第60話 一意専心の気持ちで茶番ババンバンバン🎵
(わたしが最近体験した面白い話もあるのですが、物語から逸脱したくありませんので早々に前々話の続きから……)
上総広常さんの「助力を求める」という請願を聴きましたわたしは「助力と言われましても困ります。わたしはご覧の通りの極貧ぐらし。本を読むため、食事は二日にいっぺん、しかも一日二食までとしているのです。気持ち以外は何一つ差し上げられませんし、だからとはいえ、ブッダに差し出すものがないため自ら火中に飛び込みウサギさんの丸焼きを自らご提供する気持ちはさらさらもありませんよ」と申しました。すると上総さんは「そんな、わたしは読売新聞のタチの悪い集金人ではありません。新皇の末裔であるあなたには、本来なすべき使命があるはずです」と強い口調で言いました。「わたしの使命ですが……ああ、秋のプロ野球ドラフト会議サポーテッド・バイ・リポビタンDでわたしの氏名が指名されるのですか? やあ、それは三十年くらいずっと待っていた朗報です」こいつはでかした。やったね! しかし、ベイスターズ以外の球団でしたら断固として入団拒否です。ドラフト一位の入団拒否は長野や菅野以来ですかね。そうしたら、わたしは一躍として渦中の人物になってしまいますが、この節だけは曲げられません。
「新皇の末裔、いや畏れ多くも神田明神の祭神にて、関東一円の守護たる平将門公の転生された魂の保持者たるあなたが、なにを、そらっとぼけたユーモアを剛健な心の甲冑にされているのですか! 我ら坂東八平氏の主力頭領の転生者はもちろん、源平藤橘その他大勢、坂東の全ての武人(もののふ・将門の時代には、まだ武士という概念がありませんでした)があなたの起立を待っているのです!」
うーん、そう熱弁をふるわれても、こちらだってもう老いぼれて隠居生活の中で、ほんの小さな楽しんでいるのに、起立・気をつけ・礼などと小学生じゃないのですから面倒ですな。それは冗談としても、起立とはすなわち、国会議員の候補になって出馬しろってことですよね? そればっかりはイヤですよ。前に自説で「国会議員はバカがなるもの」と散々言っていたのに、そのわたしが国会議員になったら「バカ丸出し」ですし、どうせ、失言のマシンガン打線が爆発して、坂上忍あたりの三流、子役出身タレントに口汚く侮辱されたら、怖くて街も歩けませんね。名もなき悪意を持った連中に、石による集中攻撃をくらいかねません。よって「上総さん。皆様方のお気持ちはとても嬉しいのですが、三十年前ならまだしも、老いぼれての国政参加は後進にあとを譲っていくという年老いた人間の使命に反します。さらにはわたしの確固たるポリシーにより『国会議事堂およびその周辺には近づくべからず』ことにしており、間違えて、一回だけ近寄ってしまったら、『権力・金・欲望の腐臭が充満し、言論という名の暴力で敗死したものたちのドクロが頑張って組体操』なんてしているホラー現象が視えてしまってパニックの発作が起こって、救急車で運ばれ、ICU、国際基督教大学ではない方ですよ、集中治療室です。あそこで一週間生死を彷徨ったのです。つまり国会議事堂に近寄ることさえ出来ないわたしは国会議員になど物理的・精神的・生理的にムリなのです。なのでたいへん心苦しいのですが、お誘いの件は固くお断りいたします。ただ上総さんとはこれからも親しくさせていただき、たまには時局や政局や転生ついての雑談などざっくばらんに出来たら嬉しいですね」
すると上総さんは「お話の件、了解いたしました。所詮は無理なお願いでした。では、その代わりのお願いでございますが、私の一族および親類の千葉一族を家臣の末端にお加えくださいませ。事ならずんば自刃いたします」と突然に土下座し、懐から匕首を取り出しました。うわあ。だいたい家臣のマッターホルンとはなんですか? 山岳信仰の一つですかね。ならば、富士山信仰にしとけばいいのに。でも、千葉や茨城からは富士山は見られないかな? では、筑波山でも鋸山でもきのこの山でもどれでもいいですよね……誰か、すぐにわたしの妄想の暴走を早くに止めるべきです。いや、免許証を取り上げてしまった方がよかった。そうすれば……ああいいですね。止めるタイミングがバッチグー。
とにかくわたしは「あの、上総さん。今は君主、家臣の時代ではなくて市民は皆、平等なのです。ですから土下座などしてはいけないのですよ。自刃なんてしたらもう転生出来なくなります。さあ、お立ちください」と言い、上総さんを立たせました。すると上総さんと来たら「では、せめてしばらくの間、お宅に居候させてください」と変なことを言い出します。また不条理な空気が天から下りて来たようです。なにせ、今現在の空気感が作者の狂気で満ち溢れていて、孤雲庵の窓から外の車道にまで流れ込み、突如、自動車の多重衝突事故が起きたようですよ。
わたしは上総さんに「このワンルームに老いぼれとおじさんが一つの布団で寝るなんてね、あなたの趣味嗜好のことはわたし、たしかなにも知りませんよね? 前にカミングアウトされましたっけ? なにせ後ろは振り向かず、書き終わった物語は二度と読み返さない性格なのでね。それもお断りします」ときっぱり言いました。
上総さんは「あなたが覚えていないことをわたしが覚えているということは、この作者が二人以上の共作でもない限りあり得ません。しかし、客室が二百もあるなホテルのようなお屋敷をワンルームと言わないことくらいは知っていますよ」
「お・や・し・き? お屋敷? ここがですか?」
「?」ばかりの素人のような文章になりましたね(うふっ、わたし素人でした)と言いながら周りを見渡すと、ただの木造アパートの一室であるはずの孤雲庵が大きめの茶室のようになっている。ああ、原節子さんはいつ、玉露のお茶を運んでくるのでしょう?
「上総さん、申し訳ありませんが、どうも持病の癪が出て来たようで、わたしはいま幻覚しか見えません。あとは万事、婆やの原に任せますのであの者になんなりとお申し付けください。原へはわたしから作者経由で伝えて起きます。申し訳ありません。また明日にでも」ええ、現在わたしはとても脳みそが混乱しています。いくら犯人が作者と知っていても、以前に、外国のすごいマジシャンがいたではないですか? ビルを消したりするものです。まさにあれですよ。だって、小洒落た中庭の飛び石の向こうに、千葉にある東京の、夢と魔法の国のランドマークである『眠れない不眠症の美女』が夜な夜な、なにかを食べ続けるための冷蔵庫がわりに建てられたとグリムス・アンデルセン・イソップ爺さん原作の童話に書かれているらしいビューティフル城が天高く、そびえ立っているのが窓から見えたのです!
わたしが長いこと呆然としていると「坊ちゃん、またお客様がお見えですよ」と原節子さんの声が聞こえます。またですか? 『徹子の部屋』だって一日一人しかゲストは来ませんよね? 「では、その方はどういう方ですか?」わたしが原節子さんに聞くと、前の件でよっぽど懲りたらしくて、きちんと見聞きして来ていました。「はい。その方は男性で、小柄でガリガリ、なぜか作務衣を着ていて、どうしても、申し訳ありませんが貧相に見えてしまいます。頭髪がほぼなくて、ところどころにもやしのような毛がニョロにょとと黒いもやしのように生えていました。疥癬でも患ってるのかしら。こちらかからは以上です。坊ちゃんへお返しします」「いや、節子さん。返してはいけませんよ。肝心なお名前は?」
「失礼しました。武蔵坊弁慶さまです」
「ふざけるな!」
わたしの癇癪玉が中学生の時以来の大爆発を起こしました。まだ、続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます