第25話 ボッチャまLove執事の力マジパネェ

 ドアを叩くと、中から声が聞こえてきた。

 それを確認するとゼクスはゆっくりと扉を開け、自分とプルンを招き入れてくれた。


 中に入ると、一人の見た目はダンディーな男性がソファーの前に立ち、声をかけて来た。


「ようこそ、私がこのライアングルの街の領主"ダニエル・フロールスだ、よろしく」


 挨拶と同時に差し出されたのは手は、左手だった。何故かと思ったら、よく見るとダニエルの右手の袖から出ていたのは義手だった。少し驚いたが初対面で失礼の無いように冷静に左手を出し笑顔で挨拶を交わした。


「初めまして、ミツと申します、本日はお招きありがとうございます」


「ウ……私はプルンです、お招きありがとうございますニャ」


 自分もプルンも不器用ながらも挨拶を交わし、プルンにとっては「私」の言葉遣いが出る程だ。


 相手はこの街の領主、プルンはきちんとエベラの注意を守ってくれてる。


「いや、態々来て頂いてくれ感謝する。そして、我が息子をモンスターから助けてくれた事を礼を言わせてくれ」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、助けてくれてありがとうございました」


 いつの間にかダニエルの横に立つロキア。


 こちらに向けてお礼の言葉を言ってくる。

 自分達の為にお礼の練習をしてくれたのか、後ろでゼクスさんがまた小さく拍手して満面の笑みだ。


「いえ、ゼクスさんも居ましたし、自分達はお手伝いをしたぐらいで……」


「ハッハッハッ、謙遜しなくて大丈夫だよ。話はゼクスからも聞いてるからね」


「そうでしたね」


 コンコンッコン


 ソファーに座り、お互いの自己紹介も終わった時。


 また扉を叩く音がする。


「お茶をお持ちしました」


「入りなさい」


「失礼します」


 ダニエルが入室を許可すると、入ってきたのは三人の女性だ。


 一人目は金髪色のロールアップヘアーで白いドレスを着た女性。

 見た感じロキアの母親だろうか、顔が似ている。子持ちとは思えない程のスタイルだ。


 二人目は紫の髪色をしたまさに貴族と言う盛髪ヘアをした女性。

 この人はご夫婦の姉か妹さんだろうか?


 三人目は見た感じに自分と同じ年に近い感じか、また二人目の女性の娘さんであろうか、髪の色は同じだし、どことなく雰囲気が似ている感じがする。三人とも少し胸元の露出が高いドレスを身にまとっていた、これは旦那さんの趣味か? いい趣味だ、旦那さんとは趣味が合うようだ。


 三人がゆっくりと持ってきたお茶を目の前に配りだした。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 ロキアの母と思われる女性が自分の目の前にお茶を丁寧に差し出す。


 しかし、その時に胸元に目が行くのは自然の流れだ、そう! 極自然な事だけに見ても変では無い。


「……」


「フフッ」


「うっ……」


 見ている事に気づいたのか、優しく視線を返されてしまった。何だろうな物凄く恥ずかしくなってしまった。


「どうぞ」


「ありがとうニャ」


「紹介しよう、妻のパメラとエマンダ、そして娘のミアだ」


「パメラです、息子のロキアを救っていただき、ありがとうございます。本当にお二人には心からお礼申し上げます」


「エマンダと申します、私からも、大切な家族を助けて頂きお礼申し上げます」


「娘のミアです、弟の命の恩人に誠に感謝もうしあげます」


(んっ……。ミアさんの弟がロキア君……。えっ? 奥さんがお二人?)


 やはりパメラはダニエルの妻であった。


 しかも、エマンダも妻であり、ミア程の大きさの娘さんも居ることに驚いた。


《この世界では、一夫多妻が普通となります》


(こんな美人の二人を……。なんてうらやまけしからん事だ!)


 三人は椅子に座ることもなく、ダニエルの後ろに立つ形を取った。


 パメラとエマンダが何やらダニエルの耳元に囁いてる。そのせいか二人が前かがみになる為、偶然胸元に目線が行ってしまうのは仕方ない事だ、そう仕方ない事なんだ。


(しかし、この娘さんも発育良すぎだろう、しっかりと親の遺伝子は引き継がれているな)


 ミアの歳は見た感じに10代では間違い無いだろうが、二人とも母親共にモデル並みのスタイルを見せてる。


「そうそう、君にはもう一つ礼を言わ無ければな」


「ん?」


「ニャ?」


「心当たりは無いかね」


「いえ」


「ふふっ、なるほど、話通りの少年の様だな」


「話と言いますと?」


 ダニエルかカップに注がれたお茶を一口飲み、微笑みながら子供にクイズを出すかの様な感覚で質問を問いかけてきた。


 自分には全く記憶に無いので頭の上に(?)を出しているような顔になっていただろう。


「ギーラ村長から聞いた通りでしたね」


「ほんと、自慢して回ってもいないみたいですね」


「えっ? ギーラさん」


「おっ、理解したみたいだね。そう、スタネット村の件だよ」


 ハッと思い出し理解した、確かにこの世界に来てやった事があったと。


 そう、スタネット村の事は既に領主であるダニエルの耳に入っていたのだ。


「いや、あれは自慢して周るようなことでは無いですよ」


「まぁ、人の命を救われたんですよ? 普通なら自慢される物ですよ」


 ミアが自分の言葉に対して驚いているようだが、元々自慢話や武勇伝を語る様な性格ではないので、今まで誰かにスタネット村での出来事を話したり自慢する事もなかった。


「いや、我々としても治療士を派遣する事を考えていたところだったんだよ。だが、最近定期連絡時を受けに行った者からの連絡を聞いて私達は驚いた……」


「昨日、少年が来て村人皆を完治させましたよって。実は、私も治癒の心得はあるのですが、アース病の治療は出来ず、自身の力不足に悔やんでおりました」


(パメラさんは治療士なのか)


 パメラは治療士だが、アース病を治すためのスキル〈キュアクリア〉のスキルを覚えていないため、スタネット村への支援ができなかったのだ。


「更には近くに出没したモンスターを討伐してなお、村人の為に高価なモンスターの食材を差し上げたことも」


「私もその話を聞きまして心より感銘致しました」


 美人三人から休まずお褒めの言葉が飛んでくる。

 内心、まだその時はゲームのイベントだと思いながら、村を救ったので自慢する事じゃないと思ってたのだから。


(そういえば、アイシャにまたお肉送る約束してたな。この世界に配達とかそう言ったのはあるのかな?)


「プルンさんもその時いらっしゃったのでしょ?」


「ニャ、ウチはその時冒険者ギルドの依頼で森にいた時にオークに捕まってたニャ」


「で、助けたのが君って事か」


「はい」


「ハッハッハッ!」


「ニャニャ!」


 ダニエルが大きく笑い、自身の太ももをパシパシと叩きながら笑っている。それを見た周りの婦人達は同じ様に笑っている。


「気に入った! ゼクス! 俺は気に入ったぞ!」


「はっ、私も旦那様なら、そうおっしゃって頂けると思っておりました」


「そうですね、息子だけではなく」


「大切な民も救っていただきました」


「ミツ様、ありがとうございます」


「良かったニャ、ミツは伯爵様に気に入られたんニャ」


「プルンさん、あなたもですよ」


「ニャ!」


「あなたの働きもちゃんとゼクスから聞いております、ありがとう」


「そっ、そんニャ~」


 その後、会話も弾み堅苦しかった話し方も無くなり、少しづつだがプルンもその場の雰囲気に慣れたのだろう、いつの間にかいつも通りの話し方になっていた。


 貴族と言うと固っ苦しいイメージか、金の力で物を言わせるというイメージしか無かった。しかし、目の前の家族は普通に対話してくれている、見ていて思った、貴族だろうが市民だろうが家族を思う気持ちは変わらないのだろうと。


「そう言えばミツ様は、冒険者をやられてるのですよね?」


「ええ、今はアイアンランクです」


「ん? アイアンランク?」


「えっ?」


「本当にアイアンなんですか?」


「はい、一応」


 ミアの質問に、普通にためらい無く答えたが、自分の返答に皆が疑問と驚きに此方を見ていた。


「ふむ……ミツ君、すまんが1つ聞いてもらえんか」


(先程馬車の中でゼクスさんが言ってたことかな?)


「はい、何でしょう」


「ここにいるゼクスと1つ、手合わせしてくれんか」


「……えっ?」


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 屋敷の東側にある模擬戦場。


 サッカーの試合が出来そうな場所がそこにはあった。


「どうしてこうなった……」


 領主様のお願いを無下に断るわけもいかず、流れでゼクスとの模擬戦をする事に決まってしまった。


「ミツさん、手加減無用です、本気でお越しください」


「ニャニャニャ!」


「プルンさん落ち着いて、ゼクスもああは言っておりますが手加減しますよ」


 試合観戦の席であろうか、長椅子に皆で座り両サイドにメイドを従えて観戦している。


 皆はまるでサッカーのサポーターの様にこちらを観戦している。


 よく見ると、屋敷の人達も少しづつ集まってきてイベントの様に観戦者が増えて来ている。


「お父様の悪い癖ね、相手の強さを直ぐに見たがる」


「ハッハッハッ、いいじゃないか、皆も気になってるんだろう」


「「ええ」」


「勿論!」


「ニャ~」


 貴族のお遊びであろうか、それともゼクスに話を聞いているから自分の力が見てみたいだけの好奇心か。どの道戦うのは貴族様じゃない、目の前のボッチャまラブ執事だ。


「ゼクスさん、元シルバーランク冒険者の胸お借りします!」


「ホッホッホッ、ご存知でしたか。大丈夫、心構えはありますから必ず寸止めいたしますよ」


「ほっ、良かった」


 流石にシルバーランクに本気で来られたら、スキル使っても勝てる自信はない。


「じ~や、頑張れー!」


「おおおおおぉぉぉ、はい! ボッチャま! 今からこの私めが対戦相手を八つ裂きにいたしますのでお楽しみください!」


「ちょちょちょ、ゼクスさん!?」


「うふふ、ゼクスったらはしゃいでますね」


「ロキアのことになると本当に性格が変わるわね」


「ハッハッハッ。ロキアよ、ゼクスをもっと応援してやりなさい」


「じ~や! カッコイイよ! 頑張れ!」


「ふおおおおおぉぉぉぉ!!! ボッチャまご覧ください、今から我が名刀にて最高の剣術をお見せいたします!」


「もう、あなたやり過ぎですよ」


 ロキアの応援がゼクスの戦闘力を上げていると思う、ほんの数秒前の優しい執事の顔は何処へやら、今目の前にいるのは自分を今から切り刻もうとしている無茶苦茶な執事だ。


「なるほど、自分今日死ぬかも……」


「では、始め!」


 ダニエルの言葉が響き渡り、皆の視線を注目させ、今静かに戦いが始まった。


「ミツさん」


「はい!」


「ボッチャまのために散って下さい」


「お断りします!」


 相手が強者と解っているなら出し惜しみはしない。武術をやっている人、しかも自分より力量が上の相手に手を抜くなんて失礼でしかない。


(手始めにこれで! ハイディング)


「ぬっ!」


「なっ、消えた!」


「気配すら感じませんわ!」


「ん~、さぁ、少年よ、相手は引退したとは言え元シルバーの冒険者、どう戦う……」


「すみませんが、本気で行きますよ!」


 少し離れた場所に現れ、自分が使える支援魔法を全て自身にかける。


「なっ、いつの間に」


 ゼクスは強敵だと解る、その為やり過ぎと言う事はない、念には念を入れ準備をする。


「支援魔法……ロキアを治したと言うのはホントなのですね」


「しかも数もありますね」


「ミツ様は支援職なのでしょうか?」


「いや、まだ解らないが支援職にしてはかなり力を秘めている様に感じられる」


 自分への支援をかけ終わり次は、ゼクスへのデメリットスキルだ。


「ゼクスさんにはこれを差し上げます!」


(威嚇!)


「ぬぬっ!」


 アースベアーさえ動きを止めたこのスキル。


 今までもだが、自分の戦闘は相手の動きを止めなければ、次へ繋げることができ無い物ばかりだ。


 持ってて良かった〈威嚇〉スキル、ありがとう!


「よし、これで勝てる」


「ぬぬっ……ハッ!」


《〈威嚇〉スキルがキャンセルされました》


「えっ、嘘だろ……」


 ゼクスの気合の言葉と同時に〈威嚇〉がアッサリと無効化されてしまった。


「心をしっかりと持てば対処は簡単、このスキルは私には効きませんぞ」


「なら、これは!」


(速度減少!)


「むっ!」


 ゼクスに向かって掌をかざすと同時にデメリットスキル発動。


 スキルとは違い魔力を使う魔法は抵抗もなく効果を発した。


「魔法は効くみたいですね」


(わわわわ……どどど……どうしよう、スキルをキャンセルとかないわー)


「すみませんが此処から狙わせて貰います!」


「受けて立ちましょう」


 ゼクスとの距離を維持しながら弓を構える、矢先の鏃は前もって外してあるし、模擬専用の奴を使う事になっている。


「本気で狙います! 当たりどころが悪いと怪我しますからね!」


「ホッホッホッ、その時はあなたに治して頂きましょう」


「……行きます」


「胸を貸しましょう」


「はあっ!」


 気合と共に放った矢は真っ直ぐにゼクスへと向かって行った。しかし、矢を撃つ所を見られては、矢の当たる可能性も低い訳で結果は……。


「セイ!」


「矢を斬ったニャ……」


 スパッ、正にその言葉が似合う様に綺麗に切り裂かれた矢はゼクスの手前で真っ二つとなり落ちた 


「よかった、これなら大丈夫そうですね」


 こちらの焦りを悟らせない為ハッタリの言葉をかけてみる。


「はい、これなら私でも対処できます」


(ちくしょー! 余裕かよ!)


「では、行きます」


「ホッホッホ、いつでも」


 一発が駄目なら何発でも、下手な鉄砲も数撃てば当たる! 矢の続く限り〈連射〉を試みる。

 そして、ゆっくりであるが、ゼクスが動き出した。相手の攻撃への警戒、次の攻撃を模索しながら戦うのはモンスターとはまた違う、緊張感と恐怖心が心を過る。


「これなら!」


「ホッホッホッ、どうされました? その程度では私は倒せませんよ」


 次々と斬り落とされる矢は、ゼクスの体を傷つけることはできなかった。


「ゼクス楽しそうですね」


「ふむ、若い頃を思い出すな」


「なら、まだまだ、これからですね」


「じ~や……」


「大丈夫よロキア、ゼクスの顔をしっかりと見てご覧なさい、とても楽しそうよ」


「……うん!」


 〈連射〉を続けながら次の策を思いついた、時間稼ぎの攻撃はもう止めよう。


 フッと矢を構えるのを止めるとゼクスも剣の構えを止めた。


「おや、降参ですか?」


「いえ、これ以上は矢が勿体無いだけです」


「そうですね。ミツさん、武器はどうされます」


「解るでしょ?」


「ホッホッホッ、本当にあなたには手加減が難しいですね」


 長引かせたら絶対こっちが不利だ。


 自分が持つ1番の攻撃力と攻撃範囲があるスキルで決めて行く。


「行きますよ!」


(忍者=風弾!)


 掌に出された風弾、使うのが二回目だがアースベアーのダメージを見てもその威力は折り紙つきだ。


「喰らえ!」


 バッ! っと投げ離れた風弾がゼクスへと向かっていく。


 勿論矢よりはスピードは遅いが、肉体強化系スキルのお陰で中々のスピードを出して飛んで行く。


「私はその技を一度見てますからね、残念ながら避けさせて頂きます」


「えっ! そんな」


 アースベアーでの使用を見ているゼクスにそれを受けることはあるはずもなく、アッサリと避けられる風弾、そしてゼクスの後ろに飛んで行ってしまった。


 ババババッバ


 誰も居ない後ろへと飛んで行く風弾、地面へと着弾し、けたたましい音を出しながら地面を削り取る、風弾が消えた跡には人がすっぽりと入る程の大穴を開けた。


「「「「「 !!! 」」」」」


「やっぱ避けますよね」


「アースベアーでの戦いの中、あれを見ていなかったら私は手を出してしまっていたでしょうね」


「エッ……エマンダ、今のは魔法なのか?」


「いえ、あなた……。あれは魔法であって違うものです」


「どういう事だ?」


「申し訳ございません、私の記憶には存在しない魔法です」


「お前が知らない魔法だと……」


「ミツ、あんニャ技まで持ってたのかニャ」


「プルンさんもご存じないんですか?」


「……ニャ」


「さて、知っているスキルが駄目なら別の手で行きますよ」


「おや、あの短剣は出されないのですか」


 ゼクスの言う剣とはスキルの風刀の事だろう。

 しかし、ミツは元から風刀を出す気は無かった。


「出しても、剣術が駄目なのも知ってるでしょ」


「ホッホッホッ、確かに。では、どうなさいますかな?」


 背負っている弓はこれからの戦いに邪魔になるのでアイテムボックスにしまっておく事にした。


「ほう、アイテムボックス持ちでしたか」


「これは見せた事無いので少し自身がありますよ」


 アイテムボックスの中に弓と入れ替えに武器を取り出す。


「ほう、ナックルですか……」


「えっ、ミツ様は接近戦までできるんですか!」


「支援魔法に、弓での遠距離、攻撃魔法、更にはナックルでの接近戦」


「あなた……」


「ふむ……」


「ミツ、頑張るニャ……」


 ナックルは昨日の夜にプルンから返してもらっていたので、アイテムボックスの中に入れておいて良かった。


「よろしくお願いします!」


「宜しい……。来なさい!」


 改めてゼクスに頭を下げ、礼から始める。

 ガチの接近戦は始め。だが、彼は以前日本で格ゲーにハマり、その時操作していたキャラクターの技に興味が沸きネットで調べまくったのだ。

 付け焼き刃な戦闘方法。

 だが身体能力も上がってるので何とかなるだろう。


「ハッ!」


「ふっん!」


「ちっ!」


 一打目はアッサリと流され、流れるように逆に、突き出した拳ははたき落とされる様に一撃貰ってしまった。


「せい!」


「その程度ですか!」


「まだまだ! これからですよ!」


 激しくぶつかる攻防、少しづつだがゼクスさんの動きにも慣れてきた。


 習得しているスキルが効果を出しているのだろうが、今は確認してる余裕がない。


 今は攻撃を受けているが相手にも攻撃が当たるようになってきた。


「てい!」


「やりますな!」


 二人の肉弾攻防を目の前にして言葉を失う観戦者。


「凄いな、ゼクス相手に引いてないなんて……」


「お母様、ゼクスが手を抜いてるのでは……?」


「いいえ、ゼクスは今本気で戦っています」


「ニャ! 手を抜くんじゃニャかったのかニャ!」


「恐らく、最初はその素振りを見せていたのは間違いない。だが、今は手を抜く事ができないんだろう、彼の力量がゼクスと同等……。もしくはそれ以上に……」


 ガツ!


 お互いの力と技がぶつかり合う!


「ホッホッホッ、久しぶりに私の血が戦いに喜びを感じてますよ」


「そりゃ、こっちは必死ですからね!」


「じ~や! 負けちゃ嫌ー!」


「おおおお! ボッチャまの声が私の力となりますぞ!」


「ちょ! それホント止めてくださいよ」


 せっかくボッチャまパワーが落ち着いたと思ったのに、またハッスルしだしたよこの執事。


「さて、ミツさん」


「今度はなんですか!」


「私も少し本気を出させて頂きますよ」


「くっ……はい!」


 武器を構え直すゼクスの顔は正に武人の顔だった。


 少しブルったがこれはきっと武者震いだ……多分。


「今までは本気じゃニャかったのかニャ!?」


「嘘だな」


「嘘ですね」


「嘘でしょう」


「ロキアの前だからでしょ」


「ニャニャ!?」


「じ~や! いけー!!」


「見てていて下さいませボッチャま! これが私か持つ最強の技! 必ず相手を滅ぼしてくれましょう!」


(えっ、誰を滅ぼすって……)


「またまた、冗談キツイニャ」


「本気だな」


「本気ですね」


「本気でしょう」


「ホント、ロキアの事になると」


「ニャニャ!」


 その通り、ゼクスの目は本気だマジと書いて本気だ。


「行きますよ!」


「はい!」


「ツイストアタック!」


 ゼクスのレイピアから繰り出されたスキル〈ツイストアタック〉がガードをしても腕へとダメージが入ってくる。


「グッ!」


「まだまだ、これからですぞ! レイピアルクス!」


「なんの!」


 連続に繰り出されるスキル、ゼクスの本気が見えてきた、回転を入れている攻撃を何とかさばくが、腕へのダメージが流石に重くなってくる。


「ほほう、これ迄防ぎますか。しかし、次はどうでしょう! クレッセントスラッシュ!」


「っ!」


 油断した訳ではない、相手の攻撃を見逃せば自分に降り掛かってくるのだから。しかし、余りにも早すぎる攻撃は完全に防御する暇さえ与えてはくれなかった。


「ミツ!」


「入った! がっ、浅いな……」


「接近戦の動きも早いですね、傷が浅かったのは、しっかりと相手を見てるからでしょう」


「あっ、少し距離を置かれましたわ」


「良い判断ですね、そのままだと次の攻撃を受けていたでしょう」


「いってて、ヒール……ふ~」


 腕の痛みがやばい、あんな硬いレイピアの攻撃を連続で防いだんだ。地味に内出血や打撲をして指の感覚が鈍っていた、直ぐに距離を取り、手や腕を回復する。


「傷を直ぐに治される相手は厄介な物ですね」


「キズや痛みで本来の力を出せないのも辛いですからね」


「……左様でございますね」


(傷は癒せても疲れは残るんだよね)


《ミツ、サポートは必要ですか?》


(いや、これは殺し合いじゃ無いんだ。今の自分の力が何処まで通用するか試してみたいから大丈夫だよ)


《解りました》


「ゼクスさん! 次は自分のターンです!」


 腕の痛みも収まった、疲れは溜まってきているがそれは相手も同じ、此処からは根気比べの開始だ。


「ホッホッホッ、宜しい最後まで胸を貸しましょう、来なさい!」


「さ~、どうでるのかな」


「あなた、もう普通に楽しんでるでしょ」


「目が子供みたいになってるわよ」


「んっ、そうか、ハッハッハッ!」


「……」


「プルンさん?」


「やっぱ凄いニャ……」


「何がですか?」


「ミツニャ」


「お二人は長いおつきあいをされてるのでは?」


「いや、ミツとは最近パーティーを組んだ仲ニャ、出会ったのもパーティー組んだその日だったニャ」


「でも、短い期間でもプルンさんにとって大切なお仲間何ですよね」


「……そうニャ、ミツは大切な仲間ニャ!」


「そうですか」


「ニャ……。仲間ニャ……」


 下手な小細工は無し、むしろ通じる訳がないモンスター相手なら使えるスキルも今は使えない物もある。だったら使うことを考えるのを止めよう。


「中々良い攻撃ですぞ! しかし、その分防御が甘くなってますね」


「オラオラオラ!」


 ミツ自身、本人でも解る程に攻撃速度が上がってきている。

 ギアが上がってきたのか、アドレナリンがバンバン出ているのか、今は疲れ知らずで攻撃を続ける。


「ですが、まだまだ荒削りな戦い方ですね」


「くっ!」


(威嚇!)


「ヌっ!」


「効かなくてもそれに対する抵抗は必ずするでしょ!」


 スキルの効果が無いのは理解している。


 しかし、効果が無くても対処はする物だ、ほんの少しそのスキが好機だった。


 ドカッ!


「ウグッ!」


 ゼクスの懐に沈んだ自分の攻撃がゼクスの膝を折る程のダメージを与える事ができた。


「おぉ!」


「入ったニャ!」


「ゼクスに膝をつかせるとは」


「ゼクスさん! これで終わらせていただきます!」


「ヌっ、足にきてますね……」


「じ~や!!」


「ボッチャま……」


(土石落とし!)


 何も無い上空に砂塵の粒が固まり、それはドンドンと大きくなり形成されていく、塊となった砂塵は見た目大きな岩の塊となった。


(砂や小石だけでこんなのが作れるなら十分だ)


 ミツが出したスキルに観戦者からはどよめきの声が出始めた。


「なっ!」


「あれは魔物の魔法!」


「そんな! 人があの魔法を使うなんて!」


「いっけニャー!」


 振り落とされる大岩、それは真っ直ぐに試合上に落ちてきた。


「ボッチャま! 私めに最後の力を!」


「じーやー!!」


「うおおぉぉ!! ジャッチメントクロス!!!」


 高く飛び上がるゼクス、大岩の前に接近するとスキルを発動。


 輝くゼクスのレイピア、十字に描かれた攻撃を繰り出し連続攻撃で大岩を削り取っていく。


 ガツガツガツガツ!


「うおおぉおおぉぉ!」


 砂塵と小石で作られた大岩は耐久性は無く、1削り、1削りと削られ小さくなっていく。


 しかし、それも限界、攻撃だけでは全てを消し去る事はできず、大岩は地面に落下し爆音にもにた音を鳴らしながら砕け周囲に散乱した。


「きゃー!」


 周囲に砕け飛び散る岩の破片、観客席や闘技場の外まで飛んでしまった。


「いかん! 皆下がれ! パメラ! エマンダ!」


「はい! ミラーバリア!」


「フォースシールド!」


 パメラとエマンダが周辺の観戦者に防御魔法を展開する、障壁で弾かれる破片、幸い怪我人は出なかったが庭や観戦席には多数の岩が飛び散り被害を出してしまっていた。


 土煙が晴れるとそこにはゼクスが仰向けに倒れていた、どうやら大岩の破裂を直接食らったようだ。


 手足は岩の破片が当たりボロボロ、愛刀のレイピアは握っているがこちらに向ける力も残ってはいない。



「これで終わりです!」


(岩石砕き!)


 ドカーン!


 真っ赤に光るミツの拳、威力を増す為に高く飛び上がり、そのまま落下の威力を追加させる。


 殴りつけた地面から爆音が鳴り響き、モクモクと土煙を周囲を包み込み、晴れた場所には大きなクレーターを作り上げていた。


「ハァ、ハァ……」


「ふ~、私の負けですな……」


「ハァハァ……あ……ありがとう……ございました……」


 自分の拳はゼクスの腕と脇腹の間の地面を直撃、お互い服はボロボロ。


 自分はナックル越しとは言え、硬い地面を殴ったのだ、右拳のダメージは計り知れない程にズキズキと痛みが走る。


 ゼクスはダメージはそれ程でも無かったが、やはり歳には勝てず、スタミナ切れのために動くことが全くできない状態になっていた。


「「「「おおぉぉぉ!!!」」」」


 パチパチパチパチ!


 湧き上がる歓喜の声と拍手の雨。


 しかし、二人には手を振ってやる力も残ってはいない。


「ミツーー!」


「プルン……」


 仰向けに空を見上げていると、プルンの声が近づいてくるのが解った。



「凄かったニャ! カッコよかったニャ!」


「ありがとう……痛ったた」


「ニャ! 大丈夫かニャ!」


「大丈夫、大丈夫だよ」


「ハハッ、無茶するニャ」


 パチパチパチパチ


「二人とも見事だった!」


「本当、素晴らしい戦いでした」


「二人とも、今治しますね。ハイヒール」


 パメラの回復魔法、ボロボロだった体の傷があっという間に塞がり、痛めていた腕も動くようになった。


「パメラさん、ありがとうございます」


(おおっ、ハイヒールって確かヒールより強い回復魔法だよね)


「奥様、ありがとうございます」


「いえ、二人の戦いに私は胸を打たれました」


「ミツ様凄いです!」


 ミアは先程の戦いに興奮したのか、無邪気に戦いの感想を述べてきた。


「ミア様、ありがとうございます、もう一心不乱でしたよ」


「うむ、ここに居る皆の予想以上の結果を見せてくれた」


「ほんと、増々皆あなたの事を気に入りましたよ」


 皆お祭りの後の様にもり上がっているが、たった一人だけこの結果を喜んでいない人物がいた。


「じ~や……」


「ボッチャま……」


 ダニエルの後ろから顔を出し、ゼクスの名を呼ぶロキア。


 ゼクスが負けるところを初めて見たのだろう、少し目に涙が見える。


「ボッチャま……申し訳ございません。この私、ボッチャまの応援をいただきながらも、不甲斐なく負けてしまいました……」


「うん……。ぐすっ……」


 大好きな執事の爺やが負けてしまった、それは子供にとって自分のヒーローが悪役に初めて負けたのを見た時程のショックなのだろう。


 って、だれが悪役だと言いたい。


「ロキア、お前も見た通り戦いでゼクスは負けた。しかし、ゼクスはカッコ悪いか? 負けたゼクスは嫌いになったか?」


 ダニエルがポンとロキアの頭に手を乗せ、ゼクスの戦いを聞いてみると、下を向いてグズっていたロキアがゴシゴシと自分の腕で涙を拭き、真っ直ぐにゼクスの方を見た。


「ううん! じ~やカッコ良かった! 凄く凄くカッコ良かったよ! お兄ちゃんも大好きだけど、じ~やも大好きだよ!」


「おおぉぉぉ!! ボッチャま!!! 不甲斐ない私めに、その様なお言葉をおおぉぉ!!」


 ロキアの言葉に感激のあまりに叫び出すゼクス。


 結果を見たらゼクスにとっては戦いの結果負けるよりも、ロキアに嫌われることの方が嫌だったろう。


 そんなロキアとゼクスの二人を見て微笑む面々。


「さて、すまんが観戦していた皆の者、庭の後始末を頼んだぞ」


「「「はっ!」」」


「二人は着替えて私の部屋に来なさい、皆も聞きたい事があるだろう」


「はい」


「承知いたしました」

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