第5話 スティールの力

 マーサや村人の病を治すために、魔水を必要とするギーラの言葉を聞き入れたミツがモンスターが住み着いた場所へと向かおうとしたその時。


 何やら外から慌ただしい声が聞こえてきた。


「んっ?」


「何かあったのかね? 少し見てくるよ」


「お婆ちゃん、私も行く」


 村の村長であるギーラは、立場上村でのトラブルに関してはいち早く対処しなければいけない。


「アイシャ、あまりお母様の邪魔はしちゃ駄目よ」


「は~い」


 マーサの注意にアイシャは軽く返事をすると、スタスタとギーラを追って外へと出て行ってしまった。


 少年もマーサに一礼を残し二人の後へと続く。


「誰か! 頼む! 頼むよ!」


「落ち着くんじゃゾイ」


「どうしたんだいトム、そんなに慌てて!?」


 声がする村人が集まる場所へと行くと、トムと呼ばれた少し小太りの男が集まる人々に懇願するかの様に声をだしている。


 そんなトムの慌てようを見たギーラはただ事ではないと声をかけた。


「村長! 村長! エリリーが! エリリーがモンスターにつれて行かれちまったんだよ!」


「何だって! エリリーがかい」


「うっ……近くの川辺に水汲みの帰りに……うっうっ……おいら……突然モンスターに後ろから殴られて、気を失って……。気がついた時には……うっうっうおぉぉ」


「トム落ち着きな! トム! 」


「そんな、モンスターにエリリーが……。可哀想に、恐らくもう……」


「川辺近くとなると、恐らく洞窟に住み着いたモンスターかもしんねぇな……」


「うおおぉぉ! 誰か! 誰か頼む! おいらと一緒にエリリーを! エリリーを助けに行ってくれないか!」


 どうやらトムの家族がモンスターに攫われたようだ。


 アイシャを襲ったゴブリンの他にも、この辺にはモンスターが居たようだ。


 トムは嗚咽を漏らしながら村人に頼むが、周りに居るのは年老いた者、またはアイシャ程の子供しかいない。


 この村にトムの声を聞き入れる人がいるのかと思ったが、周りの家より少し大きめの家の中から一人ひときは目立つ大柄な男が出てきた。


「トム、俺が行こう」


「バッ……バン! うっ、すまねぇ。お前が一緒なら助かる」


「バン、おまえさん……」


「おふくろ、悪いが武器庫を開けてくれ」


「そうだね……。うむ、あんたが付いていくならエリリーも助かる可能性も出てくるかもしれないね……。解った、少しおまち」


 バンと呼ばれた男はギーラの息子であろうか、だとしたらアイシャの伯父かな?


 ギーラは先程バンが出てきた大きめの家に入り、直ぐに鍵を持っては家から出てきた。


 家の横に建てられた物置きの様な扉をギーラが開けると、その中には剣や鎧の武器防具が収納されている。

 これがこの村の武器庫なのだろうか。


 バンとトムは武器庫の中の防具を取り出し、自身へと身に付け始めている。


(もしかしてこの人たちって洞窟に向かうのかな? だとしたら、これはゲームの流れとして二人を仲間にしろってことかも……。)


 自分は一人で洞窟へと行くことを考えていたが、このゲームはNPCを仲間にして洞窟に向かい、捕まったエリリーを助けるクエストだと思い二人に声をかけることにした。


「あの、すみません、少しいいですか?」


「んっ? 誰だい君は? この村の子じゃないな」


 バンは手甲の様な物を着ける手を止め、いきなり現れた自分に厳しい視線を送ってきた。

 


「初めまして、自分はミツと申します。いきなりですみません、自分も洞窟に用事がありまして。良ければお二人にご一緒してもよろしいでしょうか?」 


「……」


「すまないが坊や、これは遊びじゃないんだ。それにトムの話の内容からして確かにモンスターは洞窟に最近住み着いた奴らだろう。数も多いかもしれない、悪いが君を連れて行くことはできない」


 洞窟に向かうことは間違ってはいなかったがミツのお願いはあっさりと断られてしまった。

 思わぬ断りの言葉に"えっ"っと声を出しそうになってしまった。


「バン伯父さん! ミツさんは遊びで洞窟に行くわけじゃないの。お母さんのお薬のために行ってくれるんだよ!? それにミツさんは私をモンスターから助けてくれた強い人なんだからね!」


「アイシャ!?」


「アイシャちゃん、それは本当なのかい?」


「ええ! 凄いのよ。私の目の前で二匹のモンスターをあっという間に倒しちゃったんだから!」


「ははっ。倒せたのは不意打ちだけどね」


「そうか……んっ。君、その弓は?」


「これですか? これはマーサさんからお借りした弓ですよ。洞窟に行くならこれを使いなさいって貸して頂きました」


「そうか、マーサが君に……。ミツ君だったかな。先ずは姪のアイシャを助けてもらったことに礼を言う。ありがとう」


 バンはやはりアイシャの伯父に間違いなかったらしい。アイシャから今までのことを聞くと、バンは頭を下げ礼を言ってきた。


「いえ、運が良かったんですよ」


「それと、先程断ったばかりですまないが、君の力を貸してはもらえないか。頼む」


「はい、元よりこちらからのお願いですから、よろしくお願いします」


「君! ありがとう! ありがとう!」


「はっ、はい」


 これで洞窟に同行することに決まった。

 トムは同行者が増えたことに喜び、自分の手を強く握り、感謝の言葉を告げながらブンブンと上下に振ってくる。

 略装の鎧を装備したバンとトムは槍と盾、腰には短い剣を着け準備を整えた。

 自分も身を守るためと防具を渡された。

 だが、残念ながらサイズが大人向けしかなかったので着けることは諦めた。


 バンも下手に大きめの防具は自身の戦いでの動きを鈍くし、敵からの攻撃の対応に遅れると言う言葉もでたので自分の格好に変わりはない。


「バン、トム、ミツ坊。三人とも無理はするんじゃないよ」


「おう!」


「おふくろ、俺達が村から離れてる間に別のモンスターがこの村に来るかもしれん。十分に注意しといてくれ」


「解った……。ミツ坊や。村人でもないお前さんにはすまないが二人に力を貸しておくれ」


「はい! 必ずエリリーさんを助けてきます!」


「ミツさん気をつけてね」


「うん」


 アイシャとギーラ、そして村人の数人が洞窟に向かう三人を見送っていた。


 ギーラから頼まれた魔水の取得もだが、エリリーと言う救出の二つのクエストを同時進行となった。


 初期のゲームイベントなら効率よく消化できるので問題はない。


 ひとまずエリリーが連れさらわれた場所に移動後、バンの案内で洞窟へと進むことになった。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


「では、お二人が前に出て自分が後方からの弓での狙撃での援護でいいんですか?」


「あぁ、それで構わん。アイシャを助けた時も弓でゴブリンを倒したんだろ? 俺達が敵の気を引きつけるから、君は見つからない様に攻撃してくれ。その方が君も安全だろうし」


「モンスターはおいら達に向かってくると思うからね」


「解りました、お二人とも気をつけて」


 林を進み、少しずつ遠くから水の流れる音が聞こえてきた。


 先ずはトムの案内でエリリーが攫われた場所に到着。すると近くで何やらだみ声のような声が聞こえてきた。


 トムはその声を聞くと我先にと声の聞こえる方へと素早く移動を始めた。


 ギギッ! ギャッギャッ!


 草かげに隠れながら近づくとそこには二匹のゴブリンがいた。


 二匹のゴブリンは手に持つネズミのような生き物を取り合っているのか、言い争いのように声をあげていた。


「いた! あいつらだ!」


「しっ! 落ち着けトム。仲間を呼ばれたら厄介だ。倒すなら奇襲をかけるぞ」


「あぁ、すまん、バン……」


「ミツ君、援護を頼むぞ」


「はい、任せてください」


 バンとトムは槍を構え、一気にゴブリンの方へと駆け出した。


 自分は後方からの攻撃。


「行くぞ!」


「おおぉ! オラオラ! お前ら! おいらのエリリーを何処に連れて行った!」


 ギギっ! ギャッギャッ!


 声を荒らげ、突然現れた二人にゴブリンはたじろぎ動きを止めた。


 バンはすかさず手に構える槍でゴブリンの胴体を一突き、グキャっと短い断末魔を上げながらその場に一匹のゴブリンは倒れた。


 突然の敵、突然の仲間の死に残った一匹のゴブリンはその場から逃げ出すかのようにだれも居ない方へと走り出した。


「逃さねぇぞ!」


 ギャギ! 


 逃げ出すゴブリンにトムが手に持つ槍を投げ、ゴブリンの背中にドスリと突き刺す。


 そして前倒しに倒れるゴブリン、自分の援護の射撃もなく二人はあっさりと二匹のゴブリンを倒してしまった。


「お二人とも大丈夫ですか」


「ああ、奇襲が上手く成功したよ」


「ヘヘッ、オイラたちの力はまだまだこんなものじゃないぞ」


 バンは戦いが終わった後に、真剣な表情で辺りを警戒をしている。


 先程の戦いでゴブリンの悲鳴を聞いて他のゴブリンが近くに来ているかもしれないからだ。


 そんな表情を見て、確かにと自分も周りを見渡してみる


「んっ?」


 背中にトムの槍が突き刺されたゴブリンを見ると、刺さっている槍が少し動いた気がした。


 少し気になり倒れたゴブリンに近づき鑑定してみた。


ゴブリンファイター

Lv2 ゴブリン族

状態_瀕死

ゴブリンの服

【【不意打ちLv1】】


 鑑定してみると以前別のゴブリンを見たステータスウィンドウとは違い、状態の項目で瀕死が表示されていた。


 更にはゴブリンが持つスキルであろうか、スキルの項目だけがマーサと同じように浮かんで見えていた。

 これは何だろうと考えていると、目の前にウィンドウ画面と女性のアナウンスが聞こえてきた。


《モンスターの状態が瀕死状態の時には、スキルのスティールにて相手のスキルを奪うことが可能です》


「えっ?」


「んっ、どうした?」


「あっ、いえ」


 突然のウィンドウ画面と言葉に表示された説明を二度見するほどに驚いてしまった。


 バンには変に思われただろうか。


 自分は恐る恐るとうつ伏せのゴブリンに近づき、掌をゴブリンへと向けてスティールを使用した。


(スティール)


《スキル〈不意打ち〉を習得しました》



不意打ち

・種別:パッシブ

相手に気付かれていない時に攻撃するとダメージが増加する、レベルに応じて威力が増す。



 驚いた。まさかスティールの盗む対象が物だけではなくモンスターのスキルも盗めるとは。


 このゲームのスキルはどうやって増やしていくのかと内心気にはしていたが、このような方法もあるなんて思ってもみなかった。


 最初のボーナスでスティールが貰えたことが本当に運が良かったとつくづく思う。


(凄い! まさかモンスターからスキルが奪えるだなんて思ってもいなかった。これならランカーも遠くないぞ! いや待て……。自分がこれが使えるということは他にも使える人がいると考えるべきだよな……。むしろ無いとは思うけどこれが殆どのプレイヤーが使えるとなると、PvPなんかの戦いがあると戦略戦になるぞこれは……)


「君? 大丈夫かい?」


「あっ。はっ、はい。すみません大丈夫です」


「そうかい? もしかして戦いを見て怖くなったのかい?」


「いえ! むしろお二人の戦いを見て自分も頑張ろうと思ってたところです」


「そっ、そうか! 良かった良かった。さっ! 洞窟に早く行こう」


 自分がゴブリンを見て考え込む顔をしていたのか、トムは顔を覗き込むと同時に声をかけてくれた。


 余計な心配をかけてしまったか、NPC相手だが何だか恐縮してしまう。


 トムはゴブリンに突き刺した自身の槍を引き抜き、もう一度ゴブリンへと槍を突き刺した。


 えっ、と思ったのだがバンも同様に倒したゴブリンの首に自身の持つナイフで斬りつけている。


 自分がそんな光景に目をそむけたくなる顔をしていたのか、それを見たバンは「ゴブリンが生命力が高い、念のために二度トドメをさすものだ」と教えてくれた。


 確かに相手はゴブリン、モンスターなのだから油断しているところを自身が襲われるかもしれない。


 自分はコクリとバンへと頷き返した。


 


 先程スキルを奪ったゴブリンをもう一度鑑定してみると、状態は瀕死から亡骸と変わっており、先程あったスキルは、ゴブリンのステータス一覧からは無くなっていた。


 先程の案内では瀕死状態だとスキルを奪えると教えられたので確認するためにと、バンが倒したゴブリンのスキルを確認してみた。


 ゴブリンの状態がもちろん亡骸と表示されている。


 更にはスキルの文字は表示はされているがその文字は浮かび上がってはいなかった。


 やはりスキルを奪うにはモンスターの状態が"瀕死"である事が条件らしい。


 三人は周囲にはモンスターがいないことを確認した後に、洞窟がある先へと進みだした。


 辺りを警戒しながら進むとまた先程と同じようにコブリンの声が聞こえてくる。


 ギャギャギャ グ~ギャ~ ギャーギャー


 目的とした洞窟の前、その前には数匹のゴブリンが確認できた。


 トムはゴブリンの姿を見ると今にも飛び出しそうな勢いだ。


 だがここで勢いだけで突撃したとしてもエリリーを確実に助けることはできないかもしれない。


 バンは今ここにいる三人でできる作戦を思いついたのか、一度少し戻って作戦を説明し始めた。


「ミツ君、君は洞窟の裏側に周り、入り口の上に潜んでくれ。あの高さなら直ぐにはゴブリンは登れないだろうし、俺の見た感じではあそこからなら弓での援護はやりやすいだろう。俺とトムは洞窟の正面からできるだけ目立つ様に攻撃をしかける」


「解りました!」


「行こうバン。おいらのエリリーが待ってる!」


「よし、二人とも行くぞ」


「「おう!」」


 バンとトムの二人に正面からの攻撃を任せ、自分はゴブリンに見つからない様にと息を潜めながら何とか洞窟の上へ移動。

 少し丘となっている場所に到着した。


 バンの見立て通りこの場所からはゴブリンを真上から狙撃ができる。


 下には先程見えなかった場所にも、ゴブリンがいることが解り、全部で五匹のゴブリンが居ることが把握できた。


 自分はバンとトムへと配置についたことを手を振りゴブリンの数を知らせる合図を送った。


「バン、合図だ!」


「あぁ、行くぞ!」


 ギギッ? ギッ!? ギャーギャー!


「おおぉぉ! おいらのエリリーを返しやがれ!」


「その洞窟はお前らが住み着いていい場所じゃねぇ! とっとと出ていきやがれ!」


 怒涛の声を上げる二人にゴブリンは少し慌てたが、相手がたった二人だと直ぐに理解したのか、五匹のゴブリンは逃げることも無く二人に武器を向けて威嚇の声を上げ出し始めた。


 ギャーギャー! ギョギョギョギョ! ギィー!


 一匹のゴブリンが甲高い声を出すと同時に、一斉に動き出すゴブリンたち。


 先頭に立つトムに飛びかかるゴブリン。

 トムは自身の持つ盾を前へと突き出し、飛びかかるゴブリンを跳ね除けていた。

 バンの持つ盾はトムとは違い、少し小柄で腕から肘までのサイズだ。

 その分トムとの戦い方とは違い、略装を活かしゴブリンとの距離を一定にたもつ戦闘法の様だ。


 バンは武器とする槍は、一匹のゴブリンの喉を貫いた。


 ゴブリンは成人男性の腰ほども無い小柄な体の大きさをしている。


 トムの盾で跳ね返されたゴブリンは、体の軽さもあり、衝撃で洞窟入り口近くまで飛ばされていた。


 戦闘開始とともに仲間が簡単に殺られてしまったことにたじろぐ他のゴブリン。


 しかし、洞窟の中にはまだゴブリンがいたのか、中から出てきた一匹のゴブリンがトムの攻撃で地面に倒れ込むゴブリンへと近づくと、手に持つ木の棒を向けると同時に、倒れたゴブリンは青と緑の光を体に受けるとムクリと立ち上がる。

 ギキッと声を出した後に、起き上がったゴブリンはまた武器を構える。


「バン!」


「ちっ! ドルイドが居たのか!」


 トムの呼び声の後、大きく舌打ちをするバン。


 自分は洞窟の上から少し身を乗り出し、ドルイドと言われたゴブリンを鑑定してみる。


ゴブリンドルイド


Lv4 ゴブリン種

木の杖 ボロのローブ

ヒール Lv3。

速度減少 Lv2。

キュアクリア LvMax。


 鑑定をしてみると回復スキルを持ったゴブリンだと言うことが解った。

 バンみたいに一撃で倒せるなら良いが、トムの盾攻撃ぐらいのダメージでは直ぐに回復されてしまうだろう。

 自分は上から弓を構え、狙いをドルイドへと向けた。

 しかし、直ぐに洞窟内に隠れてしまう。

 見え隠れするドルイドに矢を当てる自信はまだない。

 確実に動きを止める時に仕留めなければ自分にも気づかれてしまう。


(慌てず……落ち着いて)


 上から弓を構える姿にバンは気づいたのか、トムに一声合図を送るとトムも理解したのか合わせるように動き出してくれた。


「んっ。トム!」


「あっ、なるほど。おっしゃ、任せとけい!」


 ガンガンと周りに突如と響く鉄を叩く音。


 それはトムの持つ盾を銅鑼のように叩き音を鳴らしていた。


「オラオラ! お前らの相手はおいらで十分だ! 一体一体来ないで一気にかかってきやがれ!」


 ギギッ! ギャギャ!


 トムがゴブリンへと挑発的な言葉を飛ばすと、四匹のゴブリンだけではなく、洞窟内に隠れていたドルイドが顔を出し、他のゴブリンと同様にトムへと向かいだしたのだ。


 どうやら洞窟内にはもうゴブリンはいないのか、トムの声に反応したのは一匹のドルイドのみだった。


 上手い誘き寄せだ。


 自分は関心しながら見てみると、ギャーギャーと叫ぶゴブリンへとすかさず駆け出したバンが見えた。


 バンは手に持つ槍を大きく振り、その勢いと共に横薙ぎで一匹のゴブリンを吹き飛ばした。


 


 バシッと物を叩く音と、ゴキッと骨を折る音が同時に聞こえると、ゴブリンはドルイドの目の前にと上手い具合に転げ倒れた。


 ドルイドは目の前に飛んできた仲間に驚き足を止めるが、直ぐに治療を始めている。


 一匹のゴブリンを餌にドルイドの足を止める、バンの戦術が上手く行った。


 自分はバンの槍先がドルイドを指していることに気づき、弓を構え、矢の先をドルイドへと向け、治療の為に足を止めたドルイドの背中に矢を放った。


 ウギャ!?


〈経験により〈潜伏Lv2〉となりました〉


 ドルイドに矢が刺さり、断末の声を上げバタリと倒れる。


 仲間がやられたことにゴブリンは焦りだしたのか、トムに襲いかかっていた一匹のゴブリンが後退りをし始め逃げ出した。


「バン! 逃がしちゃいけねぇ!」


「解ってる! うおぉー!」


 ゴブリン一匹、されど一匹。


 繁殖力の強いゴブリンは逃してしまうとまた他の場所で数を増やしてしまう厄介なモンスターだと知らされている。


 バンは逃げ出したゴブリンに槍を投げドスリと背中に突き刺した。


「!? ミツ君! ドルイドの方にトドメを!」


 バンの声に反応する様にドルイドへと目を向けるがドルイドはうつ伏したまま動いてはいない。


 だが先程、バンはゴブリンには二度トドメをさす物だと教えられた事を思い出した。


 急ぎゴブリンとドルイドへと駆け寄り近づき見てみると、倒れた二匹はまだ息があり鑑定をすると瀕死と状態が表示されていた。


「チャンス! スキルを奪えるぞ!」


 自分は直ぐにゴブリン二匹に手をかざし〈スティール〉を使用した。


〈スキル〈威嚇〉〈ヒール〉〈キュアクリア〉を習得しました、経験により〈スティールLv2〉となりました〉


ヒール

・種別:アクティブ

対象者の傷を癒やす、レベルに応じて治力が上昇する。


キュアクリア

・種別:アクティブ

対象者の状態異常を回復する。


威嚇

・種別:パッシブ

相手に恐怖を感じさせ一時的に動きを止める、レベルが上がると効果が増しスキルが効きやすくなる。


 スキルを奪い取ると同時にドルイドは動きを止め、再度鑑定をすると亡骸状態と変わっていた。


 〈速度減少〉スキルが奪えなかったのは残念だが、今は回復スキルだけでも奪えたことに良しとしよう。


 弓を構え亡骸となったドルイドと、ドルイドの下敷きとなり動くことのできないゴブリンに矢を撃ち込み、二匹には確実にトドメをさした。


 残った二匹のゴブリン。


 直ぐにその場から逃げ出すかのように一匹のゴブリンがもう一匹の足を引っ掛け転ばさせ、それをおとりに脱兎のごとくその場から逃げるのが見えた。


 転ばされたゴブリンは仲間の対応に驚くも、すかさずトムの槍を受けその場に倒されていた。


 林の方へと走るゴブリンに向かって弓を構える。


 精密な狙撃はできないかもしれないがゴブリンに向かって矢を放った。


 ゴギャ!


 運が良かったのか、咄嗟に放った矢はゴブリンの頭に命中。


 その場に倒れるゴブリンに駆け寄ったバンの槍の一突きを受けて亡骸となった。


〈経験により〈不意打ちLv2〉〈フクロウの目Lv2〉となりました〉


「よし!」


「お疲れ様ですバンさん、トムさん」


「ありがとう、君の協力あってこそだよ」


「いえ、お二人の力なら自分がいなくても大丈夫でしたよ」


 戦いが終わりお互いにガシっと硬い握手をすると、戦いの前の難しい顔は消え、三人はホッと笑顔をこぼした。


「んっ! エリリー! そこに居るのはエリリーじゃないか!?」


 トムにはエリリーが見えたのか? すぐさま岩陰の方へと駆け寄っ手行く。


 自分には何も見えないし何も聞こえないのだが、これもエリリーを思う心あってのことなのだろうか。


「トム! 気をつけろ、まだゴブリンが居るかもしれんぞ」


「解ってる!」


 バンの言葉に槍と盾を構え岩陰へと近寄るトム。


「あぁ! エリリ~! エリリ~!」


 やはりそこにはエリリーが居たのか。


 トムの声は攫われたエリリーを見つけ泣き声になっていくのが解った。


「バン! エリリーだ! エリリーが居たぞ! 怪我も無いみたいだ!


「そうか、良かった……」


 もしものことを考えていただけに、安心したのか、その場に腰を下ろしため息一つに安堵するバンだった。


「バンさん! 大丈夫ですか 」


「ハハッ、あぁ、さすがに疲れたな」


「さぁ、エリリー、怖くないからこっちにおいで、一緒に家に帰ろう」 


 岩陰から出てくるトム、その手には紐をしっかりと手に持ちそれを引っ張ると岩陰から出てきたのは、大きな体をゆっくりとのっしのっしと動かす牛だった。


「う、牛……」


「あぁ、村にとっては唯一の乳を出す草牛のエリリーだ。乳が出なくなった母親の代わりにはエリリーは村の赤ん坊や子供たちには大事な乳牛なんだよ」


「あっ、なるほど……」


 貧困している村では確かに牛乳は大事な財産だ。

 ギーラも村を思えばエリリーを心配していたに違いない。


「エリリー、怖かったろ。すまん、おいらが不甲斐ないばかりに……」


 トムの言葉を理解したのか、エリリーは大きな顔をトムに擦りつけ、モーと優しい一鳴き声を出した。


「トムはここでエリリーと待っててくれ。俺はおふくろから頼まれた洞窟内の"魔水"を取ってくる」


「バンさん自分も行きます」


 自分の言葉にコクリと頷くバン。


 トムはエリリーを守るために洞窟の外で待つことになった


「二人とも気をつけろよ」


 


 洞窟内はそれ程真っ暗ではなく、あちらこちらに外から光が差し込む穴が空いてるのだろう。松明や灯りを必要としなくても足場が見えるので進むことは難しくはなかった。


「汚いですね……」


「あちらこちらに動物の骨もあるな。どうやら先に洞窟内に住みついたのは他の動物だろう。それをゴブリンが襲い、ここを自分達の住処にしたんだろうな」


「なるほど……」


 洞窟内の足元には鳥や小さい動物の骨、または鹿程の大きさの獲物も捕まえて食べていたのか、散らばる骨は大小様々だった。


 洞窟内を少し歩くと、奥の方からピチャンピチャンと水の流れる音が聞こえてきた。


「あっ。バンさん、あれですか!?」


「あぁ、あそこの溜まった水が魔水だ」


「えーっと……。なんか黒くないですか? これ、本当に飲めるんですか?」


「……」


 洞窟にできた自然の池。


 まるで鍾乳石の様に上からポタポタと落ちる水滴。


 しかし、溜まった水は一面真っ黒。

 一瞬洞窟内だけに黒く見えたのか、もしくは魔水と言うくらいだから黒いのが普通なのかと思ったが、バンの険しい表情を見る限りでは自分の考えは違ったようだ。


「汚染されてる……」


「えっ!」


「恐らくゴブリン共がここに住み着いたせいだろう」


「そんな……。これはもう使えないんですか?」


「いや、数日経てば元に戻るはずだ……」


 バンは魔水をすくい上げるが手から溢れる水はやはり黒く染まっていた。


「取り敢えず村へ戻ろう」


「はい」


 エリリーをゴブリンから助けることは無事できた。

 洞窟に住み着くモンスターも倒すことはできた。

 だが、自分の目的である魔水は汚染という形で取得することができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る