第13話 初依頼はトラブルから

 ライアングルの街から一刻ほど、東の森へ歩く二人の新人冒険者。

 プルンと共に受けた冒険者ギルドの依頼。

 自然と進む自分の足取りは軽く感じていた。


「この辺ってさ、そんなにゴブリンがいるの?」


「最近増えてきてるニャ。ウチも二匹ぐらいなら戦えるニャ」


「へ~。因みにプルンが探してる採取品ってなに?」


「ヒエヒエ草って解熱とかに使う薬の材料ニャ」


「名前の通り冷たそうだね」


「基本は川辺とかに生えてるニャ。探索はゴブリンとかのモンスターと鉢合わせするかもしれない為、ウチ一人じゃ採取に行けなかったニャ。でも、ミツが一緒なら問題ニャいから行くニャよ!」


「うん」


 東の森には基本人や動物は住めない。

 それはとても魔力が強く、普通の動物が長くこの森に入ると、流れ出す魔力に当てられ、生き物がもたず弱ってしまうため。

 そんな弱っているところをモンスターに襲われてしまう。


 今この森にいるのはモンスターしか居ない。

 ここの森にいる人は冒険者や短時間の作業目的とした人達。


 森に入って目的の川辺に進む二人、そんな進む途中に先から何やら人々が走ってきた。


「おい! お前ら!」


「な、何ニャ?」


「どうされたんですか、そんなに慌てて?」


「この先にゴブリンがいる、近づかない方がいいぞ!」


「あなた達もウッドランクでしょ? 私達もなの」


 そう言って一人の女の子は冒険者カードの木札を見せてきた。


「僕達じゃあの数は無理だからね。しかもなんか様子がおかしかったんだ、僕達は一旦街に戻ってギルドに報告しに戻るんだよ」


「いいか! 同じ冒険者仲間として一応忠告はしたからな!」


「リック、リッケ、早く行きましょう」


「そうですね。君達も早く逃げた方が良いよ」


「どうもです……」


 バタバタと急ぎ足で街のある方角へと三人は走って行ってしまった。


 しかし、自分らの目的は元からゴブリン、逃げる必要もない。


「探す手間がはぶけたニャ」


「行ってみる?」


「どの道行くニャら居なくなる前に行くニャ」


 先程の青年らに言われた方角へ進むことに。


 しかし、近づく程に何やら嫌な予感がしてきた。


 そしてプルンも気がついたのか、彼女の口数は減って、額には汗をかいている。


「ミツら血の臭いがするニャ……」


「何か凄くヤバそうだね……」


 水の流れる音が近づき、音のする川辺へと近づくと何かの声が聞こえてきた。


 ギャーギャー! ギャーウ!


 草むらから見つからないようにと身を隠し、川辺を覗いてみる。

 その先にはゴブリンと何かが戦っているのが目に入る。

 それは大きな体に赤黒い色の体、口からは不気味な黒い息を吐いている。

 更には手にはゴブリンの死体と思われる体の一部を掴み、グチャリグチャリとそれを食べているのが見えた。


 怯えながら武器を構えるゴブリン達が次々とその怪物へと攻撃を仕掛けている。

 しかし、力の差がありすぎるのか、ゴブリンの振り上げた剣は怪物を斬る前に怪物の突き出した拳でゴブリンの上半身は吹っ飛ばされていた。


 たった一撃のパンチで、ゴブリンは正に木っ端微塵状態。


 仲間が殺られてそれでも、攻撃を絶えず与えようとするゴブリン。


 頭を捕まれ握りつぶされる奴。


 まとめて蹴り飛ばされ木にぶつけられる奴。


 両手を捕まれ生きたまま胴体ごと食われる奴。


 数はゴブリンが圧倒的に多いのだが、怪物とでは力の差で意味をなさない様だ。


 どんどんゴブリンの数は減っていき、増えるのはゴブリンの死体と血溜まりが広がっていく。


 隠れて見ているだけでも体は震えてくるし、体全体から嫌な汗が出ている。

 現にプルンはシッポは丸まり、耳は垂れ、少し震えていた。


 今にも此処から逃げ出したい。

 だが、今動くとあの怪物はともかくゴブリンには見つかる。

 プルンは本能的にそう感じたのだろう。


「あれはニャんニャ……」


 プルンも見たことないのか。

 ゴブリンを虐殺している怪物に目を向け鑑定をした。


オーガ・亜種


Lv20  オーガ族


戒めの鎧(壊)


デスブローLv5。


自然治癒 Lv2。


能力強化LvMAX。


「プルン、あれはオーガだ……」


「ニャ! オーガ!? あれは無理ニャ、気づかれる前に逃げるニャ」


 確にプルンの言うとおり、ゴブリンを一撃で倒してしまう攻撃は怖い。


 恐らく自分でも負けるかもしれない。


 それに、ゲームでまれに見る"亜種"これには珍しいや、通常のモンスターより強い設定をされている記憶がある。


 ゴブリンも少しずつ数が減ってきている。

 逃げるなら早く逃げなければ、こちらに気づくかもしれない。


 よく見るとゴブリンの捨て身の攻撃でダメージは与えているが〈自然治癒〉スキルの効果だろう、暫くするとオーガの傷がふさがりはじめていた。


 やはり自分も人間。

 戦うオーガのスキルを見て、物欲的に欲しいと思ってしまった。

 しかし、戦う相手を見極めなければ後悔するのは自分自身。

 更には今はプルンも一緒にいる、彼女を巻き込むわけには行かない。


(気づかれる前にここは早く逃げよう……)


《ミツ、残念ながら既に貴方達はオーガに見つかってます》


(なっ!)


 直ぐにでもその場を動こうとしたその時、ユイシスから警告とも取れる恐ろしい言葉が聞こえた。


 そう、オーガは既にこちらの存在に気づいていた。

 なら何故此方を襲わないのか? 恐らく逃さないためだろう。

 奴にとっては自分らは餌でもある、ゴブリンに横取りされたくないのか? それとも油断して逃げるところを狙う気なのか?


 恐怖と焦りに混乱しながら考えをまとめていると、それに加えて災厄な展開が流れてきた。


「おい……」


「ニャ?」


「お前ら、何してる。逃げろって言っただろ」


 二人しかいない場所からヒソヒソと声をかけられ後ろを振り向くと先程見た青年がいた。


 そう、先程街に走っていったはずの青年達が戻ってきていたのだ。


 三人は自分たちと同じ様に姿勢を低くし、モンスターから見えないように態々こちらまで来てくれたようだ。


「君達、街に戻ったんじゃないの?」


「リッケが心配だからって戻ってきたのよ」


「無事でよかったですね。さっ、急いで帰りましょう」


「無茶するニャ」


「お前らに言われたくねえよ」


「しっ! 静かにして。ゴブリンに気づかれちゃう」


「クソっ! 目的のヒエヒエ草が目の前にあるってのに」


「あっ、本当ニャ。ミツ、あそこニャ、オーガの足元に生えてるニャ」


「えっ……。オーガ……」


「ゴブリンだけじゃ無いんですか!?」


 プルンのオーガと言う言葉に、三人は焦りの表情はみるみると恐怖の表情と変えていく。


「違うニャ、ゴブリンと今戦ってる奴、あれはオーガニャ」


「ゴブリン数十体に、オーガが一体ですか……。最悪ですね」


「そんなことよりだ、あいつらが戦ってる間にさっさと逃げるぞ」


「そうよ! 巻き込まれる前に逃げましょう」


 リッケと呼ばれた青年がぐっと自分の服を引っ張り、この場から離れることを伝えてくる。


(ユイシス、見つかってるならもう戦うしかないと思うんだ……。ちなみに勝てる見込みとかあるかな?)


《先程までのミツとプルンの二人だけで戦闘を行うと生命に危険がありました。しかし、今増えた三人の力を借りれば命の危険を回避する可能性が出ました》


(えっ! この三人がそんなに強いとか)


《いえ、強さならミツが一回り上です。しかし、ミツには現在魔法での攻撃策がありません。相手はオーガ、接近戦を得意とするモンスターです。魔法に対する抵抗が低いため、三名との協力戦をオススメします》


(……解った)


《では、戦闘法をご説明します……》


 ユイシスの策戦を頭に入れる。


 流れる汗を拭い、深く深呼吸し、焦る気持ちを少しづつ落ち着かせていく。


「ミツ?」


「プルン、そしてそちらの人達も聞いて下さい。大事な話があります」


「なんニャ……」


「後にしろ、モンスターに見つかったら終わりだぞ!」


 真剣な表情を浮かべていた自分を見てプルンはゴクリと唾を飲み話を聞く様に頷くが、リッケはこの場から直ぐにでも離れるべきだと話を流そうとしている。だが、そうも行かない状況であることを伝えるとその場の空気が更に重くなった。


「いえ……モンスターには既に見つかってます。しかもゴブリンにではなく……。あそこでゴブリンを殺しているオーガにです」


「「「なっ!」」」


「そんニャ……」


 自分の発言に皆は恐怖に体を震え始めた。


 言った事が嘘だと思いたいだろうがこれは事実だ。


「見つかってるなら何でこっちを狙わないんだよ」


「恐らく逃さないため……。此方が気づいてない振りして攻撃してくるかと……」


「ニャら、今からでも逃げるニャ! あいつがまだゴブリンと戦ってるうちにでも」


「無理よ……。あのオーガ、ゴブリン倒しながらきっとこっちも見てるわ……。逃げ出した瞬間に誰か捕まるわ」


「なんで……。信じられない……」


「クソっ……。逃げられないなら戦うしかねーだろ! 俺達は冒険者だ! いずれあんな奴と戦うことになるんだ」


 以外にも口の悪い子が戦うことを切り出した。

 しかし、よく見たら足が震えてる。

 けれど、この少年の言葉の言うことも正しい。


「リック、聞いて。勇気と無謀は違うのよ……」


「いや、自分も皆で行けば倒せるんじゃないかなと」


「ニャ!!」


「しー! 大きな声ださないで、ゴブリンにまで気づかれちゃう」


「ごめんニャ……」


「落ち着いて下さい二人とも」


「おい、お前らこの戦いどう行く?」


「ちょっと、もう行く流れですか」


「もー、勘弁してよ」


「巻き込んでしまった形になってしまいすみません。先ずは三人のジョブを教えてもらえますか?」


「ミツは【アーチャー】ウチはプルンっていう名前ニャ【モンク】ニャ」


「俺はリック【ランサー】をやっている。気にするなとも言わないが、冒険者として通る道だ。お前ら、絶対に逃げ腰になんじゃねえぞ」


「解ってるわよ……。あっ、私はリッコ【ウイッチ】よ」


「僕はリッケ【クレリック】をジョブとしてます。」


 名前を聞くと三人は兄妹なのだろうか?


 何となく顔つきも似ている。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


名前  『リック』  人族/17歳


ランサーLv8。


シャドームーン___:Lv7/10。


二段突き_________:Lv4/10。


突き落とし_______:Lv2/10。


連撃_____________:Lv3/10。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


名前  『リッコ』  人族/17歳


ウイッチLv8。


ニードル____________:Lv8/10。


サンドウォール______:Lv8/10。


ファイヤーボール____:Lv3/10。


ファイヤーウォール__:Lv3/10。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


名前  『リッケ』  人族/17歳


クレリックLv8


ヒール________:Lv7/10。


ブレッシング__:Lv4/10。


速度増加______:Lv5/10。


ミラーバリア__:Lv4/10。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「バランスの良いチームですね」


「はい、二人とも猪突な性格ですからね」


「おい、話してるところ悪いけどお前作戦とかあるか? もしあるなら言えよ、それも聞いてから作戦決めるぞ」


「はい、有ります。では、自分の中一番だと思う戦い方を説明します。どうか皆さん聞き入れて下さい。生き残るためです……」


 先程ユイシスに聞いた策戦を実行するためにはここにいる皆の力が必要だ。


 殺れるか……否。


 殺らなきゃ自分達が死ぬ。


 ユイシスに受けた言葉を皆に説明していく。


 一つ一つ説明すると皆の不安そうな表情はやわらぎ、疑問はあるみたいだが聞き入れてくれたようだ。


「……なぁ、本当にそれは必要なことなのか? そんな事ができるなら、皆で逃げることもできるんじゃないのか?」


「はい、倒すためには必要なことなんです。ですので先程も言いましたが、逃げると言う選択は誰かがオーガに確実に捕まります」


 自分の言葉にその場の皆は静かに頷いた。


 ユイシスの作戦はこうだ。

 まず、ハイディング状態の自分が、オーガが殺し損ねた瀕死になっているゴブリンから片っ端にスキルを盗み奪う。


 勿論オーガや他のゴブリンに見つかるだろうが、足を止めることなく、ハイディング状態で逃げ続ける。


 ゴブリンは脅威となるオーガに対して背中を向けることはないので追っては来ないが、オーガは勿論ゴブリンに脅威もないので餌となる自分に向かってくるだろう。


 その流れを作り、先ずは周りのゴブリンを殲滅していく、それでなければ次の作戦には進めないそうだ。


 リック達には一先ず倒れているゴブリンを倒さないと不意打ちを食らう可能性を踏まえて、自分が先にゴブリンを倒して数を減らす事を説明している。


「そろそろ動きますよ」


「もう一度聞くが、本当にさっきの作戦で良いんだな……」


「はい、変更無しです!」


「解った……。お前が考えた策だ、そこまで言うなら俺達は止めやしない」


「は~、最後に宿のパイ、また食べたかったな……」


「これが終わったら一緒に行くニャ!」


「何二人だけで行こうとしてるんだよ!? 俺達も行くからな!」


「そうですよ、僕も食べたいんですからね」


「じゃ、皆で帰ったら祝勝会やろう」


「「「「うん!」」」」


「ミツさん、行きますよ! 速度増加、ミラーバリア、ブレッシング」


「ありがとうございます、リッケさん、皆さんにも支援をかけてて下さい」


「頼むニャ」


「頼んだぞ!」


「死ぬ気でやんなさいよ!」


「任せてください、よろしくお願いします!」


 作戦開始と同時にハイディングを使い、草むらから出る。


「本当に消えた!」


「凄い、こんなスキル初めて見たわ……」


「では、行ってきます」


「おう……。頼んだぞ!」


「ミツ、気をつけるニャ」


「うん!」 


 自分は物音を出さないようにその場を離れ、ユイシスの指示した場所へと移動した。


 移動時も物音を出さずに気づかれないようにゴブリンへと近づく。


《ミツ、手前に倒れているゴブリンから順番にスキルを回収して下さい。指定のゴブリン以外は既に亡骸となっていますので無視して下さい。また、スキル使用時はイメージで使用できます、声に出さず思考にて使用してください》


(解った)


 ユイシスが指定した場所には数体のゴブリンが倒れていた。


 頭と足が引き千切られていたり、手足を捕まれ胴体から噛み千切られたのか、ごっそりと体を失ったゴブリンの亡骸が転がっている。


(うっ……これはキツイ絵面だな)


 ゴブリンの惨殺な見た目に周囲には血生臭い臭いが立ちこめているせいで吐き気を感じるが、なんとかグッと堪える。


 あまり直視もしたくない。


 しかし、スキルを奪うためには生きているゴブリンを探さなければいけないのだ


 ギギッ……


 かすかに声が聞こえてくる、よく見ると下半身を失ったゴブリンが動いているのが解った。


(こいつか……。悪いけどお前のスキル頂くよ。スティール)


《〈速度強化〉を習得しました》


速度強化


・種別:パッシブ


自身の(攻撃)(回避)(移動)速度を上昇させる。


 スティールを発動と同時にハイディングの効果が消え、自分の姿がその場に現れた。


 近くに目的とした獲物が現れ少し驚いたオーガだったが、オーガは手に持つゴブリンの肉片を投げ捨て、こちらへと向かってきた。


 ゴブリン達は突如として後ろに自分がいきなり現れたこと、更に前にいたオーガがいきなり雄叫びと共に走って来た両方に驚き、身動きが取れず走って来るオーガに踏みつぶされたりと、殴り吹き飛ばされて殺されてしまっている。


「次っ!」


 消える前に瀕死のゴブリンはトドメを刺しておく、これはユイシスの指示もあった。


 ゴブリンに対して同情心は出ないがこのまま生地獄も辛いだろうと言う気持ちもこみ上げてきたので指示通りにトドメをさした。


 自分はハイディングを使用して直ぐにユイシスの指示する次のゴブリンへ向かう。


 オーガはいきなり目の前から消えた自分に驚き周りを見渡していた。しかし、見つかるはずがない、周りはゴブリンだらけなのだから自分の足音を探るにも周りがゴブリンの鳴き声で五月蝿いせいで自分の足音は探すのは難しいだろう。


《ミツ、次は左前方、固まっている三体のうち一体です》


(解った!)


 急ぎ走りついた目標のゴブリンの後ろについてスキルを頂く。


 三体中二体は瀕死じゃないので首筋にナイフを突き立てる。


 ギャ! ギョエ!


 (スティール!)


『〈体力増加〉〈聞き耳 〉〈投擲〉を習得しました』


体力増加


・種別:パッシブ


自身の体力を増やす事ができる、レベルに応じて増えていく。


聞き耳


・種別:アクティブ


話し声を拾うことができる、レベルに応じて壁越しの声すら聞こえるようになる。


投擲


・種別:アクティブ


物を上手く投げる事ができる、レベルに応じて威力と距離が増える。


 スティールした後には倒れたゴブリンを倒す。


 既に弱体以下の瀕死の状態のゴブリンは抵抗も無く倒すことができた。


 オーガは突然現れたり消えたりする自分に少し戸惑いを見せた。


 それでも自分はオーガには餌でしかない。


 自分を見つけたら追いかける、獲物を狙う者が取る行動だ。


《今です、オーガに弓での攻撃を仕掛けてください》


 ユイシスの合図と共に自分は構えた矢を撃った


 この矢には2つの意味を持っている。


 1つ、自分が敵対行動を取る餌であると認識させるため。


 2つ、普通に撃った矢が何処まで効くのか。


 バシュ、バシュ、バシュ


 グオォォ!


 撃った矢は命中はしたものの、オーガの硬い体には致命傷にはなっていないようだ。


 攻撃をされたオーガは怒りの咆哮を上げ、更に走るスピードを上げて此方へと向かってきた。


《ミツ、次は左前方の三体です》


 ユイシスの指定した先には魔法を詠唱しているゴブリンのドルイドがいた。

 ドルイドはオーガからの攻撃を受けていたのか、目に見えて負傷し、頭からは多くの血を流しながらも何やら唱えている。

 そんなドルイドの横に倒れているゴブリンは他より若干肌の色が違う様な気がする。


《あれはホブゴブリンです。ゴブリンの進化の1つで見た目はそれほどに変わりませんが、力はゴブリンを勝る強さです》


ホブゴブリン 


Lv7。  ゴブリン族


状態_瀕死


ゴブリンの服 骨のネックレス


【【肉体強化Lv4】】


 息を荒くし、ドルイドに回復してもらいながらも生き延びているホブゴブリン。

 傷が治り、プルン達に襲いかかっては困るのでさっさと片付けよう。


 と言っても、ホブゴブリンは左足が無く、腹から臓器を色々出してしまっている。


 ドルイドが回復しているが助からないだろう。


 もう1匹ゴブリンが倒れているがそちらも既に虫の息だ。


 ハイディング状態となり急ぎドルイド達に近づく。


 ドルイドは回復に集中しているのか自分の駆け寄る足音に気づいていないようだ。自分はドルイドだけでは無く、倒れている二体のホブゴブリン達も一緒にスティールを使いスキルを奪い取った。


(スティール)


《〈肉体強化〉〈不意打ち〉〈流し斬り〉〈二段斬り〉〈ヒール〉〈速度増加〉〈ブレッシング〉を習得しました、経験により〈不意打ちLv3〉〈ヒールLv3〉となりました》


肉体強化


・種別:パッシブ


自身の肉体を強化する、レベルに応じて攻撃と防御力が増加する。


流し斬り


・種別:アクティブ


力を入れずに剣を振るう事ができる、レベルに応じて威力が増す。


二段斬り


・種別:アクティブ


武器での二回連続斬り落としができる、レベルに応じて威力が増す。


速度増加


・種別:アクティブ


攻撃速度や回避率を増加させ、移動速度もアップする、レベルに応じて効果がアップする。


ブレッシング


・種別:アクティブ


対象の攻撃、命中を同時に上昇させる、レベルに応じて効果がアップする。


 スキルを奪い取ると、ドルイドは突然回復スキルが使えなくなってしまい焦りだした。


 そして周囲を見渡し自分に気づくと同時にナイフを突き刺され小さく声を上げると、そのままバタリと倒れた。


 ドルイドの回復が止まったと同時にホブゴブリンは苦しみ吐血し、唸り声を出している。


 こんな苦しみはさっさと終わらせてやろう……。


 倒れた二体のホブゴブリンもナイフでトドメを刺し、ゆっくりとその場を後にし次の狙いに向かっていく。


《ゴブリンはまだ残っでますが次が最後です》


(何とか作戦通りに行ってるかな)


《ミツ、左の奥二体固まったホブゴブリンを狙ってください》


 ユイシスの言葉を聞いて目的のホブゴブリンは少し遠いが急いで向かう。


  リッケに先程支援をかけてもらったが自分も手に入れたばかりの支援を使ってみる事にした。


 うまく行けばスキルが重ねがけできるかもしれない。

 しかし、それはできなかった。何故なら自身に支援スキルをかけようとしたらガクッと走るスピードが落ちたのが解った。

 どうやらタイミングよくリッケにかけて貰った支援スキルが切れたようだ。

 ゴブリンから支援スキルをタイミング良く手に入れて良かった。いや、ユイシスはこのことも策戦に入れていたのだろう……。


《オーガが来ます》


 少し考え事をしてしまい、近くまでオーガが迫ってきていた。まっ、消えてしまえば逃げきる事は難しいことじゃない。


 また姿を消し、目標となるホブゴブリンへと向かう。


 オーガは何度も消えたり現れたりと明らかに自身を馬鹿にされてると思ったのだろう。


 元から赤い体が更に赤くなり、自分が倒したゴブリンの亡骸に怒りをぶつけるかのように殴り潰している。


 そんな光景を目標となるホブゴブリンの後ろから見ている自分は、少し驚きながらも落ち着いて目の前で震えて動かないホブゴブリンのスキルを奪い取ることに集中する。


(スティール)


《〈身体強化〉〈痛覚軽減〉〈打撃耐性〉〈シャープスラッシュ〉〈パワースラッシュ〉を習得しました、経験により〈ハイディングLv2〉となりました》


身体強化


・種別:パッシブ


自身のステータスを上昇させる、レベルに応じて増加する。


痛覚軽減


・種別:パッシブ


与えられた痛みを抑えることができる、レベルに応じて痛みへの感覚が減る。


打撃耐性


・種別:パッシブ


打撃攻撃に対してダメージを軽減する。


斬撃・魔法での攻撃は軽減できない。


シャープスラッシュ


・種別:アクティブ


相手に連続斬りができる、レベルに応じて攻撃回数が増える。


パワースラッシュ


・種別:アクティブ


武器以上のダメージを与えることができる、レベルに応じて威力が増す。


《ミツ、今獲得したスキルをもちましてオーガに対する準備が完了しました》


(解った、次の作戦に移すよ!)


 オーガに警戒しながらも目的としたスキルを獲得し、オーガとの戦いの準備が整った。


 スキルを盗んで残ったホブゴブリンは後から矢を放ち、抵抗も無く始末できた。


 周りに残るは普通のゴブリン数匹だけ残っている。


 プルン達にはゴブリンの数を減らす為のおとり作戦と伝えている。


 目的は達した。


 プルン達に合図のために打ち合わせに入れていた木に向かって矢を狙い打つ。


 オーガには的が外れた様な撃ち方もしたので気づかれてはいないだろう。


「合図が来ました! 今です!」


 合図の矢が木に刺さり、直ぐにリッケが皆に支援魔法をかけ直しはじめた。


 タイミングを待ち、待機していたリックとプルンは草かげから飛び出し、まずは残り少ないゴブリンを倒していく。


「ウオォォ! 俺の槍先の餌食にしてやる!」


「こっちに来いニャ!」


 リックの持つショートランスはゴブリンを貫く。


 プルンの拳で倒れたゴブリンにトドメを刺す。


「こっち来ないでー! ニードル!」


 リッコの魔法は射程が広く、襲って来るゴブリンの足を茨の蔦が絡みつかせ足止めをする。


 しかし、オーガを利用したり、スキルを回収しながらゴブリンを倒し回っているがゴブリンの数はまだいる。


 プルン達の姿を見たゴブリンは、目標をオーガと自分ではなく、数で押せるリッケ達に一斉に襲いかかって行く。


 プルンたちオーガとの距離はできるだけ離している。そのために直ぐにオーガの脅威的な攻撃が来る訳ではない。最初に決めた作戦通りにゴブリン全滅を優先とすることにした。


「サンドウォール!」


 リッコには足止めの魔法を集中して使ってもらっている。それはゴブリンを各個撃破するためでもある。


「正拳突き! ゴブリンの返り血で腕が最悪ニャ!」


「生き残るためだ! 我慢しろ! シャドームーン!」


「二人とも来ます!」


「駄目! 抑えきれないわ!」


 リッコの魔法で足を取られているゴブリンを踏み台にして、数匹のゴブリンが一気に襲ってきた。


「二人とも伏せて!」


 自分の声と共にリックとプルンが少ししゃがみこむ。


 仲間を踏み台にしてジャンプしてきたゴブリンに無数の矢の雨が横から降り注いだ。


 ギャ! グギャ! ゴフッ


(スティール!)


《〈即毒〉〈罠仕掛け〉を習得しました》


即毒


・種別:アクティブ


即効性の毒を物につけることができる、レベルに応じて効果が増す。


罠仕掛け


・種別:アクティブ


罠を仕掛けることができる、解除には〈罠解除〉が必要。


(結構倒したな……。ユイシス、今レベルはどれくらいになったかな?)


《【アーチャー】のレベルがMaxとなっております。ジョブを変更できます》


(なら、【シーフ】に変更)


《【シーフ】にジョブを変更しました、ボーナスとしてスキルが習得できます》


(後で選ぶよ。今はゆっくりと選べそうも無いし)


《解りました》


「おい! 助かったぜ!」


「ミツ! ありがとうニャ!」


 お礼を言いながらスキルを抜き取られたゴブリンにトドメを刺す二人。


 スキルが奪えなかったと言うことは一体は即死したのか。


「よし、後二体のゴブリンとオーガだけだ!」


 そう言ってリックがショートランスをオーガと魔法で足を取られて動けない二体のゴブリンへと向けた。


 オーガは次々と倒されていくゴブリンの姿を見て、自分の獲物が取られていくことに更に腹を立てたのか、ゆっくりとこちらに向かってきている。


「ここからがある意味本番ニャ……」


「リッコ、魔力は大丈夫ですか?」


「えぇ、リッケ、私なら大丈夫よ。彼の言うとおり足止めの魔法しか使ってないから攻撃分は十分残ってるわ」


「リッケ、もう一度支援魔法をかけ直してくれ!」


「頼むニャ」


「はい! 二人とも頼みます、ミツさんにはすみませんがまだかけ直すタイミングがありません」


「構いません! リッケさんは皆の支援を絶やさないで下さい!」


 そう答えると皆は頷き、緊張した顔つきでゴブリンとオーガを見ている。


 自分は支援魔法をドルイドから手に入れたのでリッケに近づかなくても大丈夫。


 寧ろ今自分が皆に近づけばオーガにとって一箇所に固まった獲物は攻め込むチャンスでしかない。


「リッコ! オーガに足止めを!」


「残るゴブリン二体の方は任せたわよ!」


「任せるニャ!」


 リッコの魔法で今度はオーガに足止めをかける。


〈ニードル〉の魔法と〈サンドウォール〉両方をかけるため、先にゴブリンにかけていた魔法は持続できないので解除する。


 オーガは突然自身の足場が砂となり、自身の重い体にドンドン沈む体に焦り混乱し始めた。


 グオ!


「あのオーガ……本当に作戦通りに行ってやがる! 簡単にリッコの魔法に捕まりやがった!」


「モンスターにもスタミナはあるニャ。どんなに強くても、何十匹のゴブリンとの戦闘その後に、ミツを追いかけて無造作に走ったらスタミナ切れも起こすニャ」


「二人とも、感心するのは後にしてください!」


「そうよ! 来るわよ!」


 足止めしていたゴブリンが茨で傷つけられた足を引きずりながらもリッケ達に向かって来る。


 二人に油断があった訳では無い。


 ゴブリンも死ぬ気で戦い襲ってきている。


 ゴブリンは持っている武器を魔法に集中しているリッコに投げ捨てた!


「きゃぁ!」


「「「!」」」

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