第26話 二柱が決めたこと/執事の心
ポリポリ……。
〘ふ~ん、中々いけるわね〙
小さなちゃぶ台の上に置かれた和菓子のかりんとうを食べるのは創造主シャロット。
《ご主人様、お茶をどうぞ》
〘んっ、ありがとう〙
ズズズッ
そこへユイシスが湯呑みに入ったお茶を持ってきた、勿論中身は和菓子に合うように日本のお茶だ。
〘ふ~、ヤッパリあいつは面白い奴ね、スキルをあそこまで集めるなんて〙
《ミツは努力もしてますし、何より元から何かを集める趣味があったのかもしれません》
〘オタクだっけ?〙
ニヤリと笑いながらユイシスに答える。
《マニアとも言えるかもしれません、すみません詳しく説明はできません》
〘あ~、いいのいいの。あんたの知識は私と同等だから、私が知らないことをあんたが知らないのは仕方ないわよ〙
《力はご主人様がはるか上ですけどね》
〘とーぜんよ!〙
ユイシスはシャロットのコピー人物でもある、知性や経験はそのまま真似る事はできるが、流石に神である力までは真似する事は出来ない。
今二人がいる場所、創造主であるシャロットのイメージした空間、ここは6畳もしない和室をイメージして作っている場所だ。
丸いちゃぶ台、ミツの様子を映し出している三脚足の箱型テレビ、和風のタンス、壁掛けの風景画、壁掛けの鳩時計、時代は昭和初期を感じさせる部屋になっている。
そこに律儀にも襖を開けて一人の人物が入ってきた
〚邪魔するぜ〛
〘ん? あぁ、何だお前か〙
〚ハッハッ、お前は酷いな。おっ、ユイシス俺にもお茶くれや〛
その男はズカズカと入ってきて、中央のちゃぶ台の前に座り、かりんとう片手にユイシスに茶を催促しだした。
《はい、少々お待ち下さい》
言われた言葉になんの抵抗もなくお茶の用意をするユイシス。
〘雨水でも飲ませときなさい〙
〚相変わらず冷てえなー〛
コトッ
《どうぞ》
男に言われユイシスが湯呑みを差し出した、勿論中身はお茶が入っている。
〚すまねぇな、全く主人とは正反対な部下を持ったな〛
〘ちっ。それ飲んだらさっさと帰れ、シッシッ〙
〚まー、そんな邪険にすんな。それより聞きたいんだが、おめぇの所の異界人どうなった? 死んだか?〛
男の言葉に背を向けていたシャロットがバッと振り向いた。
〘バカ言うな!? あいつならピンピンしとるわ〙
《バルバラ様はミツをご存知なのですか?》
ユイシスが名を上げた人物、創造者の一人であるバルバラである。
見た目は赤い瞳、赤い髪、赤い体とボディビルダーと思える筋肉をした人物だ、自身の姿を自慢したいのか上は常に何も着ていない。
シャロットと同じ創造主であるがまだ創造主としては日が浅く、まだ数千年しか立っていない若輩者。
〚あぁ、こいつが一つ世界作るって言うから興味心で外から見てたんだよ〛
〘覗きとはいい趣味してるの~〙
ニヤニヤ顔でバルバラを茶化すシャロット。
勿論そんな趣味はバルバラには無い。
しかし、内心創造主としてのシャロットは認めるべき相手だ、やる事は気にはなる。
〚ちがうわい! たまたま、そう、たまたまだ! でっ、媒介となる異界人の生物を一人送り込んだのを見たんだけどよ〛
〘ほーれ、ヤッパリ覗きじゃないか〙
〚ぐぬぬぬっ〛
《ご主人様、バルバラ様に失礼ですよ》
〚本当にお前の部下は優秀だな~〛
〘フンッ〙
内心シャロット自身のコピーであるユイシスを褒められて嬉しいが、相手がバルバラだと素直に喜ぶ気にならないのだ。
《えーと、ところでバルバラ様は何故ミツの事を気になさるのですか? バルバラ様も創造主様ですよね、その様な高貴な方が何故人一人を?》
〚いゃ~、俺も世界作ってよ、生物送り込んだんだけどあっという間に死んじまってな。 イラッとしたからその世界ブッ壊してきたところなんだよ〛
〘アハッハッハッ、いくら何でも早すぎるだろ〙
〚うるせぇよ! だがら俺の送り込んだのが死んだんだ、お前のも死んだのかと思ってな……〛
赤い体が更に真っ赤になりながらも、シャロットの送り込んだ媒介となった異界人のミツが気になったのだろう。
〘残念、私の送りこんだ者は立派に成長しておる。何処かの破壊しか知らない創造主様と違って、生物の生き方や導きは得意だからの~〙
《でも、やはり最初は知らない場所に送り込まれて戸惑ってましたけどね。今はご主人様の世界を楽しんでいらっしゃいますけど》
〚ぐぬぬ……んっ?〛
〘とうした?〙
〚何で戸惑ってた奴が今は世界を楽しんでるんだ?〛
〚うっ……〛
ユイシスの言葉に疑問を感じるバルバラ、神からしたらほんの少しの事で自我を崩壊させる人は非常に扱いにくいのだ。
まだ知性が低いモンスターを育てる方が楽であるし、逆に知性が高い竜族を育てる方が世界は作りやすい。
《私がご主人様の命により、ミツの戦闘やスキル、様々なサポートをしております》
〘あぁ、バカ言わなくていいのに……〙
〚フフフッ〛
〘バ……バルバラ?〙
下を向き不敵に笑うバルバラに恐る恐る声をかけるシャロット。
〚ハーッハッハッハッ! なるほど! そんな方法があったのか、ずるいぞ貴様!〛
〘ズルくなんかないぞ! あいつは無理やり連れてきたんだからな、ちょっとしたサービスはつけないと直ぐに死んでしまうではないか〙
いくつもの世界を作り出してきたシャロット、勿論最初はバルバラと同じ様な失敗もあったが、今回の様に人一人を創造主が見守る様なことはシャロットに取っては裏技の様な方法だ。
《バルバラ様は媒介となった生物に何か力を与えたのでは無いのですか?》
ユイシスは他の創造主が媒介となった人物に何をしているのか気になったのでバルバラに聞いてみた。
〚いや、何も〛
即答だった。
〘それは流石に酷いの〙
《そうですね、ミツもご主人様の与えたスキルあっての今の力ですから》
シャロットとユイシスはお茶を飲みながら少しため息混じりに言葉を返す。
〚面倒くせーなー、世界なんてポンと作って、暫く放置しとけば何とかなるんじゃねーのかよ〛
まるで素人の家庭菜園の様な考えの発言をするバルバラだ。
〘定期的でも良いから様子を見てやることがコツよ。大体お前はもう創造主なんだからその適当な性格は直した方がいいぞ〙
〚元破壊神の俺に無茶言うぜ〛
バルバラは元破壊神、力は勿論シャロットより上だが、物を壊す専門の解体者か反対の物を作る製造者になったのだからシャロットの様に上手くできる訳がない。
〘ハッハッハッ、ホントになんでお前が創造主の地位に付いたのかわからんの〙
〚それは……ジジイがお前は壊すことしかできないのかって言うからよ。いや! 俺にもできるって言ったらこうなった〛
〘アーハッハッハッ、ハッハッハッ腹が、ハハッ腹がよじれるハッハッ〙
畳の上で腹を抱えて笑うシャロット。
《ちなみに大神様は何とおっしゃられてたのですか?》
バルバラの言ったジジイとは大神様のこと。
大神様は様々な神の上に立つ柱。
世界を作り出す創造主シャルロットの他に、知性司る神、力を司る神、愛を司る神、時を司る神、破壊を司る神、生と死を司る神といる、勿論他にも神々は存在するその神々をまとめ役が大神様だ。
〚……お前にコツを聞けだとさ〛
〘ほっほ~。ジジイも解ってるみたいだね~〙
《あの~あと一つ、バルバラ様が破壊神を辞められて大丈夫なのですか?》
〚そんなことは知らん! ジジイが何とかするだろうぜ〛
〘まっ、我は創造とは正反対の破壊神の事なんて気にもしないがな〙
ワッハッハッとお互いに高笑いを上げる二柱を見ると、少し呆れ顔にもう言葉が出なくなるユイシスだった。
〚とっ言う訳で、お前んところの媒介に使った生物を俺にくれや〛
バルバラは深く考えずにその言葉を発してしまったのだろう。
ピシリとその場の空気が固まった。
〘……〙
《……》
〚あっ、あれ? 二人ともどうした?〛
バルバラの言葉の後の二人の沈黙、下を向いてワナワナと体を震わせるシャロットに反して、ササッと素早くちゃぶ台の上にある湯呑みと和菓子を下げるユイシス。
〘ぬぬぬぬっ……〙
〚はぁ? なんだって?〛
〘バッカもーん!!!〙
〚ぐへっ! かっ、顔が! みっ、耳が!〛
シャロットの一喝の声を上げると、見事なちゃぶ台返しがバルバラの顔に直撃した、隣にいたユイシスは目と耳を塞ぎシャロットの一喝を見事に回避。
〘貴様! 今の言葉は我の行いを愚弄する言葉と知ってのことか!〙
〚がっ! そこまで怒鳴ることか!? お前ならまた一人の媒介を呼び出すことも造作もねーだろう!〛
闘気と思えるオーラを出しながら睨み合う二柱、そんな二柱を見て動じつに声をかけるユイシス。
《バルバラ様、申し訳ございません。失礼ながら横から、ご主人様がお怒りの理由をご説明させて頂きます。今回媒介となった異界人である者は、今迄の媒介として使われて来た生物とは違い、ご主人様であるシャロット様が特に目をかけております。……もしですが、バルバラ様もご自身が気に入った者がそんなふうに言われたらどうでしょうか?》
〚……〛
シャロットの怒りの言葉とユイシスの言葉でバルバラは考えて暫し沈黙する。
〚すまん、今のは俺の発言が悪かった。許してくれ〛
沈黙の後、豪快に頭を下げ己の不快な発言をした事に謝罪をするバルバラ。それを見たシャロットはあぐらをかくように座りなおし、ユイシスが差し出したお茶を一気に飲み干した。
〘ふ~、フンッ! ユイシスに免じて許してやるがな、今度ワシの者に手を出そうものならジジイに言いつけるからな!〙
言ってることはまるで先生に言ってやろうと、子供見たいな感じをさせる。
〚悪かった! 本当に悪かった! 反省したから勘弁してくれ〛
流石に元破壊神のバルバラも大神様は苦手なのか、シャロットの言葉を聞いた途端、顔を青ざめさせ、何度も大きな頭を下げ謝罪をもうしてきた。
〚改めて頼む、媒介のことを教えてくれ!〛
〘……ふ~。まぁ、ジジイがこっちに振ってきた時点でこっちに反対の言葉は元より無い、しっかりと教えてやるからそこに座れ〙
《お茶、注ぎ直して来ますね》
〚おう! 恩にきるぜ〛
〘はぁ~〙
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
ゼクスとの手合わせも終わった後に、着替えの前に汗を流すことにしたミツ
「ふ~、いい湯ですね~」
「まったく、試合でかいた汗を流すのは気持ち良いですな」
こじんまりとした銭湯程の大きさの風呂に入るは二人だけ、こんなシーンは誰得だと思う。
「すみません、無理言ってこっちのお風呂使わせてもらって」
「ホッホッホッ、構いませんよ。むしろ使用人用の湯処で宜しかったのですか?」
「あんまり大きなお風呂は苦手で……」
日本で住んでる時もだが、手足さえ伸ばせる程の広さがあれば十分だと思っている。
元に今は教会でのお風呂は湧かしたお湯で体を拭く程度、やはり元日本人だけにお風呂は嬉しい。
(そう言えば材木まだあるし、お風呂とか作ることはできないかな)
素人考えであるが即席のお風呂場を作る計画を立てていた、勿論エベラの許可がいるだろう、その時はガンガにも協力を制作をお願いしてみよう。
いや、武器を扱う鍛冶屋に頼むのもへんかな?
「左様ですか、ではミツさんの背中をお流ししましょう」
「いえいえ、寧ろ自分が流しますよ」
「お客様にその様な事はさせられません! 同じ湯に浸からせて頂けるのも失礼ですのに、お客様に背中を流させるなんてことは」
「いえ、お風呂は自分が無理言った事ですし。それに年上の人から洗ってもらうなんて自分はそんなに立派な人間ではありませんよ」
「……左様でございますか。では先にお願いします、その後に私が流すのは宜しいですか?」
「はい、それなら」
お互いどうぞどうぞの譲り合い、謙虚な姿勢も日本人らしいと思う。
ゼクスの背中を流そうと背中にまわると、首や肩脚などに無数の傷跡が残っていた、唯一背中には傷跡は無かった。
「どうされました?」
「いえ、大丈夫です」
「ホッホッホッ、驚かれたでしょ、この傷は私の誇りであります」
「誇り……ですか」
そう言いながらゼクスは自分の傷跡を優しくなでている。
「えぇ、私のこのフロールス家との繋ぐ誇りです」
「……聞いてもいいですか?」
「はい、私の答え(ら)れることであれば」
「ゼクスさんは、元シルバーの冒険者ですよね?」
「左様です、ほんの3~4年前まで冒険者をやっておりました」
「何で辞められたんですか?」
「簡単ですよ」
「えっ?」
人のプライベートに足を踏み込むのは失礼な事。
だが今の自分も冒険者だ、ゼクス程の力を持って冒険者を辞める理由はやはり気になる。
自分は恐る恐ると聞いてみるが、ゼクスは考える事も無くあっさりと理由を話してくれた。
「家族と言う居場所を見つけたからです」
「家族……フロールス家の皆さんですか?」
「はい、そうです」
自分はゼクスの話を聞きながらゼクスの背中を流し始めた、歳に似合わずゼクスの背中はハリがあり、まだ筋肉の衰えを感じさせる事はない程にシッカリとしている。
「ミツさんは私がボッチャまを溺愛してるのは気づいておられますか?」
「えっ!? ……ええ、まぁ、気付いてはいましたよ」
あれで気づかない人など居るのだろうか?
自分はそんな言葉を我慢しながらもゼクスさんは穏やかに返答した。
「私がここで仕えさせて頂けるきっかけ、それをを作ってくれたのがロキアボッチャまなのです」
「ロキア君が?」
「はい、冒険者家業をやっている時は何かと色々ありまして、剣の腕には自信がありました。しかし少々人としての心を失いかけてもおりました」
「……」
「……ミツさん、冒険者と言う者は依頼があれば大抵のことはやります。それが勿論人の命を奪ってしまう事であっても」
「賊とかですか……」
「……それもあります。他にも私は人の命を助ける為に人の命を奪っております、私の剣は今までにモンスターを斬り伏せてきました。しかし、それ以上に私は人を斬っております」
ゆっくりと、そして静かに話しだしたゼクスの冒険者時代の話。自分は理解はしていたつもりだった、この世界はもうゲームではない、いつかは盗賊や罪人を相手に戦う事になる。
その時にモンスター相手にしてた時のように弓をい抜けるだろうか、命を奪う事ができるだろうか。
その後、今までみたいに何も思わず生活ができるだろうか、色々な感情が自分の中をかけ巡った。
いつの間にか、自分の腕はゼクスの背中を流す力が弱まっていた。
「……はい」
「そのような状態が暫く続きまして。依頼の為とは言え、いつの間にか私の周りには誰も居なくなりました……仲間も、気軽に話す相手さえも、とうとう一部の冒険者にも恐れられてきました」
「ゼクスさん……」
「ホッホッホッ、人を守る為に冒険者を始めたのですが、その時には私の頭の中は解らなくなってしまいました。ただ日々に人を斬り、モンスターを斬り、手に残ったのは常に斬った相手の血だけでした」
冒険者ギルドにいるナヅキの様に冒険者時代のゼクスを尊敬する人は周りには居なかったのだろうか。その時に言葉は出なかったが、自分は今もゼクスを尊敬する人々が居ることを伝えたかった。だが、ゼクスの言葉がその発言を止めさせた。
「すみません……。そんな事とは知らず、辛いお話をさせてしまって……」
「いえ……。ミツさん、あなたにはこの話を実を言うとお聞かせするつもりでした」
「えっ?」
「あなたの力は他者から見たら希望であり脅威でもあります」
「……はい」
「私がある依頼を受け、野盗共から連れ去られた娘達を助けた時です。私はその娘達を野盗から助けた時、私は娘達の前で野盗を殺しました……。助けた後、私はその娘達から助けられたと言う希望の眼差しではなく、恐怖の目を向けられました」
どの様な形であれ、目の前で人が殺される姿を見た娘達はゼクスをその時は恐怖と思ってしまったのだろうか。
「私はその娘達の視線に耐えきれず目を背けておりました。そして気づけば捕まっていた娘達は村に走り逃げる様に去って行きました」
「そんな、助けて貰ったのに……そんなのって」
野盗に拐われる恐怖を救い出したゼクスにそんな態度はありえないと思った。自分は娘の気持ちは理解しがたい気持ちで話の続きを聞いた。
ゼクスの声は怒りや悲しみなどの感情はなく、自分は言葉をそのまま受け取り、ゼクスはまたゆっくりと話の続きを語りだした。
「……その帰りでした、何やら物々しい気配を私は感じたのです。その後、直ぐに男の悲鳴が聞こえました。私は、直ぐにその方へと走り向かいました。そこには1台の馬車が転倒しており、それを囲む様に無数のモンスターに襲われておりました、私がその場にたどり着いた時には残念ながら既に数名の犠牲者が出ておりました」
ゼクスはスッと立ち上がり、話しながらも今度は自分の背中に周り背中を流しだした。
「私は直ぐにそのモンスターの討伐に加勢し、己剣を振るいました、そして全てを片付けた後に残った者は、ほんの数人でございました。その生き残られた一人の男性がこう語ってきたのです……。"ありがとう、君のおかげで命が救われたよ"っと」
後に周って背中を流しているのでゼクスの顔は見えない。だが、最初に話しを切り出した時よりも話し方が穏やかになっているのは解る。
「不思議な気持ちでした……。人を救って感謝を言われたのは勿論これが初めてでは無かったのですが、私の戦いを見てもその兵士の態度が変わらなかったことが驚きでした。恐らくですが、九死に一生を得たのか死を覚悟した状態だったのでしょう、私がどういった人物なのかも気にもせず、彼らは話しかけてきてくれました」
ゼクスの話を聞いていると無意識に自分の顔から笑みが溢れた。
「その後外の戦いが終わり、馬車の中から一人、赤ん坊を抱えた女性と小間使いが出てまいりました。その二人も馬車の小窓から戦いを見ていたはずです、ですがその二人は私の血に染まった姿を見ても恐れる事はなく、優しくお礼の言葉を言って頂けました。そして……。フッ、その女性が抱えていた子供も私を見て笑ってくれたのです」
「それって」
「はい。それがロキアボッチャまです」
「じゃ、馬車に乗ってたのは」
「パメラ様でございます」
「あ~、なるほど。そこで出会ったんですね」
「はい」
ニッコリと微笑むゼクス。
「でも……何処でロキア君に救われたんですか?」
「ホッホッホッ、それはですね、ボッチャまの笑顔ですよ。そう、あの笑顔に私の閉ざされていた心、感情も失い欠けていた、凍りつき、溶けなかった心が救われたのです。戦いの後ですからね、魔物の返り血など勿論体に付いておりました、悪臭も酷かったでしょうに、それでもパメラ様は感謝の意を込めながら私の顔についた血を拭って頂きました」
笑顔で心が救われた。
他の人から聞いたら、たったこれだけでシルバーの冒険者を辞めるなんてありえないと思うかもしれない。
だが、自分はその話を目の前で聞くと、あぁ、なるほどと、納得してしまう物がそこにはあった。
「もう一つ聞いていいですか? 失礼ながらパメラさんがいたなら治療で救える命もあったのでは?」
パメラさんが恐怖で動けなかったのか、もしくは怪我をして治療ができなかったのか、少し気になり聞いてみた。
「はい、私も後から聞いたのですが、子供を出産後は暫く魔法が安定せず治療魔法が使えないそうなのです」
「なるほど」
「これが私とフロールス家との始まりでした……。少し長くなってしまいましたね」
「いえ、お話ありがとうございます」
魔法にそんなデメリットがあったなんて知らなかった。
ゼクスの話を聞きながら少し長風呂になってしまったが、この世界にサウナがあったらミツはもっと長風呂していたかもしれないと思った。
お風呂を上がると用意されていた衣服に着替え、皆が待つ部屋にゼクスに案内された。
コンコンッコン
「入りなさい」
「失礼します」
ドアをノックした後にダニエルの声が聞こえた、それを聞いたゼクスが扉を開ける。
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