第14話 スキルを使うときは計画的に

ゴブリンからの予想外の攻撃で不意を突かれてしまったリッコは直ぐには反応できなかった。


「ぐぁ!」


 しかし、リックが妹を庇う様に盾となりリッコをギリギリ庇うことができた。


 しかし、飛んできた武器を肩に当ててしまった。


 リックは肩を負傷し、持っていた小型ランスを落としそうになる。


「「リック!」」


 武器を投げ捨てたゴブリンだが、もう一体、短刀を持っているゴブリンがいる、そんな一体が今度はプルンへと襲いかかる。


「リックッ! くッ! 邪魔ニャ!」


 プルンはけして弱くはない。


 獣人族は基本仲間意識が強く、意気投合し、少しでも一緒の目的に戦ったら人族でもそれは仲間だ。


 獣人族の強さの源は仲間を思う気持ちからだろう。


「ニャ! 旋風脚!」


 プルンの新スキルが発動と同時に、ゴブリンは首を足で蹴られゴキッと音をだしゴブリンは即死となった。


「プルン、凄えじゃねーか!  あいたたた……」


「リック喋らないで、回復してるんですから!」


「良かったニャ、リックが無事みたいで」


「リック、ありがとね……」


「バカ、泣くなよ! お前が倒れたらオーガがこっちに来るだろ、それだけだ……」


「はいはい、リックは本当に素直じゃありませんね」


「ちげーし!」


 顔を真っ赤にしながらの男の子のツンデレなんて誰得だろう。まぁ、皆無事で良かった。


 これでゴブリンは全て片付いた。


 残るはオーガ一体のみ。


 普通に戦えばウッドランクの冒険者が勝てる訳がない。


 しかし、ユイシスの作戦とスキルの調達で勝算が見えている。


 オーガは肩で息をしながらも、リッコの魔法で出した砂から出ようと必死にもがいている。


 しかし、足は自身の重さにドンドンと地面へと沈み、その場から脱出したくとも、もうオーガの体力が残っていないのか足に踏ん張りが聞かないため、今は自身の手を使い周りの砂をかき出している。


《後はミツ自身がオーガを倒して下さい》


(本当にあの三人には感謝だね)


《はい、今の状態はミツだけでは不可能でした》


(じゃ、残りの作戦通りに行こうかね)


 その言葉と同時にハイディング状態だったのを解除し、自分はオーガの前に現れた。


「ニャ! ミツ!」


「あのバカ! 何でオーガの目の前にいるんだ!」


「リッコ! 魔法は大丈夫なんですよね!?」


「足は大丈夫だけど、あんなの噛み殺して下さいって言ってるような位置じゃない!」


 何やら後から罵声が飛んできてる。


 仲間は遠くから頭を射抜くと思ってたんだろうか。


 【アーチャー】って紹介してた人が敵の前に出たらそりゃ思われる


 突然目の前に現れた自分に少し驚きも、直ぐに大きな口を開け牙をむき出しにし威嚇をしてくるオーガ。


 グルルゥゥ!


「威嚇かな? 威嚇はこうやるんだよ!」


 〈威嚇〉スキルを発動するとオーガはビクリと体の動きを止めた。


 リッコの〈サンドウォール〉で柔くなった足場を確認しながらナックルを装備し、スキル効果で動けなくなったオーガの前でファイティングポーズを取る。


「ニャにする気ニャ!」


 何するって、そりゃ殴る!


 みぞおちを狙って〈崩拳〉を打ち込む!


 グオオォォ!


 ドスリと重い音か響き、それと同時にくの字に曲がるオーガの体。


 オーガも自身も比べると、まさか目の前にいる餌と思っていた奴の細い腕からこんな攻撃が来るとは思わなかっただろう。


 肉体強化系スキルと支援魔法を既にかけ直してるおかげで、オーガに入れた一撃は物凄く重い物となっている。


「なっ! 何だよあいつ、アーチャーじゃないのかよ!」


「パンチ一撃であのオーガの苦しみ方……。とんでもない攻撃ですよ」


「プルンさん、本当に彼はアーチャーなの?」


「ミツからはそう聞いてるニャ、何よりギルドの試験はアーチャーとして合格してるし、弓の腕前を見ても納得してたニャ」


「確に。彼のゴブリンを攻撃する時の弓の腕前を見てもアーチャーで間違いないでしょうけど」


「殴れる後衛とか何だよそれ!」


 プルン達が後ろで何か話してる、後で理由考えないとな。


 みぞおちに拳一撃入れて終わりってことはないだろ。


(ユイシス、殴り続けるからタイミングきたら教えて!)


《解りました》


 先程の一撃で顎が下がるオーガ。


 今の所注意するのはこの口だ、噛みつかれたら相当なダメージを食らいそうだな。


 だったら使えなくすれば良い。


 ゴアッ!


「どうだい、自慢の牙がへし折られる気分は」


 だらりと下がった顎に向かってまたスキルを込めて拳を何度も入れる! ボキリと砕け折れる数本の牙を見て。これで対象を噛み殺すこともできないだろう。


 しかし、オーガは殴ってもスキル効果でジワジワと傷を回復している。傷は治っても牙は生えてこないようだ、だが時間を開けてはいけない。


「頑丈な奴だな……。ゴブリンなら即死レベルの攻撃をしたつもりなんだけど。なら何度でも食らわせてやる!」


 威嚇で動きを止める、殴る、威嚇、殴る、この繰り返しのオーガはサンドバッグ状態となっていた。


 手は動くだろうが反撃をしようとしても〈威嚇〉スキルで直ぐに動きを止められてしまう、逃げようとして体を反ればボディーブローの様にまた体を曲げるほどの攻撃を食らう、そのため、オーガは反撃どころか防ぐことも逃げることもできない状態となった。


「君が! 瀕死になるまで! 殴るのを! やめない!」




 左右の〈崩拳〉スキルラッシュは顔に何度も当たり、オーガの顔は牙は全て抜け顔面崩壊状態。


 仲間はオーガを殴り続けている自分の事を呆然と見ていた。


「あいつ……無茶苦茶じゃんか……」


「「だね……」」


「ニャ……」


 オーガも殴られ続け、途中から完全に足に力が入らず膝から崩れ落ちた。


 オーガの頭が自分の目の前に来たので、頭を狙って崩拳を打ち込み、脳内にダメージを与えて意識を飛ばしていく。


 ピクピクと体を痙攣させ、口から食べたゴブリンの肉を吐き出し、とうとう泡まで吹き出したオーガ。


 耳や目からは血が流れて音すら聞こえず、自分の姿も見えてはいないだろう、既に目の焦点が合ってない気がする。




《ミツ、オーガの状態が瀕死となりました。今ならスキルが取得可能状態です》


 ユイシスの合図と共にスティールを発動。


(よし! スティール)


《〈デスブロー〉〈自然治癒 〉〈能力強化〉を習得しました、経験により〈崩拳Lv3〉〈威圧Lv3〉となりました


デスブロー


・種別:アクティブ


相手に特大のダメージを与える、一定の確率で即死にする。


自然治癒


・種別:パッシブ


自身のHPを自動に回復する、レベルに応じて回復速度と回復量が増加する。


能力強化


・種別:パッシブ


自身の持つスキルの能力を上げる。


 もう良いだろう、オーガには〈自然治癒〉スキルはもう無くなっている。


「リックさん! プルン!」


 自分の呼び声と共にビクッっと驚く二人、作戦の最後は皆でトドメを刺すことに決めていた。


「リック、行くニャ!」


「おう!」


 ピクピクと体を痙攣させ瀕死状態のオーガ、今なら抵抗もできないので二人にも任せれる状態だ。


「くらえっ! シャドームーン!」


「これがウチの本気の攻撃ニャ!」


 声に反応した二人は渾身の一撃を思わせる攻撃をオーガへと与えた。


 リックの槍はオーガの腹部に突き刺さり。


 プルンの拳はオーガの眉間を打ち抜き意識を完全に飛ばした!


「リッコ! 今です!」


「えい!」


 リッケの声と同時にリッコの持つ杖先から飛び出る火玉。


 炎は真っ直ぐにオーガへと飛んで行き、オーガへと命中し爆発を起こした! 燃え上がる炎がオーガを包む。




 ゴウオオオォォ!


 断末魔が周囲に響き、魔法が解除された地面からはオーガの体がドシンと倒れる。


 沈黙する皆、ピクリとも動かないオーガを鑑定すると状態は亡骸と表示されている。


 自分はオーガの死亡を伝えると皆は顔を見合わせた。リックは確認のためとオーガに槍をもう一度突き刺し、反応が無いことを確認すると戦いの勝利を確信したように「よしっ!」と叫んだ。


「「やったー!」」


「勝ったニャー!」


「ふ~、結構危なかったかな」


「よしっ! よしっ! 俺がオーガを倒したぞ!」


「ちょっと! リック、皆で倒したんでしょ! 何独り占めしようとしてるのよ」


「そうですよリック、それにトドメはリッコですよ、それにダメージ量ならミツさんが一番与えてるんだよ」


「そうニャ、さり気なくゴブリンも多く倒してるのはミツだニャ」


「わ……わかってるよ……。ちょっと言葉を間違えただけだろ」


「まぁまぁ、皆の協力で倒せたのは間違いないんですから。皆の勝利ですよ」


「まっ、ミツさんがそう言うなら」


「ありがとうございます、お二人のご協力あっての勝利です」


「これ、報酬でるかな?」


 倒れたオーガの亡骸を見てそう言い出したリック、確に討伐報酬は欲しいと思うだろう。


「オーガ討伐依頼が出てないなら素材代しか出ないわよ。第一私達じゃ解体できないでしょ」


「そうですね、街まで持って帰るにも大きすぎます」


 オーガの大きさは3メートルを超える大きさ、それに加えてその分重さもある。


 五人で普通に運ぶにはこのオーガは大きすぎる。


「でもよ! 放っとくと他の誰かに取られるかもしれないし、モンスターが来て食っちまうかもしれねーぞ」


「しょうがないじゃない」


「耳だけ持って帰りますか。依頼が出てたらそれで良しと思いましょう」


「あーあ、オーガなんて珍しいのに勿体無えな」


 三人ともやはりオーガを残していくのは勿体無いと思うのだろう。


 リッコは自分に言い聞かせるようにリックに言葉をかけ、リッケは取り出したナイフで耳の切除の準備をしている。


「あの~、自分が持っていきましょうか?」


「えっ?」


「ミツ、アイテムボックス持ちニャ」


「「「おぉー!」」」


 皆の気分を下げて上げる気は無かったがやっと話に入れた。


「本当ですか、ミツさん!」


「ええ、これなら入りますよ」


「やった! 素材代ゲットだぜ!」


「ありがとう、助かるわ」


 駆け寄って喜びを伝えてくる三人。


「いえいえ。……その代わりにゴブリンの耳は頂けますか?」


「ミツ、討伐依頼がゴブリン五体だったニャ。ここにいるので足りるニャ」


「俺は構わねーぜ」


「僕も構いません」


「私もいいけど、同じウッドランクのミツさんが、何で討伐依頼を受けてるの?」


「ミツはエンリから直接模擬試験受けてるからニャ、実力は認められてるニャ」


「エンリって……副ギルドマスターのエンリエッタさんから!?」


「そうニャ」


「ミツ、お前やっぱり変だぞ。ウッドランクであの強さは」


「そうですね……」


「まぁ、それは後で話すとして。皆の依頼も片付けましょうよ」


「あっ、そうだった! ヒエヒエ草はっと」


 オーガの事ですっかり自身の依頼を忘れていたのかポンッとてを叩き、踵を返したリック達は川辺近くへと歩き出した。


「うゎー、これだけあれば全員分集まりそうですね、」


「よし、これで依頼達成だな」


「端っこの方はまだ潰されてないのが多いニャ」


「良かった~」


 どうやら三人の依頼も採取だったようだ。


「ねぇ、あなたゴブリンも持っていくの?」


「いや、オーガだけ持って行きます。ゴブリンは耳だけを切り取って討伐の証拠になると聞いたので」


「ならゴブリンは埋めちゃうニャ」


「そうですね、ここはヒエヒエ草の生息場みたいですから。モンスターの死体を置いとくとまた別のモンスターが住み着くかもしれません」


「リッコ頼む」


「はいはい」


 リッコの〈サンドウォール〉で硬い地面を柔くし、皆でゴブリンの死体が入るくらいの穴を広げた。


「これぐらいの穴でいい?」


「あぁ、ゴブリンの死体を入れちまおう」


「では、オーガはアイテムボックスに入れときますね」


「さー終わったニャ。皆帰るニャ」


「プルンさん、約束の宿にあるパイを一緒に食べに行きましょう」


「いいニャ、報酬もらったら早速行くにゃ」


「だから俺らも行くって言っただろう!」


「そうですよ! 抜けがけはいけませんよ」


「さぁ、早く帰ろう」


 初依頼を終わらせてライアングルの街に帰る五人。


 この時の出会いが、まだ若い冒険者たちの運命を変える出会いでもあった。

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