……」
戦闘も終わり、先に居るモンスターに警戒しながら進む事にした。
「えーと。処でミツ君のジョブに関してですけど……」
「あぁ、そうだったね」
判別晶と転職のこと、この2つをリック達に説明をする。勿論プルンも知ってる内容でだ。
「……おう、大体は解った、お前が普通じゃない事が解った事が解った」
「酷っ! まぁ、皆は仲間だし、ジョブの転職に関しては隠す必要もないかなと」
「は? その言い方だと他にもあるのか……」
「あるニャ、そう言えばミツの凄い事!」
「なっ! プルンさん! 何を話すおつもりで!?」
「おっ、何だ何だ、教えてくれよ」
「心を落ち着かせる魔法ってないですかね。そろそろ本気で欲しいと思ってきてます」
「あったとしたらミツが持ってるわよ」
「あるよ」
「「「あるのか!」」」
〈コーティングベール〉を希望するリッケだけにかけた。
リッコも必要かと聞いたが、不要と断られてしまった。
何気なく彼女は驚きを楽しんでいるようだ。
「実はミツ」
「うんうん」
「領主様から貰った報奨金、これを全部スタネット村に寄付したニャ!」
「「「……」」」
「……それで?」
「あれ? 驚かないニャ?」
「いや、確かに全額寄付は凄いと思いますけど……ねぇ」
「そうね、インパクトが低いかしら……。でもミツ、凄いわよ。その〜、スタネット村? 村の人も喜んでると思うわよ」
プルンの話した凄い話とは、スタネット村への寄付金の話だった。
流石に驚くと思ったが、今までの事が驚きが大きすぎたのか、寄付金程では三人は驚きではなく感心程度に留まっていた。
「うん、そうだと嬉しいね」
「おかしいニャ、これなら驚くと思ったのにニャ」
「ちなみにさ、領主様からいくら報奨金でたんだ?」
「虹金貨5枚ニャ」
「「「……」」」
「「「えええええええ!」」」
やはり三人は驚いた。
「私、戦闘してないのに疲れてきたわ……」
「本当ですね、凄い事連発です。まぁ、次はミツ君がメインですから、僕達はサポートですよ」
「いや、いらないと思うわ。私の勘がそう言ってる」
「ウチもニャ」
「俺も」
「ははぁ、僕もです」
少し歩くと〈マップ〉に広いフロアが表示する場所へとたどり着く。
その場所には、ユイシスからの報告もあってかなりのスケルトンやゾンビのモンスターが集まってきているそうだ。
「皆、念のためにもう一度手を」
「はいはい、おまじないタイムね。あんた、これやんないと駄目なの?」
「いや、これは皆の分も念の為にね」
「そう、ありがとうね」
《経験により〈攻撃力上昇Lv3〉〈守備力上昇Lv3〉〈魔法攻撃力上昇Lv3〉〈魔法防御上昇Lv3〉〈攻撃速度上昇Lv3〉となりました》
ミツが能力上昇系のスキルを皆にまた使用すると、先程上がったばかりのスキルがまた上がった。
(おっ、また上がった)
「皆、ごめん。もう一度いいかな」
「慌てなくていいぞ」
「そうですよ、落ち着いてください」
「どんまいどんまい、誰にでも失敗はあるわよ」
どうやら自分がスキルの発動を失敗したと勘違いされたようだ。
「ミツ頑張るニャ!」
「う、うん……」
フル支援を自身にかけて万全の状態へとする。
フロアの中を覗くと、カタカタとスケルトンの動く音やゾンビのうめき声がひきしめていた。
「うわ〜」
「これは流石に」
「い、いっぱいいるニャ……」
「何? ミツ、あんたってモンスターの群れに遭遇しないと気がすまないの……」
「いや、別に自分が望んだわけじゃ」
(あっ。でも、今回は望んでたかも……)
「ウチらも手伝うかニャ?」
「いや、大丈夫だよ。いざとなれば本気で行くから」
「……何でしょう、ミツ君の今の言葉、見てみたい様な、でも見たら絶対に驚くと思いますけど」
「取り敢えず行ってくるよ。皆はあの少し丘になった所にいてね」
自分が指を指したのは集団より少し離れた岩でできた丘。足場の悪い坂になっているためか、ゾンビもスケルトンも登ってはいない。
上から見るには丁度いいかもしれない。
「頑張るニャ〜」
上からブンブンと手を振り声援を上げるプルン、それに応えるかの様に自分はヒラヒラと手を振り替えす。
(先ずは順番に行こうかな)
自分は足元にあった拳ほどの大きさの石を拾い、スケルトン目掛けて思いっきり投げつけた。
「フンッ!」
ガン! ガン! ガン! ガン!
「……えーと、今魔法か何か撃ったのか?」
「いや、ミツ拾った石を投げただけじゃニャいかニャ……」
「スケルトンが一気に4体倒れましたね……」
「石投げてあの威力とか……」
(流石スキルMAXの投擲、まるで大砲でも撃ったかのような威力だな)
プルン達の唖然とした表情と言葉に気づかない自分はそのまま新スキルの検証を続けていた。
(次は、えーと。あそこかな?)
倒れたスケルトンの隙間の壁を目印に一気に走るため〈電光石火〉を発動。
スキルレベルはMAXになっているので正に瞬速。誰も目で追う事も出来ない程の速さで壁へと到着した。
(おっとと、激突するところだった)
「そのナイフ頂くよ!」
ガシャンと音共に一体のスケルトンが崩れ落ちた。
〈強奪〉スキルでの攻撃をしながらの攻撃。
ちなみに武器はナックルでの拳での攻撃。
奪い取った錆びた剣を手に、また少し敵から距離をとる。
さらに無駄にカッコつけてバク転での後退だ。
(ん〜! ヒーロー物とかでこれ見たとき、一度やってみたかったんだよね!)
奪ったナイフをすぐ様近くに居たスケルトンに〈投刀〉を使用して投げる。
魔力を帯びたボロボロのナイフは硬いスケルトンの骨をサクッと貫通し、後ろに居たゾンビに刺さった。そして、刺さったナイフはそのまま刀身からボロっと崩れ落ちてしまった。
どうやらボロボロのナイフでは自分の魔力には耐えれる事もなく破損してしまったようだ。
〈身体強化〉MAXにした為運動能力は達人並みに動ける。
1つ1つスキルの上がり具合を確認していく。
「あっ、あそこニャ!」
「いつの間に……」
「姿を消すスキルとは違う見たいですね。物凄いスピードでモンスターの隙間をすり抜けたのでしょうか?」
「い、一瞬であんな遠くまでかよ……」
「あっ、次は火出したわよ。ってミツ、ファイヤーボール唱えれるんじゃないの!」
「いえ、あれは違いますね……。火玉が1個では無く数個見えますけど」
自分が次に出した物は〈忍術〉の一つ〈鬼火〉
先程からスケルトンに対しては遠慮なく殴ったりして攻撃はしていたが、自分もプルン達同様にゾンビは殴りたくないし斬りたくない。
よって燃やすことにした。
「先ずは試しで!」
発動後ゆらゆらと自分の周りを動き回る〈鬼火〉自分自身は触っても熱くはないし普通に持つ事もできた。
その一つの〈鬼火〉をそのままゾンビへと投球の様に投げてみた。
ボンッ!
投げられた〈鬼火〉がゾンビを貫通し、後ろの壁へと消えてしまった、
体に風穴が空いたゾンビは動きを止めると、じわじわと燃えている風穴へと手を伸ばした。
その瞬間、残り火と思った火が一気に火力を上げ、ゾンビの風穴部分から全身へと火は燃え広がり、メラメラと燃える炎はゾンビを包み込んで燃やし尽くしてしまった。
(うゎ、1つでこれか。なら、一気に飛ばしたらどうなるんだろう)
残った〈鬼火〉を今度は投球のやり方ではなく、意思で全てを飛ばしてみた。
〈鬼火〉はゾンビの体に触れると同時に、体中をまるで意志のあるかの様に走り周り、ゾンビの体を燃やし尽くしてしまった。
(なる程、これ対人戦では使用禁止だな……。って言うか忍術系のスキルは全てが人相手には使えないような……。まぁ、良いか、使うことも無いだろうから気にしても仕方ない。ってかさっきから一撃で倒しちゃってるからスキルが全然取れてないんだよ!)
「検証が終わったらスキル集めに集中だ!」
次に、3階層でも似た様なスキル〈火柱〉を使用してみた結果。
それは地面から突如現れた柱。正に火の柱、柱に近いゾンビとスケルトンはその熱に消滅する程の火力を出す程だ。
(よし! これも素材集めには使えない!)
「「「……」」」
「ニャ? 皆どうしたニャ?」
「いや、お前はどうして普通に見ていられるんだ……」
「ウチはもうミツがやる事にはある程度は驚く事を諦めてるニャ」
「魔力を少し感じる。あれも魔法なのかしら……」
「だとしても、魔術士以上の魔法って何でしょうか……」
「……プッ、アッハハ、アハハハハ」
「おぉ、どうしたニャ! リッコがイキナリ壊れたニャ!」
「いや、もうここまで見たら笑うしかないわよ、フフッ」
「フッ、確かにアイツ相手だと、なんか恐怖とかの前に笑いが来るよな」
「ははっ、本当にそうですね」
「でも不思議ニャ。強い冒険者は居るのは知ってるけど、ミツはどうやってあそこまで強くなったのかニャ?」
プルンのこの質問に誰も答えれる人物がここに居る訳もなく。
「プルン、お前は直接聞いた事はないの?」
「そう言えばないニャ、後で聞いてみるニャ」
「おぅ、昼飯の時にでも聞こうぜ」
「何リック! もうお昼の事考えてたの?」
「あったりまえよ! 俺達の生きる糧はアイツ次第だからな!」
「ウチ肉がいいニャ〜」
「プルンまで」
「あっ、皆さん、ミツ君が風の剣出しましたよ」
「おっ、次は剣術でも見せてもらえるのかな」
「にしても……動き止まってない?」
「どうしたニャ?」
自分は順番的に〈二刀〉のスキルを発動させる為に忍術の〈風刀〉を発動していた。しかし、前回発動した時と違う事が1つあった。
「な、なんじゃ〜こりゃ〜!」
発動した〈風刀〉が以前発動させた時の3倍ほどの長さにあらわれた。更にはゴーゴーと風の音も大きくなり、透明だった刃部分も風の色が濃ゆくなり、青と緑の交差する色に見えている。
《忍術のレベルが上がり、更には能力上昇系の様々なスキルで風刀の威力が強化されました》
「へ、へ〜、そうなんだ……。もうこれさ、ナイフってレベルの大きさじゃないよね。例えるなら脇差しくらいかな、もしくはあれだ、刺身包丁……」
以前の長さが10センチ程だとすると、今は30~40センチ程の小刀程の長さ。
そんな事をしていると、1匹のスケルトンがカチャカチャと音を鳴らしながら自分に近づいてきた。スケルトンは奇襲のつもりなのだろうが、骨や鎧を音を鳴らしながら近づいたら奇襲にならないと思う。
「先ずは1つでやってみようかな」
〈二刀〉を試す前に、威力を確認する為に1本の〈風刀〉でスケルトンに応戦。
ガシャン!
スケルトンが大きく振り上げた武器は振り下ろされる事も無く、自分は下からうえへと切り上げるイメージでスケルトンを切り崩した。
(おぉ、軽い! いや、前から重さは感じてなかったけど本当に鳥の羽でも振り回してる気分だ。よし、これなら)
〈分割思考〉を使用してもう一本〈風刀〉を作り出す。
二刀流の構えなんて知らないので折角なので忍者っぽい構えをとってみる。
右手は普通に構え左手は逆さに持つ、腰を少し落とせば何となく忍者っぽくなった。
「〈身体能力〉レベルMAXの力試させてもらおう!」
掛け声と共に走り出した。
モンスターが固まってる場所へとスケルトン達が手に持つ武器を構え直しゾンビ達も自分の方へと足を進め始めた。
止まらない止まらない、右手の刀を振り上げればスケルトンは粉々に吹き飛び、左手の刀を横に切り裂けばゾンビも真っ二つに切り裂いた。
スケルトンの持つ武器は様々。
殆どがボロボロで統一性は無いが、動き自体は普通の人の様に機敏。
対人戦をイメージするなら、スケルトンは良い練習台になってくれている。
〈身体能力〉レベルMAXと言う事で達人並の動き、一切無駄の無い正に演武を舞うかの様に敵を次々と倒し続けていく。
「凄いニャ……」
「踊ってるみたい……」
「おいおい、もう半分まで来てるぜ!?」
「あっ、本当ですね。普通に戦いを見入ってました」
《ミツ【ウィザード】のレベルがMAXとなりました、転職されますか?》
「えっ? もう転職?」
ユイシスの言葉で動きを止める。
周りを見渡すと周囲はスケルトンとゾンビ、両方の亡骸で埋め尽くされていた。
自分は夢中になるほどに戦闘を続けていたのか、既にスケルトンとゾンビ合わせて100近くを倒しきっている。
「あ〜、夢中になって倒してたのか。ふ〜、全然疲れてない……。凄く成長したんだな」
《【ウィザード】がMAXとなりましたので新しい上位ジョブに転職可能となりました》
「おっ! 【忍者】以来の上位ジョブ! 何が増えたの!」
《はい【ダークプリースト】【マジックハンター】コチラの2つが新たに追加された上位ジョブです》
「お〜、2つか〜。少し考えたいな〜」
《では、次のセーフエリアまで待ちでよろしいですか?》
「ん〜、そうだね。せっかくの上位ジョブだから詳しく説明受けたいかな」
《解りました》
「よし、分割思考と風刀と二刀の検証はこのぐらいかな。少しやり過ぎたけど……。まぁ、良いか」
自分はまた残るモンスターから距離を開けると、次に試すスキルをイメージした。
「あっ、離れましたね、両手の武器も消したみたいです」
「次は何が来ると思う?」
「そうニャ〜。ウチ達が思ってもミツはその斜め上の事をするから予想ができないニャ」
「ハッハハ! 全くだな」
とっ、その時だった。
ミツの周りに煙が立ち込め、その煙は瞬く間に周囲のモンスター全てを飲み込んでいった。
「ニャ! なんニャ! 全く見え無いにゃ!」
「これもミツ君の、いやミツ君ですよね」
「そうとしか考えれねーよ」
「ちょっと! 全然見えないわよ!」
「あぁ〜、ごめんごめん。戦ってる間に晴れるからちょっと待ってね」
自分が使ったのは〈煙幕〉スキル。
このスキルを使用した状態でモンスターがどれ程認知できるかも確認のため。
しかし、そんな事を知らないリッコからは見えない事で不評を受けてしまった。
自分はゆっくりとスケルトンへと近づき、どの辺で目視できるのかを試した。
いや、スケルトンなんだから目は無いんだけどね。
(ここまで近づいても反応しないんだ)
スケルトンの1m手前まで近づいたが、スケルトンは全く反応を示さなかった。
(なら、折角なので試させてもらおうかな)
スケルトンの背後に周り、足を引っ掛け、うつ伏せにスケルトンを倒した。その上から動けない様に乗り、掌をスケルトンに当てた。
(魔力吸収)
発動と同時にスケルトンが更にガタガタと骨を鳴らしながら震えていると、スッと操り人形の糸が切れたかのように動きを止めた。
鑑定してみると、亡骸状態と表示されていた。
いや、元からスケルトンは亡骸だけどね。
(あれ、倒しちゃった?)
《ミツ、洞窟内のモンスターは魔力で生まれてくる物が殆どです。モンスターにとってはMPの枯渇は死亡と同じになります》
(えーっと、ようするに……モンスターのMPは人のHPみたいな物だと?)
《はい》
スキルの検証のために発動したスキル、それが思わぬ結果を出した事に嬉しい誤算だった。
「さて、丁度いいや。形も綺麗に残ったし、コレを使わせてもらおう」
倒したばかりのスケルトンに〈傀儡〉を発動させた。
バラバラだった骨の山はカチャカチャと音を鳴らし、元のスケルトンの姿に戻っていった。
「んっ、ちょっとフラフラしてるけど大丈夫かな?」
組み立てられた傀儡スケルトンはゆらゆらと揺れながらも、自分の指示を待つかのようにその場にじっとしていた。
「取り敢えず、あのゾンビを倒してみて」
指示を受けた傀儡スケルトン、武器を構えたまま指示されたゾンビ目掛け、剣を振り上げ戦いを仕掛けた。
動きは元のスケルトンよりもワンテンポ程遅いが、ゾンビに遅れを取る程でもなかった。
ザクザクと振り上げた剣を振り下ろし、あっという間に一匹のゾンビを倒してしまった。
しかし、それが終ると同時に他のスケルトンに囲まれた傀儡スケルトンは抵抗もする事もなく、集中攻撃を受けてしまい跡形もなくボロボロに壊されてしまった
(なる程、1つの命令が終わると次の指示待ちの為に無防備になってしまうのか。スケルトンよ、検証協力ありがとう、南無〜)
少し足場がモンスターの亡骸に埋め尽くされてきた事もあって、一度周囲を片付ける作業を行なう。
っと言っても〈煙幕〉スキルを発動させ、モンスターから姿を消す。それと同時に地面に倒れている倒したスケルトンやゾンビをアイテムボックスに入れていくだけの作業だ。
「ミツ! まだ見えないわよ〜、次は何するの?」
「今は倒したモンスター回収してるところだよ〜」
姿が見えない自分にリッコの声が飛び、それに答えるかの様に煙の中から自分は返事を返した。
(よし、片付けは終わったかな。残りは、えーっと……20〜30って所かな。その前に念の為)
バッ!
「よっと」
「きゃ!」
「ニャ!」
「おっ! おう、どうした?」
「怪我でもされましたか?」
煙の中からバッと飛び出し、リッケ達がいる丘まで飛び上がった。
別に問題があって戻ってきた訳では無い。
「いや、少し強力なのを使うから皆にシールド貼っとこうかなと」
「……おう、ありがとうよ。でもよ、お前が強力って言うくらいだろ? 俺達このフロアから出た方がいいんじゃねか」
「そうですね……リックの言うとおり、僕達が居たらミツ君が本気出せないんじゃ?」
「いや、こっちに被害は来ないようにするから大丈夫だよ。念の為にね、岩とか飛んできたら危ないじゃん」
「つまり、岩が飛んで来る様なことするって事よね」
「はははっ、もしだよ、もしかしての話」
「ミツ、またおまじないするニャ?」
「そうだね、それもやっとこうか」
プルンは自分の能力上昇系スキルをおまじないとして括ったようだ。
再度皆に能力上昇系と〈ミラーシールド〉〈プロテス〉をかけて、自身をフル支援状態にする。
そして、少しづつ晴れゆく煙幕の中へと飛び込んで行った。
(残り試したいスキルはバルバラ様から貰った〈ブーストファイト〉〈剛腕〉〈インパクト〉だけか。ユイシス、これ全部バルバラ様から貰っただけに何か注意する事ってある?)
《はい、バルバラ様から頂いた〈ブーストファイト〉と〈剛腕〉これら2つは自身のステータスを大幅に上昇させるスキルです。それらは通常に使用しても問題はありませんが〈インパクト〉これはけして洞窟の壁に向けて使用してはいけません。洞窟が崩落する可能性が出てしまいます》
(おっ……そうなんだ。それは気をつけないと)
バルバラから頂いたスキル〈インパクト〉は正に破壊攻撃。
威力が高過ぎて、洞窟内の様な場所での使用は、洞窟を崩落させて自身を生き埋めにしかねないスキル。
ユイシスの説明にゾクリと背筋を震わせてしまッた。
(さて、〈煙幕〉の効果も切れてきたし、ソロソロ動こうかな)
煙が晴れたと同時に一気に走る。その際、自身に〈ブーストファイト〉と〈剛腕〉を使用。
一気にスケルトンとゾンビに近づき、周りを円を書くように走り出した
「ニャ! 凄いスピードニャ!」
「おいおい、遠目で見てこの速さって!」
「見て! ドンドンモンスターが中央に集まっていくわ!」
「周りのモンスターをかき集めてる感じですね」
(くっ、足場が悪い。これが限界かな……)
今戦う場所は自然の洞窟の様にボコボコとした足場でもある。例え、身体能力が高くスピードが速くても、なれない場所には限界が来る。
ある程度は円上の中央に〈剛腕〉で強化された力でモンスターを集め、ひと塊にした。
集める際、数体のスケルトンの骨を砕いてしまったので、掴むでは無く、押す感じで一箇所に集めバラバラにならない様に〈糸出し〉のスキルで一纏めにした。
しゃがむと言う行動をしないモンスター、ウネウネと動く固まりの集団となっていた。
(うわ! キモッ!)
ゔ〜ゔ〜
ぐちゅ、ゴキッ
ゾンビのうめき声とスケルトンの骨がきしむ音、様々な音がその集団から聞こえてくる
(終わらせよう)
「検証、ご協力ありがとうございました!」
礼の言葉を発した後、ナックルを装着した右手に力を入れ〈インパクト〉をイメージする。
それと同時に、右手が赤く光、バチバチと腕の周りを黒い電気のような光が見える。そして、物凄い力が右手へと流れていく感覚に襲われた。
再度プルン達のいる方向と流れない様にと打ち込む方角を考えて、真っ直ぐに赤く光る右拳をモンスターへと打ち込んだ。
ドカン!
一箇所に糸で縛っていたモンスターが一気に吹き飛ばされ、殆どのモンスターの体の骨や肉片を撒き散らし、更にはその飛んで行った骨や部位が洞窟の壁へと次々と刺さっていった。
しかし、これで終わりではなかった
ドドドッドカーン!
目の前に残ったモンスター。
全ては最初の一撃では飛んでいかず、半分程が残っていたが、フッと空気の流れを感じだと同時に、目の前での破壊の爆風が起きた。
地面も削り取る程の衝撃、全てのモンスターを吹き飛ばしてしまった。
先程の様にスケルトンの骨が飛んだりゾンビの肉片が飛び散る事も無く、正に木端微塵、パラパラと振り落ちるのは巻き上げた砂埃だけだった。
「なっ、なんてスキルだ……」
砂煙も収まり、自分の目の前には抉れた地面とスケルトンが持っていた使えない武器や防具が少しだけ。
またスキルを盗み損ない、更には素材となるモンスターの姿は何処にもなかった。
「「「「ないわー」」」」
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