第40話 犯罪は考えた時点で罪となるのです!

(あっ。何か嫌な予感)


 見張りの為火の番をしていると、数人の大人達がコソコソとまたゆっくりと近づいてきた。


 様々なスキルの効果で、まだ近づいてくる大人達との距離はある物の、自分からは十分姿が目視できていた。


 早速先程手に入れた〈マーキング〉を大人達に使用してみると。


 結果は赤の矢印。

 その大人達は自分に対して敵意を向けていた。


 この洞窟に入って人に恨まれる様な事はした覚えはない。

 まぁ、2階層での揉め事? それは別としてだが。名前は覚えてないが、もしかして貴族が差し向けた冒険者とか? 


 色々と考えを巡らせ、相手に気づいてないかの様にそのまま火の番を続けた。


「おい、狙いのガキ一人だぞ。今のうちにやるか」


「まて、まださっきまで起きてた二人が寝てないかもしれねぇ。もう少し待つぞ」


「まぁ、どうせこんな奥じゃ他の冒険者も気づかないだろうし、必ず奪い取るぞ」


「へっへ、あの人数に飯を振る舞うほどだ。まだガキのボックスの中はたんまりと入ってるに違いない。コイツで少し脅せばあのガキも素直に出すだろうぜ」


 男の手にはキラリと光るダガー。


「おい。ガキが離れるぞ、小便か?」


「クックック。チビっちまう前に出させてやろうじゃねーか」


「ケッケッケ、ついでに食い物もな」


 火の番を一時中断し、寝ている皆に迷惑のかからない程度の所まで移動することにした。


(ふぅ、6人か。結構いるな)


 〈マップ〉〈マーキング〉の両方を活用し、更には念のためにユイシスにも確認してもらって間違いないのだが、自分に近づいてくる大人達は全部で6人。見事に全てが赤表示だった。


(しかし、まさかアバさんの忠告通りになるとは……。まぁ、それならそれで捕まえればいいかな。ここだとまだ皆が起きちゃうかもしれないからもう少し大きく離れるか。まさか、早速〈コーティングベール〉を使うとは)


 行動を起こす前に自身に〈コーティングベール〉を発動し緊張と恐怖心を消していた。

 今までもモンスターとの戦闘で心拍数が上がり、戦うという恐怖と内心戦ってきた。

 だが、スキルを使用後は落ち着いて策を考え、ゆっくりと実行する事ができた。


(このスキル、会社の面接の時とか使えたら最高だったな。 さて、十分離れたしソロソロこの辺で始めようかな)


「おい……。あのガキ何処まで行くつもりだ?」


「随分と奥に行くな。あんまりエリアから離れると俺達も危ないぜ」


「チッ、なら戻ってきたところを狙うか」


 大人達の思った以上に自分が奥へと進むので、自身もモンスターの危険を感じたのだろう。

 自分が戻ってきた所を不意打ちする事にしたようだ。

 しかし、その考えは実行されることは無かった。


「誰を狙うんですか?」


「「「うわぁ!」」」


「このガキ! いつの間に後ろに!」


「何を寝ぼけてるんですか? 自分はさっきここに来たんですよ」


 大人達6人の後ろから突如かけられた少年の声。振り向くと先程まで自身達が後をつけていたはずの子供の姿がそこにはあった。


「はぁ? まっ、まぁ~いい。おいガキ、お前アイテムボックス所持者だろう。誤魔化しても無理だからな! お前が色んなところで飯を取り出した所を見たんだからな」


 腰の剣を抜いた6人の中の1人。

 リーダー的人物が自分に剣を向けてアイテムボックスの事を聞いてきた。


「はい、確かに、自分はアイテムボックスを持ってます。それがあなた達に何か関係でも?」


「へっ、この状況がわからねぇとは頭の弱えガキだな。さぁ、ボックスから食料を出しな!」


「ケッケッケ、痛い思いする前に出しときな」


「クックック」


「なるほど、やはりそうでしたか」


 この世界に来て初めての恐喝がまさかのアイテムボックス内の食料狙い。

 普通に大柄な大人達6人に囲まれたら身震いするものだが、スキル効果でそんな事も無かった。


 更には自分の通常の人なら物ともしないステータス。

 相手を鑑定し、この場の打開策を落ち着いて考えていた。


(一般的よりちょい高い程度かな……。あっ!? この人達って)


「そうだよ、コイツで痛い思いしたくないだろ~へっへ」


 ベロリと自分の持つダガーをひと舐めする男。

 頭がモヒカンのヒャッハーさんなら似合いそうな図だ。


「態々人気の少ない所には自分で行くとは、不運なガキだぜ」


「えーと、知ってると思いますけど朝になったら出口に出る転移の扉が使えますけど。その後に外で食料を調達されては?」


 この状況を流石に戦闘は回避できないのは理解しているが、自分も好んで人を傷つけたくもないので最低限丁寧な対応を取ってみた。


「な~に寝言言ってんだ! 俺達はオメェの食料をくれって言ってんだよ! ウダウダ言ってねーでサッサッとだせばっばばばばばば!!!」


「もう、暴力はやめて下さいよ。お互い話せる言葉があるなら話し合いをしましょう」


 自分の言葉には耳を貸さない一人が胸ぐらを掴んだ瞬間、その手をギュッと握りその手を止めた。

 いや、握り潰していた。


「おっ俺、俺の指が。痛てえ! 痛でえよ!」


「あぁ、すみません……。いきなり胸ぐら掴んできたので握り返しただけなんですけど」


(ほんの少しで骨がイったか……。気をつけないとな)


 内心少しイラッとしてしまったのか、翌日使う予定だった〈剛腕〉を発動させてしまった。

 叫びながら自身の指を抑える男。

 男の親指から中指までの3本が関節からポッキリと折れ曲がっていた。

 自分にとっては茹でてない素麺の麺1本を折る程度にしか力は入れていない。

 だが、元破壊神バルバラから貰ったスキルは強力過ぎるので、人相手には使いどころが難しいかもしれない。


「このガキが! 舐めたマネしやがって。コイツでテメェの身体を切り刻んでやる! ……あれ?」


「もう、人に刃物を向けちゃいけないって親に教わりませんでしたか?」


 男の手に持つダガーを〈スティール〉を使い盗み取り、自分はヒラヒラと男達に見せる。


「あっ、兄貴、何か変ですよこのガキ!」


「うるせぇ! ガキはガキだ! 獲物奪えばそれで終わりだ。お前ら袋にしちまえ!」


「へっへい!」


「ガキが、俺の指を! お前も同じ様にしてやる!」


 少し怯えながらもリーダーの指示に従う他の大人達。

 自分に指を折られた男は、顔の穴という穴からダラダラと色々な物を垂れ流しながら自分に襲い掛かってきた。


(うわ、汚ったな!)


「えーと、取り敢えず、あなたがこのリーダーですかね?」


「お前がそんな事知らなくても良いんだよ! って!」


「しー、お静かに。騒ぐと他の人達に迷惑ですよ」


「ぐっふ! ぁぁあっあ」


 威嚇する様に大声を上げながら予備のダガーを構えるリーダー的男。

 しかし、目の前に居る自分が突如自身の真後ろにも現れ、それと同時に突如背中に激しい痛みが男を襲う。

 痛みが消える前に身体中の力が入らなくなってしまい、男はそのまま膝からガクリと崩れ落ち、ビクンビクンと体を痙攣させ下半身には恥ずかしい池を作り出していた。


「なっ!」


「動けないだけです。大丈夫、死にはしませんよ……たぶん」


 自分は新しく手に入れた〈残像〉を使用し、スキル無しの拳を一撃を入れる。

 トドメに男からスティールしたダガーで〈麻痺攻撃〉でトドメをしたのだ。


「あっ、兄貴、何で、さっきまでそこに、あれ!? それに何でこいつが戦えるんだよ! こいつ治療士なんじゃ!?」


「うるせぇ! 俺が知るか!」


 リーダーがあっさりとヤラれた事に慌て混乱する残った男達。


「あぁ。自分は今【ウィザード】ですよ。ほら」


 右手の掌に〈ウォーターボール〉を発動しフワフワと右手から左手へと移動させ、その様子を大人達に見せた。


「……ふ、ふざけるな!」


 ニコッと笑顔を男に向けると、男は青筋を立て、怒りで手に持つ武器を振り下ろしてくる。


「はい、二人目」


「がはっ! てめえっぁぁぁ」


 男が振り下ろした大剣が地面を叩き砂埃を上げ、手応えの全くないことに恐怖を覚えながらも、自分の声が耳元で聞こえたと同時に殴られた様な激痛が男を襲った。

 そのまま最初の男同様に身体を痺れさせられ、その場にバタリと倒れる男。


「もう後は一気に行きますよ」


「ひっ! あがっ!」


 ドサ ドサドサ ドサ


「ふ~。これで終わりかな」


 スキルの検証も兼ねたいが、人を相手だと本気が出せない。

 その為、男達を早々に倒す事にした。

 〈時間停止〉を発動し、お仕置きの為の一撃を入れ動きを止める為の〈麻痺攻撃〉で次々と倒れて行く大人達。

 いや、鑑定で解っていたがこいつら盗賊だった。


 その為手加減は不要と悟り、退治することにしたのだ。


(そろそろ朝ごはんの準備しないと)


 自分は〈糸出し〉を使用しロープ代わりに盗賊達を縛り上げる。

 面倒だがリック達が寝ている近くまで連れて行く。

 いや、引きずって行くことにした。

 別に良いよね悪い事しようとした人達だもん。


 翌朝


 ガヤガヤとテーブルを囲むプルン達。


「ん~、美味い!」


「美味しいニャ! 朝から肉は力が入るニャ!」


「卵がこんなに美味しいなんて、僕初めて感じました!」


「ねぇねぇ! この飲み物何!」


「それはココアだよ。寝起きとかには頭起こすのにはそれ位の甘さが欲しいでしょ」


「うん、すっごく美味しい! おかわり頂戴!」


「それは良かった。皆もおかわりいっぱいあるから、遠慮せずに食べてね」


「おう! 遠慮せずに頂くぜ!」


 自分が用意した朝ごはんは、厚切りベーコンをメインとし、コッペパンにスクランブルエッグとソーセージを挟んだホットドッグ、スープはインスタントシチューをアイテムボックスから取り出したメニュー。

 さらにはドーム型のフランスパン、これは中央をくり抜いてスープの器代わりに作ってみた品物だ。


「……なぁ、お主ら、昨日も今日と私達にご馳走してくれるのは嬉しいんだけどね……。1つ、聞いてもいいかい?」


「そうだな……。改めて傷と飯の礼を言いに来ただけの俺達だけどよ」


「アレ……。なにかしら?」


 朝の朝食を一緒に食べているのは、アバと怪我をおっていたアハメド、もう一人女性冒険者のカーヤ。

 昨日の晩には怪我も治って体調も戻ったので三人揃って朝からお礼の言葉を言いに来ていた。

 その際、自分が朝食に誘ったという流れだった。


「アレは昨日の夜に襲ってきた盗賊ですよ」


「うっ……うっ……」


「随分とズタボロじゃの……。お主らで倒したのかい?」


「いや、ミツが捕まえたんだよ」


 アバ達が注目したのは体を縛り上げられた6人の盗賊。

 男達は顔はボコボコにされて自分の〈麻痺攻撃〉で動けない様にして一箇所に座らせている。


 因みに盗賊達の顔がボコボコなのは、朝起きてきた皆が盗賊を捕まえた理由を聞いての結果。

 皆がミツは甘いと懲らしめるため、リックとプルンが制裁をした結果。

 その際リッケとリッコも同じ思いなのか、二人を止める事もなく朝ご飯の支度の準備を淡々と手伝ってくれていた。


「「「えっ?」」」


「あ~、たまたまですよ。自分が少し離れてる間にですね、この人達が皆の荷物とか盗もうとしてたんですよ。それで、自分が不意打ちみたいな感じで捕まえました」


「なるほどな、そこで起きた皆で捕まえたんだな!」


「アハメド、食べながら喋らないの……」


「おっと、すまねぇ」


「しかし、昨日の夜にこいつらもお前達の飯食ってるだろうに……。はあ~、恩を仇で返すなんて。全く、その話聞くとこの者を私は治す気にもならないね」


「(コク)」


 そう、リック達が盗賊達をボコボコにした理由がそれでもあった。

 炊き出しの食事を渡していたリック達は盗賊達の顔を覚えていた。

 プルンに関してはご飯を分けてもらったら相手には何かお返しを考える程に食事には感謝をするタイプ。それを寝込みを襲う事をしたのだから、正に恩を仇で返されたのだから誰も二人を止めるはずがない。


「いえ、自分もあんな人前でアイテムボックス使ったのがいけなかったんです」


「そうだな……。アイテムボックスは基本持ち運びは便利だ。だが、その便利さ故に貴重品を入れている奴が多いい。この盗賊もお前のアイテムボックスの中の貴重品を狙ったに違いねえな」


「なるほど、ところでこの人達どうしようか?」


「盗賊は外に連れて行って役人に渡せば報酬が貰えるぜ。まあその盗賊の凶悪犯度によるがな」


「しかし、何やら麻痺の様な物を食らってるからね。まともに話せる間では牢屋に入れられるだろう」


「ねぇ、あなた達はこのまま洞窟に残るんでしょ?」


「はい、まだここにいます」


「なら、私達がこの盗賊を上まで連れて行っとくわよ。あなた達が洞窟探索が終わってその後に外の役所に行けば報酬を直ぐに受け取れる様にしといてあげる」


「本当ですか! それは助かります」


「いいのよ、今はこんな事しかお返しができないし」


 アハメド達三人は洞窟探索を今回はここで取り止めると言う事で、捕まえた盗賊を一緒に外へと連れて行く事が決まった。


「なぁ、坊や。ご馳走して貰っている身分ですまないが、これをもう一杯もらえるかね?」


「はい、シチューですね。いいですよ、沢山作りましたからね」


「ありがとうね。こんなにいい香りのシチューは初めて食べたよ」


「それなっ! 洞窟のカビ臭い匂いじゃなくて飯の匂いでプルンは起きたからな」


「ニャ! リックもウチと同じくらいに起きたニャ!」


「いや、起きるだろあんな美味そうな匂いさせてたら」


「そうニャ! ミツの作るご飯の匂いがウチらを起こしたニャ」


「えっ、プルン、なんかその言い方は自分が悪いみたいに聞こえるぞ」


「まぁまぁ」


 昨日色々と大変な事があった。

 だが、皆で乗り切った事も経験となりその場の雰囲気は朝から良かった。


「ふむ、まだ全然余ったな。カレーとかシチューってさ、人数分ピッタリに作る事って無理なんじゃないかな」


「これなんだシ」


「これはパンを器にした奴ですよ。この中にシチューを入れるんです、こうすればシチューが硬いパンに染み込んで美味しくなるんです」


「美味そうだシ! ミツ、四人分頂戴だシ」


「はいはい、用意しますからシューさんは……えっ?」


「シッシシシシ。早く、ミツそのパンのシチュー食べさせてくれだシ!」


「シューさんいつの間に」


 突如自分の隣に現れたシュー。

 口元からはヨダレを出しながら朝ご飯を要求してきている。

 年頃の女性がそんな顔をしちゃダメだと思うが、シューが気にする様子もない。


「何か言ってるだシ? あたい普通に来たし」


(スキルでも感知出来なかった……。シュー、なんて恐ろしい子!)


「あっ! やっぱりここに居た! コラァ! シュー! アンタ何また飯を貰いに来てんだい、恥ずかしいから止めな!」


 そこにシューを探しにやって来たマネ。

 知ってるとは言え、仲間が他所様のパーティーから食事を催促する姿を見て恥ずかしそうに少し顔を赤らめている。


「あっ、マネ丁度よかったシ、運ぶのを手伝うシ」


「おぉ、美味そうじゃないかい。……って違うから! あたいが姉さんに怒られるから、アンタを連れ戻しに来たんだよ!」


「ちゃんと戻るシ。ミツ、早く早く頂戴だシ~」


「マネさん、まだ時間ありますから食べて下さい。まだリーダーさんには栄養ある物を食べて欲しいですし」


「アンタ、全く人がいいね……。シューはまだ礼を言ってないだろ。あたいから言わせてもらうよ。ありがとう」


「ミツ君、皆の分もおかわりお願いしますっ!? おっと、すみません」


 姉への優しさを素直に受取り、スッと頭を下げるマネ。

 その時、後ろから来ているリッケに気づかず。

 また、リッケも足元に注意を向け過ぎたのでマネに気づかずお互いがぶつかってしまった。


「おぉ、ミツの仲間かい? すまないね


「……。あっ……いえ……。僕の方こそ足元ばかり見てたので」


「アハハ、あたいの尻が当たったけど大丈夫かあか?」


 マネは自身のお尻をパンッと音を立てながら叩き、ぶつかったリッケへと謝罪の言葉を告げる。

 すると、その光景を見たリッケの顔がみるみると真っ赤になっていく。


「はっ、おしお尻! すすすっすみません! 女性の身体に僕は失礼な事を!」


「気にすること無いシ。マネの硬い尻で君が怪我しなかっただけマシだシ」


「コラァ、シュー! 誰の尻が硬いって!」


「あああぁぁ、お尻に、こんな綺麗な人のお尻に僕は」


(えっ? 綺麗?)


 リッケの言葉に自分の聞き間違いだと思ったが、リッケの顔は耳まで真っ赤だ。


「おーい、リッケさ~ん大丈夫かい? 駄目だこりゃ。シューさん、はい、4人分のパンシチューです。器もスプーンもパンでできてますから最後は器ごと全部食べれますよ」


「やったシ!」


「はぁ~、すまないねミツ。これはありがたく頂くよ」


「いえいえ、お気にせず」


「あんたも、えーと、名前なんだっけ?」


「はっ、はい! 僕はリッケって言います! 17歳ブロンズランク冒険者です! ジョブはクレリックやってます!」


「おおっ! 元気があって良いじゃないか! あたいはマラスネール、長いからマネで良いよ」


「はい、マネさん! よろしくお願いします!」


 顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに頭を下げ挨拶するリッケ、一目惚れをした人を直接見たのは初めての経験だ。


「ウチはシュー。リッケ、よろしくだシ」


「はい、シューさんもよろしくです」


「ムカ、なんかマネの時と全然反応が違うシ!」


「まぁまぁ、シューさん」


「アッハッハッハ、アタイの方が強そうに見えるからね。シューの印象が薄くなっちまったかもしれないね」


「何を!」


 プクっと膨れるシューを宥めるもマネの言葉で更に彼女は頬を膨らませる。

 マネの勘違いと言うか、鈍感な所も少し苦笑いだった。


 そこへまた二人の来客がこちらへと近づいてきていた。


「ちょっと、何やってるの二人とも」


「はぁ~、頼むから朝からイライラさせないでおくれ」


 エクレアと寝不足なのか頭を抱えたヘキドナの二人がこちらに来た。


「姉さん! すっ、すみません! あたいが早くシューを連れて行けば良かったのに遅くなっちまって。すみませんでした!」


「アネサン、あ、あの……。アネサンにご飯食べさせたくって……」


「はぁ~、全く。坊や悪いね、二日連続で世話になっちまって」


 シューの手に持つシチューを見て1つため息をするヘキドナ。自身の為という事もあって怒る事もなく、手をポンっとシューの頭に乗せてから自分へと感謝を述べてきた。


「いえ、元々自分達の食事が終わったら持っていくつもりだったんです。シューさんが来てくれて助かりました」


「……そうかい、私からも改めて礼を言うよ。ところで、あの盗賊共はどうしたんだい?」


 少し睨みを効かせて座らされてる盗賊を見るヘキドナ。


「アレ、ミツ達が捕まえたって言ってたシ」


「達ね……。まぁいいさ、怪我はなかった見たいだね」


「へ~、中々やるもんですね」


「お陰様で、怪我しても治せますから」


「フッ……。そうだったね」


 自分達をぐるっと見渡した後に少し考えていたヘキドナだったが、自分の言葉にクスリと笑うと話を止めた。


(リーダーが笑うなんて珍しい……)


「アネサン、そんな事より早く食べるシ!」


「シュー、お前は……」


 その後、戻ろうとしたヘキドナだったが、自分がテーブルに誘い四人追加となったので多勢での食卓となった。


 食事も終わり、洞窟内が魔力を満たしたことで壁が光昼間の様な明るさを出してくると、次々と転移の扉へと並ぶ冒険者の人々。

 自分達は入る事は無いが、見送りという事で近くまで来ていると、次々と昨日の治療のこと、又食事の礼を言ってくる人達が来た。


「ありがとう、君達には助けられたよ。美味しいご飯もありがとね」


「ガッハハハ、見てくれ、お前の治療とメシのお陰でこんなに動けるぞ! 今回は帰るけど、荷物まとめたらまた潜るつもりだ。何処かであったら助けてやるからな!」


「ミツさん、本当にありがとうございます、貴方との約束は必ず守ります、本当にありがとう!」


「俺からも改めて礼を言うぜ、ありがとう!」


 次々と自分とリッケの所へと礼を言ってくる冒険者達。その中には、指を欠損してしまったがスキルでそんな事もわからない程に綺麗に治した指をしたマチとカートの姿もあった。マチは大きな目に涙を浮かべながらも、自分との約束を守る事を改めて約束してくれていた。


 勿論冒険者全てを治療をしたのは自分とリッケの二人だけではない。

 他の冒険者の治療士、その人に治療の礼を言ってる言葉も耳に聞こえて来た。


 それよりもだ。

 昨日の晩、自分達の所に寝込みを襲った未だに〈麻痺攻撃〉の効果が残った盗賊に周囲の冒険者の視線が向けられていた。

 盗賊を捕まえたのが見た目は青年程のミツ達と聞いた冒険者達は驚きの声を上げている。


「門を開きます! 使用希望の人は並んで下さい!」


 扉の前に立った一人の女性魔術士。

 彼女が扉を開けると声を上げた。

 それを聞いた冒険者達は続々と門へと並びだすと、ヘキドナも列に並ぶ為に腰を上げる。


「さて、行くかね」


「あいよ!」


「リーダー、帰ったら直ぐに買い出しですね」


「猿共め! 今度あったらただじゃおかないシ!」


「いや、一旦ライアングルの方へ帰るよ。ここから出た場所じゃ鼠共に足元見られて高くつかもしれない」


「ですよね~。なら大会後にでもまた来ます?」


「考えとくよ……」


 確かにヘキドナの読みは正しいのかもしれない。

 一気に客が来ればそれを必要とする客は値が少し上がっても買ってしまうだろう、それなら安値で手に入るなら一度ライアングルの街まで戻る方が金銭面でも節約にもなる。


 なにより、今のヘキドナの体調を考えるなら暫くの間は洞窟探索はお休みだろう。


「さて、私達も失礼するよ」


「飯、最後までありがとな! 今度あったら奢ってやるぜ!」


「ご飯だけにしときなさいよ。ありがとうね坊や達、その時は私が見張りとしてついていくからね」


「おい! 変な事言うなよ」


「皆さん、体は治ってもまだ体調は万全でないので無理は控えてくださいね」


「あぁ、わかってるよ」


「君達も気をつけなよ、じゃーね」


「ほんと世話になったね、ありがとう。……お嬢さん達、頑張りなよ」


「……はい」


「……ニャ」


 自分の言葉に手を軽く上げた後に門へと入っていくヘキドナ、それに続くエクレアだ。

 一言残して行くアバに、リッコとプルンは返事をしながら頷く。

 それを見たアバはミツに礼を言った後、アハメドとカーヤの二人が連れて行ってくれる盗賊達と共に門を通り抜けていく。


「マネさん! お気をつけて!」


「気をつけるもなにも、あたい達ここ潜ったら外だよ。それよりもアンタ、治療士なら治療頑張りなよ! アンタの治療は冒険者を助ける! パーティーには必要だからね」


「はい!」


 マネは言葉と一緒に自身の拳をリッケの胸へとポンッと押し当て気合を入れた。

 それに応えるかのように、リッケの返事は周囲の目を気にしてない程の大きな声だった。


「後、少しは筋肉つけな! 男はガッシリとしてた方がモテるよ!」


「ガッシリとですか……。マネさんはそんな人がお好みですか?」


「ん? あたいかい? 勿論、あたいはあたいより強い男としか結婚しないつもりだからね」


「じゃ~、マネは永遠に独り身だシ」


「何だと!」


「解りました! 僕頑張ります!」


「ミツ、またねだシ!」


「じゃーな! アンタ達も無理はせずに頑張りな! 待ちやがれシュー!」


 逃げる様に扉へと入っていくシュー、それを追いかけるマネ。

 リッケの最後の言葉が聞こえたかわ解らないが、リッケは満足そうに扉の方をじっと見つめていた。


「閉じます! もう利用希望者はいらっしゃいませんね」


 ペコリと最後に自分達に頭を下げ、門へと入っていく女性魔術士。

 どうやら、自分に仲間を治療して貰っていたようだ。

 その魔術士が入ったと同時に扉は閉められ、扉の隙間から漏れていた光もスッと消えていった。


「なぁ、ミツ……」


「どうしたの?」


「俺は弟の趣味がわからん……」


「ははっ、見守ってあげようよ」


「おっ……おう……」


 未だに閉められた扉を見続けているリッケ。

 そんな彼にかける言葉は、リックと自分には思いつかなかった。


「処で……。皆はこのまま進んで良かったの?」


「何だよ今更。皆で決めた事だから良いんだよ」

 

「そうですよ! 僕は強くなるためにも少しでも経験を積みたいんです!」


「まぁ、4階層でキツそうなら一度戻って転職かなって」


「そうニャ、できるところまで行ってみるニャ」


「解った。無理そうならここに帰ってきて転移の扉で帰ろう」


「じゃ、それな」


(いざと言う時は本気で皆を守らないと)


 アバ達が転移の扉を使い外へと戻る前、一度皆で今のジョブに関して話し合っていた。


 それは一度外に出て判別晶のある所へと行き、リック達四人のジョブを変更するかの話し合いだ。

 自分自身は何時でもジョブは変えれる為戻らなくても問題はない。

 だがリック達は違う。

 判別晶で次になれるジョブを表示してもらわないと、彼らはジョブの変更ができないのだ。

 このまま戦闘を進めてもジョブの経験にはならない。

 しかし、皆は戻る事はせずに行ける所まで行く事を選んだ。通常ならこの選択は危険だが、皆の希望もあって進む事になったのだ。


「しかし、一気に人が減りましたね……」


「残ってるのって、私達除いたら数組のパーティーしかいないわね……」


 見渡すのはバルモンキーの被害を受けていないパーティーだろうか、通常ならこのまま進むパーティーも居れば3階層に戻るパーティーとふた手に別れるのだが、今居るパーティーは全て4階層を探索と進む様だ。

 そうして今居るパーティーを見渡すと、リックが1組のパーティーを見た瞬間、険しい顔になった。


「嫌な1組もいるぞ」


「あ~、あの人達ですか」


 リックの言った嫌なパーティーとは、2階層で少し口論になったリティーナ率いる貴族パーティーだった。


「ねぇ、少しずらして入りましょうよ」


「そうニャ、さっきからジロジロと見られて気持ち悪いニャ」


「あっ、こっち来た」


「フンッ、最悪ね……」


 ズカズカと重い体を揺らしながら近づいてくるのはリティーナの従者のマムン。その横には護衛のためか、二人の冒険者を引き連れている。


「おい、お前らに話があるダス」


「何でしょうか……」


 いきなりの言葉に渋々耳を貸す自分の言葉に、付き添いについて来た冒険者も申し訳なさそうな表情をしていた。


「お前らにもう一度チャンスをやるダス。まだ駆け出しであるブロンズのお前達じゃ行けない4階層、この階層にお前たちを連れてってやるダス」


「……はぁ?」


「そこの女魔術士! お前の力を見込んで4階層への同行を許すダス。よって付き添いのお前ら4人も荷物持ちとして同行をするダス!」


 リッコに指を指しながら自身の言う事は絶対だと言う感じに言ってくるマムン。

 呆れながら聞いてる自分だが、妹を物扱いの様に要求してくるマムンにリックとリッケの表情は更に険しい。


「……なぁ、リッケ、こいつグーで殴っていいか?」


「リック、気持ちは凄く解りますけど駄目ですよ」


 理由はどうあれ貴族の従者。

 つまり貴族の持ち物に手を出す事は許されることでは無い。

 それが例え貴族本人に向けられなかったとしてもだ。

 リティーナがマムンを従者と認めてる以上は、平民のリック達はマムンを殴る事はとてもできる事ではない。


「はぁ、何で私があんた達のパーティーに入らないと行けないの? 魔術士なら他にも見たところいるわよね? 莫迦じゃないの? そんなに魔術士いらないでしょ」


 リッコが正論を言うとマムンはグヌヌと苦虫を噛んだ顔をしている。


 事実、1つのパーティーに洞窟内での数人の魔術士は逆に効率が悪い。1つは極端に魔力の操作が難しくなること。自身以外の魔術士が側にいると、集中しにくいとか。


 他には狭い洞窟内では前衛にも魔法の被害がでてしまうこと。

 前衛は交代などでやれば良いのだが、ここは安全な街の中ではない。

 モンスターが出てくる場所。

 突如モンスターとの乱戦となるとそんな時に交代など言ってる場合ではない。

 乱戦中下手をすると、前衛が仲間の魔術士達の魔法に挟み撃ちにあい、モンスター諸共殺されかけないと言う事もあるからだ。


 その事は3階層で魔法を使った後、リッコに細かく説明を受けていた。


「ぬっ、なら、お前!」


「自分ですか?」


 リッコの言葉の後、次にマムンが指をさしたのは自分だった。ってか、人に指を指すな。


「そうダス、お前はアイテムボックス持ちダスな! 容量が多そうだから給金を通常の3倍出して雇ってやるダス。どうダスか? 3倍出すダスよ~、駆け出しの平民冒険者じゃ中々稼げない額になるダスよ」


 自分がアイテムボックスを持っている事はマムンも他の冒険者から昨日の炊き出しの事を聞いていて知っていたようだ。

 食事のために出した食材、それを出したと言う事はその分今はスペースがあると考えたのだろう。

 金に物を言わせた要求をマムンはしてくる。だが、勿論自分の答えは決まっている。


「解りました。では、改めてお断りします」


「そうダス、そうダス、お断りダスかって! えぇ! 断りって!」


「はい、以前も申し上げましたが、僕達では貴方方の力にはなれません。どうぞお引き取りください」


「ぐぬぬ、此方が頭を下げてここまで頼んでると言うのに、貴様ら!」


(((((おい、おっさんいつ頭を下げた!)))))


「フン! 貴様らの様な少しいきがった新米はまた猿共と遊んでればよいダス。お前ら行くダス!」


 また重い体を揺らしながら、ドスドスと足音がなりそうな足取りでリティーナのいる場所へと戻っていくマムン。


 その際自分は今後マムン達とは会いたくないので、マムンと付き添いの冒険者に〈マーキング〉を付けといた。

 勿論マムンの色は赤だったが、横の二人は色無しのグレーだった。


「どうやらあの人の独断の判断で僕達に勧誘に来たみたいですね。本当に迷惑な人です……」


「皆、一旦上の階層に行く階段まで戻ろうか。ここに居ても見られてるのも嫌でしょ?」


「そうだな」


 3階層へと戻る素振りをしながら一度階段の方へと足を進めた。


「マムン殿、少年達に何を?」


「何でもないダス! 忌々しい奴らダス!」


「ゲイツさん、ちょっと……」


 先程のやり取りを付き添いの冒険者がゲイツに伝えてくる。


「そうか、少年達を……。すまんな教えてくれて」


「いえ」


 付き添いの冒険者はマムンを守る為に付き添いに来ていた訳ではない。

 冒険者としてのゲイツの為に動いているだけのようだ。


「ゲイツ、そろそろ先へ行きますわよ」


 その時、リティーナが声を上げた。


「はい……。ではお嬢、前日も申し上げましたが、此処からは油断は一切禁止です。敵はゾンビにスケルトン、そしてデビルゴーストと出ます。お嬢は基本はゾンビとスケルトンに集中して下さい、デビルゴーストは控えの者が倒します。後は俺の側からは絶対に離れないで下さい」


「解ったわ」


 コクリと頷くリティーナ、その表情は貴族の前に剣士としての瞳をしている。


「お前ら! お嬢様を死ぬ気で守るダス!」


「マムン殿……。お嬢は剣の修行でここに来てるんです、傷を受けない修行があるでしょうか」


「そうよマムン。皆にそこまで言うのなら私が傷つきそうな時は貴方が盾となって私を守ってくれるんでしょうね」


「えっ? あっ……それは、もっ、勿論ダス。お嬢様を守る為このマムン、お嬢様の盾となりましょう」


「……そう。ではその時は期待しておきますね。それでは皆さん、行きましょう」


 マムンの曖昧な返事を流しながらもリティーナはパーティーを進めた。

 ゲイツ他数名の冒険者が冒険者カードを入り口の門番に見せると、それを見た門番はリティーナパーティーを先へと進めた。


「もういない?」


「うん、大丈夫だよ」


 ひょっこりと遠目からリティーナ達が入っていくのを確認する自分達。

 それを見て更に数分後自分達も出発と4階層門入り口へと近づいた。


「止まれ。これより先アイアンランク以上の冒険者が同伴ではない者は通れん」


「あっ、はいコレ」


 門番をしている人物に自分は懐からアイアンランクのカードを取り出し見せた。


「えっ」


「よっ、良し、通っても構わんぞ。ただ、無理だけは絶対にせず、自身が危険そうなら逃げて来い。俺達が対処してやるからな」


 取り出したカードを二度見する程に驚いてはいたが、カードを確認すると注意事項だけのべて自分達を通してくれた。


「はい、解りました。その時はそうします」

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