第12話 うちに来るニャ

試験の模擬戦も終わり、受付のナヅキのところへと戻ってきた二人。

 試験の合格を通知されて、ニコニコ顔で向かう少年を笑顔でナヅキは迎えてくれた。


「ナヅキさん、終わりました」


「おつかれさまです。その様子ですと、試験は合格された様ですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます。あの、外から持ってきたモンスターの素材をここで渡せって言われまして、大丈夫ですか?」


「はい、どうぞ」


「では」


 スタネット村で貰ったオーク五匹分の素材を、カウンター横にある台座にドンドン積み重ねていく。

 五匹分となると、骨だけでちょっとした山ができた


「あらあら、凄いですね。こちらは?」


「村近くで討伐したオークの素材です。村長がこれは持って行けって」


「そうですか……。では、お預かりいたします。査定いたしますので、少々お待ちください」


 ナヅキはそう言い残し、山積みになったオークの素材を他のスタッフを呼び、全てをスタッフと一緒に裏の方へと運び出す。


 周りの冒険者がこちらを見て更にヒソヒソ話が増えたような気がする。


「ミツさんもこれで冒険者仲間ニャね!」


「そうですね。プルンさん、これからよろしくです」


「なら、ミツって呼ぶニャ。ウチのこともプルンって呼ぶニャ」


「いいんですか?」


「良いニャ良いニャ。ミツからはオークから助けられた恩もあるし、気にしないニャ」


「なら、よろしくねプルン」


「聞きたいことがあったら先輩のウチに聞くニャよ!」


「その先輩さんは、依頼をちゃんと期日までには終わらせなさいよ」


「うっ……。解ってるって言ってるニャ!」


 荷物を運び終わり、戻ってきたナヅキの持っているトレーの上にはプルンの付けている物と同じ木札があり、隣には金貨が乗っていた。


「フフッ、ミツ様お待たせしました。冒険者カードと、こちらがお持ち頂いた素材の料金となります」


「おー! 凄いニャ!」


「どれも傷が少なく、全て良品として買い取らせて頂きました」


「ありがとうございます!」


「では、冒険者のルールをご説明いたします」


「あっ、ルールはプルンに教えてもらいましたから大丈夫ですよ」


「そうですか。では、何か質問がございましたらお越し下さい」


「はい、ありがとうございます」


「またニャ」


 同じ説明を何度も聞くことは無いからね、一先ずここでやることは済んだかな。


 早くここから出よう、他の冒険者の視線が少しキツくなった気がする……。

 やはりこんな子供がいきなり大金を手にすると目につくのだろうか。

 冒険者ギルドを後にして次の目的を探そう。


「ねぇねぇ、ナヅキ。さっきの子は新人の冒険者?」


「そうよ、冒険者には珍しく礼儀正しい子よ」


「渡したお金って素材の買い取りだよね? 新人の子にしては流石に多過ぎない?」


「恐らく村で倒されたのを旅の援助金とかで渡されたんじゃないかな? あの子良い子っぽいから」


「にしても、いきなり金貨1 0って……」


「さあね。その辺は気になったけど流石に聞けないでしょ」


「甘々のお坊ちゃんなのかな~」


「そうは見えないけど……」


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


「ミツ、今日から冒険者ニャ。住む場所は決めてるニャ?」


「そうだね。取り敢えず宿にでも泊まろうかと」


「ニャ! そんなの勿体無いニャ。……そうニャ、ウチに来るニャ」


「えっ!」


「ウチの家……いや、教会だから部屋はいっぱいあるニャ」


「教会に住んでるんの?」


「そうニャ、ウチの親がやってるニャ」


 人の好意での誘いには断れない性格。


 流れに乗るようにプルンに誘われた教会へと足を運ぶことになった。


 少し歩くと見た目は洋式の家見たいな小さな教会に着いた。その教会の前では地面に絵を描いて遊んでいた子供達がこちらを見て寄ってくる。


「あっ! ねーちゃんだ!」


「プルン姉おかえりー」


「プルンねー!」


「ただいま。チビ共、元気してたかニャ」


「うん、プルンねー、あたちお腹空いた……」


 一人の女の子がプルンにしがみついた後、自身のお腹をさすってプルンを見上げている。


「んっ……。解ったニャ、何か探して来るから待ってるニャ」


 プルンは女の子の頭を優しく撫でて安心させるがその表情は少し暗くなっている。


「その前にっと、ミツを部屋まで案内するニャ」


「ん~、誰だ誰だ?」


「新しい人?」


「プルンねーの好き好きさん?」


「な、何言ってるニャ! ミツは冒険者仲間ニャ!」


「顔赤い~」


「ホント~」


「プルンねー、おめでとう」


「違うニャって!」


 小さい子達に茶化され頬を染め否定な言葉を出すが、子供達はプルンの反応を見て更にからかうのを止めない。


「教会の前で騒ぐのはおよしなさい」


 教会の奥から一人の女性、シスターが出てきた。


「っ!……」


「シスター!」


「シスター、プルン姉が恋人連れてきた!」


「プルンねー幸せ」


「おやおや、プルンも女の子ね」


「違うニャ、さっきから言ってるけどミツは冒険者仲間ニャ」


「冒険者ですか……」


 シスターは冒険者と言う紹介で少し曇ったような表情をしている。


 余り冒険者に良い印象は無いのか?


 ここは前世で培ったセールストークで。


「初めまして、自分はミツと申します。プルンさんにはギルドの案内や色々とお世話になりまして、本日は彼女のご厚意に甘えさせて頂きましてこちらに伺わせていただきました。突然の訪問、申し訳ございません」

 ゆっくりと頭を下げ、ここ迄来た経緯を角が立たないように説明する。

 人とのコミニケーションは第一印象から全てが決まってしまうと、前世の仕事場で学んだことをそのまま活用してみた。


「ミツさんですか。私はこの教会のシスターをやっておりますエベラと申します。また、この子達の母親でもありますわ。皆、ちゃんと挨拶はしたかしら?」


「俺はヤン!」


「僕はモント」


「あたちはミミ」


「皆、よろしくね」


「「「はーい」」」


 印象良く行けたのか。もしくは元々エベラの性格が温厚だったのか、挨拶をすると先程までの曇った表情は消え、優しく微笑みを返してくれていた。


 エベラの言葉で子供達が元気に次々と自己紹介をしだした。


 この子達は預ってるのかな? 大人が働いてる間に子供を預かる教会があるって前世で聞いたことある。


「そうニャ、エベラはウチらの母親ニャ」


「母親と言っても孤児の代理母ですけどね」


「そんなことないよ、シスターは俺らのお母さんだよ!」


「ママだよ!」


「マーマ」


「そうニャ、代理なんかじゃないニャ!」


「ありがとうね、皆」


 どうやら一時預かりではなく、子供達もここに住んでいるようだ。


「あっ、エベラ、お願いがあるニャ。ミツを暫くここに泊めてほしいニャ」


「ええ、それは構わないけど……」


「解ってるニャ。ミツ、誘って悪いけど、ここではご飯はないニャ。この子達の分で精一杯ニャ」


「すみません、雨風はしのげる部屋はあるんですけど、何分それ程に裕福な教会ではありませんので……」


 そう言って頭を下げてくるエベラ。


「なら、宿泊代だけでも受け取ってください」


 自分はネットカフェや、極まれにビジネスホテルに泊まることはあったので、食事が出ずとも料金を払うと言う考えのまま、先程素材品として受け取ったお金を彼女達へと差し出そうとするが、それをプルンが止める。


「駄目ニャ駄目ニャ、泊まってもらうのはウチを助けてくれたお礼の意味もあるニャ!」


 献金の意味も込めてお金を出そうとしたが、プルンはお礼の積もりて元から泊まって欲しかったようだ。


「でも、気を使って寝泊まりは……」


「うっ……」


「プルン、助けられたって何の事?」


「うっ……。実は……」


 ここ迄の経緯をエベラに説明したら、やはり彼女もプルンの母親なのだろう。

 説明をするとエベラの顔はみるみると青ざめ、話が終わる頃には青ざめた顔は真っ赤になり、彼女が怒っていることがよくわかる。


「もう! だから気をつけてっていつも言ってるでしょ!」


 娘がオークに捕まったとなれば、そりゃ怒りだすよね。


「悪かったニャ、依頼自体は安全なのを選んでたんだけど、油断したニャ」


「まったくもう……」


 プルンの頭を優しく撫で、差し伸べるエベラの手は正に慈母の手のように見えてくる。


「ミツさん、プルンを助けて頂き、本当にありがとうございます」


「いえいえ、運が良かったんですよ」


「そう言った理由なら、お金なんて受け取れません! お食事はお出しする事はできませんが、どうぞごゆっくりして下さい」


「ありがとうございます」


「シスター……お腹空いた……」


「腹減ったよ……」


「マーマ」


「そうね、ご飯にしましょう」


「ウチ、市で何か貰ってくるニャ! エベラ、ミツを頼むニャ」


 プルンが手に籠を持ち、子供達の為にと食料を探しに出かけてしまった。


 自分のアイテムボックスの中に少しだけ分けてもらったオークの肉がある。これを出してもいいけど、この人数で食べるには少しだけ足りない。


 色々アイテムボックスには食料が入っている


、チミっ子創造主様の機転が聞いてるおかげで食料には困らない。今日は一宿のお礼をこれで返そう。


「マーマ、ご飯まだ……」


「ごめんなさい……。ちょっと待っててね、プルンが何か持って来てくれるかもしれないからそれも料理に使いましょう」


「うん……」


「ごめんね……」


「エベラさん、すみませんが台所を貸して頂けますか」


 台所に行くとエベラと子供達が食事の準備をしていた。しかし、見たところ材料らしい物が見当たらない。


「はっ、はい、どうぞ私達は後で作りますので」


「そうなんですか? ではお借りしますね。さてと」


「あら、ミツさんはアイテムボックスをお持ちなんですね」


 アイテムボックスの空間に手を入れて調理に使う材料を選ぶ。


 スタネット村でもだが、アイテムボックスは珍しい物なのだろうか? ギーラは自分が使用するアイテムボックスを見ると、私もそれがあれば、もっと薬学を学べたんだけどと少し呟かれていた。


「はい、自分の食料はこれに入れてます」


「ニーニーの手消えた!」


 アイテムボックスに手を入れたところをミミが驚きながら見ていた。

 誰でも初めて見たらそう思うだろう。


「ハハッ、大丈夫だよ。えーっと、これだったかな」


 アイテムボックスから取り出したのはオークの肉。取り出した物に子供達は少し興奮気味だ。


 ドシッ、オークの肉は見た目以上に肉厚。

 脂身は殆ど無く、正に肉の塊をまな板の上に置く


「スゲー肉だ!」


「ゴクッ……」


「オニクー!」


「シスター、宜しければこの肉、皆でこれ食べませんか?」


「そんな!こんな立派なお肉を」


「いえいえ、気にしないでください。自分も食べるんですから、一人で食べても味気ないですし。」


「そうですか……。あぁ、神に感謝いたします」


「おー! 兄ちゃん、これでご飯作るのか! 俺達も食えるのか!」


「皆、今日のご飯はミツさんのご厚意よ。さぁ、手伝って頂戴」


「オニクー!」


 笑顔で喜ぶ子供達、エベラも子供達に食べさせれることに少し目が潤んでいる。


 しかし、今日はこれで乗り切れる。だが、明日からは? また子供達にひもじい思いをさせるのでは?


(因みにさ、アイテムボックスの中には食料はどれくらい入ってるの?)


《食料に関しては創造主のシャロット様よりお言葉を預かっております》


〇〇 〇〇 〇〇 〇〇 〇〇


〘私のせいで餓死とかしてもらったら困るからね、多めに入れといて上げて。怪我や事故死は本人も諦めるしかないけど、食べ物が無いと恨まれそうだもん〙


《わかりました。では、スキルと食料の2つでよろしいですね》


〘後、食料で革命とか起こされても困るから、少し制限かけといてね〙


〇〇 〇〇 〇〇 〇〇 〇〇


《以上です。よって、アイテムボックス内の食料に関しては、材料を取り出す際にミツのMPを消化すればいくらでも出すことができます》


(内容は理解したけどさ……。自分最初MP0だったよ? その時は食料出せなかったってこと?)


《はい》


(それって下手したら餓死するよね……)


《モンスターを倒せばノービスレベルも上がり魔力も入ります。よって、最初から食べ物を出そうとする人はいないだろうと言う創造主様の考えです》


(確に……。ゲーム始まっていきなり手持ちの回復アイテム等を使う事はしないな……)


 その時はこの世界の中がまだゲームだと思ってたんだから、モンスターを探して倒すゲームだろうし……。

 なんかゲームプレイヤーの心理を突かれた気分だ。


《仮に最初モンスターで死んでしまったなら、アイテムボックスの食料を出せなくても問題ありませんでした》


(おいコラ)


 ならば肉だけで食事も味気ない、他にも出してみることにした。


 アイテムボックスに手を入れたまま食材をイメージする。

 すると手に取り出してみると、前世で見慣れた野菜が出てきた。


「うん、大丈夫みたい。シスター、これも使いましょうか」


 取り出したのは、米、チーズ、野菜、塩、等など、いくつかの食材をドンドン取り出していく。


「おおぉ!」


「凄い凄い!」


「イッパイー」


「こ……こんなに。本当によろしいのですか?」


「はい」


「ミツさん、本当にありがとうございます! あぁ、神に感謝を……。さぁ、皆ご飯を作りましょう!」


「「はーい」」


「あーい」


 トボトボと帰り道を歩くプルン。


 手には空の籠を持ち、帰る足取りは凄く重い。


 帰っても弟妹に食べさせる物が無いと思うと、更に彼女の足取りは遅くなる。


「はぁ……何にもなかったニャ……」


 弟達がお腹を空かせて待っていると思うと家の扉を開けるのが重い気分だ。


「ただいまニャ……」


 いつもなら弟達が五月蝿いくらいに出迎えをしてくれるのに今日は誰も来ない。


 それよりも家に入った時に室内に漂う料理の匂い。プルンは鼻を動かし驚きに目を見開いた。


「んっ……スンスン……ニャ! なんの匂いニャ」


 バタバタと匂いのする方の部屋へ、そこはいつも使っている台所だ。だがこの様に香ばしく、また唾を飲み込むほどの匂いをプルンは今までに嗅いだことはない。


「おかえりー、プルン姉ちゃん」


「おかえりー」


「ネーネーおかえり」


「プルン、おかえりなさい。さっ、ご飯よ」


「おかえりなさい」


「これはニャに事かニャ!」


 プルンが驚くのも仕方ない。


 テーブルの上には大皿の上に肉料理があり、一人一人の座る前に個別で料理を盛られている。


 それは一皿ではなく、スープやパン、皆の体に合わせた料理が並べられていた。


「ミツさんが今日の晩御飯の材料を出してくれたのよ」


「村で倒したオークの肉ですよ、少し分けてもらってたんです」


「そっそうニャ……。ニャ! この白いのは何ニャ」


「それはお米ですよ」


「こんな白いのがニャ!」


 この国にも米はあるようだ。しかし、ヒエやアワの様に見た目にすこし黄色く、パサパサとした物に出来上がるみたいだ。栄養価はやはり米程はない。


 テーブルに並ぶ料理を前にプルンは驚きの表情を先程から変えていない。そんな姉に弟妹の三人が待ちきれないとばかりにプルンを呼んでいる。


「姉ちゃん早く座れよ~」


「食べようよ」


「ネーネーたべよう」


「そうニャね」


「待ちなさい。プルン、ちゃんと手を洗ってきなさい」


「解ったニャ!」


 エベラは席に座ろうとしたプルンに軽く注意し、手を洗ってくることを促すと自身の手を見たプルンはエヘヘと笑いながら裏の方へと急ぎ足に出ていった。


「主よ、今夜我々に食事ができることを感謝いたします……」


「「感謝します!」」


「します!」


 流石シスターの教えがしっかりと子供たちに染みわたってるみたいで、約一名除いてしっかりとお祈りしてる。


 料理を目の前にうずうずと見ながら、耳をピンッと立てているプルンはまるで待てを言われてる様に見えた。


「いただきますニャ」


「「「「いただきます」」」」


「皆さん、先ずはお粥から食べて下さいね。いきなりお肉は体がビックリしちゃいますから」


 最初に勧めたのは皆の体を考えてのお粥だ。


 スタネット村での晩餐で思ったのだが、この世界の人達の料理は基本薄味に思える。


 エベラに聞いたのだが調味料と言える物、それは草を乾燥させ、それを粉末にした苦味と酸味のある調味料が一般的に売られこれを塩の変わりに使い、また、クルミにも似た乾燥させた木の実を同じ様に粉末にすれば辛味のある物があるそうだ。


 料理を作る際にエベラに一つ一つ調味料の味を確認してもらうと驚きの表情を浮かべていた。


 主に真っ白な塩と砂糖等の、一切混ぜ物が無い物は初めて見たと言われた程だ。


「「「おいしー!」」」


「本当優しい味ね」


「美味いニャ! 美味いニャ!」


 皆お腹を空かせていたのだろう、皿の上のお粥がどんどん無くなっていく。


「足りなくなったらまた作りますからね、皆さんいっぱい食べてください」


「「「はーい」」」


「ありがとうございます」


「おかわりニャ!」


「「はぇー」」


「ネーネー、ワタチも」


「チビ共もいっぱい食うニャ!」


 久々なのか初めてなのか、皆は食べ過ぎと思うほどに作った料理を食べ、満足とした表情をして夕食が終わった。


 食事も終わり、プルンは子供達と一緒に部屋に眠りに戻った。


 シスターと夜のお茶を楽しみながら少しこの教会の現状を聞いてみた。


「今日は沢山の食材を本当にありがとうございました」


「いえ、大人は食べることは我慢できても子供には辛いですからね……」


「はい……。教会ということで税金やそう言ったところは免除していただいてますが。やはり……食べ物には不足しているのは事実です」


「そうですか……」


「久しぶりにあの子達の笑顔を見た気がします。プルンも笑顔で振る舞ったり、無理して冒険者になったり、あの子だけに苦労をかけてます」


 スタネット村でプルンが痩せ気味だったこと、それをギーラが質問していたのを思い出した。


「実は、プルンはオークに捕まってた時ですが、助け出した時は怪我は無かったのです、その……。そこに居ました村長がプルンが栄養失調であることを教えていただきまして」


「……」


「ここの子達も恐らく……」


 自分の言葉にエベラは眉間にシワを寄せるほどに目をつむり、深く息を吸って言葉を止めた。


 皆服を着ていても腕や足が少し細い気がしていた、実際エベラも歳の割に手の指が細い。


「はい……気付いておりました……。頂いてる野菜とかはお店の売れ残りや余り物です。お腹いっぱい食べさせるという事はこの教会には今は……」


「収入源とかは此方には無いんですか?」


「以前は教会の裏にある畑で果物を作って、それを獣人族さんとの取引をし生活を続けておりました」


「今は?」


「取引以前に……いつも来てくれていた買い取りの獣人さんが来なくなりまして」


「争いとか、戦争ですか?」


「いえ、この国は他国とも友好も良く、戦争は起きる事はありません」


「なら、モンスターですか」


「恐らく……、暫くして獣人族の村が無くなったことが私達は知らされました……」


「その畑で作っていた果物は食べられないんですか?」


「人族には食べるには硬すぎて食べる事はできません。プルンも私達に気を使って食べようともしません」


「そうだったんですね」


 最初から貧困していた訳ではない、話を聞いて解ったがこのままでは恐らく最悪な状態しか待っていない。


 何か収入源になる物ができればいいのだが。


 エベラとの話し声にプルンが起きたのか、お茶をしている部屋へと入ってきた


「ニャ? まだ起きてたニャ?」


「プルン起きたのかい」


「ニャ! 何食べてるニャ!」


 プルンは眠たそうな目をクワッと開き、テーブルに置かれた食べ物を凝視した。



「クッキーとハチミツ入れた紅茶だよ、食べる?」


「食べるニャ!」


「「食べるー」」


「マーマ、アタチも」


「あらあら、皆起きて来ちゃったのね、食べた後はまた歯を磨くのよ!」


「「「はーい」」」


「ニャ!」


 夜の間食は太る原因で避けるべきだが、むしろ食欲があるなら子の達には食べさせるべきだろう。


 因みに、プルンに自分の分まで食べられた。


 翌日


 家族のご飯の為にとプルンは依頼の続きをすると朝から出かけることに。


 自分も何か依頼を探しにギルドにプルンと共に向かう。


「それじゃ、行ってくるニャ!」


「行ってきます」


「「「いってらっしゃいー」」」


「気をつけてね」


「ふー、朝から肉とは贅沢だニャ」


「食べ過ぎだよ」


「食べれるうちに食べとかなきゃ勿体ニャいニャ」


「太るよ……」


「うぐっ! いいニャ、その分動けばチャラニャ!」


「おはようございます」


「あら。ミツさん、プルン、おはようございます」


「ナヅキ、おはニャ!」


「プルン、今日は随分と元気ね?」


「お腹いっぱいご飯食べて元気もいっぱいニャ!」


「あなたいつもフラフラ状態だったから、私心配してたのよ」


「あれは……お腹空いてて」


「そんなんじゃ依頼中に倒れちゃうわよ」


「今は、平気ニャ」


 今だけじゃ駄目なんだよプルンさん。


 シスターも今は畑で野菜を作っているが、実るまで時間はかかる。


 その後を考えなければ、またフラフラで依頼を受ける羽目になるよ。


 一応エベラには昨日使った材料、再生野菜である大根、人参、カイワレなどを渡してある。


「はいはい、それで今日は?」


「依頼をしたいんですけど初めてなのでオススメとか何かありますか?」


「そうですね、ミツさんの場合は……」


「あっ、自分の事もプルンと同じ呼び方で良いですよ」


「あら、そう?。じゃ~そうさせてもらうわね」


 かたっ苦しいのは苦手だ。


「ミツは、そのへん気にしないから大丈夫ニャ」


「……ふ~ん」


「何ニャ?」


 プルンの言葉に眉を上げ少し微笑むナヅキ。 


「別に~、随分とお詳しいんですね~プルン」


「ちっ、違うニャ! ウチもミツに同じこと言われたから知ってただけニャ!」


「そうなの?」


「はい」


「まっいいわ、ミツ君の今受けれるのは採取依頼と運送依頼と討伐依頼よ」


「討伐依頼ニャ!」


 プルンはナヅキの言葉を聞くと驚きカウンターに手を置き、乗り上げる程に身を上げた。


「えぇ、試験の成績が良かったのね。ウッドの初任務に討伐依頼がついたのを見るのは私も初めてよ」


「へー、ちなみに何を倒すんですか?」


「ゴブリン五匹、それがきついなら採取か運送ね」


「五匹だけでいいんですか?」


 初依頼でゴブリン五匹またスキルを狙って行こうかな。


 "だけ"と言う言葉にナヅキが少し驚いたが、流石プロの受付嬢直ぐに冷静になり言葉を返してくれた。


「えぇ、更に倒した数が増えていけば報酬も増えるわよ」


「ミツ受けるニャ! ミツの強さならゴブリンなんかあっという間ニャ」


「ミツ君ってそんなに強いの?」


 頬に手を当て不思議そうにこちらを見るナヅキの後ろから声が聞こえてきた。


「えぇ、強さは私が保証するわ」


 声のする方を見るとエンリエッタが受付嬢達と同じ服を着て奥の部屋から出てきた。どうやらあれが基本となるここの制服なのであろう。


「エンリエッタさん」


「エンリ、珍しいニャ、こっちに来るなんて? 今日は訓練所にいないのかニャ?」


「あのね、私がいつも訓練所に居るみたいな言い方止めてちょうだい」


「ニャハッハッ、ゴメンニャ、ゴメンニャ」


「フンッ」


 怒った様に鼻を鳴らすが、エンリエッタの顔は笑っている。


「エンリエッタさん、おはようございます。討伐依頼受けさせてもらいます」


「えぇ、あなたには期待してるわ」


「では、討伐依頼でよろしいですね」


「はい」


「じゃ! 行くニャ!」


「プルン、あなたも採取依頼やりなさいよ」


「解ってるニャ、ミツの依頼と一緒にやってくるニャ」


 依頼を受けていざゴブリン退治。


 プルンと別々の依頼だが一緒に依頼品とゴブリンを探すことになった。


 自分とプルンがギルドを後にしたのを見送ったナヅキはエンリエッタに疑問をかけてみた。


「エンリエッタさん、聞いてもいいですか?」


「なに?」


「ミツく……さんは、そんなにお強いんですか?」


「えぇ……あの子の力は新人以上よ。だから今回の模擬戦は私がやったのよ」


「えっ! エンリエッタさんがですか!」


「まぁ~あっさり終わったけどね」


「そりゃそうですよ! いくら強いとは言えエンリエッタさん元グラスの冒険者じゃないですか。新人冒険者が勝てる訳無いですよ!」


「そうね、普通ならね……。それよりナヅキ、昨日オークの素材が帳簿にあったわね。討伐依頼なんか出してたかしら?」


「いえ、あれは持ち込みです」


「……それってまさか」


「お持ちいただいたのはミツさんですよ?」


「やっぱり……」


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