第4話 スタネット村
アイシャを林でゴブリンから助けたのち、二人はアイシャの案内のもと進む。
お礼を兼ねてお茶をご馳走にアイシャの家があるスタネット村に向かう事にした途中。
また、モンスターに襲われないかと周囲に注意を払いながら歩き、林を抜けた先には小さいながらも村が見えていた。
「つきましたよ、あれが私の住むスタネット村です」
アイシャに案内された村、その指をさした先には無数の小屋みたいな家があり、弱々しながらも畑には野菜っぽい物ができている。
村に向かって入り、アイシャの家に案内されながら辺りを見渡すと、アイシャだけではなく村人全体的に貧しい生活をしている様に見えた。
村に住んでいる者は皆生気が無く、下を向いてる者。中には苦しそうに咳き込んでる人がチラホラと見かける。
「年寄りと子供が多いみたいだね、大人の人達は何処か行ってるの?」
「いえ、私がまだ小さい頃に戦争があって、その時に出て行ったほとんどの人が死んでしまいました……。成人して大人になった人は街に出稼ぎに行ってます」
「ごめん、知らないとは言え野暮な事聞いちゃって」
「いえ。皆生きていくためですから……」
また言葉の地雷を踏んでしまったと後悔した。
(早くこの世界事情を知らなければストーリーが進めめにくいな……)
「母さん、ただいまー」
アイシャの家に到着したのか、声を出しながらアイシャは一つの家の中に入っていく。
中には母親がいるのであろう、女性の声も聞こえてきた。
「おかえりなさいアイシャ、少し遅かったわね?」
「うん、ちょっとね。それよりミツさん、入っておいでよ」
いくらお呼ばれしてるとはいえ、勝手に人様の家に入るのは抵抗がある。
入り口前で待っていたら中からアイシャの呼ぶ声がしてきた。
家に入ると目の前にはベッドがあった。
その上にはアイシャの母親だろう、同じ髪の色をし少し痩せこけた感じの女性が体を起こした状態でこちらを窺っていた。
「こんにちは、お邪魔します」
「どうも? アイシャこちらの方は?」
アイシャ、何も説明しないまま招き入れたのかい。
そりゃ誰だっていきなり自身の家に知らない人が入って来たら同じ反応をするだろう。
アイシャの母親と思われる女性は、自分を少し困った感じな訝しげな視線をおくってくる。
「こちらはミツさん、私がさっきモンスターに襲われかけてるところを助けてくれたのよ」
「えっ! モンスターに!」
アイシャが襲われかけていた事を知る母親は、アイシャをグッと自身の近くに引き寄せた。
娘に怪我が無い事を確かめるため、体のあちらこちらを触って無事を確認すると、母親は大きくため息を吐いた。
「はぁ〜。良かった、怪我は無さそうね」
「うん、少し押し倒されたけど直ぐにミツさんが助けてくれたの」
母親の不安そうな顔とは反対に、アイシャは穏やかな表情で事情を説明し、母親の両手を握って安心させた。
アイシャは母親の手を握りながらエヘッと笑ってはいるが、その目元には薄っすらと涙を浮かべていた。
「ミツさんって言ったかしら。私はマーサ、娘を助けて頂きありがとうございます」
マーサはベッドから降り、頭を深々と下げ娘の無事に感謝を伝えてきた。
一緒にアイシャも改めて頭を下げて感謝していた。
「初めまして自分はミツと申します。いえ、怪我する前に助けられたので良かったです」
頭を下げていたマーサは自分の言葉を聞くと、頭を上げ、その表情は不安そうな顔から笑顔に変わり、微笑みを返してくれた。
病弱とは言えアイシャの母親、美人な顔立ちでの笑顔は少しドキッとしてしまった。
身なりは少し汚れてる様に見えるが流石NPCと言えるのか。アイシャも母親であるマーサも美少女と美人と顔立ちが整っており、自分はこのゲームを作ったグラフィグレベルに感心した。
そして、マーサはアイシャを自身の方へと対面させると、アイシャの頭を軽く小突き、マーサはお怒りモードの母の顔となった。
「もう! あんたって子は! 助けが来なかったら今頃どうなってるやら」
正に目の前でカミナリが落ちた、今度は別の意味でドキッとしてしまった。
「ごめんなさい。薬草探しに夢中になってたらいつの間にか林の奥まで入っちゃって……」
理由を話しながら少しづつ落ち込んでいくアイシャ。
「そう言えば薬のために森に行ってたんだよね?」
「そうだよ、私捜し物するの得意なの。ほんとは街にいる治療士に魔法で治してもらうのが早いんだけど……」
「いいのよアイシャ。そんなお金まで使って治さなくても、アイシャのおかげでお母さん随分と元気になってるのよ」
「でも! お母さん、前みたいに狩りに行くこともできないし……」
「……ごめんねアイシャ」
どうやらマーサは狩人のようだ。
病気にかかってからは狩りに行けてない分、生活が苦しくなってしまったのだろうと。
鑑定で解らないだろうか? ちょっと失礼して二人を見させてもらった。
名前 『アイシャ』 人族/14歳
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
発見________:Lv2/10。
家事________:Lv3/10。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
なるほどスキルを持ってたのか、それで薬草探しは得意って事ね。
続いてマーサさんを鑑定してみると不思議な点が何個かあった。
名前 『マーサ』 人族/30歳
状態異常_アース病/弱体状【態】
狩人 Lv7。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【【発見________:Lv6/10。】】
【【狙い撃ち ___:Lv7/10。】】
【【潜伏________:Lv5/10。】】
【【家事________:Lv6/10。】】
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
マーサを鑑定したら病名と状態が把握できた。
それと狩人としてのレベルとスキルレベルが地味に高い、狩人としてかなりの腕前だったのか?
それとスキルが浮いて見える、アイシャは普通に表示されてるのにこの違いはなんだろう?
詳しく鑑定しようとしたら外から声がしてきた。
「邪魔するよ」
入ってきたのは近所の人であろうか。
焦げ茶色のローブをまとい腰を曲げ、ゆっくりと入ってきた年配のお婆さんだった。
「マーサ、今日は体調が良さそうだね。あんたの声が私のところまで聞こえてきたよ」
「お母様! すみません、アイシャが無茶をしたみたいで少しお説教を」
「おや、まぁ〜、そうなのかいアイシャ、あんまり母さんを困らせちゃ駄目だよ」
「ごめんねお婆ちゃん、もう十分反省してま〜す」
「やれやれ、それよりそこの若いお兄さんは誰だい?」
どうやら話の内容てきにアイシャの祖母のようだ。
少し話をした後に自分の方に視線を向けてきた。
「この方はミツさん、私をモンスターから助けてくれたの」
「何だってモンスターに! お兄さんがアイシャを助けてくれたのかい?」
「初めましてミツと申します。はい、アイシャがゴブリンに襲われてる場に出くわしまして、ほんと運が良かったです」
「ゴブリンにかい、それは危なかったね。そーかいそーかい。私の名前はギーラ、この町の村長をやってるんだよ、私からもお礼を言うよ、孫を助けてくれてありがとね」
アイシャを助けたことを伝えると驚きはしたが、ギーラはマーサのようにアイシャを叱ることはしなかった。
お互いに挨拶をし、孫の無事に感謝の言葉を伝えるギーラの顔は優しさに満ちた顔であった
「礼儀も良さそうだし、いい人に助けてもらったねアイシャ」
「うん!」
「それはそうとマーサ、緑ポーション持ってきたから飲んどきな。今は落ち着いてるから良いかもしれないけど、また体調崩したらいけないからね」
ギーラはマーサに向かって小瓶をひとつ差し出してくる。少し厚めで透明度はそれ程高くはないガラス瓶の中には緑の液体が揺れていた。
手に持ってた小瓶に入った緑色のあれはポーションだったのか。
見た目は青汁みたいだけど果物とかで割ってないよねあれは。だって真緑だもん。
「お母様、いつもありがとうございます」
「いいってことよ。私は作るだけで材料はアイシャが頑張って取ってきてるんだからね。感謝はアイシャにしときなさい」
「アイシャ、ありがとうね」
「えへへ」
マーサはギーラから緑ポーションを受け取る。
お礼をアイシャに言いながら感謝を伝えてるけど、マーサの見た目はあまり元気になってるようには見えないよな。
「この、ポーションはギーラさんが作られたんですか?」
「そうだよ、こう見えても私はケミスト(薬師)だからね、ポーション作りは得意なんだよ」
ケミスト。
聞いたことないな、見た方が早いな。
先程アイシャとマーサを鑑定した時の様にギーラに向かって鑑定をしてみた。
名前 『ギーラ』 人族/63歳
ケミストLv5。
※※※※※※※※※※※※※※※※
家事__________:Lv7/10。
錬金術(薬)__:Lv3/10。
製薬__________:Lv6/10。
ラーニングポーション__:Lv6/10。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
スキルから見て薬屋見たいな感じかな。
「でもね。マーサの病気は今私が作っている薬じゃ治らないんだよ、良くて病状を抑える程度」
マーサの病気はそこまで重いものなのだろうか。
ギーラは薬の効力と今のマーサの状態を申し訳なさそうに教えてくれた。
「材料があればね、この緑ポーションより効果のある黄色ポーションが作れるんだよ。そうすればマーサだけじゃない、村の皆が助かるんだよ」
確かに。この村に入って思ったのだが、老若男女とわず皆病に冒されている感じだった。
これもゲームの一つかな? 参加して何かしらのイベントフラグが発生するかもしれないと思い、自分はギーラへと質問してみる。
「何が足りないんですか? 自分が探してきますよ」
「ありがとうね、でも無理なんだよ。作るには魔力を含んだ水『魔水』が必要なんだよ」
感謝はされたが、拒否られるとは思っても見なかった。
「魔水は森の先にある山の洞窟にあるのは解ってるんだよ。ただ……そこに魔物が住み着いてね。冒険者ギルドに討伐依頼を出したくても、先立つものが無いんだよ」
「大丈夫です、任せてください。困ってるなら助けるのが当たり前ですからね」
なんともキザなセリフが出るものだと自分でも思う。
こんなセリフはリアルで言ったこともない。
「本当にいいのかい? そう言ってくれるならお願いしようかね、でも、さっきも言ったけどこの村には渡せるものなんてそんなに無いよ」
「お気になさらずに、お礼求めて引き受ける訳では無いですからね。後々何かあってからじゃ遅いですから」
ゴブリン戦では、奇襲で倒すことはできた。
もし、無理そうなら他のプレイヤーを見つけて、ヘルプすれば大丈夫だと思うからね。
「ミツさん、武器はその持ってる弓だけ?」
マーサが不安そうな顔で自分の持ってる武器に疑問を流してきた。
確かに、これはゴブリンから〈スティール〉した弓、お世辞でもしっかりしてる武器とは言えない代物だ。
「いえ、後はナイフを持ってます」
「なら私の弓を使いなさい、アイシャ持ってきてもらえるかしら」
「うん、解った」
母親からの言葉でアイシャは奥の部屋に弓を取りに行った。
直ぐに戻ってきたアイシャ、手にはアイシャが持つには大きいだろう、それはそれは立派な弓を両手で抱えてきた。
「ミツさん、これなら離れていても威力を殺さず的を射抜けるわよ」
「お借りしても良いんですか?」
「これぐらいしか今の私達にはできないの、ごめんなさいね」
「いえ! 助かります。おかげで戦略の幅が広がります」
マーサから受け取った弓は使い込まれてるのか少し血も滲んでいる。
しかし、使い込まれた弓にそんな不安はない。手入れがシッカリとされてるので、ゴブリンの弓と比べたらペーパーナイフとコンバットナイフ程の差があるぐらいだと思う。
「ありがとうございます、大切に使わせていただきます」
「無理はしない程度にね、危なくなったら逃げるのよ」
「はい、その辺は心構えてます」
準備もできてるので、詳しい場所を聞いて早速向かおうとすると、また外から声がしてきた。
今度は先ほどとは違い、慌ただしい感じの声が外から聞こえてくる。
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